脱獄アプリ続々、iPhoneの3G経由ネット電話禁止で高まるユーザーの不満

米AT&Tは2009年10月、iPhoneから3Gネットワークを経由したインターネット電話利用を許可する方針を発表した。iPhoneから無線LAN経由でSkypeなどを使いインターネット電話を利用できるだけでなく、移動通信事業者の3Gネットワーク経由でも使えるようになったことで、AT&T加入者は携帯電話・スマートフォンから自由に料金の安い音声通話を利用できるようになったのだ。

 移動通信事業者が提供するサービスに限らず、どんなサービスにもつながるようにしないといけないというFCC(米連邦通信委員会)が標榜する「ネットワーク中立性」に従うものである。このニュースは日本でも話題になった。


 この動きが意味するところは大きい。無線LANが使えない地域はあっても、携帯電話のデータ通信が使えない地域はほとんどないので、移動通信事業者のネットワークが開放されれば、移動しながらどこでもインターネット電話が使えるようになる。インターネット電話は加入者間の無料通話が目玉でもあるので、iPhone加入者どうしの無料通話はもちろん、家庭のインターネット電話との無料通話もできるようになる。国際電話も断然安くなるし、国際ローミングもいらなくなる。国際ローミングは、電話をかける方も受け取る方も電話代を払わなくてはならないので、負担が大きかった。


 移動通信事業者からすれば、モバイルインターネット電話を使わせることにより、重要な収益源である音声通話収入が大きく減るのは明らかだ。今後の見込みにしろ、モバイル端末と無線LANによる4Gネットワークが結びつくことで、どんな端末からもモバイルインターネット電話が使えるようになり、音声からの収益がますます減ることは間違いない。逆にネットワークを開放しても基本料は取れるので、市場先行効果を狙い加入者をたくさん確保した方が安定した成長ができるかもしれない。


 韓国で大人気のiPhoneからモバイルインターネット電話はできるのか? 3Gネットワークを使う通話で言えば「ノー」である。日本のiPhoneは無線LAN経由ではインターネット電話(Skypeなど)が使えても3Gネットワークからは禁止されている。同様に、韓国のiPhoneを提供するKTも、無線LANを経由したインターネット電話は利用できても3Gネットワークからは利用できないようにしている。



音声利用が多い韓国ユーザー



 ところが、いわゆる「脱獄(jailbreak)」として、3Gネットワークを無線LANとして誤認識させるアプリをダウンロードし、インターネット電話を使うユーザーが増えている。


 韓国KTのiPhone料金は2年約定の基本料に応じて無料通話150~800分、データ通信100MB~3GB、SMS200~300件+無線LANの利用が無料となっている。首都圏ではどこでもKTの無線LANを利用できるので、データ通信を利用しなくても済んでしまう。結果、毎月の無料データ通信分を全部消費しきれない。そのため「脱獄」して3Gネットワークからインターネット電話を使うことでデータ通信を消費するのが裏技として広がっている。そのほかに、3Gネットワーク経由でインスタントメッセンジャーの音声チャット機能を使った通話もできたが、これは2010年2月時点で3Gネットワーク経由でのアクセスが禁じられている。


 ユーザーらは「料金に含まれている3Gネットワークを利用しているだけなのになぜ禁止するのか」と早速反発している。3Gを無線LANに誤認識させるとはいっても、基本料内で使っているのでKTに損害を与えたわけではなく、これは違法ではないという主張だ。KTは「脱獄」できないようにするというが、この手のアプリは続々登場しているので、いたちごっこになる可能性が高いのではないだろうか。これではユーザーの反感を買うだけだ。AT&Tがネットワークを開放しているだけに、なぜいまさら閉鎖的な運営をしようとしているのかと非難も多い。


 日本の移動通信事業者のARPU(1契約当たりの平均収入)は平均的に音声6・データ通信4ぐらいであるが、韓国は音声8・データ通信2、音声通信の収入が圧倒的に多い。日本では定額料金制などで一時期ARPUが減ったものの、最近はデータ通信分が伸びたことでARPUも伸びている。しかし韓国では長年“勝手サイト”にアクセスできないようネットワークを閉鎖的に運営した結果、音声通話だけ伸びてデータ通信分が停滞または減少するという、世界の流れに逆行する現象が起きた。音声への要求は依然高いのだ。



Android搭載端末登場で状況は変わるか?



 KTは無線LAN、3G、Wibro(モバイルWiMAX)の3つのモバイル高速ネットワークを使える端末を発売している。モバイルインターネット移動通信最大手のSKテレコムは2Gでも無線LANを使えるようにすると発表した。無線LANとWibroのスポットも今の5倍ほどに拡大する予定だ。


 KTもSKテレコムも、FMC(有無線融合サービス)として、端末1台で携帯電話としてもインターネット電話としても使えることをしきりに宣伝している。自社のインターネット電話サービスがあるので、自前のネットワークを使って外部のインターネット電話を利用されては困るということなのだろうか。


 しかし3Gネットワークからのインターネット電話利用を禁止するとしても、携帯電話からインターネット電話を利用する時代に変わっていくことは間違いないだろう。締め付けを厳しくしてユーザーの反感を買うよりは、自由にして加入者確保と同時にモバイルインターネット電話の使い勝手向上を各事業者に工夫してもらいたいのだが、今のところ、目先の利益を優先したいようだ。


 2010年2月10日、KTのiPhoneに対抗してSKテレコムからモトローラのAndroid搭載端末が発売された。この端末からはGoogle Voice(米Googleが提供する音声通信管理サービス)を利用できるので、インターネット電話をどうするか、議論はまだ続きそうだ。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年2月18日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100217/1023008/

