【韓国教育IT事情-3】デジタル教科書とVR教室で教育現場に変化

2010年韓国でもっとも人気を集めたのは「スマートフォン」である。主婦の間でもスマートフォンは大ヒットした。




韓国のデジタル教科書

◆スマートフォンは必需品

 韓国の主婦は専業主婦であっても子どものために忙しい。学校まで送り迎えは基本、子どもの教科書でママが先に勉強していつでも質問に答えられるよう準備をしておく。良い塾と家庭教師を調べるため情報収集にも時間をかける。進学校の近くに引っ越すための不動産投資にも忙しい(韓国では名門大学の進学率が高い高校の近くほど不動産が高い)。

 移動しながら子どもの成長や教育に関する豆知識を集めたアプリケーションを利用したり、Twitterを経由してママ友同士で情報交換したりつぶやいたり、子どもの学校のホームページを随時確認して告知を確認したり、マンションの管理費や光熱費をインターネットバンキングから支払ったり、近所のスーパーに食材を注文して配達してもらったり、パソコンを持ち歩かなくても手軽にネットで調べものができるスマートフォンは、忙しい教育ママにはぴったりなのだ。

 韓国では、スマートフォンの次はiPadのようなタブレットPCがヒットし、その次はスマートTVといって、インターネットにアクセスしたり、スマートフォンと同じくアプリケーションを利用できるTVがヒットするといわれている。家電がすべてネットにつながりスマートフォンで操作できるようになるため、電力を効率的に使用するためのスマートグリッドも2011年からは一般家庭に導入されるとも見込まれている。これからは何でも「スマート」がキーワードになるようだ。

◆教育現場の変化

 「スマート」は機械だけではない。人間も「スマート」にするため、教育現場では色んな変化があった。その代表的な事例がデジタル教科書とVR教室である。韓国では2013年デジタル教科書商用化を目指し、2007年から実証実験を行っている。教科書内容をデジタル化しただけでなく、参考書、問題集、辞書、動画、アニメ、音楽といったマルチメディア資料が追加され、教科書を見ながら疑問なところはクリックするだけで無限の資料が登場して、子ども達の理解力を高められるというのがデジタル教科書である。

 さらに面白い教室も登場した。VR教室といって教員が画面の中に入ってキャラクターが一緒に授業を進める「仮想現実」の教室。これを実用化するための実証実験も行われている。天気予報やニュース番組などでよく使われているもので、あるはずのない地図やキャラクター、映像の中に教員が入っていって授業をする。英語の授業だと外国人のキャラクターと先生が一緒に登場して会話しながら子ども達に話しかけたり、歴史の授業だったら昔の王様を呼び出して会話しながら歴史の勉強ができるというもの。

◆教員能力評価制度

 どんなに技術や端末機能が優れているとしても、このような最先端の教科書やVR教室を活用してより楽しく授業ができる教員がいない限り、教育の情報化なんて絵に描いた餅にすぎない。韓国では90年代から教員のICT研修を義務化し、2010年からは教員能力評価制度を導入した。同僚教師と子ども、保護者も評価し参加する。
 ・何十年も同じ教え方をする
 ・ネットを活用できない
 ・デジタル教科書を使いこなせない
といった先生は自然と評価が落ちる。先生も定年までクビになることはないと安心してはいられない。ここまで厳しく先生にも危機意識を持ってもらわないと、教育現場は動かないのかもしれない。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年12月20日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/12/20/779.html

【韓国教育IT事情-2】熱血教育ママに学ぶ教育とICT…教育情報化編


韓国では、子供も親もインターネットに慣れていて、eラーニングをはじめICTによる教育にも慣れている。政府も積極的で、ICTを利活用した教育で国民にお金をかけず質の高い教育環境を提供しようと、バッググラウンドとして校務の情報化、教育行政の情報化を完成させた。




スマートフォンが売れたのも大学入試向けeラーニングがあったからこそ。韓国では自治体が無料で提供する入試eラーニングも多数ある



◆3~5歳のネット利用率は63%

 放送通信委員会の「インターネット利用実態調査」では、ネット人口を「6歳以上の人口」から「3歳以上の人口」に変更したほど、韓国のネット利用開始年齢は低くなっている。赤ちゃんの首がすわればマウスを握らせるというほど、どんな分野でも生活とネットは切り離せなくなっている。2010年上半期の、3~5歳のインターネット利用率は63%、3~9歳は85.5%、10代~20代は99.9%、30代は99.3%と10代以上は限りなく100%に近い。今や、ネットは水道や電気と同じレベルのインフラになっている。

◆世界トップレベルの政府・教育の情報化

 電子政府、教育行政の情報化も世界トップレベルであり、学校からの連絡事項は1999年あたりから、すでにネット経由で行われている。学生用、保護者用のIDがそれぞれにあり、先生からの連絡事項、学校生活評価、成績などすべての情報がネット経由で公開されている。子供が成績表を隠す、なんてことはもうできないのだ。

 韓国人のインターネット利用目的は、情報収集が91.6%、ゲームや動画といった余暇活動が89.1%、コミュニケーションが88.4%、ショッピングおよび販売が57.7%、教育・学習が53.4%の順となっており、インターネットと教育・学習の関係は密接で、通信事業者やパソコンメーカーは新製品を販売する際には必ず「子供の教育のために必要」という宣伝文句を付け加える。

 ネットブック(インターネット接続が主な用途の小型ノートパソコン)が売れたのも、スマートフォンが売れたのも、IPTV(テレビから地上波放送・ケーブル放送・インターネット経由で各種動画を利用できるサービス)が売れたのも、モバイルインターネット(Wi-Fi、WiBro:時速120kmで移動しながらでも高速モバイルインターネットが使えるサービス)利用者が急増したのも「教育のため」だった。

◆塾に依存しない大学入試

 韓国政府は進学塾や予備校に依存しない大学入試を目指し、お金がなくても質の高い教育を受けさせることを政策的課題としている。

 その一環として、無料で利用できる教育放送の入試講座から、センター試験の問題を出題すると発表している。韓国の大学入試に欠かせない教育放送のインターネット講座をいつでもどこでも好きな時に受講するため、ネットブックやスマートフォン、IPTVが売れ、モバイルインターネットの利用も伸び始めたのだ。

