【韓国教育事情(前篇)】小1から週15時間英語で授業を受ける名門私立小

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【パジュ英語村】テーマごとに教室が数えきれないほどあり、さまざまな場所やシチュエーションごとに英語でどのように話せばよいのかを学ぶ


 
【パジュ英語村】海の生物と環境問題について話し合う子どもたち



 
【スユ英語村】入所初日、まずはレベルテストを行い10人前後にグループを分ける


 
【スユ英語村】後ろに見えるのは子どもたちが泊まる寮、6人1部屋で共同生活する



 毎日、学校が終わると塾3〜4か所をはしごして、やっと家に帰る韓国の小学生。公園で遊ぶ時間もない韓国の子どもたちは、友たちとおしゃべりしたくて塾に行くという。そんな韓国の英語教育熱が非常に高いことは、よく日本でも報道されている。

 韓国では、私立小学校の場合は1年生から、公立小学校では3年生から正規科目として英語を学んでいる。

 私立小学校では、1年から英語ネイティブの先生が担任、韓国人の先生が副担任になり、全科目を英語で教える英語没入教育(immersion教育)を実施している学校がある。英語没入教育とは文字通り、学校の中で英語を使わせることで英語が自然と身につくようにし、子どもを韓国語と英語のバイリンガルに育てる教育法のことをいう。

◆バイリンガル教育で有名な名門私立小

 バイリンガル教育で有名なのがソウル市にある名門私立のヨンフン小学校で、入試競争率は5倍ほどである。私立の中でも圧倒的に授業料が高く、課外活動を含めると年間100万円以上は軽くかかる。入試も厳しく、まず保護者を対象にした学校説明会とツアーを実施し、そこで保護者の面接を行う。2次審査で保護者と子どもと一緒に面接をする。学校側は、子どもを学校に任せっきりにしないか、保護者が常に子どもの勉強を見てあげられるか、学校の行事にも積極的に参加できるか、授業料はきちんと払えるか念を押す。

 ヨンフン小学校では、1年生が週15時間英語で授業を受ける。教科書も韓国の教科書に追加して、米国の小学校で使っているものを輸入して使う。他の私立小学校も、数学、社会、科学は米国の教科書を使って米国の小学校の教科課程に沿って英語で教えるところがほとんど。英語教育を3年生から行う公立小学校の児童と、私立小学校の児童とを比べると、英語能力に大きな差が開くことになる。そのため、公立小学校に通う子どもたちは1年生から英語塾に通い、私立小学校の子どもたちに負けないように頑張っている。

◆生まれる前から予約が必要な英語保育園・幼稚園

 私立小学校のバイリンガル教育が人気を集めると、英語しか使わない「英語保育園」や「英語幼稚園」も大人気で、生まれる前から予約しないと入園できないほど繁盛している。韓国の文部科学省にあたる教育科学部の調査によると、英語の語学研修のために海外に出国する人は年間2万5,000人を突破した(2010年末時点)。語学研修のために出国する人は大学生が多いが、小学生や中学生の割合もどんどん増えている。お母さんと子どもは海外留学し、お父さんは韓国で働いて仕送りを続ける家族は、もう珍しくもなんともない。韓国では、子どもの英語教育のための費用は惜しまない。

◆成長する子ども向け英語塾と人気の英語村

 韓国の国民銀行経営研究所が調査した「外国語学校の売上」を見ると、幼児・小中高校生を対象にした英語塾の売上は2006年の1,375億ウォン(約98億円)から2011年の3,786億ウォン(約265億円)に、5年間で3倍近く成長した。一方、大人用英語塾は2006年の1,704億ウォン(約120億円)から2011年の2,138億ウォン(約149億円)とそれほど伸びていない。

 2016年度の大学受験からは、修学能力試験(日本のセンター試験のような一斉テスト)の英語科目の試験が「国家英語能力評価試験」に変わる。現在の受験英語はリスニング、文法、読解のテストしか行わないが、「国家英語能力評価試験」ではこれに加えて「話す」「書く」能力も評価する。

 そのため韓国の教育ママたちは、「小学生の頃から英語で考え、英語で話し、英語ですらすら文章が書けるようにしなくては!」とさらに英語教育に熱を入れるようになった。外国まで行かなくても、英語で会話しないといけない環境を子どもに提供すれば英語が上達するのでは、という期待から人気を集めているのが「英語村」である。「英語村」は、英語が公用語のテーマパークのようなところで、英語版キッザニアともいう。1日体験から9泊10日の入所まで、さまざまなプログラムがある。

 
後篇では、韓国に数ある英語村の中でも人気の高い、パジュ英語村とスユ英語村を紹介する。パジュ英語村は、韓国の英語村の中でもっとも規模が大きい。京畿道(キョンギド)という、日本でいうと千葉県や埼玉県のように首都の隣に位置する自治体が運営する英語村だ。スユ英語村は、ソウル市がYBMという韓国最大手の英語教育会社に運営を委託している。
《趙 章恩》


2012年10月24日
original link:
http://resemom.jp/article/2012/10/24/10482.html



【e-Learning Korea】3DやARは当たり前、進化した韓国スマートラーニング

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e-Learning Korea 2012 開幕式。中央にサイバー大学学生代表とスマート教室の模擬授業をしてくれたソウォン小学校の児童



 
3D教材。紙の本を開くと、電子黒板に3Dの動物が登場する。動物は動き、触れると反応する




 
韓国最大手キャリアのKTが展示したKibotという幼児・小学生向け教育ロボット。子供とロボットが一緒に英語で歌って踊るコンテンツを提供しており、親が選んでダウンロードする。防犯カメラ、ボタン一つで保護者の携帯電話にテレビ電話をかける機能もある



 
KTは教育コンテンツサービスに力を入れていて、スマートホームという主婦向けタブレット端末から利用できる英語教育アプリのラインアップを強化している。主婦にタブレット端末なんていらない、というお母さんたちに、子どもの教育のためにもタブレットは必要であると宣伝する





2012年9月12日から14日まで、ソウル市COEX展示場で開催された「e-Learning Korea 2012」。韓国のデジタル教科書やスマート教育環境を一通り体験できる展示会であり、海外からの参観者も多い。7回目を迎える2012年は「Smart Learning, Smart Future!」をキャッチフレーズに、教育関連省庁からベンチャー企業に至るまで、8か国から90社が参加した。同イベントの模様を、2回に分けて紹介する。

◆韓国政府が注力するスマートラーニング

 この展示会は、韓国の教育政策を担当する省庁の教育科学部、コンテンツ産業政策を担当する文化体育観光部、eラーニング産業政策を担当する知識経済部の3つの省庁が共同主催している。それほど韓国政府が力を入れている分野が、教育とICTの融合、スマートラーニングといえる。

