SNS時代のクレーマー、「悪プラー」への対応を強化する韓国

 「悪プラー」(悪+Reply+er)と呼ばれる悪質な書き込みを繰り返すネットユーザーが後を絶たず、芸能人のソーシャルネットワークサイトの脱退や自殺が問題になっている韓国。悪プラー対策として強制脱退、利用停止なども積極的に導入されている。


 韓国の元祖ソーシャルネットワークサイトのCyworldは、相次ぐ芸能人の脱退をきっかけに、常習悪プラーとしてほかのユーザーから苦情があった場合、最大10年間Cyworldの利用を停止することにした。既存の約款では最大1年だったので、10倍強化されたことになる。



悪プラー対策を決めたCyworldのサイト

一方、ネットの書き込みがきっかけとなり、長年住民を困らせていた問題が解決したり、行方不明だった人が見つかったり、巧妙に人をだまし続けていた偽宗教団体の正体が明るみになったり、いいこともたくさんある。ネットは通信やコミュニケーションという以上に、韓国社会を支えるインフラである。そのため小学校からインターネットを有効活用するためのネチケット教育が重視され、「悪プラー」ではなく「善プラー」になろうといったキャンペーンも年中実施されている。


 とはいえ、最近では企業をターゲットにした悪プラーが多い。ちょっとしたことで数百件もの悪口を延々と書き込むクレーマーになることもある。通信会社の相談センターに電話してパソコンの調子が悪いと訴え、解決してもらえなかったからと憤慨してクレーマーになるといった具合だ。また店員が注意したにもかかわらず、子どもが店内を走り回り転んで怪我をしたことが店の責任であるとしてネットに悪口を書き込む親もいる。当然自分に有利になるよう書き込むので、事情を知らずその書き込みだけを見たほかのユーザーが親に同調し、一緒に悪口を書き込み、ポータルサイトの掲示板を中心に大騒動になったこともある。


 韓国ではネットの口コミが世論と見なされるほど影響がとても強い。最近では、ソーシャルネットワークサイトは新たな“ショッピングモール”としても脚光を浴びている。ただ、口コミのふりをした誹謗中傷も多く、大手企業のほとんどはネット掲示板担当の社員やアルバイトを採用し、自社に不利な書き込みを見つけた場合、反論のコメントを書き込んだり、そのユーザーをなだめるコメントを書き込んだりする。どのような理由で悪質な書き込みをしたのかすぐに真相を把握し対処するようにしている。ネット掲示板に書き込まれて怖いのは、それがうそだとしてもすぐTwitterやブログにコピペされ、転送されているうちにうわさがうわさを呼び、いつしかうそが“真実”に化けるからだ。


 そんな中、ネットクレーマーに悩む企業の対策に関する研究が発表され話題になっている。ポータルサイトや企業サイトのQ&A掲示板にわざと悪質な書き込みをするクレーマーにどう対処すればいいのか、という研究だ。タイトルは「オンライン口コミを刺激する要因と対応戦略に対する実証研究」、韓国最大手の通信会社KTの役員の論文で、国際学術誌に掲載された(学会誌:Computers in Human Behavior、論文タイトル: An empirical investigation of electronic word-of-mouth: Informational motive and corporate response strategy)。

この論文によると、企業がネット上の悪プラー、つまりクレーマーと全面的に戦うのは企業の評判に否定的な影響を与えるという。特に重要なのはそのクレーマーに同調する一般ネットユーザーを増やさないことだそうだ。企業がクレーマーに対して論理的に反論すると、クレーマーは自分のプライドを守るためさらにとんでもない言いがかりで攻撃をし始め、ほかのネットユーザーが感情的になりその議論に参加、企業を攻撃するようになるというのだ。相手が常連のクレーマーであっても、「あなたクレーマーでしょう?」という態度を見せてはいけないという。


 もっと気をつけるべきことは「無視」や「脅し」だそうだ。ことを大きくしないためクレーマーを無視する企業が多いが、これも企業の評判を落としかねないという。無視されたことに怒りを感じたクレーマーはさらに複数の掲示板やブログ、Twitterに書き込むからだ。また「こんなことしても無駄ですよ」、「また書き込んだら今度は告訴しますよ」といった反論も、ほかのネットユーザーからすれば企業が個人を脅していると見ることもできるので避けるべきだという。顧客が望んでいるのは誠意を込めた謝罪なのに、それをせず無視したため訴訟沙汰に発展することも少なくない。企業に少しでも非があるときは無視せず公開的にネットでも謝罪すれば、それを見たほかのネットユーザーはその企業を高く評価すると分析している。


 ネット上の悪質な書き込み、クレーマー対策の重要なポイントは、何よりもネットは誰でもアクセスできる公共の場所だということである。一部始終がみんなに見られているということを忘れてはならない。この論文では「企業に隠れ場はない」と表現している。クレーマー本人に対する対策も重要であるが、ほかのネットユーザーが感情的になりクレーマーの味方になって企業を攻撃しないよう、注意深く状況を把握することが大事である。企業自ら釈明するより第3の機関や専門家の口を借りるのも方法としている。


 日本でもTwitterやブログを使った宣伝・マーケティングが増えている。韓国の研究は日本でも参考になるのではないだろうか。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年8月19日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100817/1026941/

第6回 : 前年比6倍! 急速に成長する東南アジアで人気なのはFacebook

主要先進国の景気回復が遅れるなか、アジア各国の成長は止まりません。中国や韓国、インドなど、まだまだ元気な国が多いのが実情です。知っているようで知らないアジアのコンテンツビジネス事情はどうなっているのでしょうか。最終回となる第6回は、インドネシアやベトナムなど、普段目に触れることのない東南アジアのコンテンツ事情を紹介します。