 当然eラーニングも活発で、大学入試用だけでなく、幼児向け教育アニメや英語教育サイトも人気が高く、連日新しいサービスが登場している。タッチスクリーンのモニターに、百科事典や英語・数学などの基礎が学べる動画・アニメがプリインストールされた子供用教育パソコンも人気が高い。

◆目玉は教育アプリ

 この頃話題のスマートTVも、目玉は教育アプリケーションだった。

 スマートTVはIPTVと似ているが、スマートフォンから利用できるアプリケーションをテレビからも同じく利用できる。動画だけでなくゲーム、スポーツ、音楽、電子書籍、生活情報など何でもありのテレビである。サムスン電子は、スマートフォンに続いてスマートTVでも、子供の教育のためになるアプリケーションを無料でお試しできるようにして需要を伸ばしている。

 ここまでネット利用が盛んになった結果、韓国は、子供にインターネットを使わせることより、ネット中毒にならない方法、正しい使い方を教えるのに苦労している。この頃は中高生より小学生のインターネット中毒が問題になっているほどである。

 学校で「インターネット文化教室」を開催し、ネットで個人情報を書き込んではいけない、顔が見えないからといって悪口を書き込んではならない、著作権とは何か、オンラインゲーム中毒になるとこんな問題がある、といったネチケット(ネット上のエチケット)を教えている。

◆ネット利用のコントロールは大人の責任

 子供の教育費のためにと共働きが増えた結果、放課後一人でいくつもの塾に通う子供が増えている。塾に行かないと友達にも会えないというほど、公園で遊ぶ小学生は少ない。学校と塾を往復するだけの生活で、休み時間にすることといえばオンラインゲーム。そのため、通信キャリアが提供する子供のネット利用をコントロールするためのサービスも数え切れないほどある。

 携帯電話から遠隔操作で曜日ごとにパソコンの利用時間を設定できて、決まった時間が過ぎると電源が自動的に切られ、パソコンを使えなくするサービスも人気が高い。特定のサイトまたは電話で申し込みをするので、子供にパスワードがばれてしまう、なんてことも防げる。

 IPTVも同じで、子供がどんな番組を見て、どんな動画を見たのかを携帯電話からチェックできるようになっている。自分の家のIPTV画面にメッセージを表示させることも可能だ。「そろそろ塾の時間よ」「アニメばかり見ないで英語の動画も見てね」といったお母さんのメッセージが、字幕でテレビに出てきて子供はびっくり!

 フィルタリングは基本で、政府が提供する無料のフィルタリングもあれば、青少年団体が提供するフィルタリング、通信事業者が提供するフィルタリング、色々なフィルタリングがある。

 保護者らはフィルタリングのためのモニタリングにも積極的で、子供の教育によくないと思われるサイトを見つけると政府のフィルタリング窓口に通報し、情報を共有する。

 韓国では30~50代の親世代のネット利用が活発なせいか、子供がどんなサイトを見ているのか、どんな使い方をしているのかサッパリわからない、なんてことはあり得ない。

 さらに儒教の考えがまだ強く残っている国だからか、親と子の絆がとても強い。「子供は親のもの」という意識からか親も熱血で、「子供のため」ならどんなことだろうが専門家になってしまうのだ。


 次回は韓国で2007年から行われているデジタル教科書実証実験を紹介する。そこで浮き彫りになった保護者の考え、子供への影響を紹介し、さらに問題と解決策を中心に日本の教育とICTを考えてみたい。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年11月2日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/11/02/204.html

【韓国教育IT事情-1】熱血教育ママに学ぶ教育とICT…大学入試編

 韓国の大学入試は毎年11月に行われる。白バイの後ろに遅刻しそうになった受験生を乗せてピーポーピーポー猛スピードで走るシーンは、今年もあちこちで見られるだろう。

◆大学入試にパトカーはつきもの

 大学入試がある日は混雑を避けるために、公務員や大手企業の出勤時間が1時間遅くなり、全国民が息をひそめるほどだ。パトカーで受験生の送り迎えをすることに違和感を感じる人は、韓国にはいない。

 入試会場の前で祈り続けるママ達の姿も恒例であるが、韓国は受験日の100日前からお寺や教会、聖堂に毎日通い合格祈願をするママ達が非常に多い。この時期になるとCMの内容も受験一色に染まる。受験生のための頭がよくなる牛乳、受験生のための体力をつける高麗人参エキス、正しい姿勢を維持させ疲れなくする椅子、などなどきりがないほどだ。

 また受験が終わると、今度は一世に受験セールが始まる。受験で疲れた子供とママのために、受験票を持参した人に、特別価格で販売するイベントが全国のデパートやショッピングセンターで行われる。大学生になる前に「顔のパーツをチューニング」するとして、親子で整形外科に行くのもこの時期である。

◆受験生のママはスーパーウーマン

 韓国の受験は世界一厳しいともいわれ、母と子の二人三脚でないと乗り切れない。お母さんが予備校に通いカリスマ講師の講義を録画して要約ノートを作り、子供はまた別の有名受験塾に通いながらお母さんの受験ノートを参考書にする。ネットでコミュニティを作り科目ごとにカリスマ先生の情報を共有して、成績別にグループを作って有名な先生から個別指導を受ける。受験コンサルティングや入試説明会にも頻繁に出席し、最大限の情報を収集する。塾の送迎、栄養食作りも手がかかる。さらに、教育費のために共働きするママがほとんどなので、受験生のママはスーパーウーマン! 受験生よりも大変といわれているのだ。

◆教育格差を是正する情報化

 韓国はいつだって元気溢れる生き生きとした国、という印象があるが、日本と同じくますます就職が厳しくなっている。4年生大学卒の2割程度しか正社員になれない時代になってしまった。

 韓国は朝鮮時代から、勉強さえできれば出世できる社会であった。今までは、どんなに家が貧しくても、勉強さえできれば奨学金がもらえ、名門大学を卒業して国家公務員か大手企業に就職して裕福な生活ができた。だから教育に命がけだった。しかしこの頃は貧富の差が教育の格差につながっている。

 参考書を買うお金がない、塾に行くお金がないといった貧富の差、家の周りに進学塾どころか学校すらないという地域の差(島、過疎地域)、そういった格差のない「均等な教育機会」を与えるため、「教育の情報化」「デジタル教科書」の開発が15年も前から始まった。

