韓国から東南アジア市場狙うKAKAOとLINE、激化する無料メッセアプリの市場先取り競争 [2013年4月26日]

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日本に限らず世界で人気を誇るLINE(ライン)、韓国ではLINEより人気があるKAKAO TALK(カカオトーク)、華僑を中心に全世界の中国人が利用しているWechat(ウィーチャット)、この3つの無料メッセンジャーアプリがアジア市場で激しく競争している。

 韓国で絶大の人気を誇るKAKAO TALKは、LINEより早くサービスを開始し、2011年3月の東日本大震災の際に、日本に住む韓国人の安否確認ツールとして大活躍した。韓国では「後で電話するね」ではなく、「後でカトクするね」と言うようになり(韓国ではKAKAO TALKを略してカトクと呼ぶ)、メールよりKAKAO TALKを利用する機会が増えた。


 ブログやFacebookに飽きた人達は、KAKAO TALKでつながっている友達にだけ写真を公開するKAKAO Storyを使うようになった。ところが、韓国での成功を踏み台にして日本やアジア市場に進出しようとしたKAKAO TALKの戦略は思い通りにいかなかった。


 それは、強敵LINEが登場したからだ。








日本では圧倒的人気のLINE(ライン)だが、“本国”である韓国ではKAKAO TALKにリードされている


LINEの貢献で韓国NHN株価は高値更新


 韓国系企業でありながら本国より先に日本でサービスを開始したLINEは、東南アジアや中南米、スペインでもユーザーが増え続けている(関連記事:1年半で利用者1億人突破「LINE」の快進撃が続く)。LINEは既にタイ、インドネシア、台湾など東南アジアだけで5000万人近いユーザーを確保している。


 Nokiaは低価格スマートフォン「Asha」にLineをプリインストールすることにした(関連記事:LINEがMWCデビュー、ノキアの新興国向けスマホで展開)。絶好調のLINEのおかげで、親会社である韓国NHNは株価が最高値を更新し続けている。


東南アジアで激しい先取り競争展開


 KAKAO TALKはLINEが市場を握っている日本を避けて、世界で4番目に人口が多く(約2億5000万人)、スマートフォンの普及が始まったばかりのインドネシアを狙っている。3月からアジアで人気の男性アイドルグループ「BigBang」を東南アジア向けイメージキャラクターに起用した。KAKAO TALKのK-POPマーケティングは効果があり、インドネシアではユーザーが毎日数倍ずつという勢いで増え始めた。


 中国系のWechatが市場を先占したベトナムでもK-POPアイドルのCMが話題になり、KAKAO TALKが2位に追いついた。中国系Wechatは全世界の華僑が利用していることから、ユーザー数が3億人を超えた。この数は、KAKAO TALKとLINEのユーザーを足した合計よりも多い。KAKAO TALKとLINEがアジア市場で成功するためには、Wechatの壁を越えなければならないわけだ。Facebookも無料メッセンジャーアプリを始めたので、ライバルはさらに増えた。


市場先取りが鍵握るメッセアプリ市場


 メッセンジャーアプリは、他のどのアプリよりも市場先占効果が大きい。ユーザーの多い方にまたユーザーが集まるからだ。日本ではLINE、韓国ではKAKAO TALKが一度築き上げた市場シェアはなかなか変動しない。日本に進出したKAKAO TALKは苦戦していて、LINEも韓国ではKAKAO TALKを越えられなかった。


 そこから考えると、今まさにスマートフォンの普及が急速に進んでいる東南アジア地域では、先に進出した方が今後もずっと市場をリードできる可能性が高い。


 KAKAO TALKとLINEが海外で成功すると、ゲームやスタンプなどのモバイルコンテンツ提供者もKAKAO TALKとLINEを経由して、容易に海外進出できる。そのため、韓国市場だけでは市場が小さすぎて収益を上げにくいモバイルゲームやキャラクター会社も、KAKAO TALKとLINEの海外進出を応援している。




KAKAOとLINEマネタイズは道半ば


 しかし海外進出だけが課題ではない。KAKAO TALKとLINEの本当の課題は利益を上げることである。


 KAKAO TALKは「Anipang」などKAKAO TALKを基盤とするモバイルゲームが好調で、2012年にやっと赤字から逃れられた。今後は米アップルのApp Storeのような「KAKAO Page」というコンテンツ流通プラットフォームを作り、スマートフォン向け音楽、動画、ゲームなどあらゆるコンテンツを流通させようとしている。










韓国で人気があるKAKAO TALKはスマホ向けコンテンツ流通プラットフォーム「KAKAO Page」を始めた。購入したコンテンツは友達1人とシェアできるので、2人で一緒に楽しめるのが特徴


 2013年4月に始まったばかりのKAKAO Pageには、自分が購入したコンテンツを友達1人とシェアできる機能や、友達2人に面白そうなコンテンツを推薦すると自分と友達2人合わせて3人が無料でコンテンツを利用できる機能があり、友達と一緒に楽しめる「コンテンツ販売所」であるのが特徴だ。


 一方のLINEはスタンプを使った企業のプロモーションが好調で、多くの国で企業と提携し、プロモーションを代行するサービスに力を入れている。


 KAKAO TALKとLINE、そこにWechatを加えたアジア3強の動きから、目が離せない。






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130426/1088602/


打倒サムスンに燃えるパンテック、特徴的なデザインの5型スマホ「VEGA IRON」で勝負 [2013年4月19日]

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2013年4月27日からいよいよ韓国をはじめ世界各国でサムスン電子(Samsung)の5インチAndroidスマートフォン「GALAXY S4」が発売される(
関連記事、4月19日時点では日本国内での発売に関する公式発表はない)。韓国では4月19日から予約受付が始まる。韓国キャリア3社は、ネット予約で購入するとS4専用のカバーやモバイルIPTV無料利用クーポン、音楽ストリーミングサイト無料利用クーポンなどの特典を付けるイベントも行っている。

 2013年上半期の話題はGALAXY S4に決まり、と思っていたところ、パンテック(Pantech)からすごいスマホが登場した。4月18日、パンテックは世界初「Endless Metal」を搭載した独特なデザインの5インチAndroidスマホ「VEGA IRON」を公開した。韓国のマスコミとブロガーは、「デザインはGALAXY S4よりVEGA IRONが上」「iPhoneよりも美しい」などと絶賛している。


