[日本と韓国の交差点] ロッテの裏金疑惑に韓国検察がメス

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韓国の検察がロッテグループの捜査に乗り出した。
背任と横領の容疑だ。
コンビニを運営するなど身近な存在である同グループへの捜査に韓国中が注目している。

レイムダック化が進む朴政権が「経済民主化を進めていることをアピールする策」と見る向きもある。

 この10日ほど、韓国のテレビも新聞もネットも、検察による財閥秘資金(裏金)捜査の話題で持ちきりだ。6月10日と14日、ソウル中央地方検察庁は3000億ウォン(約270億円)を超える背任と横領の疑いで、ロッテグループの重光武雄(辛格浩)総括会長と重光昭夫(辛東彬)会長のオフィスと自宅、ロッテグループ系列会社、役員の自宅など17ヵ所の家宅捜索を一斉に行った。複数の韓国メディアによると、検察は家宅捜索に約250人を動員。押収した資料は会計書類やパソコン、携帯電話など1トントラック7台分に及んだ。



 ロッテグループは韓国財界5位の財閥である。「韓国2万企業研究所」の調査によると、ロッテグループの2015年売り上げは前年比2.3%増の約69兆ウォン(約6.2兆円)、営業利益は同25.8%増の約4兆ウォン(約3.6兆円)。ロッテは、デパート、免税店、スーパー、コンビニ、インターネットショッピングなどの流通、ホテルとロッテワールドといったレジャー、製菓や食品、建設など、幅広いビジネスを手掛けているため、韓国人なら誰もが毎日のように利用する。庶民の生活とも密接な関係にあるロッテの裏金疑惑捜査だけに、韓国中が興味を持っている。

17カ所を一斉に家宅捜索

 公営放送のKBSニュースは6月20日、検察によるこれまでの捜査を振り返る特集を放映した。KBSによると、検察がロッテグループを捜査するという噂が2016年初めから流れ始めたという。大規模な捜査は6月10日の家宅捜索を皮切りに始まった。検察は捜査に着手してすぐ、ほとんどのロッテ系列会社を家宅捜索した。

 KBSは、「会長室」と書かれた張り紙が貼ってある段ボール箱が検察のトラックに次々運び出される映像を見せながら、次のように紹介した。
「検察は、ロッテグループが(1)中国進出で負った損失額を膨らます、(2)グループ会社間で本来なら不要な取引を繰り返し、その間にマージンを蓄積する手法で裏金を作ったと疑っている」
「検察は会長ファミリーの資金管理人をしていたとみられるロッテグループの役員らを次々に召還するとしている。検察は速戦即決で捜査すると明かした」
「検察が家宅捜索をしたとき、既に総括会長室の個人金庫は空っぽだった。しかし、金庫の中身と思われる現金30億ウォン(約2.7億円)と通帳などが、ロッテグループ役員の妻の妹の家で箱に入ったまま見つかった。検察はこのお金をロッテオーナーファミリーの裏金の一部とみている」

過熱する報道の情報収集力は検察以上?

 朝鮮日報、東亜日報、聯合ニュースなど、韓国のあらゆる新聞やケーブルテレビの報道番組もロッテグループの「疑惑」について連日報道している。ニュースの視聴率やインターネット版記事の閲覧数競争に火がついてからは、「巷の噂によると」といったどこまで真実かわからない記事まで登場した。

 6月20日付のヘラルド経済によると、ロッテグループは証拠隠滅のため、社員のパソコンのハードディスクを4月から破壊していたという。重光武雄総括会長は検察の家宅捜索が始まる前日である9日にソウル大学病院に入院。18日には入院先を別の病院に変えた。こうした記事を読んでいると、韓国ドラマを観ているような気分になる。


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年 6.22

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/062100042/


[日本と韓国の交差点] 韓国の小説がマン・ブッカー賞を受賞

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英国の権威ある文学賞であるマン・ブッカー賞国際部門(Man Booker International Prize)に韓国光州市出身の女性作家、韓江(ハン・ガン)氏の『ベジタリアン(原著タイトル:菜食主義者)』が選ばれた。国際部門は、外国文学の英語翻訳本(英国で出版されたもの)の中から選定する。作家本人と、その本を英訳した翻訳家に贈られる賞で、賞金5万ポンド(約790万円)も2人が半分ずつ受け取る。授賞式はロンドンで、現地時間の5月16日に行われた。


マン・ブッカー賞国際部門を受賞した翻訳家のデボラ・スミス氏(左)と韓江(ハン・ガン)氏

 マン・ブッカー賞は1969年に始まり、ノーベル文学賞、コンクール文学賞と並ぶ文学賞として知られる。韓国の作家が海外の著名な文学賞を受賞するのはこれが初めてなので、韓国中がお祭り騒ぎに包まれた。2016年度のマン・ブッカー賞国際部門は、155作品の中から選ばれた13作品を審査し、最終的に受賞作品を決めた。

 受賞作となった『ベジタリアン』の主人公は、ある日、夢を見てから肉食を拒むようになり、自分は水と太陽の光だけで生きる木になりつつあると考える女性。彼女について、その夫、姉、姉の夫の3人の目線から語る。人間の本性と暴力に関する考察が込められた作品である。

 韓国で2007年に単行本が出版されたとき、「暴力という普遍的テーマを韓国だけの独特な文化にかぶせて語った作品」「暴力とは気づかず暴力をふるい続けてしまう人間を描いた物語」などの書評がメディアに掲載された。

