ICTでイノベーションを育む IoT時代に向けた韓国のスマート教育

人工知能時代を見据えた教育変革へ

韓国の未来創造科学部(日本の総務省に相当)によれば、韓国では2016年4月末時点で国民の9割がスマートフォンを使用している。家電売り場には数年前からIoT家電コーナーが登場し、スマートフォンの位置情報から帰宅時間を予測して稼働するエアコン、必要な食材をネットスーパーに注文してくれる冷蔵庫といった家電製品のほか、ヘルスケアのためのセンサーやウェアラブル端末も数多く販売されている。電気・ガス・水道などもスマートフォンで遠隔制御でき、スマートメーターの普及も進んでいる。韓国ではすでにIoTが人々の生活に浸透し、スマートライフを実現しているのだ。

IoTによる変化は、教育にも及んでいる。韓国の教育界に「変わらなくては」という衝撃を与えたのは、今年4月の『AlphaGo』とイ・セドル九段の囲碁対決だ。人間より優れた人工知能が登場し、多くの職業が人工知能に代わる時代が現実味を帯びる中、子どもの教育をどうすればいいのか。韓国では多くの議論が巻き起こっている。


全国に普及するスマート教室

韓国は世界でも教育熱が高く、幼少期から名門大学に進学するための受験競争が始まる。どの大学を卒業するかでその後の人生が左右されるといっても過言ではなく、教育も大学受験のために存在してきた。

しかし1990年代から、試験でいい点数を取るための一方的な教育が子どもたちの創意力を抑制し、その結果韓国全体の活気が落ち込んでいると懸念する声が大きくなってきた。そこで1997年には教育環境を変えるための「デジタル教科書」「スマート教室」「スマートラーニング」導入の議論が政府内で始まり、長年の実証実験を経て、教育のICT化が進んできた。

現在、韓国の小中高校のほとんどがスマート教室を有している。筆者が2012年に訪問したソウル市内の小学校では、教室の3面が電子黒板となっており、生徒は1人1台タブレットPCを手にし、3D、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)を使ったデジタル教材で理科や社会の授業を行っていた。もちろん、教室の中ではWi-FiまたはLTEでネットワークにアクセスできる。地域の紹介をテーマとした3年生の授業では、教師が自らドローンで撮影した地元の名所を見せると、グループごとにその場でスライドを作って発表し、討論しながら手作りパンフレットを完成させ、それを学級SNSに掲載して保護者にも見せる。学級SNSは児童・生徒と保護者、担任、校長などが参加する教育目的のSNSで、連絡事項の伝達のほか、授業で撮った写真や動画の共有など、韓国の学校では日常的に使われている。タブレットPCのカメラで友達がバドミントンをする姿を連写して先生のお手本との違いを発表する授業や、ARで映し出された恐竜の卵から恐竜の種類を当てるクイズなども行われていた。いまから4年も前のことである。


クラウドの活用でよりスマートに

学校で電子黒板とタブレットPCを使うことだけがスマート教育ではない。韓国政府が2011年から推進するスマート教育の「SMART」は「Self-directed(自ら主導する)」「Motivated(動機づけられた)」「Adaptive(学習者に適合した)」「Resource enriched(充実した教材を使った)」「Technology embedded(技術が埋め込まれた)」の略字である。子どもが楽しみながら、自分の適性とレベルに合わせて、豊富なデジタル教材とITを活用して自ら学習すること、教師と双方向でコミュニケーションしながら積極的に学び、満足できる教育を目指しているのだ。2014年度のスマート教育満足度調査では、児童・生徒も保護者も9割近くが「既存の教育より満足している」と答えた。

韓国では2000年頃から学校の校務と児童・生徒の管理をすべてデジタル化し、現在は全国の教師がNEIS(National Education Information System)と呼ばれるクラウド上のシステムで学生の個人情報や成績などを管理している。登録されたデータを利用していろいろな統計が出せるほか、教育委員会に提出する書類をすぐに作成することもでき、教師の雑務軽減にもつながっている。転校時にはシステム上でデータを移動するだけ。大学入試の際も大学に学生のデータを送信すればいいので、願書を書く必要もなくなった。また、保護者もNEISにログインして自分の子どもの出席や成績などを確認できる。

