主戦場がスマホに移った韓国でヤフー撤退の必然

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韓国のヤフーが2012年10月19日、12月31日付けでポータルサイト「Yahoo!Korea」を中断、韓国から撤退すると発表した。2013年からはYahoo!の韓国語サービスはなくなる。Eメールやブログなどは、利用中のIDそのままに英語のYahoo!サイトで利用できるようにする。この決定は米ヤフーのマリッサ・メイヤー新CEOが下したリストラ策の1つだそうだ。韓国支社の社員はどうなるのか、広告契約はどうなるのか、といったことは順次説明するという。

 1997年9月、韓国初のポータルサイトとしてオープンしたYahoo!Koreaは2000年まで人気絶頂のポータルだった。しかし2000年以降からDAUM、EMPAS、NAVERなど韓国産ポータルサイトが続々登場してからその地位が揺らぎ始めた。アバターブーム、同好会サイトブーム、動画投稿ブームなど時代の流れをすぐ反映する韓国産ポータルとは違い、米本社の許可を得てから動くYahoo!Koreaはいつも一歩遅かった。














年末でなくなるYahoo!Korea



 2012年8月末時点での韓国ポータルサイトのシェア(コリアンクリック調べ)は、NAVER76.6%、DAUM15.1%、NATE3.9%、Google2.7%、Yahoo1.1%とNAVERが圧倒的な差で1位となっている。ポータルのモバイルサイトとアプリのシェアを見ると、NAVER73.9%、DAUM15.5%、Google10.1%、NATE0.5%と、ここでもNAVERが圧倒的で、Yahoo!はカウントされないほどである。


 Yahoo!KoreaのシェアがGoogleよりも低いのは、NAVERの壁を越えられなかったこと以上に、スマートフォン向けサービスの対応が大幅に遅れたことが理由ではないかという分析がある。Googleも韓国ではシェアが2%にならないほど人気がなかったが、Android搭載スマートフォンが普及してからは自然と伸びた。スマホで検索すると、Googleが標準搭載されているからだ。


 韓国のポータルサイトを見ると、NAVERのシェアは年々大きくなるばかりである。モバイルでもNAVERが圧倒的なシェアを持つことから、ほかの会社がポータルサイトの運営をやめてしまうケースが増えている。韓国の最大手キャリアKTも、モバイルサイトの対応に遅れたことからシェアが急減したポータルサイト「Paran」のサービスを2012年7月に終了した。SKテレコムの子会社が運営するシェア3位のNATEも、シェアが減り続けていることからリストラに着手した。これからはNAVER、DAUM、Googleの対決になりそうだ。


 NAVERはグーグルのデジタルコンテンツ配信サービス「Google Play」に対抗して、マンガや動画などのコンテンツを販売する「Nストア」、独自のアプリを販売する「NAVER APPストア」に力を入れる。DAUMはLGU+のようにデジタルTVにセットトップボックスを付けるだけでスマートTVのように使える「TV+」に力を入れる。

韓国では、ソフトバンクが運営するYahoo!Japanは日本でのシェアが高く韓国のYahoo!とは全然違うことが話題になった。なぜならばYahoo!Koreaの撤退が発表されたその日に、韓国のスマホ向けアプリ人気ナンバーワンの「カカオトーク」を運営するカカオが日本のヤフーと5対5で合弁し、日本でカカオジャパンを設立したと発表したからだ。


 韓国ではポータルサイトの最大のライバルは、ほかのポータルサイトではなくカカオトークとまで言われている。カカオのソーシャルゲームや、FacebookのようなSNSサービス「Kakao Story」が大人気だからだ。今ではポータルサイトの利用時間よりもカカオのメッセンジャーやゲームを利用する時間の方が長い。そのカカオが日本に進出するために選んだパートナーがYahoo!Japanだという報道に、韓国ではなぜYahoo!なのか疑問だとする声もあった。韓国とは違って日本ではYahoo!がNAVERのように人気のあるポータルサイトだと知って、多くの人が逆に驚いている。


 Yahoo!Japanとカカオとプラットフォームシェアにより、Yahoo!Japanはスマホ向けサービスを強化、カカオは日本人ユーザーを獲得できるチャンスを得た。2社の合弁は、日本で人気の高い「LINE」に対抗するためとも言われる。


 インターネットの入り口はポータルサイト、朝起きたらまずそこのニュースを読む、というライフスタイルはもう昔話で、今ではTwitterやLINE、カカオトークのようなアプリを確認することから1日が始まるほどだ。Yahoo!Koreaの撤退をきっかけに、ポータルの必要性まで議論になっている。


 スマホ時代を迎え、ポータルも過去のサービスになってしまうのだろうか。カカオジャパンはもちろん、日本のポータルサイトの動きも気になるところだ。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年10月25日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121025/1068223/

キャリアとして世界初、LGU+がGoogle TVを開始

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キャリアのLGU+がGoogle TVを利用できるサービス「U+TV G」を始めた。これは、2009年から同社の提供する「デジタルIPTV」サービスに、「スマートセットトップボックス」を追加したもの。米グーグルがメーカーではなくキャリアと手を組んでGoogle TVのサービスを提供するのは、初めてである。

 インターネットにつながるデジタルテレビにこのスマートセットトップボックスを追加すると、インターネット検索、VODといった既存のIPTV機能に追加してグーグルが提供するGoogle Playからゲームや動画、学習アプリなどをテレビから利用できる。セットトップボックスは1.2GHzのデュアルコアCPU、Google TV最新バージョンを搭載、タッチパッド付きリモコンも提供する。


 利用できるコンテンツは地上波放送再放送と119のケーブルTVチャンネルに加え、5万件あまりのVOD、グーグルのサービスとなる。月々9900ウォン(約700円)、ブロードバンドネットワーク料金とセットだと月3万ウォン(約2100円)で利用できる。