携帯電話の加入者の方が、人口よりも多いベトナム



東南アジアの中でもこれから急成長が見込まれているのがインドネシアとベトナム、マレーシアです。インドネシアは世界第4位の人口を持つ国で、ベトナムは人口の6割が30歳未満という若い国です。マレーシアは東南アジアの中では所得水準が高く、政府が積極的にインターネット普及率を高めようとしていて、2010年までに普及率50%と全学校の情報化を目指しています。


東南アジアの共通点は土地が広く熱帯雨林などが多いことから、固定通信ではなくモバイルインターネットでの情報化を目指していることです。都心部ではWi-Fiスポットも多く、高級レストランほどWi-Fi導入に積極的という印象を受けました。


ベトナムでは人口よりも携帯電話加入者の方が1.5倍ほど多く、インドネシアとマレーシアでも固定通信より断然モバイルユーザーの方が多いです。スマートフォンの普及も進んでいて、BlackberryやNokiaを中心に世界各国の携帯電話端末が売られているのも特徴です。


スマートフォンが売れている理由の一つはFacebookです。Webサイトのアクセスランキングを提供するAlexa.comによると、インドネシアで最も利用されているサイトの1位はFacebookで、ベトナムやマレーシアでも上位を占めています。


Facebookのデータによると、インドネシアのユーザーは前年比6倍以上増えていて、中国やインドよりも早いスピードで伸びているとのことです。全体的に東南アジアからの利用率が高く、ソーシャルネットワークサイト(SNS)は欧米からアジアへ移行していることが分かります。Facebookをより便利に手軽に利用するためにスマートフォンに買い替える人が多いというのも納得です。


Twitterの書き込み数、第3位はあの国


Twitterも似たような状況です。フランスの調査会社セミオキャストのデータによると、Twitterの書き込みが多い国の1位がアメリカ、2位が日本、3位がインドネシア、4位がブラジルなのだそうで、全般的に欧米よりアジアからの書き込みの方が多いとのことです。ニュースサイトのほとんどがFacebookやTwitterに記事を転送できるようにしてあるのは日本と変わりません。


イスラム国家であるインドネシアとマレーシアでは、Facebookが「不適切な男女交際を促進する恐れがある」として、宗教指導者が集まり利用ガイドラインについて議論が繰り広げられたほどです。今や東南アジアの若い世代に最も影響を与えているのはFacebookと言えます。


また、韓流ブームの影響から韓国の音楽やドラマの知名度が高く、パソコンを使ったインターネット接続はまだ普及率が10%程度にもかかわらず、韓国のドラマ動画視聴やオンラインゲームユーザーがとても多いことも特徴です。


高い携帯電話の普及率を背景に、東南アジアでは音楽コンテンツの利用が盛んで、着メロや楽曲ダウンロードといったモバイル音楽サービスの利用が非常に人気を集めています。しかし端末間コンテンツを自由に転送できるようにしたため、違法コピーが多いのが問題です。それでもアジアのコンテンツ市場はこれからもっとモバイルブロードバンドが普及し、スマートフォン中心になっていくことは間違いありません。


さて、6回にわたってアジアのコンテンツビジネス事情をご紹介してきました。グローバル時代においては、アジアのコンテンツ事情も目まぐるしく変わります。これからもアジアから目が離せません。


By- 趙 章恩(チョウ チャンウン)

@nifty
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第5回 : ヒンズー語がインターネット言語に!? 世界が注目するインド

主要先進国の景気回復が遅れるなか、アジア各国の成長は止まりません。中国や韓国、インドなど、まだまだ元気な国が多いのが実情です。知っているようで知らないアジアのコンテンツビジネス事情はどうなっているのでしょうか。第5回は、知られざるインドのコンテンツ事情を紹介します。


インターネットの最大市場はインドになる可能性も


今回ご紹介するのは、2026年には中国を抜いて世界人口1位になるといわれているインドです。2006年、GoogleのCEOエリック・シュミット氏が、「インターネットの最大市場は中国でなくインドになる。英語と中国語に続いてヒンズー語がインターネット言語になる」と発言してから一気に注目度が高まりました。アメリカをはじめ、世界のIT企業で働く優秀な技術者の多くがインド人であることは日本でも有名です。しかし、インドにおけるネット普及率や利用はまだまだこれからです。


インターネット利用率は人口12億人の約7%で、そのうちオンラインゲームや動画などのデジタルコンテンツをスムーズに利用できるブロードバンド加入者は0.6%しかいません。ところが、携帯電話の利用率は約23%、世界で最も速いスピードで携帯電話加入者が伸びているのがインドです。


インド通信局は、固定通信によるインフラ普及ではなく、第4世代(4G)と呼ばれるモバイルブロードバンド、LTEまたはWiMAX(ワイマックス)で国家情報化を進めようとしています。インドでは既にパソコンユーザーよりも携帯電話ユーザーの方が多く、クレジットカードや銀行口座よりも携帯電話を使った送金や決済の方がよく使われているほどです。


オンラインゲーム/モバイルゲームもよく利用されていて、韓国や欧米企業のゲームが広く浸透しています。モバイルインターネットユーザーが急増していること、ネットユーザーの4割がゲームを利用していることから、印刷物とテレビが90%近くを占めていた広告市場も、インターネットへと方向転換し始めました。