エコ政策が引き金、加熱する「自転車」と「ナビ市場」

韓国政府は「緑色成長」をキャッチフレーズに、2009年より、二酸化炭素排出節減、省エネ製品販売、生態系回復のための街並み整備といったエコな国策事業を打ち出している。中でも注目を浴びているのが「自転車」政策である。

 日本に来る韓国人が驚く光景の一つが、駅前にびっしり停められた自転車。歩行者は自動車よりも自転車に気をつけないといけないほど、どこに行っても自転車に乗っている人が多いことに驚く。自転車の前と後ろに子供を乗せる親子の3人乗りを見かけると、記念写真を撮ってブログに載せるほどめずらしがる。


 韓国でも自転車に乗る人は多いが、休日の運動やレジャーとして川沿いを走るか、または配達や仕事のために乗るのがほとんど。バスが1時間に1台しか来ない、なんていう田舎でもない限り、日常的に自転車を利用する人はあまり見かけない。見かけたとしても、プロのサイクリング選手のような服装に立派な自転車に乗った同好会の人ぐらいだろう。ソウルの都心で通学や通勤のために自転車を利用する人は珍しく、テレビや新聞に「自転車で通勤する○○さん」のような見出しでインタビューが掲載されるほどである。


 韓国の道路は車優先で、地下道や陸橋も多く、自転車で移動するのは難しい。歩道もでこぼこしているので危ない。私も駅まで自転車を利用しようとチャレンジしたが、2分で歩道のブロックとブロックの間に挟まり自転車ごと転倒してからギブアップ、その後すぐ盗難にあったので、ソウルで自転車に乗れたのはたった2分しかない。


 それが、政府の「緑色成長」政策により、歩行者優先で横断歩道が造られ、「自転車用」と呼べる道路がやっと整備されるようになった。


 韓国政府は2018年まで1兆2456億ウォン(約1000億円)をかけて3114キロの自転車道路ネットワークを構築するとしている。そうなればソウルの北側から釜山まで自転車で全国を一周できるようになる。有名観光地に自転車レンタルショップを置いて、車での移動を減らす計画も併せて実施されている。新羅時代の首都であり街中に遺跡が点在する慶州では、自転車で観光地を一周できるよう、自転車道路と自転車レンタルが充実してきている。レンタカーのように、駅前で自転車を借りて、好きな場所で返せるのでとても楽だ。チェジュでもレンタカーより自転車・徒歩観光が脚光を浴びている。


増える自転車人口、スマートフォンがナビをサポート



 「緑色成長」事業は川の復元や道路整備など建設分野に偏りすぎていることが、今まで、何度も指摘されてはいる。自転車道路にしても、自動車の代わりに自転車を利用してエコな生活をしましょうという目標のはずが、新しい自転車道路は川沿いや海沿いに造られ“観光用道路”造りになってしまった。都心の自転車道路は長期的な都市計画より、とにかく1日でも早く「自転車道路」と書かれた“結果物”を残すことに執着したため安全への配慮が欠けている。自動車道路の幅を通常より狭くして、両端に石でブロックを立て自転車道路にしているので、自動車も自転車もはらはら。地下鉄駅前には駐輪場もたくさんできたが、韓国は自転車の登録管理が行われていないため盗難が多く(名義登録がないので、盗んだ自転車はいくらでも転売できる)、ちゃんと預かってくれる保管所を求める声が大きい。


 それでも自転車人口は増えるばかり。クレジットカード会社2社の最近の調べでは、2009年自転車購入件数は前年比で30%以上増加した。ディスカウントショップやネットショッピングでも自転車販売が2倍近く増加し、政府政策に合わせて自転車で買い物に来ると50ウォン(約4円)ずつグリーンマイレージをためてくれる大型スーパーも登場した。2009年夏には韓国で初めて、個人向け自転車保険も登場した。自転車によって発生した事故や怪我の被害に対応している。


 今の日本がランニングブームだとすると、韓国は自転車ブームという感じで、関連用品やサービスが続々登場している。中でも人気を集めているのが自転車ナビゲーション。自転車に取り付けられる専用のナビゲーション端末も発売されているが、手軽にスマートフォンとGPSを利用したナビゲーションアプリの利用する人をよく見かける。


 スマートフォンを使って音楽を聴きながら交通状況を確認、自転車道路を利用して走る。経路案内、位置確認、周辺情報案内、カロリー消費量はもちろん、自転車で移動した経路を記録し、写真と走った感想を書き込んで、ほかのユーザーと共有できる。自転車を媒介にしたSNSといった感じで、「一緒に自転車で走りませんか」という地域ごとの友達募集書き込みも増えてきた。自転車ナビゲーションアプリの利用は無料で、App Storeのダウンロードランキング上位をキープしている。自転車だけでなく徒歩ナビ、自動車ナビにも切り替えられるので、ナビゲーションを購入せずスマートフォンで済ませられる。スマートフォンの画面サイズはどんどん大きくなっているので、画面が見苦しいということもなく、使い勝手がよくなりつつある。


 ポータルサイトもモバイルマップサービスや、出先で利用したくなる位置情報基盤サービス、地域情報検索サービスを強化しているため、政府政策と並んで自転車ナビ市場は今後どんどん大きくなると見込まれる。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年2月12日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100212/1022836/

2G対応スマートフォン魅力向上でWi-Fi競争が激烈に

韓国の移動通信事業者であるKTとSKテレコムは第3世代(3G)に限らず、第2世代(2G)対応スマートフォンからも無線LANを利用して自由にインターネットにアクセスできるようにすると発表した。

