韓国でSNS選挙運動が合法化、“つぶやき合戦”の火ぶた切る

.
韓国では2012年4月11日の総選挙より、SNSを利用した選挙運動が合法となった。

 中央選挙管理委員会のホームページに告示された「選挙運動」の定義を見ると、「インターネット、電子メール、SNSを利用した選挙運動は常時許容」、候補者はいつでも「インターネットホームページ(ポータルサイト、Hompy(注:mixiのような個人ホームページ)、ブログ)、インターネット掲示板・チャットなどに文章と動画を使って情報を掲示し、電子メールまたはモバイルメッセンジャー、TwitterなどSNSを利用して選挙運動できる」とある。


 Twitterに特定候補や政党を支持するつぶやきを残しても選挙法違反ではないということである。また、選挙当日、オフラインでは選挙運動してはならないが、インターネット上では自由にできるようにした。なお日本ではネットを利用した選挙運動が禁じられている。


 2012年4月11日に行われる総選挙は、全国の国会議員を選ぶ大規模な選挙である。12月には大統領選挙もあるため、SNSを使った選挙運動がどれほどの力を発揮するのか、4月の総選挙で試されることになる。TwitterなどSNSの力で、若い世代が支持する候補へ世代交代となるか、与党が没落するか、これが一番注目されている。


 今までの選挙運動といえば街角演説、駅前での名刺配り、大音量で名前を連呼しながら宣伝カーに乗って街を周回するなどだった。今回の総選挙は「Twitter選挙」とも言われるほど、各党と候補者はTwitterで熱心につぶやいている。SNSに慣れていない候補者のために、TwitterとFacebookを管理してくれるコンサルティング会社まで登場したほどである。選挙に勝つためのSNS活用戦略を練り、どのようにつぶやけば有権者により魅力的に映るのかをアドバイスしてくれるという。


 Twitterでの選挙運動が話題になるのは、今回が初めてではない。2011年の補欠選挙からだった。4月と10月補欠選挙で、20~40代がTwitterを使って無所属と野党の候補を支持。10月の選挙では歴代補欠選挙の中で最も高い投票率45.9%を記録すると同時に、若い世代に支持された候補がほとんど当選した。


 また、「投票認証」が流行った。投票場の前で撮った写真をTwitterに投稿、投票したことを報告し、友人らにも投票するよう呼びかけることである。フォロワーの多い芸能人や著名人が多く参加してファンにも「投票認証」するよう呼びかけたことで一般人の間でもブームになった。

ところが、中央選挙管理委員会は「投票認証」を取り締まった。特定候補に投票しようといったつぶやきと一緒に投票認証したり、フォロワーの何人以上が投票認証すれば自分は○○しますと約束して、特定候補に投票するようそれとなく仕向けるつぶやきは選挙法違反であるとして、人気芸能人が取り調べを受けたりした。


 それがきっかけとなってSNSを利用した選挙運動がどうして違法なのかの議論が始まり、2011年12月には憲法裁判所が、経済的・社会的地位や年齢、性別、地域などに関係なく誰でもアクセスできる公平な選挙運動の手段としてネット選挙運動を合法化すべきと決定し、中央選挙管理委員会がルールを変えた。


 さっそくポータルサイトは4月11日に向け、総選挙特設ページを設けた。選挙管理委員会が提供する候補者の公式プロフィール、投票場案内、選挙関連記事一覧、Twitterをはじめ各種SNS上に書き込まれた選挙関連情報を集めて見やすいように表示。Twitterで多数RT(リツイート)された選挙関連書き込みは別途まとめている。検索結果にTwitter検索も反映し、芸能人のTwitterつぶやきをまとめて初期画面に表示するなど、SNSと連動したサービスにも力を入れる。ポータルサイト最大手のNAVERは、SNS上の書き込みを分析して、話題のキーワードをリアルタイムで表示する。総選挙特設ページはスマートフォンやタブレットPCから見やすいようモバイル用も提供する。










今回の選挙をきっかけに、ポータルサイトはTwitterとFacebookに移行している“情報のたまり場”としての役割を自分たちに戻す絶好のチャンスと見ているようだ。ニュースに対するコメント、問題提起といった意見のやりとりや口コミ・企業宣伝などは、以前はポータルサイトのニュースコメント欄や掲示板へ投稿されていたが、スマートフォンとSNSが登場した2009年11月以降からはTwitterとFacebookに取って代わってしまったからだ。


 SNSを利用した自由な選挙運動の一方で、誹謗中傷や間違った情報がRTにより伝播して事実であるかのように広がってしまうことを懸念する声もある。しかしSNSは匿名で利用できても、自分が誰であるかを明かし、知人や友人とつながっているので、実名制の掲示板よりも誹謗中傷が少ないといわれている。Twitter選挙運動でお金をかけない選挙、有権者の声が大いに反映される選挙に変わることができるか、興味深い。






趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年3月23日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120322/1044342/

キャリアとメーカーがケータイ販売価格を“談合”していた

.
韓国の公正取引委員会は2012年3月15日、SKテレコム、KT、LGU+の通信キャリア3社とサムスン電子、LG電子、パンテックのメーカー3社に対して「不当顧客誘引行為」をしたとして、課徴金453億3000万ウォン(約34億3000万円)の納付命令を出したと発表した。キャリアとメーカーが談合して端末価格を高く設定し、各種割引で安く買えるように見せかけてユーザーをだましているというのが理由だ。SKテレコムとサムスン電子は異議を唱え、行政訴訟を起こす方針であるとしている。






SKテレコムの代理店。個人情報保護のため、紙ではなくタブレットPCを使って会員情報登録を行っている。韓国の販売代理店が携帯やスマートフォンの端末価格を膨らませて大幅に割引しているかのように見せたことが問題になった(写真は本文と関係ありません)