インドで人気なのはソーシャルネットワークサイト(SNS)とお見合いサイト

結婚相手をお見合いサイトで探すインド


電子書籍ユーザーも多く、毎年2倍近く成長しているのがインドの特徴です。インフラが整備されていない中でも、インドの国民的スポーツであるクリケットのプレミアリーグをYouTubeで生中継したところ、5000万人以上が視聴したというからすごいですね。


ソーシャルネットワークサイト(SNS)の人気はインドでも例外ではありません。今インドで最も話題のサイトはFacebookと、GoogleのOrkutです。2009年まで、Orkutはユーザー数1800万人を突破し、圧倒的にユーザーが多かったのですが、2010年からはFacebookに追いつかれています。Twitterも人気です。インドで起きたテロや政治問題を真っ先に伝えてくれたのもFacebookとTwitterでした。


世界各国にいるインド人同士がつながりやすいということでもFacebookが人気ですが、もう一つ、結婚相手を探すツールとしても人気なのだとか。インドではお見合いサイトの需要も高く、交際相手をネットで見つけ、ソーシャルネットワークサイトで愛をはぐくみゴールイン! というカップルが増えている模様。花嫁の持参金をめぐるトラブルで殺人事件まで起きているインドだけに、ネットで出会い、恋愛結婚することで慣習に従わないカップルの登場が新鮮に映るようです。


インドはまた“ボリウッド”と呼ばれるほど映画産業も盛んです。そのため3D映画や3Dテレビ、モバイル端末から利用できる3D映像コンテンツが注目されています。


次回は東南アジアのコンテンツビジネス事情をご紹介します。



By- 趙 章恩(チョウ チャンウン)

@nifty
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韓国をIT強国にさせた伝説のゲームがカムバック

韓国をIT強国へと導くきっかけとなった対戦型オンラインゲーム「StarCraft」(1998年)がさらにパワーアップして帰ってきた。日本では聞きなれないゲームだが、米Blizzard Entertainment社が開発したもので、韓国をはじめ東南アジア、北米、南米、欧州では知名度が高く、PCゲーム・オンラインゲームの代名詞のような存在である。

 12年ぶりとなる「StarCraft II」のベータサービスは2010年7月27日、世界同時オープンとなった。韓国では12歳以上のユーザーなら誰でも無料でゲームができる。国内ではダウンロード方式だけの販売で、ベータサービス終了後は「1日」、「1カ月」、「無制限」に分けて課金する。約6000円を払えば、無制限にゲームを楽しめる。




StarCraft IIのロゴ

「StarCraft」は3つの部族から選んで対戦するオンラインゲームで、1998年の発売以来、ゲームCDは世界で950万枚以上販売されている。違法コピーで利用された数を含めると、少なくともこの10倍以上はユーザーがいると言われている。特に韓国で大当たりし、オンラインゲームとしては初めてキャラクター商品が大ヒット。ファンによって小説化されたり、フィギュアが売られたりもした。オンラインゲームがEスポーツとしてプロのリーグ戦として開催されるようになり、「プロゲーマー」という職業が登場したのも、この「StarCraft」がきっかけなのである。


 「StarCraft」はネットワーク上でユーザー同士が出会い対戦をするため、高速ブロードバンドと高仕様パソコンでないと十分楽しめなかった。そのためブロードバンドと大画面パソコンを利用できるPCバン(ネットカフェ)が大ブームとなり、当時は街中PCバンが溢れていた。このゲームをするためにパソコンを購入しブロードバンドに加入した人も少なくなかった。


 あれから韓国産オンラインゲームがどんどん発売され、韓国のデジタルコンテンツ産業のほとんどをゲームが占めるほどにまで成長した。韓国のNCSoft社やNEXON社のゲームは日本、台湾、中国、ヨーロッパのネットカフェならどこでも見かけるほどポピュラーなものになっている。韓国産オンラインゲームが市場を席巻している中、「StarCraft II」が昔の名声を取り戻せるかどうかは、ゲーム大好き熱血ユーザーの多い韓国市場での反応にかかっているとも見られている。


「StarCraft II」は早速韓国で大々的なイベントを開始している。PCバンにプロゲーマーを招待してユーザーと対戦させる古典的なイベントはもちろん、ロッテリアとタイアップした「StarCraftセット」も登場した。セットを食べるとスクラッチカードがもらえ、ノートパソコンや「StarCraft II」利用チケットが当る。ゲーム解説本ももちろん出版されている。


 驚いたのは飛行機のラッピング! その昔ピカチュウが空を飛んだように、韓国を代表する航空会社である大韓航空の飛行機にStarCraftのキャラクターがラッピングされたのだ。マイレージカードにも、リムジンバスにもStarCraftのキャラクターが印刷されゲームファンを興奮させた。大韓航空は「StarCraft」プロリーグのスポンサーでもある(韓国では主な大手企業や携帯電話、パソコンメーカー、キャリアのほとんどがEスポーツのスポンサーとなっている)。





StarCraft IIのキャラクターをラッピングした大韓航空の飛行機


 パワーアップした「StarCraft II」は3Dグラフィックス、音声チャットなどが新しく追加された。それにゲームを駆動するハード容量もかなり多めに使うため、「StarCraft II」のためにパソコンのパーツをアップグレードさせるPCバンとユーザーが増えている。価格比較サイトのDANAWAによると、7月のパソコン部品販売量は4月に比べ142%、前年同期比で120%増えているという。売れたのはハードディスク、メインボード、CPUの順で、「StarCraft II」の3Dグラフィックスを楽しむために部品を買い換えるユーザーが増えているからではないかと分析していた。グラフィックスカード、ゲーム用マウスも売り上げが伸びている。しかし今の「StarCraft II」はまだベータ版。有料サービスが本格化して最終的にゲームを円滑に駆動するためのパソコン推奨仕様が発表されれば、PCバンを中心に、部品の買い替え需要が大幅に伸びると見込まれている。