 学校の情報化もすでに10年前には終わり、学校の情報化という言葉は死語。今は「教室の情報化」がテーマになっている。教室の中にはIPTV、デジタル黒板、デジタル教卓(パソコンが中に入っている教卓)があり、2007年からはタッチ式ノートパソコンとWi-Fi(無線の規格)を使った「デジタル教科書」の実験が始まった。

 デジタル教科書は、教科書に参考書、百科事典、各種データベースがリンクされていて、子供の学習能力を記録して個別指導もできるようにしたもの。デジタル教科書があれば、お金をかけなくても質の高い学習環境を整えられると考えられている。

 中央省庁の文化体育観光部は2010年より「融合コンテンツ開発支援」として、デジタル教科書につながるマルチプラットフォーム標準電子書籍制作、3D教科書、仮想現実・ホログラムコンテンツ開発を支援している。デジタル教科書の中身も、現実拡張(AR)や3Dが導入され、より立体的なものにするとしている。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年11月1日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/11/01/203.html

推定被害者60万人、韓国のグーグルストリートビュー問題

今韓国で大問題になっているのがグーグルの個人情報無断収集である。これは2010年から世界のあちこちで問題になっている件で、グーグルは違法なことはしていないというが、16カ国以上で警察が調査をしたり、個人情報削除命令を出したりしている。

 韓国でも2010年8月、ストリートビュー制作過程で個人間の通信情報を無断で収集、通信秘密保護法を違反した疑いがあるとして警察がグーグルの韓国オフィスを家宅捜索した。米本社に送られたものを含め、ストリートビューの制作に使われたハードディスクを押収、警察のサイバーテロ対応センターがハードディスクの暗号を解除して分析した結果、ついにグーグルが個人情報を無断で収集していた証拠が見つかったという(グーグルは自ら暗号を解除してハードディスクを渡したとして警察の発表を否定)。


 グーグルが実際に個人情報を集めているという疑惑はかねてよりあったが、証拠をつかみ事実と確認したのは16カ国の中で韓国警察が初めて、お手柄!と大々的に報道されている。


 ここでいう個人情報とは、ログインの際に使われるIDとパスワード、決済に使われたクレジットカード番号とパスワード、氏名や住所といった個人情報、メールやチャットの会話といった個人的な通信記録である。グーグルは特殊カメラで道路を走りながら街の写真を撮影する際に、近くにあるWi-FiのAPシリアル番号を収集し、そのAPを経由して行われたメール送受信内容、メッセンジャーの会話内容といった通信内容までも収集していた。


 グーグルの韓国ストリートビューは、2009年10月から2010年5月にかけて制作され、大都市を中心に5万kmあまりを撮影している。グーグルのカメラが通った時間に、その地点のAPをアクセスしてネットを使っていた人が被害者ということになる。ネットで何をしていたのか、IDとパスワードまでばっちり収集されてしまっては怖い。警察の発表では被害者は推定60万人とされる。


 グーグルは間違ってデータを収集してしまったというが、なぜ警察が押収するまでハードディスクに残った個人情報を削除していなかったのかが疑問だ。それに、そもそもWi-Fiのネットワークって簡単に通信情報が漏れるものなの? グーグルの個人情報収集とハッカーによるハッキングも情報を持っていったという点では同じじゃないの? 疑問は尽きない。


 APのシリアル番号を収集していたのは、GPSに対応していない端末からも、アクセスしたAPの情報から現在位置を把握して、ストリートビューを提供するためであるとしている。これを、韓国の警察は通信秘密保護法の盗聴疑惑、情報通信網利用促進及び情報保護などに関する法律、位置情報の保護及び利用などに関する法律の違反にあたると見ている。


 ストリートビューの制作そのものを担当した人は「どんな情報が収集されているのか知らなかった」、「韓国のストリートビュー制作は米本社が行っているので詳細は分からない」と主張する。それで2011年1月、韓国警察は責任者を処罰するとしてAP経由で行われる通信内容を収集できるプログラムを作った人とプログラム制作を指示した人が誰なのかグーグル本社に確認を要請した。警察は1月13日グーグルを立件、検察がグーグル本社の起訴を検討する。


 この事件はスマートフォンに夢中になり一気にWi-Fiスポットが増えた韓国にとって、重要なニュースとなっている。パスワードを設定せず誰でも使える状態のままWi-Fiを使う家庭やオフィスが多い。街中どこでも無料でWi-Fiを使えるのは便利であるが(もちろん勝手にアクセスして使わせてもらうわけだが)、その分データのやりとりが全部盗まれる可能性もあるということを忘れてはならない。


 これをきっかけに、Wi-Fiを経由したクレジットカード決済は大丈夫なのかといった心配も出てきた。スマートフォンやタブレットPCの普及によって、固定ブロードバンドよりもWi-Fiをはじめモバイルインターネットを使うことが増えたこのごろ。どんなに高度なセキュリティシステムが開発されても、ますます個人情報保護やデータ保護は問題になっていくだろう。なんとも、怖い~。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年1月13日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110113/1029603/

韓国IT業界の2011年はCESから始まる! ~スマートTVで世界シェア1位狙う

韓国は陰暦を使っているので、2011年のお正月は2月3日である。まだだいぶ先にあるせいか、西暦では年は明けたものの、なんだかまだ新年気分がしない。1月1日だけが休みで連休でもないからなおさらそうなのかもしれない。それでも12月が年度末なので、各企業や省庁では始務式がすでに執り行われ、新年の業務が始まってはいる。ただ、お正月前だと「2011年初仕事!」の気合がなかなか入らない。

 新年なんだけどまだ新年ではないような、そんな気分を一気に覚ませてくれるのが、米ラスベガスで1月6日から始まる世界最大級の家電展示会「2011 International CES」と言える。サムスン電子、LG電子を中心に韓国が誇る「世界初」、「世界最高」という宣伝文句を掲げた新製品を一挙公開する。世界の家電とIT製品のトレンドを把握できる展示会だけに、IT輸出が経済を支える韓国ではIT業界人だけでなく、一般市民も注目するニュースでもある。開催前からネットでは今年のCESにはどんな新製品が出展されるのか現地からの報道が絶えず、出展するメーカーは現地からネット中継で自社の展示内容を宣伝するほど力を入れている。


