「トランプ関税」に戦々恐々、韓国で注目されるIntelとTSMC協力の行方

米国のドナルド・トランプ大統領による関税を盾にしたディールに、韓国半導体業界が戦々恐々としている。

 半導体は、WTO(世界貿易機関)でICT(情報通信技術)関連製品の関税撤廃を定めた1997年の情報技術協定(Information Technology Agreement)によって、会員国間の関税が無税とされている。実際、米国向けに輸出している韓国の半導体には関税がかかっていない。

 ところが、トランプ大統領は現地時間2025年2月18日の記者会見で、半導体に税率25%前後の輸入関税を賦課する可能性があり、さらにこの1年のうちに大幅に引き上げられる可能性があると話した。韓国貿易協会によると、韓国の対米半導体輸出額は2024年に106億米ドル(約1兆5900億円)だった。もし、25%の関税がかけられると価格競争力が低下し、対米輸出に悪影響が出る可能性がある。

 一方で、韓国内には楽観論もある。AI(人工知能)市場の拡大により、米国の半導体需要は増加しているが、米中対立によって、米国はメモリー系半導体の大半を韓国から買うしかない状況になっている。特に、AIの学習に欠かせないHBM(High Bandwidth Memory、広帯域メモリー)は、韓国に代わる代替案がない。

 そして、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は米テキサス州にファウンドリー(半導体受託生産)工場を、韓国SK Hynix(SKハイニックス)はインディアナ州に半導体パッケージング工場を建設している、といった理由から、韓国の半導体関税被害はそう大きくないという見方である(図1)。しかしそれでも米国の関税圧力によってグローバル半導体産業全般の不確実性が高くなると、韓国もその影響を受ける可能性が高い。トランプ大統領の狙い通り、韓国の半導体産業が関税を避けるために米国内生産を増強するかというと、サムスン電子もSKハイニックスも慎重にならざるを得ないからだ。

図1 サムスン電子が米国に建設中のファウンドリー工場

図1 サムスン電子が米国に建設中のファウンドリー工場

テキサス州テイラーに建設するファウンドリー工場で2nmプロセスの生産体制を構築する計画(出所:Samsung Electronics)

 こうした状況の中、半導体ファウンドリー事業で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)が、米Intel(インテル)のファウンドリーサービス部門の株式を一部買収する可能性があるとの報道が続いている。買収は米政府がTSMCに圧力をかけ、業績不振が続くIntelを救済するためとも言われている。台湾の場合、TSMCのような大手企業が海外投資をする際に台湾経済部(部は省に当たる)傘下の投資審査委員会の承認が必要だが、同経済部にはTSMCからまだ何も報告がないという。

 トランプ大統領は、「(米国内で使用する半導体の)ほとんどが台湾で生産され、一部は韓国でも生産されている。台湾が我々の半導体ビジネスを持って行った。我々は半導体ビジネスが戻ってくることを望む」と発言している。Intelは1.8nmプロセスに相当する「Intel 18A」を2025年下半期に量産し、TSMCとサムスン電子が開発競争をしている2nmプロセス工程で一気に市場をリードしようとしているが、歩留まりに課題があると何度も報道で指摘されている。TSMCがIntelと協力関係を結んで支援すれば、トランプ大統領が望む米国半導体産業の再建につながる可能性がある。

 もし、TSMCによるIntelのファウンドリー事業の買収が実現すれば、TSMCを追いかけるサムスン電子のファウンドリー事業はますます競争力を失う可能性が高い。台湾の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、TSMCのファウンドリー市場シェアは2024年1~3月期に61.7%、同年4~6月期に62.3%、同年7~9月期に64.9%と増加し続けている。一方、2位のサムスン電子は同11%、11.5%、9.3%で、両社には大きな差がある。ただし、業績不振のIntelを救済するという米国政府の意志が強くても、独占禁止法の問題もあるため、そう簡単に買収は進まないかもしれない。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 (NIKKEI TECH) 

2025. 3. 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00126/