 スマートフォンやタブレットパソコンにその座を奪われ、デスクトップパソコンの販売台数は減り続けている。パソコンや部品メーカーが「Windows 7の次はStarCraft IIしかない」とまで言い切るほど、パソコンの売り上げを促進できるようなきっかけがしばらくなかったので、なおさら注目度は高い。年々数が減っているPCバン業界にとっても、国民的ゲームだった「StarCraft」への期待は高い。


 「StarCraft」は12年前、IMF経済危機をIT革命で乗り越えたパワフルな韓国を思い出させる象徴的なゲームだけに、小売業界でもタイアップマーケティングすることで、若くて前向きなイメージを打ち出そうとしている。失業、格差、長引く不況に悩む現在の韓国を今度の「StarCraft II」も元気にしてくれるだろうか。注目せずにはいられない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年8月5日

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アップル不在の今を狙え! キャリアもメーカーもタブレットPC開発ラッシュ

韓国では発売未定のiPad。個人輸入だけで数千台は売れているというだけに、街中でもよく見かけるiPadだが、正式販売は未だ決まっていない。しかしiPadの影響からタブレットPCに対する期待は高まるばかりである。アップルがいない間に先手を打って市場を狙おうと、キャリアもメーカーもタブレットPCの開発を急いでいる。

 中でも韓国最大手通信事業者のKTが自社ブランドでタブレットPCを販売しようとしていることが話題だ。KTはiPhoneを独占販売しているキャリアであり、iPadもKTから発売される予定。KTのショールームにはしっかりとiPadが展示されている。なのに、あえて自社ブランドのタブレットPCを発売するというから意外である。



韓国では発売未定のiPadだが、KTのショールームでは体験できる

KTのタブレット端末は中小企業が開発していて、遅くても9月にはAndroid OSを搭載した7型画面のものが発売されるという。iPadは重いという韓国ユーザーの声から、より軽く、持ち運びを便利にするため7型にしたという。タブレットPC用に電子書籍コンテンツも充実させている。端末の値段は約2万円前後になるようだ。


 韓国ではiPhone 4も発売未定なので、KTはアップルに苛立っていることをアピールするために開発姿勢を見せているのかもしれない。KTは固定でも携帯電話でもシェア1位を目指してiPhone発売+Wi-Fi無料という賭けに出たが、ライバルであるSKテレコムのシェアはビクともせず50%を超えている。スマートフォンブームが絶頂になったここでiPhone 4とiPadを発売できていれば、KTのシェアは大きく変わったかもしれない。ところがアップルはなかなか製品を出してくれない。


 サムスン電子もiPadのようなタブレットPCを開発していて、6月には試作品の写真がネットで出回った。SKテレコムから発売する予定で、KTと同じくiPadより小さい7型、音声通話もできるようになっている。そのほかの具体的な仕様は公開されておらず、8月にでも商品化されるということだけ明かされている。

世界で旋風を巻き起こしているiPadは当座発売未定のまま、韓国内のタブレットPC市場ではKTとサムスン電子の競争になるかもしれない。KTがiPhoneを発売してから、サムスン電子の新機種はすべてSKテレコムとLGテレコムでしか買えなくなっているほどの仲なので、タブレットPC競争も容赦なく派手にやってくれそうだ。


 韓国でタブレットPCが注目されているのは、大人気のiPadを使ってみたいという新し物好きな人が多いのに加え、スマートフォンやノートPCよりも使い方が単純で大画面のタッチパネルが欲しい、去年から流行っている電子書籍端末のアップグレード版が欲しい、といった要望もある。さらに、デジタル教科書や医療、企業のモバイルオフィスといったB2Bの需要がとても高いのもタブレットPC開発を急がせる要因となっている。


 アップルファンの間では、「iPadだから価値があるのであってほかのタブレットPCはいらない」という意見も多い。だが、開発ラッシュは止まりそうにない。LG電子もiPadのような端末をもうすぐ発売するとしている。中小パソコンメーカー、Eラーニング用の動画再生端末やMP3プレーヤーのメーカーもタブレットに興味を持っている。しかし中小メーカーがiPadやサムスン電子が予定する製品と競争しても勝てないことは見え見えなので、Androidを搭載した5型、7型で教育用に的を絞る作戦を練っている。


 スマートフォンに続いてタブレットPCも大ブームになるか。これもやはり端末そのものよりもやはりアプリケーション次第ではないだろうか。iPhoneに熱狂するのは端末デザインが良いというのもあるが、やはりアプリケーションの力が大きかった。タブレットPCではネットと電子書籍、新聞、ゲーム以外に何ができるんだろう? それを見せてくれるところが勝ちなのかもしれない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年7月29日

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かっこいい? 秘密にしたい? 韓国で急増する「ツーフォン族」

韓国放送通信委員会のデータによると、飽和状態と言われ続けてきた韓国の携帯電話契約件数がここにきて伸びている。2009年12月に4794万件だったのが、2010年1月に4822万件、6月には4961万件になった。人口が約4890万人なので、単純に考えても人口より携帯電話契約数の方が多い。今でもなお携帯電話契約件数が増え続けている背景にはやはりスマートフォンがある。iPhoneに限らず、サムスンや海外勢のスマートフォンが毎日のように発売されているからだ。