 マン・ブッカー賞国際部門の審査員長を務めたボイド・ダンカン氏は、「忘れられない、強力で根源的な小説。簡潔だけど美しく構成された物語は、平凡な女性が自身の家族、社会を結び付けるすべての慣習を拒否する過程を描く。美しさと恐怖の奇妙な調和を見せた」と絶賛した。

 韓氏は2016年2月29日、スウェーデン大使官邸で開催された第41回ソウル文学会に登場し、自分の作品について次のように語っていた。「人間は線路に落ちた子供を救うため自分の命を投げ出せる存在であると同時に、アウシュビッツ大虐殺のようなこともする存在だ。この小説は、人間性とは何か、我々は暴力と美しさが共存する世界に耐えられるのかを問いかけるものである」。

光州民主化運動に起源

 5月17日付のJTBC(韓国で人気の高いケーブルテレビ局)ニュースは、「韓氏の作品は5.18光州に根付いている」と報じた。韓氏は光州出身。犠牲者らを映した写真を見て5.18光州民主化運動を知り、人間の根源にあるものについて考えるようになったという。『ベジタリアン』と同時期に英訳された『Human Acts(原著タイトル:少年が来る)』は、5.18光州民主化運動そのものを題材にしている。

 5.18光州民主化運動は、1980年5月18~27日まで光州市民と全羅南道民が中心となって当時の全斗煥大統領と軍事勢力の退陣を求めた民主化運動である。軍の特殊部隊が民主化を求める市民を制圧し、多くの市民が亡くなった。1995年には「5.18光州民主化運動等に関する特別法」が制定され、犠牲者への補償が行われるようになった。1997年以降は、政府が毎年、記念行事を主催している。『ベジタリアン』のマン・ブッカー賞受賞が、5.18記念行事の前日に韓国で報じられたことから、韓国では5.18と並んで話題になった。



By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年5月24

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/052400041/

[日本と韓国の交差点] 北朝鮮の労働党大会、韓国はどう見たか?

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北朝鮮の朝鮮労働党が第7回党大会を平壌(ピョンヤン)で開かれている。1980年以来、36年ぶりの大会である。

 韓国メディアが報道した金正恩第1書記の発言内容をまとめると、以下の通りである。

・北朝鮮が核保有国であることを宣言し、より精密・軽量・知能化した武器開発に力を入れる
・韓国との関係について、お互いを尊重して軍事会談を開催する必要がある
・連邦制に則った統一を実現すべきだ(連邦制統一は北朝鮮が主張する統一方式で、韓国と北朝鮮の二つの政府を残したまま両者が交流することで南北の距離を縮め、長期的に単一政府にすることを目指す構想。連邦制統一は北朝鮮政府を正当な政府として認めることになるので、韓国内では「それはできない」という意見の方が多い)
・国家経済発展5カ年戦略でエネルギー問題を解決し、農業と軽工業の生産を増やす
・実用衛星をもっと打ち上げ、宇宙科学技術を発展させる
・高い文化水準を持つ教育の国にする
・平均寿命と伝染病予防率を世界先進国水準にする

国防部は北の態度に変化を認めず

 韓国国防部(韓国の「部」は日本の「省」にあたる)のムン・サンギュン報道官は5月9日に行った定例ブリーフィングで、金正恩第1書記が党大会で「北と南は軍事的緊張を緩和し、全ての問題を対話と交渉で解決すべきである」として南北会談を提案したことについて、以下のように評価した。

 「北韓(北朝鮮)が核を保有し、核ミサイル挑発を行っている状況で、緊張緩和のために会談が必要だと主張しても真正性がない(本音が疑わしい)。対話のドアは開いているが、(北朝鮮が)核を放棄する意思が真にあることを先に見せるべきであるという点は変わらない。(北朝鮮の)態度に変化がない限り対話は無意味である」

 「北韓は(党大会で)駐韓米軍の撤収、韓米連合軍事訓練の中断、心理戦の中断などを要求した。これは、これまでに数えきれないほど繰り返されてきた主張で論評する価値もない」

 「自らを『責任ある核保有国として世界の非核化を実現するために努力する』という北韓の主張は、結局、核をあきらめる意志がないことを再確認しただけといえる。我々(韓国)と国際社会は一貫して、北韓を核保有国として認めない立場を取る。(韓国)政府は制裁と圧力によって(北朝鮮が)核をあきらめるよう継続して努力する」

 「北韓は核とミサイルの完成度を高めるために追加核実験とミサイルテスト発射を持続的に行うものとみられる。戦略的挑発と奇襲的挑発の可能性も排除できない」

 記者からの「北が核開発を放棄することが南北の軍事当局者が対話(南北軍事会談)するための条件なのか」という質問に対してムン報道官は「北の核放棄が軍事会談の前提条件いう話ではないが、北が態度を変化させることと真正性を証明する必要があることを強調したい」と回答した。

 5月8日には韓国統一部のチョン・ジュンヒ報道官が、「北韓の第7回党大会関連統一部報道官論評」を行い、「北韓は核開発の迷夢から目覚め、核開発を放棄する意思が真にあることを行動で示すべきである」述べた。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年5月9

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/050900040/

[日本と韓国の交差点] 韓国総選挙で躍進した進歩派は反日か?

