会社が社員のスマートフォンを監視、セキュリティのためならいい?大手企業で労組対立も

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この頃問題になっているのが、「MDM(Mobile Device Management)」である。韓国では、社員が自分のスマートフォンを会社に持ち込み、仕事用としても使うBYOD(Bring Your Own Device)が当たり前になってきた。だが、スマートフォン経由で社内の機密情報が外に漏れることを懸念した一部大手企業が、社員にMDMアプリのインストールを強要しており、それが問題視されている。労働組合側は社員監視目的だと反発し、会社側はあくまでもセキュリティのためだと主張している。

 MDMといえば、有名なのがサムスン電子やLG電子といった韓国の大手企業の研究所や製造工場である。空港の保安検査場並みのセキュリティ装備があり、持ち物を通して中身を確認する。許可が出たノートパソコン以外は持ち込めず、スマートフォンのカメラのレンズには全てシールを貼らないと、中に入れない。社員だけでなく、外部の人も同じ扱いをする。

 社員たちは、毎朝入口に並んでカメラのシール張りと持ち物検査をする。産業スパイも多く、ちょっとした技術の漏れが大きな業績の差につながるので、会社としてもセキュリティにはピリピリしている。各社は、毎朝の手続きが面倒な社員はMDMをインストールするように、と勧めている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.9

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予想外の大地震、通信障害でパニック、災害情報提供やトラフィック管理など見直し

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9月12日夕方、韓国南部にある慶州で、マグニチュード5.8の地震が起きた。慶州は日本でいう奈良のような古都で、遺跡が多く観光地として有名な都市である。かなり大きな地震で、だいぶ離れた釜山やソウルの高層ビルでも、揺れを感じたほどだった。韓国は今まで、地震がない国として知られていた。突然起きた地震観測史上最大規模の地震に、韓国中が大騒ぎになった。

 建物が壊れたり人が怪我したりといった被害は大きくなかったが、住民は地震が発生したらどうしたらいいのか、今まで災害教育を受けたことがない。慶州の市民は、初めての地震に動揺するしかなかった。怖くて建物の中に入れず、公園や学校の運動場で夜を明かす人達もいた。


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写真●KAKAO TALKのホームページと画面(出所:KAKAO)
9月12日韓国の慶州で震度5.8の地震が発生。地震観測開始以来最大規模の地震だった。地震がない国として知られていた韓国で起きた地震で移動通信ネットワークの障害が発生し、韓国の国民的人気アプリKAKAO TALKも2時間使えなくなる事態となった。今回の地震は、災害に備えた移動通信ネットワーク作りを考えるきっかけになった。

 全国各地の人が、家族の安否を確認しようと無料メッセンジャーに殺到した結果、国民的人気の無料メッセンジャーアプリ「KAKAO TALK」が、トラフィック急増で2時間ほど使えなくなるトラブルが発生した。キャリア3社のネットワークも、トラフィック急増で2時間ほど遅延が発生、電話がなかなかつながらない、インターネットの速度が遅い、といった障害が発生した。

 キャリア3社とKAKAOの分析によると、地震直後一瞬で移動通信ネットワークはいつもの10倍、KAKAO TALKはいつもの4倍トラフィックが増加し、サーバーが追い付かなかったという。移動通信ネットワークは、過負荷がかかると自動的に通話を制限、キャパシティーを超えないよう順に電話をつなげていくので、電話がつながらないという事態が発生した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.9

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/091400108/?itp_leaf_index

久々のヒットなのに無償交換に、サムスン電子のGalaxy Note7バッテリー問題

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9月2日、サムスン電子は記者会見を開き、販売済みのGalaxy Note7を交換するか、払い戻に応じると発表した。バッテリー不良のせいだ。

 9月3日から、全国186か所にあるサムスン電子のサービスセンターで、バッテリーの点検、本体の交換などの作業を行っている。新しいデバイスの準備に時間がかかるため、韓国のお盆連休明けの9月19日から、受け付け順に新しいデバイスと交換するという。


写真●サムスン電子ホームページ(サムスン電子提供)
サムスン電子はGalaxynote7のバッテリー不良を認め、新しいデバイスとの交換、払い戻しを案内している。
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 19日まで待てない人のために、Galaxy S7を貸し出している。払い戻しも可能で、Galaxy Note7を購入したキャリアの代理店で受け付けている。