同じ時期に、「EDUNET」「サイバー家庭学習」など、政府が無償で提供する学習サイトもオープンした。クラウド上に教科書や教材があり、自宅のパソコンからログインすると、地域と学年に合わせて勉強すべきマルチメディア資料が登場し、予習・復習ができる。サイバー担任もいて、チャットで質問し、教えてもらえる。この時期から学校の宿題もインターネットで調べてクラウドに保存するという方式に変わり始め、子どもがいる家庭へのパソコンとブロードバンドの普及が一気に進んだ。

SKテレコムは教科書会社と提携し、教師向けにスマー教室での授業をサポートするアプリ『スマートティーチャー』を開発。マルチメディア教材の検索や学級通信の作成ツールなどがセットになっている。各自治体の教育庁も類似のサービスを提供している


IoT時代に備えプログラミングを必修化

韓国政府は教師の研修も長年行ってきた。電子黒板やタブレットPC、LMS(Learning Management System)の使い方に加え、デジタル教科書やデジタル教材を使いこなし、自ら制作する方法も教えた。ロボットの制御や3Dプリンター向けの簡単なプログラミング体験により、プログラミングがさほど難しくないことを実感させた。スマートフォンに慣れている教師たちは、こうしたICT化にもすぐに順応した。

2018年からは、プログラミングが小中高校で正規科目となる。小学校では決まったコマンドをコピー&ペーストして小型ロボットを動かすプログラムを書いたり、自分で簡単なゲームを作ったりする。すでに2014年から自由選択科目として教えられているが、IoT時代に必要な「Computational Thinking」を育てる一歩として、履修が義務づけられたのだ。

韓国でComputational Thinkingの代表的な事例としてよく取り上げられるのが、2009年に高校2年生が開発した『ソウル・バス』というアプリだ。当時はバス会社のウェブサイトやバス停のデジタル・サイネージにバスの時刻表と到着時間を知らせる機能はあったが、アプリで簡単に時刻表を確認できるサービスがなかった。そこで、高校2年生が一人でネットに散らばっていたバスの時刻表や運行状況がわかる情報を集め、複雑なデータからアルゴリズムを把握し、ソウル市内のすべてのバスの現在位置と各バス停への到着時刻を確認できる『ソウル・バス』アプリを作った。このアプリは人気ランキング1位となり、後に大手ポータル会社に買収されて、いまやソウル市民の生活必需アプリになっている。

SKテレコムは小学生を対象としたプログラミング教室も実施している。ゲーム形式でプログラミング言語をコピー&ペーストして『アルバート』という名前の小型ロボットを動かす体験ができる

プログラミング教育はさらに低年齢化。小学校で必修となることが決まってから、韓国仁川市保育園連合会に所属する保育園では幼児向けプログラミング体験教室を開いている


データ活用に向け個人情報制度も見直し

このように韓国では、ソフトウェアを重視し、すでにあるものをどう組み合わせて新しいものを作るかを考えるイノベーションに注力している。受験偏重型の教育を変えようというチャレンジを積み重ねてきた韓国は、スマート教育を超えてIoT時代に合わせたプログラミング教育へと発展してきたと言えるだろう。

韓国政府は今後、子どもたちのデータをより詳細に分析し、一人ひとりに合わせたカリキュラムを作ることを目指している。そのためには学校中にセンサーを取り付けて行動を観察する、学校と自宅で行われる学習履歴を分析するなど、IoTと人工知能のさらなる活用が必要となる。こうした取り組みに向けて、クラウド・コンピューティングや個人情報の取り扱いに関する制度の見直しも始まっている。「パリパリ(早く早く)」走りながら考えるのが得意な国民性を持つ韓国は、そう遠くない未来に新たな制度を実現するはずだ。


By 趙 章恩

 Huawei

 2016年7月

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http://www.huawei.com/jp/publications/huawave/22/HW22_Better%20Connected%20Schools%20in%20Korea

