「スマート」だね韓国社会(下)

<寄稿>「スマート」だね韓国社会(上)
ITジャーナリスト 趙章恩


人・生活・行政つなぐ
民団も独自の情報発信を


モバイル行政めざすソウル


 ソウル市は「スマートソウル2015」政策を進めている。ソウル市内のどこでも高速モバイルインターネットを無料で使えるようにすることで情報格差をなくし、世界初のモバイル行政実現を目標としている。


 スマートフォンから医療・福祉・年金など、その人のための行政情報を提供、書類の申請や税金・各種届出もスマートフォンから利用できるようにする。


 ソウル市内の地下鉄の駅や観光地には必ずといっていいほど情報発信端末である「デジタルビュー」というデジタルサイネージ(電子看板)が置いてある。


 大画面にはニュースや広告が流れ、メニューをタッチすると、無料で交通情報やマップ、周辺ショップの案内、ニュース、エンタメ情報などを利用できるほか、電話も無料でかけられる。





三星電子中国法人のモデルは「少女時代」





済州のスマートグリッド実証実験世帯


実証実験中の済州再生エネ


 このようなスマートライフは大都市だけではない。観光レジャーの名所、済州も「スマート済州」をキャッチフレーズに、09年12月から世界最大規模のスマートグリッド実証実験を行っている。


 福島原発事故以降、世界中で太陽光発電、風力発電といった再生エネルギーが注目されているが、済州道は一歩先に再生エネルギーとスマートグリッドで電力を効率的に使うことを始めた。


 実験に参加している約600世帯は、スマートフォンから家庭内の家電を操作でき、住民が自家発電した電力を電力会社に販売できるようにするためのシステムが整っている。今年末にはこれを3000世帯に拡大する計画だ。


 今年4月からは済州市と通信キャリアのKTが提携し、同市のいたるところで誰もが無料で高速モバイルインターネットを利用できるようにもしている。


 スマートフォンやタブレットPCを持って済州を訪れた観光客が、観光情報やグルメ情報を検索しながら移動している様子をよくみかけるようになった。


 18年開催が決定した平昌冬季五輪も世界初のユビキタス五輪にするための準備が始まっている。


 スマートフォンとモバイルインターネットを基盤に五輪会場の建設状況を公開し、12年からは組織委員会がスマートワークを導入し、ソウルと平昌を行き来しなくても、スマートフォンやタブレットPCを通じて不便なく業務ができるようにする。


 18年の冬季五輪では、平昌をスマートシティにして、人の生活はこれからこうなるという未来を体験させることで、「スマートKOREA」の名声を高め、輸出拡大を期待しているのだ。


 また、「未来ネットワーク」も注目されている。18年にはすべての競技が3Dで中継されることが予想されるからだ。


韓国モデルに日本でも推進


 韓日の間ではスマートフォンを使った観光情報提供、国際モバイル決済の提携が行われている。自分のスマートフォンを韓国でも、日本でもそのままおサイフケータイとして利用できるようにするための提携が結ばれ、準備が進められている。また韓日政府の間には、電子政府に関するMOUも結ばれた。


 韓国は国連が選定した電子政府評価で世界1位に選ばれただけに、そのノウハウを日本に伝授して、国民の利便性を高められる電子政府サービスを提供できるようにしようと手助けしている。


 日本がこれから導入しようとしている国民ID制度や行政情報化、保険・年金情報化、病院情報化なども、韓国では既に20年近く前から導入されているサービスだけに、韓国はどの国よりも日本が学ぶべきモデルであり、適切なアドバイザーであることは間違いない。


本国と在日を結ぶ民団情報


 韓国の電子政府サービスは、在外国民もインターネット上で個人を確認するための「認証書」を受給すれば、いつでもどこでも利用できる。


 民団は本国と日本に在住する韓国人をつなぐ役割を果たしていく重要な機関である。このように在外国民が利用すると便利な韓国のITサービス、アプリケーションを紹介するのも、その役割の一つといえるのではないだろうか。


 また日本に住んでいる韓国人が困っていることをタッチ一つで調べられ解決できるような、民団のアプリケーションも必要である。


 筆者の家族の場合、本国に帰る時に日本で払った年金の払い戻し方法が分からなくてずいぶん苦労したことがある。こうした在外国民の悩みを誰よりも詳しく把握できる立場にいる民団だけに、スマートコリアの一環として、特別永住者や長期滞在者などに分けて、その人にぴったりの情報をプッシュ型で提供できるよう準備を進めるべきであろう。スマートフォンで誰でもすぐ情報を発信できる環境になってから、韓国は自然と情報が開放され、情報通信技術(ICT)と他産業が融合して次々に新しいサービスが生まれている。


 韓国情報化振興院の09年12月の調査では、国民の86・7%が情報化によって韓国社会は良くなったと答えている。多くの国民がインターネットを利用してから生活の質も高まり、社会もより良い方向へと変わっていると考えている。


 民団を中心に、在日韓国人の社会も情報化でよりスマートになっていくことは間違いないだろう。とても楽しみだ。


(2011.8.31 民団新聞)

Original link
http://www.mindan.org/front/newsDetail.php?category=0&newsid=14788

QRコードにスマホをかざすと自宅に野菜や商品が届く—地下鉄の“スーパーマーケット”

2011年8月25日、ソウル市2号線ソンルン駅に面白いスーパーマーケットが登場した。「Homeplus Smart Virtual Store」と呼ばれるもので、駅中の壁やスクリーンドア(電車とホームの間にあるドア)に、スーパーマーケットの棚を写真で撮った大型ポスターが貼られてある。商品の写真の脇にQRコードがあって、これにスマートフォンをかざしてショッピングするというもので、英国Tescoが韓国で営業する大型スーパーマーケット「Homeplus」が提供している。

 スマートフォンに専用のアプリをインストールしてから、ポスターのQRコードへかざすと、スーパーマーケットのネットショッピングにつながり、そこで住所を入力して決済すると自宅に商品を届けてくれる。スーパーでかごに商品をあれこれ入れてからレジへ向かうように、QRコードを50個まで連続してかざしてから、まとめて決済することもできる。午後1時まで注文すれば、その日のうちに届く。商品は自宅から最も近いHomeplusから配送されるので、新鮮食品の注文も安心できるし、配送時間も細かく設定できる。


 ソンルン駅に“陳列”された、というかポスターで登場した商品は飲料水や食品、文具、レジャー用品など470種類ほどである。ターゲットは買い物に行く時間がない会社員で、朝出勤しながら地下鉄内のQRコードで夕飯の買い物を済ませれば、自宅に着く頃には食材が届いているのでとても便利である。


