集団訴訟に直面する韓国大手ポータルサイトとアップル

2011年7月、韓国の3大ポータルサイトの一つである「NATE」を運営するSKコミュニケーションズがハッキングされ、約3500万人いる会員の個人情報が流出するという事件があった。韓国の人口は約5000万人なので、人口の3分の2が被害者という大規模な個人情報流出事件に国中が大騒ぎとなった。SKコミュニケーションズはポータルサイトNATEのほか、10~30代のほとんどが会員となっている個人HOMPY(韓国の元祖ソーシャルネットワーキングサイト)の「CYWORLD」、インスタントメッセンジャーの「NATEON」を運営する、最大手移動通信キャリアSKテレコムの子会社である。





3500万人もの会員情報がハッキングされたSKコミュニケーションズが運営するWebサイト「NATE」

韓国の個人情報流出が怖いのは、国民IDである住民登録番号と氏名、電話番号、住所といった個人の重要な情報が全部盗まれ、振り込め詐欺に悪用されているからである。個人の情報を手に入れた詐欺師は警察や銀行を名乗り、銀行口座が犯罪組織に乗っ取られたので貯金を安全に守るため他の口座に移す必要があると騙して振り込ませる。自分の名前、住民登録番号、電話番号、住所、家族関係まで相手が知っているので、騙される人も少なくない。

 税金、医療、教育、不動産取引などに使われる重要な国民IDであるはずの住民登録番号を、個人確認できる手っ取り早い手段としてWebサイトの会員登録に要求し続けた結果、国内のWebサイトをハッキングして手に入れた個人情報で振り込め詐欺をする詐欺団がなくならない。中国発ハッキングが最近大問題になったが、さらに北朝鮮のハッカー部隊が資金作りのために中国の詐欺団に手を貸しているという報道もあり、不安は募るばかりである。


 また、IDとパスワードを使って他人のメールやメッセンジャーにログインし、メッセンジャーに登録されている人にお金を振り込ませるなりすまし詐欺も広がっている。インターネット振興院の調査によると、韓国ネットユーザーの84%はインスタントメッセンジャーを使っているだけに、いつ自分が被害者になるか分からない。


 個人情報流出事件はこれが初めてではなく、オークションサイト、ショッピングサイト、オンラインゲームサイトなど、1000万人規模にのぼる会員情報ハッキングは今までに何度も繰り返されている。


 その度に会員らは個人情報が侵害されたことに対してサイト側に損害賠償を求めているが、要求が認められたことはない。


 しかし今回の事件では、個人情報が流出した被害者の一人がソウル中央裁判所にSKコミュニケーションズを相手取り裁判を起こした。会員の個人情報保護管理を疎かにした責任を取るべきとして慰謝料を払うよう求めたのである。裁判所はSKコミュニケーションズに100万ウォン(約7万1300円)の慰謝料を支払うよう命令を下した。SKコミュニケーションズが支給命令に異議を申し立てる場合に、慰謝料をめぐる法的攻防が始まる。

 その後、100万ウォンの慰謝料をめぐり、SKコミュニケーションズの会員らが集団訴訟を起こした。ネットの掲示板サイトには集団訴訟の参加者を募集する書き込みが増えている。8月15日の時点で6万人ほどが集団訴訟に参加すると書き込みを残している。このままいけばSKコミュニケーションズは3500万人に100万ウォンずつ支払わなくてはならなくなる。しかし一方では、集団訴訟を起こしても代理人となる弁護士の収入だけが増え、サイト側も会員も何の得にもならないので、訴訟に使うお金をハッキング再発防止のために使った方がいいという意見も増えている。






NATEに掲載された、個人情報流出に対する謝罪とパスワード変更を求める案内


SKコミュニケーションズが会員の個人情報を守れなかったのは事実だが、会員に対する補償よりは二度とハッキングが起こらないよう防止に力を入れるとした。この事件をきっかけに、これからは会員登録の際に住民登録番号を収集しないとも発表している。


 韓国ではこの他にアップルを対象にした集団訴訟も話題になっている。


 放送通信委員会は、アップルが2010年6月から2011年5月まで、iPhoneの位置情報サービスをオフにした場合でも隠しプログラムを使って位置情報を無断で収集していたとして、位置情報保護法違反を理由に300万ウォンを払うように命じた。すでに2011年4月、韓国のある弁護士がアップルコリアを対象に「位置情報収集によって私生活の秘密と自由を侵害された」とし、裁判所の支給命令制度を利用して慰謝料100万ウォンをアップルからもらっていた。


 それから8月、iPhoneユーザー約3万人が慰謝料を求める集団訴訟を起こした。100万ウォンの慰謝料をもらったこの弁護士が代理人となって集団訴訟をまとめている。2011年5月以前からiPhoneを使っていたユーザーなら、弁護士に手数料1万6900ウォン(約1200円)を払えば集団訴訟の原告として参加できる。


 SKコミュニケーションズと違ってアップルはすでに一人に慰謝料を支払っているため、集団訴訟を起こした人全員が100万ウォンずつもらえる可能性もある。韓国のiPhoneユーザーは現在300万人超。アップルはどう対処するのか。海外のiPhoneユーザーにとって気になるニュースではないだろうか。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月18日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110818/1035142/

怒濤の“スマホ化”、ソウル市が目指す「スマートソウル2015」のすごい内容 [2011年8月11日]

ソウル市は現在、「スマートソウル2015」戦略を進めている。具体的には、2015年までにソウル市内のすべての公共施設をフリースポットにする、スマートフォンから各種行政情報や書類申請を利用できるモバイル行政を実現する、といった内容だ。このために2015年まで8500億ウォン(約670億円)の予算を使う。国連が評価した2010年世界電子政府ランキングで1位になった国らしく、スマート電子政府でも世界のトップになるという計画だ。

 同市はすでに2010年4月から、急速に普及率が伸びているスマートフォン向けモバイル行政サービスを提供している。ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーション開発やフリースポット拡大を目指して、“モバイル・ソウル”を進めてきた。