車が財布になる!?韓国で「コネクティドカーコマース」登場間近

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 韓国のキャリアであるLGU+とクレジットカード会社の信韓カード、ガソリンスタンドのGSカルテックス、スタートアップのOWiNの4社はこのほど、「コネクティドカーコマースアライアンス」を結成し、下半期からソウル市江南地区でサービスを開始すると発表した。4月20日にはソウル市内でセミナーを開催。コネクティドカーコマースの動向や具体的なサービス内容について説明した。

 コネクティドカーコマースとは、ETC(電子料金収受システム)のようなイメージで、ガソリンスタンドやドライブスルーでの代金をクレジットカードや現金を出さずに、運転手は何もしなくても車の情報を認証して自動決済できるもの。車に登録したクレジットカードから支払われる。

 おサイフケータイのように車そのものが財布になるサービスである。車がインターネットにつながり運転手が安全に運転できるコネクティドカーサービスの一つとして位置づけられるが、韓国ではこのコマースを一足先に実現するわけだ。

 下半期から江南地区で始める計画のコネクティドカーコマースは、フランスの自動車メーカーであるプジョーを対象としている。韓国のハンブルモーターズが2017年下半期に輸入販売するすべてのプジョー車に、コネクティドカーコマースを搭載する。決済はアライアンスの信韓クレジットカードを使う。

 コネクティドカーコマースを利用するにはどうしたらいいのか。運転手は車に乗って、モニター画面からコーヒーや花などを注文し、ドライブスルーのカウンターで商品を受け取る(写真)。スマートフォンを使って、アプリから商品を注文することも可能だ。商品を注文すると、店舗に注文内容と到着予定時刻が届く。顧客の車が1Km先に近づくと、店舗の端末にその情報が表示される。顧客が到着すると、顧客番号と注文内容が表示され、商品を渡すと決済完了になる。


コネクティドカーコマースの利用イメージ
(出所:OWiN)
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 ガソリンを入れる時も同じだ。車に搭載されたモニターまたはスマートフォンアプリからガソリンの種類と金額を選択。GSカルテックスのガソリンスタンドに行けば、店員が車から送られた情報を見て、車が到着したらすぐに給油を始める。クレジットカードと一緒にポイントカードもひも付けておけば、ポイントのチャージや割引クーポンの利用も忘れずに済む。

 駐車場の利用も便利になる。駐車場に入って出るだけで時間を自動的にカウントしてクレジットカードから料金が引かれるので、時間の節約になる。

車を財布にするには、スタートアップであるOWiNが提供するビーコンと、車載インフォテインメントシステムまたは専用アプリをインストールしたスマートフォンを連動させる。ビーコンをシガーソケットに差し込むと、店舗に近づいた時に店舗側の端末に信号を送る。決済に必要な情報は暗号化して処理され、約2秒で消去されるなど、セキュリティにも気を使った。決済に必要なネットワークはキャリアのLGU+が担当する。

 韓国でも最近は時間単位で車を利用できるカーシェアリングの利用が増えている。このため今後は、どの車でもスマートフォンとビーコンさえ持ち込めば、車に搭載されたモニターと連動して車の利用代金を含めて決済できるようにするという。

 ソウルは東京に比べて車を利用しないと移動に不便な場所がまだある。また駐車代が安いので、通勤に車を利用する人がとても多い。韓国は車庫証明がなく車を購入しやすいので、日本よりも気軽に車を買う傾向がある。だからこそソウル市内には駐車場も多く、ドライブスルーの店舗も結構ある。コネクティドカーコマースによって、ドライブスルーがさらに増えると見込まれている。

 韓国では、オンラインとオフラインをつなげる「O2Oサービス」が日常に根付いている。賃貸物件はアプリ経由で探し、気に入った物件があれば不動産を訪ねる。出前もアプリ経由でメニューと値段を見て注文。出前アプリで有名な「配達の民族」は、2016年の月平均出前注文件数が1100万件を超え、売上は年間849億ウォン(約85億円)、営業利益25億ウォン(約2.5億円)と黒字になった。

 O2Oの流れから、オンラインで注文・決済してオフラインで商品を受け取ることに慣れている韓国人は、コネクティドカーコマースもすぐに使いこなす可能性が高い。車を財布にしてオフラインの店舗を利用する新しいO2Oに期待が集まっている。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.5.