「U+TV G」でGoogle TVが使えるようになる



 サムスン電子やLG電子のスマートTVは普通のテレビに比べ3倍ほど高い。47型のスマートTVが14万円~15万円ほどする。それでもこの1年間で半額近く安くなってこの値段である。LGU+のスマートセットトップボックスを使えば、テレビを買い替えなくても安い費用でスマートTVが自慢する豊富なゲーム、学習関連アプリやフィットネスアプリを自宅のテレビから利用できる。


 「スマートTV」と「IPTV」はどちらもインターネットにつながるテレビである。しかしスマートTVはメーカーが、IPTVはキャリアがサービスを提供する。そのため2012年の始めには、サムスン電子のスマートTVが自社のネットワークトラフィックを大量に発生させているとしてキャリアのKTが「ネットワークのフリーライドはやめろ」と訴訟を起こしたこともある。サムスン電子はネットワーク中立性を盾に反撃した。政府機関の仲裁で和解したが、キャリアのスマートTVに対する対抗意識は依然と強く残っているようだ。


LGU+のスマートセットトップボックスにはNFCタグが付いていて、スマートフォンやタブレットPCをかざすだけで、テレビの画面がスマートフォンに移動、同じ画面を観られる。逆にスマートフォンの画面をテレビで観たいときも端末をかざすだけ。複雑な切り替え操作はいらない。

 4台のスマートフォンまたはタブレットPCをつなげてそれぞれデジタルテレビの違うチャンネルを視聴することもできる。テレビは1台だけどスマートフォンは家族全員が持っている家庭が多いので、チャンネル争いすることなく観たいチャンネルを選べる。画像検索機能も強化した。家族のスマートフォンをセットトップボックスにかざすだけで、スマートフォン内の写真がセットトップボックスに移動し、テレビで写真を鑑賞できる。


 日本では肖像権の問題で考えられないかもしれないが、テレビ番組の場面をキャプチャーして自分のSNSに投稿して番組について語り合う機能も付いている。これらはAndroidスマートフォンでしか利用できないようになっている。


 韓国のキャリアはスマートフォンが普及してから「脱通信事業」をキーワードに、融合サービスに力を入れる。具体的にはヘルスケア、教育、アプリケーション開発の分野だ。LGU+のスマートセットトップボックスはスマートホーム、スマートメディアサービスの一環で、個人向けにはスマートフォンで家族みんなをつなげるとしてデジタルテレビとセットトップボックスを利用するライフスタイルを提案した。


 韓国では自分のスマートフォンばかり使ってテレビも見なくなった、家族の会話も減った、という家庭が多い。スマートセットトップボックスがあれば、家族で一緒にゲームをしたり、学習アプリを利用したり、写真を見たりとコミュニケーションするきっかけが増えるかもしれない。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年10月22日]


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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121022/1067742/

サムスン、Android搭載「Galaxyデジカメ」投入

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最近は携帯電話には800万画素以上のカメラが付いていて、デジカメなんて今さら持ち歩かないという人が多いのではないだろうか。韓国でも、記念撮影というとみんな一斉にスマホを取り出す。韓国でデジカメといえば、もうデジタル一眼になった。

 LG電子の「Optimus」スマホが1300万画素カメラ付きだというのに、サムスン電子はあえてスマホのようなデジカメで勝負しようとしている。韓国の主要キャリアSKテレコムとKT、米AT&Tから10月中に「Galaxyカメラ」が発売されるそうだ。韓国のキャリア代理店でデジカメを販売するのは初めてのことである。カメラの値段とデータ通信料金制度についてはまだ正式に発表してない。










サムスンが力を入れる「Galaxyカメラ」。OSはAndroid 4.1、1600万画素CMOSイメージセンサーを搭載する



 Galaxyカメラは、スマホのカメラより優れた画質で撮影し、カメラを使ってその場で編集、データ通信を使ってSNSに公開できる、というものである。Android 4.1を搭載して3Gデータ通信を利用できる1600万画素BSI(Back Side Illumination) CMOSイメージセンサー、光学21倍ズームのカメラ。AT&TではLTEも使える。既存のデジカメより大きな4.8型の液晶画面で撮った写真を再生して編集もできる。SNS以外にもAndroidアプリをインストールして使える。「クラウドバックアップ」機能があり、撮ってすぐ自分のクラウド(ネット上のファイル保存空間)に保存できる。メモリーカードが壊れた、無くした、といったトラブルを防止できるのはありがたい。撮った写真や動画をサムスン製のスマホやタブレットPCと簡単に共有できるシェアリング機能も付く。


 どこかで同じコンセプトのカメラを見たことがあるような……と思ったらニコンのCOOLPIX S800cと同じコンセプトではないか。同モデルもAndroid OSに1602万画素、3.5型のAMOLEDワイド画面を搭載する。専用アプリでスマートフォン側からカメラ内の写真や動画を選んで転送もできる。


 報道によると、Galaxyカメラは、サムスン電子がスマホと同じぐらい力を入れている主力商品だそう。2012年5月に同社の李健熙会長が「3年内に世界ナンバーワンのカメラを作れ」と指示して3カ月後に生まれたという。急ぎすぎたのだろうか。


ジェスチャー認識で自分撮りも集合写真も


 韓国ではGalaxyカメラよりも、サムスン電子の別のデジカメ「スマートカメラMV900F」の方が話題だ。








サムスン電子の別のデジカメ「スマートカメラMV900F」。ジェスチャー認識でカメラを動作させる機能が面白い



 Wi-Fiが使える1630万画素のスマートカメラは、スマホよりはきれいに、デジタル一眼よりは手軽に写真を撮りたいというニーズにぴったりのカメラである。3D写真と動画も撮影できて、180度回転するAMOLEDタッチスクリーンを使えば自分撮りもうまくできる。


 面白いのは、セルフタイマーよりも断然便利な動作認識機能である。カメラのレンズを自分に向けて机の上に置いて、180度回転する液晶を開いてセットする。手を動かす(手を右に回す、左に回す、上下に動かすといったジェスチャー)だけでカメラが動作認識してシャッターやズームを動かせるので、液晶を見て確認しながら団体写真も撮れる。一人はみ出て首から上がないとか、セルフタイマーだと10秒間同じポーズで立っているのが恥ずかしいとか、そういう経験のある人にはお薦めのカメラだ。女性向けに、写真を撮った後でメイクしたように肌をきれいに加工できる機能も持つ。こういう機能はスマホにはないので、1台欲しくなる。


 MV900Fは日本円で3万円前後なので、お手頃価格とは言い難い。とはいえ、写真を撮るのが好き、でも奮発して買ったデジタル一眼は結局重くて持ち歩かない、一眼買って1年以上経つのに未だ「これなんだっけ……」と未知の機能に戸惑う(私のような)人にはぴったりなのかもしれない。


 サムスン電子は「これからの時代は活字や音声ではなく、写真で自分を表現する視覚コミュニケーションの時代」なので、デジカメの需要はまだまだ大きいとみる。スマホとデジカメ、やっぱり両方持つべき?