 スマートフォンに加入するためには携帯電話番号を変えないといけないので新たに契約して2台使う、約定期間が残っているので解約できない、スマートフォンはバッテリーの消耗がはやいので通話用とネット用に分けて持ち歩きたい、iPhoneとAndroid端末の両方を使ってみたい……などいくつか理由はある。iPhoneを発売するKTの調べでは、2010年1月時点で、既存のKT端末を解約しないで使い続けながらiPhoneに加入した人が、iPhone加入者全体の30万人のうち18%の5万4000人だったという。ほかのキャリアを利用しながらiPhoneに加入した人も多いことを考えれば、iPhoneユーザーの約半数は「ツーフォン族」とも考えられる。


 韓国では何か一つでもブームになると世代や性別、職業に関係なくみんなで一気に盛り上がる。スマートフォンと通話用の携帯電話に分けて2台持つ「ツーフォン族」がマスコミに取り上げられかっこよく見える、ということで男性も女性も、ビジネスマンも学生も、「ツーフォン族」になり始めている。もちろんこれには端末購入補助金といって、新規加入またはキャリアを変えて新規加入するともらえる奨励金があるので安くスマートフォンを購入できるからでもある。一番安い料金制度を選択して通信料無料のWi-Fiだけ利用すれば、それほど大きな負担にはならない(韓国でスマートフォンは無料でそれぞれキャリアのWi-Fiを利用できる)。奨励金をずっと禁止していた韓国は日本と流れは逆で2008年から解禁したため、やっと0円端末が登場した。




KTから発売されたNexus Oneイベントの様子

もう一つ韓国独自の事情といえるのは、携帯電話の番号に執着するユーザーが多いことだ。日本の携帯電話局番は090か080だが、韓国ではキャリアによって011、017、018、016、019の局番が振られ、その後ろに3ケタ+4ケタの番号が続く。局番だけでどのキャリアかがすぐ分かる。

 中でも韓国で初めて携帯電話サービスを始めたSKテレコムの011局番の携帯電話を持っている人はもう十数年も同じ番号を使っていることから愛着があり、携帯電話料金がものすごく高かった時代から使っていると自負しているため、番号を変えようとしない。2Gではキャリアに関係なく同じ番号で機種変更ができたが、韓国政府の3G戦略によって、2008年からはスマートフォンを含め3G端末へ機種変更する場合、010局番+4ケタ+4ケタに変えないといけない。それでわざわざ番号を維持するために解約せず「ツーフォン族」になる道を選ぶ。


実は携帯電話の2台使用、ヨーロッパや中近東、ベトナムあたりでは当たり前なことなのだとか。SIMロックが解除されているためカードさえ差し替えれば複数の端末を1台のように使える。韓国でもSIMロックが解除されたので、自分のスマートフォンを海外に持って行って現地キャリアのSIMカードに差し替えて使うこともできる。約定加入期間中に海外に行くことになって泣く泣く違約金を払うこともなくなりそうだ(iPhone 3GSは国別ロックがかかっているので使えないが、iPhone 4は韓国ではSIMロック解除される予定)。

 「ツーフォン族」の中には、社外にいながらも書類決裁や業務を行えるモバイルオフィスが始まったので業務用として配られたスマートフォンと個人用に分けて2台持つようになった、という人もかなりいる。建設や流通など外回りの多い職場では、迅速な意思決定のため全社員にスマートフォンを配り始めている。


 さらに韓国政府は2015年までに、労働人口の30%にあたる約800万人に対しスマートフォンやモバイル端末を使ってどこにいても仕事ができる環境を構築する「スマートワーク」を目指すとしている。そのためにもスマートフォンの普及には力を入れている。公共機関の中では気象庁が真っ先にスマートワークを導入している。


 考えてみると、「ツーフォン族」になるというのはいろんな端末を使いこなすかっこいいユーザーというより、いつでもどこでも仕事をさせられる“奴隷”になることかも。会社の人にはスマートフォンを持っていることを秘密にしている、という友人の嘆きが理解できるような…



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年7月22日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100722/1026309/

第4回 : キーワードは「アプリケーション」と「3D」!韓国から見る日本の未来

主要先進国の景気回復が遅れるなか、アジア各国の成長は止まりません。中国や韓国、インドなど、まだまだ元気な国が多いのが実情です。知っているようで知らないアジアのコンテンツビジネス事情はどうなっているのでしょうか。第4回は、日本より数段進んでいる韓国コンテンツのトレンドを紹介します。

実名ブログが世論をつくる


2000年以降の韓国では、今のFacebookのような同窓会サイトや、インターネット上の分身であるアバターを利用したソーシャルネットワークサイト「Cyworld」が大ブームとなりました。リアル世界の自分は地味でも、アバターの着せ替えには大金を使い果たして満足する人が増えたものです。小学生が両親の携帯電話から勝手に着せ替えアイテムを決済し、支払いをめぐるトラブルも絶えませんでした。


一方、言論統制が厳しかった韓国で、市民が記者となり自由な意見を言い合えるインターネット新聞が脚光を浴びた時期もありましたが、すぐBlogにその座を奪われました。今はTwitterのようなつぶやきサイト「Metoday」や「Connecting」が情報の発信源であり、マスコミであり、世論の役割を果たしています。もう10年も前からソーシャルネットワークサイトが定着しているせいか、韓国人はネットで実名を公開したり、自分の顔を公開したりすることをあまりためらいません。


2006年からは「UCC(User Created Contents)」という、動画投稿サイトが大ヒットしました。偶然投稿したギター演奏動画が世界中の動画投稿サイトに転載され、ニューヨークタイムズで取り上げられた無名のギタリストもいます。それに触発され、自己アピール動画が絶えませんし、自作動画がきっかけで女優になった人も数知れません。1次面接の代わりに動画履歴書を要求する企業も登場しました。