 2011年のCESは、欧米の景気回復を反映して、より画面が大きくて薄いパソコン・携帯電話・テレビ、インターネット経由でつながるスマート家電が注目されているという。今年の目玉としてサムスンとLGが宣伝しているのはなんといっても「スマートTV」。テレビを観たり、ネット検索をしたり、動画を観たり、ゲームをしたり、テレビからTwitterにつぶやいたり、スマートフォンやタブレットPCと連動してアプリケーションを利用したりできる。サムスンとLGは世界TV市場シェア1位を守るためにも3DTVに続いてスマートTVでも1位を狙う。


 サムスンは史上最大規模、参加企業の中でも最大規模の展示ブース(2584平方メートル)で参加する。既存のものより10インチも大きくなった世界最大という75型スマートTVも初めて公開される。フルHD、2Dから3Dに変換する機能付き、大型には適用するのが難しいといわれたエッジ型LEDバックライトを搭載しているのが特徴である。スマートTVだけで2011年の世界市場において1000万台の販売数を予想する。


3DTV用のメガネも進化を遂げた。初めて公開されるという3Dメガネは28gという超軽量シャッターグラス、鼻の高さを調整できるので子どもも使える。かけているのかいないのか分からないほどの着用感だといい、既存のメガネより約10g軽くなったという。ネジを使用しない人体工学的なデザインで有名なオーストリア「シルエット」とデザイン提携によって生まれた。メガネの上にもかけられるといいけど、その手のデザインではなかった。視力補正レンズを付けられるという説明だが、3Dメガネ用のレンズを作らないといけないのだろうか。






CESで公開されるサムスンの28g超軽量3Dメガネ


3DTVやスマートTVの複雑な機能をより簡単に利用できるよう3型タッチリモコンも展示されるという。これは面白そうだが、スマートフォンにタブレットPCに画面付き電話機(韓国ではVoIPはSoIPといって、タッチパネルが付いてちょっとしたコンテンツ利用、メモ、テレビ電話ができるVoIPが普及している)に画面付きリモコンまで登場するとなれば、機能がちょっとずつかぶる「画面付き○○」が増えることになるので、これもまた整理されて一つのタッチパネルに集約していくのではないだろうか。2012年のCESではこの画面一つ持っていれば何でもできます、なんていうのが登場するかも。

 サムスンはデザインが美しい「3D LEDモニター」にも注目してほしいということだった。オンラインゲーム好きの韓国人だけに、家庭でもノートパソコン+大型モニターの組み合わせをよく見かける。普段メールをチェックしたりネットサーフィンしたりする際にはノートパソコン、ゲームや動画、ネットショッピングはモニターをつなげて使う場合が多いので、デスクトップパソコンの販売は減っているものの、画面がきれいでデザイン性の高いモニターは需要がある。



LGも2045平方メートルのブース規模で、独自のプラットフォーム「NetCast2.0」を搭載した72型のフルLED3DスマートTVや3DTV、スマートフォン、家電などを展示する。同社もメインはスマートTVと3DTVとしている。また、冷蔵庫や洗濯機、ロボット掃除機などの家電とスマートフォンやタブレットPCがつながるホームネットワークで、どこにいても家電を遠隔操作し電源をつけたり消したりできるスマートソリューションも展示する。スマートフォンで観ていた映画を面倒な作業なく続けてスマートTVから観ることができる機能などが紹介される。

 パソコンとスマートフォンもどんどん軽く薄くなっていて、サムスンは11型軽量ノートパソコンと、世界最薄という厚さ23mmの3Dブルーレイプレーヤー、4GのLTE基盤端末、iPadに対抗する7型タブレットPC「GALAXY Tab」に続いてWindows 7を搭載した10型タブレット「Gloria」も展示する。世界で最も薄いとLGが宣伝する9.2?のスマートフォン「Optimus Black」を公開する。「Optimus Black」はスマートフォンの中では最も明るい700nitのLCD、109gの軽さも自慢。






LGが公開する厚さ9.2mmスリムスマートフォン「Optimus Black」

CESではハードウエアだけが注目されるが、韓国内では既に家電メーカーと通信事業者、ネット動画サービス事業者の間で「Nスクリーン戦略」として熾烈なコンテンツ確保競争が巻き起こっている。サムスンとLGももちろん、スマートTVやスマートフォン、タブレットPCといったハードウエアだけでなく、アプリケーションやコンテンツ確保に力を入れている。自らプラットフォーム事業者になるアップル式囲い込みで差別化を狙う。LGの場合、グループ会社で通信事業者のLG U+がIPTVからスマートTVへ戦略を変えたことで、共同でコンテンツ流通に乗り出すことも考えられる。各種デバイスがスマートTVとつながるため、スマートTVのプラットフォームを制したものが、今後ハードウエアでもコンテンツでもリーダーになると見られている。

 サムスンは若手役員起用と果敢な投資を打ち出し、LGは役員の入れ替えや通信事業再編でどんどん効率性を高めている。2010年まであまり目立たなかった中小企業もスマートフォンやスマートTVをきっかけに動き出している。CESでの初仕事を終えた韓国IT業界が本格的にどのような戦略で動き始めるか、楽しみだ。ただ、人もビジネスもだめなものはすぐ切り捨てるという容赦ない選択と集中、終わりのない競争の中で成長してきた韓国が、疲れることなくこのまま今年も突っ走れるか、ちょっと心配だな~。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年1月6日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110106/1029465/

韓国デジタル教科書事情(5)~利用端末は未定でも「果敢な選択と集中」を急ぐ

「韓国デジタル教科書事情(4)」から続く) から続く


 韓国政府の教育ビジョンは「先進教育学術情報化による健康で創造的人材育成」である。


 5大戦略目標として「健康な市民養成」、「創意的グローバル人材養成」、「疎通と信頼の教育文化造成」、「持続可能な教育体制具現」、「Green IT 基盤の新教育システム構築」を挙げている。そのために初等教育から生涯学習まで、個人の成長に合わせて対応できる教育環境をつくることを目指し、その流れの中でデジタル教科書が生まれた。