 デバイス交換は2017年3月まで行われるが、サムスン電子は状況を見て期間を延長するとしている。サムスン電子は「バッテリー不良により怪我をした人はいないが、万が一という可能性があるのですべて交換することにした」と説明した。

 Galaxy Note7のバッテリーが爆発した、というニュースが報じられてからサムスン電子はすぐ不良を認め、交換を決定した。8月の発売直後から、韓国のSNSには充電中に爆発した、充電中にデバイスが燃えた、として写真が投稿され、メディアも盛んに取り上げていた。

 バッテリー不良の届け出は、9月2日の段階で35件あるという。サムスン電子によると、韓国をはじめ世界各国でGalaxy Note7はすでに250万台ほど生産済みで、100万台ほど販売されている。それをすべて交換するとなれば、莫大な費用がかかるのは間違いない。サムスン電子の久々のヒット作だっただけに、ブランドイメージへの打撃は、交換にかかる費用以上に大きい。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.9

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/090700107/?itp_leaf_index

有料くじ「ガチャ」の規制が進まない、消費者保護か営業権か、いよいよ国会で討論会

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 スマートフォンでプレイするソーシャルゲームでよく見かけるゲーム内課金の一つに、有料くじの「ガチャ」がある。

 課金してくじをひくと、ゲームに有利になるアイテムが当たる。だが、ゲーマーが欲しいアイテムはなかなか当たらず、当たるまで課金してしまい何十万円も使ってしまった、なんていう話は日韓共通にある。


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写真●ガチャを楽しめるソーシャルゲームNEXONの「英雄の軍団」
ゲーム内課金で、くじでランダムにアイテムが当たる「ガチャ」をめぐり、8月30日韓国の国会で議論が行われた。自主規制でアイテム種別に当たる確率を公開するようにしたがうまくいかず、法律で公開を義務付けるべきかという内容である(出所:NEXON)。

 8月30日、韓国の国会で「確率型アイテム情報公開法(ゲーム産業振興に関する法律一部改定案)」に関する立法討論会が開催された。国会の教育文化体育慣行委員会に所属する議員らが主催した討論会で、ゲーム業界、学会、政府関係者が参加し、ガチャを規制すべきかどうかについて話し合った。

ガチャを規制すべきか、国会で討論

 日本の場合、業界団体である「日本オンラインゲーム協会」が、2016年4月から課金上限額を5万円とし、アイテム種別に当たりの確率を明示する、といった内容を柱とした自主規制を行っている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.9

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/082500105/?itp_leaf_index

中国人観光客の「Alipay」決済増加、利益半減に見舞われる外貨両替店も

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ソウル市内で両替するなら、銀行の他に公認両替所がある。銀行よりレートがいいので、外国人観光客だけでなく海外に出かける韓国人も公認両替所で円やドルに両替する。金券ショップでも、外貨両替ができる。外国人観光客が集まる繁華街ミョンドン(明洞)は、金券ショップも両替所もありすぎるというほどたくさんある激戦区なので、銀行で両替するよりもかなりお得なレートになる。

 ところが、明洞で両替を利用する観光客が減少しているという。韓国メディアの記事によると、明洞に中国人観光客があふれているのに、人が来なくなって利益が半減した両替所が続出しているとか。どうやらその理由は、韓国でも中国のモバイルペイメントを利用できる加盟店が増えたことにあるようだ。


写真●Alipayの画面(サムスン電子提供)
サムスン電子が提供するSamsungPayとAlipayが提携、SamsungPayにAlipayのアカウントを登録して韓国でも中国でも楽に利用できる。ワンタイムバーコードを表示して決済するので、クレジットカード情報を盗み取られる心配もない。韓国ではモバイルペイメントで支払う中国人観光客が増えたことで、韓国では両替の需要が減少したほどである。
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 明洞といえば、韓国の中の中国というほど中国語の看板が増え、韓国語が通じない中国人店員ばかりいるお店もあるほど。中国人観光客が売り上げを支えていると言っても過言ではない。

 韓国観光公社によると、韓国を訪問する中国人観光客は2014年613万人、2015年598万人、2016年は800万人を超える見込みである。その内7割は団体ツアーではなく、個別に韓国を訪問する20~30代の旅行客だった。明洞一帯の主な顧客だった中国人観光客の年齢層は、だんだん若くなっている。実際に明洞に行くと、お店で現金でもクレジットカードでもなく、モバイルペイメントを利用する中国人観光客を頻繁に見かける。

 最近はスマートフォン一つあれば、ガイド本も、お金も、カメラもいらない。予めクレジットカードや口座情報をモバイルペイメントアプリに登録し、お店ではパスワードを入力してスマホの画面にワンタイムバーコードを表示。それをレジのPOSにかざすだけで、決済が終了する。バーコードは毎回変わるので、カード情報を抜き取られる心配もない。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.8.

