SKハイニックス、メモリー半導体で世界1位に 韓国でサムスン超え驚き

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 韓国の憲法裁判所の決定で「非常戒厳」を宣言したユン・ソンニョル(尹錫悦)前大統領が罷免され、次の大統領を決める選挙投票日が2025年6月3日に決まった。大統領候補らの選挙運動が過熱する中、世論調査で当選可能性が高いとされる野党の共に民主党のイ・ジェミョン(李在明)候補が公約第1号として半導体産業支援策を発表し、SK hynix(SKハイニックス)の利川(イチョン)半導体工場を訪問したことが話題になった。

 イ・ジェミョン候補はその場で、SKハイニックスの経営陣と「K-半導体AIメモリー半導体企業懇談会」を開催した。韓国の半導体企業が世界をリードし続けるためには何が必要かを聞き、2030年までに世界最大規模の半導体クラスターを目指す「龍仁(ヨンイン)半導体クラスター」のための電力・用水供給といったインフラについても議論したという。イ・ジェミョン候補は2025年3月、党の代表としてSamsung Electronics(サムスン電子)を訪問、イ・ジェヨン(李在鎔)会長と20~30代の雇用を増やすための方案について議論している。しかし韓国では大統領候補としての最初の企業訪問がSKハイニックスだったのは、2025年1~3月期の世界メモリー半導体シェアでSKハイニックスがサムスン電子を追い越し1位になったことが影響しているのではないかと言われている。

 香港に本社を置く調査会社Counterpoint Research(カウンターポイントリサーチ)によると、2025年1~3月期の売上高ベースの世界メモリー半導体シェアは、SKハイニックスが36%で1位だった。続いてサムスン電子が34%、米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)が25%、その他が5%だった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2025. 5. 

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SKハイニックス、メモリー半導体で世界1位に 韓国でサムスン超え驚き | 日経クロステック(xTECH)

「韓国版CES」に見たサムスン電子の焦り、消費旺盛な20~30代女性にiPhone人気

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2025年4月24日から26日まで、韓国科学技術情報通信部(部は省に当たる)が主催するICT(情報通信技術)関連の展示会「World IT Show 2025」がソウル市で開催された。World IT Showは「韓国版CES」(CESは毎年1月に米国で開催される世界最大のテクノロジー見本市)ともいわれる注目の展示会である。2025年は「AI(人工知能)でデジタル大転換、科学技術で未来を先導」というキャッチフレーズで約450社が出展した。 出展社は、韓国を代表するSamsung Electronics(サムスン電子)、LG Electronics(LG電子)、Hyundai Motor(現代自動車)、大手通信事業者のKTやSK Telecom(SKテレコム)といった大企業から、スタートアップ、自治体、大学の研究所まで産学官が集結した。2025年1月に開催された「CES 2025」でイノベーションアワードを受賞した技術を、もう一度韓国でも体験できるように展示したコーナーも設置されていた。 また同時イベントとして、政府系シンクタンクが開発した技術を中小企業に移転しビジネス化したデジタルツイン、スマートファクトリー、AIセンサー、メタバースなどの事例を紹介する「ICT技術事業化フェスティバル」も開催された。World IT Showは一般市民に広く最新のICT技術を体験してもらう場とする目的もあるため、団体で見学に来た高校生や大学生の姿が多く見られた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2025. 5. 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00131/

サムスン電子に大打撃か、米国がベトナムの相互関税46%

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トランプ米大統領は2025年4月2日(米国時間)、世界から米国が輸入する商品に対して「相互関税」を適用すると公表した。日本24%、韓国25%、中国34%、欧州連合(EU)20%などと関税が追加された。韓国の主な対米輸出品目である鉄鋼、アルミニウム、自動車、半導体、医薬品に対しては品目別関税を適用するとして相互関税は追加されなかった。なお、トランプ米大統領は、4月9日(米国時間)に一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表しており、韓国もここに含まれる。また、同日、中国に対しては関税を125%に引き上げると発表した。

 韓国と米国は韓米自由貿易協定(FTA)により、一部農畜産品を除いて事実上相互無関税を適用していた。ところがトランプ米大統領は韓国の対米関税は50%だとし、韓国に25%の関税を適用するとした。韓国内では、韓国の関税が50%という米国側の主張には根拠がなく、相互関税により韓国は米国からの輸入品に対し関税0%のまま、米国は韓国からの輸入品に関税25%を適用することになるとして、これは相互関税ではないと批判する声が大きくなっている。