 少子高齢化が日本よりも早いスピードで進んでいる韓国では、持続的成長のため教育、医療、環境とICTの融合は重要な課題である。2011年韓国政府の経済活性化テーマも「融合」がキャッチフレーズだ。デジタル教科書やデジタルヘルスケアといった既存サービス+ICTの融合サービスを活性化するために政府がするべきことは、技術開発支援よりも制度改善であるとして、関連法や制度改善に拍車をかける。


 デジタル教科書にかける期待は大きい。全国経済人連合(日本経団連に当たる団体)はデジタル教科書のコンテンツ開発、教室インフラ改善などのために向こう3年間に2兆ウォン(約1800億円)が必要であるとし、塾や印刷会社、書店の雇用が減る代わりに、コンテンツ分野の新規雇用が増えることで、9000人以上の雇用効果があると予測している。


 日本の文部科学省にあたる教育科学技術部だけでなく、経済産業省にあたる知識経済部もIT融合支援策でデジタル教科書を支援している。タブレットPCやスマートTVが脚光を浴びることが予想されることから、デバイス普及の鍵となるアプリケーション開発、教育現場で使われるシステムのクラウド化、eラーニング産業としての教育情報化、リナックス基盤デジタル教科書開発などを進めてきた。





デジタル教科書端末としてはGALAXY Tabのようなタブレットパソコンが有力といわれているが、まだ公式に決まっていない。韓国では「どんなデバイスからも利用できる教科書がデジタル教科書である」としている

「eラーニング産業発展及びeラーニング活用促進に関する法律」も検討する。デジタル教科書や教育情報化に合わせてeラーニング市場全般を活性化させるために支援するというもので、デジタル教科書プラットフォーム標準化、幼稚園向け教育情報化システム支援、学校向けeラーニングシステム構築コンサルティングとシステム構築などを支援する。

 「スマートラーニングコリアプロジェクト」として、マルチプラットフォーム環境での「オーダーメイド型学習サービス」を提供するため政府はどのような支援をするべきかに関する研究も始まっている。



子ども達は自由に著作物を使えるのか?

 政府はデジタル教科書向けコンテンツ開発と著作権改訂も検討する。3D、拡張現実(AR)、ロボットなどを適用したマルチメディア教科書が期待される中、教科書のためには著作権法も改訂しなくてはならない。現状のままでは「教科書に掲載」は許可されても、それを子ども達がコピーして再編集したり、教科書専用端末ではなく家庭から見たりした場合は著作権法違反になるのか、疑問が生じる。デジタル教科書に掲載していろいろと活用できるようにしてもいいが、その分著作権料を高く払ってほしいという著作権者側の主張も納得できる。


 デジタル教科書商用化のための準備は着実に進む。2011年からは「教科書先進化」として、教科書のサイズやデザインを自由に作れるようになった。アメリカの教科書のようにサイズも大きくフルカラーの紙の教科書に解説書とCD-ROMを付録にしている。デジタル教科書に市場を奪われまいと教材出版社もCD-ROMを付録にし、アプリケーション参考書を開発して電子ブックリーダーやiPad、スマートフォンからも使えるように準備している。


 2010年の秋には科学教科書を中心に「デジタル教科書2.0」の実証実験が始まった。既存のデジタル教科書は端末にインストールして使うのが前提となっているが、2.0ではいつでもどこでもWebベースでOSも端末も関係なく使える教科書にする。この「いつでもどこでもどんな端末からも」というのが果たして便利で学習効果があるのか、といったことを学校で使わせて実験することになる。


 タブレットPCよりもちょっと画面が大きめのスマートフォンの方がいいという子どももいるだろうし、やっぱりノートパソコンから使いたいという子どももいるはず。子ども達が自分に合った端末を選んで使えるようにするというのも面白い。デジタル教科書は学校の中だけで使うものではないので、病院に長期入院している子どもや海外転勤で外国に住んでいる子どもでもデジタル教科書で勉強できるようになれば休学する必要もなくなる。


デジタル教科書はレンタル制にするのか未定

 残すは教育科学技術部の端末予算確保である。小中学校は義務教育であるため、教科書は無料で配られる。デジタル教科書であっても義務教育なので教科書は無料でないといけない。子どもに与えるのか、それともレンタル制にするのか(卒業すると返納するとか)、タブレットPCにするのか、といった具体的なことはまだ何も決まっていない。


 国定教科書発行費用を全部端末購入に使うとしても端末の仕様が決まらないので「どんな端末からも使える教科書」という定義のまま、予算策定が難しくなっている。現在実証実験に使われているヒューレット・パッカード製のタッチパネルノートパソコンは多機能で値段も高く重くて持ち歩けない。今のところはiPadやGALAXY TabのようなタブレットPCが有力とされているが、シンプルにして値段を1万円ほどに落としたデジタル教科書専用端末が必要なのではないかという意見も根強く残っている。教育科学技術部は「急いで決めずに2012年まではあれこれじっくり試したい」としている。端末選定の悩みはまだまだ続きそうだ。


 先日、韓国の教育政策を発表する場で李明博大統領は「科学技術を活用した教育」、「果敢な選択と集中」を要求した。「すべてにまんべんなく予算を配分しては、どの分野も競争力を持てなくなる」という大統領の言葉はまさに韓国の今を象徴していると言える。


 「できない人」に焦点を当てるのではなく、「優れている人」、「できる人」がさらに才能を発揮できる環境をつくらないと韓国はだめになってしまうという危機意識を国民が共有している。だから韓国は前に進むことができた。2011年も韓国はデジタル教科書やヘルスケア、スマート端末、スマートグリッドなどにおいて世界に先立ち新サービスを商用化、世界のテストベッドとして注目されること間違いないだろう。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月27日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101227/1029378/

2010年、韓国の年末商戦キラーアイテムはやっぱりこれ

国民の半分以上がキリスト教の韓国ではクリスマスは祝日である。韓国にもサンタさんは存在して、クリスマスイブの夜にプレゼントを枕元に置いてくれる。クリスマス当日の午前は教会や聖堂に行き、それから家族または恋人同士で遊ぶ、というのが典型的なパターンではあるが、「今年もクリスマスはホーム・アローンの再放送と一緒に部屋でゴロゴロ…」という人も少なくない。それでもクリスマスは街のイルミネーションを見たりキャロルを聞いたりするだけで心が躍るもの。