公正取引委員会が調査したところによると、キャリアとメーカーは代理店に販売する端末価格を実際の価格より高く表記し、ユーザーにはキャリアとメーカーが「端末購入補助金」を支給して大幅に割引販売しているかのように見せかけていた。2008年から2010年まで販売された機種の中で、SKテレコムが120機種のうち26機種、KTが77機種のうち4機種、LGU+が56機種のうち14機種、合わせて253機種のうち44種が端末価格を膨らませていた。

 からくりはこのようになる。キャリアとメーカーが談合して、メーカーがキャリアに納品した端末価格より、1台あたり平均30万ウォン(約22000円)ほど高く代理店販売価格を設定する。キャリアは代理店に、1台販売するごとに平均14万ウォン(約10500円)を奨励金として支払い、代理店は5万ウォン(約3700円)のマージンを残して代理店価格から1台9万ウォン(約6800円)ほど値引きしてユーザー販売する。差し引きすると、結局ユーザーは、割引してもらったと思ったものの、実際の端末納品価格より15000円ほど高く買っていたことになる。


 つまり、「代理店価格(出庫価格)」という端末価格の表記があり、そこから該当キャリアの利用年数や平均料金を割り出して「端末購入補助金」が販売代理店に適用される。代理店は、出庫価格よりも安く買えるようになっている。出庫価格が実際の価格より2万円以上も膨らんだ水準になっていたため、ユーザーから見ると割引してもらったと思っていたのが実は全然そうでなかったということである。筆者の場合、端末を安くする代わりに条件があるとして、高いデータ通信料金に加入させられただけに、二重にだまされた気分である。

また今回の調査により、あるメーカーの端末の場合、韓国内での出庫価格は5万円ほどする一方、海外40カ国での平均出庫価格は2万円にも満たないことが明るみになった。同じ端末なのに、韓国のユーザーには2.5倍も高く売っていたのだ。


 韓国はこれまで、同じキャリアの代理店なのに、代理店ごとに端末の価格が全然違うことも問題になっていた。例えばSKテレコムのユーザーが機種変更しようとした場合、同じ機種なのに代理店AとBでは値段が全然違うので、複数の代理店を歩き渡り一番安いところで機種変更していた。新規加入するときも同じで、代理店Aは端末価格無料なのに代理店Bでは数千円したりと、定価というものがなかった。その理由は販売奨励金にある。


 韓国では2008年より販売奨励金が復活し、キャリアから代理店に支払われる奨励金だけでなく、メーカーも代理店に奨励金を支払い自社の端末を販売するようにしていた。代理店は奨励金から自由に自分のマージンを残して割引販売するので、代理店Aはマージンを少なくして端末を安く販売し、代理店Bはマージンを多くして端末を高く売る、という仕組みだ。


 キャリアとメーカーは、補助金をはじめ販促費用を商品価格に上乗せするのは当たり前のことであるとして猛反発する。公正取引委員会はキャリアとメーカーに対し、課徴金を支払うほかに、端末の納品価格と代理店価格の差額、販売奨励金の内訳をホームページに公開するように求めているが、これも営業秘密だとして反発する。公正取引委員会の処置がうやむやにならず、携帯電話端末流通、引いては適正な価格の改善につながってほしいものだ。






趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年3月17日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120316/1044007/

LTE普及で音声通話が無料となるか?

.
2012年2月に発表された2011年度の決算によると、携帯電話最大加入者数を誇るSKテレコムは、前年比売上は2.2%伸びたものの、営業益は6.3%減少、純利益は10.4%減少した。ARPU(average revenue per user、1契約当たりの平均収入)も3万3175ウォン(約2430円)と、2010年の3万4491ウォン(2530円)に比べ4%ほど減少している。

 利益が減少したのは、トラフィック増加によるインフラ投資、次世代通信であるLTEの全国サービスに向けて設備投資が増えたという影響がある。ただ、それよりも通信キャリアが恐れているのは、無料でチャットができるメッセンジャーアプリだという。


 キャリアの基本収入である音声通話、SMS(ショートメッセージサービス)の売り上げが減っているのは、ユーザーが音声通話の代わりに無料モバイルチャットで用事を済ませてしまうからだ。SMSの売り上げは主要キャリア(SKテレコム、KT、LG+)3社合わせて年間1兆5000億ウォン規模(約1100億円)にのぼる。スマートフォンが普及すればするほど、無料メッセンジャーアプリを使うユーザーが確実に増えると予測されているため、キャリアの音声通話とSMSの料金見直しは選択の余地がないだろう。


 無料メッセンジャーアプリの代表格であるカカオトークは3200万ダウンロードを突破、1日に10億件ものメッセージが送信されている。やはりメッセンジャーアプリでポータルサイトDaumが提供する「マイピープル」、ほか「ティックトック」といったアプリもそれぞれ1000万ダウンロードを突破した。ティックトックの場合、2011年7月にサービスを開始して5カ月で1000万ダウンロードを記録し、カカオトークよりも早いスピードでユーザーを集めている。これだけユーザーが多いというのは、韓国のスマートフォンユーザーは、カカオトークを定番として、他のメッセンジャーアプリも合わせて使っているということになる。


 マイピープルはDeNAの「Mobage(モバゲー)」と提携し、2012年2月から「Daum Mobage」という名前で韓国語サービスを始めた。Mobageとマイピープルを連動させてユーザー同士でのチャットや音声通話もできるようにする。









Daum Mobageの画面。2012年2月23日「Daum Mobage」サービスが開始。無料メッセンジャーアプリの競争が激化している中、Daumのメッセンジャーアプリ「マイピープル」とMobageを連動させたサービスに期待が集まる