縁がたった2.4mmの「Endless Metal」










パンテックがGALAXY S4に対抗して公開した5インチAndroidスマホ「VEGA IRON」。メタルを使ったデザインが特徴


 VEGA IRONはディスプレイの縁(べゼル)がたったの2.4mm。正面が端から端までディプレイだと、ちょっとした衝撃でも画面にひびが入ったり割れたりしないだろうかと心配になるが、極薄のEndless Metal、つまり途切れることなく1つにつながったメタルがスマホの側面を包み込むように縁どられているため、とても丈夫だという。


 5インチなのに、無駄な面積がないせいか片手で握りやすいのも特徴だ。ソニーのHigh Bright In-cell(タッチセンサーと一体化した新型の液晶パネル)を搭載したことで、今までより薄く、一般的な液晶ディプレイに比べて視認性、視野角も良くなった。


 米アップルのiPhoneは側面をメタルにしたことで電話の受信率が落ちたと問題になったことがある。パンテックは20年間積み上げた独自の技術で側面のメタルにアンテナの役割をさせて電波の感度を上げた。この、側面のメタルをアンテナとして使う技術も世界初だという。


スペック面でもGALAXY S4に劣らず


 端末のベセルはVEGA IRONの方が薄いのだが、厚みはGALAXY S4の方が0.9mmほど薄い。プロセッサーとOSは、GALAXY S4はExynos 5 OctaとAndroid 4.2、VEGA IRONはSnapdragon 600とAndroid4.1を搭載した。GALAXY S4とVEGA IRONは、LTEの他にGiga Wi-Fiといって、最大1.3Gbpsの高速Wi-Fi(現在のWi-Fiは最大300Mbps前後)も利用できるようにした。Giga Wifiは韓国のキャリアKTとSKテレコムが2013年下半期から商用化する予定である。


 VEGA IRONとGALAXY S4は共に、スマホのカメラがユーザーの目線を認識して、何も操作しなくても自動ロックしない目線認識機能を持っている。電子書籍を読んでいる途中で画面が暗くなったり、自動ロックされたりするのを抑止するわけだ。目線を追いかけるので、自動的に画面をスクロールする、スマホから離れると動画を一時停止する、といった操作もできる。


 VEGA IRONは音声認識エンジンを端末内部に内蔵しているので、ネットワークにつながっていなくても音声認識でスマホの各種機能を動かせる。今まではネットワーク経由で音声認識サーバーにつながらないと使えなかった。


斬新な機能で経営難から復活


 パンテックは1月には韓国初の6インチスマホ「VEGA No.6」を発売したばかり。それなのに、GALAXY S4の対抗馬として真っ向から勝負するため、GALAXY S4予約開始前日にVEGA IRONを公開した。発売日はGALAXY S4と同じく4月27日前後を予定している。端末価格もGALAXY S4より安くする。


 パンテックといえば、韓国で初めて携帯電話に動作認識、音声認識機能を搭載したメーカーである。韓国初のスライド式携帯電話、世界初の指紋認識携帯電話もパンテックが開発した。


 一般に中小メーカーは端末価格の安さで勝負しがちだが、パンテックは斬新な機能とデザインで大手のサムスン電子やLG電子と勝負した。一時期は経営難でこのまま廃業するのかと思われたが、スマホVEGAシリーズのヒットで蘇った。パンテック側は、「VEGA IRONはパンテックの社員全員が2年の歳月をかけて作った力作」であると強調し、GALAXY S4打倒に自信を見せている。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130418/1087563/

Facebookが火をつけた「スマホランチャー」競争、韓国ポータル各社もモバイル検索シェアの維持狙う [2013年4月12日]

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2012年から、Facebookが独自のスマートフォンを発売するという噂があり、韓国でもいったいどんなスマホになるのだろうかと話題になっていた。ところが、2013年4月になって公開されたFacebookフォンの正体は、端末ではなく
ランチャー(Launcher)の「Facebook Home」だった。韓国のスマホ利用者の間でも「これは意外」という声が上がっている。

 ランチャーはスマホのインテリアを変えるというか、自分の趣向に合わせて使いやすく初期画面やアイコンなどを変えられるものである。iPhoneはAppleが決めた画面構成で、利用者は待ち受け画面の写真を変える、アプリを並び替える、ぐらいしか画面をいじれない。Android OSのスマホは端末メーカーごとに特徴のある初期画面(Home)で使いやすさを競っている。利用者がHomeを変えられるランチャーを自由にインストールして使えるようにしているわけだ。


韓国でスマホを買うとまずランチャーを入れる


 韓国のスマホ利用者の間では、文字(フォント)やアイコンをかわいくするためのランチャーが人気だ。10~20代はスマホ買って真っ先にするのが、カカオトークとランチャーをインストールすることである。30代以上になると、「ランチャーを使うとスマホの動きが重く感じる」「ランチャーなんて企業の宣伝用に自分のスマホが使われるだけ」という意見が多かった。


 世界で10億人以上の利用者がいるFacebookのランチャーには、無料通話機能も付いている。Facebookのアプリを立ち上げるのではなく、スマホで何をするにもFacebookを経由する形になっている。Facebookがスマホのプラットフォームになるわけだ。Facebookは、端末を売るよりも、アプリや広告を流通するスマホのプラットフォームの世界で競争をしたがっているようだ.