 韓国の産業通商資源部(部は省に当たる)は、トランプ米大統領が韓国の関税について発言しはじめた2025年3月から「米国からの輸入品に対する韓国の関税率は事実上0%水準だ」として「米国側に積極的に説明する」としてきた。産業通商資源部は4月3日に「官民合同米国関税処置対策会議」を開催。企業と協力して米国の相互関税が韓国の経済と産業、輸出に与える影響を綿密に分析して緊急支援対策を用意することに加え、米国と協議を続けるとした。

サムスン電子はベトナム工場でほとんどの機種のスマートフォンを生産している。写真はベトナム・ハノイ市の同社旗艦店(出所:サムスン電子)

サムスン電子はベトナム工場でほとんどの機種のスマートフォンを生産している。写真はベトナム・ハノイ市の同社旗艦店(出所:サムスン電子)

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH)

 2025. 4. 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00130/

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反省の場となったサムスン株主総会、AI半導体の対応遅れで競争力示せず

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の第56期株主総会が2025年3月19日、韓国の水原市の水原コンベンションセンターで開催された。約3時間続いた今回の株主総会は、株主が「半導体技術のリーダーシップがないから株価が下がり続けるのだ」という不満の声を発し、それに対して経営陣が謝罪する場となった。

 サムスン電子の株価は2024年3月時点で8万ウォン(約8000円)を超えていたが、2025年3月19日には5万8500ウォン(約5800円)にまで下落した。2024年の株主総利回り(TSR)は、サムスン電子がマイナス30.4%だったのに対し、メモリー大手のSK hynix(SKハイニックス)はプラス24.5%と大きな差がついた。

 昨今のAI(人工知能)ブームによって、2024年にはAI半導体の需要が急増した。それにもかかわらず、サムスン電子の半導体事業は低迷した。ファウンドリー(受託生産)事業の市場シェアは減少し続け、米NVIDIA(エヌビディア)に対して納品するとしていた第5世代の超広帯域メモリー「HBM3E」は、1年近く品質検証をパスしたという発表がなされていない。

サムスン電子の第56期株主総会の様子

サムスン電子の第56期株主総会の様子

2025年3月19日、韓国の水原市コンベンションセンターで開催された。昨今の株価の低迷に対し、経営陣が株主に謝罪する場となった(写真:Samsung Electronics)

株主総会の第1部では、総会の議長を務める韓宗熙(ハン・ジョンヒ)最高経営責任者(CEO)兼副会長(故人、2025年3月25日に死去)が「最近の株価が株主の皆様の期待に応えられなかった点について、心からおわび申し上げる」と謝罪した。

 同氏は株価低迷の要因として、(1)2024年にAI半導体市場において適切な対応ができなかったこと、(2)スマートフォン、テレビ、生活家電など主要製品において圧倒的な競争力を確保できなかったこと、(3)技術競争力に対する市場の懸念が大きくなったこと、(4)米国の新たな関税政策とそれに対する対象国の報復関税の動きが影響したこと、などを挙げた。

 そして、韓氏は営業利益が前年比で増加したことや、設備投資と研究開発を強化していること、「Samsung」ブランドの価値は5年連続で世界5位を維持していることなどを説明しながら、最優先の経営原則は株主の価値向上であることを強調した。

 2025年の経営方針については、主要国経済の不確実性が増すなかで基本に集中すると宣言した。具体的には、(1)人材と技術を基に最高の製品とサービスを創出する、(2)超格差(競合が超えられないほど差をつける)リーダーシップをさらに強化する、(3)AIをはじめとする未来ビジネスでは新しい成長源を確保するために絶えず挑戦する、とした。

 M&A(合併・買収)については、2024年末に韓国初となる2足歩行ロボットを開発したRainbow Robotics(レインボー・ロボティクス)の筆頭株主になったことや、同社のロボットをサムスン電子の一部製造ラインで使用していることを明らかにした。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 (NIKKEI TECH) 

2025. 3.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00129/

AIにシフトする韓国企業、MWC2025でも鮮明

2025年3月3日から6日までスペイン・バルセロナで世界最大級のモバイル関連見本市「MWC Barcelona 2025」が開催された。韓国からはキャリア3社とSamsung Electronics(サムスン電子)、SK hynix(SKハイニックス)、スタートアップなど187社が出展した。出展数はスペイン、米国、中国、韓国の順に多かった。