 会場に設置された250のブースには「スマート教室」「スマートホーム」「3D教材」「学習アプリ」「Eトレーニング」などが展示してあり、昨年以上に「3D」や「クラウドコンピューティング環境」「拡張現実(AR)」「恊働学習(SNS活用)」を強調した展示が多く、大人が見ても楽しくなる教材や端末が勢揃いだ。

 政府省庁の展示も気合が入っていた。「Smart School」「Smart Home」「Smart Work」の3つをテーマに、学校と家庭の教育環境がどのようにスマートになっているのか、先生の業務はどのようにスマートになっているのかを動画で紹介しながら、実際に学校で使われている各種サイトを体験できるようにしていた。

◆保護者が学校の勉強を把握

 家庭ではスマートフォンとスマートTVから子どもの登下校情報を確認し、学校からの連絡事項もすべてモバイルで対応する。子ども達が授業中SNSに宿題や発表資料を登録すると、保護者はそれをリアルタイムで確認できるので、学校でどんな勉強しているのかも把握できる。

 また工業高校や実業高校で使っているシミュレーション「Eトレーニング」も各種展示してあって、興味深かった。高校生らが授業で学んだものを生かして、製造現場での研修前に、オンラインゲームのような装置を使って工場の機械作動を一通り体験し、身につけるため、生徒が怪我をしたり、事故が発生したり、といったこともかなり減ったという。

◆3Dになった電子黒板、拡張現実(AR)教材も活用

 電子黒板は今やほとんどが3Dになっていた。拡張現実(AR)の教材も多く、電子黒板を見ると私の隣に、いないはずの熊が立っていたりして驚いた。実際の授業では、動物、化石、建築物を理解するために使われているという。

 本を開くと特殊なコードをカメラが認識して、電子黒板に3Dの動物が登場。餌が描いてあるカードを動物に近づけると、動物がパクっと食べたり、棒が描いてあるカードでつつくと反応したりするのも面白かった。去年までは、3Dといっても停止した状態だったが、今年は動くデモが多く、とても新鮮だった。


《趙 章恩》



2012年9月21日
original link:
http://resemom.jp/article/2012/09/21/9960.html

【e-Learning Korea】 日本のデジタル教科書の現状…格差拡大に懸念

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2012年9月12日から14日まで、ソウル市COEX展示場で開催された「e-Learning Korea 2012」。展示の中で一番「すごい!」と思ったのは、スマート教室での模擬授業だ。江原道フェンソンという、ソウルから北へ3時間ほど離れた山里にあるソウォン小学校の4年生が教室を会場に移して「科学」の模擬授業を行った。

 机の上には、サムスンのGalaxy Note 10.1と電子ペン、バーコードが描いてあるカードだけが置かれ、鉛筆もノートも、紙の教材も一切ない。先生も同じくGalaxy Note 10.1を手に持ち、電子教卓と電子黒板を駆使して授業を進めた。



 

スマート教室は未来の教室ではなく、実際にソウォン小学校で使われている端末とプログラムをそのまま会場に移動させたもの。このような環境で勉強する学校はまだ全国で7校ぐらいしかない


 
電子黒板に映っているのがARの化石。実際には何もないが、子ども達の前に巨大が化石が現れ、ぐるぐる回したり、ARの道具を使って化石を割り、骨を掘り出すことができる



 
先生からのクイズ問題。恐竜の骨を見て名前を当てる


 
自分の化石から出てきた恐竜の骨を見て、どの恐竜なのかをデジタル教科書や教育サイトを検索して調べる。その結果を電子本にまとめ、皆の前で発表する




◆ARで化石を発掘・調査

 授業は、学習目標の説明から始められた。「恐竜と化石」について勉強する時間だという。子どもたちは自分のタブレット端末を使って、「ARで現れた化石をARの道具を使って掘り」、その化石から出てきた骨を見て「デジタル教科書と教育サイトを検索し、どの恐竜の骨なのかを調べ」、「3D電子本にまとめて皆の前で発表する」という、小学校4年生とは思えない、高度な授業だった。

 小さい手で、ピアノを弾くようにキーパッドで文字を入力し、自分がARで発掘した恐竜の化石がどの恐竜のものなのか、アニメや写真を編集して電子本を作り、それをクラスの教育クラウドに保存、先生のタブレットからファイルを呼び出して電子黒板に送信し、皆の前で発表する。作成した資料は、クラウドにアクセスするだけでいつでもどこでもどの端末からでも利用できる。次の授業では、皆が作った電子本を組み合わせて、仮想の恐竜博物館を作るという。

 子どもたちがすべて自分の手で作ったという電子本は、子どもらしいアイデアで溢れていた。友達が飼っているイグアナの写真と、デジタル教科書の恐竜の写真を比較して、恐竜の特徴をわかりやすく説明する子もいた。小学生のプレゼンのアイデアに驚いた。

◆過疎地でも平等な教育機会を実現

 ソウォン小学校は、4年生が6人、全校児童36人程度という小さい学校だ。隣の学校まで車で2時間かかるほどの過疎地である。そのために、塾に行きたくても行けない、参考書を買いたくても市内まで買いに行くのが大変、という環境の中で、平等な教育機会を実現するためにスマート教室が導入された。タブレットとデジタル教科書さえあれば豊富な資料を使うことができ、一人で勉強しても十分な学習効果をあげられるという、実証実験を行っている。

 ソウォン小学校は児童の人数が少ないため、先生が自律的に教育課程を調整できるイノベーション学校にも指定されている。紙の教科書に縛られることなく、先生は電子黒板、タブレット、3DやAR教材を使って、4年生が1年間に学ぶべき内容を教えればよい。学校教育に対する発想の転換が「スマート教育」を支えているのかもしれない。

◆テレビチャットで他校と交流

 ソウォン小学校の子どもたちは、隣の学校の子どもたちに会えるチャンスがなかなかないので、教室にある電子黒板とタブレットを使ったテレビチャットで、他校と交流しているのだそうだ。先日は2つの学校をネットでつなぎ、セミナーのようにそれぞれの学校の子どもたちが調べた宿題を発表し、お互いにテレビチャットで質疑応答をする授業を行ったという。

 模擬授業を終えた子どもたちに「タブレットで授業するのは難しくない?」と聞いてみた。すると全員、「このおばさん、何でそんなこと聞くのかな?」と首をかしげて笑っている。「これのどこが難しいのか、その質問が理解できない!」という表情だ。「紙の教科書に比べると使い方が複雑なので、慣れるまでに時間がかかるのではないか」というのは大人の勝手な思い込みに過ぎなかったようだ。