 同市のアプリケーション開発支援により、2010年には公衆トイレ位置情報検索アプリ、交通情報を分析してバスと地下鉄の最短移動経路を探してくれるアプリなど6つのアプリが無料で利用できるようになった。毎年2回、市民参加型でアプリのアイデア公募を実施、実際のアプリ開発はSKテレコムや民間企業に任せる方式でアプリの本数を増やしている。




ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーションの一つで、ソウル市内の主な道路に設置された防犯カメラから交通情報を確認できる「ソウル市交通CCTV情報」

モバイル・ソウルを活性化していくためには、何よりもソウル市内全域でWi-Fiを自由に使えないといけないと判断し、情報格差をなくすためにも誰でも無料で使えるようにするべきということから、市は、市内のフリースポットを増やし始めた。無料Wi-Fiは、所得の格差でWi-Fiに加入できず、行政情報や緊急災害情報を受信できないといったことを防ぐためである。フリースポットなのでWi-Fiが使えるデバイスを持っていれば、外国人観光客でも無料でインターネットにアクセスできる。

 2010年末時点ですでにソウル市内の公共施設295カ所がフリースポットになった。これを2015年までに地下鉄車両の中、バスの中、タクシーの中へ広げる。野外のフリースポットは繁華街、公園、ショッピングセンターなど1万430カ所に拡大する。


モバイル・ソウルをさらに高度にしてスマートシティにしていくのが今回の「スマートソウル2015」といえる。2010年末時点ですでにソウル市民の80%がスマートフォン/タブレットPC/Wi-Fiを利用しているというソウル市の調査結果を反映して、市民の利便性を高めるためにもスピードを上げてスマート化に取り組む必要があると判断したようだ。


 また、スマートフォンやタブレットPCだけでなく、スマートTV、電子書籍リーダー端末からもソウル市のアプリケーションとモバイル行政サービスを使えるようにする。モバイル行政サービスは、ソウル市がすでにネットで提供している63種類の電子申請・書類発給サービスをこれらの端末から利用できるようにするというもの。


 スマートフォンやWi-Fiを使っていない残りの20%のデジタルデバイド(情報格差)を解消するため、主婦や高齢者を対象に年間20万人ずつ5年間で100万人を教育するという計画も発表された。


 「スマートソウル2015」は、3段階に分けて進めていく。2010年に続いて2012年まではスマート基盤構築、2014年まではスマートサービス実行、2015年にはスマート高度化である。重点課題は4つで、「スマートインフラ拡充と情報格差解消」、「スマートデバイスを活用した一人ひとりのための行政、社会安全向上」、「雇用創出」と「スマートセキュリティ高度化」である。


 例えば、インフラ関連では、Wi-Fiでバスとタクシーに取り付けられたGPS信号をキャッチしてバスの到着時刻と道路状況を案内するデジタルサイネージがすでにあり、全国のバス停に設置されている。これの精度がまだ95%なので、100%近く正確に案内できるよう高度化するとする。


 社会安全という例では、ソウル市内の約1000カ所に取り付けられた防犯カメラを2015年までに1万カ所に増やして都市の安全性を高める計画もある。またこの防犯カメラの一部の映像を市民にも公開して、交通状況を確認できるようにもする。


 ソウル市内ではすでにほぼどこでも無料でWi-Fiが使える。パスワードを設定していないWi-Fi信号もたくさんあるので、スマートフォンやノートパソコンを持っていればインターネットを使うのに困ることはない。逆にあまりにも「スマート」に力を入れすぎているので、スマートフォンがないとソウルに住むのが不便になるのではないか、その方が心配だ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110811/1034726/

ピョンチャン冬季五輪の準備始まる~未来インターネットで世界を驚かせる

 3度目の挑戦で2018年冬季オリンピックを誘致できたピョンチャン。フィギュアスケートのキム・ヨナ選手もオリンピック誘致のためのプレゼンテーターとして参加し、流暢な英語と堂々たる態度で、「国宝少女」というニックネームが付いた(国宝少女は韓国で7月に放映されたドラマの中のアイドルグループの名前でもあり、国宝○○というのが流行語にもなった)。


 キム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画はネットの動画サイトでも人気爆発。何度見ても飽きないとファンの間で絶賛されている。ネットではキム・ヨナ選手がプレゼンのときに着ていた衣装やアクセサリー情報まで検索キーワード上位を記録したほどである。






民放SBSは自社の動画サービスの一つとしてキム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画を公開。通訳や編集のないオリジナル動画で、1日で35万ビューを記録した



 ピョンチャン冬季オリンピックは、誘致段階から韓国の最新IT技術を総動員した「ユビキタスオリンピック」にすることを公約している。何をどうユビキタスにして世界が驚くすごいオリンピックにするのか、それを決めるための討論会が7月26日に行われた。


 韓国情報化振興院が主催した「スマートピョンチャンオリンピック討論会」には、各省庁とオリンピックのスポンサーになっている企業の担当者が参加した。韓国が今まで築いてきたモバイル電子政府、モバイルヘルスケア、スマート教育、スマートシティ、スマートグリッドなどすべての技術をオリンピックに応用するためには、まず何から始めればいいのか、ということを議論した。まずは2011年末までにマスタープランを作ることで合意した。


 2012年からは組織委員会が「スマートワーク」を導入し、ソウルとピョンチャンを行き交いしなくても、スマートフォンやタブレットPCから不便なく業務ができるようにすべき、オリンピック準備状況を誰でも随時確認できるよう情報を公開すべき、という意見もあった。

ピョンチャンで冬季オリンピックを開催できることはうれしい一方、新聞記事のコメント投稿欄をにぎわせているのは「赤字オリンピックになっては困る」ということだ。ピョンチャンはスキー場が有名なリゾート地で、冬しか人が集まらない。ピョンチャン側も、競技場を建てたのはいいが、オリンピックが終わってからは管理費用ばかりかかって冬以外は使い道がない、なんてことにならないようにするにはどうしたらいいのか、と悩んでいるはずだ。


