デジタル教科書の次は……「教室」を変えよう!

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 前回紹介したケソン小学校は、サムスン電子のスマートスクールモデル学校だった。これとは別に、ソウル市教育庁が支援するスマートラーニング研究学校がある。


 ソウル市の場合、2008年から実施しているデジタル教科書研究学校に追加して、2011年末にスマートラーニング研究学校を新たに3校指定した。2011年に開校したばかりの小学校、中学校、高校1校ずつで、キャリアのLGU+が学校内どこでもWi-Fiが使えるようにネットワークを、サムスンがタブレットのGalaxy Tab10.1を、LGが電子黒板と大型3DTVを提供する。教室の壁には子どもたちがグループごとに資料を作成して発表するときに使う大型スクリーンが4つある。教室の中には学習履歴を保存するサーバーもある。


 筆者が訪問したスマートラーニング研究学校は、モクウン中学とシンド高校である。両方とも「スマート教室」という特別室が学校の中にあり、教師が必要に応じてスマート教室を使って授業をする仕組みになっている。ここに入ってびっくりしたのは、壁全部にスクリーンがあり、それを授業中全部使いこなすということだった。


 






シンド高校のスマート教室。このように教室の壁全部がスクリーンになっている。子どもたちはグループごとに資料を作成して、スクリーン上に映して発表する



 スマート教室は教室の3面が40型以上の電子黒板になっていて、正面には3DTVも設置してある。教室にはタブレットPC、電子ペン、電子ペーパー(普通の紙だが特殊なプリントをする)、3D用メガネが置いてあり、これら道具を使って授業を行う。子どもたちがタブレットPCの電源を入れて出席ボタンをクリックすると、電子黒板に映し出された出席簿の名前の色が変わり、学習履歴や端末に書き込んだ内容などがすべてサーバーに記録される。


 電子ペーパーに電子ペンで書き込むと、何を書き込んでいるのかリアルタイムで一人ひとりのペーパーを電子黒板に映して確認できる。教師はクイズ問題を電子ペーパーに印刷して、授業が終わるころ、子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するためテスト用紙を配る。子どもたちが電子ペンで電子ペーパーに答えを書き込むと自動で採点が終わり、クラスの平均や成績トップは誰かといったこともすぐ電子黒板に表示できる。
 







シンド高校のスマート教室にある電子黒板に、生徒が手元で電子ペーパーに書き込んだ内容を映しているところ。電子ペンで書き込むと同時にリアルタイム表示する。採点も自動的に行われる。画面左側、縦に並ぶのは配られた電子ペーパーのテスト用紙。右にあるリストは出席簿。タブレットPCから生徒が授業参加をクリックすると出席チェックを行う




「グループで話し合う・発表する」は“必須”


 スマート教室では、紙の教科書ではなく電子ペーパーをはじめデジタル教材を使う。デジタル教材は教科書のPDFファイルを元に、教師がリンクを貼り付けたり、アニメや写真を追加したりして、オリジナルの教材を作る。教育庁のデジタル教材サイトは教科内容に合わせた動画やアニメ、写真を大量に提供しているので、素材に困ることはない。ただし、最新の話題を取り上げて説明したい場合は、民間のコンテンツ事業者が提供する教師向け有料デジタル教材サイトを使うこともあるという。また、教育的に効果があると教師が判断した場合、授業中に学習アプリケーションを使うこともある。タブレットPCがAndroid OSなので、アプリストアであるGoogle PlayやSamsungappsからダウンロードする。


 子どもたちは授業中必ず、グループごとに自分たちが理解したことをパワーポイントでまとめて、大型スクリーンを使って発表する。グループの宿題として出されることもある。グループで一緒に考えて意見をまとめ、みんなの前で発表してディスカッションする、というのもスマートラーニングの重要な目的だからだ。


 






モクウン中学校のスマート教室で。子どもたちが「技術」の授業中、グループで一緒に小さい自動車を作り、その制作過程を発表している。グループで意見をまとめてみんなの前で発表、ディスカッションするのもスマートラーニングの重要な目的の1つである



 スマートラーニング研究学校の中学生たちに、スマート教室で授業すると何がいいか聞いた。「発表とディスカッションがあるから予習していこうかなって気になる」、「先生がずっと説明するより、3D動画を見たり、他の子の発表を聞いたりする方が記憶に残るから、全科目スマート教室で授業すればいいのに」、「紙の教科書だと苦手な科目はぼうっとしてしまったけど、スマート教室ではデジタル教科書をクリックして参考資料を見ればいいので授業についていける」など、授業を楽しんでいる雰囲気が伝わってきた。


 デジタル教科書研究学校の場合は、国が主導してデジタル教科書を制作した、国語、英語、数学、社会、科学といった主な科目の中から学校ごとに2~3科目を選択して、研究クラスに選ばれたクラスだけ、教室の中でノートパソコンを使ってデジタル教科書を立ち上げて授業をしていた。


 スマートラーニング研究学校の場合は、デジタル教科書研究学校と違ってスマート教室で授業をすべき科目を特に指定していない。教師がスマート教室を使った方が教えやすいと判断すれば、教室を移動して使えるようにしている。


 「リテラシー教育」というのが要らないほど、子どもたちは直感で端末とデジタル教科書を使いこなしている。教師たちも電子黒板を使ったり、子どもたちの端末をフリーズしたり、データを送信したりといった制御方法を30分聞いただけで十分使いこなせているという。


 韓国の文部省にあたる教育科学部と各自治体の教育庁は、スマートラーニングの目的は「平均的な教育ではなく、子どもたちの一人ひとりのレベルに合わせた教育をすることである」として、「スマートラーニングは教室改造ではない。IT技術が教育現場に溶け込まないといけない」という問題意識をしっかり持っていた。韓国のデジタル教科書やスマートラーニングは、教師らの積極的なフィードバッグを反映しながら、改良に改良を重ねている。


 次回は一足先に「スマート教科書」を開発し始めた老舗教科書会社を紹介する。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月27日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120727/1057624/

世界17カ国から視察、すごい“スマート先生”の授業を見学

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韓国有数の名門私立小学校であるソウル市ケソン小学校。この小学校はサムスン電子の「スマートスクール」モデル校である(
関連記事)。4年生を対象に、デジタル教科書とタブレットPC、電子黒板を使った授業を行っている。今回、同小学校へ社会科の授業参観に行ってきた。

 学校内でWi-Fiが使え、クラスの全生徒が1 人1台のタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)を使い、65インチの電子黒板と連動して授業を行う。子どもが席に座り、タブレットPCから「授業参加」をタッチすると、先生のディスプレイに子どもたちの画面が見えるようになる。誰が何をしているのか、戸惑っている子はいないか、一目で確認できるので、一人ひとりにレベルを合わせて教えられるのがスマートスクールのいいところである。


 2011年10月から始まったケソン小学校のスマートスクールを担当しているのは、チョウ・キソン先生。チョウ先生の“スマートな授業”は韓国だけでなく、今や世界中が注目している。ヨーロッパ各国や日本など17カ国から授業参観に来ているのだ。チョウ先生は韓国教育科学部から委嘱されたデジタル教科書開発先導委員であり、APEC教育諮問教師も兼ねている。