 ソウォン小学校では、端末を配る前に、子どもたちに端末とデジタル教科書の使い方を教えたが、直観的に使い方がわかるため、まったく問題がなかったという。タブレットを使った授業は「3DやARの資料をたくさん使うからすごく楽しい!」「全科目タブレットで授業すればいいのに!」と皆おおはしゃぎだ。しかし中には、「模擬授業の練習のために先週ずっとタブレットで科学の授業しかしていないから、ほかの勉強もしたい」と正直に不満をもらす子もいた。

◆自宅のPCでクラウドにアクセス

 授業用タブレットは学校に置いたまま使い、家には持って帰れないのだとか。自宅では自分のパソコンを使って、クラウドに保存したファイルをダウンロードして宿題をし、親のスマートフォンを使っているという。4年生6人の中で自分のスマートフォンを持っている子は1人だけだったが、パソコンは全員、自宅に1台以上持っていた。

 このほか、eラーニングの授業だけで単位がもらえ学士号がとれるサイバー大学、先生の動きを追いかけるカメラを使い自動的にeラーニング講座を録画してくれるシステム、紙の教材を簡単に3Dに変えられるツール、国家英語試験(韓国は2016年の受験からセンター試験の英語科目が国家英語能力評価試験に変わり、読む、書く、聞く、話すの4つの力を見る。現在は英語で話す試験は行っていない)対策として、英語を話すと、ネイティブの発音との違いを比較し、直してくれるタブレットとプログラムも面白かった。手間ひまかけずに、よりスマートに効果的に教育できる技術もたくさん展示されていた。

◆重要なのは先生のやる気

 日本では教育現場でのICT活用がゆっくり進んでいるように見えるが、韓国は何でもパリパリ(早く早く)精神で突撃するので、取材する方も大変だ。しかし、展示会で出会った学校の先生や電子黒板メーカーの担当者は、皆同じことを強調した。

「電子黒板やタブレット端末といったものは、あくまでもよりよい教育をするためのツールにすぎない。重要なのは先生のやる気です。先生が変わらないと子どもも変わりません。先生がよりスマートに教育したいと意欲的に端末を導入する学校は、設備が最新のものでなくても、子どもたちの好奇心、集中力を高める授業をしています。ICT機材や端末を導入することがスマート教育の目的になってはいけません」

 そうなのか。それで展示会に現役の先生たちもたくさん視察に来ていたのか(胸のカードに学校名と教師と書いてあった)。技術と端末を展示する展示会で、韓国の先生たちの熱意と意欲までも見ることができたe-Learning Korea 2012。来年もリセマムで紹介する予定だ。

《趙 章恩》


2012年9月21日
original link :
http://resemom.jp/article/2012/09/21/9964.html

サムスン、GALAXY Tab 10.1の“手書き機能”で若者に攻勢

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サムスン電子は2012年8月16日、10.1型の大画面に手書きできる電子ペンの「Sペン」機能を強化したタブレットPC「GALAXY Tab 10.1」を韓国と米国、英国で発売した。Wi-Fiモデルと3Gモデルがあり、値段は80万ウォン(約5万5000円)。





GALAXY Tab 10.1。OSはAndroid 4.0で、幅262×高さ180×奥行き8.9mm、重さは597g



 韓国の学校の2学期は8月第3~4週から始まる。今はちょうど新学期と韓国のお盆(旧暦8月15日で2012年は9月30日)を迎える時期。お盆で久しぶりに会う親戚からお小遣いをもらい、何かいいものが買いたいという学生を狙い、スマートフォンやタブレットPC、デジタルカメラの新商品発売がこの時期に集中する。


 GALAXY Tab 10.1はSペンを使った手書き機能が売りである。太さ6.5mmのSペンで、紙に書き込む感触を最大限再現した。ペンで書き込むときは、画面のタッチ機能を停止させるので、紙に書き込むのと同じでペンを持った手をタブレットPCの上に接触させて書けるようになった。ペン先以外は画面にタッチしないよう変に手首を浮かせるような姿勢で手書きしていた時代はもう終わり。これで絵を描いたり、メモしたりと、普通に紙に書き込むのと変わらない姿勢で利用できるようなったので、とても楽になった。


 また、マルチスクリーン機能があり、2つの機能を同時に利用できる。動画を観ながらメールを書いたり、インターネットをしながら手書きメモを作ったり、写真を観ながらお気に入りをコピーしてメモ帳に貼り付け、手書きのメッセージを添えて保存したりメールで送ったりということができる。

5.3型のスマートフォン「GALAXY Note」が発売されたときは、繊細な手書きができるSペン機能を強調するため、アーティストがSペンで似顔絵をその場で描いてくれるイベントをよくやっていた。最近でもサムスン電子の展示場に行くと、GALAXY Noteで似顔絵を描いてメールで顧客に送信、Facebookやメッセンジャーのプロフィール写真代わりに使えるようにするイベントをよくやっている。


 同様に、芸能人がGALAXY Tab 10.1の使い方を教えるイベントを開催した。GALAXY Tab 10.1できれいにノートを筆記する方法、撮った写真を編集する方法、子どもと一緒にお絵かきを楽しむ方法などを紹介した。









GALAXY Tab 10.1を使ってデジタル教科書を見て、ノート筆記もできるという点をアピールするため、サムスン電子は名門大学出身の女優が教えるノート整理法イベントを開催した。このほかにも、子ども向けにSペンを使ったお絵かき教室も開催された



 「GALAXY Tab 10.1」=「デジタル教科書を利用するのに最適な端末」という宣伝も始まっている。「How to Live SMART」キャンペーンと名付けられたイベントで、サムスン電子はGALAXY Tab 10.1を使ってデジタル教科書を見ながら、手書き機能でノート筆記できるという点も強調した。同社の「ラーニングハブ」というeラーニング動画と教材を提供するアプリから、小中高校で使う教科書のPDFファイルとデジタル化された参考書を利用できる。GALAXY Tab 10.1をうまく使えば、教科書も参考書もノートも筆記道具も持ち歩く必要がなくなる。カバンが重くならないのだ。


 発売を受けて、サムスン電子はニューヨークのタイムワーナーセンターで、有名映画監督のBaz Luhrmann氏(主な作品に『ロミオ&ジュリエット』、『ムーラン・ルージュ』がある)がGALAXY Tab 10.1の使い方や特徴を説明する、大規模なローンチイベントを開催した。