 通信事業社のKTとSKテレコムは討論会で、オリンピックのためのインフラ建設に約7兆ウォン(約5600億円)の予算が必要であると推算し、道路や競技場などの工事と有無線ITインフラを同時に構築することで費用を節約して、インフラ投資で終わらずオリンピックの後も活用できるサービス基盤を作ることを強調した。


 韓国のIT業界では、2002年FIFAワールドカップをきっかけにデジタル放送やモバイルサービスの技術が発展し、韓国はIT先進国であるという宣伝になったことで輸出も伸びたとしている。2018年の冬季オリンピックでは、ピョンチャンをスマートシティにして、人々の生活はこれからこうなるという未来を体験してもらうことで、さらなるIT輸出につなげたいと期待を膨らませている。


 ピョンチャンのユビキタスオリンピックのために、「未来ネットワークフォーラム」という組織も始動している。未来ネットワークは次世代インターネットのことで、3Dの大容量コンテンツを楽しめるほど高速で、セキュリティの高いネットワークであるという。韓国ではスマートTV、スマートフォンから利用できる3D映像がとても人気で、サムスンが3月から始めたスマートTV用3D映像は3カ月で100万ビューを突破したほどである。スマートフォンから3D映像を利用するためには高速モバイルインターネットが必要で、4GといわれるWibro(韓国のモバイルWiMAX)やLTEも商用サービスが始まった。


 韓国ではピョンチャンを未来ネットワークモデル都市にして、企業からどんなサービスを提供するかアイデアを募集し、想像していたことが現実となる様子を見せたいとしている。入国した時点で観光客にタグを発行し、空港からホテル、競技場、観光地、ショッピングセンターいたるところでその人に合わせた情報サービスを提供しながら、テロ防止にもつなげるといったこともアイデアとして提案がある。個人情報をどこまで使えるかが課題ではあるが、医療支援が必要な観光客や選手の場合は、センサーを利用して機械が異常を感知したら、本人が異常を感じていなくてもすぐ近くの病院にSOSの信号を送り処置を取るといったことも検討する。こうした未来ネットワークを使った韓国のサービスモデルを世界に広げていくのが未来ネットワークフォーラムの役割でもある。


 2018ピョンチャン冬季オリンピックは韓国のIT企業にとって大きなチャンスになることは間違いない。オリンピックをきっかけに韓国はまたどんな「世界初」サービスでユーザーを楽しませてくれるのだろうか。スポーツよりITに興味のある私としては、オリンピック競技よりもそっちの方が待ち遠しい。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110802/1033462/



怒濤の“スマホ化”、ソウル市が目指す「スマートソウル2015」のすごい内容

 ソウル市は現在、「スマートソウル2015」戦略を進めている。具体的には、2015年までにソウル市内のすべての公共施設をフリースポットにする、スマートフォンから各種行政情報や書類申請を利用できるモバイル行政を実現する、といった内容だ。このために2015年まで8500億ウォン(約670億円)の予算を使う。国連が評価した2010年世界電子政府ランキングで1位になった国らしく、スマート電子政府でも世界のトップになるという計画だ。


 同市はすでに2010年4月から、急速に普及率が伸びているスマートフォン向けモバイル行政サービスを提供している。ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーション開発やフリースポット拡大を目指して、“モバイル・ソウル”を進めてきた。


 同市のアプリケーション開発支援により、2010年には公衆トイレ位置情報検索アプリ、交通情報を分析してバスと地下鉄の最短移動経路を探してくれるアプリなど6つのアプリが無料で利用できるようになった。毎年2回、市民参加型でアプリのアイデア公募を実施、実際のアプリ開発はSKテレコムや民間企業に任せる方式でアプリの本数を増やしている。






ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーションの一つで、ソウル市内の主な道路に設置された防犯カメラから交通情報を確認できる「ソウル市交通CCTV情報」



モバイル・ソウルを活性化していくためには、何よりもソウル市内全域でWi-Fiを自由に使えないといけないと判断し、情報格差をなくすためにも誰でも無料で使えるようにするべきということから、市は、市内のフリースポットを増やし始めた。無料Wi-Fiは、所得の格差でWi-Fiに加入できず、行政情報や緊急災害情報を受信できないといったことを防ぐためである。フリースポットなのでWi-Fiが使えるデバイスを持っていれば、外国人観光客でも無料でインターネットにアクセスできる。

 2010年末時点ですでにソウル市内の公共施設295カ所がフリースポットになった。これを2015年までに地下鉄車両の中、バスの中、タクシーの中へ広げる。野外のフリースポットは繁華街、公園、ショッピングセンターなど1万430カ所に拡大する。

 モバイル・ソウルをさらに高度にしてスマートシティにしていくのが今回の「スマートソウル2015」といえる。2010年末時点ですでにソウル市民の80%がスマートフォン/タブレットPC/Wi-Fiを利用しているというソウル市の調査結果を反映して、市民の利便性を高めるためにもスピードを上げてスマート化に取り組む必要があると判断したようだ。


 また、スマートフォンやタブレットPCだけでなく、スマートTV、電子書籍リーダー端末からもソウル市のアプリケーションとモバイル行政サービスを使えるようにする。モバイル行政サービスは、ソウル市がすでにネットで提供している63種類の電子申請・書類発給サービスをこれらの端末から利用できるようにするというもの。


 スマートフォンやWi-Fiを使っていない残りの20%のデジタルデバイド(情報格差)を解消するため、主婦や高齢者を対象に年間20万人ずつ5年間で100万人を教育するという計画も発表された。


 「スマートソウル2015」は、3段階に分けて進めていく。2010年に続いて2012年まではスマート基盤構築、2014年まではスマートサービス実行、2015年にはスマート高度化である。重点課題は4つで、「スマートインフラ拡充と情報格差解消」、「スマートデバイスを活用した一人ひとりのための行政、社会安全向上」、「雇用創出」と「スマートセキュリティ高度化」である。