チョウ・キソン先生が教える社会科の授業の様子。タブレットPCと電子黒板、チョウ先生自身が編集し直したデジタル教科書を使う(ソウル市ケソン小学校で筆者写す)



 チョウ先生が使うデジタル教科書は、ほかの学校が試験的に導入しているデジタル教科書とは若干違う。政府が制作したPDF版の教科書をベースに、チョウ先生が自ら科目ごとに画像やFlashアニメーション、関連サイトのリンクを貼り付け作った、手作りデジタル教科書なのだ。










子どもたちが使うタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)画面上のデジタル教科書。ここから選択する



 チョウ先生は「教育庁や民間の教育会社が提供するデジタル素材はたくさんあるので、そこから子どもたちの理解を助ける素材を選んでハイパーリンクを貼るだけです。とても簡単。ほかの教師もやっていて資料を共有することもあります」と笑顔で説明する。教師が本を制作するPDF作成ツールをまず覚えて、授業のために素材を毎日追加してデジタル教科書を作る。それを電子黒板と子ども用のタブレットPCに表示して授業をするという一連の作業は、「簡単」といえども相当な手間と時間がかかるだろう。


 チョウ先生は授業が終わるころ、今日学んだことについて子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するため、タブレットPCにクイズ問題を送る。このクイズは電子黒板の中に入っている機能で、その場ですぐ作れるという。子どもが回答して送信すると、それをまとめて電子黒板に映してみんなで討論する。授業は本当に楽しそうで、子どもたちの笑い声が絶えない。学校関係者と保護者、子どもたちだけがアクセスできる教育SNS「クラスティング」に、授業中タブレットPCで撮影した写真を投稿したりもする。


 タブレットPCを使った授業は難しくないのか子どもたちに聞いてみると、「使い方はとても簡単です。タブレットPCがあるといろいろな資料が見られて参考になるし、自分の力でもっと勉強してみようって気になります」と立派な答えが返ってきた。


 ケソン小学校のスマートスクールは韓国でも先進的なケースで、ここまで環境を整えた学校はまだ数校に過ぎない。しかし授業参観をして驚いたのは、タブレットPCやデジタル教科書といった端末の性能よりも、先生である。いろんな機材を操りながら、一人ひとりに目を配り、教科課程に沿って教えるべきことはきっちり教える授業法をマスターしているチョウ先生にびっくりしてしまった。


 チョウ先生は、「先生は道を開いてあげる存在。一方的に教え込むのが授業ではない」と話す。「タブレットPCを使って子どもたちが自ら検索して探求することで、短い時間の間にもっとたくさんのことを学べます」とのこと。スマートスクールの意義は子どもが自主的に学習に取り組むことにあるのだ。


 チョウ先生は放課後も忙しい。Facebook上でデジタル教科書情報をほかの先生と共有し、子どもたちが携帯メールに送ってくる質問に答える。放課後も仕事が続くなんて、先生はいつ休むんですか?という質問に、チョウ先生は「教師として当然やるべきことをやっているだけです」ときっぱり。


 デジタル教科書やタブレットPCはツールにすぎない。大事なのは子どもたちが自ら興味をもって学習できるように先生が導くこと、それをしやすくするのがスマートラーニングのデバイスや技術というわけだ。


 「私はすごくないですよ、韓国の先生はみんなこれぐらい使えますよ」と謙遜するチョウ先生。韓国がスマートラーニング先進国になれたのは、やっぱりチョウ先生のような“スマート先生”がいるからに違いない。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月20日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120720/1056702/

グローバルな市場を学ぶ-今どきのヒット商品 ; 第4回:韓国 . 受験に欠かせない,学習用タブレット端末 

グローバルな市場を学ぶ-今どきのヒット商品

第4回:韓国 . 受験に欠かせない,学習用タブレット端末 


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2011/11/30 00:00

趙 章恩 = ITジャーナリスト

出典:日経エレクトロニクス,2010年12月27日号, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


韓国の2010年は,スマートフォンとモバイル・インターネットなしでは語れない。特に,2010年9月末で出荷台数が500万台を突破したスマートフォンは,人々や社会を変えたとまでいわれている。

 韓国のインターネット環境は,一気にスマートフォンと無線LANに切り替わり,地方選挙では「地元をホットスポットにする」という公約まで登場した。これは,老若男女関係なくスマートフォン・ユーザーが増えているという証拠ではないだろうか。


 2010年末には,韓国でのスマートフォンの出荷台数は600万台を突破し,2011年には1500万~1600万台に達しそうな勢いである。


タブレット端末で受験勉強


 スマートフォンの次は,タブレット端末がヒットするのが世界の流れである。ただし,韓国ではまだ「iPad」が発売されていない。2010年11月に発売になった韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の「GALAXY Tab」は,定額基本料金や端末代金を含めると毎月1万円程度必要になるため,スマートフォンほど気軽に買える状況ではない。


 そこで,韓国独自のヒット商品として売れているのが,さらに小さくて安い「PMP(portable multimedia player)」と呼ばれる学習用タブレット端末である。PMPは,電子辞書や音楽・動画再生,無線LANなどの機能を備えている。


 韓国政府は教育機会均等を目的として,公営放送である教育放送のWebサイトで大学入試講座の動画を無料で提供している。ここから大学入試の問題の一部が出題されるため,高校生はこの動画をPMPなどで見ているのだ。高校生の多くは夜10時まで学校で自習をし,それから塾へ行く。PMPをいつも持ち歩き,空いた時間にPMPで勉強するのである。








学習用タブレット端末「Buddy」は,5型液晶ディスプレイを備え,1080pのHD動画に対応する。OSはAndroid 2.1である。(写真:i-station社)

(写真:Motorola社)


PMPの中で人気なのが,韓国i-station Inc.の「Buddy」である(右上の写真)。中高生をターゲットに売り出し,1カ月で約8000台が売れた。PMPでは通常,パソコン経由で教育放送の動画をダウンロードするのに対して,Buddyは無線LAN経由でダウンロードできるのが特徴だ。価格は,32Gバイト品が42万9000ウォン(約3万円)である注1)

注1) 2010年12月10日時点の為替レート1ウォン=0.07円で換算。


 学習用端末市場に対してSamsung Electronics社は,GALAXY Sでしか利用できない無料の受験勉強用動画アプリケーション・ソフトウエアを同端末に搭載し,それが受験勉強の役に立つとして好評を得ている。PMP市場でシェア7割以上の韓国Cowon Systems, Inc.は,Android 2.2と5型の液晶ディスプレイを搭載し,無線LANと3Gデータ通信が使える端末を2011年1月に発売する予定である。このほかに,電子書籍端末や音楽プレーヤー,ナビゲーションなどのメーカーも学習用タブレット端末に目を付けており,韓国の新学期が始まる2011年3月に向けて新商品が目白押しになるだろう。


 学習用のPMPやスマートフォン,タブレット端末を実際に購入するのは,高校生の親である。就職が厳しくて名門大学に入れないとその後の人生が安定しない韓国だけに,「子供のためになる」「勉強に役立つ」という宣伝文句に親は弱いのかもしれない。