 韓国ではまだ音声通話アプリよりも、電話番号がIDとなるチャットのようなメッセンジャーアプリが一般的である。相手の電話番号さえ知っていれば、お互いが加入するキャリアに関係なくメッセージを送信できる。例えばドコモのユーザーがauのユーザーへ、電話番号をアドレスにして携帯電話からメッセージを送信できるようなものである。

中央省庁の一つである放送通信委員会が実施した2011年度スマートフォン利用実態調査では、スマートフォンユーザーの70%が、無料のメッセンジャーアプリを使うようになってから、キャリアが提供する有料のSMSサービスをほとんど使わなくなったと答えた。カカオトークがあれば十分だからだ。キャリアの立場からすると、カカオトークはトラフィックに負荷をかけ、SMS収益まで奪い続ける憎い存在である。

 キャリアも3社それぞれメッセンジャーアプリを提供しているが、既にカカオトークに慣れてしまったユーザーはなかなか変えようとしない。SKテレコムの子会社であるSKプラネットは3月7日、カカオトークの次に人気の高いティックトックを買収する方針で検討していることを明かした。新しくアプリを作るより、人気のアプリを買収した方がお得かもしれない。


 一方で、キャリア3社が共同で無料メッセンジャー+音声通話アプリを開発するという話もある。SKテレコムをはじめキャリアがこれから導入しようとしているアプリは、スマートフォンのアドレス帳からチャットや無料音声通話ができるようにするものである。アプリを立ち上げなくてもすぐ使えるのが便利だ。他のアプリに音声通話の市場を取られるよりは、自分達が提供して広告収入とLTEデータ通信費を少しでも伸ばしたい、ということなのだろう。早ければ7月にはスマートフォンにプリインストールされる。


 韓国では無料音声通話アプリといえばSkypeやViberなどで、主に子どもを海外留学させている母親や国際電話をかけることが多いビジネスマンがよく利用している。日本でサービスしている韓国企業の無料音声通話アプリもインストールさえすれば韓国でも使えるが、今のところ音声通話機能のないカカオトークの方が使いやすいと断然人気が高い。音声通話アプリをインストールしたものの、3Gからはつながらないという不満のレビューもよく目にする。インターネット電話加入者が多いので、既に加入しているインターネット電話会社のアプリ(加入者間通話は無料だが基本料あり)を使って電話代を節約する人もいる。


 韓国ではLTEがある程度普及してから、安定した品質で音声通話アプリを始めるもくろみだった。実際、LTEは順調に加入者を増やしている。


 2011年7月から受付を開始したSKテレコムのLTE加入者は、2012年1月末で100万人を突破した。実測で下り24Mbps、上り11Mbpsほどなので、スムーズに音声通話アプリや動画を利用できる。しかし使い放題の料金制はなく、月々約4000円で1.2GB分使えるプランだ。SKテレコムのLTEデータトラフィックの69%がマルチメディアであるため、LTEユーザーには動画サイトの利用料を割引するといった計画もあるという。SKテレコムは2012年末までにLTE500万人加入を目標とする。LGU+もLTE加入者が100万人を突破した。いよいよ2012年下半期から多様なモバイルVoIPサービスが登場すると見られる。







趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年3月9日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120309/1043422/

MWC2012、韓国製スマホの背後にぴたり中国勢

.
2012年2月27日から3月1日までスペインのバルセロナで開催された「Mobile World Congress 2012」に、目玉のスマートフォンを手にサムスン、LGを中心とした韓国勢が参加した。

 サムスンはプロジェクターとしても使えるスマートフォン「Galaxy Beam」、タブレット「Galaxy Tab2」といったデバイスと、第4世代移動通信であるLTEを利用した音声通話などの技術を展示した。サムスンは今年「経験」をテーマにしていて、デバイスそのものの特徴よりも、それを通じてどんなことを経験できるのかを見せたいと強調している。






MWC2012でサムスンはプロジェクター機能がついたスマートフォン「Galaxy Beam」、10.1型のGalaxy Tab2などを展示した。


Galaxy Beamの場合、毎日のようにプレゼンをする営業パーソンでもない限り、スマートフォンにプロジェクター機能が付いて何に使うのかと思ったが、家の中でビーム機能を使って壁一面に写真を映して見たり、動画を再生したりするのも面白いかもしれない。プロジェクター機能が搭載されたスマートフォンの中では最も薄い12.5mm、8GBの内蔵メモリー、500万画素カメラ付きで、プロジェクターは最大50インチの画面に対応する。画質も明るく一般的なプロジェクターと変らないほどだという。

 「Galaxy Tab2」は10.1型と7型の2種類で、Android 4.0(開発コード名はIce Cream Sandwich)を搭載する。Sペンという電子ペンを使って手書き入力、お絵かきもできる。サムスン独自のアプリケーションストアとメッセンジャーや通話機能もあるコミュニケーションアプリ「チャットオン」が利用できて、ユーザーの情報を基にアプリを推薦してくれる「S Suggest」機能も付いた。端末そのものの機能はもちろん、それを使って何ができるかという面でアプリにも気を使った様子がうかがえる。


 LGは、「Optimus Vu:」、「Optimus 3D max」、「Optimus L7」、「Optimus 4XHD」などのスマートフォンを展示した。スマートフォンの独特なデザインや処理能力向上を強調した。


 「Optimus Vu:」は4対3 画面比の5型の大画面が特徴のスマートフォンで、8.5mmの薄さに168gという軽さで携帯しやすくなった。4対3 の画面比はWebサイトや電子書籍を読むときに便利な画面比で、パソコンよりもスマートフォンからより頻繁にネット検索や電子書籍を利用するユーザーにはぴったりである。LGが得意とする3DTVの技術をスマートフォンにも適用した「Optimus 3D max」も話題になった。2012年上半期に発売予定の、スマートフォンやタブレットを置くだけで充電できる無線充電器も展示した。