 MWCを主催したGSMA(移動体通信事業者や関連企業で構成される業界団体)が示した、2025年のテーマは「Converge(融合)、Connect(接続)、Create(創造)」である。移動通信とAI(人工知能)・ロボット・モビリティーなど多様なデバイスとサービスがつながり、新しいイノベーションを生む、という意味を込めたテーマである。MWCは移動通信事業者が中心となった通信技術や装置、デバイスを展示する展示会から、AIサービスが中心の展示会に変化してきている。

 韓国勢のキャリア3社であるKT、SK Telecom(SKテレコム)、LGU+を含め、ほとんどが自社で開発しているAI言語モデルとサービスを強調した展示を行った。この3社はMWC2024で「TelcoカンパニーからAIカンパニーに変身する」と宣言した。MWC 2025は、その1年後にAIで何ができるようになったのかを公開する場でもあった。果たして、3社は自社AI言語モデルとビッグテックのAI言語モデルを組み合わせたAIエージェントを開発した。KTは米Microsoft(マイクロソフト)、SKテレコムは米Perplexity AI(パープレキシティAI)と米Anthropic(アンソロピック)、LGU+は米Google(グーグル)と手を組み、性能を強化している。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH)

 2025. 3. 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00128/

「トランプ関税」に戦々恐々、韓国で注目されるIntelとTSMC協力の行方

米国のドナルド・トランプ大統領による関税を盾にしたディールに、韓国半導体業界が戦々恐々としている。

 半導体は、WTO(世界貿易機関)でICT(情報通信技術)関連製品の関税撤廃を定めた1997年の情報技術協定(Information Technology Agreement)によって、会員国間の関税が無税とされている。実際、米国向けに輸出している韓国の半導体には関税がかかっていない。

 ところが、トランプ大統領は現地時間2025年2月18日の記者会見で、半導体に税率25%前後の輸入関税を賦課する可能性があり、さらにこの1年のうちに大幅に引き上げられる可能性があると話した。韓国貿易協会によると、韓国の対米半導体輸出額は2024年に106億米ドル(約1兆5900億円)だった。もし、25%の関税がかけられると価格競争力が低下し、対米輸出に悪影響が出る可能性がある。

 一方で、韓国内には楽観論もある。AI(人工知能)市場の拡大により、米国の半導体需要は増加しているが、米中対立によって、米国はメモリー系半導体の大半を韓国から買うしかない状況になっている。特に、AIの学習に欠かせないHBM(High Bandwidth Memory、広帯域メモリー)は、韓国に代わる代替案がない。

 そして、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は米テキサス州にファウンドリー(半導体受託生産)工場を、韓国SK Hynix(SKハイニックス)はインディアナ州に半導体パッケージング工場を建設している、といった理由から、韓国の半導体関税被害はそう大きくないという見方である(図1)。しかしそれでも米国の関税圧力によってグローバル半導体産業全般の不確実性が高くなると、韓国もその影響を受ける可能性が高い。トランプ大統領の狙い通り、韓国の半導体産業が関税を避けるために米国内生産を増強するかというと、サムスン電子もSKハイニックスも慎重にならざるを得ないからだ。

図1 サムスン電子が米国に建設中のファウンドリー工場

図1 サムスン電子が米国に建設中のファウンドリー工場

テキサス州テイラーに建設するファウンドリー工場で2nmプロセスの生産体制を構築する計画(出所:Samsung Electronics)

 こうした状況の中、半導体ファウンドリー事業で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)が、米Intel(インテル)のファウンドリーサービス部門の株式を一部買収する可能性があるとの報道が続いている。買収は米政府がTSMCに圧力をかけ、業績不振が続くIntelを救済するためとも言われている。台湾の場合、TSMCのような大手企業が海外投資をする際に台湾経済部(部は省に当たる)傘下の投資審査委員会の承認が必要だが、同経済部にはTSMCからまだ何も報告がないという。