 Homeplusの説明によると、QRコードで買い物できる商品は3万5000点あるという。Homeplusはモバイルショッピング、モバイルクーポンサービスにも積極的で、スマートフォンからスマートフォンへモバイル商品券をプレゼントできるサービスも提供する。以前のモバイル商品券は決まった商品と交換する、または1回で全部の金額を使い切らないといけないのが不便だった。しかしHomeplusのモバイル商品券は、画面にバーコードを表示させるだけで残高分があれば繰り返し買い物ができるので便利である。


 地下鉄でのQRコードショッピングは今まで何度か実証実験として提供されたことはあるが、商用化されたのはこれが初めてだ。






Homeplusのブログより。まるで本物の商品陳列棚を見ているような、駅のドアに貼り付けられた大型ポスター


携帯電話事業者のSKテレコムは社内の売店でQRコードショッピングの体験コーナーを設けている。商品のサンプルとQRコードがあり、スマートフォンをかざすと同社が運営するショッピングサイトにつながり、注文・決済すれば自宅に届く。

 同じく携帯電話事業者のKTは8月28日「オルレQRショップ」をオープンした。Homeplusと同じように、地下鉄駅構内やスクリーンドアに商品の写真とQRコード付きのポスターを貼り、QRコードにかざして買い物ができる。まだ商品が台湾HTCのスマートフォン「EVO 4G+」だけで、QRコードで注文すると担当者から電話があり、加入手続きをして端末は自宅に届くというものに過ぎない。KTは、これからいろんな場所にQRショップのポスターを貼って、商品の種類を増やすという。顧客の時間と費用を節約する狙いだ。








KTが始めた「オルレQRショップ」でオーダーできるスマートフォン「EVO 4G+」。後ろは駅のスクリーンドアに貼られたポスター


韓国ではモバイルインターネットに接続する料金がとても高かったため、日本のように携帯電話(フィーチャーフォン)からQRコード経由でWebサイトにアクセスしたり、情報を得たり、といったことが流行らなかった。スマートフォンになってWi-Fiが使えるようになってからは、料金を気にすることなくモバイルインターネットを利用できるので、QRコードを使ったURLの短縮や商品情報提供も流行りだした。そこへQRコードのスーパーマーケットが登場したというわけだ。

 スマートフォンで今度は何ができるのか、楽しみである。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年9月2日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110902/1036605/

韓国で人気のスマホアプリは「無料通話できるメッセンジャー」

韓国のスマートフォンユーザーは1500万人を超え、携帯電話加入者の3分の1になろうとしている。韓国ではスマートフォンを使うためには専用料金制度に加入しないといけない。Wi-Fiは無料で使えるが、データ通信定額制に加入しないといけないので通常の携帯電話より3倍ほど高い料金設定なのだ。韓国放送通信委員会が実施した2011年上半期スマートフォン利用実態調査では、スマートフォン加入者の44.4%が5万5000ウォン(4000円程度)以上の料金を払っていた。高いデータ通信定額制に加入するからには、アプリを使い倒して元を取りたいと思っているのか、スマートフォンが普及すればするほど話題になっているのが「無料で○○ができるアプリ」である。

 中でも人気なのが「無料で音声通話ができるアプリ」だ。無料でメッセージを送受信できるメッセンジャーアプリはたくさんあるが、音声通話も無料でできるモバイルVoIPアプリはまだ出始めたばかりである。


 代表的なのはスカイプやViberであるが、韓国では無料通話にチャットのようにメッセージを送受信できて、ソーシャルコマース機能も付いている韓国企業の無料通話アプリの方が人気だ。ポータルサイトDAUMの「マイピープル」、韓国最大手携帯電話キャリアSKテレコム子会社SKコミュニケーションズの「NATEONTALK」、モバイルインターネット電話ソリューションを手掛けるネオメッカの「OlivePhone」など、大手ポータルサイトやキャリアの子会社からは続々と無料通話アプリが登場している。ただし、月5万5000ウォンの一番高い定額料金に加入しているユーザーだけが利用できるようにしている。


 マイピープルはAndroidとiPhone向けのアプリがあり、無料テレビ電話機能も付いているのが魅力である。また1999年から始まり全国民が会員とも言われるDAUMのWebメールに対応した受信お知らせ機能も付いている。パソコン経由でスマートフォンユーザーともチャットやメッセージのやりとりができることから、利用者数が1200万人を突破している。
 無料通話アプリの中で最近もっとも注目されているのはSKコミュニケーションズのNATEONTALKである。




SKコミュニケーションズの無料通話アプリ「NATEONTALK」。すでに300万ユーザーが使っている


携帯電話キャリアであるSKテレコムの子会社から無料通話アプリが出たということ自体、話題の一つ。また、SKコミュニケーションズは3300万人という韓国最大加入者数を誇るインスタントメッセンジャーNATEONを運営しているので、スマートフォン市場でもメッセンジャー市場を席巻できるだろうか、というのも注目されている理由の一つである。NATEONTALKはアプリが公開されて1カ月もしないうちに、300万人が使っている。2011年まで1000万ユーザー獲得が目標だ。


NATEONTALKは無料通話の制限があり、1カ月に約300分(データ量に換算して200MB)まで使える。ハンズオーバーで、Wi-Fiから3Gに、3GからWi-Fiにネットワークが切り替わっても、途切れることなく通話できる。インターネット電話国際標準であるSIPにも対応する。AndroidからもiPhoneからも使える。





NATEONTALKのスクリーンショット








スマートフォンから無料でメッセンジャー+音声通話を利用できる


NATEONTALKが面白いのは、無料通話やメッセンジャーを利用している途中によく分からない話題やキーワードがあった場合、すぐ検索して話についていけるようにしているところである。これなら「そんなことも知らないの?」と言われる前に、話題が豊富な人として一目置かれそうだ。ソーシャルコマース機能があるので、メッセンジャーを使って友達にクーポンをプレゼントすることもできる。通話品質も悪くない。

 毎月のように新しいアプリが登場している無料通話アプリ市場であるが、データトラフィックの問題で、一番高い料金制度に加入しているスマートフォンユーザーだけが利用できるようにキャリアが制限しているから残念である。

 韓国の通信政策を担当する省庁の放送通信委員会は、どんな料金制度に加入していても無料通話アプリが使えるようにするため、無料通話アプリがどれぐらいのデータトラフィックを発生させているのかといったことを調べ始めた。


 放送通信委員会の専門委員らは、「モバイルインターネット電話や無料通話は誰でも利用できるようにするべきである。ただし通信キャリアとコンテンツプロバイダーの利害関係が複雑に絡んでいるため、(誰でも利用できるような)サービス拡大の時期は議論を続けないといけない」という意見を発表した。