毎年MWCで表彰されるグローバルモバイルアワーズでは、サムスンのGalaxy S2がベストスマートフォンに選ばれた。2005年と2007年に続いて3度目である。候補になったのはほかにiPhone 4S、HTC Desire S、Nokia Lumia800などである。携帯電話端末では世界市場第2位になるものの、スマートフォンではアップルを超えられないのではと懸念され、さらにはアップルとの訴訟も続いていたサムスンだけに、ベストスマートフォンに選ばれたことは韓国で大々的に報道された。2011年はiPhone 4がベストスマートフォンだった。来るべきiPhone 5に対抗して、2012年もスマートフォンは激戦を繰り広げそうだ。

 サムスンはベストデバイス企業賞(Device manufacturer of the year)も受賞した。企業賞に選ばれたのはこれが初めてである。2011年は台湾のHTCが受賞した。


 しかし韓国のモバイル業界では、賞をもらってうれしいのも束の間、先進国にやっと追いついたと思ったところ、後ろを振り返るとすぐそこに中国勢がいた。


 MWC2012でも、クアッドコアCPU搭載のスマートフォンを展示したのはLGと中国勢のHuawei、ZTE、HTCだった。ZTEは、2011年10~12月の世界市場端末シェアで、Nokia、サムスン、アップルに続いて4位に浮上した。スマートフォンに出遅れて2010年は一時期赤字に陥り、2011年やっとの思いで巻き返したLGにとっては、技術力もあって価格競争力もある中国勢のスマートフォンより恐ろしいものもないだろう。サムスンも中国勢を恐れて、Galaxy S3を今回の展示会に公開せず、公開と同時に販売を開始することにしたほどだ。


 MWC2012では、通信事業者のKTもプレミアムWi-Fiソリューションが評価され技術賞を受賞した。既存のWi-Fiより8倍速く、17倍の同時接続を可能にした。KTはMWCで2009年広告賞を受賞したことはあるが、技術を評価されたのはこれが初めてだ。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年3月2日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120302/1042843/

韓国スマホユーザーは1日に4時間利用、8割以上がショッピング経験

 韓国ではスマートフォンユーザーが人口の半分に近づく中、ITカテゴリーニュースのほとんどがスマートフォンで埋め尽くされている。今週は、2月27日からスペインのバルセロナで開催されるMWC2012を前に、サムスンとLGの新しいスマートフォンが公開され話題になった。


 LGは厚さ9.6mm、重さ148gと世界で最も薄いという3Dスマートフォン「Optimus 3D Cube」をMWC2012で初公開し、ギネスブックにも登場するとしている。スマートフォン上のアイコンを自由に変えられる機能も付く。アイコンを変え、待ち受け画面を編集する機能がそんなに大事なのかな? と思ったら、20代のスマートフォンユーザーの間ではものすごく重要なポイントだそう。スマートフォンのアイコンや待ち受け画面、チャット用のアラームなどをアプリストアでダウンロードして編集するのが当たり前で、いじらず出荷状態のまま使うと、「おばあちゃんスマホ」とからかわれるのだとか。


 サムスンは「Galaxy Ace2」と「Galaxy mini2」を公開した。デザインとグリップ感はそのまま生かし、カメラとディスプレイの性能をアップグレードした。Galaxyからは、サムスンとAndroid両方のアプリケーションストアを利用できる。サムスンは「合理的な性能と価格のGalaxyシリーズを発売して、より多くの人にスマートライフを楽しんでもらえるようにする」ために、「普及型スマートフォン」にも力を入れていくという。






サムスンの「Galaxy Ace2」(上2つ)、「Galaxy mini2」(下2つ)



 端末のニュースだけでなく、スマートフォンユーザーの実態調査も毎日のように発表されている。


 オンラインマーケティングリサーチ会社のエムブレインがスマートフォンユーザー1838人を対象に調査したところ、スマートフォンの1日平均利用時間は4時間、主に訪問するポータルサイトはNAVERが97.4%、DAUMが77.9%、NATEが60.7%、Googleが53.2%の順だった。Googleはパソコンからの利用率は数%程度なのに比べ、デフォルトでGoogle検索が設定されていることからスマートフォンからの利用者が増えたとみられる。ポータルサイトのNATEは、誰でも自由に書き込めるネット掲示板が有名で、20代が好んで利用し、Googleは40代に人気があった。また8割以上がスマートフォンからショッピングをしたことがあると答え、韓国でもいよいよモバイルショッピングが市民権を得たと調査は分析する。


地上波放送のSBS(ソウル放送)は、2月19日、幼児のスマートフォン利用実態について放映した。多くのお母さんたちが、「赤ちゃんが泣きやまない、ぐずる、そういうときにスマートフォンを与えると泣きやむ」という理由で、スマートフォンで遊ぶようにさせているという。スマートフォンからアニメやゲームのアプリを利用させると赤ちゃんが夢中になって、泣きやむというのだ。赤ちゃんをベビーカーに乗せてスマートフォンを見せてあげられるホルダーまで登場し、ヒット商品になっている。

 番組で5歳未満の幼児16人にスマートフォンと人形、おもちゃなどから一つ好きなものを選ばせたところ、10人がスマートフォンを選択していた。


 この番組が、脳治療専門家に依頼して、スマートフォンに夢中になっている幼児の脳を分析してもらったところ、右脳の活動が他の幼児よりも減っていることが分かったという。「幼児のときにスマートフォンで脳を刺激しすぎると、右脳の機能が衰える。落ち着かない、過剰に騒ぐ子どもによくある現象。幼児のときはスマートフォンより家族みんなで遊ぶのが一番いい」と警告したほどだ。