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年10月12日]


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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121012/1066567/

付属のイヤホンが本体より人気? LGの最新スマホ「Optimus G」が話題

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2012年10月4日から、韓国中の代理店で販売が始まったLG電子のOptimus G。

 LG電子はOptimus Gを、「世界最高のスマートフォンを作るという覚悟で挑んだ野心作」といい、世界のスマートフォン市場で同社のシェアを大幅に伸ばせる、GALAXY Note2とiPhone 5に対抗できるスマホとして大々的に宣伝する。LG電子、LGディスプレイ、LG化学、LGイノテック(カメラ)といったLGグループの技術を集結した「怪物スマホ」であると、韓国のマスコミも紹介している。スマホ市場がアップルとサムスン電子の2強体制になりつつある中、LG電子の起死回生となるだろうか。








LG電子の「Optimus G」


 Optimus G は米クアルコムのSnapdragon S4 Pro クアッドコアプロセッサー、LTE/VoLTE対応、4.7型TrueHD IPS+ディスプレイを搭載する。OSはAndroid 4.0、RAMは2GB、カメラは1300万画素である。重さは145gととてもコンパクト。


 早速Optimus Gに乗り換えたユーザーの反応は上々で、1300万画素カメラと「Qスライド」という名前のユーザーインタフェースが好評である。


 Qスライドは画面を分割して使うマルチタスキングではなく、画面を半透明に重ねて2つの機能を同時に使えるようにした機能である。地上波DMB(韓国のワンセグ)機能もついており、例えばテレビを観ている途中にメールが届いても、テレビの再生画面の上に半透明でメールが表示され、そのままテキストを入力して送信できる。カメラを文字にかざすと64カ国語に翻訳してくれる「Qトランスレーター」も好評だ。


 しかし何よりも話題になったのは付属のイヤホン!


 「Quadbeat」という名前の付属イヤホンは、Optimus Gの本体が代理店で売り出される前から別売りを始めていた。LG電子サービスセンターに注文すると1万8000ウォン(約1260円)で買える。ゴールデンイヤーズという音響評価サイトがLG電子の依頼でQuadbeatを評価したところ、日本でも1万7000円ほどする高級イヤホンのロジクール「Ultimate Ears TripleFi 10」と肩を並べるほどで、実際の音を忠実に再現する、高音と低音のバランスがすばらしいと評価された。


 高音もきれいに聞こえる、耳に負担がない、と絶賛されたことからネット上で話題になり、9月27日にはQuadbeatが検索キーワード1位になった。


 Quadbeatは韓国のアイサウンドという会社が製造する。メタル素材に平べったいケーブルでデザインもかっこいい。アイサウンドの会社ホームページは9月27日からアクセスが殺到、トラフィック超過でホームページが開かない事態まで発生した。










Quadbeatイヤホン(写真はアイサウンド http://www.i-sound.co.kr/



 LG電子サービスセンターには「スマホはいらない、Quadbeatだけ欲しい」という問い合わせが相次いだ。Quadbeatの生産は追いつかず、10月中旬までイヤホンの別売りを中断している。


 LG電子はOptimus Gを10月中に日本でも発売する予定だと発表した。きれいな画質、ミニマルなデザイン、Qスライドもすごい。日本で販売される同モデルに付属するか不明だが、あればQuadbeatの音質もぜひチェックしてほしい。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年10月5日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121005/1065806/

韓国でも「Nexus 7」発売、シュミット会長が大パフォーマンス

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2012年9月28日、日本に続いて韓国でもNexus 7の予約販売が始まった。値段は29万9000ウォン。日本円にして約2万1000円である。アップルのiPadが約4万2000円、サムスンのGALAXY Tab 7.7 LTEが約5万6000円はするので、Nexus 7は韓国で販売されているタブレットの中で最も安い。




グーグルの自社ブランドのタブレット端末「Nexus 7」



 事前にNexus 7を体験したユーザーのレビューを見ると、「カメラは120万画素の低画質でしかも液晶のところだけの前面だからテレビ電話ぐらいしか使えない、写真撮影ができないのは嫌」、「340gなのでタブレットにしてはとても軽いが、サイズが曖昧でポケットには入らない」、「端末が頑丈には見えないので、ちょっとでもぶつけたら故障しそうなところが残念」などいろいろある。音声検索やGoogle Now、Google ムービーなどのコンテンツを利用するにはぴったりだけど、スマートフォンからも十分利用できるので、Nexus 7のメリットが分からないといった辛口評価が多い。


 ソウル市内で9月27日に行われたグーグルのNexus 7発売記者会見にはエリック・シュミット会長も参加した。






9月25日、日本で同端末を発表したエリック・シュミット会長(写真はPC Online撮影)



 シュミット会長は、「Nexus 7をきっかけに、スマートフォンだけでなくタブレットPCでもアンドロイドの発展を韓国がリードしてくれると期待している」、「特許を武器にほかのスマートフォン製造会社の首を絞めるのは、IT業界のエコシステムを破壊し、イノベーションを阻害する行為」であると迂回的にアップルを批判した。また、「Android陣営と協力を強化する。サムスン電子は最も重要なパートナーだ」とも話した。