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/082500106/?itp_leaf_index

[日本と韓国の交差点] 韓国、不正禁止法で接待が減ると経済に悪影響?

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 韓国で9月28日、「不正請託及び金品等の収受禁止に関する法律」が施行された。公職者の不正・腐敗を防止するための法律である。韓国ではこの法律を、最初に提案した人の名前をとって「キムヨンラン法」と呼んでいる(日本では汚職防止法と呼ばれている)。2012年当時、政府の国民権益委員会委員長だったキム・ヨンラン氏が提案、2015年3月に国会の同意を得た。

 地上波放送局は早速、キムヨンラン法が施行され社会が変化すると街の声を報じた。「接待が減れば、早く帰宅できて自分の時間が持てるのでライフスタイルが変わるに違いない」「公職者への接待が多すぎて毎日のように深夜に帰宅していた。これからは家族と夕食を食べられそう」と期待する声が多かった。

 この法律は、公職者、公務員、政府関連機関・公共機関の職員、学校の教職員(私立学校、大学病院含む)、マスコミ関係者が対象。対象者の配偶者にも適用される。国会議員は、国家公務員法により公務員の範疇に入るので対象となる。対象者は約400万人にのぼる。

 対象者は、以下の場合に処罰される。
1)職務(または配偶者の職務)と関連がある人から、1回あたり3万ウォン(約2700円)を超える接待を受ける
2)1回あたり5万ウォン(約4500円)を超えるプレゼント・中元・歳暮を受け取る
3)1回あたり10万ウォン(約9000円)を超える祝儀・香典を受け取る

 接待は飲み物代も含めて3万ウォンを超えてはならない。祝儀・香典も花代と現金の合計が10万ウォンを超えてはならない。3・5・10万ウォンの金額は、廬武鉉大統領が2003年に制定した「公務員行動綱領」を参考にしたものなので、現在の物価からすると厳しすぎるという意見もあったが、原案のまま施行されることになった。

 職務と関連がある人から規定を超える接待や金品を受け取った場合は、受け取った金額の2~5倍を過怠料として賦課する。

 職務と関連がない人から受け取っていい金品は100万ウォン(約9万円)未満。これを超える金品を受け取った場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約270万円)以下の罰金を課される。

 キムヨンラン法をめぐり、大韓記者協会と私立学校教職員らは言論の自由と教育の自由を侵害するとして違憲訴訟を起こしていた。憲法裁判所は2016年7月28日、キムヨンラン法を合憲とする判決を下した。憲法裁判所は、「マスコミと教育が社会全体に及ぼす影響は大きく、この分野の腐敗は波及効果が大きい。従って、マスコミ関係者と私立学校関係者を法の適用対象に含めるのは正当である」と説明した。

通報第1号は大学生

 キムヨンラン法の施行に伴い、警察庁は不正請託専門捜査班を設置した。通報は日本の110番にあたる112番で受け付けている。通報第1号は、大学生からの電話だった。「同じ講義を聞く他の学生が(講義をする)教授に缶コーヒーをあげるのを見た。これは不正請託だ」という。しかし教授の名前も大学の名前も明かさなかったので、警察は書面で通報するよう案内したという。

 韓国版GooglePlayに、キムヨンラン法に関連する次のアプリが登場した。
・3万ウォン以下で食べられる接待用飲食店を紹介するアプリ
・5万ウォン以下のギフトを紹介するカタログショッピングアプリ
・自分の行動が不正請託に当たるかどうかチェックできるアプリ
・キムヨンラン法に関する法律解説アプリ
・割り勘した分をすぐ相手の口座に振り込めるモバイルバンキングアプリ


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年10月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/100400049/

[日本と韓国の交差点]「北の核で24万人が死亡」との試算に驚く韓国

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北朝鮮が9月9日、5度目の核実験を行った。韓国国防部(韓国の「部」は日本の「省」)は、この核実験は過去最大の爆発力があったとの分析結果を公表した。