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総選挙が終わって以降、韓国メディアでは日本に関する報道が増えている。総選挙結果を日本がどう見ているのかに加えて、熊本の地震や日韓交流について連日報道している。

 4月22日、韓国ソウル郊外にある城南市空軍基地から熊本に向け軍の輸送機2機が飛び立った。韓国政府は熊本で地震の被害にあった人たちへの支援物資として毛布、テント、ミネラルウォーター、すぐに食べられるインスタント食品など10万ドル分を輸送した。別所浩郎駐韓大使が城南市空軍基地を訪れ、関係者に感謝の言葉を述べた。届けられた物資は、自衛隊の車両によって避難所に運ばれることになっている。


「1杯のかけそば」ならぬ「2杯のおかゆ」

 20日には大韓航空機が、仁川発福岡行きの定期便にミネラルウォーター2万4000本を積んで輸送。トラックで熊本まで届けた。19日にはアシアナ航空機が、仁川発福岡行きの定期便に毛布1000枚などを載せて熊本に届けた。熊本県に義援金1000万円を贈ってもいる。同社は仁川=熊本便を週に3便運航していることもあり、熊本とは関係が深い。

 韓国外交部(韓国の「部」は日本の「省」)の発表によると、18日には朴槿恵大統領が安倍晋三総理へお見舞いの電報を送った。地震で多くの人命が失われたことに深い哀悼の意を示すとともに、韓国政府として支援する意向を伝えた。15日には尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官が岸田文雄外務相に電報を送り、犠牲者の冥福を祈るとともに、遺族や負傷者へのお見舞いの気持ちを伝えた。

 4月17日付聯合ニュースは「家族8人でおかゆ2杯、もっと欲しいという人は避難所にいなかった」という見出しで熊本の様子を報じた。熊本の人たちは取り乱すことなく秩序を守り、4人当たりおかゆ1杯しか食べられなくても助け合っていた、という内容だった。韓国では、熊本の人々の落ち着きぶりを称賛する声が相次いでいる。

 熊本の地震の余波で、韓国の南部でも震度1~2の揺れがあった。韓国には地震がないと安心していたが、今回の件でそうでもないことがわかった。韓国と九州はとても近いため、九州で地震や噴火が起きると、釜山を中心とした韓国南部でも揺れが生じる。東京よりも大きな影響を受けるとみられる。

高句麗王族の日本亡命に脚光

 4月23日には、埼玉県日高市にある高麗神社が韓国の新聞とテレビを賑わせた。高麗郡創設1300年を記念する石碑が立てられたというニュースだった。同日付朝鮮日報によると、石碑は日韓交流の歴史を勉強する「高麗若光の会」が募金を集めて建てられたもの。除幕式には高円宮久子妃、ユ・フンス駐日韓国大使、馳浩文部科学相らが参加した。

 高麗郡という地名は1955年になくなってしまったが、高麗神社のホームページは、同神社と高句麗には深い縁があることを説明している。「高麗神社の主祭神は、かつて朝鮮半島北部に栄えた高句麗から渡来した高麗王若光です」。

 高麗若光(韓国名は高若光)は高句麗最後の王の息子である。高句麗は668年、新羅と唐の連合軍に負けて滅亡した。高麗若光は滅亡した高句麗から逃げ(神奈川県)大磯に上陸。日本の朝廷が716年、現在の日高市に高麗郡を作り、高句麗の流民1799人を集め、高麗若光を首長にしたという。

 韓国では高句麗の流民が日本に定着したことや、高句麗王の子孫が日本にいることを知らない人の方が多い。このため、報道に接した人々の間で高麗神社が話題になった。1300年前から日韓交流が続いいていることに驚いたという声が多かった。


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年4月27

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/042500039/

[日本と韓国の交差点] 韓国総選挙、投票所の周りで「ピース」は禁止

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 4月13日、国会議員を選ぶ第20回総選挙が韓国全土で行われた。地域選挙で253人、政党選挙(比例)で47人、合わせて300人の国会議員を選ぶ。投票率は58%で、2012年に行われた第19回総選挙(54.2%)より3.8%ポイント増加した。選挙管理委員会は、事前投票日を設けたことが投票率増加に貢献したと分析した。

 選挙の結果は、与党の「セヌリ党」が122人、野党の「共に民主党」が123人、「国民の党」が38人、「正義党」が6人。国民の党は、この2月に誕生した新しい野党である。このほかに、セヌリ党や共に民主党から脱党した無所属候補が11人当選した。今回選ばれた国会議員の任期は2016年5月30日から2020年5月29日までの4年である。

 セヌリ党の議席は146から122に減少、共に民主党は102から123に増加した。野党の当選者が与党を上回ったのは2000年の総選挙以来16年ぶりのこと。また国民の党が加わったことで、韓国の国会は20年ぶりに3党体制になった。

 議席数の半分を占める都市部で、共に民主党がセヌリ党を上回った。セヌリ党の「票畑」と言われるソウル市江南、朴大統領の地元である大邱市、セヌリ党支持者が多い釜山市――いずれでも、共に民主党候補が多く当選した。済州道では、3つある選挙区のすべてで共に民主党候補が当選した。無所属当選者の中からセヌリ党に入党する議員が出ても、セヌリ党の惨敗は変わらない。

セヌリ党が惨敗

 韓国では、今回の総選挙はセヌリ党の惨敗と言われている。選挙翌日、4月14日の韓国メディアの見出しは以下の通りである。

朝鮮日報 「セヌリ党惨敗、共に民主党歓呼、国民の党に突風」
東亜日報 「怒りの民心、選挙の女王を審判した」(「選挙の女王」は朴槿恵大統領のニックネーム)
中央日報 「セヌリ党を審判した」
韓国日報 「与党惨敗、国民は怖かった」
キョンヒャン新聞 「朴槿恵政権が審判される」
世界日報 「審判された与党、与小野大政局再編」
聯合ニュース 「民心離れたセヌリ、第1党の座も譲る。16年ぶりの与小野大」
ニュース1 「就職難、住宅難に絶望した20~30世代、与党を審判した」