 

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/042600145/?itp_leaf_index

韓国MVNOのシェアは11.4%、使わなかったデータ通信料金を割引

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 韓国の通信政策を担当する未来創造科学部の発表によると、2017年3月末時点で韓国のMVNO加入件数は701.7万件で全移動通信加入件数の11.4%を占めている。2011年7月から販売開始した韓国のMVNOは、2015年12月末時点で加入件数592万件(移動通信に占めるシェア10.2%)を突破し、そろそろ頭打ちではないかと言われていたが、料金プランの工夫や格安スマホの登場により、まだ増加し続けていた。

 事業者別シェアは、大手ケーブルテレビ会社CJハロービジョンのMVNOであるCJハローモバイルが86万5354件と最も多く、その次がキャリアSKテレコムの子会社SKテリンクで72万6619件だった。全国の郵便局と郵便局のホームページを販売窓口にしている中小企業も、インスコビ社63万1204件、イージーモバイル社61万3920件、ユニコムズ社57万4385件と、少しずつ加入件数を伸ばしている。この他にもキャリアKTとLGU+の子会社もMVNOサービスを始めた。

 韓国のMVNOは当初、シニアをターゲットにしたプリペイド式激安音声通話を目玉にしていたが、最近は後払い式データ通信の安さを売りにしている。キャリア3社の半分程度の料金でデータ通信が使える。未来創造科学部は、MVNOの加入件数が伸び続けているのは、「データ通信の料金プランが多様化したから」と分析した。

 CJハローモバイルは2017年1月より、韓国で初めて使い切れなかったデータ通信分、1Mバイト当たり10ウォン(約1円)にして料金を割引するペイバッグ料金プランを始めた。

 例えば、月1Gバイト使う料金プランに加入したのに500Mバイトしか使わなかった場合、残った500Mバイト分5000ウォン(約500円)割引する。音声通話とSMS使い放題(韓国では音声通話が1回当たり5分を超えても無料)+データ通信1Gバイトで月26900ウォン(約2700円)のペイバッグ専用料金プランに加入しないといけないが、いつもはWi-fiを使い、データ通信は移動中に無料メッセージアプリを使うぐらいでいいという人にはとても便利だ。データ通信を全く使用しなかった場合は1300円ほど割引されるので、1400円程度で音声通話とSMSが使い放題になる。

 今までは、残ったデータ通信を家族に譲る、友達にプレゼントする、翌月まで1ヵ月だけ繰り越し可能、というプランはあったが、割引という形で返金するプランはなかった。CJハローモバイルによると、加入者の7割がデータ通信を使い切っていないことから、顧客満足度を上げるため残った分割引するプランを始めたという。

 たくさんデータ通信を使う人は10Gバイトプランもある。月3万3000ウォン(約3300円)で音声通話とSMSは使い放題、データ通信は10Gバイト分使え、さらに10Gバイトを使い切ってしまった場合、毎日2Gバイト追加で提供する。追加でもらった2Gバイトも使い切ってしまった場合は、3Mbpsの低速で無制限データ通信が使える。キャリア3社の場合、月10Gバイトのデータ通信プランが月6万5890ウォン(約6600円)なので、ちょうど半額で利用できる。その代わり、半額で使えるのは24カ月だけ、25カ月目からは月1000円ほど高くなる。

音声・SMS使い放題、10Gバイトのデータ通信で月額約3300円
(出所:CJハローモバイル)
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趙章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.4.

 

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韓国大統領選挙、候補のIT公約は「インダストリー4.0」「起業」が焦点

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韓国では朴槿恵前大統領の弾劾により、次の大統領を選ぶ選挙が7カ月ほど前倒しの2017年5月9日に行われることになった。

 早速、自分の関心事と大統領候補の公約を比較し、どの候補に投票すれば最も望みを叶えられそうかを調べてくれるマッチングサイトも登場した。その名も「ヌード大統領」。各政党のサイトを見て公約を比較するのは時間もかかるし面倒だけど投票するからにはちゃんと選びたい、という人にはぴったりだ。