LINE親会社、カカオトークなども続々参入


 Facebookに対抗して、韓国のポータルサイトや無料通話アプリのカカオトークなども次々にランチャー開発を予告している。Android OSのスマホであるサムスン電子のGALAXYシリーズを使う利用者を対象に、GoogleやSkypeではなく、自社の検索サービスや通話アプリ、SNSを基本サービスとして使わせるためである。


 日本に進出して情報キュレーションサービス「NAVERまとめ」や無料通話アプリ「LINE」など有名なサービスを展開している韓国ポータルサイト最大手NHNは、140種類のテーマから選べる「ドドルランチャー」を発表した。シェア2位のポータルサイトDaumも、ベンチャー企業に投資して「Buzzランチャー」を発表した。








韓国のポータルサイトDaumが投資して開発している「Buzzランチャー」の画面


 日本をはじめ東南アジアにも進出した無料通話アプリのカカオトークも、ランチャー「Kakao Home」を開発している。各社は、スマホの初期画面に自社の検索やニュース、マップ、天気、スケジュール管理、SNS、ゲームなど各種サービスを入れて、Googleより先に利用させることで広告収入を得られる。自社が開発した新規サービスへと、顧客を自然に誘導できる。Facebookに無料通話機能が付いたことで、ランチャーは無料通話+検索+SNSの競争になりそうだ。


モバイルで伸び悩む韓国系ポータル各社が勝負に


 GoogleとYahoo! JAPANが有力である日本とは異なり、韓国では、パソコンからの検索は利用者の8割近くがNHNのNAVERを使っている。しかしスマホで検索する場合は、初期画面に設定してあるGoogleをそのまま使う人が多い。NAVERやDaumのアプリもあるが、アプリを立ち上げて検索するのは面倒だからだ。


 パソコンよりモバイルインターネットを使う人が増えている中で、検索市場では韓国系ポータルサイトのシェアが伸び悩んでいた。ポータルサイトのランチャー競争は、モバイル向け検索やSNSなど市場シェアを拡大できるかどうかの競争でもある。


 韓国では、ポータルサイトがGoogleに負けず持続的に成長できるかどうかはランチャーにかかっていると私は見ている。1990年代後半の、「ブラウザーの初期画面をどのポータルサイトにするのか」という競争に似ている。このランチャー争いは当分続きそうだ。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130412/1086742/

南北サイバー戦争始まる?国際的ハッカー集団が北朝鮮サイトを攻撃 [2013年4月5日]

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2013年3月20日に
韓国で発生した大規模サイバー攻撃事件は北朝鮮の関与が疑われている。北朝鮮の韓国に対する威嚇がどんどんひどくなっている中で、4月3日に、国際的ハッカー集団「Anonymous(アノニマス)」が、北朝鮮が韓国向けに運営する体制宣伝用TwitterとFlickrのアカウントを乗っ取ったと発表する出来事があった。

 同じく宣伝用サイト「ウリミンゾクキリ(わが民族同士)」のサイトをハッキングし、会員として登録している1万5000件近いアカウント情報を手に入れたとして、4月4日に9001人分のデータ(ID、性別、氏名、メールアドレスなど)をFacebookページ「Anonymous South Korea」で公開したりもした。


アノニマスの「Free Korea作戦」


 「Anonymous」は、今回の北朝鮮サイトハッキングを「Free Korea作戦」と名付け、北朝鮮に対して4つのことを要求している。


 1.北朝鮮のキムジョンウン(金正恩)は辞任する、2.核兵器の製造を諦める、3.自由民主主義体制に変える、4.北朝鮮の住民が検閲なく自由にインターネットにアクセスできるようにする、の4つだ。








画面 Twitterアカウント「Anonymous_Korea」で立場を表明


 これらの要求に従わないと北朝鮮を相手にサイバー戦争を起こす、と“宣戦布告”している。「Anonymous」は、北朝鮮のサイバー攻撃に関して、自分達は世界平和を望む集団であり、特に米国や韓国政府を支持するわけでもなく、中立的立場であるとTwitterアカウント「Anonymous_Korea」で表明している。


ソニーにも“宣戦布告”した過去


 「Anonymous」は、2011年にソニーのプレイステーションネットワーク(PSN)にDDoS攻撃をしかけ接続不能にしたことを明かした集団である(関連記事:「ソニーの情報流出」、その真相を探る)。米国の某ハッカーがプレイステーション3(PS3)を改造して自作ソフトを動かせるようにするソフトを自分のブログで公開したところ、ソニーは著作権保護のため、そのハッカーだけでなく、ブログにアクセスした人の情報までも取得しようとした。これに「Anonymous」が反発し、ネットの自由を守るという名目で“宣戦布告”し、PSNを攻撃したのがこの事件だった。


 その他にも、著作権関連の取り締まりや表現の自由といった問題に対する意思表明として米法務省ハッキングしてサイトのデータを削除したり、サイトにアクセスできないようにしたりといった事件にも「Anonymous」が関与している可能性がある。児童ポルノサイトをハッキングしてサイトを閉鎖し、ユーザー1600人あまりの名簿をネットに公開したこともある。


韓国ネットユーザーに「スパイ名簿」作成の動きも


 韓国のネットユーザーの間では「Anonymous」が北朝鮮サイトを攻撃したことより、むしろ「Anonymous」が公開した北朝鮮サイトの会員情報に注目する向きもある。会員の中に韓国に住んでいる人がいるのではないか、捜査するべきではないか、という世論が湧き上っているのだ。


 北朝鮮が体制宣伝用に運営する「ウリミンゾクキリ」のサイトは韓国からアクセスできないように遮断されているため、そもそも韓国から会員登録はできないはずだ。だが、公開された名簿の中には韓国ポータルサイトのメールアドレスが多数含まれていた。韓国籍を持つ人がアクセスを禁じられている北朝鮮のサイトの会員になって書き込みをする、北朝鮮サイトの内容を他のサイトに“コピペ”する、といった行為は「国家保安法」違反である。


 韓国内の一部のネットカフェでは、公開された会員名簿の氏名とメールアドレスをグーグルで検索し、出身大学や職業などの個人情報を追加して「スパイ名簿」を作るという騒ぎにもなっている。しかし個人情報を盗用して他の人が会員登録した可能性もある。「ハッカー集団が公開した名簿によって無実の被害者が生まれるのではないか」と懸念する声も上がっている。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130405/1085823/

サムスン電子が割れない液晶搭載のスマートフォン発売計画を発表、BYODの韓国では大喜び [2013年3月29日]

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 いつでもどこでも仕事ができるノマドワーキング環境が整っている韓国では、会社用にもプライベートにもスマートフォンを積極的に使っている人が多い。スマートフォンが発売されたばかりの2010年でも会社からスマートフォンが支給され、会社用と自分用に2台持つ人が多かった。最近は会社でも官庁でも私物の携帯情報機器を職場に持ち込んで業務に利用するBYOD(Bring your own device)が浸透していて、自分のスマートフォンに業務アプリをインストールして使うケースが増えている。スマートフォンのセキュリティ機能が向上しているのも影響がある。