 サムスン電子は、GALAXY Tab 10.1を使ってコンテンツを楽しむだけでなく、手書きや編集機能を使い、“自分でコンテンツを作る”文化を提案したいとしている。


 韓国ではサムスン電子の企業ブランド価値が、アップル、グーグル、マイクロソフト、IBM、アマゾンに続いて世界6位に選ばれたという報道もあり(ブランドファイナンス社調べ)、サムスン電子が話題にならない日はない感じである。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月24日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120824/1060846/

スポーツ競技はテレビよりスマホで観るもの

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オリンピックといえば「テレビの買い替え」、という時代はもう終わりに近づいていのかもしれない。ロンドンオリンピックはスマホが広く普及してから初めて迎えるオリンピックだった。現地との時差が8時間と大きく深夜に試合が中継された影響もあり、韓国では「テレビスマートフォン」やタブレットパソコンを使って競技を見ながらSNS上でつぶやく人が急増した。オフラインではひとりだけど、SNSでは街角応援並みに大勢が集まり盛り上がった。

 個人放送局「アフリカTV」は、動画サイトでありながらロンドンオリンピック中継権を買い、モバイル向けに放送した。スマホからオリンピックを観たいユーザーがアフリカTVに殺到し、ユーザーが前より20%も増えたとアフリカTVは発表した。個人放送局らしく、韓国選手が金メダルを獲得した瞬間を集めて個人がコメントを付けて放送する動画も人気を集めた。


 ポータルサイト最大手のNAVERもオリンピックをストリーミングで中継した。オリンピック期間中、パソコンからストリーミングを視聴した人が3分の1、スマホやタブレットPCから観た人が3分の2を占めた。オリンピック関連情報やニュースも、モバイルから利用した人が圧倒的に多かった。NAVERのスポーツコーナーのモバイルページビューは、オリンピック期間中毎日1億を突破し、いつもより4倍も増えたという。2番目に大きいポータルサイトのDAUMは、オリンピック競技ハイライト場面のVOD再生回数が5200万回、このうち70%がモバイル端末からの視聴だったと発表した。


 男子サッカーの3位決定戦があった8月11日は、韓国のスマートフォンユーザー約2900万人のうち1000万人がNAVERのモバイルサイトにアクセスしてオリンピックニュースを読んだ。この試合はモバイルトラフィック最高記録を更新したほどだった。サッカーの試合結果を翌朝動画で観ようというユーザーも増えたことから、同試合の動画再生回数は1000万回を突破、史上最高を記録した。それまでは、キム・ヨナのバンクーバー冬季オリンピック動画が再生回数900万回で1位だった。


 各ポータル会社は、オリンピック選手団を応援するための特設ページを運営した。NAVERの場合、ユーザーが書き込んだ応援メッセージは42万件、そのうち30万件がモバイルから書き込まれたものだった。 



キャリアが提供するIPTVに脚光


 オリンピックを契機に、キャリアが提供するモバイル端末からIPTVをリアルタイムで視聴できるサービスも人気急上昇。SKテレコムの「Btvモバイル」は、全ての地上波放送とオリンピック中継、CATVの40チャンネルをハイビジョンクラスの画質でLTE端末向けに提供している。現在はリアルタイム放送が中心で、10月以降IPTVと同じくVODも利用できるようにするという。動画サイトのモバイル放送よりも画質がきれいなところが売りである。キャリアが加入者を伸ばしたがっているLTE高速ブロードバンドを宣伝するためのツールとしても、オリンピック中継は注目を浴びた。


 LGU+もLTE対応スマホからハイビジョン画質でIPTVを視聴できる「U+HDTV」を開始している。1秒当たりの画面伝送を1.5Mbpsから2Mbpsに上げ、韓国では最も画質がきれいなモバイル放送と宣伝している。40型のテレビにLTEスマホをつなげて視聴しても違和感ないほどの画質で、ワンセグに比べると10倍もきれいな画質なのだとか。最近、電車の中でワンセグを視聴している人を滅多に見かけなくなったと思ったら、こんなに画質がきれいなモバイル放送が続々始まっていたのか。LGU+はLTEスマホ向けに1万本のVODも提供する。






LGU+のLTE対応スマホ/タブレットPC向けIPTVサービス。1秒当たり映像伝送速度を1.5Mbpsから2Mbpsにアップグレードし、ハイビジョンクラスの画質が自慢。高画質モバイル放送があるからか、ワンセグを利用している人を滅多にみかけなくなった



 次のオリンピックはテレビの買い替えよりスマホの買い替えCMがもっと頻繁に流れそうだ。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月17日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120817/1059922/

スマートラーニング時代の差別化ポイントは「学習管理システム」

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スマートラーニング時代を反映し、韓国のeラーニング市場は拡大している。Eラーニング産業白書によると、2011年の韓国eラーニング産業の売り上げは前年比9.2%増の2兆4500億ウォン(約1700億円)だった。内訳はコンテンツが5300億ウォン(約368億円)、ソリューションが2300億ウォン(約160億円)、サービスが1兆6700億ウォン(約1160億円)の規模となっている。


 売り上げに占める割合は、企業向けeラーニングサービスが28.4%と最も多い。しかし、幼児向け3.1%、小学生向け6.2%、中学生向け4.6%、高校生向け4.5%と、幼児から高校生までの市場を合わせると18.4%と企業向けの次に大きい市場である。


 eラーニング利用率は3~7歳が38.5%、8~19歳が74.5%、20代が67.9%、30代が44.9%、40代が41.6%、50代以上が25.9%だった。3~7歳の未就学児童のeラーニング利用率は2007年に28.7%だったのが4年間で10ポイントも伸びている。もちろん家庭にインターネットが普及した影響もあるが、学校でデジタル教科書やオンラインベースの評価制度(紙のテストではなくインターネットベースのテストに変える)が導入されることが決まってから、幼児のときからeラーニングに慣れさせようとする親が増えているのも確かだ。


 スマートラーニング時代を迎え、eラーニング業界が最も力を入れているのは学習管理システム、LMS(Learning Management System)である。


 代表的なのはソウル市教育庁が無料で全国の小学生に提供する「サイバー家庭学習」。学校以外の場所でもインターネットさえつながれば、学校で学ぶ内容を予習・復習できるようにしたeラーニングで、ユーザーである子どもがテストを受け、自分の学習レベルを自ら把握して、学習難易度を選択できるようになっている。さらに、どの科目を何時間勉強したのか、“サイバー担任”である先生との質疑応答など学習管理も残せる。サイバー担任が子どもの学習レベルに応じて「こういうところをもっと勉強してみたら?」とアドバイスもしてくれるので、一人で黙々とがんばるイメージが強い既存のeラーニングとはちょっと違う。