公約マッチングサイト「nudepresident」
(出所:FiscalNote Korea)
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 利用者が入力した関心事の統計が表示されるので、韓国人の全般的な関心事も分かる。候補者にメッセージを残せるコーナーもある。4月11日時点で34万7000人以上が利用した。

 大統領選挙は進歩派と呼ばれる野党「共に民主党」のムン・ジェイン候補と、進歩派と保守派の間にある野党「国民の党」のアン・チョルス候補の競争になってきた。ムン候補は大学生の頃から民主化運動をした人物で、人権弁護士として活躍。故ノ・ムヒョン元大統領の秘書室長を歴任した。アン候補は日本にも法人があるセキュリティソリューション企業「アンラボ」を立ち上げた人で、韓国では成功した起業家としてとても有名な人物である。自他公認のIT専門家でもある。

 ムン候補とアン候補のIT分野の公約は共通した面が多い。「インダストリー4.0の時代に合わせて人工知能(AI)、自動運転車、IoTといった新産業を積極的に育成する」「理工系科学技術専門家を育成する」「起業しやすい環境を作るだけでなく、連帯保証人制度を廃止して失敗しても再度チャンスがもらえるようにする」といったことに焦点を当てている。

 ただし、ムン候補は国主導で、アン候補は民間主導で、というところが決定的な差である。ムン候補は大統領傘下に「インダストリー4.0革命委員会」を新設し、科学技術政策を総括する省庁を設け、国主導でIT産業を支援するという立場である。

 一方のアン候補は自ら起業してベンチャーを大企業に育てた経験を踏まえ、IT産業の競争力を上げるには政府の関与は最小限にして民間企業の自律に任せるべきという立場を示している。「インダストリー4.0はITだけでなく、すべての産業が融合することなので、以前のように政府主導ではうまくいかない」とも発言した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.4.

 

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/041200140/?itp_leaf_index

日韓の楽しいシニア達、ゲームを開発した81歳とYouTubeスターになった71歳

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2017年4月1日、韓国ソウル市で行われた「SOFTWARE EDU FEST 2017」のイベントに、日本の81歳の女性がスピーカーとして登壇した。iPhone向けアプリ「hinadan」(https://itunes.apple.com/jp/app/hinadan/id1199778491)の制作者である若宮正子さんである。

誰も作らないので、プログラミング言語を学び自分で作った

 若宮さんは「I want to be creative and active」のタイトルで、シニアが楽しめる雛壇飾りアプリゲームを開発した経緯を説明した。そして「81歳がアプリを作ったことがこれほど注目されるのは、やはりシニアはITに弱いと思われているから。自分はシニアにインターネットの世界を教えて、若い世代との情報格差を縮める架け橋になりたいと思っている」と話した。

 彼女はアプリ開発のために、プログラミング言語「Swift」を独学でマスターした。知人の開発者にSkypeを通じてアドバイスをもらったり、英語でしかできないアップルのアプリ登録申請書類を「Google翻訳」サービスで乗り越えたり、とても苦労したという。hinadanを開発したのは、「手の動きが若者ほど早くないシニアも楽しめるゲームアプリがあるといいな」と思ったが、誰も作ってくれなかったので自分で作ったとのことだった。

 SOFTWARE EDU FEST 2017は、LINEの親会社であるポータルサイトNAVERが2011年に設立したコネクト財団が毎年開催している。コネクト財団は、小学生からコンピュテーショナル・シンキングが身につくようプログラミング教育を実施しようと後押しする財団である。

 韓国でも、若宮さんのことは話題になっている。同イベントの様子を伝えた韓国メディアの記事のコメント欄には、「年齢は数字にすぎない。本人の意志でなんでもできることを、若宮さんを見て知りました。すごい!」、「かっこいいしすごい。欲しいアプリを自分で作ろうとか、問題を自分で解決してみようとか思わなかった。チャレンジ精神を学びたい」、「韓国もシニア層の多くがIT文化についていけない、パソコンは使いにくいと思っているが、若宮さんのようにチャレンジしてみてほしい」など、彼女の行動力を絶賛する書き込みが多く見られた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 


日経パソコン

2017. 4.