 グーグルは、Nexus 7は映像コンテンツ、ゲーム、電子書籍といったエンターテインメント目的で利用するには最適の端末であると宣伝している。シュミット会長は、「Nexus 7が重要なのではなく、Nexus 7で何ができるのかが重要だ」と強調した。


 Nexus 7の端末性能はあまり良くない、というレビューを意識したのか、これからはコンテンツ利用を楽にするクラウド環境が重要で、グーグルがそれを提供している、Nexus 7があればクラウドを利用して楽にいろんなコンテンツサービスを利用できる、端末そのものの性能が重要ではない、という話だった。


 さらに、「2011年全世界で1人当たりグーグルアプリケーションをもっともたくさんダウンロードした国が韓国だった」、「ハードウエア、ソフトウエアの次にクラウド・イノベーションの時代がやってきた。このような変化をリードしているのは韓国だ」、「テクノロジーは我々の日常を変え、新しい文化を生み出している。その代表的な事例がGangnam Styleだ。Gangnam Styleが世界を征服したのはグーグルのYouTubeに載せたミュージックビデオがきっかけになった」とも話した。


 シュミット会長の話に登場した「Gangnam Style」は、今米国で大人気の韓国の歌手PSYのダンス曲である。YouTubeに載せた韓国語の新曲ミュージックビデオ「Gangnam Style」が2カ月あまりで再生回数2億8000万を突破した(YouTubeへのリンクはこちら)。韓国向けに制作されたミュージックビデオなのに、面白い、笑えると口コミで全世界に広がった。PSYは一躍有名スターになり、米国の高視聴率番組に次々出演した。「Gangnam Style」は韓国語の歌であるにもかかわらず9月26日にはビルボードHot 100チャート2位になった。


 記者会見の後、グーグルコリア本社ではシュミット会長とPSYが一緒にGangnam Styleに登場するマルチュム(韓国語で「馬ダンス」)を踊る場面もあった。YouTubeスターとグーグル会長のミーティングは韓国では大変な話題になった。YouTubeがなかったら、PSYがビルボードチャート2位になることもなかったからだ。


 この後シュミット会長はサムスン電子を訪問し、チェ・ジソン副会長とIT・モバイル担当シン・ジョンギュン社長と会談した。韓国のマスコミは、「米裁判所でサムスン電子がアップルとの訴訟で負けたとき、グーグルがこの訴訟とAndroidは関係がないと声明を出し、サムスン電子が気を悪くした。シュミット会長が直にサムスンとグーグルとのパートナシップを再確認し、なだめようと訪問したのではないか」と予測した。サムスン電子はアップルとの訴訟があってから、Windows 8の端末に力を入れるようなそぶりを見せたこともある。


 韓国ではNexus 7発売よりも、シュミット会長とサムスン電子との会談内容、シュミット会長のGangnam Style馬ダンスの方が注目されてしまったが、これをきっかけにGoogle Playやグーグルが提供する新しいアプリケーションの注目度も上がったのは確か。韓国でNexus 7はあまり売れなくても、グーグルの影響力は拡大しそうだ。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月28日]


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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120928/1064962/

国民的モバイルゲーム、「Anipang」しないと始まらない

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日本や中国でネットゲームといえば、韓国産オンラインゲームが多い。90年代から数多くオンラインゲームのヒット作を手掛ける韓国ゲーム会社だが、このごろは「大作」と呼ばれる、数万人が同時に接続してロールプレイングしながら敵を倒すといった“重たい”ゲームを作る会社がかなり減った。

 その理由はやっぱり「スマートフォン」。スマートフォンから暇つぶしに短時間で楽しめるゲームの方が圧倒的に売れる時代になったからだ。


 韓国のスマートフォンユーザーなら誰もが使っている国民的アプリ「カカオトーク」。世界で6000万人の登録者を最近記録した「LINE」と使い方は同じだ。お互いにカカオトークに加入していれば、IDではなく携帯電話番号を使って相手を検索し、無料で音声通話ができて、チャットのようにメッセージを送受信できる。このカカオトークのユーザーを対象にしたソーシャルネットワークゲームとして始まった「Anipang」というゲームが、サービス開始2カ月で1500万ダウンロードを突破、同時接続200万人という国民的モバイルゲームに成長して、今、すごいことになっている。






カカオトークユーザー向けのシンプルなゲーム「Anipang」



 Anipangの遊び方はとても簡単だ。動物の絵柄を動かして同じ絵柄を左右上下に3つそろえて消す。60秒の間に誰が最もたくさん絵柄を消して高得点をマークするかの勝負なのだが、どう考えてもどこかで見たことのあるゲーム。昔ゲームセンターやPCゲームで大流行した「Hexa」というゲームにそっくりではないか。絵柄が宝石から動物になっただけでゲームのルールは同じ。新しくもなんともないゲームに、なぜ1500万人もの人が夢中になっているのだろう。


韓国のマスコミが分析したところによると、その答えは「競争」にあるそうだ。60秒という短い時間でできる勝負なので、とても手軽に楽しめる。また、カカオトークのアプリ内に友達登録しておいた人の得点順位が表示されるので、知らないユーザーと競争して何位になったのか競争するより楽しく、友達同士でちょっとした会話のネタにもなるところがいいそうだ。






Anipangをプレイしているところ



 もう一つ、「ハート」という仕組みがある。Anipangはゲームをするために「ハート」が必要である。


 Anipangは、ハート1個で1回プレイできる。ハートは8分ごとに1個もらえる。8分も待てない!という人は、ハートを現金で購入する。1000ウォン(約70円)で11個もらえる。無料でプレイしたいなら、友達に1日にハート1個を無料でプレゼントできる機能を使う。友達に1個ハートを送信し、その友達から1個送ってもらうのがオーソドックスなやり方。例えば、10人の友達とハートを送って、自分も10個もらう。さらに、友達をAnipangに招待するメッセージを送信するとハートが1個もらえる。こうやってみんなAnipangの世界へ導かれていく。Anipangの中でユーザーが送り合うハートの数は、なんと1日1億個なのだとか!