By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年4月19

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/041800038/

[韓国ソーシャルイノベーション事情] 地域活性化アイデアで生まれ変わる廃校、少子高齢化進む農漁村に新たなビジネスチャンス

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筆者の母親の故郷は、韓国戦争が起きたことを1年ぐらい経ってから知ったというほどの田舎である。母は片道4キロ以上歩いて小中高校に通ったそうだ。山を越えて川を渡り学校につくと、お弁当は自然にビビンバプになっていたとか。お弁当箱が上下左右に揺れ続けビビンバプになるほど大変な通学路だったというわけだ。

 そんな田舎にも今は大きな道路ができてスクールバスもある。人口が少ないので子供たちは未だ4Km離れた学校に通わないといけないが、もう歩いて学校に行くことはなくなった。給食があるのでお弁当もいらなくなった。昔とは比べにならないほどよくなった母の母校だが、廃校が検討されている。急速な少子高齢化により入学生がいないのだ。

 全国の教育庁の統計によると、1982年3月から2015年3月まで廃校した全国の小中高校は3725校(暫定値)、年間平均113校が廃校になった。廃校は特に農漁村に集中している。同期間中、ソウル市内の学校で廃校になったのは1校しかない。

 廃校の基準は地域の教育庁(教育委員会)ごとに違うが、平均的に在学生が15人以下だと統廃校の対象になる。しかしどの地域もできるだけ廃校にしない方針で、保護者の3分の2以上が廃校に同意しない限りは学校の運営を続けている。韓国最南端の島「マラド」は在学生が一人もいなくなった小学校が廃校の危機に陥ったが、もしかして、という希望を持って、済州教育庁は廃校ではなく休校にした。

 廃校にしないためには、農漁村の子供の人口を増やすしかない。韓国の自治体は地域活性化のため、「帰農」サポートを手厚く行っている。住宅や農地を安く貸し、営農指導もする。田舎は生活が不便というイメージを払拭するため、病院やコンビニを建て、自宅で高速インターネットが使える環境もばっちり整えている。子供の教育のためスクールバスはもちろん、村営塾、村営家庭教師を利用できる自治体もある。農漁業の後を継ぐ青年の婚活は、それはもう自治体総力で取り組んでいる。それでも農漁村の人口は減り続けている。

 廃校になってしまった学校はどうなるのか。人がいなくなると建物はあっという間に荒れてお化け屋敷みたいになってしまう。子供はいなくても、学校の建物は地域の財産として、地域住民のために使いたいものだ。放置するのはもったいない。

 2013年からソウル市は、ソウルから車で2時間以内の田舎の廃校を借りて、ソウル市民のためのキャンプ場を運営している。ソウル市が運営する市営キャンプなので利用料も安い。4人家族で1泊当たり約2000円あればキャンプ場に入場し、テントやマットレス、ピクニックテーブルまで借りられる。おかげでソウル市民にとても人気があり、常に予約がいっぱいである。ソウル市は毎年廃校を1校ずつ借りて、キャンプ場を増やしている。帰る田舎がない都会生まれの親が子供を連れて行く憩いの場になっているそうだ。ソウル市は2018年まで廃校キャンプ場を20ヵ所に増やす計画である。廃校キャンプ場がオープンすれば、その周辺地域のお店や食堂の客も増えるので地域経済も潤う。

 ソウルから電車で1時間ほど離れた安山市は、2006年から地元の廃校を「英語村」に改造している。学校の敷地に入ったらそこはアメリカ、という設定で、英語しか通用しない村で生活するという英語教育プログラムである。

学校の入り口が入国管理局、さっそく英語で入国審査を行い、英語村パスポートにスタンプを押してもらって入場。廃校の教室はスーパーやお料理教室、病院、旅行代理店などに模様替えしてあり、子供たちは英語を使って生活する仕組みになっている。主に小学校1〜6年生が、放課後や夏休み・冬休みに参加する。英語村は全国各地にあるが、ここは安山市営なので参加費が通常の3分の1程度。そのため安山市英語村のホームページに参加者募集の告知が出ると、定員の100倍以上が殺到して1分足らずで募集終了、大騒ぎになる。

 釜山市は廃校を、「青少年文化センター」や「山林教育センター」など、学校ではなかなかできない特別プログラムを運営する施設として運営している。釜山の近くにある蔚山市は、廃校を「追憶の学校」に改造、1960年代から70年代にかけて実際に学校で使われていた小物や制服を集めて展示し、家族みんなで楽しめる観光名所にした。

 大邱市は、学生の数が減少し廃校の危機にある学校を2011年から「幸福学校」に指定し、教育庁が定めたカリキュラムではなく、学校が学生と地域の特徴に合わせて自律的にカリキュラムを運営してもいいことにした。幸福学校第1号のソチョン小学校は、アトピーがある子供のための学校に生まれ変わった。有害物質を極力発生させないよう学校の施設は木、黄土などを使い、毎日散歩をして畑仕事を体験し、子供に体力をつけるカリキュラムに変えた。その結果、2011年65人だった学生が2015年122人に増えた。大邱市にはこのほかにも外国語教育に特化した幸福学校や、学生全員が参加するオーケストラを運営する幸福学校も登場した。

 幼稚園児から大学受験勉強が始まる教育熱心な韓国だが、最近はだんだん、小学生の時ぐらいは自由に好きなことをさせてあげようという雰囲気になりつつある。こうした親の教育方針の変化が、幸福学校の人気を後押ししているといえるだろう。



By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年6月

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http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/06/post-5.php