 例えば、インフラ関連では、Wi-Fiでバスとタクシーに取り付けられたGPS信号をキャッチしてバスの到着時刻と道路状況を案内するデジタルサイネージがすでにあり、全国のバス停に設置されている。これの精度がまだ95%なので、100%近く正確に案内できるよう高度化するとする。


 社会安全という例では、ソウル市内の約1000カ所に取り付けられた防犯カメラを2015年までに1万カ所に増やして都市の安全性を高める計画もある。またこの防犯カメラの一部の映像を市民にも公開して、交通状況を確認できるようにもする。


 ソウル市内ではすでにほぼどこでも無料でWi-Fiが使える。パスワードを設定していないWi-Fi信号もたくさんあるので、スマートフォンやノートパソコンを持っていればインターネットを使うのに困ることはない。逆にあまりにも「スマート」に力を入れすぎているので、スマートフォンがないとソウルに住むのが不便になるのではないか、その方が心配だ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110811/1034726/

ピョンチャン冬季五輪の準備始まる~未来インターネットで世界を驚かせる

3度目の挑戦で2018年冬季オリンピックを誘致できたピョンチャン。フィギュアスケートのキム・ヨナ選手もオリンピック誘致のためのプレゼンテーターとして参加し、流暢な英語と堂々たる態度で、「国宝少女」というニックネームが付いた(国宝少女は韓国で7月に放映されたドラマの中のアイドルグループの名前でもあり、国宝○○というのが流行語にもなった)。

 キム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画はネットの動画サイトでも人気爆発。何度見ても飽きないとファンの間で絶賛されている。ネットではキム・ヨナ選手がプレゼンのときに着ていた衣装やアクセサリー情報まで検索キーワード上位を記録したほどである。








民放SBSは自社の動画サービスの一つとしてキム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画を公開。通訳や編集のないオリジナル動画で、1日で35万ビューを記録した




 ピョンチャン冬季オリンピックは、誘致段階から韓国の最新IT技術を総動員した「ユビキタスオリンピック」にすることを公約している。何をどうユビキタスにして世界が驚くすごいオリンピックにするのか、それを決めるための討論会が7月26日に行われた。


 韓国情報化振興院が主催した「スマートピョンチャンオリンピック討論会」には、各省庁とオリンピックのスポンサーになっている企業の担当者が参加した。韓国が今まで築いてきたモバイル電子政府、モバイルヘルスケア、スマート教育、スマートシティ、スマートグリッドなどすべての技術をオリンピックに応用するためには、まず何から始めればいいのか、ということを議論した。まずは2011年末までにマスタープランを作ることで合意した。


 2012年からは組織委員会が「スマートワーク」を導入し、ソウルとピョンチャンを行き交いしなくても、スマートフォンやタブレットPCから不便なく業務ができるようにすべき、オリンピック準備状況を誰でも随時確認できるよう情報を公開すべき、という意見もあった。


 ピョンチャンで冬季オリンピックを開催できることはうれしい一方、新聞記事のコメント投稿欄をにぎわせているのは「赤字オリンピックになっては困る」ということだ。ピョンチャンはスキー場が有名なリゾート地で、冬しか人が集まらない。ピョンチャン側も、競技場を建てたのはいいが、オリンピックが終わってからは管理費用ばかりかかって冬以外は使い道がない、なんてことにならないようにするにはどうしたらいいのか、と悩んでいるはずだ。


 通信事業社のKTとSKテレコムは討論会で、オリンピックのためのインフラ建設に約7兆ウォン(約5600億円)の予算が必要であると推算し、道路や競技場などの工事と有無線ITインフラを同時に構築することで費用を節約して、インフラ投資で終わらずオリンピックの後も活用できるサービス基盤を作ることを強調した。


 韓国のIT業界では、2002年FIFAワールドカップをきっかけにデジタル放送やモバイルサービスの技術が発展し、韓国はIT先進国であるという宣伝になったことで輸出も伸びたとしている。2018年の冬季オリンピックでは、ピョンチャンをスマートシティにして、人々の生活はこれからこうなるという未来を体験してもらうことで、さらなるIT輸出につなげたいと期待を膨らませている。


 ピョンチャンのユビキタスオリンピックのために、「未来ネットワークフォーラム」という組織も始動している。未来ネットワークは次世代インターネットのことで、3Dの大容量コンテンツを楽しめるほど高速で、セキュリティの高いネットワークであるという。韓国ではスマートTV、スマートフォンから利用できる3D映像がとても人気で、サムスンが3月から始めたスマートTV用3D映像は3カ月で100万ビューを突破したほどである。スマートフォンから3D映像を利用するためには高速モバイルインターネットが必要で、4GといわれるWibro(韓国のモバイルWiMAX)やLTEも商用サービスが始まった。


 韓国ではピョンチャンを未来ネットワークモデル都市にして、企業からどんなサービスを提供するかアイデアを募集し、想像していたことが現実となる様子を見せたいとしている。入国した時点で観光客にタグを発行し、空港からホテル、競技場、観光地、ショッピングセンターいたるところでその人に合わせた情報サービスを提供しながら、テロ防止にもつなげるといったこともアイデアとして提案がある。個人情報をどこまで使えるかが課題ではあるが、医療支援が必要な観光客や選手の場合は、センサーを利用して機械が異常を感知したら、本人が異常を感じていなくてもすぐ近くの病院にSOSの信号を送り処置を取るといったことも検討する。こうした未来ネットワークを使った韓国のサービスモデルを世界に広げていくのが未来ネットワークフォーラムの役割でもある。


 2018ピョンチャン冬季オリンピックは韓国のIT企業にとって大きなチャンスになることは間違いない。オリンピックをきっかけに韓国はまたどんな「世界初」サービスでユーザーを楽しませてくれるのだろうか。スポーツよりITに興味のある私としては、オリンピック競技よりもそっちの方が待ち遠しい。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月4日