 

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/040600139/?itp_leaf_index

発火事故への皮肉?LGがバッテリー評価実験を公開してスマホ新製品を宣伝

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 サムスン電子のGalaxyS8に先立ち、韓国で2017年3月10日にスマートフォン新機種「G6」を発売したLG電子。発売当初は人気を得たものの、1週間も経たないうちに販売台数が停滞、今ではGalaxy S8にすっかり話題を奪われてしまった。

LG電子は、スマートフォン新機種G6は端末が丈夫でバッテリーも爆発しないと宣伝している
(出所:LG電子)
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動画やマンガを見やすい縦長画面が特徴

 G6のよいところは「シンプルなデザイン」「使いやすさ」「丈夫」の3点である。

 ディスプレイは5.7インチでQHD+(2880×1440)。画面の縦横比は18対9。今までのGシリーズは16対9だったので画面は縦長だ。一度により多くの情報を表示できるので、何度もスクロールしなくても済むし、本体は握りやすくなった。デュアルウィンドウで画面を上下に分け、動画を視聴しながらメールをチェックするような使い方も楽にできる。

 18対9は映画館スクリーンの画面比にもっとも近いので、動画を観るときもより没入できるそうだ。最近はモバイルインターネットの速度も速くなり、動画ストリーミングアプリを利用する人がとても多いので、動画が観やすいスマートフォンというのは重要なポイントになる。

 韓国では、この18対9の画面比が称賛されたのだが、そこにはWEBTOONが観やすいという点も影響している。WEBTOONはWebで連載するマンガのこと。といってもマンガをPDFにして配信したものではなく、Webで連載することを前提に制作したデジタルマンガである。そのためページ割ではなく、画面の上から下へコマが続く。スマートフォンの画面が縦長になったことで、WEBTOONのコマが一度によりたくさん表示されるので読みやすくなったのだ。このように、G6は前作のG5に比べ画面を観やすくしたうえで、消費電力を30%抑えている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.3.

 

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バッテリー騒動はもう過去?未発表でもサムスン新スマホに予約殺到の不思議

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サムスン電子は、2017年3月29日に米ニューヨークと英ロンドンでスマートフォン新機種「Galaxy S8」を公開する予定だ。つまり韓国時間では3月30日に全貌が明らかになるわけだが、なんと韓国の量販店では既に予約販売が始まっている。


サムスン電子のWebサイトに掲載されたGalaxy S8の公開イベント予告
(出所:サムスン電子)
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 端末も値段も決まっていないのに予約販売を開始するとは前代未聞だが、公式な発表はなくても、欧米のメディアにGalaxy S8とみられる端末の写真が掲載されたりスペックがある程度公開されたりしたので、その情報を頼りに予約しているようだ。

 量販店側は、「ユーザーがどのカラーとサイズ(ディスプレイの大きさ)を好むのか、仕入れの参考にするため予約を受け付けている」、「毎日のように新聞やテレビのニュースでGalaxy S8のことが話題に上るからか、発売済みと勘違いして機種変更に来る顧客もいるので早めに予約販売を開始した」と説明した。

 韓国のキャリア3社の予約販売は、4月7日に始まる予定だ。Galaxy S8の正式な発売は4月21日を予定している。キャリアは予約順に一足早く端末を配送し、予約者が正式発売日より前にGalaxy S8を入手できるようにするという。これも異例なことだが、端末だけ早めに渡し、事務手続きは4月21日から行う予定になっているのだ(つまり端末が届いても、Wi-Fiに接続してインターネットや一部アプリは使えるが、音声通話などSIMが必要な機能は4月21日まで使い始められない)。

 サムスン電子は4月1日から韓国内にあるサムスン電子の代理店とキャリアの代理店にGalaxy S8を展示、誰でも触って体験できるようにするという。

「名誉挽回の力作だ」と期待する声も

 端末価格、キャリアの「端末購入支援金」(2年間の加入を条件に、端末価格の一部または利用料を2割引にする)がどれぐらいもらえるかは、4月になってから決まりそうだ。

 複数の韓国メディアはGalaxy S8の端末出荷価格は100万ウォン(約10万円)を超える見込みだと報道している。かなり高額だが、それでも売れそうな気配である。

 Galaxy S8は、Galaxyシリーズの端末としては、2016年10月に販売中止となったGalaxy Note 7以来久々の新作となる。スマートフォン関連のオンラインコミュニティなどの反応を見ると、「サムスン電子が名誉挽回のため全力を注いだスマートフォンに違いない」など、期待を寄せる書き込みが非常に多かった。