 インターネットさえつながれば、どんな端末からも利用できるのがインターネット電話のはず。それを、一番高い料金を払わないと使えないなんて、ちょっと残念である。韓国のキャリアは、スマートフォンに加入している人がネットを使いすぎてトラフィックが飽和状態、早く4Gに切り替えないといけないと大騒ぎしているが、加入している料金制度でアプリを使えないようにするなんてせこいことをするからみんな暴走するのかもしれない。次はどんな「無料で○○ができるアプリ」が流行るのか、楽しみである。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月26日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110826/1036203/

「スマート」だね韓国社会(上)

<寄稿>「スマート」だね韓国社会(上)

ITジャーナリスト 趙章恩


 2010年に続いて11年も、韓国を象徴するキーワードは「スマート」である。韓国の10年のヒット商品はなんといっても「スマートフォン」。09年11月、韓国でiPhoneが発売されてから、三星、LG、パンテックなど韓国メーカーも次々にスマートフォンを発売し、スマート革命が起きた。流行を先取りしたがるアーリーアダプター(新機種や新規サービスを誰よりも早く試す人)が多い韓国らしく、スマートフォン、タブレットPC、3DスマートTV(インターネットとアプリケーションを利用できるTV)といった新しいデバイスは、予想を超えるスピードで普及した。




◆三星スマートTV◆ 三星の3DスマートTVを購入すると無料で3D動画を利用できる





◆スマートスクール◆ 韓国では14年から小・中学校、15年から高校でデジタル教科書が導入される。写真は三星電子と大邱高校が行っているスマートスクール実証実験で、タブレットPCを使って授業を行うだけでなく、出席確認、先生と保護者とのメッセージ送受信などを行う






◆Nスクリーン◆ 一度購入したアプリケーションはスマートフォン、タブレットPC、スマートTVから途切れることなく利用できる。写真はSKテレコムが提供するNスクリーンサービスHOPPIN


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あっという間の普及

◇変わる生活様式…テレビや新聞これひとつで


 09年11月末に発売されたスマートフォンの加入者数が今年3月には1000万人、6月には1535万人を突破した。09年時点での予測は11年末1000~1200万台普及だったが、9カ月も前倒しで普及された。


 さらに、人口約5000万人に対して携帯電話加入者数が今年6月、約5200万人と、人口より多くなった。韓国インターネット振興院や通信キャリアは、スマートフォン加入者が今年末には2000万を超え、携帯電話加入者の4割がスマートフォンユーザーになると予測している。


 韓国は、98年のブロードバンド革命以上のスピードで、人々のライフスタイルはスマートフォンとソーシャルネットワークサイトを中心に変わり始めている。


 98年のブロードバンド革命以来、1年でインターネット利用者数が1000万人を超え世界を驚かせた。IT先進事例を学ぶため、世界各国の公務員やビジネスマンが押し寄せた。


 02年には世界初の電子政府がオープンし、10年には国連の世界電子政府評価で1位に選ばれた。また世界に先駆けてオンラインゲーム、市民記者が参加するインターネット新聞、アバター(着せ替え)、同窓会サイト、個人HOMPY(元祖ソーシャルネットワークサイトで知人だけに写真や書き込みを見せることができる)、テレビ番組のVODサービス(見たいときに見たいビデオが見られるサービス)、ライブベル(着うた)、カラリング(待ちうた)などのサービスを開発した。


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ニーズに応えた


 時代の変化に敏感で新しいことが大好き、好奇心旺盛でチャレンジ精神のある韓国のユーザーを満足させたコンテンツは世界でヒットすると言われた。この勢いはそのままスマートフォン革命へと引き継がれている。


 韓国の放送通信政策を担当する省庁である放送通信委員会が実施した「2010年放送メディア利用調査」では、日常生活で最も重要な媒体として58・2%がテレビを、34・2%がインターネットを選択している。新聞は3・3%、ラジオは2・0%に過ぎなかった。


 インターネットさえつながれば、テレビ番組も観られて、新聞も読めて、音楽も聴けて、情報も検索できて、どの店よりも安く買えて、当日内に配達してくれるショッピングサイトも利用できる。


 さらに、スマートフォンからインターネットが使えるようになってから、無料で音声通話もでき、メッセージも送信できるようになった。無料でチャットができる「カカオトーク」は、韓国のスマートフォンユーザーなら誰もが利用しているというほどの人気だ。


 今年3月の東日本大震災の際、電話をはじめとする通信の不通状態が続いたが、日本に滞在していた韓国人らが家族や会社と連絡を取るために「カカオトーク」を活用し、安否確認が簡単にできたことから、さらに有名になった。


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新韓流も相乗効果

◇サイトが呼び込み観光客ふえる


 韓国中が高速モバイルインターネットスポットになり、スマートフォンでつぶやき、すぐ反応できるようになってからTwitter、Facebook、Youtubeを経由して韓国のあらゆることが海外にも知れ渡り、K‐POPや韓国ドラマは日本や中国だけでなく欧州でもヒットするようになった。米国の動画サイトHuku.comでもTVドラマのカテゴリーから韓国ドラマが配信されるようになった。


 韓国はすでに96年頃からテレビ番組をネットで配信するVODサービスが活性化していたことから、ドラマはもちろん全てのテレビ番組はVODサービスを前提に契約が交わされる。権利処理が難しくネット配信できる番組が少ない国では、そこそこ知名度のある韓国ドラマが目玉コンテンツになる。


 K‐POPや韓国ドラマは当初、違法コピーされネット経由で世界へ広がったが、今ではアーティストごとにYouTubeオフィシャルチャンネルが開設され、あらゆる言語で作られたファンサイトが数えきれないほどある。


 K‐POPや韓国ドラマが人気を得ると、韓国の文化や企業に対する関心も高まり、韓国への観光客も増えている。海外で人気のK‐POPアイドルは三星やLGなどIT企業のイメージモデルも務めている。


 韓国貿易振興公社の調べによると、K‐POPや韓国ドラマが人気の国ほど韓国製品の輸入も伸びているという。Twitterの威力はK‐POPだけでなく、韓国社会問題を解決したり、災害時にはニュース速報よりも早く情報を伝播する役割も果たしている。


 昨年9月の集中豪雨時や今年7月の集中豪雨の時も、被害状況をリアルタイムでつぶやき、避難を呼びかけたTwitterユーザーのおかげで命が助かった人は数えきれないほどいる。


 既存のマスコミでは取り上げてくれない財閥と労働組合の対立や、大学の高すぎる授業料問題も、Twitterのつぶやきをきっかけにインターネット新聞で取り上げられ、テレビのニュースでも取り上げられ、全国民に知れ渡るようになった。


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教科書もデジタルで
小学校100校で実験…参考書、辞書など盛り込む