[韓国ソーシャルイノベーション事情] 高校生たちが考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」

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韓国では昔から食べ残しが出るぐらいでないと客をもてなしたとは言えない、という考え方が根付いている。客がきれいに平らげたのはもてなしが足りない、料理が足りないという意味だとして、客が手をつけようがつけまいがとにかくすごい数の料理を出すのが韓国式のもてなしである。当然食品ロスも大量に発生する。もったいないから無駄なもてなしはやめようというメディアのキャンペーンも数多く行われてきた。

 それに、韓国では一般家庭の食品ロスも減らすため、「食べ物ゴミ(生ごみ)」は専用の有料の袋に入れて捨てるようにしている。自治体ごとに費用や処理法は違うが、ソウル市の場合はどこも食べ残しは燃えるゴミではなく「食べ物ゴミ」として費用を出して処理しないといけない(韓国では燃えるゴミも自治体ごとにある専用の有料の袋に入れて捨てないといけない)。それにもかかわらず、「食べ物ゴミ」はなかなか減らない。

 日本では米粒一つ残さず食べる人が多く、テレビの料理番組では野菜の皮まで捨てずに調理するのを見てとても驚いたものだ。ところが、最近の日本の子供はそうでもないらしい。1月13日付毎日新聞には、大阪市立中学校の生徒が給食を3割も残していて、推計で年間5億円もの食材が捨てられるようなものだという記事が載っていた。大阪市だけが異常に多いから記事になったと思うが、「モッタイナイ」の言葉で代表される食べ物を大事にする日本の精神は失われたのだろうか。

 韓国はもともと食べ残しがあって当たり前の生活環境だからか、給食の食品ロスは学校給食が本格的に始まった1994年以来ずっと問題になっていた。食べ残しが多いとその分無駄な食費を使ったことになる。食品ロスが増えれば環境汚染も問題になる。食品ロスを減らせば無駄がなくなり、その分給食の質がよくなる。学校の教師たちは毎日のように「今日は食べ残しのない日を目指そう」と学生たちを指導しているが、なかなかうまくいかない。

 そこで給食の食品ロスをなくそうと立ち上がった高校生たちがいる。教育熱の高い地域として有名なソウル市木洞(モクドン)にある中高生7人と教師である。元々は海洋汚染の原因について勉強していたところ、原因の一つに食品ロスがあることを知り、これを減らすにはどうしたらいいのかと悩み始めたそうだ。この中高生たちはサムスン電子が毎年行っている「Samsung Tomorrow Solutions」公募で賞までとったすごい学生たちなのだ。

 サムスン電子の公募は人々の生活や社会をよくするイノベーションアイデアを競うもので、2015年度は1235チーム、5823人が応募、12チームが受賞した。受賞すると、アイデアを実現するための費用と賞金がもらえる。入賞チームへの賞金総額は2億ウォン(約2000万円)である。

 アイデア審査は専門家やサムスン電子の役員だけでなく、ネットに各チームのアイデアを公開し、ユーザーによる投票も行った。受賞したチームがアイデアを実現するため、技術的なところはサムスン電子の社員らが助けた。

 レインボートレイは2014年度に最年少チームでありながら最優秀アイデア賞を受賞、2015年度はそのアイデアを実践して社会に影響力を発揮、学校や軍部隊の食品ロスを7割も減らした功績が認められてインパクト賞を受賞した。

 木洞の中高生たちが出したアイデアは「レインボートレイ(ランチプレート)」と呼ばれる給食用食器である。レインボートレイは、韓国の学校や軍部隊、企業の社員食堂など、団体給食の際に必ず使われるステンレス製のランチプレートの底に目印を書き、ここまでごはんを取ったら茶碗1杯分、ここまでは2杯分などと量がわかるようアイコンを入れた。レインボートレイは既存の給食用ランチプレートに線を書くだけなので、製作費もかからないしすぐ導入できる。しかも見た目がかわいい。

 誰もが思いつく簡単なアイデアではないかと思うかもしれないが、ここまで色々な失敗があった。中高校の給食は大きな一枚のランチプレートに食べたい分料理を取るスタイルが定着していた。7人の中高生たちは、なぜ給食を残すのか友たちの様子を観察したという。家ではお茶碗で食べるので、1枚のランチプレートだと、自分がどれぐらいの量を取ったらいいのかわかり難く、どれもおいしそうなのでつい多めに取って食べきれず残してしまう問題があった。そこでしゃもじやお玉のサイズを小さくすることもやってみたがうまくいかなかった。日本ではおいしくないから給食を残し食品ロスが増える問題があるそうだが、韓国では給食の味はあまり問題にならなかった。

 試行錯誤の末、レインボートレイを思いついた。給食用のランチプレートも軽量化し、自分がランチプレートにどれぐらいの食べ物を取ったのが重さを感じられるようにした。自分が食べられる量だけを取る、これだけで食品ロスは画期的に減少した。実際にレインボートレイを導入した中高校では、一人130グラムもあった食品ロスが10グラムにまで減ったという。

 中高校生のアイデアで給食の食品ロス問題を解決できたことは韓国中で話題になった。レインボートレイを使って給食を食べる様子や、食べ物が残らない様子を韓国のテレビ局だけでなく、中国の国政テレビ局「中国中央電視台」まで撮影に来たほどである。

 中高生による中高生のための中高生目線で考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」は、今や全国の軍、企業の社員食堂にも広がっている。



By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年4月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/04/post-4.php

[韓国ソーシャルイノベーション事情] 垢すりで乳がん発見? 韓国乳がん学会と沐浴管理士連合会が協力

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実は、韓国で垢すりおばさんが乳がんの救世主だということをご存じだろうか。