 今年は11月から雪が降り始め、足首まで積もるほど。旧正月にするお歳暮とは別に、クリスマスにも家族や知人にプレゼントをする。寒さが早くやってきたせいか例年より早く10月末ぐらいからもうクリスマス商戦が始まった。


 この年末は去年に比べかなりゴージャスになったような気がする。景気回復なのか、まずイルミネーションが派手になり、ホテルのクリスマスパッケージも去年に比べ豪華になった。ヨーロッパ王族のようなクリスマスパーティー、ニューヨーク本場のクリスマスパーティーのプランなどを売り出した。アイドルが歌うクリスマスキャロルのデジタルシングルやコンサートの話がネットをにぎわせているのをみると、やっぱりこのクリスマスは景気がよくなったのかな? と思わずにいられない。


 韓国でも広告代理店やマスコミ、研究所などが「2010年のヒット商品」というタイトルでランキングを発表する。ここでヒット商品として挙げられた商品のほとんどがクリスマスや年末年始のプレゼントとしてまた売れる。


 2010年のヒット商品はなんといってもスマートフォン! 誰も文句がつけられないほど売れまくった。

韓国の年間携帯電話端末出荷台数は2500万台前後である。一方、スマートフォンはこの1年間に700万台近く売れた。これは2009年に予想していた200万台の3.5倍の数字である。2011年は1500万台以上と見込まれているので、新しく携帯電話端末を購入する人の6割がスマートフォンを選択するということになる。


 ヒット商品ランキングでもほぼすべてのランキングで1位がスマートフォンだった。売れた商品も欲しい商品もスマートフォンというほどの盛り上がりだ。サムスンのGALAXY SとアップルのiPhone 4が人気を二分していて、媒体のヒット商品としてはGALAXY Sがよく紹介されており、「2010年クリスマスに欲しいのは?」といったユーザーアンケートではiPhone 4が1位、iPadが2位だった。


 販売台数では11月末時点でGALAXY Sが約180万台、iPhone 4が約72万台、iPhone 3GSが約90万台なのでGALAXY Sがもっとも売れていると言える。前者2つは未だに予約しないと手に入らないほどの人気だ。いつもアイデアで勝負する携帯電話端末ベンダーのパンテックは、ここ数年これといった人気端末がなかったが、スマートフォンでは次々に新機種を発売し、出す機種すべてヒットを飛ばしている。海外ベンダーのスマートフォンもどんどん発売されるようになった。ベンダーが増えることで競争も激しくなるので、ユーザーにとってはありがたい。






2010年ヒット商品第1位はスマートフォン、そして年末商戦でじわじわ台数を伸ばしているのがタブレットPCである。写真はキム・ヨナ選手が1日中GALAXY Tabを手放さず生活するという内容の話題のCM

ブログを運営する人は相変わらず多く、1000万画素以上の小型デジカメ、一眼デジカメもよく売れている。毎年行われるインターネット利用実態調査によると、韓国のネットユーザーの約半分は自分のブログまたはSNSサイトを運営しているという。韓国のブログを見ていると写真や動画をネットに載せるのが好きで、自分撮りするのはもっと好きな人をよく見かける。クリスマスのイルミネーションがきれいだからと、あの重たい一眼を片手にぶるぶる震える手で自分撮りしている女性を結構見かけた。手ぶれ防止機能が付いているから大丈夫なのかな?人に撮ってもらうときれいに写らないから嫌なのだとか。


 3DTV、スマートTVもヒット商品に選ばれていた。一度アプリケーションを購入すれば、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVからコンテンツを利用できるようにつながるのはとても便利である。韓国ではデバイス普及のためにはまずコンテンツから、という政府の支援戦略により、自治体や公共機関が開催するアプリケーションコンテストをよく目にする。スマートTV向けアプリケーション公募もあったので、スマートTVはこれから盛り上がるだろう。楽しみである。


 韓国では芸能人の影響力が絶大で、ドラマに登場したブランドや人気芸能人が身に着けたという商品は飛ぶように売れる。2010年は米国の音楽プロデューサー、Dr. Dreのヘッドホンがそうだった。地下鉄や街中でDr. Dreのヘッドホンを首にかけたり耳にかけていたりする人をやたらと見かける。元々有名ブランドではあるが、3万5000円くらいする高価なものだけにそう簡単に買えるものではないはずだが、スマートフォンユーザーが増えて移動しながら音楽を聴いたり動画を見たりすることが増えたせいかもしれない。韓国では10~20代だとイヤホンよりヘッドホンを使う人が多い。季節的に耳をカバーして温めるという効果もあるし、ファッションの一部だからだ。Dr. Dreは芸能人のプライベート写真によく登場するせいもあり、音質を追求するというよりファッションとして真似て買う人の方が多いかもしれない。ネットショッピングでも売れ筋商品としてよく紹介される。



世界的に「エコ」がブームなだけに、韓国でも省エネエアコンや省エネ冷蔵庫といったエコ家電が売れた。韓国人の生活に欠かせないマストアイテム!「キムチ冷蔵庫」も省エネ+多機能になっているので、毎年のように買い換えたくなる。キムチが発酵しすぎないようにちょうどいい温度で新鮮に保ってくれる上水分を逃がさないので、野菜も長持ちするという機能が人気で売れ始めたキムチ冷蔵庫は、年間100種類以上の新製品が発売されているほど熱い市場だ。


 冷蔵庫とは思えないほど派手なデザインにワインセラー付き、飲み物を取り出しやすくしたホームバー付き、化粧品冷蔵庫付きなど、キムチだけを保存する冷蔵庫ではなくなりつつある。キムチ冷蔵庫はキムチを大量に漬ける秋によく売れるが、お母さんへの年末年始用プレゼントとしても喜ばれている。







母へのプレゼント、主婦の自分へのご褒美としても人気の高いキムチ冷蔵庫。一家に1台はある韓国人のマストアイテム


IT製品以外の売れ筋を見てみると、寒いだけに発熱素材の下着もヒットしている。日本では「食べるラー油」が流行ったと聞くが、韓国では「生マッコリ」が大ヒットした。冷蔵流通で新鮮に、収穫されて1年経っていないお米だけで作るという高級化を図ったのが生マッコリ。既存のマッコリとは違って、牛乳が置いてある冷蔵コーナーで販売される。このほかにも健康食品やオーガニック系のものが売れている。高くても健康にいいものを選ぶようになった人が多いのをみるとやっぱり景気回復なのかも…