 スマートフォンだけでなく、タブレットPCの普及も進んでいる。


 韓国の教育科学技術部(日本の文科省)は14年から全国の小・中学校で、15年からは高校でもタブレットPCを使ったデジタル教科書を導入する「スマート教育推進戦略」を発表している。教室と家庭のインターネット環境もADSLより100倍速い4Gネットワークにし、法律も改定して紙に印刷されたものが教科書であるという規定をなくし、デジタル教科書に「教科書」としての法的地位を与える。


 元々、韓国は13年には全国の小学校にデジタル教科書を導入する計画だった。そのために、1996年からデジタル教科書開発を進めてきた。07年からは小中学校でデジタル教科書実証実験が始まり、11年も全国の小学校100校以上でデジタル教科書を使った授業が行われている。


 スマート教育のためのデジタル教科書は教科内容、学習参考書、学習辞典、問題集、ノート、マルチメディア資料などのコンテンツが盛り込まれる。モバイルクラウドコンピューティングをベースに、インターネットさえつながれば、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVなど、どんなデバイスからも自分の教科書を使えるようにする。


 09年度OECD学習到達度調査(PISA=Programme for International Student Assessment)によると、デジタル読解力では韓国が世界1位となっている。既にデジタル社会に慣れている学生の未来のためにもデジタル教科書は必要である。教育熱の高い韓国では、学校に入る前からデジタル教科書に慣れさせるため、幼児向けのデジタル絵本やデジタル参考書もよく売れるようになった。


 もう一つ、国民の健康寿命(病気をしないで健康な状態)を延ばし高血圧や糖尿病といった慢性疾患を予防するためスマートヘルスケアの試験サービスも、全国各地で積極的に行われている。


 これらのサービスにはセンサーとスマートフォン、タブレットPCが使われている。カメラで街を映すと広告や位置情報など、現実にはない情報が画面に映る拡張現実や、ホログラムを使って医者が遠隔で診療を行う技術も開発している。


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次はスマートTV

サービス多様に…メーカーがコンテンツ提供


 最近のスマートフォンは薄くて軽いは当たり前。専用メガネなしで3D画面が観られ、画面も5インチと大きくなり、太陽の下でも画面が反射することなく見やすいなど、機能がアップグレードされている。


 スマートTVは発売されたばかりであるが、知識経済部(IT産業の政策を担当する省庁)は、13年にはテレビ受像機の半分がスマートTVになると予測している。


 スマートフォン、タブレットPC、スマートTVの特徴は、メーカーがコンテンツまで一括して提供することだ。三星やLGは端末を作るメーカーでありながら、アプリケーションストアを運営し、コンテンツの版権を買い取り、直接ユーザーに提供もしている。


 一度購入したアプリケーションは、どのデバイスからも再度購入しないで利用できるだけでなく、地下鉄の中で映画を観ていて、途中で家に着いた場合はその続きをスマートTVから観ることもできる。こういった途切れることのないコンテンツサービスを「Nスクリーン」という。


 韓国のキャリアと三星、LGなどのメーカーはどこもNスクリーンサービスを提供している。Nスクリーンはクラウドコンピューティングという技術をベースにしている。


 クラウド(雲)コンピューティングはネット上にアプリケーションやデータを入れておいて、いつでもどこでもどんな端末からも引っ張り出して使えるデータ保存サービスで、これをより安く提供できるようになったことから、コンテンツサービスの利用法もより便利になった。


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「ギガコリア」計画も
高速ネット商用化…個人アプリケーションも支援


 韓国政府もこのスマートフォンブームにのって韓国を「ITコリア」から「スマートコリア」にレベルアップするための国家政策を発表した。12年まで固定では1Gbps、移動しながら100Mbpsの速度で利用できる高速インターネットを商用化し、15年にはさらにネットワークの速度を10倍速くする「ギガコリア」計画も始まった。


 就職難や失業対策の一つとして個人のアプリケーション開発を支援している。交通・観光・福祉などの公共DBを公開して、誰もが国のDBを応用してアプリケーションを作れるようにもした。


 面白い企画を持ち込むと、無料でアプリを開発してくれる支援センターもオープンした。大学でも政府支援によるアプリケーション開発講座が始まり、一昔前に流行った大学生のベンチャー起業ブームのように「アプリ長者」を夢見る若者が増えている。


 世界市場を舞台にしたアプリケーションマーケットで韓国のデベロッパーが開発したアプリケーションが競争力を持ち、海外の人気アプリケーションが韓国でもサービスされるよう、住民登録番号を使った本人確認、コンテンツ年齢制限審議など韓国独自の規制といわれている制度を改善することにした。


 拡張現実や仮想現実などの技術を導入して制作されたスポーツ疑似体験、ヘルスケア、旅行体験、3D映像といったモバイルコンテンツ制作も支援している。


趙章恩氏


(2011.8.15 民団新聞)

Orginal link
http://www.mindan.org/front/newsDetail.php?category=1&newsid=14762




集団訴訟に直面する韓国大手ポータルサイトとアップル

2011年7月、韓国の3大ポータルサイトの一つである「NATE」を運営するSKコミュニケーションズがハッキングされ、約3500万人いる会員の個人情報が流出するという事件があった。韓国の人口は約5000万人なので、人口の3分の2が被害者という大規模な個人情報流出事件に国中が大騒ぎとなった。SKコミュニケーションズはポータルサイトNATEのほか、10~30代のほとんどが会員となっている個人HOMPY(韓国の元祖ソーシャルネットワーキングサイト)の「CYWORLD」、インスタントメッセンジャーの「NATEON」を運営する、最大手移動通信キャリアSKテレコムの子会社である。





3500万人もの会員情報がハッキングされたSKコミュニケーションズが運営するWebサイト「NATE」

韓国の個人情報流出が怖いのは、国民IDである住民登録番号と氏名、電話番号、住所といった個人の重要な情報が全部盗まれ、振り込め詐欺に悪用されているからである。個人の情報を手に入れた詐欺師は警察や銀行を名乗り、銀行口座が犯罪組織に乗っ取られたので貯金を安全に守るため他の口座に移す必要があると騙して振り込ませる。自分の名前、住民登録番号、電話番号、住所、家族関係まで相手が知っているので、騙される人も少なくない。

 税金、医療、教育、不動産取引などに使われる重要な国民IDであるはずの住民登録番号を、個人確認できる手っ取り早い手段としてWebサイトの会員登録に要求し続けた結果、国内のWebサイトをハッキングして手に入れた個人情報で振り込め詐欺をする詐欺団がなくならない。中国発ハッキングが最近大問題になったが、さらに北朝鮮のハッカー部隊が資金作りのために中国の詐欺団に手を貸しているという報道もあり、不安は募るばかりである。