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ソウル市の集中豪雨で被害拡大、「Twitterが頼り」またもや立証

2011年7月26日16時から27日の午前にかけて、ソウル市では338mmの集中豪雨に見舞われた。1時間あたり110.5mmが降った地域もある。気象庁の予報がなかったため市民らは慌てふためいた。豪雨は予想以上で、携帯電話がつながらない、ネットが使えない、テレビが映らないという被害が発生した。

 ソウルは6月から雨が多く、既に平年の2.3倍も雨が降っているのに、また集中豪雨が発生した。気象庁の大雨警報が出る前にもう道路は浸水し、地下鉄の駅の中まで水が溜まり、川の中を歩いているようなものだった。ソウルの中心部である光化門と市庁周辺道路はひざぐらいまで水が溜まった。漢江沿いを走る首都高速も一部区間で漢江が溢れて浸水したため通行止めになり、道路ではなく「駐車場」になってしまった。道路の浸水状況はどんどん悪くなり、バスは道路ではなく水上を走っているような状態で、バスの中にまで水が入ってきたほどである。まさかソウルのど真ん中でこんなことが!と驚かずにはいられない光景であった。


 サムスンの本社がありITベンチャー街でもある江南駅周辺は、自動車が屋根まで水に浸かりぷかぷか浮いている写真がTwitterに投稿され、「ここがソウルだなんて信じられない」というつぶやきが後を絶たなかった。


 韓国では大雨になると有線インターネットがつながらなくなることがある。この日もインターネットがつながらなかった。テレビが映らなくなった地域もある。モバイルインターネットだけがライフラインとなった。ほんの5分ほどで道路が浸水して車ごと流された地域もあったため、ニュースの速報も追い付かず、一刻を争う緊急事態の中で頼れるのはTwitterのつぶやきだけだった。


 Twitterへは人々がソウル各地の浸水状況をつぶやき、写真も投稿した。「○○駅周辺は浸水で地下鉄駅を閉鎖中、運転中の方は迂回してください」、「○○マンション周辺の道路が浸水して団地内に入れない状態」、「○○駅前のマンホール、蓋がずれてるから気を付けて!」など、絶えず浸水状況が更新された。Twitterで地域名と被害状況を検索しながら、どうやったら家に帰れるのか頭を抱えたものだ。







Twitterに投稿されたソウル市内の浸水状況






刻々と変わる被害状況の写真が投稿される


テレビや新聞も、記者の身動きが取れなくなったこともあり、Twitterのつぶやきをニュースとして報道する状況になってしまった。ソウル市はTwitterで地下鉄運行状況、避難警告を出し始めた。ラジオでもソウル市内に付けられた防犯カメラの映像とTwitterのつぶやきを頼りに地下鉄やバスの運行状況、道路状況を伝えていた。


 土砂崩れで死者が発生した地域でも、真っ先に危険を知らせてくれたのはTwitterだった。基地局も被害にあい音声通話ができない状態だったため、Twitterで避難を呼びかけ救助を要請し、消防隊が出動した。マンションの2階まで土砂が流れ込み、流された自動車がぐちゃぐちゃにつぶれてビルの2階に突っ込んでいる写真を見ると、恐ろしくなってしまった。


 27日の朝には、江南地域の道路浸水がひどく、歩く人が感電する危険があることから停電することが決まり、周辺の携帯電話基地局も電力を供給してもらえず臨時バッテリーで作動させることになった。


 豪雨が続いたため停電が長引き、SKテレコムの基地局は臨時バッテリーの電源が底をつき、午前9時から電力送信が再開された14時ころまで5時間ほど携帯電話がつながらなくなった。LGU+は不通までにはならなかったものの、中継機の電源が切れたために信号がつながりにくい、雑音がひどくてよく聞こえないといった状況が続いた。放送通信委員会によると、停電地域内にあった基地局の数はKTが20、SKテレコムが3、LGU+が7だった。


 同じ時刻、江南では唯一KTだけ携帯電話が通じた。KTの説明によると、クラウドコンピューティングを活用した基地局のおかげだという。基地局のデジタル信号処理をビルの屋上に置いて光ケーブルでつなげ、データ処理は中央集中局(電話局内)に分離して管理する「クラウドコミュニケーションセンター」を導入したため電力消耗が非常に少なく、小型発電機で基地局のアンテナを運用できて、停電になっても2時間は耐えられるようになったことから、携帯電話が不通になることはなかったという。


 豪雨をきっかけに、少ない電力でも動くクラウド基地局を増やして、災難時に備えるべきという声が高まっている。東日本大震災をきっかけに韓国も災害時の情報伝達方式を見直すとしていた矢先、結局またTwitterに頼ってしまった。韓国はIT強国のはずだが、気象、災害、こういうところはITがうまく活用されていなくて残念だ。日本の「10秒後に揺れます」、という地震警報のように正確でなくても、「今日は大雨が降ります」くらいの天気予報はしてほしいものだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月29日

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110729/1033359/


市場シェア実に7割、韓国最大オークション「eBayKOREA」誕生


 韓国シェア1位のオークションサイトAuctionと2位のGmarketが合併し、eBayKOREAとして生まれ変わることが決まった。Auctionは2001年、Gmarketは2009年、eBayの子会社になっていた。7月5日、公正取引委員会は子会社同士の合併は問題ないと承認し、eBayKOREAが誕生することになった。


 韓国では今までヤフーやグーグルといった外国企業のネットサービスに人気がなく、NAVER、DAUM、Hangame、Yes24、Interparkなど、韓国生まれのネットサービスにユーザーが集中していた。韓国にはまだAmazonもiTunesも入ってきていない。そこに突然巨大なeBayKOREAが生まれるというので、ネットユーザーの間では衝撃的な出来事としてとらえられている。