ゲームをプレイするために家族や友達同士で「ハート」を送りあう中で、いつもより会話の頻度が増す、とAnipang側は宣伝していた。40~50代の間でもAnipangは大人気で、その理由は、ゲームが面白いからというよりは、子どもと一緒に遊ぶためなのだとか。韓国は共働きの両親が多いので、会社にいながら子どもにハートを送ってあげたり、誰が点数が高いか競い合ったりする中で会話が生まれ、子どもともっと仲良くなれた気がするというママとパパがけっこう多かった。


 しかし、ハートをめぐっては、親切すぎて迷惑になるケースもある。友達がAnipangプレイしたいのにハートがなくて困っているのではないかと思って、友達登録している全員にハートを毎日送る人がいる。私の場合、Anipangをあまり頻繁にしないのでそんなにハートはいらないのに、毎日80人ぐらいの人から「○○さんがハートを送りました。アプリにおつなぎしますか?」、「○○さんがあなたをAnipangに招待しています。アプリにおつなぎしますか?」のメッセージが届いていた。メッセージが来た!とスマホを見ると「ハート」、あ、なんか届いたと画面を見るとまた「ハート」……。いいかげんにせい! と暴れたくなる。私のような人が結構いたみたいで、Anipang側は1日のハート発送件数を50人までに制限した。


 韓国のゲーム会社の間では、「特命! とにかくカカオトークのプラットフォームに乗る!」が合言葉になっているのだとか。6000万人近いユーザーをかかえたカカオトークのプラットフォームの中でゲームを提供すれば、宣伝費をたくさん使わなくても自然にユーザーを獲得できる。一方では、「ゲーム会社がみんなカカオトークで売れそうなシンプルなゲームばかり作るので、このままではゲーム業界が発展しない」と心配する声もある。


 Anipangのようなソーシャルネットワークゲームの人気は続くのか、それともまたすぐ国民的人気の何かが出てくるのだろうか。熱しやすくて冷めやすいのが韓国人なので、アプリのトレンドに追いつくのも大変だ。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月21日]

-Original colum
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120921/1064042/

85%引き! GALAXYの“売り尽くし”に韓国中が大騒ぎ

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2012年9月10日~13日、韓国ではサムスン電子の最新スマートフォン「GALAXY SIII LTE」が85%ほど値引きされた破格の値段で販売され、大騒ぎになった。出荷価格110万ウォン(約7万7000円)の端末を17万ウォン(約1万2000円)で販売したのだ。

 これはキャリアのKTが始めたもので、ほかのキャリアを利用しているユーザーがKTにナンバーポータビリティで乗り換えたときだけ適用されるセール価格。SKテレコムもKTにユーザーを取られないようGALAXY SIII LTEを同じ値段で販売した。このチャンスを逃すまいとナンバーポータビリティで同機を申し込む人が殺到した。キャリアのデータを見ると、9月10日と11日の2日だけで約20万人がGALAXY SIII LTEを購入した。






GALAXY SIII LTE



 この破格の販売は、キャリアの補助金が増えたからで、サムスン電子の端末価格には変動がないという。LTE加入者競争が激化していることから、KTとSKテレコムが端末購入補助金を払ってでも、2012年末の目標値を達成するためにユーザーを確保しようとしたのだ。


 韓国の携帯電話加入者数は7月末時点で約5400万人である。人口が5000万人なので新規加入の需要はほぼなく、キャリア間でユーザーを奪い合うしかない状況である。ほかのキャリアからユーザーを奪うには、端末を安く買えるように補助金を増やすのが一番!ということで補助金競争はなくなっていない(関連記事)。


 通信政策を担当する省庁の放送通信委員会は、キャリアの端末購入補助金や過剰なマーケティング競争を規制している。2010年からキャリアは年間売り上げの22%を超えてマーケティング費用を使ってはならないと定めたが、キャリア側は、摘発され課徴金を払ってでも補助金を支払っている。キャリアのプロモーションを利用して安く端末を買っては中古市場で高く売る「フォンテク族」(「財テク」のように携帯電話端末中古取引の差額でもうける人たち)までいるほどだ。


 GALAXY SIII LTEの32GBモデルの価格は8月まで70万ウォン(約4万9000円)だったため、数日違いで3万7000円も損をしたユーザーが怒るのは当たり前。Twitterでは「先にGALAXY SIIIを購入したユーザーの端末価格を補助すべき」だとKTやSKテレコムに怒りをぶつけるつぶやきが後を絶たない。


サムスン電子側は否定しているが、キャリアの代理店ではGALAXY SIII LTEは今回の売り尽くしセールを最後に生産が終了するとユーザーに説明している。32GBの機種が足りなくて、本来は海外輸出用に製造された16GBモデルを3万ウォン安い14万ウォン(約9800円)で販売している代理店もあるという。


 韓国ではiPhone 5の発売は9月にはない模様である。このことから、韓国のマスコミは「サムスン電子がiPhone 5の発売前にGALAXY SIIIの在庫を売り払って、新しくアップルに対抗できる新機種を発売しようとしているのではないか」、「GALAXY SIIIよりGALAXY Note2を戦略端末として後押ししたいようだ」と分析する。サムスン電子はGALAXY SIIIの64GBモデルも発売する予定だったが、これはお蔵入りとなりそうだ。


 結局今回の売り尽くしセールは、キャリアのLTE加入者確保とサムスンのiPhone 5対策在庫処分のタイミングが重なり、破格な値段で販売できた。一度値段が下がったGALAXY SIIIを元の値段で買いたがるユーザーはないので、生産を終了するしかないという見方もある。


 生産終了の報道に、GALAXY SIIIを安く買えたと喜んでいたユーザーも、「最新機種を安く買えたと思ったら在庫処分だったなんて」、「生産終了というのは、端末に不具合があっても交換してもらえないのでは? アフターサービスはどうなるの?」とコメントを残し、がっかりした様子だった。