 また、IDとパスワードを使って他人のメールやメッセンジャーにログインし、メッセンジャーに登録されている人にお金を振り込ませるなりすまし詐欺も広がっている。インターネット振興院の調査によると、韓国ネットユーザーの84%はインスタントメッセンジャーを使っているだけに、いつ自分が被害者になるか分からない。


 個人情報流出事件はこれが初めてではなく、オークションサイト、ショッピングサイト、オンラインゲームサイトなど、1000万人規模にのぼる会員情報ハッキングは今までに何度も繰り返されている。


 その度に会員らは個人情報が侵害されたことに対してサイト側に損害賠償を求めているが、要求が認められたことはない。


 しかし今回の事件では、個人情報が流出した被害者の一人がソウル中央裁判所にSKコミュニケーションズを相手取り裁判を起こした。会員の個人情報保護管理を疎かにした責任を取るべきとして慰謝料を払うよう求めたのである。裁判所はSKコミュニケーションズに100万ウォン(約7万1300円)の慰謝料を支払うよう命令を下した。SKコミュニケーションズが支給命令に異議を申し立てる場合に、慰謝料をめぐる法的攻防が始まる。

 その後、100万ウォンの慰謝料をめぐり、SKコミュニケーションズの会員らが集団訴訟を起こした。ネットの掲示板サイトには集団訴訟の参加者を募集する書き込みが増えている。8月15日の時点で6万人ほどが集団訴訟に参加すると書き込みを残している。このままいけばSKコミュニケーションズは3500万人に100万ウォンずつ支払わなくてはならなくなる。しかし一方では、集団訴訟を起こしても代理人となる弁護士の収入だけが増え、サイト側も会員も何の得にもならないので、訴訟に使うお金をハッキング再発防止のために使った方がいいという意見も増えている。






NATEに掲載された、個人情報流出に対する謝罪とパスワード変更を求める案内


SKコミュニケーションズが会員の個人情報を守れなかったのは事実だが、会員に対する補償よりは二度とハッキングが起こらないよう防止に力を入れるとした。この事件をきっかけに、これからは会員登録の際に住民登録番号を収集しないとも発表している。


 韓国ではこの他にアップルを対象にした集団訴訟も話題になっている。


 放送通信委員会は、アップルが2010年6月から2011年5月まで、iPhoneの位置情報サービスをオフにした場合でも隠しプログラムを使って位置情報を無断で収集していたとして、位置情報保護法違反を理由に300万ウォンを払うように命じた。すでに2011年4月、韓国のある弁護士がアップルコリアを対象に「位置情報収集によって私生活の秘密と自由を侵害された」とし、裁判所の支給命令制度を利用して慰謝料100万ウォンをアップルからもらっていた。


 それから8月、iPhoneユーザー約3万人が慰謝料を求める集団訴訟を起こした。100万ウォンの慰謝料をもらったこの弁護士が代理人となって集団訴訟をまとめている。2011年5月以前からiPhoneを使っていたユーザーなら、弁護士に手数料1万6900ウォン(約1200円)を払えば集団訴訟の原告として参加できる。


 SKコミュニケーションズと違ってアップルはすでに一人に慰謝料を支払っているため、集団訴訟を起こした人全員が100万ウォンずつもらえる可能性もある。韓国のiPhoneユーザーは現在300万人超。アップルはどう対処するのか。海外のiPhoneユーザーにとって気になるニュースではないだろうか。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月18日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110818/1035142/

怒濤の“スマホ化”、ソウル市が目指す「スマートソウル2015」のすごい内容 [2011年8月11日]

ソウル市は現在、「スマートソウル2015」戦略を進めている。具体的には、2015年までにソウル市内のすべての公共施設をフリースポットにする、スマートフォンから各種行政情報や書類申請を利用できるモバイル行政を実現する、といった内容だ。このために2015年まで8500億ウォン(約670億円)の予算を使う。国連が評価した2010年世界電子政府ランキングで1位になった国らしく、スマート電子政府でも世界のトップになるという計画だ。

 同市はすでに2010年4月から、急速に普及率が伸びているスマートフォン向けモバイル行政サービスを提供している。ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーション開発やフリースポット拡大を目指して、“モバイル・ソウル”を進めてきた。


 同市のアプリケーション開発支援により、2010年には公衆トイレ位置情報検索アプリ、交通情報を分析してバスと地下鉄の最短移動経路を探してくれるアプリなど6つのアプリが無料で利用できるようになった。毎年2回、市民参加型でアプリのアイデア公募を実施、実際のアプリ開発はSKテレコムや民間企業に任せる方式でアプリの本数を増やしている。




ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーションの一つで、ソウル市内の主な道路に設置された防犯カメラから交通情報を確認できる「ソウル市交通CCTV情報」

モバイル・ソウルを活性化していくためには、何よりもソウル市内全域でWi-Fiを自由に使えないといけないと判断し、情報格差をなくすためにも誰でも無料で使えるようにするべきということから、市は、市内のフリースポットを増やし始めた。無料Wi-Fiは、所得の格差でWi-Fiに加入できず、行政情報や緊急災害情報を受信できないといったことを防ぐためである。フリースポットなのでWi-Fiが使えるデバイスを持っていれば、外国人観光客でも無料でインターネットにアクセスできる。

 2010年末時点ですでにソウル市内の公共施設295カ所がフリースポットになった。これを2015年までに地下鉄車両の中、バスの中、タクシーの中へ広げる。野外のフリースポットは繁華街、公園、ショッピングセンターなど1万430カ所に拡大する。


モバイル・ソウルをさらに高度にしてスマートシティにしていくのが今回の「スマートソウル2015」といえる。2010年末時点ですでにソウル市民の80%がスマートフォン/タブレットPC/Wi-Fiを利用しているというソウル市の調査結果を反映して、市民の利便性を高めるためにもスピードを上げてスマート化に取り組む必要があると判断したようだ。


 また、スマートフォンやタブレットPCだけでなく、スマートTV、電子書籍リーダー端末からもソウル市のアプリケーションとモバイル行政サービスを使えるようにする。モバイル行政サービスは、ソウル市がすでにネットで提供している63種類の電子申請・書類発給サービスをこれらの端末から利用できるようにするというもの。


 スマートフォンやWi-Fiを使っていない残りの20%のデジタルデバイド(情報格差)を解消するため、主婦や高齢者を対象に年間20万人ずつ5年間で100万人を教育するという計画も発表された。


 「スマートソウル2015」は、3段階に分けて進めていく。2010年に続いて2012年まではスマート基盤構築、2014年まではスマートサービス実行、2015年にはスマート高度化である。重点課題は4つで、「スマートインフラ拡充と情報格差解消」、「スマートデバイスを活用した一人ひとりのための行政、社会安全向上」、「雇用創出」と「スマートセキュリティ高度化」である。