高級+省エネでヒット


 白物家電でヒットしたのが,通常よりも価格が7万~8万円ほど高い,Samsung Electronics社の高級冷蔵庫である。2010年3月の発売から同年6月までに1万台以上売れた。韓国は貧富の差がかなり開いており,価格が安い中国Haier Electronics Group Co., Ltd.の製品が売れる一方,高ければ高いほど売れる市場も存在する。


 韓国では集合住宅に住む割合が圧倒的に高く,4人家族で4LDK,バスルームは二つが基本と,間取りが広い。大きな家電を置く空間的な余裕があり,キッチンとリビング・ルームがつながっている構造なので,家電もインテリアの一部として認識されている。



 この高級冷蔵庫は,イタリアのジュエリー/時計デザイナーのMassimo Zucchi氏が設計した(図1)。以前にもデザイナーが設計したエアコンや冷蔵庫,キムチ冷蔵庫などがあったが,話題性だけで実際にはそれほど売れなかった。しかし,今回は「BVLGARI」や「OMEGA」などのブランドを手掛けてきた世界的に有名なデザイナーだったことに加えて,最新の省エネ機能を備えていたことが人気の秘訣となっている.






図1 表面がきらきら光る高級冷蔵庫

著名デザイナーが設計した冷蔵庫は,水がきらきら光る様子をLEDで表現した「ジュエル・ライト」などを搭載する。(写真:Samsung Electronics社)


この高級冷蔵庫は,四季に応じて自動的に温度を調節する「季節自動モード」やユーザーの生活パターンを記憶して冷蔵庫内を最適な状態に保つ「生活自動モード」など,センサを活用する「スマート・エコ・システム」を搭載している。こうした機能により,容量737Lの高級冷蔵庫の月間消費電力は31.8kWと,世界最小クラスとした。

 ヒットしたもう一つの要因が,宣伝に「国民的息子」と呼ばれ,主婦に人気の俳優 李昇基(イ・スンギ)氏を起用したことである。冷蔵庫の宣伝に登場するのは女優が多かったが,あえて人気の男性を起用したことで「イ・スンギが宣伝している冷蔵庫」と指名買いされるまでになった。検索サイトでも「Massimo Zucchi冷蔵庫」より「イ・スンギ冷蔵庫」と検索した方が,ヒット件数が多いようだ。


最短最多販売記録を更新

洗濯機では,発売から2カ月間で3万台を売り,Samsung Electronics社の最短最多販売記録を更新するヒット商品が登場した。泡を使って汚れを落とす「バブル・エコ・ドラム式洗濯機」である(図2)。既存のバブル洗濯機に比べて洗濯時間と電気代を半減したことから,大ヒットとなった。価格は他社のドラム式洗濯機よりも2万~4万円ほど高めの設定で,13kg対応品が9万~13万円程度である。しかし韓国で「高くても環境に優しい製品を買うのがおしゃれ」という流行を巻き起こした。

 今回の洗濯機は,泡を発生させる「バブル・エンジン」を改良して,泡発生に要する時間を半分にした。さらに,泡を空気と一緒にドラムへ押し込むことで洗濯開始から約2分で泡を衣類へ浸透させ,汚れを早く落とすようにした。この結果,通常は1時間50分かかる標準洗濯時間を55分まで短縮したのである。水使用量は150L/回から98L/回へ,電気使用量は540Wh/回から270Wh/回へと減らした。


 このほかに,従来モデルから好評だった,80℃の空気でにおいやアレルギー物質を除去する「エアー・ウオッシュ機能」に加えて,今回はすすぎの水量を調整して洗剤の残りを最小限にする「スキンケア機能」や,防水加工されたスポーツウエアも洗える「バブル・スポーツ・コース」を追加した。





図2 泡で洗う洗濯機

「バブル・エコ・ドラム式洗濯機」は,19分でワイシャツ1枚を乾燥できる。乾燥時の電気使用量を従来比60%以上削減した。(写真:Samsung Electronics社)




Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/CAMPUS/20111020/199552/.
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B to Cのヘルスケアに乗りだしたSamsung社

.B to Cのヘルスケアに乗りだしたSamsung社


2012/07/31 09:59

趙章恩=ITジャーナリスト



出典:デジタルヘルスOnline,2012年7月26日, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)



 Samsung Electronics社が、B to Cのヘルスケア事業に乗りだし始めた。2012年7月2日、「iPhone5」の対抗馬として注目されているスマートフォン「Galaxy S 3」を利用して、「Sヘルス」と呼ぶヘルスケア・アプリケーションを使えるようにすると発表したのである。


 Samsungグループはこれまで、B to Bのヘルスケア事業に注力していた。具体的には、次世代事業として医療機器や病院パッケージ輸出、バイオ医薬品などの分野に注力することを2010年に発表。2020年までに3兆3000億ウォンを投資する計画を打ち出していた。


 Sヘルスのプレス・リリースが流れてから、韓国ではヘルスケア・ソリューション関連会社の株が一気に上昇した。Samsung社がB to Cのヘルスケア事業を始めるということは、いよいよ同市場が本格的に盛り上がるサインとして業界関係者らが受け止めたからだ。



健康記録を管理し公開できる

Sヘルスは、血圧計や血糖値計で測定したデータをBluetoothまたはUSBでスマートフォンに転送し、手軽に記録できるようにするもの。食べた料理や運動量を記録するとカロリー消費量を計算し、アプリケーションが分析してアドバイスしてくれる機能もある。


 さらに、SNSと連動して、健康記録を家族や友達に公開できる機能も備える。Samsung社は、「24時間いつも一緒にいるスマートフォンこそ健康管理には最適なデバイス」と宣伝している。Sヘルスのサービスは、韓国の他、米国や英国など7カ国で始めた。同社のアプリストア「Samsung Apps」からダウンロードできる。



端末のアピール・ポイントと合致



 Sヘルスを利用できるGalaxy S 3は、Samsung社が「最高の自信作」と胸を張るスマートフォンである。韓国では3G対応モデルが2012年6月25日、LTE対応モデルは同年7月9日に発売されたばかり。世界147カ国で発売される予定だ。


 Samsung社は、Galaxy S 3を「人と交流する端末」「感性を持つ端末」と強調している。例えば、通常のスマートフォンは画面を一定時間タッチしないと画面が暗くなりロックされるが、Galaxy S 3はユーザーが画面を見つめている間は何の操作をしなくてもロックされない。電子本や動画を見る時に便利な機能である。さらに、メールを読んでいる途中に端末を耳に当てると、その人(メールの発信元)に自動的に電話をかける機能もある。


 今回、ヘルスケアに力を入れたのは、Galaxy S 3が人を理解して生活をより便利にする端末であることをアピールするためと見ることもできる。






Galaxy S 3で利用できるSヘルス



スマートテレビからもヘルスケア・サービス



 一方、Samsung社は、スマートテレビを利用したヘルスケア・サービスにも乗りだし始めた。「スマートテレビがあれば痩せられる、健康になれる」といった内容のテレビCMも流しているほどだ。