 もちろん、このような可能性を主張する人たちがいると番組が示しただけで、今後さらなる研究が必要だろう。ただ、幼児への影響に対する心配が表面化するほど、韓国では赤ちゃんや幼児のスマートフォン利用が問題になっている。何かと便利なスマートフォンだが、子どものおもちゃとして長時間利用させてはいけない理由が「右脳」にあるかもしれないとは。だとすれば、タブレットやパソコンにも該当するのではないか。


 韓国の教育科学部(日本の文部科学省にあたる省庁)は、青少年のいじめや暴力問題を予防するため、オンラインゲームの利用時間を制限するといった規制をしようとしている。オンラインゲームのしすぎで(関連記事「スマートフォンでもゲーム漬け」韓国の深刻」)ゲームの世界と現実を区別できず、青少年が暴力的になっているというのが教育科学部の考えである。しかし幼児の頃からスマートフォンでゲームをさせていれば、中高校生になっても遊びといえばオンラインゲームしか思い浮かばないのが当然だろう。オンラインゲームを規制したところでいじめがなくなるかは疑問だが、これを機会に「右脳に影響を与えないゲームアプリ」が登場しそうな気がする。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年2月24日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120223/1041924/

ネットワーク接続遮断まで起こしたKTとサムスンの大激突

通信事業者最大手のKTが2月10日から14日まで、サムスンのスマートTVからKTのネットワークを経由してアプリケーションや動画が観られないよう、接続を遮断した。サムスンのスマートTVによってトラフィックに負荷がかかりすぎているため、接続を制限するしかないというのがKTの立場である。

 KTによると、「スマートTVのトラフィックは20~25Mbps。スマートTV15万台を同時に視聴する場合、KTのネットワークに緊急事態が発生する恐れがある」と主張する。これに対しサムスンは、「スマートTVのトラフィックはIPTVよりも少なく、せいぜい1.5~8Mbpsしかない。スマートTVでも、地上波テレビの視聴は普通のテレビと同じく電波を利用している。動画やアプリケーションだけネットを経由して利用するので、ネットワークに負荷をかけるほどではない」と反論する。


 韓国ではKTとサムスンの戦いが連日トップニュースとして扱われ、ネットワーク中立性はどうなるのか、注目している。








スマートTVを視聴するユーザー。KTは自社のネットワークを経由してサムスンのスマートTVに接続できないよう遮断した。KTは、サムスンにスマートTVがネットワークに負荷をかけているのでネットワーク使用料を払うべきと主張する



 テレビからネットを経由してドラマや映画、ゲームといったコンテンツを利用するという面で、IPTVとスマートTVは似ている。ただし、IPTVは通信事業者が提供するサービス、スマートTVは家電メーカーが提供するサービスという違いがある。スマートTVの利用者が増えるにつれ、通信事業者は、スマートTVを販売するサムスンとLGがネットワークにタダ乗りしていると反発するようになったのだ。KTはサムスンとLGに、「スマートTVを売りたいならネットワーク使用料を払うべき」と要求している。


 KTは大量のトラフィックを発生させる企業からもネットワーク使用料をもらうことで、ネットワークに投資できる金額を増やせる、より高速で安定的なネットワークサービスを提供できると主張する。


 KTはLGのスマートTVは接続を制限していない。LGはKTとネットワーク使用料に関する話し合いをしているが、サムスンはその機会を持たなかった。サムスンは「ネットワーク中立性に違反する処置である」、「スマートTVからアプリケーションを利用するとどれぐらいのトラフィックが発生しているのか検証が必要で、KTの主張を鵜呑みすることはできない」、「高速道路利用料を、車の持ち主ではなく自動車会社に払えと言っているようなもの」と、KTとの話し合いに応じなかったため、今回の接続制限に至ったという。



 KTとサムスンの対立が訴訟戦になりそうになったところで放送通信委員会が仲裁に入り、14日の午後6時頃から接続が再開された。KTとサムスンはスマートTVのビジネスモデルを一緒に考えていくための正式な話し合いを始める、ということで合意した。


 しかし他の通信事業者(SKブロードバンドとLGU+)も、スマートTVからのインターネット接続を遮断することを検討しているとして、KTに同調する。通信事業者とサムスンとのトラブルは全て収まったわけではない。


 ユーザーの心配は、スマートTVから始まったトラフィック負荷とネットワーク使用料論争が、一番人気のある「カカオトーク」や「スカイプ」といったメッセンジャーと音声通話のできる無料アプリケーションにまで及ぶのではないかということだ。


 KTはサムスンからネットワーク使用料はもらえなくても、何らかの形で収益を分けてもらうようビジネスモデルの話し合いを始める。接続を遮断するという強攻策のおかげで、話し合いに応じなかったサムスンを交渉テーブルに連れ出す作戦は大成功というわけだ。


 しかし、KTにインターネット接続料金を払い、サムスンのスマートTVを利用している加入者を無視して、一方的にサービスを使えないよう遮断したKTの責任は問われなくていいのだろうか。サムスンによると、2012年2月時点でサムスンのスマートTVは80万台が売れ、その内30万台がKTのネットワークを経由して使われているという。企業同士の争いにユーザーを“人質”にしていいのだろうか。KTとサムスンという韓国を代表する大企業の張り合いで、損をするのはユーザーだけである。


 放送通信委員会は15日から、スマートTVをネットワーク中立性ガイドラインで定めるサービスの例外にすべきか、アプリケーション事業者が通信事業者にネットワーク使用料を払うべきかを諮問委員会を通じて検討し始めた。