 SKテレコムは、米グーグルが開発した携帯電話向けOS「Android」を搭載するモトローラのスマートフォンを2G向けにも発売するとしている。中国で2008年12月に発売されたXT800と同じモデルで、3.7型WVGAタッチスクリーン、Android 2.0、GPS、500万画素カメラ、LEDフラッシュ、Wi-Fi機能を搭載する。これに地上波DMB(韓国のワンセグ)が追加される予定。KTも3G対応スマートフォン10種のほかに、無線LANを利用できる2Gスマートフォンを15種発売するとしている。


 データ通信サービスを利用する3Gは「高仕様」、音声通話中心の2Gは「低仕様」、という区別はなくなってきている。2Gでもタッチスクリーン、大画面、高画素カメラを搭載する“プレミアム携帯電話”としてスマートフォンが人気だ。代表的な機種はサムスンのHapticシリーズである。


 韓国では3Gに機種変更すると電話番号を変えないといけない理由から(局番は011、017、016、018、019から010へ、3桁+4桁の電話番号が4桁+4桁になる)、2Gに固執するユーザーが根強くいる。2G対応の高仕様・高価格端末は3Gに比べ奨励金が少ないので端末価格は高くなってしまうが、それでも番号を変えたくないユーザーに受け入れられている。



問題はWi-Fi接続の未整備



 3Gのスマートフォンに限らず、2G端末からも無線LANが利用できるようになったことで、通信事業者の間では端末やコンテンツ競争以上に、「無線LANサービスエリア競争」が始まっている。


 韓国の通信事業者は家庭向け有線ブロードバンドとW-CDMAにばかり集中していたため、屋外の無線LANのアクセスポイントは増えるどころか減少していた。2004年まで首都圏のどこでもKTの無線LAN電波が届いたが、加入者の伸び悩みを理由にだんだんとアクセスポイントが減り、2008年ころになるとすっかり自宅でしか使えない無線LANサービスになってしまった。そのため、街中でノートパソコンやiPodからインターネットにアクセスしたい場合は、パスワードを設定していない誰かの無線LANモデムに接続するしかなかった。


 無線LANスポットが少ない分、無線LAN対応の良しあしがスマートフォンの選択条件の大きな一つ。KTが独占販売するiPhoneに加入すればKTの無線LANを利用できる(無料)。一方、SKテレコムのOMNIA2(サムスンのスマートフォン)に加入すると利用できる無線LANスポットがKTより少ない。スマートフォンは移動通信事業者3社から発売されているため、無線LANのスポットが多く使えるスマートフォンが当然便利である。



KTは「ただ乗りやめて」



 KTは現在1万3000ある無線LANスポットを2010年内に2万7000に増やす計画だ。SKテレコムはカフェやレストランなどを中心にフリースポットを増やす方針である。同社は無線LANスポットを持っていないため、提携先の無線LANモデムをフリースポットにしてもらうことで、スマートフォンやノートパソコンを使う人は誰でも無料でインターネットにアクセスできるようにするという。


 一方、ほかの通信事業者より早くインターネット電話サービスを始めたLGテレコム。約200万世帯がLG系列のブロードバンドと無線LANを使ったインターネット電話サービスを利用している。加入者宅にある無線LANモデムにパスワードを設定しない方法でフリースポットとして利用できるのではないかという話もあったが、個人が利用料を支払う無線LANを、スマートフォンへのサービスのために通信事業者がフリースポットにしてしまっていいのか、議論がある。接続速度が落ちるだけでなく、同じネットワーク上に知らない人がつながることでデータハッキングの可能性もある。


 KTの無線LANに加入するカフェやレストランが、モデムにパスワードを設定しないことでフリースポットとして無線LANを使えるようにすると、当然、KTの無線LAN加入者数は伸びていかない。自社の投資にSKテレコムやLGテレコムが便乗することになるため、KTは、「ただ乗りするなんて許せない」、「セキュリティのためにも家庭や企業の無線LANモデムにパスワードを設定してほしい」と訴える。


 スマートフォンのほかにも無線LANを利用できる電子ブックリーダーが次々に発売され、iPadのようなタブレット、無線LANを利用するモバイルVoIPも続々登場している。韓国通信事業者による、無線LANのアクセススポット数増加やサービス向上競争の激化は免れず、4G商用化まで続くとみられる。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年2月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100204/1022688/

困ったら「118」へ――ネット利用何でも相談電話が開始

韓国政府機関の一つであるインターネット振興院が、インターネットのことなら何でも相談できるコールセンター「118」を2010年1月に開設した。局番なしで「118」に電話すれば、スパムメールやウイルス、個人情報盗用、ハッキングなどの被害相談はもちろん、パソコンの電源の入れ方、ウェブサイトにアクセスする方法、会員登録方法といった基本的な利用方法から実名制度の仕組みとは何か、という情報に関することまで、何でも相談できる。通話料のみで利用料はない。

 スパムメールやウイルス・ハッキングなどによる被害を警察に届けるべきなのか、判断するための相談窓口にもなる。


 韓国のインターネット利用者は人口の8割を超えており、乳児と超高齢者以外の国民のほとんどが利用している計算だ。インターネットは韓国人にとって最も身近で重要なメディアであり、コミュニケーションツールでもある。そのためインターネットを介したトラブルが増え、実名制度による本人確認もややこしくなっている。トラブルや被害にあったとき、まずどこへ相談すればいいのか、ぱっと思い浮かぶ相談窓口はこれまでなかった。


 今まではインターネット利用に関する相談窓口は、犯罪ならサイバー捜査隊、セキュリティなら韓国情報保護振興院、利用方法なら各サイト、ネットワークのことは通信会社、パソコンのことは製造会社と、ばらばらだった。118はこれらすべての窓口を統合。365日24時間対応で、国民の利便性向上を図る。


 韓国インターネット振興院によると、118のようなコールセンターは世界初という。火事は119、犯罪は112(韓国の110番は行政苦情窓口)といったように、「インターネットは118」と覚えてもらいたいと話す。特に子供やお年寄りの利用を見込み、118を覚えてもらうためのキャンペーンも実施している。