 例えば、インフラ関連では、Wi-Fiでバスとタクシーに取り付けられたGPS信号をキャッチしてバスの到着時刻と道路状況を案内するデジタルサイネージがすでにあり、全国のバス停に設置されている。これの精度がまだ95%なので、100%近く正確に案内できるよう高度化するとする。


 社会安全という例では、ソウル市内の約1000カ所に取り付けられた防犯カメラを2015年までに1万カ所に増やして都市の安全性を高める計画もある。またこの防犯カメラの一部の映像を市民にも公開して、交通状況を確認できるようにもする。


 ソウル市内ではすでにほぼどこでも無料でWi-Fiが使える。パスワードを設定していないWi-Fi信号もたくさんあるので、スマートフォンやノートパソコンを持っていればインターネットを使うのに困ることはない。逆にあまりにも「スマート」に力を入れすぎているので、スマートフォンがないとソウルに住むのが不便になるのではないか、その方が心配だ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110811/1034726/

ピョンチャン冬季五輪の準備始まる~未来インターネットで世界を驚かせる

 3度目の挑戦で2018年冬季オリンピックを誘致できたピョンチャン。フィギュアスケートのキム・ヨナ選手もオリンピック誘致のためのプレゼンテーターとして参加し、流暢な英語と堂々たる態度で、「国宝少女」というニックネームが付いた(国宝少女は韓国で7月に放映されたドラマの中のアイドルグループの名前でもあり、国宝○○というのが流行語にもなった)。


 キム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画はネットの動画サイトでも人気爆発。何度見ても飽きないとファンの間で絶賛されている。ネットではキム・ヨナ選手がプレゼンのときに着ていた衣装やアクセサリー情報まで検索キーワード上位を記録したほどである。






民放SBSは自社の動画サービスの一つとしてキム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画を公開。通訳や編集のないオリジナル動画で、1日で35万ビューを記録した



 ピョンチャン冬季オリンピックは、誘致段階から韓国の最新IT技術を総動員した「ユビキタスオリンピック」にすることを公約している。何をどうユビキタスにして世界が驚くすごいオリンピックにするのか、それを決めるための討論会が7月26日に行われた。


 韓国情報化振興院が主催した「スマートピョンチャンオリンピック討論会」には、各省庁とオリンピックのスポンサーになっている企業の担当者が参加した。韓国が今まで築いてきたモバイル電子政府、モバイルヘルスケア、スマート教育、スマートシティ、スマートグリッドなどすべての技術をオリンピックに応用するためには、まず何から始めればいいのか、ということを議論した。まずは2011年末までにマスタープランを作ることで合意した。


 2012年からは組織委員会が「スマートワーク」を導入し、ソウルとピョンチャンを行き交いしなくても、スマートフォンやタブレットPCから不便なく業務ができるようにすべき、オリンピック準備状況を誰でも随時確認できるよう情報を公開すべき、という意見もあった。

ピョンチャンで冬季オリンピックを開催できることはうれしい一方、新聞記事のコメント投稿欄をにぎわせているのは「赤字オリンピックになっては困る」ということだ。ピョンチャンはスキー場が有名なリゾート地で、冬しか人が集まらない。ピョンチャン側も、競技場を建てたのはいいが、オリンピックが終わってからは管理費用ばかりかかって冬以外は使い道がない、なんてことにならないようにするにはどうしたらいいのか、と悩んでいるはずだ。


 通信事業社のKTとSKテレコムは討論会で、オリンピックのためのインフラ建設に約7兆ウォン(約5600億円)の予算が必要であると推算し、道路や競技場などの工事と有無線ITインフラを同時に構築することで費用を節約して、インフラ投資で終わらずオリンピックの後も活用できるサービス基盤を作ることを強調した。


 韓国のIT業界では、2002年FIFAワールドカップをきっかけにデジタル放送やモバイルサービスの技術が発展し、韓国はIT先進国であるという宣伝になったことで輸出も伸びたとしている。2018年の冬季オリンピックでは、ピョンチャンをスマートシティにして、人々の生活はこれからこうなるという未来を体験してもらうことで、さらなるIT輸出につなげたいと期待を膨らませている。


 ピョンチャンのユビキタスオリンピックのために、「未来ネットワークフォーラム」という組織も始動している。未来ネットワークは次世代インターネットのことで、3Dの大容量コンテンツを楽しめるほど高速で、セキュリティの高いネットワークであるという。韓国ではスマートTV、スマートフォンから利用できる3D映像がとても人気で、サムスンが3月から始めたスマートTV用3D映像は3カ月で100万ビューを突破したほどである。スマートフォンから3D映像を利用するためには高速モバイルインターネットが必要で、4GといわれるWibro(韓国のモバイルWiMAX)やLTEも商用サービスが始まった。


 韓国ではピョンチャンを未来ネットワークモデル都市にして、企業からどんなサービスを提供するかアイデアを募集し、想像していたことが現実となる様子を見せたいとしている。入国した時点で観光客にタグを発行し、空港からホテル、競技場、観光地、ショッピングセンターいたるところでその人に合わせた情報サービスを提供しながら、テロ防止にもつなげるといったこともアイデアとして提案がある。個人情報をどこまで使えるかが課題ではあるが、医療支援が必要な観光客や選手の場合は、センサーを利用して機械が異常を感知したら、本人が異常を感じていなくてもすぐ近くの病院にSOSの信号を送り処置を取るといったことも検討する。こうした未来ネットワークを使った韓国のサービスモデルを世界に広げていくのが未来ネットワークフォーラムの役割でもある。


 2018ピョンチャン冬季オリンピックは韓国のIT企業にとって大きなチャンスになることは間違いない。オリンピックをきっかけに韓国はまたどんな「世界初」サービスでユーザーを楽しませてくれるのだろうか。スポーツよりITに興味のある私としては、オリンピック競技よりもそっちの方が待ち遠しい。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110802/1033462/



怒濤の“スマホ化”、ソウル市が目指す「スマートソウル2015」のすごい内容

 ソウル市は現在、「スマートソウル2015」戦略を進めている。具体的には、2015年までにソウル市内のすべての公共施設をフリースポットにする、スマートフォンから各種行政情報や書類申請を利用できるモバイル行政を実現する、といった内容だ。このために2015年まで8500億ウォン(約670億円)の予算を使う。国連が評価した2010年世界電子政府ランキングで1位になった国らしく、スマート電子政府でも世界のトップになるという計画だ。


 同市はすでに2010年4月から、急速に普及率が伸びているスマートフォン向けモバイル行政サービスを提供している。ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーション開発やフリースポット拡大を目指して、“モバイル・ソウル”を進めてきた。