 欧米のメディアが報じたGalaxy S8のスペックが正しいとすれば、ディスプレイは5.8型と6.2型の2種類。画面比は約18.5:9で、片手で操作しやすい縦長の形状になるようだ。前面部はフルスクリーンで、下にあったホームボタンはなくなり、指紋認識センサーは後面のカメラレンズの横、スマートフォンを使うときにちょうど人差し指が当たる場所に移動する模様だ。

 カメラは前面800万画素、背面1200万画素で、他のスマートフォンに比べて画素数が少ない。これは意外だった。バッテリーはGalaxy Note 7発火事故の影響か、GalaxyNote7より容量が小さくなった。5.8型は3000mAh、6.2型は3500 mAhとなっている。防水防塵、虹彩認証機能もあるらしい。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.3.

 

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韓国では電子金融取引のハッキングやフィッシング被害は銀行の責任になる

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韓国公正取引委員会は、2017年1月に「電子金融取引標準約款」を改訂し、インターネットバンキングやモバイルバンキングなど各種電子金融取引の利用中に起こったネット金融詐欺被害は原則として銀行に責任があり、銀行側が顧客に損害賠償をしなければならないという内容となった。同委員会は、「電子金融取引は、デバイスを使う電子的装置を通じた非対面・自動化方式の取引」と定義する。


韓国農協のインターネットバンキング利用画面。韓国公正取引委員会は、ハッキングやフィッシングなどにより電子金融取引利用中に起きた被害は原則銀行に責任があるという内容で標準約款を改訂した
(出所:韓国農協)
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 ここでいうネット金融詐欺被害とは、ハッキング、フィッシング、ファーミング、スミッシングなどである。

 フィッシングは、金融機関や公共機関などと偽って電子メールを送り、銀行口座の暗証番号といった個人情報を盗んでお金をだまし取る詐欺。ファーミングは、金融機関のホームページそっくりなサイトを作ってユーザーを誘導し、暗証番号などを盗み取る詐欺だ。そしてスミッシングは、携帯電話のSMS(Short Message Service)を悪用したフィッシングのような詐欺である。

銀行はもっとセキュリティに注力しなければならない

 これまでは、電子金融取引における事故が発生した場合、ユーザーの責任が重いと見られていた。ユーザーがセキュリティを疎かにしていたと判断されがちだった。明白に銀行側に落ち度があることをユーザーが証明できない限り、銀行は責任を取らなかった。

 しかし今後は、銀行側がユーザーに落ち度があったことを証明しなければならなくなった。原則銀行の責任になるので、銀行側はもっとサイバーセキュリティに力を入れ、ユーザーに再三ネット詐欺に気を付けるよう呼びかけることが求められるようになった。金融機関の顧客は、ネット金融詐欺によって損害が発生したことだけを証明すればいい。

  ネット金融詐欺被害に対して銀行がユーザーに支払う損害賠償額は、「被害金額」と「1年満期定期預金利子(被害額の賠償が遅れた場合。遅れた日数分)」の合計額である。顧客の過失によるものと銀行が証明できた場合は、過失に応じて損害賠償の割合も変わる。

  約款の改定は2017年1月に発表されたが、銀行側が難色を示していた。再度改訂されるのかと思われていたところ、3月になってやっと銀行側が受け入れて実際のサービスに適用することにした。

 早ければ4月から改訂版の電子金融取引標準約款が導入される見込みである。銀行側は、約款改訂に合わせてシステム改善作業に取り掛かった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.3.

 

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韓中外交摩擦がサイバー戦に発展か?