 





ソウル市教育庁が2004年から無料で提供しているサイバー家庭学習の画面。教科書の内容を予習・復習できるeラーニングで、現役の小学校の先生がサイバー担任先生になり質問に答えたり学習アドバイスをしたりしている。先生と一緒にがんばる仕組みにしたことで子どものモチベーションを高めた




 





サイバー家庭学習の学力テストの画面。子どもたちが自ら学力テストをして、レベルにあった教材を選べるようにしている

 


いつでもどこでも子どもの学習状態を把握


 民間の教育会社も学習管理システムを差別化のポイントにしている。韓国の小学生なら誰もが知っているほど有名な「ヌンノピ先生」(子どもの自宅へ訪問する先生。日本では郵便でやりとりするのが一般的な通信学習を、韓国では全国1万3000人の「訪問先生」が家に学習誌を届け、毎週15~30分ほど訪問して採点と指導をする)は、スマートフォンを使って子どもの学習レベル評価、学習履歴管理を行う。


 ヌンノピ先生が家庭に届ける紙の学習誌を子どもが解くと、先生が採点してどの問題を間違えたのかスマートフォンに入力する。するとスマートフォンに学習評価の画面がグラフで現れ、子どもの補うべき学習項目が一目で分かるようになっている。この画面は親にも送信できるので、親もスマートフォンから子どもの学習状況を確認し、訪問先生へメッセンジャーを使って気軽に質問できるようになった。今までは訪問先生が採点をして手帳に記録し、自身の経験で子どもを評価していた。


 ヌンノピ先生の本社であるテキョのキム・ボンファン企画広報チーム課長によると、スマートフォンを取り入れた、ヌンノピ先生独自の学習評価システムを使った学習管理を行うことで、保護者の信頼度が以前よりも高まったという。


 同じく訪問先生6000人を抱える教育会社ウンジンシンクビックは、スマートフォンからもタブレットPCからも使える「アイチューター」という学習管理システムを利用する。子どもがeラーニングプログラムを利用して学習すると、先生の端末に学習履歴と採点結果が届き、それを元に今後の学習方法について相談できるようになった。いつでもどこでも子どもの学習を管理できるので、いつ保護者からの質問や相談をされても、的確に答えられるということから、他社との差別化につながっている。


 クラウドコンピューティングとビッグデータ(インターネット上に書き込まれる膨大なデータを分析して、社会問題を解決するための答えを導き出すといったことが期待されている)が全産業において流行語のようになっている。教育の分野も同じである。eラーニングやスマートラーニングで学習コンテンツが素晴らしく、分かりやすいUI、かわいいキャラクターで子どもの視線を釘付けにするといったことは当たり前。これからはその裏のソリューションの精密度が勝負となる。


 デジタル教科書、eラーニング、学習アプリで学んだことを総合的に分析して、子どもの学習能力を伸ばせるシステムを目指して、韓国は教育庁も民間企業も最新ICT技術導入を急いでいる。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月10日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120810/1059542/

老舗教科書会社、「スマート教科書」開発にまい進

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2015年から全国の小中高校でデジタル教科書を使えるようにする、という教育科学部(日本の文部科学省に相当)と国家情報化戦略委員会のスマート教育戦略により、最も大きな変化を迎えたのは教科書会社である。

 メイン事業といえる紙の教科書を使う学校が減り、デジタル教科書へ移行するとなると、印刷会社まで抱えている大規模な教科書会社は利益を保つためにビジネスモデルを変えないといけない。


 1948年に創業した韓国の老舗教科書会社「MIRAEN」(大韓教科書から社名変更)は、政府のデジタル教科書開発とは別に、自ら「スマート教科書」の開発を始めた。MIRAENは教科書会社として国定(義務教育の小中学校は国定教科書を使用)、検定、認定(国定や検定のように教育科学部長官が認めた教科書ではなく、自治体ごとにある教育庁が認めた教科書で、教科書の判型や内容が国定・検定よりは自由)教科書の全てを制作・販売している。


 教育科学部によると、2015年以降、紙の教科書とデジタル教科書の両方を検定することを検討しているという。2015年以降デジタル教科書が広く使われるようになれば、今のように国が主導して科目ごとにコンソーシアムも結成してデジタル教科書を開発するのではなく、教科書会社が科目ごとにデジタル教科書を開発し、それを教科書検定機関に提出する方式に変える、ということである。


 MIRAENはほかの教科書会社より一足先に、自社の教科書のほとんどをアプリケーションにして公開し、教科書会社として初めて教師向けデジタル教材アプリを開発してきた。


 さらに、教科書をPDFにした単純なデジタル教科書を脱皮し、2012年からは「スマート教科書」の開発に着手した。動画、音声読み上げ、GPSなどタブレットPCから利用できるいろんな機能、直感的に使えるUIを盛り込んだのが「スマート教科書」である。学生のレベルに合わせて単元ごとに難易度を調整し、学習履歴を管理できるようにもしている。


 デジタル教科書に臆するのではなく、時代の流れに敏感になり、新しい市場を積極的に切り開いていこうとするのが韓国教科書会社の特徴である。教科書会社というと、安定した収益源があるので体質が古く、停滞しているイメージがあるが、MIRAENはベンチャー企業のような明るさ、活気があった。







MIRAENの英語スマート教科書。単元の導入部には英語を学びたくなる動機づけの動画を入れている






MIRAENの社会スマート教科書。「場所」という概念を勉強するためGPSを使う。タブレットPCから使える動画、音声認識、音声読み上げ、GPSといった機能をフルに使いこなせるようにしている




「デジタル教科書の市場を切り開こうとアイデアを練っている」


 同社マーケティング部のホン・ソンチョル次長は、デジタル教科書やスマート教科書の企画を長年担当してきた専門家として有名である。ホン次長の「デジタル教科書で重要なのは使いやすさ。直感的にすぐ使える教科書でなければならない。クラウドコンピューティングにより、いろんな教材と端末をつなげられるので、教師がそれらを使ってうまく授業の設計をできるように教科書会社が工夫しないといけない」という話はとても新鮮だった。うちのデジタル教科書にはこんな機能があります、と自慢する会社は多かったが、使いやすさにこだわり、生徒が理解しやすいよう参考資料をたくさんリンクするのはもちろん、教師が授業しやすいよう授業設計まで念頭においたデジタル教科書を開発しているという話はMIRAENで初めて聞いたからだ。