 同市のアプリケーション開発支援により、2010年には公衆トイレ位置情報検索アプリ、交通情報を分析してバスと地下鉄の最短移動経路を探してくれるアプリなど6つのアプリが無料で利用できるようになった。毎年2回、市民参加型でアプリのアイデア公募を実施、実際のアプリ開発はSKテレコムや民間企業に任せる方式でアプリの本数を増やしている。






ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーションの一つで、ソウル市内の主な道路に設置された防犯カメラから交通情報を確認できる「ソウル市交通CCTV情報」



モバイル・ソウルを活性化していくためには、何よりもソウル市内全域でWi-Fiを自由に使えないといけないと判断し、情報格差をなくすためにも誰でも無料で使えるようにするべきということから、市は、市内のフリースポットを増やし始めた。無料Wi-Fiは、所得の格差でWi-Fiに加入できず、行政情報や緊急災害情報を受信できないといったことを防ぐためである。フリースポットなのでWi-Fiが使えるデバイスを持っていれば、外国人観光客でも無料でインターネットにアクセスできる。

 2010年末時点ですでにソウル市内の公共施設295カ所がフリースポットになった。これを2015年までに地下鉄車両の中、バスの中、タクシーの中へ広げる。野外のフリースポットは繁華街、公園、ショッピングセンターなど1万430カ所に拡大する。

 モバイル・ソウルをさらに高度にしてスマートシティにしていくのが今回の「スマートソウル2015」といえる。2010年末時点ですでにソウル市民の80%がスマートフォン/タブレットPC/Wi-Fiを利用しているというソウル市の調査結果を反映して、市民の利便性を高めるためにもスピードを上げてスマート化に取り組む必要があると判断したようだ。


 また、スマートフォンやタブレットPCだけでなく、スマートTV、電子書籍リーダー端末からもソウル市のアプリケーションとモバイル行政サービスを使えるようにする。モバイル行政サービスは、ソウル市がすでにネットで提供している63種類の電子申請・書類発給サービスをこれらの端末から利用できるようにするというもの。


 スマートフォンやWi-Fiを使っていない残りの20%のデジタルデバイド(情報格差)を解消するため、主婦や高齢者を対象に年間20万人ずつ5年間で100万人を教育するという計画も発表された。


 「スマートソウル2015」は、3段階に分けて進めていく。2010年に続いて2012年まではスマート基盤構築、2014年まではスマートサービス実行、2015年にはスマート高度化である。重点課題は4つで、「スマートインフラ拡充と情報格差解消」、「スマートデバイスを活用した一人ひとりのための行政、社会安全向上」、「雇用創出」と「スマートセキュリティ高度化」である。


 例えば、インフラ関連では、Wi-Fiでバスとタクシーに取り付けられたGPS信号をキャッチしてバスの到着時刻と道路状況を案内するデジタルサイネージがすでにあり、全国のバス停に設置されている。これの精度がまだ95%なので、100%近く正確に案内できるよう高度化するとする。


 社会安全という例では、ソウル市内の約1000カ所に取り付けられた防犯カメラを2015年までに1万カ所に増やして都市の安全性を高める計画もある。またこの防犯カメラの一部の映像を市民にも公開して、交通状況を確認できるようにもする。


 ソウル市内ではすでにほぼどこでも無料でWi-Fiが使える。パスワードを設定していないWi-Fi信号もたくさんあるので、スマートフォンやノートパソコンを持っていればインターネットを使うのに困ることはない。逆にあまりにも「スマート」に力を入れすぎているので、スマートフォンがないとソウルに住むのが不便になるのではないか、その方が心配だ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月11日

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ピョンチャン冬季五輪の準備始まる~未来インターネットで世界を驚かせる

3度目の挑戦で2018年冬季オリンピックを誘致できたピョンチャン。フィギュアスケートのキム・ヨナ選手もオリンピック誘致のためのプレゼンテーターとして参加し、流暢な英語と堂々たる態度で、「国宝少女」というニックネームが付いた(国宝少女は韓国で7月に放映されたドラマの中のアイドルグループの名前でもあり、国宝○○というのが流行語にもなった)。

 キム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画はネットの動画サイトでも人気爆発。何度見ても飽きないとファンの間で絶賛されている。ネットではキム・ヨナ選手がプレゼンのときに着ていた衣装やアクセサリー情報まで検索キーワード上位を記録したほどである。








民放SBSは自社の動画サービスの一つとしてキム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画を公開。通訳や編集のないオリジナル動画で、1日で35万ビューを記録した




 ピョンチャン冬季オリンピックは、誘致段階から韓国の最新IT技術を総動員した「ユビキタスオリンピック」にすることを公約している。何をどうユビキタスにして世界が驚くすごいオリンピックにするのか、それを決めるための討論会が7月26日に行われた。


 韓国情報化振興院が主催した「スマートピョンチャンオリンピック討論会」には、各省庁とオリンピックのスポンサーになっている企業の担当者が参加した。韓国が今まで築いてきたモバイル電子政府、モバイルヘルスケア、スマート教育、スマートシティ、スマートグリッドなどすべての技術をオリンピックに応用するためには、まず何から始めればいいのか、ということを議論した。まずは2011年末までにマスタープランを作ることで合意した。


 2012年からは組織委員会が「スマートワーク」を導入し、ソウルとピョンチャンを行き交いしなくても、スマートフォンやタブレットPCから不便なく業務ができるようにすべき、オリンピック準備状況を誰でも随時確認できるよう情報を公開すべき、という意見もあった。


 ピョンチャンで冬季オリンピックを開催できることはうれしい一方、新聞記事のコメント投稿欄をにぎわせているのは「赤字オリンピックになっては困る」ということだ。ピョンチャンはスキー場が有名なリゾート地で、冬しか人が集まらない。ピョンチャン側も、競技場を建てたのはいいが、オリンピックが終わってからは管理費用ばかりかかって冬以外は使い道がない、なんてことにならないようにするにはどうしたらいいのか、と悩んでいるはずだ。


 通信事業社のKTとSKテレコムは討論会で、オリンピックのためのインフラ建設に約7兆ウォン(約5600億円)の予算が必要であると推算し、道路や競技場などの工事と有無線ITインフラを同時に構築することで費用を節約して、インフラ投資で終わらずオリンピックの後も活用できるサービス基盤を作ることを強調した。


 韓国のIT業界では、2002年FIFAワールドカップをきっかけにデジタル放送やモバイルサービスの技術が発展し、韓国はIT先進国であるという宣伝になったことで輸出も伸びたとしている。2018年の冬季オリンピックでは、ピョンチャンをスマートシティにして、人々の生活はこれからこうなるという未来を体験してもらうことで、さらなるIT輸出につなげたいと期待を膨らませている。