 韓国企業のサイトが人気なのは、移り変わりの早い韓国人のトレンドをすぐ把握してサイトに反映できたからだ。ポータルサイトが登場して間もなかったころ、Yahoo!が没落してNAVERとDAUMが成長したのも、アバタ―、ゲーム、ブログ、Cafe(ポータルの中の同好会サイト作り)と1~2カ月でころころ変わる韓国ネットユーザーのトレンドを、米本社の許可をもらうまで数カ月はかかるYahoo!は追いつけなかったからであった。AuctionとGmarketの名前がeBayに変わるだけで今までのように韓国系サイトの運営方式を守れるのか、それともeBay方式に変えるのか、これもユーザーにとっては気になるところである。





eBayKOREAに合併されることになったGmarketのWebサイト。韓流スターBigbangのG-dragonがイメージキャラクターになっている



AuctionとGmarketの合併は、いわば日本のYahoo!オークションと楽天とAmazonを一つに合併してeBayに名前を変えるというほどのインパクトである。公正取引委員会の資料を見ても、AuctionとGmarketだけでオープンマーケット市場シェア72%を占めている。オープンマーケットとはインターネットショッピングモールの一つで、1社が商品を仕入れて決済配送までするのではなく、個人や中小企業が入店して商品を販売できるよう場を提供するオークションのような形式のサイトをいう。


 韓国のオープンマーケット市場規模は25兆ウォン(約2兆円)と推定されている。韓国では2008年からデパートよりインターネットショッピングの流通規模が大きくなり、流通市場は大型スーパー(ディスカウントショップ)→インターネットショッピング→デパートの順になっているほど、インターネットで商品を買うことが広く普及している。


AuctionとGmarketの運営方式は全く同じである。個人から大手企業まで商品を登録して販売できる。中古でも新品でも構わない。販売手数料は商品カテゴリーによって違うが平均10%というのもほぼ同じである。ポータルサイトで検索すると、キーワードに該当する両社に登録された商品が検索結果として表示される。インターネットショッピング最安値を強調しているのも同じである。両社を合併した方が効率的だが、競合会社の合併反対に押され様子見状態だった。


 AuctionとGmarketの合併の背景には、大手企業のオープンマーケット進出がある。通信キャリアのSKテレコムが運営する「11番街」のシェアが拡大し、KTもIPTVやスマートTV向けオープンマーケットを始めた。韓国で検索市場シェア7割を占めているポータルサイトNAVERもオープンマーケットを準備しているという。SKテレコムがオープンマーケットに進出してから、AuctionとGmarketの市場シェアはGmarketもeBayの子会社になった2009年の86%から2010年には72%に減少した一方、SKテレコムの11番街は5%から21%に増加していることがある。ここからも、AuctionとGmarketの合併によって市場競争が制限される、販売手数料を談合するといった問題が起こる可能性は低いと公正取引委員会は判断している。


 しかしSKテレコムやその他オープンマーケット会社は、市場シェア72%もあれば市場を支配できる立場であるため不公正な取引が起こり得る可能性を排除できない、小規模の販売者はeBayKOREAからしめ出されないよう気を使い他のオープンマーケットに参加しなくなるかもしれないと指摘する。


 新しくeBayKOREAを誕生させるeBayの韓国支社は、健全なオープンマーケットを作り販売者と消費者の権利を守り、販売者と一緒に成長していくといった内容の公正取引自律遵守プログラムを運営すると発表している。また、韓国の競争力のある商品を世界のeBayに紹介するとして、8月3日まで100人の販売者を選定してeBayドイツに100個まで無料で商品を登録できるようにするイベントを行っている。


 韓国ではスマートフォンを経由したインターネットショッピング市場が急成長中だ。オープンマーケット市場もモバイル競争になっているので、SKテレコムが本業のモバイルを生かしてシェアを拡大するのか、それともeBayKOREAがグローバル競争力でシェアを守るのか、それも注目である。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月21日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110721/1033119/

幼児からデジタル教科書に慣れさせるコンテンツ続々

2014年からは小中学校、2015年からは高校もデジタル教科書を使うことが決まった韓国では、タブレットPCを使った幼児向けの教育アプリケーションが人気を集めている。教育熱の高い韓国の親は、今からタブレットPCで本を読んだり書き込んだり学習したりすることに子どもを慣れさせようとしているからだ。

 KTやSKテレコムなど通信事業者(キャリア)も新規事業の一つとして、小学校低学年と就学前の幼児を対象にした学習アプリケーションを展開している。KTは「オルレ幼稚園」に続いて「オルレスクール(olleh school)」という名前で小学生向けのアプリケーションを開発し、アップルのApp StoreやAndroid Market、KTのアプリケーションストアであるオルレマーケットに登録した。スマートフォンからもタブレットPCからも利用できる。


 オルレスクールにように漫画やアニメで歴史の勉強をしたり漢字を覚えたりするコンテンツを韓国ではエデュテインメント(Edutainment)という。パソコンから利用できるエデュテインメントのWebサイトはいくつもあるが、アプリケーションとして提供されるのは2011年になってからである。


 オルレスクールは読む、見る、だけでなく体験できるアプリケーションであることを強調している。例えば音楽に関するページを開くと、楽器を選択して音を鳴らしたり自分の演奏を録音して聴いたり、インタラクティブな活動ができることから「ユビキタスブック」とも呼ばれている。





小学生向けエデュテインメントアプリケーションとして人気を集めているKTのOlleh School。球状になっているメニューを指でタッチして回しながら見たい学習マンガやアニメを選ぶ


オルレスクールは、参考書や子ども向け学習辞書などを出版する大手出版社と子ども向け新聞を発行するメディア、Eラーニング事業者、公共機関が参加する。10分程度で全問解けるように構成されたドリルや英語を教える漫画などいくつかのメニューは無料。有料会員になると学習効果のあるゲームやクイズ、アニメなどを利用できるようにする。7月まで加入した人には1年間無料で提供し、その後は月4000ウォン(約320円)の定額制にする。