 サムスン電子は、2013年2月にスペインで開催されたモバイル展示会Mobile World Congress 2013で業務用と自分用に分けてソフトウエアとデータを保存できるようにする「Knox」という機能を発表した。スマートフォンの中に業務用のアプリやデータを入れる「コンテナ」があり、そこに保存した会社の情報はハッキングやウィルスから徹底的に守るという機能である。GALAXY S4からこの機能を搭載するという。


 つい先日、サムスン電子はもう一つ、BYOD族にはうれしいニュースを発表した。それは、なんと「割れない」ディスプレイを搭載したスマートフォンGALAXY Note 3を今年の10月に発売するというニュースである。







サムスン電子が3月14日米で公開したスマートフォン GALAXY S4。S4は韓国で4月25日発売予定。話題のS4にするか、それとも10月まで待って割れないスマホを買うか、SNSに悩みを書き込む人も多い。


「割れない」ディスプレイとは、スマートフォン業界初のプラスチックを素材とした有機ELディスプレイことだ。弾力性のあるディスプレイなので落としても割れないという。さらにプラスチック素材なので通常のガラス素材のディスプレイより軽いので、より軽く薄いスマートフォンになる可能性も高い。このディスプレイを搭載したGALAXY Note 3は9月にドイツの展示会IFA2013で公開する計画のようだ。前作のGALAXY Note IIを2012年9月にIFA2012で公開しているので、GALAXY Note 3も9月なのではないか、ということだ。

 3月14日に米国で公開されたばかりのGALAXY S4は4月25日から韓国で発売される。メールやSNSの同時翻訳機能や写真を撮る瞬間の音を録音して写真と一緒に再生する機能、スマートフォンの前と後ろのカメラのシャッターを同時に押して撮る人と撮られる人が同じフレームに入るようにする機能、ヘルスケア用のセンサー搭載など、スマートフォンがあれば日常が楽しくなりそうな機能てんこ盛りで業務用セキュリティ機能もついているS4にするか、もう少し待って画面も大きく丈夫で割れない液晶のスマートフォンNote3にするか、悩ましい。


 韓国のスマートフォンユーザーの悩みは、ちょっとしたことで液晶が割れる、ひびが入る、ということである。液晶の交換は修理の中でも最も高くつくので、スマートフォンの保険に加入していない場合はかなりの出費だ。スマートフォンを買ったらすぐ保護用のフィルムをはって、きれいなケースに入れてと、アクセサリーにも気を使う韓国ユーザーであるが、ほぼ24時間スマートフォンを肌身離さず使っているから、スマートフォンを落としてしまう回数も多いのかもしれない。


 最近はベッドの中でスマートフォンをいじっているうちに眠ってしまい、ベッドからスマートフォンが落ちて液晶ひび割れ、というケースがかなり多い。それにこのごろのスマートフォンは6インチ近い大画面が人気で、ポケットに入れたままでは座りにくい。それに四六時中カカオトークやTwitterを確認しないといけないので、スマートフォンを机の上に置きっぱなしにして使う人も多い。そうするとうっかり落としてしまい液晶ひび割れ、というケースにつながる。コミュニティサイトではどのスマートフォンがもっともひび割れしやすいか実際に実験する動画を載せるのが流行ったほどである。


 韓国では業務用にもタブレットPCよりもスマートフォンを使う割合が多く、BYODが進んでいる。仕事用にもプライベートにもなくてはならない端末となったスマートフォン。2013年後半からは、プリインストールアプリの便利さと楽しさ、画面の高画質、大きさはもちろん、「割れない」も重要な差別化ポイントになりそうだ。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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大規模サイバー攻撃に動く韓国軍~“サイバー戦士”1000人を養成 [2013年3月22日]

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またやられてしまった。2013年3月20日の午後2時過ぎ、韓国の地上波テレビ局と大手銀行の社内のパソコンが突然シャットダウンして、電源が入らなくなった。社内ネットワークがハッキングされ、パソコンもインターネットも使えず何もできなくなったのだ。データは次々に削除され、被害規模も正確に把握できないほどである。

 20日から25日は会社の給料日が集中する時期でもあり、振り込みやATM利用が増える。銀行内部のネットワークに問題が発生したことで、振り込みできなくなったり、ATMが使えなくなったりする不便があった。


 テレビ放送は問題なく続いた。一方、テレビ局のパソコンが使えないので記者と作家らはネットカフェを転々とした。視聴者参加番組はお便りを掲示板ではなく電話で受け付け、ラジオ番組はサーバーから音楽をダウンロードして放送していたのを、CDを探して音楽を流した。記者は取材内容をテレビ局のサーバーに送信できないので、出先の電話から話すと社内のスタッフがタイピングするというアナログ時代に戻ってしまった。21日になってから社内ネットワークはある程度回復したものの、使えなくなったパソコンが数百台あるという。


 サイバーテロは毎年のように繰り返し発生している。会員情報が盗まれた、DDoS攻撃でホームページにつながらなくなったぐらいでは驚きもしないほど日常的に発生している。


 今回は、日本のNHKのような公共放送KBSが見事ハッカーにやられたこと、2011年に大規模なハッキングが発生しセキュリティに数億円を注ぎ込んだはずの農協がまたやられたことがショックだった。災害が発生すると真っ先にNHKニュースから確認するように、韓国でも国家危機の際にはKBSニュースを見るよう国が指定している。そのKBSがサイバー攻撃され社内ネットワークが使えなくなったことは、いつかはハッカーがニュース内容を改ざんして報道し、国中を混乱させるかもしれない、という恐怖になって広がった。


 当初は、被害にあった会社は共通してLG U+の回線を利用していたことから、同社の通信ネットワークがハッキングされたのではいかと疑われた。同社のサービスを利用していない地上波放送局SBS(ソウル放送)は何の被害もなかったからだ。捜査結果、LG U+のせいではないと分かった。


 今回のサイバー攻撃は、放送局と銀行のサーバー管理者のIDとパスワードを盗んで悪性コードを事前に仕組み、3月20日午後2時になったら一斉に攻撃するように設定するAPT(Advanced Persistent Threat)攻撃だった。ウイルス感知システムに引っかからないよう、悪性コードをアンチウイルスファイルの一つに見せかけてサーバー管理者のパソコンにインストールしていた。