何か一つブームになると老若男女関係なく全国民がはまってしまう、熱しやすくて冷めやすい韓国人らしく、人気コンテンツは1年もたずコロコロ変わっています。そんな中、2010年韓国で最もホットな話題は「アプリケーション」と「3D」です。




韓国でも人気なのはスマートフォンから利用するつぶやきサイト


失業対策としてアプリケーション制作を支援


2009年秋にiPhoneが発売されてから、パソコン中心だったデジタルコンテンツの利用は急速にスマートフォンとモバイルインターネットへと切り替わりました。


韓国政府は通信キャリアと組んで、就職難や失業対策の一つとしてアプリケーション制作を支援しています。面白い企画を持ち込むと、開発はすべて無料で支援してくれるセンターもオープンしました。コンテンツ製作会社のものではなく、個人デベロッパーのアプリが人気を集め、数千万円も売り上げを達成したという「アプリ長者」が何人も登場したからです。


Appleのアプリケーションストアに対抗して、Samsungや韓国のキャリアもアプリケーションマーケットを続々オープンさせています。スマートフォン、タブレットPC 、IPTV、家電など、あらゆるデバイスから利用できるアプリケーション販売を目指しています。


韓国で人気のアプリケーションは拡張現実(日本のセカイカメラのようなサービス)、ゲーム、位置情報を利用した生活情報などで、無料で利用できる無線LANや高速モバイルネットワークアクセススポットも急増しました。ソウル市内ではほぼどこでも無料で無線LANが使えます。


さらに、3Dテレビだけでなくスマートフォン向け3D映像や3Dゲームの開発も、商用化が目前になっています。安価の電子書籍端末が出そろい、まだ正式発売の予定のないiPadも個人輸入で数千台が普及しているため、電子書籍やタブレットPC向けの3Dコンテンツもブームになると見込まれています。


ネットに関しては常に一歩先を行く韓国に注目すれば、日本で何がはやるか予測できるはず。ビジネスマンにとっては目の離せない国です。


次回はインドのコンテンツビジネス事情をご紹介します。


By- 趙 章恩(チョウ チャンウン)

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iPhone 4かサムスンGalaxy Sか、韓国中が激しく悩む

日本でもNTTドコモより発売されるとして話題のサムスン製Androidスマートフォン「Galaxy S」が6月、韓国で発売された。iPhoneを発売しているKTに対抗して、「Galaxy S」は最大手キャリアであるSKテレコムから発売された。LGテレコム向けにも発売するという。KTだけ除外された。

 7月末発売と予想されているiPhone 4にするか、今すぐGalaxy Sにするか、スマートフォン好きな韓国携帯電話ユーザーの間では「究極の選択」として「あなたならどっちを選ぶ?」という特集記事やTwitterの書き込みが増えている。



     販売店でGalaxySの使い方について説明を受ける購入客


 iPhone 4とGalaxy Sは6月8日、同じ日に製品発表を行っている。Galaxy S はAndroid 端末の中では最高スペックを持ち、世界100以上のキャリアから発売されることが決まっているだけに、アップルの一人勝ちを抑えられるスマートフォンとなるか、注目を浴びている。サムスンはGalaxy Sを「サムスンの携帯電話開発20年の技術が凝縮された傑作」、「スマートフォンの新しい使い方を体験できる」、「世界で毎月100万台、サムスン携帯電話初の1000万台販売突破を期待している」と宣伝していた。その自信を裏付けるかのように、Galaxy Sは韓国で既に10日で20万台が売れ、iPhone3GSの記録を更新している。


 薄さ9.3mm、重さ137g、ディスプレイ960×640ドット(326ppi)3.5インチHD LCD(iPhone 4)に対してGalaxy Sは9.9mm、121g、800×480ドット(233ppi)4インチSuper AMOLED。500万画素カメラに1GHzのCPUは共通している。バッテリーの持ち時間はほぼ同じである。薄さではiPhone 4が勝っているけどGalaxy Sの方が軽い、解像度はiPhone 4が高いがGalaxy Sのディスプレイがもう少し大きくて明るい。端末のスペックからいうとどっちもすごい。


 スマートフォンを選ぶカギとなるアプリケーションも魅力的だ。アップルのアプリケーションが豊富で面白いのは周知の通り。Galaxy SはAndroidマーケットのほかにもサムスンのアプリケーションストアであるSamsung Apps、SKテレコムのアプリケーションTストアも利用できる。iPhoneにはない地上波DMB(韓国のワンセグ)、Adobe Flash表示機能を搭載する。韓国のWebサイトはFlashがたくさん使われるため、iPhoneのSafariからは表示できないサイトが多く不満の種であった。またSDメモリーカードを使えばパソコンからスマートフォンへ簡単に音楽や動画ファイルを移せる。いちいちiTunesを使わないといけないiPhoneに比べ断然便利である。

さらに韓国型アプリケーションとしてサムスンは教育アプリに力を入れている。入試向け講義動画をスマートフォンから利用できる「Smart M Study」は韓国の有名予備校のほとんどが参加する教育コンテンツで、親が子供にスマートフォンを買ってあげたくなるきっかけを提供している。


 そのほかには拡張現実の位置情報「ARoo ARoo」、農水産物のトレーサビリティを照会できる「安全な食べ物」、顔の形でその人の性格や財運・恋愛運などを占う「顔認識観相」、最大手書店と提携した電子ブック、各地域の天気を映像で確認できる天気情報、ソウル市公式交通情報が追加された。