 118に期待されているのは、インターネット利用者のセキュリティ意識向上である。インターネットを始めたばかりの子供やお年寄りに利用方法を説明すると同時に、このような初心者がセキュリティ対策の重要性を認識し、ウイルス退治プログラムを使ったり、個人情報をしっかり管理したりするよう啓蒙する役を担う。


 韓国ではセキュリティ対策をしていないパソコンが多く、それを踏み台にしたDDoS攻撃(複数のコンピューターから大量のパケットを送りつけるなどして、特定のコンピューターを利用不可能な状態に追い込むこと)も頻繁に起きている。スパムメールや偽ウイルス退治ソフトによって感染し、ゾンビーパソコンとなって、ユーザーは知らないうちに攻撃に加担することになる。


 韓国では2003年1月と2009年7月、全国でインターネットが利用できなくなるほどのDDoS攻撃を受けた。DDoS攻撃による企業のシステム・ネットワーク復旧費用、サイトへのアクセス不能に起因したサービス提供停止による被害額は、年間約300億円前後と言われている。


 2009年にはメッセンジャーをハッキングした振り込み詐欺が多発した。ある端末から送付されるメッセンジャーをハッキングして、その端末所有者が登録する友人らに「お金を貸してほしい」と本人になりすましてメッセージを送り、振り込ませる手法だった。オンラインゲームやSNSでも、ハッキングによるサイバーマネー盗難が増えている。このような被害があったときに、警察よりも早く実情を把握して、適切な対処を促すのが118である。


 iPhoneをきっかけにスマートフォンの利用が急増していることから、2010年、118にはスマートフォンからインターネット利用の問い合わせが増えることが予想される。


 スマートフォンから主に利用する無線LANの場合、面倒という理由でモデムにパスワードを設定しない家庭が多い。誰でも自由に電波を拾って使えるのでハッキングの危険性が指摘されているが、街中ではフリースポットがなくても、こうした無線LAN電波をいくらでも拾える状態だ。スマートフォンからこのようなパスワード設定なしの無線LANを利用した場合、ハッキングされる可能性もある。スマートフォンや携帯電話を狙ったウイルスの中には、有料サイトに勝手にアクセスして料金を発生するように動作するものがあるので、注意が必要だ。


 スマートフォン向けのウイルス退治ソフトの開発は活発で、すでに、スマートフォンからのインターネットバンキングに対応したセキュリティソフトを銀行が提供し始めている。ただ、こういう情報を利用者が知らなければソフトは当然使われず、開発する意味もなくなる。


 インターネット何でも相談窓口「118」は、韓国のインターネット利用をより便利にし、人々のセキュリティ意識を高められるだろうか。「世界初のサービスとして、他の国からも注目されるようになる」(インターネット振興院)か、今後の活動が注目される。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年1月28日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100128/1022529/

「ゲームマネーの現金売買は合法」韓国最高裁判断への賛否両論

韓国では、ソウルが観測開始以来の大雪や寒波を記録するほどの異常気象で、外出を控えオンラインゲームやデジタルコンテンツを利用する人が増えている。「Hangame」「NCSoft」「Nexon」「Netmarble」「Pmang」といったオンラインゲームの1月のユーザー平均滞在時間は前年同月比で3割も増加しているという。証券会社は2010年の株価展望で、不況ほど利用者が増えるオンラインゲーム株をさかんに推奨している。

 寒波以上にオンラインゲーム業界で話題になっているのがNCSoftの多人数参加型オンライン・ロールプレイング・ゲーム(MMORPG)「リネージュ」内で使われる仮想のゲームマネー「アーデン」の現金売買を巡る最高裁判断である。



■「ユーザーが努力して得た労働の対価」


 事件の始まりは08年12月、ゲームマネー売買を専門に行う個人2人が「ゲーム振興法32条1項7号違反」の容疑で起訴された。同法はゲームマネーの現金売買を禁じており、2人はゲームマネー2億3400万ウォン(約1900万円)相当を安く手に入れ、2000人に転売し2000万ウォンの利益を上げたとされた。


 地方裁判所は2人に罰金200万~400万ウォンの判決を下したが、2審ではリネージュのようなMMORPGのゲームマネーは同法の規制対象にならないと判断。検察が上告したが、最高裁判所は09年12月24日に2審判決を支持し、上告を棄却した。


 最高裁は、法律で現金売買を禁止されているゲームマネーは「一定の金額を賭けてゲームの結果によって配当が決まるもの、または偶然手に入れたもの」であるとし、2人が転売したリネージュのゲームマネーは「偶然ではなく利用者の行為によって得られたものである」と認定した。さらに「リネージュのゲームマネーはすでに現金売買が活発に行われており、転売して利益を得たことは同法違反に当たらない」との判断を示した。


 ゲーム会社は、オンラインゲームのゲームマネーやアイテムはプログラムで所有権は開発者にあり、ユーザーや仲介サイトで現金売買をしてはならないという約款を設けている。しかし、今回の最高裁判断はゲームユーザーの間では、「リネージュのようなゲームの仮想通貨はユーザーが努力して得た労働の対価であり、約款に関係なく売買することができる」と解釈されている。



■ゲームマネーの売買市場は約1200億円


 今回の判断が出る以前から、ゲームマネーやアイテムの売買を仲介するサイトは多数存在していた。もともとはユーザー同士がゲーム内のチャットや掲示板に売りたいアイテム、買いたいアイテムを書き込み、「PCバン」と呼ばれるネットカフェなどでアイテムと現金を直接受け渡していたが、詐欺などのトラブルが増え、01年ごろから仲介サイトが登場し始めた。