 トランプ大統領は、「(米国内で使用する半導体の)ほとんどが台湾で生産され、一部は韓国でも生産されている。台湾が我々の半導体ビジネスを持って行った。我々は半導体ビジネスが戻ってくることを望む」と発言している。Intelは1.8nmプロセスに相当する「Intel 18A」を2025年下半期に量産し、TSMCとサムスン電子が開発競争をしている2nmプロセス工程で一気に市場をリードしようとしているが、歩留まりに課題があると何度も報道で指摘されている。TSMCがIntelと協力関係を結んで支援すれば、トランプ大統領が望む米国半導体産業の再建につながる可能性がある。

 もし、TSMCによるIntelのファウンドリー事業の買収が実現すれば、TSMCを追いかけるサムスン電子のファウンドリー事業はますます競争力を失う可能性が高い。台湾の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、TSMCのファウンドリー市場シェアは2024年1~3月期に61.7%、同年4~6月期に62.3%、同年7~9月期に64.9%と増加し続けている。一方、2位のサムスン電子は同11%、11.5%、9.3%で、両社には大きな差がある。ただし、業績不振のIntelを救済するという米国政府の意志が強くても、独占禁止法の問題もあるため、そう簡単に買収は進まないかもしれない。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 (NIKKEI TECH) 

2025. 3. 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00126/

韓国公正取引委員会にブロードコムが白旗、サムスンとの確執も影響か

2025年2月9日、韓国公正取引委員会は米Broadcom(ブロードコム)が韓国で130億ウォン(1ウォン=0.1円換算で約13億円)規模の基金を設立し、韓国のシステム半導体産業を支援することを提案したと発表した。これは韓国公正取引委員会の制裁を避けるための「自主是正」方策の一環である。ブロードコムは半導体の設計・製造からソフトウエアまでを手掛け、韓国では「第2のNVIDIA(エヌビディア)」とも呼ばれるほどの大手である。

韓国公正取引委員会は、「ブロードコムが韓国のセットトップボックス製造会社に対し、自社の部品を購入するよう強要した」との疑いで調査を行っていた。韓国公正取引委員会の調査結果の発表前に、ブロードコムは「自主是正」として「韓国のセットトップボックス製造会社が必要とするシステム半導体部品の過半数をブロードコムから購入するよう強要しない」「過半数の購入を断ってもシステム半導体部品の販売・配送を中断または遅延したり、提供していた技術支援を撤回・修正したりする不利益を与えない」とした。 

さらに、次のようなことも約束した。年に一度社内で公正取引法に関する教育を実施するとともに、公正取引法を順守していることを毎年韓国公正取引委員会に報告する。韓国のシステム半導体産業のコンサルティングや海外進出を支援し、半導体専門家養成のため教育センターの設立と運営も行う。中小企業やスタートアップと共生するために130億ウォン規模の基金を設立する。公正取引法違反が確定して制裁を受ける前に自主是正を提案したと見られる。韓国メディアは「ブロードコムが公正取引委員会に白旗をあげた」と報じた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

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2025. 2. 

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일본 애니메이션 산업 동향

일본 애니메이션 산업 동향

2025년 03호

심층 이슈


Ⅰ . 일본 애니메이션 산업 동향

1.2023년도 일본 애니메이션 산업 동향

2.2023년도 일본 애니메이션 매체별 동향

Ⅱ. 일본 애니메이션 업계의 변화 및 트렌드

Ⅲ. 애니메이션 관련 전시회

Ⅳ. 향후 전망

1.생성 AI

배포 : 2025.05.19
작성 : 한국콘텐츠진흥원 도쿄비즈니스센터

집필자: 조장은

관련 보고서 원문 링크

韓国放送局のAI活用 グローバルファンを満足させ、制作費を節減し、広告収入を増やす、一石三鳥の戦略

Kコンテンツの国際展開と地上波放送局の変化

韓国の放送コンテンツは「Kコンテンツ」と呼ばれ、NetflixやDisney+などグローバルOTTが世界で配信し、ヒットを続けている。2024年はテレビドラマ『ソンジェ背負って走れ』がOTTで配信され、視聴者数のランキング(毎週公開)が世界133カ国で1位となり、その後もランキング上位をキープした。同じくテレビドラマ『私の夫と結婚して』はAmazon Prime Videoで配信され57カ国で1位になり27週間連続でグローバルトップ10に入った。テレビドラマではないが、Netflixオリジナル『イカゲームシーズン2』は2024年12月に公開され非英語TVショー部門年間1位になった。