MIRAENのスマート教科書は使いやすさにこだわっているという。ページの移動やタッチる場所を直観的に分かるようUIも工夫した

 そのためにMIRAENは教育科学部からデジタル教科書用オーソリングツールに選定された「Incubetech」と手を組んで「Incubetech Publisher」でデジタル教科書を制作している。Incubetech PublisherはDTPソフト「QuarkXPress」で制作された出版物をEPUB形式に変換し、変換したファイルを修正・編集できる電子書籍制作ソフトである。このソフトによってEPUBに変換するとどの端末からも電子書籍として利用できる。Incubetechはサムスン電子のタブレットPC「GALAXY Tab」向け電子書籍リーダー「リーダースハブ」を開発した会社でもある。


 ホン次長は、「MIRAENが中心となって電子書籍技術を持っている会社、端末メーカー、通信キャリアと手を組み、デジタル教科書の新しい市場を切り開こうとアイデアを練っている。お金を投資するとなれば投資決定まで時間がかかるが、それぞれの会社が持っている技術やコンテンツを出し合って新しいビジネスモデルを作るのはすぐにでもできるし、負担も大きくない。デジタル教科書市場をリードしたい」と意欲的だ。


 ほぼ独占に近い紙の教科書市場を守ろうと頑なになるのではなく、時代をリードする会社になりたいというMIRAENは、日本のデジタル教科書関連会社にとっても参考になるところがあるのではないだろうか。スマート教科書ビジネスの動きはこれからも注目したい。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月3日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120803/1058382/

デジタル教科書の次は……「教室」を変えよう!

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 前回紹介したケソン小学校は、サムスン電子のスマートスクールモデル学校だった。これとは別に、ソウル市教育庁が支援するスマートラーニング研究学校がある。


 ソウル市の場合、2008年から実施しているデジタル教科書研究学校に追加して、2011年末にスマートラーニング研究学校を新たに3校指定した。2011年に開校したばかりの小学校、中学校、高校1校ずつで、キャリアのLGU+が学校内どこでもWi-Fiが使えるようにネットワークを、サムスンがタブレットのGalaxy Tab10.1を、LGが電子黒板と大型3DTVを提供する。教室の壁には子どもたちがグループごとに資料を作成して発表するときに使う大型スクリーンが4つある。教室の中には学習履歴を保存するサーバーもある。


 筆者が訪問したスマートラーニング研究学校は、モクウン中学とシンド高校である。両方とも「スマート教室」という特別室が学校の中にあり、教師が必要に応じてスマート教室を使って授業をする仕組みになっている。ここに入ってびっくりしたのは、壁全部にスクリーンがあり、それを授業中全部使いこなすということだった。


 






シンド高校のスマート教室。このように教室の壁全部がスクリーンになっている。子どもたちはグループごとに資料を作成して、スクリーン上に映して発表する



 スマート教室は教室の3面が40型以上の電子黒板になっていて、正面には3DTVも設置してある。教室にはタブレットPC、電子ペン、電子ペーパー(普通の紙だが特殊なプリントをする)、3D用メガネが置いてあり、これら道具を使って授業を行う。子どもたちがタブレットPCの電源を入れて出席ボタンをクリックすると、電子黒板に映し出された出席簿の名前の色が変わり、学習履歴や端末に書き込んだ内容などがすべてサーバーに記録される。


 電子ペーパーに電子ペンで書き込むと、何を書き込んでいるのかリアルタイムで一人ひとりのペーパーを電子黒板に映して確認できる。教師はクイズ問題を電子ペーパーに印刷して、授業が終わるころ、子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するためテスト用紙を配る。子どもたちが電子ペンで電子ペーパーに答えを書き込むと自動で採点が終わり、クラスの平均や成績トップは誰かといったこともすぐ電子黒板に表示できる。
 







シンド高校のスマート教室にある電子黒板に、生徒が手元で電子ペーパーに書き込んだ内容を映しているところ。電子ペンで書き込むと同時にリアルタイム表示する。採点も自動的に行われる。画面左側、縦に並ぶのは配られた電子ペーパーのテスト用紙。右にあるリストは出席簿。タブレットPCから生徒が授業参加をクリックすると出席チェックを行う




「グループで話し合う・発表する」は“必須”


 スマート教室では、紙の教科書ではなく電子ペーパーをはじめデジタル教材を使う。デジタル教材は教科書のPDFファイルを元に、教師がリンクを貼り付けたり、アニメや写真を追加したりして、オリジナルの教材を作る。教育庁のデジタル教材サイトは教科内容に合わせた動画やアニメ、写真を大量に提供しているので、素材に困ることはない。ただし、最新の話題を取り上げて説明したい場合は、民間のコンテンツ事業者が提供する教師向け有料デジタル教材サイトを使うこともあるという。また、教育的に効果があると教師が判断した場合、授業中に学習アプリケーションを使うこともある。タブレットPCがAndroid OSなので、アプリストアであるGoogle PlayやSamsungappsからダウンロードする。


 子どもたちは授業中必ず、グループごとに自分たちが理解したことをパワーポイントでまとめて、大型スクリーンを使って発表する。グループの宿題として出されることもある。グループで一緒に考えて意見をまとめ、みんなの前で発表してディスカッションする、というのもスマートラーニングの重要な目的だからだ。


 






モクウン中学校のスマート教室で。子どもたちが「技術」の授業中、グループで一緒に小さい自動車を作り、その制作過程を発表している。グループで意見をまとめてみんなの前で発表、ディスカッションするのもスマートラーニングの重要な目的の1つである



 スマートラーニング研究学校の中学生たちに、スマート教室で授業すると何がいいか聞いた。「発表とディスカッションがあるから予習していこうかなって気になる」、「先生がずっと説明するより、3D動画を見たり、他の子の発表を聞いたりする方が記憶に残るから、全科目スマート教室で授業すればいいのに」、「紙の教科書だと苦手な科目はぼうっとしてしまったけど、スマート教室ではデジタル教科書をクリックして参考資料を見ればいいので授業についていける」など、授業を楽しんでいる雰囲気が伝わってきた。


 デジタル教科書研究学校の場合は、国が主導してデジタル教科書を制作した、国語、英語、数学、社会、科学といった主な科目の中から学校ごとに2~3科目を選択して、研究クラスに選ばれたクラスだけ、教室の中でノートパソコンを使ってデジタル教科書を立ち上げて授業をしていた。


 スマートラーニング研究学校の場合は、デジタル教科書研究学校と違ってスマート教室で授業をすべき科目を特に指定していない。教師がスマート教室を使った方が教えやすいと判断すれば、教室を移動して使えるようにしている。