 仲介サイトは、決済代行手数料として販売金額の4~5%を徴収する。仲介サイトの登場で、本格的にゲームマネーやアイテム売買を職業とする人も現れた。韓国コンテンツ振興院や文化体育観光部によると、ゲームマネー売買の仲介サイトは10社以上あり、会員数800万人、年間換金(現金売買)規模は1兆5000億ウォン(約1200億円)にものぼるという。


 同時に数十万人がアクセスしてRPGを楽しむリネージュのようなゲームは、ゲーム内にもう1つの人間世界が繰り広げられているようなもので、ゲームマネーは必須となる。ゲーム会社側は、加入者を長期間足止めできるよう、キャラクターの育成や獲得できるアイテムを調整している。一方、ユーザーにしてみれば、ゲーム料金を数カ月分払うのと現金でゲームマネーを購入してアイテムに変えるのとでは金額的には大きな差がない。山の1合目から登り始めるか、それとも5合目から登り始めるかといった差だろうか。



■IDの詐取が増える? トラブル増加の懸念も


 今回のゲームマネー現金売買を合法とした最高裁判断に対しては、ゲーム市場の活性化につながるとの見方が多い。ただ、ゲーム業界内にも賛否両論はある。


 ゲーム振興法では、ゲームマネーを売買して利益を得るために他人の個人情報を盗んだり、ハッキングプログラムを使ってキャラクターのレベルを上げたりすることを禁止している。こうした違法行為を行うグループの拠点は「作業場」と呼ばれ、主に人件費の安い中国や地方都市にある。作業場では、数百台のパソコンを24時間フル稼働させ、ゲームマネーやアイテムを獲得しては仲介サイトに売り出して現金化しているとされる。


 大量のゲームマネーやアイテムを獲得するには、その分大量の会員IDが必要となる。作業場の人たちは電子商取引サイトやウェブメールサービスなどをハッキングして韓国人の住民登録番号を手に入れ、その個人情報を使いオンラインゲームサイトに会員登録する。韓国人の個人情報のハッキング事件が絶えないのは、このようにお金になるからである。


 今回の最高裁判断はこうした行為まで合法としたわけではないが、ユーザーがそれを区別するのは難しい。 ゲームマネー売買を悪用した不正資金問題や課税問題、ゲームマネーと企業ポイントや電子マネーとの連携にかかわる問題が起きる可能性もある。



■世界に輸出 海外対応も必要に


 ゲーム内のアイテムがお金で簡単に手に入るものになれば、ユーザーにとっての希少性は低下する。ゲーム会社はユーザーを引きつけるため、絶えず次に獲得したくなるような強い武器、強力な魔法アイテムといった新規アイテムを開発していかなければならなくなる。


 しかし、アイテムを開発するにはゲームのストーリー変更やキャラクター設定なども必要だ。これらはそう簡単に継ぎ足せるものではなく開発負担は少なくない。そもそもゲーム中毒やゲーム過労死が社会的問題になっているなか、アイテムを増やして売買規模を大きくすることには批判もあるだろう。


 ゲームマネーやアイテムの現金売買は韓国だけの問題ではない。韓国のオンラインゲームは世界60カ国以上に輸出され、その輸出規模は08年10億ドル、09年15億ドルと推定されている。世界のユーザーが韓国のオンラインゲームマネーを売買することで換金レートや取引方法などでトラブルが発生した場合、矛先はゲーム会社に向けられる可能性が高い。


 今回の判断により、職のない人たちがゲームマネーで生活費をかせごうとオンラインゲームに集まることでゲーム市場が成長するという予測もあるが、それでは悲しすぎるだろう。アイテム売買よりも、ゲームをきっかけにアニメ、映画、漫画といった文化コンテンツのすそ野を広げて市場を共有することの方が経済活性化につながるのではないだろうか。ゲームはゲームとして楽しめるよう、文化として育ててほしいものだ。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2010年1月26日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000025012010

MNPと奨励金が携帯キャリアをだめにする

日本ではメールアドレスを変更しなくてはならないので面倒、手数料が高いといったことから利用はあまりないと言われているモバイルナンバーポータビリティ(MNP)だが、韓国では加入者の85%が経験しているというデータが発表された。

 韓国通信事業者連合会によると、2009年12月時点で韓国のMNP利用者は約4020万人。
2004年1月に韓国でMNPが始まってから6年間で、携帯電話加入者の85%が1度は移動通信キャリアを変更したことになる。


 韓国ではMNPでないと奨励金がもらえない、キャリアに関係なくショートメッセージを送受信できるので携帯電話からメールを使うことがなくメールアドレスの変更による負担がないことが理由としてあげられる。


 MNPは移動通信キャリアを変更する心理的負担を軽くすることで競争を促進するのが目的であったが、韓国では奨励金競争と重なり、加入者を奪い、そして奪い返す争奪戦になってしまった。家族割りや学生割りといった加入者間通話の無料競争が始まると、ネットワークの外部性によりシェア1位のSK Telecomに加入者が集まり始め、移動通信キャリア3社の市場シェアは10年近く5対3対2のままである。


 韓国の移動通信キャリアの平均解約率は3.5~4%。1%前後である日本に比べるとかなり高い。加入者の移動が激しいため奨励金が増えるのか、奨励金があるから加入者の移動が増えるのか。当然、移動通信キャリアの売上は伸びても利益率は急落している。2008年の場合、SK Telecomは営業利益2兆599億ウォンに対してマーケティング費用は3兆635億ウォンと、1兆36億ウォンも超過支出している。