.Samsung社のスマートテレビからは、230本以上のフィットネス動画を利用できる。ヨガやピラティス、ダンス、ストレッチ、筋トレなどの動画はもちろん、有名芸能人が登場するダイエット動画もある。さらに、ゴルフの姿勢を正しく直してくれるトレーニング動画も100本以上用意している。

 「Virtual Mirror」という機能を備えているのが特徴だ。テレビに内蔵されたカメラで自分の動きを撮影し、テレビの画面を半分に割って自分の姿とインストラクターの動きと比較できるようになっているのである。正しい動作をしているかどうかを確認しながら動けるため、より高いダイエット効果が期待できるという。






スマートテレビを利用したフィットネスの様子

 


 スマートテレビは、パソコンのように個人ごとにIDを作ってログインできるようになっている。自分のIDでログインして身長や体重を登録しておくと、フィットネス動画を利用した時間から算出した消費カロリーを表示する。体重を記録しておけば、グラフ化してどれだけ減っているのかが分かる。Samung社の説明では、前述のCMが流れるようになってから、「スマートテレビのフィットネス機能ってどんなもの?」と売り場に足を運ぶ主婦が増えたそうだ。


本記事は、デジタルヘルスOnlineのコラム・趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」 に掲載したものです。




Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120731/231312/

スマートスクール最前線 from 韓国 ‘ 第4回:タブレット端末を体育の授業で駆使

スマートスクール最前線 from 韓国

第4回:タブレット端末を体育の授業で駆使

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2012/08/23 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン) = ITジャーナリスト
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ソウル市には、「スマートラーニング研究学校」とは別に、韓国Samsung Electronics社がサポートする「スマートスクール」がある。名門私立、ケソン小学校がその一つである。

Samsung社はケソン小学校に65型の電子黒板、タブレット端末の「GalaxyTab 10.1」、さらにはスマート教育に必要なソリューションを提供している。電子黒板からタブレット端末を遠隔で制御したり、先生が作成した資料を生徒に送信したり、先生がクイズを出してその場で採点して正解率を表示したりできる。いわゆる、「Classroom Management」と「Mobile Learning Management System」である。スマートスクールを支援することで、Samsung社はタブレット端末が教育用途に向いているという宣伝効果と、学校のスマート化において必要なソリューションと端末の機能は何かを調査できる。

 筆者はケソン小学校では体育の授業を参観した。それは、タブレット端末を活用して円盤投げの正しい姿勢を覚えるという興味深い内容だった。


 運動場に出る前、先生は子供たちのタブレット端末に体育専門教師による正しい円盤投げフォームの動画を送信し、理論的なことを教える。次に運動場に出て、タブレット端末が内蔵するカメラを使って生徒たちが互いに投げる姿勢を動画撮影する。そして教室に戻り、撮影した動画をコマ送りしながら体育専門教師の姿勢と比較する。


  特に、ここからが面白かった。生徒たちは自分の姿勢と友達の姿勢についてタブレット端末にコメントを書き込む。その書き込みはリアルタイムで電子黒板に送信される。先生は子供たちが書いたコメントを電子黒板で見せながら、意見を出し合うように誘導していた。


 次に生徒たちは各自のコマ送り写真からお気に入りの1枚を選び、それを学校の教育用SNSに授業の感想とともに投稿する。これは「クラスティング」というクローズド式のSNSで、学校関係者、学生、保護者だけが利用できる。保護者のほとんどがスマートフォンを使っているので、生徒たちがどんな授業を受けたのか、リアルタイムで確認できるところが好評だという。


ツールの導入が目的に非ず


  ケソン小学校の教師が使っているデジタル教科書は、既存のデジタル教科書とは異なる。教師がPDF形式の教科書にデジタル教材を各自追加して、子供たちが理解しやすいよう工夫されているのだ。ケソン小学校のチョウ・キソン先生は、政府の教育科学部から委嘱された先導教師の一人として、教師にとって授業を行い易い新しいデジタル教科書の開発に参加している。


 チョウ先生は、デジタル教科書が万能というわけではないと話す。「Google Earthを使うと世界各国の写真が見られます。自分では直接行けない場所でも詳しい資料が見られるので授業に役立ちます」。


 社会科のように地図を見せて授業をする場合は、デジタル教材とタブレット端末の両方を使うことで学習効果を高められる。しかし、数学の場合は問題を解く過程が重要なので、普通の黒板に紙のノートを使う方が学習効果を上げられる場合もあるという。


 チョウ先生は、「タブレット端末やデジタル教科書は、よりよい学習のためのツールに過ぎません」と、それらを導入すること自体がスマート教育の目的になってはいけないとも話す。






スマートスクールモデル校のケソン小学校。体育の授業で、円盤投げをしている生徒をタブレット端末が内蔵するカメラで撮影し、その動画をコマ送りしながら先生のフォームと各自のフォームを見比べている。




ユビキタス学校を開校へ


 韓国には2014年に開校予定の「ユビキタス学校」もある。ソウルから高速鉄道で1時間ほど離れた、行政機関を移転させた新都心の世宗市は、新しく開校する6つの学校をユビキタス学校として建設している。




ユビキタス学校は、スマートラーニング研究学校のような設備に加えて、スマートグリッド、環境にやさしい建築材の使用、仮想現実感(VR)を使った授業、鏡のように見える校内案内用のモニター「スマートウォール」、登下校管理・位置追跡システムなどを導入する計画だ。世宗市では2012年3月に一部の学校を先行的に開校し、教室でタブレット端末とデジタル教科書、3D対応のTV、電子黒板などを使い始めている。


 国を挙げて取り組んでいる「スマート教育推進戦略」の最も重要な要素は、機材ではなく、スマートな教育をできる教師を養成することである。ケソン小学校のチョウ先生は、電子黒板の機能を自由自在に使いこなし、デジタル教科書まで編集できるほどのスキルを持っている。同氏は、「これぐらいのことは韓国の教師なら誰でもできます」と言うが、これは教育科学部と教育庁が教師の研修に力を入れてきた成果だ。


  韓国のスマート教育研修は、教師ならば誰もが受けないといけない義務となっている。これは電子黒板や端末の使い方を教える研修ではなく、教師と学生が双方向でコミュニケーションするスマートな授業の開発、デジタル教科書を使った授業設計について考える研修である。韓国では、教師は大変人気のある職業で、社会的地位も高い。教師は社会をリードする階層であるため、スマートデバイスを使いこなし、最先端のことができて当たり前という自負がある。


 韓国には教員の評価制度があり、研修を履修した教師が少ないと学校の評価まで下がってしまう。加えて、学校評価の結果で年末のインセンティブ額が決まる。つまり、評価が低いと教師全員のインセンティブ額が減るわけだ。自分が研修を受けないと同僚まで収入が減ってしまう仕組みなので、研修をさぼるのは難しい。


1年間で世界17カ国が視察


  韓国のデジタル教科書とスマート教育は、世界からますます大きな注目を浴びている。実際、ケソン小学校はスマートスクールのモデル校になって1年強の間に、世界17カ国からの視察を受け入れた。


 2012年5月、慶州で開催された第5回APEC教育長官会議では、付帯イベントとして韓国のスマート教室が展示された。スマート教育の模擬授業も行い大盛況だった。韓国がスマート教育のリーダーとして、教師のIT活用能力を高めるための研修内容や、スマート教育の資料を公開し、APEC会員国と共有することも同会議で決まった。