 1月に続いて、今年2度目の実験だ。北朝鮮は2006年、2009年、2013年とおよそ3年周期で核実験を繰り返してきた。1年に2度も核実験を実施したのは今回が初めてのこと。複数の韓国メディアが、近く追加の実験を行なう可能性もあると指摘した。

 北朝鮮は、韓国政府が地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備すると7月に決めたことに反発して、弾道ミサイルの発射を繰り返している。韓国のテレビやラジオに登場する軍事専門家らは、こう分析する。「金正恩は、事実上の核保有国としての地位を固めるには今がチャンスと思っているはず。2016年11月には米国の大統領選挙、2017年12月は韓国の大統領選挙があり、韓米の目が選挙に向いてしまう」。

 韓国国防部のムン・サンギュン報道官は9月12日の定例記者会見でこう発言した。「安全保障の観点から、韓日の間で軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を結び、北韓(編集部注:北朝鮮)の核・ミサイル脅威に関する情報を密に共有する必要がある。日本側が早期締結の必要性について言及した。我々政府と軍は『国民の理解を十分確保してから』という立場である。(協定を締結するためには)国民の理解が必要だ」。韓国と日本は現在、日米韓3国情報共有約定を結んでおり、米国を間にはさんで情報を共有している。

核武装を巡る議論が高まる

 セヌリ党の議員はこの日、国会に集まり「北朝鮮の核に対抗して韓国も核武装すべきではないか」というテーマで討論を行なった。賛成派は「平和を守るために抑止力を高めるべく核武装を含む全ての手段を講じるべき」「防衛的な措置だけでは北韓の核を止められない。核配備を含む強力な対応が必要」といった意見を提示した。

 一部の議員はこれに反対。「核武装するためには『核兵器の不拡散に関する条約』(NPT)から脱退しないといけない。米国や国際社会との関係から考えて、(韓国が)核武装するとの選択肢は現実的でない」「(韓国の)核武装は韓米同盟に亀裂を入れることになる。現実的に難しい」と発言した。

 野党の「共に民主党」は9月12日、以下の内容を記した報道資料を発表した。「核武装論は韓半島(編集部注:朝鮮半島)をさらに大きな危険と不安に陥れるだけである。核武装論は、韓半島の緊張を抑制するのに失敗した政府が、その無能さを隠すため提示した無責任な意見だ。(韓国による)核配備は国際社会が決して容認しない。(核武装論を主張する)与党セヌリ党の言動を懸念している」。

 同じく野党の「国民の党」も、「与党の核武装論は、韓半島を戦争に陥れる危険で無責任な発言である」と批判的なコメントを発表した。


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年9月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/091300047/

[日本と韓国の交差点] 脱北は「移民型」の時代に

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 7月から家族と共に行方がわからなくなっていた北朝鮮のテ・ヨンホ駐英公使が、韓国に亡命したことが判明した。当初、第3国に亡命したとみられていたが、韓国の統一部(韓国の「部」は日本の「省」)は8月17日、テ公使一家が韓国に入国したことを正式に発表した。

 統一部によると、テ公使は、これまでに北朝鮮から韓国に脱北した北朝鮮外交官の中で最も地位が高いという。脱北とは文字通り北朝鮮から脱出することである。統一部は、以下の条件を満たすものを北韓(北朝鮮)離脱住民(脱北者ともいう)と認め、北朝鮮の外に滞在している脱北者が韓国行きを希望する場合、全員を受け入れることにしている。

・北韓離脱住民
・北朝鮮に住所・直系家族・配偶者・職場などがある者
・北朝鮮から脱出した後、外国の国籍を取得していない者

 統一部はこの日、以下を発表した。
「テ公使一家は自由民主主義への憧れと、子供の将来を思って脱北」
「テ公使は海外に長年住んでいたので、外の世界の情報にふれる機会が多く、韓国と北朝鮮を比較できた。金正恩体制は希望がないと気づいたのかもしれない。テ公使の脱北は金正恩体制の内部結束にひびが入るきっかけになるだろう」
「北韓のエリート層の間で『金正恩体制はこれ以上希望がない、もう限界だ』という認識が広がり、支配層の結束が弱まっているようだ」
「1990年代より前は政治的理由で仕方なく脱北する人が多かったが、最近は、より良い生活がしたくて脱北する『移民型脱北』が増えている」