 韓国では2011年にはスマートフォンとタブレットPCの競争がさらに激化すると予測されている。この調子だと2011年の年末商戦でもスマートフォンが1位になる可能性が高い。「スマート」をキーワードにしたアプリケーション競争も熱い。今年のヒット商品ランキングにアプリケーションはなかったが、2011年はもっとも売れた商品の一つとして特定のアプリケーションが紹介されるかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月29日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101227/1029360/

韓国デジタル教科書事情(4)~「サイバー家庭学習」で、自主的な学習習慣を付ける

韓国がデジタル教科書実証実験を始めたのは2007年。それまでに15年近く、デジタル教科書のための教育情報化システムを整え、教師と学生のICT利活用能力を高め、教師の研修を義務化して定期的に行ってきたことを前編で紹介した。今回は、「デジタル教科書」と両輪で子ども達の学習を支える「サイバー家庭学習」のシステムを紹介する。

 韓国政府は所得や地域の格差なく公平に、誰でも質の高い教育を受けられるようにと「サイバー家庭学習」を全国16の自治体と一緒に開発し、小中高校生向けに提供してきた。「デジタル教科書」が学校でタッチパネル端末と電子黒板を利用するマルチメディア教材だとすると、「サイバー家庭学習」は家のパソコンから子どもが一人で使う教材と言える。






サイバー家庭学習は自治体ごとにサイトが分かれる。画面はソウル市のサイバー家庭学習サイト



 サイバー家庭学習は小学4年生から高校1年生までを対象に、インターネット経由で教科書の内容を復習したり、問題を解いたり、動画を見たりして、子ども達が基礎学力を高められるよう設計されている。国語、社会、数学、科学、英語の5科目を中心に「基本(基礎)」、「理解(普通)」、「深化(優秀)」という3段階のレベルに分けてコンテンツを提供。子ども一人ひとりの利用状況を分析して、どんな問題をよく間違えて、どういうところを補うべきなのかといった学習診断をするのはもちろん、学校の教師がサイバー担任として登場し、質問に答えたり、ビデオチャットで解説したりしてくれる。学校の教師はサイバー上でケアする学生の数や優秀クラス選定などの評価項目に沿って、毎月1~2万円ほどの手当てをもらう。


サイバー家庭学習の目標は、子ども達が自ら勉強する習慣を身に付けること。無料なのでお金がなくて塾に行けない、または農漁村で塾がないので行けないといった格差を感じることなく、インターネットさえつながっていれば利用できるというのが特徴である。2種類あり、各自治体が運営する「サイバー家庭学習」(2004年開始)と、小学生・中学生・高校生・保護者・教師に分けて教育資料と教育情報を提供する「EDUNET」(1996年開始)がある。これらのサービスはスマートフォンからも使える。








サイバー家庭学習はスマートフォン向けアプリケーションとしても提供されている。利用料はPC向けと同じく無料。スマートフォン向け表示の例







スマートフォン向け表示の例2。利用料はPC向けと同じく無料




子ども達の自主的な学習習慣を支援



 デジタル教科書は、教科書にいろんな参考資料をリンクさせることで、子どもが興味を持って集中できるようにした。さらに、画一的な授業ではなく一人ひとりのレベルに合った学習を可能にするのが特徴の一つであるため、このサイバー家庭学習とは両輪で、同じ目標を共有するシステムであると言える。


 どんなに素晴らしいシステムだとしても、一人で自主的に勉強できる習慣が身に付かない限り、デジタル教科書だけがある日湧いて出たように普及しても学習効果は見込めない。例えば、韓国の大手学習塾がアンケート調査をしたところ、小学生の46%が「勉強の仕方が分からないので塾に行きたい」と答えたそうだ。サイバー家庭学習は、子どもが自らこんな勉強をしてみよう、教科書のこの項目がよく理解できないからこの動画を見てみよう、といった具合に、自主的な学習習慣を支援することで、デジタル教科書との相乗効果を狙う。


 サイバー家庭学習は、韓国教育科学技術部(文部科学省に相当)の資料によると、2010年8月時点で会員数約312万人、サイバー担任約12万人、チューターとして参加する大学生が340人ほどいる。また、このサービスを利用している児童・生徒の81%が、成績が良くなった、勉強が面白くなった、など学習のためになったと答えている。

2009年末時点で家計の教育費を見てみると、サイバー家庭学習を使うことで子ども一人毎月7000円ほど学習塾代を節約できたとしている。大学受験に命がけの教育熱の高い韓国だけに、収入の70~80%を子どもの教育に使う家庭も少なくない。科目ごとに違う塾に通い、英会話やピアノといった習い事まで合わせると教育費だけで毎月子ども一人少なくても8万円はかかるので、10%近い7000円の節約はうれしい。


 韓国はこれら家庭用教育サービスを提供するために2005年から2010年2月まで100億円近い予算を使っている。ここからさらに発展し、ソウルの江南区をはじめ一部区役所は年間3000円ほどで利用できる有料外国語学習サイトや大学受験向けカリスマ講師動画サイトをオープンし、住民に喜ばれている。


 サイバー家庭学習におけるこのような取り組みが評価され、2007年にはUNESCO教育情報化賞、2010年には教育分野の国際機関IMSの Learning Impactで大賞を韓国は受賞している。


 韓国は共働きで両親が家にいない。そのため勉強の面倒を見てやれないので子どもを塾に行かせることも多い。学校では教室にあるIPTVを経由して子ども達が教育アニメを見たり、教科書の内容と関連のある動画を見たりする「放課後教室」も運営する。これには通信事業者も社会貢献活動としてスポンサーとなっている。通信事業者が派遣したボランティアの大学生が放課後教室の先生になったりもする。


 デジタル教科書や教育情報化のために教育科学技術部や通信事業者、IT企業だけががんばっているわけではない。知識経済部(経済産業省に相当)も関連政策を発表している。韓国ではこのような新しい教育サービスに必要なのは「技術よりも制度改善」が合言葉になっている。(次回へ続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101224/1029343/