韓国のテレビ番組はアジアを中心とした韓流ブームから、米国・ヨーロッパ・アフリカでももっとも視聴されたコンテンツになるほど影響力を増している。韓国は日本以上にテレビ離れしていて、10代から60代まで生活に欠かせない必需品はスマートフォンと答え、10~40代はテレビよりスマートフォンでYouTubeとNetflixを観る時間の方が長い。多チャンネル時代・OTT時代に合わせ、韓国の放送局はテレビ編成番組、YouTube向け番組、OTT向け番組など、番組を幅広く流通させるようになった。Kコンテンツの人気を背景にグローバルOTTからオリジナルコンテンツの制作依頼も後を絶たない状況である。

Netflixは韓国でオリジナルシリーズを制作するため、2021~2022年に5,000億ウォン(約500億円)、2023年~2025年に3兆3,000億ウォン(約3,300億円)を投資したと発表した。Netflixは英語、スペイン語の次に韓国語のコンテンツに投資している。Netflixに占めるKコンテンツの割合は2020年2%から2024年6.8%に増加、2030年には15%に達するという分析もあった。

Netflixの熱心な投資により、地上波放送局には大きな変化があった。公共放送のKBSは2023年11月から2024年3月まで放映した大河ドラマ『高麗契丹戦争』で初めてAIを利用した特殊効果を採用し、初めてNetflixで同時放映したところ、10~30代がNetflixで観て面白いとSNSで口コミし、年配向けのドラマから家族みんなで視聴するドラマになった。

民放のSBSは2024年末にNetflixと戦略的パートナーシップを締結し、2025~2030年の6年間、SBSの過去作を全てNetflixでサービスし、ドラマとバラエティー番組を新たに制作してNetflixに提供することにした。SBSはテレビCM収入が減り2021年1,400億ウォン(約140億円)を超えた営業利益が2023年は346億ウォン(約35億円)にまで落ち込んだ。しかし、Netflixの放映権収入により、今以上にCM収入が減っても放映権とNetflix向けオリジナルシリーズの制作で営業利益が改善する見込みである。証券業界ではSBSがすでにDisney+とも契約していることから、国内向け地上波放送からグローバル放送局になり営業利益年間1,000億ウォン(約100億円)は達成できると展望した。

コンテンツ戦略とAI活用

Kコンテンツがグローバルで成功し制作依頼が増えたことで、韓国の地上波放送局3社はドラマやバラエティーの番組制作部門を「スタジオ」として分社、スタジオが番組を企画して制作し、もっとも売れそうな放送チャンネルやOTTに販売する戦略を取り始めた。スタジオはより高品質の番組をより早く費用を節減しながら制作するため、番組の企画と制作にAIを積極的に活用するようになった。

企画段階からAIでグローバルファンを満足させる要素を探し、制作段階では特殊効果やバーチャルスタジオでAIを使用することで制作費を節減する、その結果作品がヒットして海外版権やOTTの放映料だけでなく広くIP展開して広告収入も増える、一石三鳥を狙っている。

韓国科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)の「2024放送産業AI・デジタル技術活用アンケート」調査によると、2023年に放送された全テレビ番組の11.1%は企画段階で、9.4%は制作段階で、6.9%はサービス段階でAIを活用していた。制作段階で使うAIは、AIによる自動撮影・編集、AIによる特殊効果、AIヒューマン(AIアナウンサーやAI記者などの実在する人物のアバター映像をAIで生成する技術)、AIによるBGM編曲などがあり、サービス段階はAIによる字幕・吹き替え、放送モニタリングなどがある。地上波放送局は制作段階とサービス段階でもっともAIを使っていた。

半公営半民間のMBCは2024年、生成AIがプロデューサーになり番組企画から出演者選び、番組進行、出演料の精算まで行ったバラエティー番組『プロデューサーが消えた』を放送して話題になった。SBSは2018年からAIが制作した番組のハイライト場面集をYouTubeで公開している。公共放送のKBSは毎週金曜日に放送しているK-POP歌番組『ミュージックバンク』でAI自動編集を導入し、情報番組では生成AIでバーチャルスタジオのアセット(バーチャルスタジオのLEDに映す背景映像)を制作した。有料放送チャンネルのtvNも生成AIでバーチャルスタジオのアセットを制作して海外ロケを行わずドラマを撮影したり、ドラマの編集段階で撮影時にはなかった特定の商品を生成AIでより自然に画面に登場させたりしている。