 韓国のマンションには平均してバスルームが2つある。4人家族だと4LDKに住むのが普通のことで、バスルームはリビングと夫婦用の寝室にそれぞれある。2人暮らし用の小さいマンションでも、共働き夫婦の朝の準備のため、バスルームを2つ置くマンションが増えた。それにもかかわらず、韓国人はサウナ付き銭湯に行くのが大好きである。大きな湯船で肌をやわらかくしてから、垢すりおばさんにきれいさっぱり一肌むいてもらうと、肌はつるつるして艶がでるからだ。

 この垢すりが、韓国の乳がん早期発見にとても役立っていた。韓国乳がん学会によると、垢すりおばさんに「胸にしこりがあるわよ。病院に行ってみたら?」と勧められ乳がん検診をうけたところ、早期にがんが見つかり治療できた、という事例がかなりあるという。

 韓国乳がん学会は2014年から現在まで、ピンクリボンキャンペーンの一環として、韓国沐浴管理士連合会と手を組み「ピンクスクラブキャンペーン」なるものを行っている。ピンクリボンキャンペーンは乳がんの知識啓発キャンペーンであり、世界各地で行われている。スクラブはごしごし洗うという意味である。ピンクスクラブは韓国独自のキャンペーンで、これは乳がん学会に所属する医師たちが、「垢すりおばさんにしこりがあると言われたので病院に来た」と話す患者が多いことに気付いてから始まった。韓国の国民健康保険は、40歳以上の女性に対して2年に一度無料で乳がん検診を実施しているが、韓国人の生活に根付いた垢すりおばさんも乳がんの早期発見に役立っていた。

 乳がん学会は、2014年から垢すりおばさんに乳がん検診の基本である触診を本格的に教えている。垢すりおばさんに、垢すりに来る女性に乳がんの自己検診について教える、知識啓蒙者の役割を託したのだ。また全国のサウナや銭湯に乳がん自己検診方法をイラストにしたポスターを貼り、早期健診を勧める活動も継続して行っている。さらに、乳がん治療のため切除するしかなかった患者が、人目を気にせず銭湯やプールに行けるようサポートするキャンペーンも行っている。

「欧米では夫や恋人が乳がんのしこりを見つけるケースが多いが、韓国では垢すりおばさんが乳がんをみつける」、という話は、韓国ではもう十数年も前から都市伝説のように存在した。乳がん学会のピンクスクラブキャンペーンによって、それが伝説ではなく事実であることが判明した。

 乳がん患者をサポートする団体「韓国乳がんセンター」のホームページにある患者の投稿を検索してみると、垢すりおばさんのおかげで乳がんを早期発見できた、という事例は、いくつもあった。過去の記事を検索してみると、「乳がんを見つけてあげたことが2回ある」という垢すりおばさんのインタビュー記事も登場した。

 韓国で話題になった、韓国保険福祉部(部は省、医療と福祉の政策を担当する省庁)のエリート官僚が自身の乳がん闘病記を書いた本にも「垢すりおばさんにしこりがあると言われたが無視した。その後また別の垢すりおばさんにもしこりがあると言われた。また無視した。それから気になって検査をしてみると乳がん、すでに3期だった。垢すりおばさんに言われたときに早く検査をすべきだった」という内容が登場する。

 韓国乳がん学会のユン・ジョンファン前会長は、「乳がんの自己検診は横になって腕を頭の上にあげて胸を触り、しこりを確認するように指導する。垢すりはゆったり横になって石鹸を付けて胸に触るのでしこりをみつけやすい環境であるのと、垢すりおばさん達の豊富な経験とノウハウが重なりしこりを発見する可能性が高くなっているのかもしれない」と話した。

 韓国保険福祉部のデータによると、2012年時点で韓国の女性がかかりやすいがんは1位が甲状腺がん、2位が乳がん、2位が大腸がんだった。乳がん学会は、韓国女性に多いのが乳がんだけに、垢すりおばさんに頼ってでも早期発見で生存率を上げることを狙っている。乳がんのもっとも効果的な治療法は早期発見、早期治療しかないという。

 韓国に遊びに来たらぜひ垢すりを体験してほしい。そして乳がん検診も忘れずに。



By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年4月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/04/post-3.php

[韓国ソーシャルイノベーション事情] グーグルAlphaGoとイ・セドル九段の対局、盛り上がりは人工知能のことだけではなかった

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 韓国ソウル市で人工知能と人間の囲碁対局が行われた。グーグルが買収したイギリスのディープマインド社が開発した人工知能「AlphaGo」と、挑戦的で創造的な囲碁をする世界トップレベルの棋士として有名なイ・セドル九段の対局は「世紀の対決」「歴史に残る対決」として韓国を沸かせた。12歳でプロ棋士になったイ・セドル九段は、子供のころから天才と呼ばれた棋士で、韓国で知らない人はいない有名人である。

 3月9日から10、12、13、15日の5回にわたって行われた対局で、「人類代表」のイ・セドル九段は1勝4敗、人工知能が勝利をおさめた。当初韓国では、イ・セドル九段が5勝全勝するだろうと誰もが信じていた。囲碁は人間が作ったもっとも複雑なゲームなので、人工知能は人間の知略を超えられないと考えたからだ。しかし対局が始まると、AlphaGoは人間ならこうはしないだろうという戦略で囲碁をし、勝利をおさめた。