「サーバー管理者のセキュリティ意識向上が先」との意見も


 今回のサイバーテロが北朝鮮の仕業なのか、まだ断定できない。警察のサイバー捜査隊は、ハッカーが自分の存在をアピールする画面を残したことから、金目当てのハッキングというより、マスコミを騒がせ自分の実力を見せつけようとした側面が強いと分析した。サイバーテロによる被害もまだはっきりしていない。銀行と放送局のパソコンが壊れただけなのか、データが削除されただけなのか、それとも重要な情報を盗み、その証拠を隠すためにデータを削除したのか。


 サイバーテロは今まで警察が捜査を担当していたが、今後サイバー戦争の危険もあるとして、韓国軍は3月21日、「サイバー戦士」を1000人以上養成すると発表した。サイバー攻撃もミサイル攻撃による被害と変わらないほどダメージが大きいことから、サイバー戦士の人員を何人と決めずに、できるだけ多く増やす計画だという。北朝鮮が工学大学を優秀な成績で卒業した人材をハッカーとして養成し、米や韓国の政府サイトを繰り返し攻撃していることは何度も報道されている。


 韓国のITセキュリティ専門家らは、サイバー戦士もいいが、何よりもサーバー管理者のセキュリティ意識から改善しないとどんな戦略も再発防止につながらないと嘆く。何年も前から問題になっているのに、未だにパスワードを単純な数字にする、担当者が変わってもパスワードを変更しないのだという。


 一般家庭のPCや個人のスマートフォンもハッキングの経由地として狙われているので、安心していられない。インターネットにつながっている以上、いつハッキングされるか分からないと覚悟して、予防に予防を重ねるしかない。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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韓国ノマドワーキング事情~カフェの電源+Wi-Fiは無料が当たり前 [2013年3月15日]

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円安の影響から、韓国では東京や大阪でショッピング三昧の旅が流行っている。日本に行く理由は温泉にやっぱりショッピング。日本で何を買ったか自慢するブログを見ると、秋葉原や大阪でんでんタウンでフィギュアをコレクションする人も増えている。

 日本を訪問する韓国人観光客の間では、韓国では当たり前なことが日本では当たり前ではないため、日本に来て「メンタル崩壊」(魂が抜けてしまうほどショックを受けること、韓国の流行語)を経験したと話す人が少なくない。その代表的な例がカフェの電源と市内のWi-Fi、それとFAXの存在である。


 韓国は何でも速く変わる。書類はメール、メッセンジャーを使って送信し、手書きのメモや絵はスキャンするかデジカメで撮ってメールで送るのが当たり前の時代になったので、FAXは滅多に見かけなくなった。「ホテルで日本のテレビを見ていたら、FAXで届いたお便りを読むコーナーがあった。今でも家庭にFAXがあって普通に使っているなんて、メンタル崩壊~」という話をよく聞く。


 韓国ではカフェで電源は使い放題が当たり前。もちろん無料だ。大型カフェには2席当たり1つの割合でコンセントがある。韓国のいたるところにあるスターバックスにはたっぷりとコンセントがあるので、スマホの充電やノートパソコンを使うのに困ることはない。もちろんWi-Fiも無料だ。小さいカフェでコンセントがテーブルの近くに見当たらない場合、コンセントを使いたいと言えば、店員が延長ケーブルを持ってきてくれる。


 




 

ソウル市が提供する無料パブリックWi-Fiのロゴ。どこにでもあるので、韓国人はルーターやバッテリーをあまり持ち歩かない


 カフェのコーヒー代(200~400円)は場所代込みなので、客が要求すれば当然電源を提供するというのが韓国式の考え。カフェや食堂、レストラン、どこでも電源を使わせてくれる。韓国の友達に、日本では無料で電源が使えるカフェが少なく、無断でスマホを充電すると「電気どろぼう」になる場合があると話をすると、これも「メンタル崩壊~」と言われる。


 日本に来て、カフェの入り口に「Wi-Fi使えます」と書いてあるので当然カフェ側が無料でWi-Fiを提供しているものだと思ったら、「各自加入しているキャリアのWi-Fiを使ってください、ということだった」と驚きのつぶやきをする韓国人が結構いる。韓国人観光客の多い福岡は、東京に比べると無料でWi-Fiが使えるカフェが多いようだ。


 韓国は大都市の場合ではあるが、Wi-Fiも無料ゾーンが多い。空港や主な駅、デパート、ショッピングモール、ホテル、カフェではそれぞれ施設が提供する無料Wi-Fi、地下鉄の車両内ではキャリアLGU+の無料Wi-Fi(広告動画を観てから携帯電話番号を入力、携帯電話に送られてきた暗証番号を入力することで無料になる)、明洞(ミョンドン)や江南(カンナム)といった繁華街ではソウル市が提供するパブリック無料Wi-Fiを利用できる。ソウル市内のいたるところに無料Wi-Fiゾーンがあるので、海外用データ通信ローミングする必要がない。逆に高級なホテルやレストランほど無料のWi-Fiゾーンがない。


 韓国でこのようにカフェで無料電源とWi-Fiが当たり前になったのは、2009年にスマートフォンを発売してから。それからパソコンさえあればどこでも仕事ができるとして、好きなカフェを転々とする「Coffee」+「Office」の「coffice族」が増えた。カフェ側も無料でセミナールームとプロジェクターを提供したり、一人席を増やしたり、24時間営業したり、「coffice族」を常連にするためのマーケティングを行った。追加料金があるわけでもなく、時間制料金でもなく、コーヒー1杯の値段でカフェをオフィスとして十分利用できるようにしたのだ。スターバックスと並んで韓国で最も店舗数の多いカフェベネは、一部店舗でノートパソコンの貸し出しまで無料で行っている。


 「coffice族」が増えた理由の一つに、カフェの適度に騒がしい自由な雰囲気の中で打ち合わせをすると、もっと自由に意見が言える、もっといいアイデアが浮かぶ、場所が変われば気分も一新してやる気が出る、というのもあった。