 韓国は、学校や校務の情報化、デジタル教科書の導入などスマートスクールの分野で、世界の一歩先を行く。評価できるのは、携帯端末や電子黒板、デジタル教科書を導入することを目的とするのではなく、教師と生徒、そして生徒たちが双方向でコミュニケーションしながら進める授業のような教育のスマート化の推進、そしてそれを実現するために不可欠な人材育成に力を注いでることである。この点は、これから教育のスマート化に本格的に取り組む他国に非常に参考になる。








この日撮った写真の中でお気に入りを選択し、教育SNS「クラスティング」に投稿。ほとんどの保護者がスマートフォンを使っているので、子供達が学校で何をしているのかをSNSでチェックできる。



出典:日経エレクトロニクス

Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120820/234512/

スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化

スマートスクール最前線 from 韓国

第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化


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2012/08/08 00:00

趙章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト


韓国の国家情報化戦略委員会と教育科学部(日本の文部科学省に相当)が、2011年6月に「スマート教育推進戦略」を発表してから1年が経過した。2015年を目標に、全国の小・中・高校でデジタル教科書を導入し、学習ツール、教育方式、教育課程のすべてを刷新するというこの構想は、着実に進んでいる。

 スマート教育推進戦略において、2012年の課題は5つある。(1)デジタル教科書の開発と教育現場での適用、(2)スマート教育研究学校の運営と教授学習モデルの開発、(3)教員のスマート教育実践力量強化のための研修、(4)クラウド教育サービス基盤の造成、(5)教育統合プラットフォームを運営するとともに教育コンテンツの安全で自由な利用環境を醸成する、ことだ。


 2007年からデジタル教科書研究学校を指定して本格的に実証実験を進めてきたデジタル教科書は、改良に改良を重ねて、現在バージョン3.0のテストが行われている。


 バージョン3.0は、教科書のPDFファイルをベースに、現場の教師が子供の学習達成度に応じて参考資料を追加できるようになった。教科過程や教えるべき教科書の基本内容は忠実に守りながら、子供たちが理解しやすいよう、教師が画像やアニメーション、ハイパーリンクを貼り付ける。教科書を楽に編集できるオーソリングツールも一緒に配布する。デジタル教科書のビューアとオーソリングツールは公募し、標準を決めるための作業が行われている。このデジタル教科書3.0の開発には、教育科学部の先導教師(自治体ごとにリーダー役の教師を選抜)120人が参加している。


 韓国ではデジタル教科書の開発がある程度進んだところで、教室のスマート化作業が始まった。ソウル市教育庁は、2011年に新規に開校した小学校、中学校、高校の1校ずつを、「スマートラーニング研究学校」に指定し、学校の中にスマート教室を作った。仁川市では既存のデジタル教科書研究学校を、「スマート研究学校」にアップグレードしている。


 今回筆者が取材したスマートラーニング研究学校は、ソウル市のモクウン中学校とシンド高校である。両校とも建物自体が「スマート」を意識した作りになっていた。韓国の一般的な学校とは違い、商業ビルのようなおしゃれな校舎で、学内の無線LANや電子図書館、グループ活動に使える教室がたくさんあった。学生は必要に応じてスマート教室に異動し、授業を受ける仕組みになっている。学校内はどこでも無線LANが使えるようになっており、教室の正面には3D表示に対応したテレビと電子黒板が設置されている。この「スマート教室」は、韓国の通信事業者であるLG U+社が協賛している。







モクウン中学校のスマート教室での授業の様子。「技術」の授業で、各自タブレット端末やスマートフォンを使って先生が送信した資料を見ている。


 学生には1人一台、韓国Samsung Electronics社製のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」が配布されている。タブレット端末は学校に置いたまま、スマート教室にいる時だけ使うシステムになっている。2015年以降は、低所得層の学生には政府が端末を購入して配布し、その他の学生は自分で端末を購入して持参するというのが、現在の方針である。


 韓国では2012年5月時点で、既に国民の約5割がスマートフォンを所有している。2014~2015年になれば家庭に1台以上はスマートフォンかタブレット端末、もしくはノート・パソコンが普及すると見られている。韓国の教育庁は、政府の予算で国民全員に端末を配布しなくても、各家庭にある端末を使えばいいという方針である。


 スマート教室には、学生たちがタブレット端末や電子ペーパーに書き込んだ学習履歴を保存するサーバーも設置されている。今は学校の中にサーバーがあるが、2015年からは学習履歴をすべて政府が管理する教育クラウドに保存し、いつでもどんなデバイスからも呼び出して使えるようにする。

スマート教室の壁には、大型スクリーンが2つずつ、左右合わせて4台が設置されている。机は4グループに分けられており、学生たちがグループで一緒に資料を作成してスクリーンを作って発表し、みんなで討論するようになっている。

 スマートラーニング研究学校のスマート教室が他の教室と違うところは、タブレット端末や3D対応テレビなどを使うところである。しかし、スマート教室の狙いはモバイル端末の利用を促進することではない。


 真の目的は、先生が一方的に説明する授業ではなく、子供達一人ひとりの状態を把握しやすくすること、子供達が参考資料を検索して自ら探求し幅広く学ぶ授業にすること、グループで協力し発表・討論させることでコミュニケーション能力や協業する能力を高めることにある。そのために一人1台端末を使いながらも、机を4つのグループに分け、壁にスクリーンを埋めたのだ。


 モクウン中学校のスマート教室では、ちょうど「技術」の授業が行われていた。技術用語を先生が口頭で説明するのではなく、まずは3D対応テレビの鑑賞から始まった。概念を理解してから、タブレット端末と電子黒板を連動させて、デジタル教科書を見始めた。デジタル教科書の参考資料を見ながら先生の説明を聞く。


今日の授業をちゃんと理解しているかどうか、デジタル教科書の中にあるテスト問題を解く。この日は学生たちが製作したミニチュア自動車の制作過程と特徴についてパワーポイントで資料を作り、教室の壁にあるスクリーンを使って発表した。

 スマート教室では電子ペーパーと電子ペンも使う。電子ペーパーに先生がテスト問題をプリントして学生に配る。電子ペンで答えを書くと電子黒板からリアルタイムで書いている内容を確認できる。この日は「スマートフォンが登場してから不要になったもの」について書き込む時間があり、誰が何を書いたのか電子黒板に映して討論した。スマートフォンが登場してからデジカメ、MP3プレーヤー、時計といったものがいらなくなったと書いた学生が多かった。

タブレット端末でデジタル教科書を使う授業は難しくないか、と聞くと、「何が難しいの。なんで難しいと思うの?」と逆に質問されてしまった。韓国では中学生でもスマートフォンを使っている子供が多いので、学校でタブレット端末やデジタル教材を使うことに何の違和感もないという。3D対応テレビやデジタル教材を使った授業の方が、従来の紙の教科書よりも理解しやすく集中できるので、「他の科目も全部スマート教室で授業すればいいのに!」というのが子供達の反応だった。





モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。




モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。







出典:日経エレクトロニクス


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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120808/232951/