 学界からは、モバイルVoIPとスマートTVの接続制限を許した場合、通信事業者が自社の利益のために新規サービスを妨害する恐れがある、これは結局ユーザーがよりよいサービスを利用できる機会を失う被害につながるとしている。ネットワーク使用料はユーザーからもらっているので、それで十分というサムスンの立場と同じである。ポータルサイトの掲示板でも、KTのサムスンスマートTV接続遮断はやりすぎ、というのが全般的な意見だった。通信事業者の一方的なサービス接続遮断の再発防止策も必要である。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2012年2月17日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120217/1041419/

ソウル市、不要な携帯電話を回収して奨学金にする取り組み

日本と同じく、韓国の携帯電話販売代理店にも要らなくなった携帯電話端末を回収するボックスがある。それだけでなく全国の郵便局、区役所にも回収ボックスが置かれている。家の中で眠る携帯電話やバッテリーを回収してリサイクルしようというキャンペーンは何度も行われてきた。しかしそのほとんどが単発的な期間限定のイベントだったため、期間終了後は代理店や郵便局まで持って行くのが面倒だからとゴミとして捨てる家庭も多かった。

 そこで思い立った時にいつでも携帯電話を回収できるよう、ソウル市では2012年1月から279の地下鉄駅構内にも回収ボックスを置くことにした。マンション団地ではゴミ回収の日に携帯電話を別途回収するようにした。


 さらに、回収された携帯電話をリサイクルして、部品を再資源化し、その収益を奨学金にする「廃携帯電話奨学金」という活動を始めた。日本でも総務省、経済産業省、環境省が力を合わせて「携帯電話リサイクル推進協議会」を運営する。韓国は一歩進んで、携帯電話を捨てずに回収すれば環境のためにもなり、さらにその収益が奨学金となるので2度社会貢献できるという点をアピールする。






韓国では2009年から全国の郵便局でもいらなくなった携帯電話を回収している。2012年1月からはソウル市全ての地下鉄の駅でも回収する


この「廃携帯電話奨学金」のきっかけは、環境キャンペーンがきっかけとなった。2011年、中央省庁の一つである環境部が全国の携帯電話販売代理店、学校、大手スーパーマーケット、競馬場で携帯電話回収キャンペーンを実施し、151万台を回収、再資源化して部品を売り10億8000万ウォン(約747万円)の収益を上げた。これを全額、低所得層青少年のための奨学金として使った。このキャンペーンを継続して奨学金を増やしていくため、ソウル市をはじめ、自治体が積極的に動き始めた。


この「廃携帯電話奨学金」のきっかけは、環境キャンペーンがきっかけとなった。2011年、中央省庁の一つである環境部が全国の携帯電話販売代理店、学校、大手スーパーマーケット、競馬場で携帯電話回収キャンペーンを実施し、151万台を回収、再資源化して部品を売り10億8000万ウォン(約747万円)の収益を上げた。これを全額、低所得層青少年のための奨学金として使った。このキャンペーンを継続して奨学金を増やしていくため、ソウル市をはじめ、自治体が積極的に動き始めた。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年2月10日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120210/1041106/

NTTドコモの通信障害は“対岸の火事”ではない韓国通信事情

スマートフォンから使う無料通話アプリが原因で、2012年1月25日にNTTドコモのサービスで通信障害が発生したというニュースは韓国でも報道された。韓国も同じく3Gネットワークを経由した無料通話アプリが大人気で、これが大量のデータトラフィックを誘発していることからネットワーク障害が度々発生しているからだ。

 韓国ではスマートフォンを買うと真っ先に無料メッセンジャーと、加入者同士が無料になる音声通話アプリをダウンロードするほどである。通信キャリアのLGU+からは、Skypeのように加入者同士は無料、通常の半額ほどの料金でスマートフォンから固定電話や携帯に電話をかけられる有料の音声通話アプリも登場した。






キャリアのLGU+が始めた有料音声通話アプリ「U+070」。Skypeのように加入者同士は無料で、スマートフォンから固定電話や携帯電話へは通常の半額ほどで電話をかけられる


韓国放送通信委員会は2012年2月より、韓国内の有無線データトラフィック状況を把握できる「トラフィックマップ」制作に着手する。どのサイトがどれぐらいデータトラフィックを使用しているのかを把握できるようにするためのものである。トラフィックマップがあれば、ブロードバンド、2G、3G、Wibro(韓国のWiMAX)、LTEそれぞれのネットワーク上でどのような類型のサービス(例えば音声通話・映像通話アプリ、映像配信、テキスト、ゲームなど)が、どれぐらいのトラフィックを使っているのかが分かる。

 同委員会は2012年度の主な事業としてこの「トラフィックマップ制作」を挙げているほど力を入れる。より効率的なネットワーク投資計画を立てられるデータとして活用できると期待しているからだ。


 トラフィックマップについて「通信障害を事前に防止するための処置」、「キャリアと政府系ITシンクタンク、学界が参加するモバイルトラフィック急増対策班がマップをどのように活用するか議論していく」(同委員会)としている。説明によると、トラフィックマップを作り国全体のネットワークを管理することは米国で始まり、主な先進国で既に導入されているという。マップは企業の内部資料を集めたものなので一般に公開せず、通信事業者のネットワーク投資の資料として利用するという。


何が「合理的なトラフィック管理」なのか



 また合理的なトラフィック管理のためのガイドラインも公開した。これには大量のトラフィックを誘発しているアプリやサイトに一時的にアクセスできないよう通信事業者が遮断できるという内容が含まれているため、ネットユーザーの間で反発が巻き起こっている。トラフィック増大を理由に無料通話や無料テレビ中継といったサービスをシャットアウトし、通信事業者の有料電話や有料アプリだけ使わせるのではないかという心配からだ。