しかし2012年あたりから「coffice族」がだんだん減っている。カフェ側が長居する客をお断りしたから、ではなく、もっと居心地のいい場所を見つけたからだ。


 中小企業庁や自治体のベンチャー起業支援またはキャリアの社会貢献の一つとして、無料または安く利用できる一人用オフィスが増えた。外回りの途中にカフェでちょっと仕事したり、大学生がグループ課題のためにカフェに集合したりという利用パターンもあるが、就職難で行く場所がなく起業を目指してカフェをオフィス代わりにする人が多かったからだ。中小企業庁は全国に4万人分の“一人オフィス”を運営している。それでもまだまだ足りないとのことで、民間のビジネスセンターを借りて起業を目指す人に無料で提供する方針である。





SKテレコムが運営するオープンイノベーションセンター内にあるアプリ開発一人起業支援ブース。パソコンさえ持参すれば、インターネットやコピー機、プリンター、会議室、飲み物、起業に関する相談などは無料で利用できる




同施設の休憩スペース。入居審査の競争率はもちろんかなり高い




 一人オフィスは、ノートパソコンさえ持っていけば、ネットワークとコピー/プリンター、会議室、セミナールームなど自由に使える。この施設に入るためには事業計画書の審査が必要だが、合格すれば起業・税金・法律・PR・仕事の悩みなど何でも専門家からアドバイスを受けられる特典もある。キャリアが提供する一人オフィスは、アプリ開発者支援という名目で、アプリ企画・開発のための無料教育を実施している。よいアイデアさえあれば、一人オフィスに入居して、プロの助けを借りてアイデアをビジネスに変えられるというわけだ。


 ソウル市はソウルに住む外国人のために無料の一人オフィスも提供している。事業計画の審査は必要だが、合格すれば滞在ビザ取得はもちろん、起業に必要な手続きも無料でコンサルティングしてくれる。アジア市場をターゲットにネットサービスやアプリを企画しているなら、国際的ノマドワーカーとしてソウル市の支援で起業してみるのはいかが?






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130315/1083484/

10万円のスマホが数百円? 他社出し抜きのモーレツMNP獲得合戦 [2013年3月8日]

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韓国の通信キャリア3社の発表によると、携帯電話の番号はそのままでキャリアだけ乗り換える「ナンバーポータビリティ(MNP)」利用件数は2012年通年で約1057万件に上り、初めて1000万件を突破した。韓国の人口は5000万人前後なので、国民の5人に1人は利用した計算になる。キャリア側はスマートフォンとLTE加入者の奪い合いによる結果だと分析している。

 キャリアは新規顧客を獲得すべく、MNPで他社から乗り換えると端末補助金を支給し、新機種のスマートフォンを安く買えるようにする。代理店側が利用者を勧誘するため、契約期間が残っている場合は、違約金を代わりに払うための補助金を追加することもある。


 加入者を最も獲得したキャリアは市場シェア最下位のLGU+だ。LTE全国サービスと安い料金で、加入者が50万人純増した。歌手のPSYが「江南スタイル」の曲に合わせて踊りながら「U+スタイル!」と叫ぶ、笑えるCMも好評だった。


 利用者奪い合いが加熱した結果、放送通信委員会は規定を超えるマーケティング費用を使ったとして、キャリア3社に約2~7億円の課徴金と20日前後にわたる営業停止命令を下した。2013年1月からLGU+、SKテレコム、KTの順に営業停止期間が始まった。営業停止期間中は新規加入を勧誘できない。


 3月6日、営業停止の順番が最後だったKTが緊急記者会見を開いた。KTが営業停止している間に、SKテレコムとLGU+がスマートフォンに過度な補助金を支給してKTの加入者を奪った、移動通信市場の流通秩序を守らない、というのだ。KTの主張によると、キャリア2社は、月々の料金が約7000円前後の最も高いLTE料金制度に加入するのを条件に、GALAXY SIII、Optimus Gなど人気スマートフォンの端末価格より高い補助金を代理店に支給し、KT加入者がMNPで乗り換えれば、数百円でこれらの人気スマートフォンを使えるようにしたという。


 法律で定められた補助金は顧客1人当たり約2万4000円だが、SKテレコムとLGU+は10万円近く補助金を支払っている、通常は補助金が3~5万円の段階で課徴金や営業停止の対象になるのにこれはひどい、放送通信委員会がキャリア2社を調べるべきだ、とKTは記者会見で訴えた。


 SKテレコムとLGU+のPR担当者らは、「過度な補助金で他社の加入者を奪ったのはKTが先だ!」と猛反発。これに対しKTは、SKテレコムとLGU+の営業停止期間中には、1日2万5000件前後だったMNPが、KTの営業停止期間中は1日3万5000件を超えている、1万件も多いじゃないか!と憤慨した。SKテレコムとLGU+は、「KTのサービスが気に入らなくてほかのキャリアを選ぶ加入者もいるはずなのに、全て他社の補助金のせいだと記者会見まで開くのはおかしい」、「3月の新学期商戦の時期と営業停止が重なり、KTがかなり焦っているのは分かるが、他社のせいにする前に我が身を振り返るべきなのではないか」と怒りが収まらない様子である。


補助金競争は終わりのない消耗戦でもある。LGU+は営業停止期間中の2月に15万7458件奪われ、他社の営業停止期間中に37万5108件を取り戻した。SKテレコムは26万7093件を奪われた。営業停止が終わってから10日間で15万9947件、奪い返した。営業停止期間中にみなが大人しく自粛するどころか、1社が動けない間に残り2社がさらなる補助金で顧客を奪う図式を繰り返していた。今度はKTの番だ。1日3万5000件のペースで加入者がほかのキャリアへ移動しているので、20日間でかなりの数が移動するだろう。

 キャリアの補助金競争は、新しく大統領が就任したというのに、未だにICT政策と規制を担当する省庁が決まらない現状とも関連がある。放送通信委員会が継続してキャリアの規制を担当するのか、それとも新しい組織を作るのかどうか明確に決まらない。監視の目がない隙に、好き勝手にやってしまおう! という雰囲気もある。


 利用者にとっては、最新のスマートフォンに乗り換えるなら今がチャンスのように見えるが、実はそうでもない。補助金のせいで、代理店ごとに端末の値段が全部違う。しかも毎日のように値段が変わるので、「ここで買っていいのか、もっと安いところがあるかもしれない」と疑ってしまい、なかなか決められない。
 