 「リテラシー教育」というのが要らないほど、子どもたちは直感で端末とデジタル教科書を使いこなしている。教師たちも電子黒板を使ったり、子どもたちの端末をフリーズしたり、データを送信したりといった制御方法を30分聞いただけで十分使いこなせているという。


 韓国の文部省にあたる教育科学部と各自治体の教育庁は、スマートラーニングの目的は「平均的な教育ではなく、子どもたちの一人ひとりのレベルに合わせた教育をすることである」として、「スマートラーニングは教室改造ではない。IT技術が教育現場に溶け込まないといけない」という問題意識をしっかり持っていた。韓国のデジタル教科書やスマートラーニングは、教師らの積極的なフィードバッグを反映しながら、改良に改良を重ねている。


 次回は一足先に「スマート教科書」を開発し始めた老舗教科書会社を紹介する。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月27日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120727/1057624/

世界17カ国から視察、すごい“スマート先生”の授業を見学

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韓国有数の名門私立小学校であるソウル市ケソン小学校。この小学校はサムスン電子の「スマートスクール」モデル校である(
関連記事)。4年生を対象に、デジタル教科書とタブレットPC、電子黒板を使った授業を行っている。今回、同小学校へ社会科の授業参観に行ってきた。

 学校内でWi-Fiが使え、クラスの全生徒が1 人1台のタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)を使い、65インチの電子黒板と連動して授業を行う。子どもが席に座り、タブレットPCから「授業参加」をタッチすると、先生のディスプレイに子どもたちの画面が見えるようになる。誰が何をしているのか、戸惑っている子はいないか、一目で確認できるので、一人ひとりにレベルを合わせて教えられるのがスマートスクールのいいところである。


 2011年10月から始まったケソン小学校のスマートスクールを担当しているのは、チョウ・キソン先生。チョウ先生の“スマートな授業”は韓国だけでなく、今や世界中が注目している。ヨーロッパ各国や日本など17カ国から授業参観に来ているのだ。チョウ先生は韓国教育科学部から委嘱されたデジタル教科書開発先導委員であり、APEC教育諮問教師も兼ねている。









チョウ・キソン先生が教える社会科の授業の様子。タブレットPCと電子黒板、チョウ先生自身が編集し直したデジタル教科書を使う(ソウル市ケソン小学校で筆者写す)



 チョウ先生が使うデジタル教科書は、ほかの学校が試験的に導入しているデジタル教科書とは若干違う。政府が制作したPDF版の教科書をベースに、チョウ先生が自ら科目ごとに画像やFlashアニメーション、関連サイトのリンクを貼り付け作った、手作りデジタル教科書なのだ。










子どもたちが使うタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)画面上のデジタル教科書。ここから選択する



 チョウ先生は「教育庁や民間の教育会社が提供するデジタル素材はたくさんあるので、そこから子どもたちの理解を助ける素材を選んでハイパーリンクを貼るだけです。とても簡単。ほかの教師もやっていて資料を共有することもあります」と笑顔で説明する。教師が本を制作するPDF作成ツールをまず覚えて、授業のために素材を毎日追加してデジタル教科書を作る。それを電子黒板と子ども用のタブレットPCに表示して授業をするという一連の作業は、「簡単」といえども相当な手間と時間がかかるだろう。


 チョウ先生は授業が終わるころ、今日学んだことについて子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するため、タブレットPCにクイズ問題を送る。このクイズは電子黒板の中に入っている機能で、その場ですぐ作れるという。子どもが回答して送信すると、それをまとめて電子黒板に映してみんなで討論する。授業は本当に楽しそうで、子どもたちの笑い声が絶えない。学校関係者と保護者、子どもたちだけがアクセスできる教育SNS「クラスティング」に、授業中タブレットPCで撮影した写真を投稿したりもする。


 タブレットPCを使った授業は難しくないのか子どもたちに聞いてみると、「使い方はとても簡単です。タブレットPCがあるといろいろな資料が見られて参考になるし、自分の力でもっと勉強してみようって気になります」と立派な答えが返ってきた。


 ケソン小学校のスマートスクールは韓国でも先進的なケースで、ここまで環境を整えた学校はまだ数校に過ぎない。しかし授業参観をして驚いたのは、タブレットPCやデジタル教科書といった端末の性能よりも、先生である。いろんな機材を操りながら、一人ひとりに目を配り、教科課程に沿って教えるべきことはきっちり教える授業法をマスターしているチョウ先生にびっくりしてしまった。


 チョウ先生は、「先生は道を開いてあげる存在。一方的に教え込むのが授業ではない」と話す。「タブレットPCを使って子どもたちが自ら検索して探求することで、短い時間の間にもっとたくさんのことを学べます」とのこと。スマートスクールの意義は子どもが自主的に学習に取り組むことにあるのだ。


 チョウ先生は放課後も忙しい。Facebook上でデジタル教科書情報をほかの先生と共有し、子どもたちが携帯メールに送ってくる質問に答える。放課後も仕事が続くなんて、先生はいつ休むんですか?という質問に、チョウ先生は「教師として当然やるべきことをやっているだけです」ときっぱり。


 デジタル教科書やタブレットPCはツールにすぎない。大事なのは子どもたちが自ら興味をもって学習できるように先生が導くこと、それをしやすくするのがスマートラーニングのデバイスや技術というわけだ。


 「私はすごくないですよ、韓国の先生はみんなこれぐらい使えますよ」と謙遜するチョウ先生。韓国がスマートラーニング先進国になれたのは、やっぱりチョウ先生のような“スマート先生”がいるからに違いない。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月20日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120720/1056702/

グローバルな市場を学ぶ-今どきのヒット商品 ; 第4回:韓国 . 受験に欠かせない,学習用タブレット端末 

グローバルな市場を学ぶ-今どきのヒット商品

第4回:韓国 . 受験に欠かせない,学習用タブレット端末 


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2011/11/30 00:00

趙 章恩 = ITジャーナリスト

出典:日経エレクトロニクス,2010年12月27日号, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


韓国の2010年は,スマートフォンとモバイル・インターネットなしでは語れない。特に,2010年9月末で出荷台数が500万台を突破したスマートフォンは,人々や社会を変えたとまでいわれている。

 韓国のインターネット環境は,一気にスマートフォンと無線LANに切り替わり,地方選挙では「地元をホットスポットにする」という公約まで登場した。これは,老若男女関係なくスマートフォン・ユーザーが増えているという証拠ではないだろうか。