 グーグルはこの対局の勝者に100万ドルの賞金を贈ることにしていた。賞金を獲得したグーグルディープマインドは、賞金を慈善団体に寄付した。複数の韓国メディアによると、グーグルの持ち株会社アルファベットの時価総額もうなぎのぼり。対局が行われた7日間、アルファベットの株価はA型とC型合わせて約489億ドル分(約5.9兆円)値上がりしたという。この対局でグーグル傘下にある人工知能の実力を見せつけたことが株価を押し上げたとみられる。ちなみに、アルファベットの株はA,B,C型の3つがあり、上場しているのはA型とC型である。B型はグーグルの初期立ち上げメンバーだけが保有する非上場株である。

 グーグルが囲碁をする人工知能を開発したのは、インターネット検索の機能向上のためと言われている。複数の韓国メディアによると、グーグルはユーザーが検索したキーワードからその後何を検索するか、どのような行動に出るか、10段階ほど先を読んで検索結果を表示するための研究をするため囲碁ができる人工知能に力を入れ、その結果AlphaGoが生まれたというのだ。イ・セドル九段が1勝したことで、グーグルはAlphaGoを改善できる余地を見つけた。これこそグーグルが望んでいたものではないだろうか。

対局前のイ・セドル九段は、公営放送KBSのインタビューで「グーグルから対局を持ち込まれた。対局相手が誰なのかは秘密保持の署名をしてから教えてくれた。相手が機械だなんて、本当に驚いた」と答えた。対局前の記者会見では、「コンピューターと人間が対局するのはまだ10年は先の話だと思っていたのに、(人工知能との)対局を持ち込まれて驚いた。3分ほど悩んで受け入れた。(人工知能に対する)好奇心を解決するためには直接囲碁をしてみるのが一番だと思ったからだ。今回の対局はすごい経験で、学ぶことはとても多い」と期待に胸を膨らませていた。対局に負けた時も、「対局を大いに楽しんだ。応援してくれた皆さんに感謝します」とすっきりした表情だった。

 グーグルと一緒に今回の対局を準備した韓国棋院(韓国の囲碁の統括団体)は、もう一度AlphaGoと人間の対局をしようとグーグルディープマインドに提案した。グーグルディープマインド側は、「持ち帰ってグーグル本社と相談させていただきます」と即答を避けたそうだ。韓国棋院はAlphaGoが新しい囲碁の戦略を見せたことを高く評価し、「名誉九段」の認証書を贈呈した。

 対局が終わってから、もう一つ人工知能とも囲碁とも関連がないものが話題になった。イ・セドル九段のスポンサーであるLG電子の控えめな広告が、対局が終わってからSNSで「もしかしてあれはLG電子の広告だったのか?」と話題になったのだ。

 イ・セドル九段が着用した時計はLG電子の新しいスマートウォッチで、毎日着ていたブルーのワイシャツの袖にはLG電子のスマートフォンである「G5」の文字が刺繍されてあった。ケーブルテレビやポータルサイトの生中継にはLG電子の広告が入っていたので気付いた人もいたようだが、地上波放送で視聴した人は全然気づかなかった。LG電子側は「イ・セドル九段の邪魔にならないようロゴを控えめにした」と説明した。これが口コミで広がりLG電子の好感度を上げた。LG電子は1996年から、世界囲碁選手権大会のメインスポンサーになり「LG杯世界棋王選」を開催している。


韓国ではAlphaGoの影響で人工知能に対する関心が急激に高まったのはもちろん、囲碁ブームも巻き起こっている。3月16日付の国民日報によると、対局が行われた7日間、韓国のポータルサイトでは「囲碁」が検索キーワードランキング1位になった。オンライ囲碁対戦ゲーム「Hangame囲碁」は、9日から新規利用者がいつもの3倍に増え、Google Play韓国語版のゲームランキングも囲碁ゲームが上位にランク入り、書店では囲碁の基礎を教える本が売り切れた。つい最近韓国で人気を集めたドラマの主人公が元囲碁棋士だったこともあり、囲碁ブームが起きたのだ。3月17日付の中央日報は、「囲碁市場に春が来た」という見出しで、囲碁セットを製造する工場がいつもの2倍を超える4万セットを受注したと報じた。

 特に勝っても負けても表情が変わらないイ・セドル棋士の「機械並みの強いメンタル」を子供に学ばせたいとして、早速放課後教室のプログラム(有料クラブ活動のようなもの)に囲碁クラスを導入した小学校も少なくない。幼稚園でも囲碁を教えるようになったそうだ。子供に囲碁を教える塾も受講の申し込みが殺到、大人のゲームとされていた囲碁が子供の英才教育用に注目を浴びるなど囲碁市場の裾が広がったという。

 囲碁の塾に通う子供たちは中央日報のインタビューに「AlphaGoに勝ちたい!」と答えていた。



By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年3月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/03/alphago.php

[韓国ソーシャルイノベーション事情] 講義を聞く猫 ── オンラインコミュニティから進む韓国の野良猫対策

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日本にはネコノミクスなるものが存在すると聞いた。2月3日付産経新聞によると、猫の駅長に会いたくて観光客が増えたとか、猫を集めるスマホゲームが大ヒットしたとか、日本における猫による経済効果「ネコノミクス」は約2兆3千億円にのぼるそうだ。さらに驚いたことに、一般社団法人ペットフード協会の「2015年度全国犬猫飼育実態調査」によると、日本では犬よりも猫を飼っている家が多いとか。