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スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第2回:2014年にはユビキタス学校

スマートスクール最前線 from 韓国

第2回:2014年にはユビキタス学校



2012/07/30 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト.
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 韓国の学校では2000年ごろから教師がオリジナルのデジタル教材を作って授業で使うようになった。教育用サイトのEDUNETもオープンした。EDUNETには、教科課程に合わせて参考資料が掲載されているので、教科書だけでは理解が難しい単元はここに掲載されている動画やアニメーションを見て補える。参考書を買うお金がない、塾に行きたくても行けないといった山間地域や島に住む子供にも多様な勉強ツールを提供している。


 2002年には教育行政情報化システムである「NEIS(National Education Information System)」が始まり、本格的にデジタル教科書の開発に着手した。2007年には教育科学技術部が「デジタル教科書商用化推進計画」を発表、2008年からは全国の小・中学校でデジタル教科書の実証実験が始まった。


 国語、数学、英語、社会、科学の5科目が中心で、研究学校に指定された学校では1学年に1クラスをデジタル教科書研究クラスに指定し、デジタル教科書を使わない他のクラスと学習効果や子供の健康状態を比較して政府に報告している。また担当教師は、デジタル教科書のユーザビリティの改善やデジタル教科書を使った最適な授業法の開発にも参加している。


 2011年からはデジタル教科書だけでなく、教室と学校をスマート化する「スマート教室実証実験」も開始された。2014年にはデジタル教科書が全面導入されると同時に、ソウルから高速鉄道で1時間ほど離れた副都心には「ユビキタス学校」が開校する計画である。


「デジタル教科書の方が好き」


 2011年9月6日から3日間、ソウル市にあるCOEX展示場で「スマートラーニング、スマートな世界(Smart Learning, Smart World!)」をテーマにした「e-Learning Korea 2011」が開催された。eラーニング、ユビキタス・ラーニングの進化形である「スマートラーニング」の各種サービス/コンテンツを体験できる展示会と、国際会議などのイベントが開催された。10カ国から97の企業が参加し、合計で2万3000人が来場した。




図1 展示会で行われたデジタル教科書の公開授業


2011年9月にソウル市で開催された「e- Learning Korea 2011」での様子。デジタル教科書の実験校では米HP社のパソコンが使われているが、この日の公開授業で使われたのはSamsung Electronics社の 「GalaxyTab 10.1」。


会場では、2009年からデジタル教科書研究学校に指定されている仁川市のトンマク小学校の教師と6年生の生徒が、デジタル教科書を使った公開授業を行った(図1)。韓国Samsung Electronics社のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」を使い、生徒はデジタル教科書を見ながら先生の説明を聞き、デジタル教科書の中にある問題を解いていた。

 公開授業に参加した子供たちからは、「デジタル教科書なんてインターネットが使える人なら誰でも使える。難しいことなんて何もない」「写真や動画を見ながら授業を受けられるし、分からない単語はすぐ検索できるからすごく便利。ノート機能もあるから電子ペンでメモもできる。家からはサイバー家庭学習にアクセスして予習・復習もできるし、デジタル教科書の方が好き」という声が聞かれた。


授業のメモをクラウドに保存


 展示会では「未来教室」も公開された。壁がガラスになったり電子黒板になったりする「マジックグラス」や、教師・生徒・保護者がつながる教育クラウド・コンピューティングなどのデモがあった。


 教育クラウド・コンピューティングでは、現段階で教師が学校の内外で校務を行い、授業の準備ができる。ただし、生徒と保護者向けのクラウドの完成はまだ先。これができると、生徒は授業中にした筆記やメモをクラウドに保存して、教科書はもちろんノートを持ち歩かなくても家庭で予習・復習ができるようになる。保護者はインターネットさえつながる場所であれば、スマートフォンやタブレット端末から子供の学校生活や先生からの連絡事項、成績表などを確認できるようになる。


HTML 5ベースでの開発始まる


 e-Learning Korea 2011の会場で来場者の注目を最も集めたのは、「Future-School」、「Smart-Campus」のコーナーである。ここでは、教科書の内容を3D映像に変換した学習コンテンツや、eラーニング用の映像を簡単に作成できるソリューションなどが展示された。


移動通信市場でトップ・シェアを持つ携帯電話事業者のSK Telecom社と、Samsungグループでeラーニングや社員研修を専門とするSamsung SDS社も出展企業に名を連ねた(図2)。SK Telecom社は、小・中・高生向けに「Tスマートラーニング」というアプリケーションを開発した。スマートフォンやタブレット端末から利用できるデジタル参考書が出版社別・科目別に登録されており、ユーザーは自分で学習目標を立てて参考書をインストールして勉強し、アプリケーション内で質問もできるようになっている。利用料は1科目当たり月2万6000ウォン(約1730円)である。




図2 賑わいを見せるSamsungグループ企業のブース

「e-Learning Korea 2011」におけるSamsung SDS社のブースの様子。同社はSamsungグループ内で、eラーニングや企業研究を担当している(a)。(b)は、Samsung SDS社が開発した学習支援アプリと端末。






図3 タブレット向けの大学入試対策学習アプリ

Samsung Electronics社のGalaxy Tabは、韓国ではジネスマンより中高生の間で学習用として人気が高い。


Samsung SDS社は、企業の社員研修向けに、スマートフォンやタブレット端末を使っていつでもどこでも研修が受けられるソリューションなどを紹介した。また、タブレット端末向けの大学入試対策学習アプリケーションなども出展した(図3)。

 韓国ではデジタル教科書の導入やスマート教育は、逆らえない時代の流れとして受け止められている。大学入試がその後の人生を決める学閥社会であり、早期留学をはじめとして子供の教育のためならお金を惜しまない高い教育熱、そして2011年10月時点で国民の4割に当たる2000万人以上がスマートフォンを使うという情報化の早さも、それを後押ししている。


 2011年11月からは2014年のデジタル教科書商用化のために、技術標準に関する研究会が盛んに開催されている。2010年から「デジタル教科書2.0」として次世代デジタル教科書がHTML 5をベースに開発されているが、より細かく技術標準を決めることでどの端末からも使えるように互換性を高めていく。


出典:日経エレクトロニクス,2011年12月26日号 ,pp.21~22 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120719/229185/
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スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第1回:教科書の“デジタル・シフト”

スマートスクール最前線 from 韓国

第1回:教科書の“デジタル・シフト”


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2012/07/23 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト

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ソウルから西へ約40km。デジタル教科書を使った先進的な授業の様子を見るために、仁川(インチョン)市にあるヨンハク小学校、サムサン小学校、トンマク小学校という3校を訪問した。これらの小学校は、韓国政府によって「デジタル教科書研究学校」に指定されている。

 教室に入ると、正面には電子黒板が設置され、生徒一人ひとりにはノート・パソコンが配布されている。ヨンハク小学校5年生の国語の授業では、生徒が米Microsoft社のプレゼン・ソフトウエア「PowerPoint」を使って自分の意見をまとめ、それを電子黒板に表示して皆の前で発表していた(図1)。サムサン小学校5年生の科学の授業では、デジタル教科書が出すクイズを生徒たちがパソコン上で答えていた。