 2010年末には,韓国でのスマートフォンの出荷台数は600万台を突破し,2011年には1500万~1600万台に達しそうな勢いである。


タブレット端末で受験勉強


 スマートフォンの次は,タブレット端末がヒットするのが世界の流れである。ただし,韓国ではまだ「iPad」が発売されていない。2010年11月に発売になった韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の「GALAXY Tab」は,定額基本料金や端末代金を含めると毎月1万円程度必要になるため,スマートフォンほど気軽に買える状況ではない。


 そこで,韓国独自のヒット商品として売れているのが,さらに小さくて安い「PMP(portable multimedia player)」と呼ばれる学習用タブレット端末である。PMPは,電子辞書や音楽・動画再生,無線LANなどの機能を備えている。


 韓国政府は教育機会均等を目的として,公営放送である教育放送のWebサイトで大学入試講座の動画を無料で提供している。ここから大学入試の問題の一部が出題されるため,高校生はこの動画をPMPなどで見ているのだ。高校生の多くは夜10時まで学校で自習をし,それから塾へ行く。PMPをいつも持ち歩き,空いた時間にPMPで勉強するのである。








学習用タブレット端末「Buddy」は,5型液晶ディスプレイを備え,1080pのHD動画に対応する。OSはAndroid 2.1である。(写真:i-station社)

(写真:Motorola社)


PMPの中で人気なのが,韓国i-station Inc.の「Buddy」である(右上の写真)。中高生をターゲットに売り出し,1カ月で約8000台が売れた。PMPでは通常,パソコン経由で教育放送の動画をダウンロードするのに対して,Buddyは無線LAN経由でダウンロードできるのが特徴だ。価格は,32Gバイト品が42万9000ウォン(約3万円)である注1)

注1) 2010年12月10日時点の為替レート1ウォン=0.07円で換算。


 学習用端末市場に対してSamsung Electronics社は,GALAXY Sでしか利用できない無料の受験勉強用動画アプリケーション・ソフトウエアを同端末に搭載し,それが受験勉強の役に立つとして好評を得ている。PMP市場でシェア7割以上の韓国Cowon Systems, Inc.は,Android 2.2と5型の液晶ディスプレイを搭載し,無線LANと3Gデータ通信が使える端末を2011年1月に発売する予定である。このほかに,電子書籍端末や音楽プレーヤー,ナビゲーションなどのメーカーも学習用タブレット端末に目を付けており,韓国の新学期が始まる2011年3月に向けて新商品が目白押しになるだろう。


 学習用のPMPやスマートフォン,タブレット端末を実際に購入するのは,高校生の親である。就職が厳しくて名門大学に入れないとその後の人生が安定しない韓国だけに,「子供のためになる」「勉強に役立つ」という宣伝文句に親は弱いのかもしれない。


高級+省エネでヒット


 白物家電でヒットしたのが,通常よりも価格が7万~8万円ほど高い,Samsung Electronics社の高級冷蔵庫である。2010年3月の発売から同年6月までに1万台以上売れた。韓国は貧富の差がかなり開いており,価格が安い中国Haier Electronics Group Co., Ltd.の製品が売れる一方,高ければ高いほど売れる市場も存在する。


 韓国では集合住宅に住む割合が圧倒的に高く,4人家族で4LDK,バスルームは二つが基本と,間取りが広い。大きな家電を置く空間的な余裕があり,キッチンとリビング・ルームがつながっている構造なので,家電もインテリアの一部として認識されている。



 この高級冷蔵庫は,イタリアのジュエリー/時計デザイナーのMassimo Zucchi氏が設計した(図1)。以前にもデザイナーが設計したエアコンや冷蔵庫,キムチ冷蔵庫などがあったが,話題性だけで実際にはそれほど売れなかった。しかし,今回は「BVLGARI」や「OMEGA」などのブランドを手掛けてきた世界的に有名なデザイナーだったことに加えて,最新の省エネ機能を備えていたことが人気の秘訣となっている.






図1 表面がきらきら光る高級冷蔵庫

著名デザイナーが設計した冷蔵庫は,水がきらきら光る様子をLEDで表現した「ジュエル・ライト」などを搭載する。(写真:Samsung Electronics社)


この高級冷蔵庫は,四季に応じて自動的に温度を調節する「季節自動モード」やユーザーの生活パターンを記憶して冷蔵庫内を最適な状態に保つ「生活自動モード」など,センサを活用する「スマート・エコ・システム」を搭載している。こうした機能により,容量737Lの高級冷蔵庫の月間消費電力は31.8kWと,世界最小クラスとした。

 ヒットしたもう一つの要因が,宣伝に「国民的息子」と呼ばれ,主婦に人気の俳優 李昇基(イ・スンギ)氏を起用したことである。冷蔵庫の宣伝に登場するのは女優が多かったが,あえて人気の男性を起用したことで「イ・スンギが宣伝している冷蔵庫」と指名買いされるまでになった。検索サイトでも「Massimo Zucchi冷蔵庫」より「イ・スンギ冷蔵庫」と検索した方が,ヒット件数が多いようだ。


最短最多販売記録を更新

洗濯機では,発売から2カ月間で3万台を売り,Samsung Electronics社の最短最多販売記録を更新するヒット商品が登場した。泡を使って汚れを落とす「バブル・エコ・ドラム式洗濯機」である(図2)。既存のバブル洗濯機に比べて洗濯時間と電気代を半減したことから,大ヒットとなった。価格は他社のドラム式洗濯機よりも2万~4万円ほど高めの設定で,13kg対応品が9万~13万円程度である。しかし韓国で「高くても環境に優しい製品を買うのがおしゃれ」という流行を巻き起こした。

 今回の洗濯機は,泡を発生させる「バブル・エンジン」を改良して,泡発生に要する時間を半分にした。さらに,泡を空気と一緒にドラムへ押し込むことで洗濯開始から約2分で泡を衣類へ浸透させ,汚れを早く落とすようにした。この結果,通常は1時間50分かかる標準洗濯時間を55分まで短縮したのである。水使用量は150L/回から98L/回へ,電気使用量は540Wh/回から270Wh/回へと減らした。


 このほかに,従来モデルから好評だった,80℃の空気でにおいやアレルギー物質を除去する「エアー・ウオッシュ機能」に加えて,今回はすすぎの水量を調整して洗剤の残りを最小限にする「スキンケア機能」や,防水加工されたスポーツウエアも洗える「バブル・スポーツ・コース」を追加した。





図2 泡で洗う洗濯機

「バブル・エコ・ドラム式洗濯機」は,19分でワイシャツ1枚を乾燥できる。乾燥時の電気使用量を従来比60%以上削減した。(写真:Samsung Electronics社)




Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/CAMPUS/20111020/199552/.
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