 「観相(クァンサン)」は韓国では手相のようにポピュラーな占いで、大手企業の面接では観相も採用に影響すると言われているせいか、「顔認識観相」はSamsung Appsの中でも人気上位を占めているという。


 さらに、サムスン電子の社員約8万8000人、SKテレコムの社員約2万5000人にはGalaxy Sが支給され、モバイルオフィスも始まる。社内決裁システムをスマートフォンから利用できるのはもちろん、FMCで社内では内線電話として、外では携帯電話として使える。業務を迅速に効率的に行おうとしている企業は多いので、それに対応できるGalaxy Sの法人需要は大きく伸びるだろう。これはiPhoneにはできない戦略である。


 SKテレコムもGalaxy S発売をきっかけに、フリーWi-Fiスポット拡大、モバイルVoIPとモバイルインターネット定額料金制開始、LTE(携帯電話事業者が2010年以降に導入することを目指している次世代通信システム)早期商用化を発表している。端末ベンダーとキャリアが足並みそろえてスマートフォンをより使いやすくしているという印象を受けた。


 7月末にiPhone 4が韓国で発売されてから本当の勝負が始まることになるが、世界で話題のiPhone 4にするか、それとも韓国向けアプリケーションが多くて簡単に音楽・動画ファイルを再生できるGalaxy Sにするか、本当に悩ましい。もう、両方買っちゃう?


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年7月15日

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韓国を機能不全に陥れたサイバーテロ「7.7 DDoS大乱」から1年

ちょうど1年前の2009年7月7日から10日にかけて、韓国の政府サイトと銀行、大手ショッピングサイトなどがDDoS攻撃(特定のコンピューターを利用不可能にするため、大量のパケットを送りつけるなどして負荷をかける行為)を受け、社会的な大混乱に陥る事件が発生した。攻撃されたサイトには24~78時間ほどアクセスできず、金融取引ができなくなったことで大騒ぎになった。それだけでなくDDoS攻撃に利用されたゾンビパソコンのハードディスクが使えなくなるという被害も受けた(それまでのDDoS攻撃といえばほとんどが金銭目的で、脅していくらかの金銭を要求するぐらいのものだった)。

 このように社会的混乱を狙ったサイバーテロとしてのDDoS攻撃は初めてだったため、「7.7 DDoS大乱」は韓国社会に衝撃を与えた。誰が攻撃したのかは未だに明らかになっていない。


 あれから1年、DDoS攻撃は減るどころか、政府サイトや大手企業サイトでは毎日のように攻撃を受け防御を施すサイバー戦争を繰り広げているという。攻撃手法も多様になり、把握しきれないほどの巧妙化した悪性コードが出回っている。


 中国からの攻撃も増えている。6月にはアイドル歌手がきっかけとなりDDoS攻撃が発生したこともある。きっかけは、上海万博の韓国館で行われた韓流スター公演に中国ファンが殺到して人が下敷きになる事故だった。これを韓国側の問題だとして中国のコミュニティサイトで攻撃参加者を募集、DDoS攻撃ツールをダウンロードさせた。6月9日、韓国政府ポータルサイトkorea.go.krとアイドル歌手のファンサイトに対するDDoS攻撃が一斉に始まり、あっという間に約4800万件の書き込みをしてほかのユーザーがサイトを利用できないようにした。



韓国最大手通信事業者のKTは企業顧客向けにIP帯域でのDDoS攻撃をモニタリングし、異常トラフィックを遮断するサービスを提供している


このように、大量の人数が参加して特定サイトにアクセスしてリロードを繰り返すか書き込みを続けるという攻撃法もあるが、DDoS攻撃は一般的に「ゾンビパソコン」が使われる。スパムメールを使ってウイルスを送り込み、そのパソコンを操るため、知らないうちに攻撃に加わってしまう。もっと危ないのは、自分のPCがゾンビパソコンであることに気付かないまま、ずっと悪用されっぱなしになることである。韓国インターネット振興院によると、監視ネットワークで把握できるゾンビパソコンだけでも1日8万アドレスを超えているので、いつ大規模なDDoS攻撃が起きてもおかしくない状況だという。

ゾンビパソコンにならないよう、少しでも怪しいメールは絶対開かない、ウイルスチェックプログラムを利用する、といった基本的なことをネットユーザーに呼びかけ、企業でもDDoS対策を含めセキュリティのためにかなりの予算を韓国政府はつぎ込んできた。サイバーテロ対策としていろいろなシナリオを想定し、組織体制も整えてきた。しかし、DDoS攻撃はひどくなっている。メッセンジャー経由で友達の名前を詐称したり、自分が加入しているクレジットカード会社の明細に見せかけたり、スパムメールも区別が難しい場合が多い。しかし何よりも問題なのはセキュリティ意識。「ウイルスチェックプログラムをインストールしたからもう大丈夫!」と安心してアップデートもしない、ウイルス検査もしない、そういうユーザーがまだまだ多いからだ。


 そこで登場したのが「悪性プログラム拡散防止などに関する法律」という制度である。まだこれから国会で議論が進められる予定ではあるが、ISPがゾンビパソコンのインターネットアクセスを一時的に遮断することで攻撃を防ぐ、感染したパソコンより悪性コードを取り出せる、という内容が含まれることから「ゾンビPC法」とも呼ばれている。


 韓国では小中高校でもネチケット(ネット上のエチケットや個人情報保護教育)に続いてDDoSやサイバーテロに関する教育が始まっている。面白半分でハッキングやDDoS攻撃をしかける子供たちがいるからだ。それにデジタルネイティブの子供たちからセキュリティ意識を持ってもらうことが大事だからだ。しかし一方ではついに「どんなサイトでも攻撃できます」と宣伝するサイバー殺し屋まで登場する始末。お金を渡してライバルのショッピングサイトを攻撃させアクセスできないようにして自分のサイトにお客さんを集めたというニュースも目にするほどだ。


 終わることなく繰り返される攻撃に「ゾンビPC法」は果たして効果をあげられるだろうか。DDoS攻撃に悩まされているのは日本も同じ。韓国の事例からいいアイデアが生まれるかも。

趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年7月8日

-Original column
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副業として人気のビジネス、アイドルも例外じゃない?