スマートグリッドの標準を握れ 世界最大規模の実証実験進む

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日経エレクトロニクス 2010/12/27号

ワールド・レポート from 韓国
スマートグリッドの標準を握れ 世界最大規模の実証実験進む



趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


昔から「風,石,女性」が多い三多島とも呼ばれてきた,朝鮮半島の南に位置する済州(Jeju,チェジュ)道(図1)。韓国でも有数の観光地であるこの島が,2010年11月8~14日の間,スーツに身を包んだ,世界からの訪問客でにぎわった。彼らは米国,日本,中国,インド,ロシア,英国など世界12カ国から訪れた,スマートグリッド関連の政府担当者や企業の代表者たち



続きは日経エレクトロニクス(2010年12月27日号)で

韓国デジタル教科書事情(3)~教科書だけではない、すでに仮想現実の授業も実施

「韓国デジタル教科書事情(2)」から続く)


 韓国の学校では、学校の告知事項も、先生からの宿題も、宿題を提出するのも、テストの成績を確認するのも、全部ネットで行われている。一部学校は保護者向けに教室の様子をネットで配信しているほどだ。透明で公平で「見える教育」にしないといけないという考えと、IT大国らしく、親も子どもも「ネットの方が何かと便利」という考えから生まれたものである。


 環境は整っている。子どもたちは、家に帰ったら自宅のパソコンからネットへアクセスして予習・復習をし、宿題はネット上にある先生のページに登録する。


 デジタル教科書実証実験学校の場合は、デジタル教科書でどんな勉強をして、学生ごとにどんな学習効果を得られたのか、学習過程をすべてネットで公開している。当初、デジタル教科書を使うと紙の教科書よりも目が悪くなるのではないか、電磁波の影響で背が伸びなくなるとか子どもの成長に悪影響を与えるのではないか、インターネットにつながっていないと不安になるネット中毒になってしまうのではないかなど、保護者はいろいろ心配した。しかし学校側が健康診断や心理検査も行い、学習効果を毎日測定して公開した結果、そのような悪影響はないことが判明し、保護者も安心して実証実験を楽しみにするようになった。


 韓国のデジタル教科書はどんな端末からも利用できるマルチメディア教材として開発されている。中身は日本の構想とあまり変わらない。基本的に紙の教科書をデジタル化して、重要なキーワードには動画や画像・アニメ、百科事典などがリンクされている。リンクをクリックするとそのキーワードを分かりやすく説明してくれる参考資料が登場するので、参考書を別途買わなくても教科書の中で全部解決できる。


 韓国では、デジタル教科書を2013年より全国で商用化することを目指している。その前の段階として、2011年から紙の教科書+CD-ROMが配られる。CD-ROMにはデジタル教科書が入っていて、学校の電子黒板や自宅のパソコンで利用できる。


 子ども一人にパソコン1台という状況ではまだないので、電子黒板にデジタル教科書を表示させ、マルチメディアを利用した授業を行う。今までは先生がデジタル教材サイトから動画を検索してオリジナル資料を作成して電子黒板に表示していた。デジタル教科書実証実験学校では、子ども達の理解を高めるためデジタル教科書に追加して、さらに先生と子どもたちが教材サイトで見つけた動画や写真を付け加えて発表したりして面白くインタラクティブに授業をしていた。先生と子どもたちが一緒になってマルチメディアを活用しさらにアレンジしている――。ここが韓国の教室で起こっている、面白いところではないだろうか。

日本では事業仕分けによって揺らいでいる「フューチャースクール」であるが、韓国では持続的に政府が投資している。デジタル教科書に限らず、教室を丸ごとアップグレードし、先端的な教育環境を実現するための投資である。その1つに、「U-class(ユビキタスクラス)」という名前で行われている実験がある。VR(仮想現実)を使う教室のことだ。


 RFIDによる出欠管理、マジックミラー、電子ペン(手書き内容をデータとして保存)、電子黒板、電子教卓、タブレットパソコン、個別学習管理システム、個別コンテンツ管理システム、酸素発生器(空気洗浄+集中力を高めてくれる酸素を供給)などの設備がそろう。


 例えばRFIDによる出欠管理では、子どもたちが机の上にあるカードリーダーに自分のICカードをかざす。それが出席チェックとなり、それぞれの場所が先生の電子教卓に表示される。出席チェックと同時に「今日の気分」も選択する。内気で先生にあまり話しかけることができない子どものために作られたもので、「今日は落ち込んでいる」、「今日は具合がよくない」といった項目もあった。これを見て先生が子どもの状態を把握して先に話しかけたりできるようにしている。授業中に発表する人を決めるときは、ICカードに登録された子どもたちのキャラクターを登場させ、抽選を行う。楽しくゲームのように授業に集中させる仕掛けの1つだ。




子どもたちが使うICカードとカードリーダー。出欠管理に使う。授業に参加できるようキャラクター情報も持つ

U-class実証実験を体験できるショールームで英語の授業を見せてもらった。


 クラスの壁一面がスクリーンになっていて、先生が教室の真ん中に立つとスクリーンの中に先生が入っているように立体的に映し出される。この日の授業は外国の友達を家に呼んでパーティーをするという内容で、先生の隣には外国人の子どものキャラクターが数人登場、一緒に英語でおしゃべりをしながら授業を進める。キャラクターの頭の上には「のどが渇いた」とか「おなかが減った」などのメッセージが表示され、教室の子どもたちはこれを見つけては素早く英語で話しかけて対応しないといけない。実際に外国人と会話をしているような仮想現実を体験することで、より英語を身近に感じさせるのが目的である。







先生がスクリーンの中に入り込んでいるようにみえる。仮想現実の登場人物と英語の授業を行っている最中だ


また電子黒板も2Dから3Dにアップグレードしていた。科学の授業では先生の心臓の位置に3D画像の心臓が映し出され、子どもたちの理解を高めていた。


 このVR教室は未来のものではない。政府のIT科学技術開発シンクタンクがある、ソウルから2時間ほど離れた大田(テジョン)市の小学校12校で既に導入済みだ。英語や科学などいくつかの科目の授業が行われているという。(次回に続く)





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月13日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101210/1029069/