 2009年11月にiPhoneが発売されてからは、MNPによって加入者が流れていくのを防止するため、3社の奨励金に加えて端末ベンダーからの奨励金まで上乗せされている。単価90万ウォンほどのスマートフォンが移動通信キャリアとベンダーの奨励金により20万ウォンほどで買えるようになった。スマートフォンの値段は奨励金競争によって毎日最安値が更新されている。2~3日の間に40万ウォン近くした端末が、奨励金の増加で半額の20万ウォンにまで安くなり、その恩恵を受けられなかった加入者の反発で差額を返金する騒動まであった。

MNPで奨励金をもらうと、最低1年以上契約が拘束される約定加入となるが、代理店によっては「(その)違約金を代わりに払います」という張り紙まで出している。


 移動通信キャリアが研究開発に使う費用より、マーケティング費用の方が多いことから移動通信サービスの質低下を招くのではないかという指摘があり、2008年3月に解禁された奨励金をまた規制すべきという意見も出始めた。


 国会では奨励金の差等支給が問題になった。キャリアごとにA社からMNPした20代の場合は20万ウォン、B社からの移動でスマートフォンに加入した場合は55万ウォン、C社からのMNPは10万ウォン、という具合に、年齢や加入していたキャリアに応じて支給額を変えていたことが判明した。


 通信政策を担当する放送通信委員会では、奨励金を支給するならば平等に、全加入者にそのメリットが行き渡るようにとガイドラインを制定した。併せて差等支給をなくすため、奨励金がどれぐらいもらえるのか、加入者にはっきりと情報を公開することも求められている。通信キャリアが放送通信委員会に提出する営業報告書の会計基準を変え、マーケティング費用の明細を販売営業と顧客サービスに分けて細かく出費の内訳を明記するようにした。


 移動通信キャリアもMNPと奨励金による過剰な競争に負担を感じている。それでも市場シェアを守るためには仕方ないとしている。奨励金競争は結局端末買い替えを促進する競争でしかない。キャリアのARPUは日本ほど減っていないからだ。


 5~6年前までも韓国のキャリアは、毎月のように「世界初」のモバイル放送や、モバイルホームネットワーク、モバイルヘルスケア、モバイルペイメントなどを登場させていた。それが今ではスマートフォンの話題ぐらいしかない。奨励金競争よりも、移動通信ならではの面白いサービスで顧客をつかまえて離さない競争をしてほしい。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年1月21日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100113/1022154/

アプリ配信サイトの利用デバイスが増え競争が始まる

iPhoneによって触発された韓国のスマートフォン競争により、直近2カ月間でスマートフォンが46万台近く売れた。

 これは携帯電話加入者の1%が動いたことになる。KTのiPhone契約数は1カ月ちょっとで24万件、サムスン電子のT-OMNIA2は2カ月ちょっとで22万件を超えたという。韓国で20万台以上売れたスマートフォンはiPhoneとT-OMNIA2が初めてある。既に移動通信キャリアには30万台を納品しているので、1月中に30万台販売突破可能性も高い。


 スマートフォンはモバイルインターネットを頻繁に使う会社員や若い学生向けと思われていたが、韓国ではファッションの一部として裕福層の主婦の間でも人気が高いことから、予想を上回る売れ行きとなっている。もちろん奨励金競争により端末価格が安くなったことも影響している。


 サムスン電子はiPhoneがここまで売れるとは思わなかったという反応を見せている。韓国のマスコミは、米国での展示会「CES 2010」の記者懇談会での発言を引用し、「サムスン電子はiPhoneが韓国で爆発的な人気を得ていることを衝撃的なこととして受け止めている」「iPhoneはサムスン電子の競争力をテストした製品」といった記事を大々的に報道している。


 韓国の携帯電話端末市場の約50%、世界市場でもシェア2位のサムスン電子であるが、世界市場のスマートフォンシェアはノキアやアップルのiPhone、リサーチ・イン・モーションのBlackBerry、HTCが上位を占めている。サムスン電子やLG電子は2009年秋ごろからスマートフォンのラインアップ強化をしきりに発表している。サムスンはアプリ配信サイト「Samsung Apps(APP Store)」に続いて「BADA」というモバイルOSも発表している。


 韓国勢は携帯電話やスマートフォンだけの競争では勝ち目がないと見たのか、家電でも世界市場の上位にある点をいかしてスマートフォン、パソコン、MID(モバイルインターネットデバイス、スマートフォンとネットブックの間にある携帯型端末)、テレビ、プリンター、DVDプレーヤー、デジタルカメラなどで共通して使えるアプリ配信サイトに力を入れている。一度コンテンツを購入すれば、スマートフォンからもテレビからでも利用可能になる。スマートフォンにインストールした天気情報、交通案内、ゲームなどがテレビと連動してリモコンで使えるようになる。コンテンツを確保するため、オンライン映画レンタル事業者やオンラインゲーム、動画投稿サイトとの提携も強化している。

 CES 2010では3Dやブロードバンド対応のテレビ、スマートフォンなどが続々と展示されたが、端末機能そのものは大きな差がなくなりつつある。いつものことだが、デザイン、ユーザーインターフェース、アプリケーションといったユーザー向け利便性の勝負になるしかない。


  CES 2010の基調演説でも、モバイルインターネットが各種端末に搭載され、端末間の連結性や機能の融合がより一層強まることがテーマであった。このような現象は人々の生活に影響を与え、エンターテインメント分野のビジネスチャンスを広げると期待されている。


 韓国では民放のSBSが、自社番組の宣伝部隊として、ドラマごとに動画投稿をしてくれるユーザーを募集している。ユーザーがドラマの映像を編集し、動画投稿サイトやBlogに掲載してドラマの話題性を高めることが、視聴率を高め本編VODの有料販売も増加させたことから、公式に宣伝部隊を募集するようになった。


 このように作られた動画がパソコンだけでなくスマートフォンや家電からも利用されることで、より高い宣伝効果を得られると見込んでいる。他の放送局もユーザーが自由に編集していい動画を特別に公開するようになった。