KTの代理店。補助金競争の影響で、スマートフォンの定価がなくなってしまった韓国。安く買えるのはいいが、もっと安いところがあるかも……と疑ってしまいなかなか決められない



 韓国はキャリアから代理店に支払う補助金だけでなく、メーカーが代理店に支払う補助金もあるので、どの代理店でどのキャリアのどのメーカーのスマートフォンにするかの組み合わせによって端末価格が大きく違う。代理店はキャリアごとにあるが、キャリア3社の全ての端末がそろう販売店もあるので、ますます頭が痛い。販売店は定価というものがなく、ほとんどが言い値。ネットで最安値を検索して、オフラインでも代理店と販売店を数件比べてから決めないと、後で後悔する。


 キャリアの補助金競争は、新しいもの好きな国民性の影響もあると思う。スマートフォンは便利だから使いたいという理由もあるが、誰よりも早く最新スマートフォンを手に入れて自慢したいと意欲的な韓国人に、MNPはありがたい制度である。でも何事もやりすぎはいけないだろう。補助金よりは、まず安心して代理店でスマートフォンを買えるようにしてほしい。代理店の人と「本当にこれが最安値ですか!」と神経戦を繰り広げるのも疲れる……





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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韓国から見るモバイル展示会「MWC」は“サムスン一色” [2013年3月1日]

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スペインで開催した世界最大のモバイル展示会「Mobile World Congress 2013」は、やっぱりサムスン電子の新製品で盛り上がった。去年もMWCでいろいろな賞を受賞した同社は、今年のMWCのGlobal Mobile Awardsで歴代最多、5つの分野で賞を受賞した。

 2年連続で最高スマートフォン賞(Best Smartphone)と、今年最高の携帯電話メーカー賞(Device Manufacturer of the Year)を受賞した。最高のスマートフォン賞は、GALAXY SIII、GALAXY NoteIIのほかにiPhone 5、ノキアのルミア920、HTCのドロイドDNAも候補に挙がっていた。韓国ではGALAXY III、GALAXY NoteII、iPhone 5の3機種が最も人気がある。


 新しく、2012年の話題商品GALAXYカメラが最高モバイル基盤消費者電子デバイス賞(Best Mobile Enabled Consumer Electronics Device)を、スマートLTEネットワークが最高モバイル装備賞(Best Mobile Infrastructure)とCTO選定モバイル技術賞(Outstanding Overall Mobile Technology The CTO’s choice)を受賞した。


 サムスン電子側は、GALAXYカメラが受賞するとは思ってもいなかったというコメントを発表したほど、うれしそうだった。GALAXYカメラは韓国で初めてキャリアの代理店で販売するデジタルカメラとして話題を集めた。1630万画素CMOSのコンパクト一眼カメラで、3G/LTE/Wi-Fiを経由して写真をWebに保存・共有できる。「コネクティドカメラ」という新しいジャンルの商品であるとサムスンは宣伝していた。


 韓国のマスコミもネットユーザーも、2013年のMWCの目玉は、各メーカーの5型以上の大画面スマートフォンと、サムスン電子の8型タブレットPC「GALAXY Note 8.0」であると見ている。


 





サムスン電子の目玉展示品だった8型タブレットPC「GALAXY Note 8.0」



 電子ペンのSペンが特徴のサムスン電子のGALAXY Noteシリーズは、5.3型と5.5型のスマートフォンと10.1型のタブレットPCがある。これに続けてGALAXY Note 8.0が新しく登場したわけだ。8型と画面が小さくなっただけでなく、重さも10.1型に比べて半分ほどの338gになった。厚さも1mm薄くなった7.95mm。軽くて小さいだけではない。スペックもアップグレードした。CPUは1.4GHzクアッドコアから1.6GHzクアッドコアに、OSはAndroid 4.0から4.1.2になった。


 これはアップルのiPad miniに対抗する端末であり、5型より大きい大画面スマートフォンが普及しているため、タブレットPCの必要性が分からないというユーザーでも、8型は買ってみたいという人が結構いる。サムスン電子もGALAXY Note 8.0は自信作だそうで、2013年からは本格的にタブレットPC市場を攻めて、タブレットPC販売台数でもアップルを追い越す!という意気込みを見せている。


 LG電子はスマートフォンOptimusGを先頭にOptimusシリーズ9つのモデルを展示した。韓国のスマホユーザーの間では、「画質がすごい」と好評だが、韓国よりも欧米でもっと高く評価されているようだ。


 韓国の最大手キャリアのKTとSKテレコムもMWCに参加した。SKテレコムはLTEよりさらに2倍速い150Mbps のLTE Advancedを実際にスマートフォンから利用できるところを世界初公開して、LTE貢献賞を受賞した。2013年下半期からLTE Advancedを商用化するため、MWCの会場でエリクソンと提携を結んだ。
 






キャリアのSKテレコムは今より2倍速い150MbpsのLTE-Advancedを公開



 サムスン電子がスポンサーになってMWCに招待した韓国のブロガー記者の間では、ソニーのXperiaの評判が高かった。タブレットPCの方はWi-Fiモデルが韓国で発売されたが、「スマートフォンもタブレットPCも、とてもスタイリッシュなデザインなので、キャリアから3G・4G対応で発売されればもっと売れるはずなのに残念」という評価だった。


 今回のMWCでは、欧米のキャリアから韓国のキャリアCEOに会いたいとミーティング依頼が殺到したという。韓国が先に経験したモバイルネットワーク「フリーライド」議論が、最近になって欧米でも問題になっているようだ。無料通話アプリによってキャリアのネットワークに負荷がかかり、アプリ会社もネットワーク投資額の一部を負担すべきではないか、という議論である。MWCでは、サムスン電子にスマートTVをサービスしたければネットワーク使用料を払えと訴訟を起こしたKTに学べと、欧米キャリアのCEOが集まりKTのCEOを囲んでパネル討論をした。


 訴訟を経験してから慎重になったのか、KTはキャリアとアプリ会社の関係が悪くなるのはどっちも損だとして、「(大量のトラフィックを発生させる)アプリはこれからもどんどん出てくる。アプリ会社を敵対視するより、世界のキャリアが力を合わせてより良いサービスを作る方がいい」と発言した。