 8月21日付の英エキスプレス紙によると、テ公使一家は英情報機関と6月に接触して亡命の意思を固めた。米国の協力を得て、ロンドンからドイツのラムシュタインにある米軍空軍基地に移動し、そこから韓国に飛んだという。北朝鮮当局がテ公使のパスポートを押収し、北朝鮮に送還する直前だった。

 テ公使一家以外にも脱北が相次いでいる。2016年4月には中国・寧波にある北朝鮮レストランの従業員13人が、4月には中国・陝西にある北朝鮮レストランの従業員3人が脱北者として韓国に入国した。8月25日には、北朝鮮とロシアの貿易を担当する幹部がロシアから韓国へ脱北したというニュースもあった。

ミサイル試射は体制健在をアピールするため

 脱北が続く中、韓国軍は8月25日、「北朝鮮が24日午前5時半頃、韓国の東側の海に向けてTHADDでは防衛が難しいとされる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を1発試験発射した」「ミサイルは500Kmを飛んだ。前回の試験発射より性能がよくなったように見える」と発表した。韓国軍はこのミサイル試験発射を「韓米合同練習に対する抗議」と「脱北が相次いでも金正恩体制は健在であるとアピールするため」に実施したと分析した。

 ユン・ビョンセ外相は8月28日、テレビ番組に出演し、「ここ8か月間、脱北して韓国に入国した北韓のエリート層は過去最多」「(脱北者が増えているのは)国際社会の対北圧力が効果を発揮したから」「10月に行われる韓米外交・国防長官会議でも北韓にどう圧力をかけられるかを議論する」と発言した。

 ユン長官の発言からも、統一部がいう「移民型脱北」が増えていることがうかがえる。北朝鮮のエリート層の脱北が増えている、つまり、北朝鮮でいい身分を持ちいい暮らしができるけど、北朝鮮ではなく他の国でもっと自由に暮らしたいという理由で脱北する人が増加している。

 統一部が8月26日に開いた定例記者会見で、「海外に駐在している人の脱北が続くのは、金正恩の恐怖政治により北韓内部の不安定の度合いが強まっているから」「北韓が脱北を食い止めるために軍事的挑発をする可能性もあるとみている」という話も出た。

 8月25日には米国務省のカティーナ・アダムス東アジア太平洋担当報道官が、「米国は北朝鮮の人権と、北朝鮮の難民・亡命申請者の待遇について懸念している。この問題に関して持続可能な解決策を探るべく、米国は国連人権委員会、国連難民機構を含む国際機構と協力する」「すべての国が、北朝鮮からの難民と亡命申請者を保護すべく協力すべきである」という立場を表明した。

By 趙 章恩

 

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 2016年8月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/083000046/

[日本と韓国の交差点] 8月15日、韓国の光復節はこう過ぎた

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毎年8月15日は韓国の光復節、日本の終戦記念日である。韓国では、日本の植民地支配から解放され国に光が戻った日という意味で光復節という。

THAADと慰安婦合意に批判集中

 朴槿恵大統領はこの日、第71周年光復節慶祝式で祝辞を述べた。

「我々が韓半島(朝鮮半島)と東北アジアの平和繁栄の主役であるという責任感をもって、周辺国との関係を能動的で互恵的(お互いに利益を与える関係)なものに導いていかねばならない」

「我々の運命は強大国の力関係で決まるという被害意識を捨て、悲観的思考をやめるべきである」

「地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配置は北韓(北朝鮮)の無謀な挑発から国民の命を守るために選択した自衛的処置だ。これを政争の具にしてはいけない」

「韓・日の関係は歴史を直視しつつ、未来志向の関係を新たに作っていくべき」

「今、私たちに必要なのは、漠然とした期待ではなく冷静に現実を認識した創意的思考である」

 複数の韓国メディアは、朴大統領の祝辞を次のように分析した。

「日本に配慮して、日本側を刺激しない内容とした」「中国に対しては、中国が反対してもTHAAD配置決定に変わりがないことを強調した」

 朴大統領の祝辞について、与党セヌリ党のキム・ヒョンア報道官は「朴大統領は大韓民国を再跳躍させようと、変化と改革に対する強い意志を示した」と高く評価する論評を発表した。

 一方、野党は一斉に酷評した。共に民主党のパク・クァンウン報道官は次のように批判した。「THAAD配置に関して、国民と野党は朴大統領との対話を望んでいる。だが、朴大統領は異見と反論は認めないという態度を貫いている」「朴大統領は慰安婦問題について拙速に合意した。これは歴史を直視するものではなく、歴史を消して妥協しようということだ」。