 それにGALAXY SIIIを使っていないユーザーも怒った。「キャリアがサムスン電子のスマートフォンだけに補助金を出しているのでほかのメーカーの端末は安くならない」、「結局みんなサムスン電子のスマートフォンを使うしかない」、という不満を記事のコメント欄に書き込む人も増えている。


 放送通信委員会はナンバーポータビリティを利用するときだけもらえる端末購入補助金は減らし、加入者がまんべんなく得をするように料金を割引するようキャリアに要求しているが、うまくいかない。同委員会の調査によると、2012年5月から7月までたった3カ月間でキャリア3社が支払った端末補助金は2兆ウォン(約1400億円)にのぼる。


 情報に敏感な学生やビジネスパーソンは補助金を狙って常に安い料金で機種変更できるからいいが、これは結局、キャリアが、情報にうといユーザーから高い料金をもらい、ほかのユーザーを補助しているようなものなのでいい気分はしない。別に私がGALAXY SIIIを買い逃したからそう言っているわけではない。でもやっぱり悔しい!






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月14日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120914/1063386/

サムスンが「ATIV」シリーズを初披露、Windows 8への関心高まる

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2012年8月31日から9月5日までベルリンで開催した家電展示会「IFA」で注目を浴びたのは、スマートフォンとタブレットPC、Windows 8のノートパソコン、ウルトラブックといった「スマート」デバイスだった。

 サムスン電子は「Smarter Life, Now」、LGは「ABOVE AND BEYOND」をテーマに参加。同社は韓国だけでなく世界各国のブロガー記者もベルリンに招待し、同社の展示内容を取材するようにサポートした。韓国の熱血ブロガー達が現地で一日数十件もIFAの展示内容を写真と動画でポストしてくれたおかげで、IFA会場にいるかのようにリアルタイムで展示会を楽しめた。








混み合うサムスンのブース



 中でも韓国で話題だったのは、サムスン電子の「GALAXY Note 2」(5.5型の大画面スマートフォン)と「GALAXY Note 10.1」(タブレットPC、前々回のコラムで紹介)、GALAXYカメラ(撮ってすぐ編集してネットに送信できるスマートカメラ)、初めて公開したWindows 8のノートパソコンだった。LGはウルトラブックと3Dディスプレイが話題だった。



IFAをきっかけに一気にWindows 8への関心が高まる


 公開されたサムスンのWindows 8搭載端末は、11.6型のコンバーチブルPC「ATIV Smart PC Pro」と「ATIV Smart PC」、10.1型のタブレットPC「ATIV Tab」、4.8型の800万画素カメラ付きスマートフォン「ATIV S」の4種類である。ATIV Sは展示会前のイベントで公開しただけで、展示会場では公開しなかった。









IFAで初公開となったサムスン電子のWindows 8スマートフォンとノートパソコン(「ATIV」シリーズ)










ATIV Smart PC Pro。ブロガー記者もプロの記者も、起動が速い、軽い、ディスプレイがきれい、とほめちぎっていた



 「ATIV」という前は、「Life」という意味のラテン語「VITA」を逆さにした。あなたのモバイルライフをより豊かにします、という意味を込めたというが、ドイツでも韓国でもGALAXYに比べて発音しにくい、インパクトがないと評判がよろしくない。


 コンバーチブルPCはタブレットPCにキーボードを装着するような形で、タブレットのようにも、ノートパソコンのようにも使える。タブレットPCはネット検索や動画を見たりするのは便利だが、仕事用のファイル作成には向いていない。それを補完するコンバーチブルPCは、カフェにノートパソコンを持ち込んでレポートを書いたり、仕事をしたりする人が増えている韓国では需要が高いと見込まれる。


 サムスン電子はATIVシリーズにGALAXYスマートフォンで人気のアプリを搭載することで、スマートフォン、タブレットPC、ノートパソコンでデータを共有して、より便利にエンターテインメントも仕事もできるようにサポートする計画だという。サムスンのWindows 8搭載端末は全て発売日が未定であるが、Windows 8の発売日が10月26日に決まったので、11月には発売されるのではないかとTwitterやブログなどで期待が高まっている。


 公開されたWindows 8搭載端末について、韓国のマスコミはほとんどが、「サムスンがアップルとの訴訟に負けたことでグーグルと距離を置こうとしている。そのためにWindows 8に力を入れている。特にサムスンのWindow 8スマートフォンは期待する価値あり」と報道した。


 サムスン電子だけでなくソニーと東芝のWindows 8コンバーチブルPCに興味を持つネットユーザーも多い。「高性能なのに安いノートパソコン」として東芝を推薦するショップが韓国では多いせいか、ソウル市内の大型カフェでノートパソコンを使っている人を見ると、サムスン製品の次に多いのが東芝だ。



スマートフォンの“ディスプレイ”になるコンパクトなノート


 通信事業者のKTもIFAに参加し、「スパイダーラップトップ」という面白い名前のノートパソコンを展示した。スマートフォンがCPUの役割をするノートパソコンで、スマートフォンとノートパソコンをケーブルでつなげると起動する。つまりスマートフォンのための持ち運べる“ディスプレイ”というわけだが、11型の大画面に8000mAのバッテリーがついているので、スマートフォンの充電池の役割もする。


 CPUもメモリーもないノートパソコンなので値段も安く軽い。定価は29万7000ウォン(約2万1000円)。今後もっと安いスパイダーラップトップも販売するという。KTのクラウドコンピューティングサービスである「Uクラウド」を利用すれば、各種文書の編集もできるので、いつでもどこでも仕事ができる。KT側は、どんなスマートフォンとつなげてもすぐ使えるのがスパイダーラップトップなので、今後世界中のスマートフォンメーカーと協力したくてIFAに参加したとコメントした。KTは中小企業と提携して独自のタブレットPCを発売したこともある。











通信事業者のKTもIFAに参加し、「スパイダーラップトップ」という名前のノートパソコンを展示した。スマートフォンにつなげると起動する持ち運びディスプレイ+キーボードのようなもの





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月07日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120907/1062402/

サムスンとアップルの判決、韓国での反応は?