 大げさかもしれないが、韓国のマスコミは、サムスン電子が出展しないとなるとMWCの展示ブースはもう運営されなくなるだろうとまで書いている。サムスン電子もそうだが、大手メーカーはだんだん本当の新製品を展示しなくなったからだ。MWCの目的も、新製品の展示を見てトレンドを探るというより、全世界のモバイル関連企業担当者に会えるビジネスミーティングの場に変わりつつある。グーグルも展示なしでミーティングだけした。


 MWCであっと驚くようなスマートフォン新機種の展示がなかったせいか、韓国では早くも次のイベントを待っている。3月14日に米ニューヨークのアップルストアの近くにあるラジオシティミュージックホールで公開予定のサムスン電子のGALAXY S?のことである。アップルストアの近くで新機種公開というところがいいね! どんなすごいスマートフォンに仕上がっているか楽しみである。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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「やられた!」とつぶやき続々、Androidを狙う詐欺が横行 [2013年2月22日]

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人口5000万人の韓国で3000万人がスマートフォンユーザーというほど、幅広い世代に愛用されているスマホだが、スマホユーザーを狙った詐欺が後を絶たない。事態を受けて、振り込み詐欺キャンペーンのように、警察庁とマスコミが一体になって「騙されるな!」と詐欺手法を公開し、キャリアも被害者の救済に乗り出した。

 スマホ詐欺はAndroid OSユーザーをターゲットにした、悪性コードによるものだ。キャリアのカスタマーセンターから届いた請求書や、商品と交換できる無料商品券のように見せかけたリンクを貼ったSMSをハッカーが送信。受信した人がリンクをクリックすると悪性コードによってハッカーにスマホを乗っ取られてしまう。ハッカーは乗っ取ったスマホを使って「携帯電話小額決済」を利用。被害者は1~2カ月後、キャリアから届いた本当の明細を見て詐欺にあったことに気付くというパターンである。


 携帯電話小額決済は、オンラインゲームサイトやデジタルコンテンツのように小額商品を決済するための決済方法だ。Webの決済画面に携帯電話番号と住民登録番号を入力し、携帯電話にSMSで送られてくる6桁の認証数字をもう一度Web画面に入力する。最大30万ウォン(約2万7000円)まで決済可能で、決済金額は携帯電話料金に合算請求される。


 ハッカーは住民登録番号と携帯電話番号を手に入れてからハッキングするために悪性コードを送信、スマホを乗っ取ってSMSを自分のスマホで受信するよう操作する。認証数字はハッカーのスマホに届くので、被害者はスマホが乗っ取られたことも、小額決済が行われていることも請求書が届くまで気付かない。ハッカーは被害者の電話番号と個人情報を利用して仮想マネーサイトで小額決済、その後、仮想マネーをポイント統合サイト経由で現金化する。


 この詐欺手法を「SMS」+「Phishing(フィッシング)」を合成して「smishing(スミッシング)」と呼ぶ。


 ポータルサイトのQ&A掲示板にはスマホsmishing詐欺被害の救済方法を問い合わせる書き込みが後を絶たず、SNSでも「やられた!」というつぶやきが絶えず書き込まれる。加入者数が最も多いSKテレコムの場合、2013年1月だけでsmishing被害の届出件数は16万件を超え、前月比4倍になった。


 スマホのsmishing詐欺が社会問題にまで発展する中、キャリアも動き出した。従来キャリアは、ユーザーが詐欺にあったとしても、実際に決済をした仮想マネー会社に問い合わせろというだけで、取り合うことはなかった。もちろん、個人情報と認証番号が合致していれば手続き上に問題がないとして請求を取り消すこともなかった。


 増える詐欺事件に、キャリアは、ユーザーから被害届があった小額決済に対しては請求を留保し、詐欺によるものなのかを確認してから決済を取り消すことにした。また、6桁の認証番号のうち3桁をユーザーがあからじめ登録しておくように制度を変えた。スマホを乗っ取ったハッカーが認証番号を受信しても、ユーザーが設定した3桁の数字が分からなければ小額決済はできない。smishing詐欺に使われたURLをスパム登録してアクセスできないように遮断する対策も講じている。









韓国警察庁が公開した、smishing詐欺に実際に使われたSMSの内容。キャリアのカスタマーセンターから送信した請求書のように電話番号まで偽装している。請求書だと思ってURLをクリックすると悪性コードに感染し、スマホを乗っ取られてしまう



 ところが、スマホ詐欺はsmishingだけではなかった。スパイアプリを使えば盗聴、位置追跡はもちろん、スマホでやっていること全てをハッカーが盗み見ることができて、そのスマホをハッカーが自由自在に遠隔操作できる。こうなると、自分のスマホが自分のものではなくなる。スマホからモバイルバンキングを利用する人も増えている中、バンキング用のIDと暗証番号もハッカーが盗み見してお金を引き出すことができるのだ。これも被害が発生するまで自分のスマホにスパイアプリが仕組まれていることに気付かない。


 警察庁サイバーテロ対応センターは、スマホ詐欺はAndroid OSのスマホがターゲットになっていると分析した。Androidアプリは「.apk」ファイルなので、ハッカーは「.apk」の中にスパイアプリを仕組んで人気有料アプリを無料でインストールできると宣伝してばら撒く。ファイル名で悪性コードなのか正常のアプリなのか区別がつかない。Google Playではなく、違法なルートで有料アプリを無料でインストールしようとするユーザーは悪性コードに感染する可能性が非常に高い。


 ユーザーがまず気を付けることは、Google Playからアプリをインストールする際、アプリの権限を確認して、例えばゲームアプリなのにカメラ・位置・連絡先・オーディオ・SMSなどをアプリ会社が制御できるよう過度な権限を求める場合は疑うことだ。知らない間にアプリが勝手にインストールされることがないよう、スマホのセキュリティ設定を強化することが重要になる。


 Android OSのスマホを狙った悪性コードの場合、日本のユーザーも安心してはいられない。スマートフォンを盗聴できるスパイアプリや悪性コード問題は、スマホが普及し始めた2010年から存在した。韓国では、「悪性コードの存在は知っていたけど、まさか自分が狙われるとは思っていなかった」という雰囲気である。日本でも被害が広がる前に気を付けてもらいたい。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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