 韓国では「猫は魔物」だとして嫌がる人が多く、昔から犬好きの方が圧倒的に多い。古いデータではあるが、2013年韓国ギャロップが調査したところ、韓国の全世帯のうちペットを飼っている割合は17.4%で、1000万世帯を超えた。飼っているペットは犬が47.3%で最も多く、猫2.2%、鳥1.6%、うさぎ1.0%、ハムスター0.4%の順だった。ペットフードを製造販売しているCJ第一製糖の調べによると、2013年時点で韓国のペット市場規模は1兆8000億ウォン(約1800億円)、2020年には6兆ウォン(約6000億円)になる見込みである。それでもまだまだ日本にはかなわない。

 ところが最近、韓国人のSNSでのペット自慢を見ていると、犬より猫の方が多い気がする。オンライン掲示板では犬より猫のほうが「いいね!」の数も多く、猫の「堂々としているけどどこかまぬけ」な写真や動画が人気を集めている。

 韓国には野良猫という言葉がなく、飼い主のない猫はみんな「泥棒猫」と呼んでいた。最近やっと野良猫を「キルゴヤンイ(道猫)」と呼ぶようになった。キルゴヤンイの世話をする「キャットマム(猫のお母さん)」も急増している。そして韓国も日本と同じく、キルゴヤンイの餌やりが近所トラブルの原因になったりもする。

 韓国のポータルサイトDAUMには「ストーリーファンディング」というコーナーがある。「○○のために○月×日まで目標金額○○万ウォンの募金を受け付けます」という内容のストーリーを公開し、ネットユーザーから少額ずつ寄付をしてもらう。例えばドキュメンタリー映画の制作資金のため募金をすると、寄付した金額に応じて上映会のチケットをプレゼントしたり、映画のタイトルを書いたマグカップをプレゼントしたり、ちょっとしたお返しももらえる。

2016年2月、DAUMストーリーファンディングでもっとも人気なのが「講義を聞く猫」。国民大学というソウル市内の大学キャンパスに住むキルゴヤンイ達の避妊手術と猫給食所運営のため200万ウォンを募金しようと、この大学の学生と職員らが国民大学キルゴヤンイたちのストーリーを写真と共に載せた。

 ソウル市内にありながら山に近い国民大学では、いつの間にか猫が増え、講義室や図書館にまで入ってくるようになった。猫をかわいがる学生と怖がる学生、キャットフードをあげるだけで排泄物やごみは片付けない学生、それを批判する学生、色々な問題があった。猫にどう接したらいいのか、どうしたら猫と学生と職員が共存できるのかを悩んだ末、学生たちは猫給食所を運営して猫がキャンパス内のごみを漁ることや食べかけのキャットフードがあちこちに散乱することを防ぐことにした。氷点下15度を超えるソウルの寒さに耐えられるよう猫の家も作る。猫の繁殖を止めるため避妊手術も行うことも計画。そのため校内での募金活動に続いてDAUMでの募金を呼びかけ、2月23日時点で764人が11,146,660ウォンを寄付、目標額の5倍を突破した。

 キルゴヤンイも大事な生命なので人間と共存しないといけない、こうした考えが広がったのは3年ほど前にさかのぼる。

 2013年、猫好きで有名な大人気WEBTOON(インターネット上で連載されるデジタル漫画)作家カンプル氏がSNSでキルゴヤンイ対策を考えてみようと呼びかけた。キャットマムの近所トラブルを避けながら、キルゴヤンイが路上で生きていけるよう手助けするにはどうしたらいいのか。

 そこへカンプル氏の地元であるソウル市江東区(カンドング)が、自治体としては初めて区内約20カ所に「猫給食所」を設置した。2015年には60カ所近くに増えた。猫給食所の管理は猫好き市民ボランティア達が担当している。猫給食所でいつでもえさを食べられるので猫たちはごみを漁らない。猫給食所にやってきたキルゴヤンイを捕獲して避妊手術をし、元の場所に戻す。猫が増え続けるのを防ぎ、殺処分も減らし、発情した猫のなき声がうるさいという地域住民の苦情を減らすためである。猫給食所と避妊手術をセットにして普及させ、自治体のSNSで宣伝。さらに市民らもSNSで拡散し、キルゴヤンイのような小さい命も大事にする市民意識の変化、という流れは他の自治体にも広がった。

ソウル市が市民団体に委託して運営する猫給食所もある。主に市内の大きな公園(ワールドカップ公園、龍山家族公園、ソウルの森など)の中にある。ソウル市の場合は、公園にキャットフードをばらまくだけで後片付けをしない人が多く悪臭がひどいという苦情から始まった。

 この苦情はソウル市のホームページにある「Mvoting」コーナーに寄せられたものである。Mvotingは市民が苦情を掲載し、市民が解決策を投票で決めていくオンラインコミュニティである。ここで登場した解決策がソウル市江東区のような猫給食所の運営である。「猫と人間が共存するためえさをあげることを止めてはならない。ただし、えさやりの場所を決めて猫も人間も安心して暮らせるようにしないといけない。猫にえさをあげたい人は猫給食所宛にキャットフードを寄贈するようにすればいい」という案に大勢が賛成し、ソウル市が動くことになった。ソウル市は2016年上半期まで猫給食所にやってくる猫の7割に避妊手術をする計画である。

 SNSやオンラインコミュニティから火が付いたキルゴヤンイ対策のおかげで、韓国にも猫好きが増えている。ソウル市内でも猫カフェをよく見かけるようになった。日本に猫の駅長がいるなら、韓国には警察猫がいる交番がいくつもある。警察猫といっても警察官の心を癒すのが主な任務のため何もせず寝てばかりいる。猫の写真集や猫グッズもどんどん増えてきた。韓国でもネコノミクスが話題になりそうだ。


By 趙 章恩

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 2016年2月
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