 KTは通信キャリアである一方、アプリケーションマーケットを提供するだけでなく、自らアプリケーションを企画し、制作にも参加している。プラットフォームでもありコンテンツプロバイダーでもあるところが韓国のキャリアの特徴であるが、KTは「だからこそユーザーが欲しがるアプリケーションを素早く提供できる」と宣伝する。


 KTはスマートフォンやタブレットPCを利用して大学の講義を受講できるようにする「スマートキャンパス」事業も進めていて、スマートデバイスを利用した学習に力を入れていくとしている。今後は中学生向けオルレスクール、高校生向けオルレスクールも展開する計画だという。


SKテレコムも幼児・小学生向け学習アプリケーションである「スマートセム(スマート先生)」を始めた。教科書会社、参考書会社が提供する動画コンテンツをベースにしたもので、年齢に合わせて幼児はハングルや基本的な数字を覚えるといったコンテンツを、小学生は学校の試験勉強のためのコンテンツを利用できるようになっている。


 SKテレコムの「スマートセム」は科目別、学年別に設定できる学習管理システムが特徴で、毎月目標を設定し、目標達成はできたか、学習効果はあったのか、といったことも確認できるようにしている。また1対1で担当の先生を付けてくれるので、学習目標を設定するための相談や、よく分からない問題を質問できる。利用料は月5000ウォン(約400円)の定額制。


 SKテレコムは「スマートセム」をNスクリーンにする計画で、一度購入すればタブレットPC、スマートフォン、IPTVからも利用できるようにする。Nスクリーンとは、韓国のキャリアが提唱する戦略で、同一のコンテンツを複数の端末(スクリーン)で見られるようにするというもの。国内ではすでに全国の小中高校の教室にIPTVが導入されていて、低所得層の子どもを預かる放課後教室「IPTV勉強部屋」も全国に1000カ所ほどあるため、IPTVから使える学習アプリケーションも需要がある。


 政府が目指す「所得差や地域差による教育格差をなくす」という教育政策を実現するためには、スマートデバイスとアプリケーションを活用した教育が効果的であるため、学習アプリケーション市場が拡大、参考書や辞書を買うよりも安く良質なコンテンツをいつでもどこでも利用できるので、学習アプリケーションはこれからどんどん増えていくだろうとSKテレコムは予想する。


 そのため、SKテレコムは韓国教員団体とも提携している。スマートデバイスを利用した教育コンテンツの制作や授業設計、教育効率性向上のためのIT通信技術適用などスマート教育のために相互協力するという内容で、まずは2011年の夏休みの間、SKテレコムが教師を対象に学習アプリケーションの開発や活用に関する教育を行う。


 アニメ制作会社や絵本を専門とする出版社も続々と学習アプリケーション、エデュテインメントアプリケーションに参入している。オフラインで人気のシールブック(子どもたちがシールを貼って絵本のストーリーを完成させていく本)のほとんどがアプリケーションとして制作され、人気ランキング上位を占めている。


 首が座ればマウスを握るというほど赤ちゃんからネットを使うのが当たり前な韓国だが、これからはタブレットPCをタッチすることから覚えそうだ。何事もあっという間に広がるスピードの速い国だけに、デジタル教科書やエデュテインメントアプリケーションもあと数カ月もすれば新しくもなんともない日常になってしまうだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月14日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110714/1032964/

Galaxy Tabを利用して授業する~成績表も紙からモバイル通信へ

韓国政府が6月29日に発表した「スマート教育推進計画」は、国内外で大きな話題になっている。これは紙からタブレットPCへ教科書が変わるだけでなく、学校の教育そのものを根本的に変える政策だからだ。

 一足先にスマート教育計画を導入した学校がある。ソウルから東南に車で3時間ほど離れた大邱(テグ)市にある大邱高校は、サムスン電子のGalaxy Tabを活用したスマートスクールシステムを実験的に導入した。


 サムスン電子のスマートスクールは、先生と生徒がGalaxy Tabを使ってより便利に学校生活を送れるようにするというものだ。Galaxy Tabに保存したコンテンツを教室の中にあるテレビやプロジェクターに映して授業をするモバイルコンテンツ共有システムを使った授業を行う。先生も生徒もGalaxy Tabだけあれば重い教科書類や資料を持ち歩く必要がない。教室の中にはパソコンがあるが、事前に立ち上げてプロジェクターにつなげるのも面倒である。




Galaxy Tabを利用する大邱高校の授業風景。端末内に保存したコンテンツを、教室の中にあるテレビやプロジェクターにつなげて利用できる


 「学生総合管理システム」を使ってRFIDで出席をチェックしたり、成績管理などができるようになった。教師と保護者とのコミュニケーションもGalaxy Tabを使ってリアルタイムで行う。成績表や家庭通信簿も紙ではなくモバイルで送信し、先生のコメントを確認して返事をしたり、1:1で質問したりすることもできる。「学生総合管理システム」は5月にソウルで開催されたWorld IT Show2011にも展示され、注目を集めた。

韓国政府が打ち出した「スマート教育推進計画」の具体的な柱として取り上げられたのは、「デジタル教科書」の他に、「オンライン授業活性化」、「オンライン学習診断・指導体制構築」、「教育コンテンツを自由に利用できる環境造成」、「教員のスマート教育実践力の強化」、「クラウドコンピューティング基盤造成」がある。「スマート教育推進計画」を推進するために、教育科学技術部(韓国の文科省)に「スマート教育推進委員会」を新設する。


 政府はデジタル教科書のプラットフォームを民間に提供し、いろいろな企業が参加してスマート教育産業がより活性化するよう支援していく方針である。10年ほど前から無料で政府が提供する教育サイト「EDUNET」を基盤に、学校の授業に必要な学習資料を網羅したコンテンツのオープンマーケットを運営し、タブレットPCを使って授業中に利用できるよう、全教室に高速モバイルインターネットのインフラを提供する。