 ピョンチャンのユビキタスオリンピックのために、「未来ネットワークフォーラム」という組織も始動している。未来ネットワークは次世代インターネットのことで、3Dの大容量コンテンツを楽しめるほど高速で、セキュリティの高いネットワークであるという。韓国ではスマートTV、スマートフォンから利用できる3D映像がとても人気で、サムスンが3月から始めたスマートTV用3D映像は3カ月で100万ビューを突破したほどである。スマートフォンから3D映像を利用するためには高速モバイルインターネットが必要で、4GといわれるWibro(韓国のモバイルWiMAX)やLTEも商用サービスが始まった。


 韓国ではピョンチャンを未来ネットワークモデル都市にして、企業からどんなサービスを提供するかアイデアを募集し、想像していたことが現実となる様子を見せたいとしている。入国した時点で観光客にタグを発行し、空港からホテル、競技場、観光地、ショッピングセンターいたるところでその人に合わせた情報サービスを提供しながら、テロ防止にもつなげるといったこともアイデアとして提案がある。個人情報をどこまで使えるかが課題ではあるが、医療支援が必要な観光客や選手の場合は、センサーを利用して機械が異常を感知したら、本人が異常を感じていなくてもすぐ近くの病院にSOSの信号を送り処置を取るといったことも検討する。こうした未来ネットワークを使った韓国のサービスモデルを世界に広げていくのが未来ネットワークフォーラムの役割でもある。


 2018ピョンチャン冬季オリンピックは韓国のIT企業にとって大きなチャンスになることは間違いない。オリンピックをきっかけに韓国はまたどんな「世界初」サービスでユーザーを楽しませてくれるのだろうか。スポーツよりITに興味のある私としては、オリンピック競技よりもそっちの方が待ち遠しい。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月4日

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ソウル市の集中豪雨で被害拡大、「Twitterが頼り」またもや立証

2011年7月26日16時から27日の午前にかけて、ソウル市では338mmの集中豪雨に見舞われた。1時間あたり110.5mmが降った地域もある。気象庁の予報がなかったため市民らは慌てふためいた。豪雨は予想以上で、携帯電話がつながらない、ネットが使えない、テレビが映らないという被害が発生した。

 ソウルは6月から雨が多く、既に平年の2.3倍も雨が降っているのに、また集中豪雨が発生した。気象庁の大雨警報が出る前にもう道路は浸水し、地下鉄の駅の中まで水が溜まり、川の中を歩いているようなものだった。ソウルの中心部である光化門と市庁周辺道路はひざぐらいまで水が溜まった。漢江沿いを走る首都高速も一部区間で漢江が溢れて浸水したため通行止めになり、道路ではなく「駐車場」になってしまった。道路の浸水状況はどんどん悪くなり、バスは道路ではなく水上を走っているような状態で、バスの中にまで水が入ってきたほどである。まさかソウルのど真ん中でこんなことが!と驚かずにはいられない光景であった。


 サムスンの本社がありITベンチャー街でもある江南駅周辺は、自動車が屋根まで水に浸かりぷかぷか浮いている写真がTwitterに投稿され、「ここがソウルだなんて信じられない」というつぶやきが後を絶たなかった。


 韓国では大雨になると有線インターネットがつながらなくなることがある。この日もインターネットがつながらなかった。テレビが映らなくなった地域もある。モバイルインターネットだけがライフラインとなった。ほんの5分ほどで道路が浸水して車ごと流された地域もあったため、ニュースの速報も追い付かず、一刻を争う緊急事態の中で頼れるのはTwitterのつぶやきだけだった。


 Twitterへは人々がソウル各地の浸水状況をつぶやき、写真も投稿した。「○○駅周辺は浸水で地下鉄駅を閉鎖中、運転中の方は迂回してください」、「○○マンション周辺の道路が浸水して団地内に入れない状態」、「○○駅前のマンホール、蓋がずれてるから気を付けて!」など、絶えず浸水状況が更新された。Twitterで地域名と被害状況を検索しながら、どうやったら家に帰れるのか頭を抱えたものだ。







Twitterに投稿されたソウル市内の浸水状況






刻々と変わる被害状況の写真が投稿される


テレビや新聞も、記者の身動きが取れなくなったこともあり、Twitterのつぶやきをニュースとして報道する状況になってしまった。ソウル市はTwitterで地下鉄運行状況、避難警告を出し始めた。ラジオでもソウル市内に付けられた防犯カメラの映像とTwitterのつぶやきを頼りに地下鉄やバスの運行状況、道路状況を伝えていた。


 土砂崩れで死者が発生した地域でも、真っ先に危険を知らせてくれたのはTwitterだった。基地局も被害にあい音声通話ができない状態だったため、Twitterで避難を呼びかけ救助を要請し、消防隊が出動した。マンションの2階まで土砂が流れ込み、流された自動車がぐちゃぐちゃにつぶれてビルの2階に突っ込んでいる写真を見ると、恐ろしくなってしまった。


 27日の朝には、江南地域の道路浸水がひどく、歩く人が感電する危険があることから停電することが決まり、周辺の携帯電話基地局も電力を供給してもらえず臨時バッテリーで作動させることになった。


 豪雨が続いたため停電が長引き、SKテレコムの基地局は臨時バッテリーの電源が底をつき、午前9時から電力送信が再開された14時ころまで5時間ほど携帯電話がつながらなくなった。LGU+は不通までにはならなかったものの、中継機の電源が切れたために信号がつながりにくい、雑音がひどくてよく聞こえないといった状況が続いた。放送通信委員会によると、停電地域内にあった基地局の数はKTが20、SKテレコムが3、LGU+が7だった。


 同じ時刻、江南では唯一KTだけ携帯電話が通じた。KTの説明によると、クラウドコンピューティングを活用した基地局のおかげだという。基地局のデジタル信号処理をビルの屋上に置いて光ケーブルでつなげ、データ処理は中央集中局(電話局内)に分離して管理する「クラウドコミュニケーションセンター」を導入したため電力消耗が非常に少なく、小型発電機で基地局のアンテナを運用できて、停電になっても2時間は耐えられるようになったことから、携帯電話が不通になることはなかったという。


 豪雨をきっかけに、少ない電力でも動くクラウド基地局を増やして、災難時に備えるべきという声が高まっている。東日本大震災をきっかけに韓国も災害時の情報伝達方式を見直すとしていた矢先、結局またTwitterに頼ってしまった。韓国はIT強国のはずだが、気象、災害、こういうところはITがうまく活用されていなくて残念だ。日本の「10秒後に揺れます」、という地震警報のように正確でなくても、「今日は大雨が降ります」くらいの天気予報はしてほしいものだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月29日

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110729/1033359/