 同委員会は基本的にはネットワーク中立性を守り、どのサイトやアプリにもアクセスできるようにするのが前提とした上で、利用者の権利を守るため「シャットアウトできる条件」3つを挙げている。ネットワーク障害から多数の利用者の利益を保護するために必要と認められた場合、ネットワークのセキュリティと安全性を確保するために必要と認められた場合、国家機関の法令に基づく要請や法執行のために必要と認められた場合である。トラフィックマップとガイドラインを作るきっかけとなった無料音声通話アプリのことは具体的に触れていないため、「合理的なトラフィック管理」とは何かをめぐり、当分は議論が続きそうだ。


 SKテレコムの資料によると、2011年韓国のモバイルインターネットはSKテレコムだけで月1万TBのデータトラフィックがあり、夜9時から11時にトラフィックが集中し、常に処理できる容量の95%を使い切っているという。韓国のキャリアは3社ともに似たような状況で、「データトラフィックが爆発的に増えると予測はしていたものの、あまりにも急速なのでネットワークを増設しても追いつかない」、「クラウドサービスが本格化したらもっと大変なことになる」と口をそろえている。


 ネットワーク障害を防ぐための対策として、周波数確保も話題になっている。放送通信委員会は2013年までに700MHz、1.8GHz、2.1GHzの帯域170MHzをキャリア3社に割り当てる。2020年まで600MHz以上の周波数を確保するプランも練っている。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2012年2月2日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120202/1040844/

「実名登録で本人確認」国民総背番号制の“功罪”

 2007年7月から始まったインターネット実名確認制度に変化が訪れた。ネットの会員登録や掲示板に書き込みをする際には、国民IDである住民登録番号と氏名で本人確認をしないといけないというのが「インターネット実名制度」である。


 警察庁サイバーテロ対応センターの統計によると、韓国のサイバー犯罪(違法複製、詐欺、誹謗中傷など)の検挙率は90%近く。他の国より圧倒的に検挙率が高い理由の一つとしてインターネット実名制度が定着していることを挙げていた。


 ところが2009年、YouTubeが韓国の実名制度に反発して韓国語サイトからは動画をアップロードできないようにしたことがきっかけとなり、Webサイトを利用するだけでもっとも重要な個人情報である住民登録番号を企業に提供する必要があるのかという議論が続いていた。


 2010年と2011年にはインターネットショッピングサイトとポータルサイトが次々にハッキングされ、3500万人を超える会員の氏名、住民登録番号、電話番号といった個人情報が盗まれた。中国の掲示板サイトに韓国人の住民登録番号が出回り、問題になったこともある。


 政府機関である韓国のインターネット振興院は「住民登録番号クリーンセンター」を運営していて、自分の住民登録番号がどのWEBサイトでどのような目的で使われたのかを確認できるようにしている。住民登録番号と名前を入力すると、その番号が使われたサイト名、サイト区分(ポータル、ゲーム、アダルトといった区分)、利用された日付、利用目的(会員登録、年齢確認など)といった情報を確認できる。ここで住民登録番号を確認してみたところ、会員登録した覚えのないアダルトサイト、オンラインゲームサイトの会員になっていたという被害が続出した。






韓国インターネット振興院が運営する「住民登録番号クリーンセンター」のホームページ。自分の住民登録番号がどのWebサイトの会員登録に使われたのか、つまり個人情報が盗用されていないか確認できる



 それだけではない。電話を使ったなりすまし詐欺であるボイス・フィッシングにもこの住民登録番号が使われた。金融機関を装い、あなたの住民登録番号でクレジットカードが発行されたが本人確認のために電話したといい、住民登録番号をいう。自分の住民登録番号に間違いないので相手を信用してしまう。すると相手は「クレジットカードが悪用され口座からお金が引き出されるのを止めるために、指定の口座に貯金を全額振り込めば保護する」と言う。これが韓国の典型的なボイス・フィッシングである。名前、住民登録番号、電話番号、住所を相手が全部知っているのでつい騙されるお年寄りが多く、社会問題にまでなった。


 韓国にしか存在しない住民登録番号を使った実名制度に対して海外企業の反発も根強く、結局2011年4月、ネット政策を担当する放送通信委員会は、TwitterやFacebookといった海外企業が提供するSNSサイトは実名制度を適用しないことを決めた。



 2011年12月にはポータルサイトのNAVERとDAUM、オンラインゲームサイトらが会員情報として保存している住民登録番号を破棄し、今後は第3の本人確認を専門とする機関を通すなどして、住民登録番号をサイト運営会社が保存しない本人確認制度を導入すると発表した。


 NAVERの場合、携帯電話番号で会員登録できるが、掲示板に書き込む際には住民登録番号を使った実名確認が必要である。以前と違うのは住民登録番号をNAVER側が保存しないということである。実名を確認したらすぐ個人情報を廃棄することで、ハッキングされる危険もなくなる。NAVERは会員情報として氏名、ID、電話番号だけ保存するとしている。


 オンラインゲームサイトのNEXONも2012年4月からは会員情報として住民登録番号を要求せず、個人情報は最小限しか保存しないと発表した。NEXONは2011年、1320万人の会員情報がハッキングされる被害に遭っている。


 国民IDである住民登録番号を使って番号で個人を管理すると、企業側にとっては番号で会員を管理できるのでとても便利であり、複数のDBを番号で紐づけてつなげられることからが効率よくマーケティングができるという利点もあった。「個人情報活用同意」というところにチェックしないと会員登録できないようにして、グループ会社同士で氏名と住民登録番号を共有し、保険や有料サービスの勧誘をするところもあった。


 放送通信委員会は、2014年までに「情報通信網医療促進及び情報保護などに関する法律」を改訂して、一般事業者が営利目的で住民登録番号を収集することを禁じる制度をつくろうとしている。