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駐韓米軍基地にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を配置することが決まってから、THAADの韓国配置に反対し続けていた中国の、韓国に対する圧力が一層強まっている。

 韓米両政府は、北朝鮮の弾道ミサイルに対応するため駐韓米軍基地にTHAAD配置を決めたが、中国は駐韓米軍のTHAADは距離が近いため中国軍までも監視できる、THAAD配置が北朝鮮を刺激して東アジアの緊張が高まる、という理由から反対してきた。

 「韓米両政府がTHAADの韓国配置を2017年7月までに終える方向で調整中」との報道が出た1月末から、観光や貿易、コンテンツ流通など経済面での中国の対韓圧力が続いている。ネットでは、中国のIPアドレスによるものとされるDDoS(分散型サービス妨害)攻撃やディフェイス攻撃も起こっている。

 DDoS攻撃とは、大量のパソコンなどから一斉に特定のWEBサイトにアクセスすることで通信容量をあふれさせ、WEBサイトの機能を利用できなくする攻撃。ディフェイス(deface)攻撃は、無断で他人のホームページのトップ画面を変えてしまうことである。

ロッテ免税店などが被害に遭う

 3月2日午前、ロッテ免税店の中国語ホームページ(免税品を注文・決済するB2Cサイト)がDDoS攻撃によりアクセスできなくなり、14時頃には韓国語、日本語、英語のホームページもアクセスできなくなった。ロッテ免税店のホームページは、前日の3月1日にもDDoS攻撃を受けていた。2日は3時間ほど免税店のサイトにアクセスできない状態が続き、ネット上で注文を受けられなかった。


ロッテ免税店の中国語サイト。3月2日にDDoS攻撃を受けた。韓国内では、韓中サイバー戦を懸念する声もあり、政府機関がモニタリングを強化した
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 複数の韓国メディアが、ロッテ免税店側のコメントとして「中国発IPアドレスによるDDoS攻撃」だと報じた。ロッテ免税店の売り上げは、7割が中国人観光客によるものである。そのため、DDoS攻撃で3時間注文を受け付けられなかっただけにも関わらず、数億ウォン(日本円にして数千万円)の損失が出たという。

 3月6日時点で、ロッテ免税店のホームページはつながる状態になった(ロッテ免税店はつながるが、ロッテグループのサイトはつながらない状態)。またロッテグループの中国ホームページは、2月28日から3月6日まで、つながらない状態が続いている。ロッテによると、通常の10~25倍ものトラフィックが発生しているので、サイトが麻痺してしまったという。中国のコミュニティサイトやSNSには、ロッテを批判する書き込みがどんどん増えている。

 3月2日には、ソウル市の関連サイトが「Panda Intelligence Bureau」を名乗る組織によりディフェイスされ、サイトにアクセスするとメイン画面にパンダのイラストと共に「ロッテをボイコットせよ。THAADの韓国配置に反対せよ」と書き込まれる事件が発生した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.3.

 

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/030700135/?itp_leaf_index


世界の流れに逆行?タブレットの売れ行きが好調な韓国ならではの事情

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世界のスマートフォンやIoTデバイスの最新動向を一目で見られる世界最大の移動通信展示会「Mobile World Congress」(MWC)の初日前日にあたる2017年2月26日、サムスン電子は現地(スペインのバルセロナ)でプレスカンファレンスを開催し、スマートフォン新機種ではなくタブレットである「Galaxy Tab」と「Galaxy Book」を公開した。

 Galaxy TabはAndroidタブレットで、9.7型のHDR(High Dynamic Range)映像を再生できるスーパーAMOLEDディスプレイや、スマートデバイス同士でコンテンツを共有しやすくするアプリSamsung Flow、ペン先が0.7mmと細くて描きやすいSペンが特徴である。

 またサムスンのタブレットとしては初めて、オーディオ専門ブランドAKGの技術を搭載したステレオスピーカーを4つ搭載している。Galaxy Book は、OSにWindowsを搭載。10.6型と12型があり、キーボード脱着式で、ノートパソコンのようにも使える。

 サムスン電子は、「画面が大きいだけでなく、マルチメディア、エンターテインメント、効率的な業務、デザインなど、どのような作業にも適している便利なタブレットであり、タブレットの進化を確認できる製品だ」と宣伝した。


サムスン電子のタブレットPC「Galaxy tab S3」
(出所:サムスン電子)
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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