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サムスン電子とアップルの訴訟は、2011年4月から米国、韓国、日本、ドイツ、イタリア、オランダ、英国、フランス、オーストラリアで行われてきた。

 米カリフォルニア州サンノゼの連邦地方裁判所は2012年8月24日(現地時間)、サムスン電子による特許侵害行為があったとし、10億5000万ドルをアップルに支払うよう命じた。


 同日、ソウル中央裁判所の判決では、アップルがサムスン電子のデータ分割伝送に関する通信特許を侵害したというサムスン電子側の主張を認めた。サムスン電子のスマートフォンGALAXYがiPhoneのデザイン特許を侵害したというアップルの主張に対しては、ユーザーインタフェースの一部を侵害したとした。具体的には、ユーザーがタッチして画面を左右上下に動かすとき、メイン画面の外にはみ出ると何もないスペースを見せて自動的にメイン画面に引き戻す「bound back」というユーザーインタフェースだ。


 ソウル中央裁判所の判決は、アップルの方がサムスン電子の特許をより侵害しているという結果となった。そのため、アップルのiPhone 3GSとiPhone 4、サムスン電子のGALAXY SIIを販売禁止にしたが、どれも旧モデルなので、両社の売り上げに影響を与えることはないという。
 







アップルとの訴訟でデザインやUIをコピーしたとして問題になったサムスンGALAXY S。アップルが販売禁止を要請した同機は2010年6月に発売され、7カ月で販売台数1000万台を突破した



 ソウルの判決が下されてまもなく、カリフォルニアの地裁は、サムスン電子の完敗ともいえる判決を言い渡した。これには「驚き!」という反応が多かった。特許訴訟の場合、完全にどちらかが有利な結果になることはほとんどなかったからだ。


 韓国のマスコミは、「米の貿易保護主義によってサムスンが完敗した」、「サムスンがアップルに払う賠償金分を製品価格に上乗せしてスマートフォンが値上がりするのではないか」、「スマートフォン輸出は韓国の経済を支える重要な産業なので、これはサムスンだけの問題ではない」と騒いでいる。


 一般の人の反応はどうか。


 韓国のポータルサイトのニュースコメント欄に書き込まれた意見を見ると、「ひじは内側に曲がる(韓国のことわざで、良し悪しに関係なく家族の味方になること)から、韓国の判決はサムスンが、米の判決ではアップルが有利になるに決まっている」と冷静なものから、「一方的にアップルの肩を持つ評決なのでは」、「アップルに市場を独占させたい判決にしかみえない」と疑問を呈する意見もある。


 一方、「サムスンはアップルのデザインやインタフェースを真似たことを認めて、特許使用料を払うか新しく作り直すべき」、「GALAXYは箱もアクセサリーもCMも全部iPhoneにそっくり。偶然似てしまったのではではなく、わざとコピーしているとしか思えない」とサムスン電子に批判的な意見も目立った。



 サムスン電子の営業利益は6割ほどがスマートフォンから生まれている。世界市場におけるスマートフォンの市場シェアは、2012年6月時点でサムスン電子が32.3%、アップルが17.2%である。この2年ほどでサムスンがスマートフォンの市場シェアを大きく伸ばし、iOSのiPhoneか、それともAndroidのGALAXYか、という時代になっていた。


 サムスン電子の株価は米国の判決が報道されてから7.8%ほど下落したが、8月28日にはまた値上がり始めた。米での訴訟は旧機種を対象にしているので、これからの売り上げに大きな打撃はないと分析されている。しかし影響はないとしても、サムスンの企業イメージは打撃を受けたに違いない。


 報道によると、サムスン電子は米国での判決に対して、「市場でイノベーションを通じて正々堂々と競争せず、法廷で特許という手段を利用して競合者を抑えようとした会社が消費者から認められ成長を持続した事例は歴史的にない」、「今回の評決は消費者の選択権を制限し、業界のイノベーションを遮ることになる」といったコメントをしている。


 アップルが狙っているのはグーグルで、サムスン電子がAndroidスマートフォンを代表して訴訟のターゲットになったという見方もある。いずれにせよ、これをきっかけにサムスン電子は自ら明かしたように、「イノベーション」してより使いやすい、独自のスマートフォンを発売してほしいものだ。


 iPhoneユーザーを代弁するコメントを見かけたので、最後に紹介する。「裁判のせいで、韓国だけiPhone 5の発売が遅れるようなことがあったらサムスン恨む」




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月31日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120830/1061504/

【韓国教育事情(後篇)】気軽に英語留学、日本人も学ぶ人気の英語村

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 前篇では加熱する韓国の英語教育熱について紹介したが、後篇では韓国に数ある英語村の中でも人気の高い、パジュ英語村とスユ英語村を紹介する。パジュ英語村は、韓国の英語村の中でもっとも規模が大きい。京畿道(キョンギド)という、日本でいうと千葉県や埼玉県のように首都の隣に位置する自治体が運営する英語村だ。スユ英語村は、ソウル市がYBMという韓国最大手の英語教育会社に運営を委託している。

◆欧米にいるかのような雰囲気が人気のパジュ英語村

 ソウルから北へ1時間ほど離れたパジュ英語村は、広い敷地にヨーロッパの町並みを再現した、きれいなテーマパークのような景観だ。ファッション雑誌やウェディング撮影、テレビ番組のロケ地としてもよく使われているという。取材した日も、子どもにかわいいワンピースを着せて写真撮影に没頭しているママが何人もいた。英語を勉強するついでに、きれいな写真も残せるというわけだ。

 パジュ英語村は2006年3月にオープンした、一度に500人が泊まれる宿泊施設を備えた英語体験テーマパークだ。英語教育(Education)・体験(Experience)・遊び(Entertainment)を提供することを目的としている。ネイティブスピーカーの先生は教育学を専攻した人ばかりで、慎重に採用しているという。