 どんなデバイスからも利用できるアプリ配信サイトの登場は、コンテンツホルダーの著作権管理の変化によって相乗効果を発揮できるものと見られる。2010年もスマートフォン関連のニュースで盛り上がりそうだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年1月14日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100113/1022182/

韓国の放送広告、国の独占にようやく終止符

韓国では今年、地上波テレビ・ラジオ放送向け広告を30年近く独占してきた国営広告代理店制度が改定され、競争制度が導入される。地上波テレビ放送をIPネットワーク経由でリアルタイム配信するIPTVを皮切りに始まった韓国の「通信と放送の融合」は、放送産業にも大きな変革をもたらそうとしている。

 韓国では、地上波放送39社(テレビ14社、ラジオ25社)、地上波DMB(韓国版ワンセグ)16チャンネルの広告営業のすべてを、1981年に設立された国営の韓国放送広告公社が独占してきた。民間の広告代理店は主に広告制作代理店であり、韓国放送広告公社を経由してしか広告営業をすることができない。


 そのせいで、韓国の大手広告代理店はサムスン、SK、ロッテなど大手企業のいわゆるインハウスが多く、グループ会社の広告を制作してそれを元に韓国放送広告公社と交渉する。韓国放送広告公社は放送局の広告営業代理、民間の広告代理店は広告主の代理、という関係になる。



■「言論統廃合」の産物









韓国放送広告公社のホームページ


 韓国放送広告公社の2008年の売上高は前年比8.7%減の2兆1855億ウォン(テレビ86.9%、ラジオ12.7%、地上波DMB0.4%)。放送局別のシェアはMBC(文化放送)が40.8%、KBS(韓国放送公社、KBS1とKBS2の計)が5.6%、SBS(ソウル放送)が22.0%で、地域民放は7.8%、宗教放送は3.8%となっている。


 韓国放送広告公社はもともと「国家財産である電波を使う放送が広告主の影響を受けてはならない」という建前から設立された。しかし、実際には80年に発足した全斗煥政権による「言論統廃合」の産物であり、国が放送を掌握するために作られた制度と批判されてきた。そのため、08年11月に憲法裁判所が放送広告営業の独占は違憲であるとの判断を下し、2009年末までに関連法が改正されることになった。




 その背景には、放送業界を取り巻く環境の変化もあっただろう。80年の言論統廃合により新聞と放送局の兼営が禁止されたが、08年には一連のメディア関連法改正により新聞・放送の兼営が解禁された。IPTVやモバイル放送などの新技術媒体の広告に対応するためにも、国が広告を握り分配するような制度を見直し、メディアの競争力を高める必要があるという判断が働いたのである。



■公営放送も広告収入モデル


 現時点ではまだ参入方法を検討中の段階だが、「公営1社、民間1社」もしくは「公営1社、民間複数」にして、公営放送は公営の広告代理店が、民放は民間の広告代理店が担当することになりそうだ。広告市場の全面開放は、メディアを変えるに等しい影響を放送産業に及ぼすのは間違いなく、業界内に賛否両論がうず巻いているためだ。


 放送局は一般に、受信料を徴収する国営・公営放送と、広告収入で運営する民放に大別できるが、韓国では公営放送でも広告を流す。首都圏の場合、SBSは民放、EBS(韓国教育放送公社)は公営放送と区分が明確だが、MBCとKBSは公営ながら広告収入を得ている。


 MBCの株式は、政府機関である放送文化振興会が70%、朴正煕(パク・ジョンヒ)元大統領が設立した正修奨学会が30%を保有するため公営放送に分類されるが、広告が収益源の民放である。KBSもKBS1は94年に受信料を電気料金と併せて徴収する方式を導入する代わりに広告をなくしたが、KBS2は民放と同じである。







 地上波放送の広告営業が競争体制になれば、広告料もその分値上がりするだろう。韓国放送広告公社の報告書によると、放送広告市場の競争体制により放送局の広告収入は4年間で70%増加すると予測している。しかし、広告が増えるチャンネルもあれば、減ってしまうチャンネルも出てくる。


 業界内では、MBCやSBSの寡占が強まるとの懸念が出ている。一方、これまで韓国放送広告公社が広告を回すよう誘導していた宗教放送や地域放送は収入減に陥る可能性がある。KBSは月2500ウォンの受信料を月6060ウォンに引き上げる一方で、KBS2の広告を廃止するとしているが、視聴者の理解を得られるかどうかは疑問だ。放送・通信産業を所管する政府の放送通信委員会は10年に新規放送事業者を認可する予定で、放送局はますます視聴率競争に駆り立てられることになる。





■ソフトパワー強化に期待


 広告制度の見直しに対しては、「広告主に気を使って公正な報道ができなくなる」と反対する国会議員もいたが、韓国が他の国と同じように普通になっていく一つの段階に過ぎない。放送局がこれを前向きに生かすには、視聴率至上主義に走ることなく、コンテンツの制作力を地道に強化していく努力が欠かせない。


 韓国のドラマは「韓流」としてアジアと中東にブームを巻き起こした。ドラマが放映された地域では韓国に対するイメージがよくなり、韓国製品の売れ行きが大幅に伸びているという。ハードウエアの組み立て製造には強くてもソフトパワーがないと指摘され続けた韓国がこれを契機にさらにコンテンツの制作力を高め、韓国産コンテンツの輸出が増えることに期待したい。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2010年1月4日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000004012010

パケット課金に不正疑惑、政府が携帯事業者を調査

iPhone発売をきっかけに、モバイルインターネットの利用が急激に伸びている韓国。スマートフォン向けパケット定額料金制も続々登場しているが、スマートフォンでない端末のユーザーはまだほとんどが従量制、使ったパケット分だけ料金を払っている。