図1 デジタル教科書を使った授業 風景

実験的にデジタル教科書を使った授業を実施している小学校での様子。(a)は 仁川市のヨンハク小学校。5年生の国語の時間で、自分の意見をPowerPoint にまとめて電子黒板で他の生徒に見せ ながら発表している。(b)はサムサン小 学校5年生の科学の授業風景。デジタ ル教科書にある参考資料を見て天体と星の大きさの違いを学び、クイズを解いている。


 

 デジタル教科書を使った授業を担当する教師によると、生徒たちは使い方を細かく教えなくても直感的に把握して使いこなし、教師よりもインターネット検索やPowerPointでの資料作成に長けているという。


 授業では、担当教師たちがデジタル教科書と電子黒板を使いこなし、楽しく授業をしている様子が伝わってきた。デジタル教科書の中には参考書が入っているが、教師たちはそれだけに頼らずに、授業に関連する参考資料が掲載されている教育用Webサイト「EDUNET」などから写真や動画を集めてオリジナルの教材を作っていた。デジタル教科書の学習効果は、資料が多いほど理解しやすい社会と科学が比較的高いという。


政府主導の教育改革


 韓国の文部科学省に当たる教育科学技術部と国家情報化戦略委員会は2011年6月29日、国家教育政策として「スマート教育推進戦略」を発表した。2014年からは小・中学校で、2015年からは高校でもデジタル教科書が全面的に使われることになった。当初は2013年から本格的に導入される計画であったが、教室の環境や実用性などが問題になり、1年遅れでの開始となる。


 もちろん、紙の教科書がすぐに撤廃されるわけではない。当面は、紙の教科書とデジタル教科書が併用される。科目の単元ごとに教師が効率よく教えられる教科書を選択して使えるようにする。


 「スマート教育推進戦略」は、韓国の公教育(義務教育や公立学校の教育)をよりスマートに行うためにはどうしたらいいのか、という課題を解決するための教育改革である。教育課程、教育方法、学習評価、教師研修などすべてを変えるもので、大きく六つの戦略が盛り込まれている。


 具体的には、① デジタル教科書の開発と適用、② オンライン授業の活性化、③教育コンテンツの公共利用環境の構築、④ スマート教育の強化、⑤クラウド・コンピューティングを基盤にした教育サービス、⑥スマート教育推進のための未来教育研究センターの設立、などである。


 このようにコンピュータやインターネットを活用した新しい教育の実現に向けた包括的な戦略であるが、中でも最も注目を集めているのがデジタル教科書である。


所得格差が生む問題を解決へ


 教育科学技術部が定義するデジタル教科書とは、「学校と家庭で時間と空間の制約がなく利用でき、既存の教科書に参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーションなどのマルチメディアを使って統合。多様なインタラクティブ性を持ち、学習者の特性と能力などに合わせて学習ができるようにした教材」である。


 導入の主な目的に、子供たちが自主的に勉強できる環境を構築することや、紙を使わないことによる地球環境対策、などがある。しかし、それらよりニーズとして切実なのは、所得や地域の格差がなく勉強できる「均等な教育機会」の提供である。


 最近、韓国では不況やリストラなどで所得の格差が広がっている。一般に所得が高い家庭の子供は塾に通えるので成績がよく、名門大学に入学して就職できる。一方、所得が低い家庭の子供は大学に行けないので就職もできない、といった“負の連鎖”が起きている。


 デジタル教科書には、こうした所得格差が生み出す社会問題の解決への期待も大きい。教育科学技術部は、「デジタル教科書は教科書と参考書が一つになっているので、塾に行かなくても子供が一人で勉強できるし、教育費を節約できる」と強調する。


国を挙げてeラーニングを支援


 韓国におけるデジタル教科書開発の歴史は、1997年にまで遡る。同年には、学校総合情報管理システムである「SIMS(School Information Management System)」が導入された。「学校PC教育強化方案」などが策定され、教育用ソフトウエアの開発が始まった。


 韓国ではブロードバンドが本格的に普及した2001年から、動画で英会話や大学入試に向けた勉強ができるeラーニングが盛んになった。2004年には世界で初めて「eラーニング産業発展法」を制定し、政府は中小のeラーニング事業者を支援してきた。2009年にはeラーニング法を「eラーニング産業発展及び活用促進に関する法律」に改定し、国務総理が管轄するeラーニング活性化委員会も始動した。


 改定された法律には、小学校から大学まで教育機関でのデジタル教科書や電子黒板などのIT機材の購入・活用を政府が支援することが明記された。韓国のeラーニング産業市場は、2004年の1兆3000億ウォン(約867億円)から2010年に2兆2500億ウォン(約1500億円)と、年平均で約10%成長している。国民のeラーニング利用率も、2010年末時点で3歳以上のインターネット・ユーザーの49%、小・中・高校生の場合は74.4%に上る。



出典:日経エレクトロニクス,2011年12月26日号 ,pp.19~21 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120719/229183/
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RFIDを使った韓国初の“ヘルスケア公園”、ソウル市江南区の「U-Health park」

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

RFIDを使った韓国初の“ヘルスケア公園”、ソウル市江南区の「U-Health park」


2012年からはNFC搭載スマートフォンにも対応へ


韓国には、健康管理のためにICT技術を活用した公園、いわゆる“ヘルスケア公園”がある。ソウル市江南区に2010年11月5日にオープンした「ヤンジェ川U-Health park」である。

 ヘルスケア機能は、RFIDを利用して実現する。具体的には、距離3.75kmの川沿いの散策路に、RFIDリーダーを埋め込んだ。利用者は、RFIDカードを首からかけて散歩する。すると、利用者の運動距離や歩く速度、時間などから、自動的に活動量を測定してくれる。


 測定した記録は、U-Health parkのWebサイトにも自動的に登録される。会員登録をすれば、利用者は自由に自分の記録を閲覧できる。






RFIDカードを首にぶらさげてウォーキングする利用者(写真提供:江南区保健所)






U-Health Park訪問者センターで健康診断と基礎体力診断をしてからRFIDカードを発行(写真提供:江南区保健所)





RFIDカードをかざすことで運動データを測定し、健康情報を提供するキオスク端末(写真:著者が撮影)



区民対象の無料サービス



 運営の主体は、江南区の保健所。サービスは、区民を対象に無料で提供される。江南区は、韓国の中で富裕層が暮らす街として知られる。U-Health parkは、区民のダイエットや成人病予防、健康維持などのために始まった行政サービスの一つである。


 利用者はまず、インターネットか電話で予約した上で、健康診断を受ける。検査前日の夕方から食事は禁じられる。ヤンジェ川散策路の入り口には「U-Health park訪問者センター」があり、ここで基礎健康検査を行う。なお、同センターは月~土曜日の午前9時から午後6時までオープンしており、看護師と運動管理士、栄養士の3人が常駐している。

 検査と会員登録には40分ほどを要する。検査項目は血圧や血糖、コレステロールなどの血液検査に加え、心肺機能や持久力といった基礎体力も検査する。その上で、個人情報を登録したRFIDカードを利用者に発行する。