 国民の党のソン・クムジュ報道官も「朴大統領は祝辞で未来のビジョンを提示しようとした。けれども、自分の不通(他の人の意見に耳を貸さない)と過誤は反省せず、すべての責任を他人のせいにしている。国民と元慰安婦らの同意なく、たった10億円で慰安婦問題に終止符を打ってはならない。光復節を迎えて何より必要なのは、朴大統領と大統領官邸が変化し対話をすることである」と指摘した。

 正義党のハン・チャンミン報道官も「国民の懸念と公憤にもかかわらず、THAAD配置を自衛的処置と主張し、屈辱的な慰安婦交渉については発言しない(朴大統領の)姿は、幽体離脱そのものである(自分のしたことに責任を取らない)」と断じた。

天皇の『深い反省』発言に注目

 8月15日になると韓国のテレビや新聞は日本の植民地支配を振り返り、韓国と日本の関係について論評する。今年は韓国の国会議員が独島(竹島)を訪問。日本の国会議員は靖国神社を参拝。両国が同時に、お互いに遺憾の意を表明する事態となった。

 複数の韓国メディアは、日本の大臣や議員による靖国神社参拝は、太平洋戦争を起こしたA級戦犯を日本を代表する人たちが祀り、侵略戦争を美化する行為だと解説した。

 韓国メディアは、日本武道館で行われた全国戦没者追悼式の様子も詳細に報じた。8月15日付の聯合ニュースや世界日報などは、「日王(天皇)は昨年に続いて『深い反省』という表現を使い、先の戦争における加害責任と反省にふれた。安倍晋三首相は2012年末に就任してから4年連続で、加害責任や謝罪に触れなかった」と紹介した。


By 趙 章恩

 

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 2016年8月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/081600045/

[日本と韓国の交差点] 韓国がTHAADの配備を星州に決定、住民が猛反発

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韓国国防部のリュ・ジェスン政策室長は7月13日、「THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の軍事的効用を極大化するとともに、地域住民の安全を保障しつつ健康と環境に影響を及ぼさない最適の配備用地として慶尚北道星州(ソンジュ)にTHAADを配備することを韓米共同実務団が提案。韓米両国の国防長官がこれを承認した」と発表した(参照記事)。


 星州は韓国の南東にある農村で、ソウル市から200Km以上離れている。中国やロシアからも遠い。住民は寝耳に水と猛反発している。

 星州の特産品は夏の果物である黄色いチャムウェ(甘いウリ)。この時期は韓国全土のどこででも、星州のチャムウェがスーパーに並ぶ。ネットでは早速「THAADの電磁波が星州の農作物をだめにする。星州のチャムウェを食べると癌や白血病になる。健康被害が発生する」という書き込みが広がり、THAAD恐怖論が広がった。

 国会では7月19日、ファン・ギョアン国務総理とハン・ミング国防長官に対する「THAAD配備に関する緊急懸案質疑」が行われた。星州の住民代表らも国会でのやりとりを参観した。

 野党である「国民の党」や「共に民主党」議員からの「国会の同意なくTHAADを配備していいのか」という質問に対しファン国務総理は、「THAADは駐韓米軍の武器であり国会の同意が必要な事項ではないと判断している。韓米相互防衛条約に基づく武器配備である」と説明した。

 個別に見ると、国民の党は「THAAD配備反対」の立場を強く主張した。

 共に民主党は実は意見が分かれている。一方は「THAAD配備に反対はしないが慎重に検討すべきである。まずは韓国政府が星州住民の意見を聞くべき」という議員。もう一方は「韓半島(朝鮮半島)の平和と東アジアの未来のために、THAAD 配備を撤回し、再検討すべきである。韓国のためにTHAAD は本当に必要なのか。韓国を守るどころか世論の分裂を招き韓国は混乱に陥った。THAAD配備は周辺国との冷戦を招くだけである。軍備競争が最善の選択とはいえない」と主張している。

 与党であるセヌリ党は以下の前向きな内容をファン国務総理に確認しようとした。
「THAADによる住民の健康被害はない」
「中国との外交や経済協力関係も揺るがない」
「THAADが配備される星州やその周辺地域を積極的に支援する」
 同国務総理は「今後環境評価をする、支援も今後考える」と言葉を濁した。


By 趙 章恩

 

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 2016年7月20

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/072000044/