 英語村の中では英語しか使ってはならない、というルールがある。チケットを買って村に入場するところから「入国審査」といって英語でのやりとりが始まる。入り口には入国ゲートがあり、空港のイミグレーション風になっている。ここで子どもたちは英語の名前を選ぶ。英語村の中では英語を使い、名前も英語式の名前で呼び合う。

 建物はそれぞれテーマがあり、銀行、旅行代理店、飛行機の中を再現した教室や、地理、科学、工作、クッキングなどを学べる教室もある。キッザニアの英語版という感じで、銀行や国際輸送物流会社などの企業がスポンサーとなり、英語村の中にミニチュアの体験部屋を作る。

 プログラムは幼稚園児、小学生、中学生が主な対象である。教室で世界地図を見ながら首都の名前を言い当てるクイズをやっていた子どもたちは、競争がヒートアップすると、大声で英語を話していた。最初は恥ずかしくて無口だった子どもたちも、先生には英語しか通じないという環境におかれると、自然に英語で話すようになる。ホストファミリーの家に招かれたという設定で、普通のアメリカ人家庭のリビングを再現し、そこでお呼ばれした際の挨拶法や欧米のマナーを学ぶ教室もあった。

 パジュ英語村のすぐ近くには、ロッテパジュアウトレットがある。有名ブランド品を50〜70%ディスカウント販売しているアウトレットで、ソウルのおしゃれなママなら誰もが知っている名所である。

 パジュ英語村を案内してくれた担当者によると、子どもを英語村の一日プログラムに任せて、ママたちはアウトレットでショッピングで楽しいひと時を送ってから子どもを迎えにくることもよくあるという。英語村では、子どもを英語のレベルに応じて10人前後にグループ分けし、担当先生が引率して英語でクッキングしたり、科学の実験をしたり、工作をしたりと、さまざまなプログラムを体験する。

 ネイティブスピーカーの先生だけでも70人ほどいるので、子どもたちは常に先生の目が届くところにいる。保護者が一緒にいなくても大丈夫だ。

 最近は、日本やロシアの学校から英語を学びにパジュ英語村にやってくる小・中学生が増えているという。学校と契約して、修学旅行のように団体で英語村に入所、2泊3日ほどみっちり英語しか通じない環境を体験する。アメリカやヨーロッパに行くより、近くて費用も安い。英語村の先生は、外国人講師と英語圏の国で生まれ育った韓国人講師がいる。また日本人とロシア人、日本人と韓国人の組合せでグループを作り、2泊3日一緒にプログラムを体験し、一緒に宿題もしなければならないので、嫌でも英語を話すしかない。

 取材した日は、日本人とロシア人の小学生が3人ずつ、6人で一つのグループになり、一緒にテーマを決めて「映像作品を作る」という宿題をしていた。プログラム最後の日に、上映会をするのだという。子どもたちが使える映像編集室まであり、本格的だった。

◆自然の中で学べるプログラムが子どもに人気のスユ英語村

 スユ英語村もパジュと同じく、2006年にオープンした。数ある英語村の中でも充実したプログラムで、ママたちに大人気だ。スユ英語村の中には病院、銀行、ホテル、飛行機、空港、一般家庭のリビングルームなどを再現した場所がある。

 ソウル市内にありながら国立公園のある山麓にあり、自然環境を活かした大きな野外プールと芝生の運動場があるのが特徴だ。ほかの英語村にはない、自然の中で体を動かしながら英語を学べるプログラムが多く、子どもたちの人気も集めている。ソウル市が50年の歴史をもつ韓国最大手英語教育会社YBMに委託運営しているので、子どものレベルをより細かく分けて、英語体験に留まらず、本格的にみっちり英語を教えてくれるところも人気の理由だ。

 スユ英語村のよいところは、英語村で学んで英語を忘れないように、インターネット事後管理プログラムを提供している点だ。夏休みと冬休みに英語村の長期プログラムを利用し、学期中はYBMのオンライン英語学習を利用して、英語を忘れないようにする。

 パジュもスユも、英語村は自治体が所有する教育施設のため、他の英語塾より費用が安いという特長もある。2泊3日体験・宿泊・食事込みで、19,5000ウォン(日本円約14,000円)の破格的な安さで利用できる。夏休みと冬休みには、9泊10日の入所プログラムもある。体験、宿泊、食事込みで65万ウォン(日本円で約4万6,000円)と安い費用で10日間英語漬けの日々を送ることが可能だ。

 近隣住民を対象にした特別割引もある。地域の小中高校と提携して、年に数回、学校の児童・生徒全員が英語村に入所する団体プログラムも運営している。低所得層の子どもは無料でプログラムに参加できる。お金がないと英語教育ができない、という教育の不平等をなくすためである。海外から参加した子どもも特別料金で参加できるという。

 パジュ英語村の場合、1日プログラムであれば飛び込みで当日申し込みでもOKだという。日本語が通じない、英語しか通じない英語村だからこそ、子どもにもよい刺激になるのではないだろうか。韓国を旅行する際に、子どもは子ども同士で英語で話す楽しさを体験し、ママはアウトレットでショッピングを楽しむという新しいスタイルもお勧めだ。



 
【パジュ英語村】シティホールと名付けられた建物で、オフィスや講堂などがある


 
【パジュ英語村】テーマごとに教室が数えきれないほどあり、さまざまな場所やシチュエーションごとに英語でどのように話せばよいのかを学ぶ



 
【パジュ英語村】海の生物と環境問題について話し合う子どもたち


 
【パジュ英語村】世界地図を前に各国の特徴を英語で説明し、首都を言い当てるクイズをしている子どもたち



 
【スユ英語村】ヨーロッパ風の建物が並ぶ


 
【スユ英語村】後ろに見えるのは子どもたちが泊まる寮、6人1部屋で共同生活する



 
【スユ英語村】入所初日、まずはレベルテストを行い10人前後にグループを分ける



 
【スユ英語村】国立公園から近く野外プールや芝生の運動場でスポーツをしながら英語を学ぶプログラムの人気が高い






《趙 章恩》




2012年10月24日
original link
http://resemom.jp/article/2012/10/24/10483.html