 住民登録番号という国民IDは本来、北朝鮮からのスパイを選び出すための制度として60年代に導入され、教育、医療、徴兵、租税、福利厚生、金融といった個人情報をベースによりよい行政サービスを提供するために使われるはずだった。それが個人を簡単に管理できるとして、企業が無理やり住民登録番号を登録させるようになっていた。


 ネットでは「日本やアメリカではネットサービス会社がメールアドレスで個人認証をしている。韓国だけが過剰に個人情報を収集している。今からでも住民登録番号は行政サービスのためにしか使えないように管理すべき」と賛成意見が多い。一方で「既にハッキングで個人情報を盗まれた人はどうしたらいいのか。自分の住民登録番号が知らないところでたくさん使われているので怖い。番号を新しく変えたいがどこで相談すればいいのか」という意見もあり、ハッキング被害者の個人情報管理についても政府がガイドラインを出すべきという意見もあった。


 日本でも国民IDを導入する議論が続いている。韓国のようにならないためにも、国民IDの使用目的と使用範囲を明確にしないといけないだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2012年1月27日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120127/1040663/

2012年、スマートフォン普及の次は高速通信LTEに大注目

 スマートフォンを「よりスマート」に使えるネットワークとして、韓国では今、LTE(long term evolution)が注目されている。LTEは、理論上の最大伝送速度が下り326Mbps、上り86Mbpsと高速通信を可能にする仕様。2009年11月のスマートフォン発売をきっかけにパソコンからモバイルへとネット利用環境が大きく変化しているこの国では、2012年もスマートフォン、SNS、クラウドコンピューティングなどが重要なキーワードになっている。


 LTEであれば、スマートフォンユーザーはいつでもどこでも高速通信できるので、高精細クラスの動画を見たり、SNSを楽しんだり、クラウドを利用したりと幅広いサービスが使いやすくなる。


 2011年9月、SKテレコムがLTEサービスを開始した。その後、LGU+が「SKテレコムのLTEは途切れやすく使い物にならない」という比較広告を2011年11月に始めてから、LTE競争に火がついた。LTEに興味を持つユーザーが増え、LTE加入者も2011年末でSKテレコムとLGU+合わせて120万人を突破した。KTも2012年には2Gサービスを終了してLTEに力を入れるとしているので、通信キャリア3社のLTE競争は今年から本格的に幕開けとなる。


 キャリア3社の中でシェア3位であるLGU+は、2012年6月に予定していた全国LTEカバレッジ達成を3カ月早め、3月には達成するとしている。3月に実現すれば、韓国は世界で初めてLTEの全国カバレッジを達成することになる。LGU+は「2012年、生き残りをかけてLTEに全力を注ぐ」とする。


 SKテレコムも予定を8カ月早めて2012年4月にはLTE全国カバレッジを達成すると宣言した。KTも予定を1年8カ月以上早めて2012年4月までは全国カバレッジを目指し、より安いLTE料金で差をつけてスマートフォンユーザーを囲い込むとしているので、スマートフォンに続いてLTEも韓国が他の国より早く普及するだろう。


 2009年末から2010年の初め、スマートフォンが登場して間もない頃に購入した人の場合は、24カ月の契約期間も終わり、機種変更する時期でもある。スマートフォンに新規加入する人や機種変更する人は、シンプルな端末よりもNFC(近距離無線通信)によるモバイル決済(スマートウォレット)にも対応していてネットワーク速度も速いLTE端末を選ぶと見込まれる。



 米ラスベガスで1月10日~13日に開催した家電展示会「2012 International CES」でも、各メーカーはLTE対応をうたうスリムでバッテリーが長持ちするスマートフォンとタブレットPCを展示した。


 サムスンとLGからはLTE対応スマートフォンとタブレットPCが続々発売されている。2012年上半期はLTEスマートフォンだけでなくLTEタブレットPCの商戦も激化すると予想されている。2012年3月にLTE対応iPad 3が発売するのではという可能性について報道があったことから、サムスンはGalaxy8.9 LTE(8.9型)に続いてGalaxyTab 7.7 LTE(7.7型)を、LGはOptimus Pad LTE(8.9型)を1~3月の間に発売するとしている。2011年11月に発売したLTEスマートフォンの「GalaxyNote」は液晶が5.3型と大きく、タブレットPCとスマートフォンの両方を持ち歩くより便利だとして人気を集めている。







サムスンは2012 International CESでGalaxyTab 7.7 LTEを展示した








1月4週目から発売されるLGのLTE対応タブレットPC「OptimusPad LTE」は、一足先に発売されたGalaxyTab 8.9 LTEと同じ8.9型である。

サムスンもLGも、高速のLTEネットワークを使って、クラウドサービスを利用できて、スマートラーニング、スマートヘルスケア、スマートワーク(在宅勤務)といった本格的なスマートライフを堪能できる端末であると宣伝している。

 韓国のキャリアは、スマートフォンが登場してから爆発的に増加しているトラフィック問題を解決するため、LTEではデータ通信使い放題の定額料金をやめた。LTE料金体系はキャリア3社がほぼ同じものを提供するが、LGU+はデータ通信が少し安く、KTは音声通話無料分が多いといった差がある。LGU+の場合、一番安い料金は月額3万4000ウォン(約2300円)で音声通話160分、SMS200件、データ通信500MBまで使える。一番高い料金は月12万ウォン(約8100円)で、音声通話1500分、SMS1000件、データ通信13GBまで使える。


 データ使い放題がなくなったことで料金的負担はあるものの、2012年のLTE加入者をSKテレコムは500万人、KTとLGU+はそれぞれ400万人と、スマートフォンユーザーの3分の1はLTEを使うと見込んでいる。キャリアの予測通りにいけば、2012年にはスマートフォンユーザーの2.5人に1人はLTEを使うことになる。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2012年1月19日]

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120119/1040447/