老後のためにレストランやショップ、会社を経営する芸能人が増えてきた。ちょっと前までも芸能界を引退してから食堂を経営したり、ビジネスを立ち上げたりするか、自分の写真入り記念品やアジアの韓流ファンを狙ったお土産程度の品物を販売するショップが主流だったが、それが成長して今では本格的なデザインショップを運営するスターも登場した。芸能人グッズとは思えないクオリティーの高いアクセサリーやファッショングッズを自らデザインして販売するショップを持つのは、日本でも人気の高いジウ姫やイ・ビョンホンなど。特にジウ姫のデザインした靴は履きやすくてかわいいと評判が高い。

 最近韓国の芸能人の間では、もっと手軽な副業が人気を集めている。それはインターネット上にお店を持つことである。ショッピングモールに名前を貸すだけの人もいるが、自ら問屋に行って商品を買い付け、モデルとしてサイトに登場し、商品の説明も自ら書き込むなど、積極的に運営にかかわる人が増えている。主にファッションアイテムが多く、自分のお店で売る商品をテレビで着用して宣伝するなどしている。インターネットショッピングモールを運営する副業は特に20~30代の女性芸能人に多く、自分がデザインした商品を販売するケースも増えている。


 芸能人のインターネット副業ブームはアイドルグループも例外ではない。もちろん、本人達は忙しいので、事務所側が運営をバックアップし、利益をシェアする場合が多い。


 日本でも話題の女性アイドルグループ「KARA」が参加するショップ「KARAYA」は芸能人インターネットショッピングサイトの人気上位ランキングをいつも占めている。洋服が中心のファッションストアで、KARAのメンバーがモデルとして登場している。サイトの構成もショッピングだけでなく、KARAが出演する番組情報やKARAのメンバーが教えてくれるコーディネートアドバイスもあり、ちょっとしたファンサイトのようになっている。




実はKARAYAは某番組の企画で誕生したショップ。女性向けにインターネットショッピングモールを立ち上げる手続きや運営ノウハウを教えるという特集番組で、KARAが直接お手本となってインターネットにお店を作り、その過程をすべて番組で見せようということから始まったショップなのだ。


 KARAのメンバーが役所に行って事業者登録し、商品の写真を撮ってショッピングモールに掲載する方法などを体験する過程を番組にすることで、そのまま見て真似れば誰でもインターネットにお店が持てます、という企画だった。韓国の雑誌や新聞にも頻繁に取り上げられているせいか、KARAYAはオープンして間もないというのに1日の訪問者数は2万人を下らない。20代女性が気軽に着られるお手頃価格のものばかりで、売り上げが1日数千万ウォン規模もあるというからすごい。KARAのようにかわいくなりたいと願うファンの間では聖地のようなサイトになっているのだ。


 お笑い芸人もインターネットショッピングモール運営に乗り出していて、ビキニ水着専用ショップを運営したり、海外で買い付けた1点もののアクセサリーだけ扱うショップを運営したり、専門ショップで勝負するケースが多かった。ビキニを着た美人モデルの隣でおとぼけポーズで一緒に写真を撮り、それをショップの商品紹介の写真に使うことで笑いもとり商品も売るという戦略で話題になっている。


 テレビCMや雑誌広告で宣伝するお金のない中小企業のブランドは、知名度を上げるため芸能人ショップにわざと安く洋服を提供することもあるという。ショップ側としてもほかのショップより安く売れるのであればお客さんは喜んでくれるので、Win-Winというわけだ。


 しかし芸能人のお店だから売れるというプレミアムは最初の数カ月だけで、結局ほかのショップと同じように、価格や商品の品ぞろえ、配送の素早さが売り上げの決め手だという。芸能人インターネットショッピングモールはその人のファッションセンスをアピールする場にもなるので、下手に手を出すと「テレビではかわいくしているのに売り物はダサい」とネットに書きこまれ、好感度ががくっと落ちてしまうことすらある。


 芸能人に限らず、韓国では就職難から20~30代女性が就職をあきらめ自分でお店を持つケースが急増している。オフラインではなかなか売っていないビッグサイズ洋服専門店や1年中夏服しか売らない専門店で成功し、パソコン1台、カメラ1台で創業して今や億万長者という人も数人登場している。中には女子高生が高校生向けのファッションモールを立ち上げたところ大当たりしたケースもあった。韓国政府も「インターネット起業」に関する無料講座を全国各地で実施し、失業対策として取り組んでいる。


 最近はスマートフォンのアプリケーションとして利用できるショッピングモールが大人気で、芸能人ショップもほかのショップもみんなスマートフォンへと移行している。Twitterのようにソーシャルネットワークサイトと連動したショップも人気が高く、好きな芸能人をフォローしながらおそろいの服を着るファンがますます増えそうだ。

趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年7月1日

-Original column
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