自社開発のAI編集システムをCES2025に展示

公共放送のKBSは『ミュージックバンク』で使用している自社開発のAI編集「VVERTIGO」を2025年1月、米ラスベガスで開催された世界最大規模のテクノロジー見本市CES 2025で展示した。

AI編集「VVERTIGO」は単純作業に時間を取られず効率よく番組を制作するため、2018年に開発された。特に人気のK-POPアイドルが出演する『ミュージックバンク』は世界的に知名度が高く、クリップ動画を公開しているYouTubeチャンネル@KBS K-POP(外部サイトに遷移します)はチャンネル登録者数946万人、5万3,906本の動画が掲載され、再生数は102億回を超える。KBSはK-POPファンを喜ばせるため、アイドルが歌う様子を4Kと8K画質でYouTubeでも提供し、アイドルメンバー全員の動画だけでなくメンバー一人ひとりを個別に追い続けるチッケム動画(推しカメラ)を提供していた。チッケムのためにスタジオ内にカメラを複数台設置し人の手で編集していたが、スタジオが混雑し、編集も単純作業でありながらも時間がかかった。そこでKBS社内で必要に迫られて開発したのがVVERTIGOである。今は8Kカメラでアイドルメンバー全員のパフォーマンスを撮影すると、VVERTIGOが顔認識でメンバー一人ずつチッケムを制作する。VVERTIGOは現在、KBSのほぼ全ての歌番組、リアリティー番組、バラエティー番組などの出演者が多い番組のマルチカム編集で広く使われるようになった。激しく踊るアイドルの顔を認識して追いかけ動画を編集することは簡単なことではなく、KBSのノウハウが詰まっている。

VVERTIGO画像1.jpg

<追いかけ動画の制作を自動で行える「VVERTIGO」>

KBSはCES 2025で「VVERTIGO Vision」も公開した。8Kカメラで正面だけ撮影した映像をVRコンテンツに変えるAI編集で、AIが舞台セットを学習して、カメラには映っていない部分を生成し、ヘッドマウントディスプレイで観るとVRコンテンツのように180度視野が広がる。

進むAIの活用と課題

CES 2025ではKBSのほかにも韓国からコンテンツ制作向けAIスタートアップが多数展示に参加し、革新的な商品や製品に贈られるイノベーションアワードを受賞した。受賞の事例、展示された主な事例は下表のとおり。

修正版受賞例などの表.jpg

CES 2025ではサムスン電子とLG電子の「超個人化」テレビも、テレビ離れ時代の新しいテレビとして注目された。テレビに話かけて他の家電を操作したり、ドラマを見ながらリモコンをクリックすると出演者や画面に映っている商品を検索したり、テレビに旅行の計画や料理レシピについて相談するとぴったりの映像を検索して見せながら情報を提供したり、字幕がない海外ドラマの映像をテレビのAIがリアルタイムで翻訳して字幕を付けてくれたり、音が聞こえないとテレビに話かけると俳優の声だけクリアに聞こえるよう調整してくれたり、テレビを見ない時間はデジタル額縁として名画を鑑賞できるようにしてくれたり、テレビにAI機能がどんどん追加されていた。LG電子もテレビが家族の声を聞き分けて、テレビに「今日の試合どうなった?」と話しかけると、声の持ち主が応援しているチームの結果を教えるという面白い機能を追加していた。またサムスン電子とLG電子は無料ストリーミングサービスであるFASTにも力を入れていた。

韓国の放送・映像コンテンツ業界ではもうAI活用は当たり前になった。しかし課題もある。2025年1月、韓国放送局3社(KBS、MBC、SBS)はポータルサイトNAVERを相手に、NAVERが生成AI学習のために放送3社のニュースを無断学習したとして著作権侵害および不正競争防止法違反による損害賠償を求め訴訟を起こした。AIを活用するためにはAIに学習させなければならないが、学習用のデータを誰がより多く確保するのかでAIの結果が違う。放送局のデータという資産を守りながらAIを活用することが求められている。また学習結果によってAIの生成結果が特定の作家の作風にそっくりなものが出来上がることもある。AIを使うと完全に放送局オリジナルとはいえなくなるので、放送局側もAIを使う過程で常に著作権を侵害していないか、確認しなければいけない。

2025/03

ITジャーナリスト/KDDI総合研究所特別研究員

趙 章恩(チョウ・チャンウン)

民放online

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