 生徒が授業の復習や予習をするときもEDUNETにアクセスすれば動画や画像を使った参考資料を利用できるので、有料のEラーニングサイトを利用する必要がないようにする。デジタル教科書は所得や地域の格差を乗り越えて公平に、誰でも高い水準の教育を受けられるようにするための制度なので、デジタル教科書そのものはもちろん、参考資料になるコンテンツ開発も重要な課題だ。授業だけでなく学校の校務全般もタブレットPCを使って行えるようにする。


 サムスン電子は大邱高校のスマートスクールについて、「より効率的な授業と学校経営のためになるソリューションを開発していく」としている。韓国では校務情報化も90年代に開発され全学校での導入が終わっているだけに、これをモバイル化できればさらに便利になることは間違いない。デジタル教科書が導入される前から、このようなスマートスクールシステムを活用しはじめる学校はどんどん増えそうだ。


 次回は通信キャリアが新規事業として始めているタブレットパソコン向け教育アプリケーションについて紹介する。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月7日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110707/1032815/

韓国、2015年までにすべての小中高にデジタル教科書を導入

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「スマート教育推進戦略」を発表、全教員にタブレットPC支給も


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韓国国家情報化戦略委員会と教育科学技術部(韓国の文部省)は6月29日、2014年から小中学校、2015年からは高校でデジタル教科書を導入し、教室と家庭のインターネット環境もADSLより100倍速い4Gネットワークにするといった「スマート教育推進戦略」を発表した。まずは法律を改定して、デジタル教科書に「教科書」として法的地位を与える。紙に印刷されたものが教科書であるという規定をなくす。

 元々韓国は2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入する計画であった。そのために、1996年からデジタル教科書開発を進めてきた。2007年からは小中学校でデジタル教科書実証実験が始まり、2011年も全国の小学校100校以上でデジタル教科書を使った授業が行われている。


 教育科学技術部は、「2009年度OECD学習到達度調査(PISA:Programme for International Student Assessment。参考記事)によると、デジタル読解力では韓国が1位 。すでにデジタル社会に慣れている学生の未来のために、教育のパラダイムシフトが必要である」として、デジタル教科書の必要性を強調した。


 紙の教科書からデジタル教科書に変えることで、「重い教科書を持って登校しなくてもいい」、「デジタル教科書には辞書、参考書、各種データベースがリンクされているので、塾がない過疎地に住んでいる子どもたちにもレベルの高い学習環境を提供できる」、「お金がなくて参考書が買えない子どもでも、デジタル教科書さえあればいくらでも自習できる」、「教科書の中身が随時アップデートされるので最近の事例を取り上げながら勉強できる」、「デジタル教科書を使えば、子どもの学習能力に合わせてテスト問題や課題を調整できる」など、生徒一人ひとりの目線に合わせた教育を提供できるようになる。



サムスンが提供するスマート教育の様子。韓国では2015年までに小中高校すべての学校へデジタル教科書を導入することが決まった


デジタル教科書実証実験を行った学校のアンケート調査を見ると、子どもも保護者も先生も、満足度が非常に高い。特に子どもたちは「授業が楽しくなった」、「紙の教科書よりも理解しやすい」と大喜びだった。


 スマート教育のためのデジタル教科書は教科内容、学習参考書、学習辞典、問題集、ノート、マルチメディア資料などのコンテンツが盛り込まれる。モバイルクラウドコンピューティングをベースに、インターネットさえつながれば、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVなど、どんなデバイスからも自分の教科書を使えるようにする。

スマート教育のために学習評価方式もインターネットベースに変える。学生の成績管理や先生の校務はすでにすべてクラウド化されているが、評価そのものも紙のテストではなくインターネット経由で行うという。韓国では毎年全国の学校で基礎学力評価テストを行っている。テストは匿名で行われ、地域別平均点を出したり、基礎学力の足りない子どもの多い学校にはそれに合った指導を要求したりするのが目的。このテストも紙ベースではなく2015年までに段階的にIBT(Internet Based Testing)に変わる。


 学校の授業もオンライン化して、学校を欠席してもオンライン授業を受講すればその日の授業を履修したことにする方針だ。


 政府はスマート教育のために2015年まで2兆2280億ウォン(約1780億円)の予算を使う。デジタル教科書、モバイルクラウドコンピューティング、オンライン授業などを導入することで、教育分野での国の競争力を2015年までに世界10位以内、2025年までには世界3位以内にするのが目標である。


 このニュースはTwitterでも話題で、「世の中の動きを考えれば、デジタル教科書はもっと早く導入するべきだったのでは」という意見もあれば、「デジタル教科書を使うためにはタブレットPCが必要だけど、パソコンは故障することもあるから不安」、「デジタル教科書にするのはいいけど、全国の小中高校生が全部タブレットPCを買わないといけないってこと?」、「端末ベンダーだけがもうかる政策ではないか」など、Twitterやブログではさっそく「スマート教育」を巡り、多くの人たちが意見を言い始めている。


 2011年度の全国の小中高校生は約750万人。実証実験段階では政府が無料で端末(タッチ式ノートパソコン)を提供した。ところが、2014年からはデジタル教科書を使うための端末は生徒個人で購入するという計画だ。どんな端末からも使えるというが、結局親は、子ども用にタブレットPCを買わないといけないだろう。デジタル教科書は地デジとは違うので、タブレットPCを買わなくても踏ん張ればなんとかなると放っておくわけにもいかない。


 また、スマート教育推進のために最も重要なのは、教員の研修である。デジタル教科書そのものも重要であるが、それを活用して授業を行う先生がデジタル教科書をフルに使えないと意味がない。教育科学技術部は2015年までに地域の教育庁別に「スマート教育体験館」を作り、全教員にタブレットPCを支給するとしている。


 次回は一足先にスマート教育環境を構築した学校の事例を紹介する。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年6月30日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110630/1032704/