 検査結果に基づき、どれぐらい運動をすべきかを運動管理士が提示する。歩き方や運動器具の使い方などについても利用者に説明する。これらの手順を踏んだ上で、利用者はいよいよRFIDカードを首にぶらさげて、散策路に出かける。



継続利用者は400人ほど



 江南区役所によると、2011年10月までに訪問者センターで健康診断を受けRFIDカードの発行を受けた人は600人ほど。定期的に同カードを使って運動している人は400人ほどという。持続的な運動をうながすため、毎週土曜日の午前は、グループで一緒にウォーキングする日にしている。


 散策路は川沿いのため、RFIDリーダーを地中に埋め込めなかった場所もある。こうした場所では、地上にキオスク端末を設置した。13箇所にある同端末からも、利用者は活動量などのデータを確認できる。同時に、「散策する時間をもっと長くするべき」「歩く速度をもっと早くした方が良い」など、利用者に合わせたアドバイスも提示してくれる。


 川沿いのあちらこちらには、複数の運動器具が置かれている。ただし、これらの運動器具の利用時間や利用に伴う活動量は、自動的には測定できない。このため利用者は、どの運動器具を何分利用したのかといったデータを自分でWebサイトかキオスク端末に入力しなければならない。



NFC搭載スマートフォンからも



 江南区保健所は、2012年からは首にぶらさげるRFIDカードでなく、NFC搭載スマートフォンからもサービスを利用できるようにする準備を始めるとしている。NFCとスマートフォンを利用することで、リアルタイムの健康状態から運動アドバイスを行ったり、ヘルスケアとその他のサービスを連携させたりといった、より便利な使い方を模索している。




by  趙章恩

BPnet

2012/02/10

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http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20120210/298882/

技術優位のデジタルヘルス事業は失敗する

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

技術優位のデジタルヘルス事業は失敗する


韓国の過去の失敗から学ぶ(3)



韓国では1990年代から医療保険や病院の情報化といった医療情報化が進み、ヘルスケアを国家産業として支援してきた。展示会では、利用者が認識することなく健康情報を測定して問題があれば自宅で遠隔診療してもらえる便利なヘルスケア・サービスが多数登場した。だが、現実には実証実験止まりでなかなか商用化されていない。それは、技術ではなく法制度や省庁間の縄張り争いといった問題があったからだ。





LG電子の「糖尿フォン」

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キャリア代理店で販売できず自然消滅



 法制度に足を取られて失敗した代表的な事例が、LG電子の携帯電話機である。


 2004年、LG電子は「糖尿フォン」という血糖値を測れる携帯電話機を開発した。携帯電話機の電池パックに血糖測定器を搭載しており、そこに血液を垂らした棒を差し込むと画面に血糖値が表示される。インターネットを介して血糖値のデータはデータベースに保存され、測定された血糖値を分析して健康管理アドバイスもしてもらえるというものだった。携帯電話機の端末が約30万ウォン(約2万4000円)、血糖値測定パックが約10万ウォン(約8000円)と、当時の携帯電話機にしては若干高いというほどで、決して高価なものではなかった。


 糖尿フォンが開発された背景には、2001年から始まったソウル聖母病院のUヘルスケア事業団による遠隔糖尿管理サービスがある。聖母病院で診療を受けている糖尿患者の中で、頻繁に病院に来られない患者を対象に、自宅で血糖値を図って専用のWebサイトに記録すると、そのデータを元に健康管理のアドバイスをする実証実験を始めた。血糖値を測定する機器として携帯電話機とPDAも活用した。インターネットを使って測定と同時に病院にデータが送られるようにすることで、少しでも手間をかけずヘルスケアを行うためである。この実験で使われたのがLG電子の「糖尿フォン」で、2004年商品化されたのだ。


 展示会やショールームでは最先端の携帯電話機として注目された「糖尿フォン」だったが、実際にはほとんど売れなかったという。「糖尿フォン」の目玉である血糖値測定と健康管理アドバイスは遠隔診療に当たるため、医療機器としての認可を得る必要があった。その結果、携帯電話機でありながらもキャリアの代理店では販売できなかったことで、自然消滅してしまったのである。



他にも消滅した機器が…



 LGCNS社の「タッチドクター」も、サービスを中断している。同機器は、2008年末に登場したモニター付きホームヘルスケア機器の一つで、インターネットも利用できる。慢性疾患の患者がこの機器を使って血圧や血糖値を測ると、ヘルス・マネージャーが個人に最適化された健康プログラムや病院との連携サービスを提供するというものである。この機器の開発にはIntel社も参加し、韓国の大学病院や医師会もパートナーとして参加していた。しかし、ヘルスケアに関する国民の認識がまだ低く、300万ウォン(約24万円)もする高価な機器を購入しようとする患者はいなかった。韓国の医療業界では、市場を先行きしすぎたために失敗した事例と評価されている。


 便利で革新的なサービスであったにも関わらず、糖尿フォンもタッチドクターも、話題になっただけで普及することなく姿を消してしまった。



2011年に「産業融合促進法」が制定



 ところが、糖尿フォンの失敗をきっかけに韓国政府は変わり始めた。ICTと既存産業の融合を本格的に推進するためには、新製品を業種ごとに認可・規制する既存の法律を改定しなくてはならないことを切実に痛感したのだ。


 ヘルスケアの場合、基本的にICT政策を担当する省庁と医療機器を担当する省庁の両方の規制を受けるため、商用化するまで何年も時間がかかり、企業が財政難に陥り途中で事業を諦めてしまうこともあった。韓国政府は制度の見直しを続け、2011年に「産業融合促進法」が制定されることになった。


 産業融合促進法により、認可制度を簡素化する融合新製品適合性認証制度が始まった。製品や技術が新しすぎて認可の基準や規格がない場合、企業はその製品分野に最も近い関係機関に適合性認証を申し込み、6カ月以内に認可を受けられるようにした。また複数の機関にまたがって許可や認証を取らないといけない場合は、企業から申請書を受け取った機関が他の機関と協議して認可を一括処理するようにした。



失敗から学んだ韓国、Samsung社の投資発表で今後への期待高まる



 韓国はここ10年の間、「技術優位のデジタルヘルスケア事業は失敗する」ということを学んだ。韓国のヘルスケアが予想よりうまくいかなかったのは、「優秀な技術は売れて当たり前」と勘違いしていたからかもしれない。ヘルスケアは技術より法制度の壁が問題だった。そして韓国は、経験した失敗事例から二つの課題を学んだ。すなわち、(1)機器販売で終わるのではなく患者と医療従事者のニーズを把握し続け、サービス・モデルを作ること、(2)政府の制度の中で具体的にどこをどう直すべきが要求し続けること、である。


 韓国のヘルスケア事業は、2010年にSamsung社とLG社が新規事業として医療機器とバイオ産業に投資することを発表してから、また空気が変わり始めている。Samsung社が得意とする半導体や携帯電話端末、ディスプレイは韓国のIT輸出3大品目でもある。「Samsung社が投資する分野=国家を代表する産業になる」という期待から、ヘルスケアや次世代医療機器関連企業の株価も上がり続けているほどである。





by  趙章恩

BPnet

2011/11/23

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http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20111023/288241/