 韓国では元々モバイルインターネットはネット利用時間に応じて課金するCircuit方式であったが、2001年モバイルインターネット料金値下げを目的にパケット料金制度に変更された。しかし、パケット料金制度はユーザーから見て料金をはっきり計算しにくく、逆に料金が高くなったことが問題として指摘され続けてきた。


 韓国ではパケット使い放題の定額料金制がまだ始まったばかりである。今までの使い放題料金制は期間限定のサービスだった。新規の端末やコンテンツの開始に合わせて3~6カ月だけ使い放題にし、その後からはパケット量に応じて段差をつけた従量制課金になる。使い放題と宣伝する料金制度でもよく見ると最初の6カ月だけで、その後は1GBまで使い放題になるか、料金が値上げされてきた。


 パケット料金は基本料に応じて差があり、0.5KB当り0.45~5.2ウォン(約0.035~0.4円)。テキストなのか画像・動画なのか、公式サイトなのか、インターネットに直接アクセスするのかによって適用されるパケット代が全部違う。最近は割引料金制度がとても複雑になっているので、自分が使ったパケットと請求額を比べてみても訳がわからないという状態。もしかして、パケット料金をごまかしているのではないか、間違って割引を適用していないのではないか、パケット代をめぐる苦情は増えるばかりである。そこで、政府の調査が始まった。


 韓国政府省庁である放送通信委員会は、移動通信キャリア3社の不当課金疑惑を調査すると発表した。市場シェア50.5%のSKテレコムの場合、料金制度は政府の認可を受ける必要がある。他のキャリアもこれに応じて少し安く料金を設定するので、いまさら移動通信の料金そのものを調査するということではない。きちんと告知した通りの料金を課金しているのか、パケットの水増しはないのか、といったことを調査するという。政府の課金調査は移動通信サービスが始まって以来であるため、通信業界では調査結果に敏感になっている。政府系シンクタンクと一緒に移動通信キャリアのログファイル分析による実際のデータ量の測定も始める。

さらに移動通信キャリアは、この調査をきっかけにまたもや政府から料金値下げの圧力をかけられるのではないか緊張している様子だ。


 2008年末から09年にかけて、政府の要請により移動通信サービスの料金の値下げが続いたからだ。大統領の「家計の通信料金負担20%減」の公約を守るため、移動通信キャリアは基本料金・加入費(事務手数料)・SMS・通話料金を20%ほど値下げし、さらに加入者間無料通話、長期加入者割引、青少年割引、低所得者割引、バンドル割引(固定通信・移動通信・VoIP・IPTV・固定電話など同じ系列会社の複数のサービスを同時に利用すると基本料と利用料が最大50%まで割引される)など、数え切れないほどの割引制度を始めた。


 しかし今回の調査は、移動通信キャリアの悪さを裁くというより、ユーザーに安心してモバイルインターネットを使ってもらいたいという目的の方が大きいように見える。1999年携帯電話からモバイルコンテンツサービスを利用できるようになったその日から、10年以上も高い高いといわれ続けてきたモバイルインターネット料金の構造を、実際のデータ量と費用を用いて分析することで合理的な料金を算定し、ユーザーに納得して使ってもらいたいということであろう。


 携帯電話の加入者数は人口の96%、実に4700万人を超えたのに、パケット定額料金に加入しているのはキャリア3社合わせて410万人ほどにすぎない。ほとんどの人が携帯電話からインターネットなんて料金が怖くて使えないとおびえているが、そうではないということを証明したいのだろう。スマートフォンの本格的な普及前に、OECD加盟国の中で最も高いと不満の種になっているモバイルインターネット料金体制をはっきりさせる必要はある。


 全世界で固定通信から移動通信へトラフィックが流れ、ネットの利用形態は早いスピードで変化している。色んな産業分野で携帯端末と移動通信の融合により新しい市場が生まれ、経済活性化に貢献している。これをさらに活気付けるためには、何よりもモバイルインターネットを普及させないといけない。韓国の場合は、焦りから政府が背中を押しすぎているような気がする。市場全体の競争によるものではない政府の圧力による料金値下げやビジネスモデルの変化がどこかで不具合を起こすのではないか心配だ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091223/1021752/

新型インフルに花より男子――検索キーワードで2009年を読み解く

 韓国の2大検索ポータルサイト「NAVER」と「DAUM」は、2009年にもっとも多く検索されたキーワードを発表した。


 NAVERによると、韓国では毎日ポータルサイトを経由して約20億4000万件の検索が行われているそうだ。これはNAVERのサービスが始まった1999年に比べると約200倍も増加した数字だという。テレビのCMでも「ネットで検索!」というナレーションや字幕が必ずといっていいほど入っているだけに、ネットでの検索は重要な情報伝達窓口になっている。


 2009年の検索キーワード1位は「新型インフルエンザ」。韓国でも12月15日時点で新型インフルエンザと確診された死者が117人。中には有名芸能人の子供もいた。最初は政府のワクチン確保が遅れ大騒ぎになり休校が相次いだものの、今は全国の小中高校で予防接種が実施され落ち着きを見せ始めている。


 2位は世界を驚かせた「ノ・ムヒョン前大統領の死去」。後を追うかのように亡くなった「金大中元大統領の死去」も6位に入った。


 3位は大ヒットドラマ韓国版「花より男子」。10から20代の女性の間でシンドロームを巻き起こした。「花より男子」に登場した衣装やアクセサリーが飛ぶように売れ、主人公の別荘があるという設定で紹介された南太平洋のニューカレドニアが憧れのハネムーン名所になった。このドラマの主人公のイ・ミンホをはじめF4は今や大物スター扱いされるようになった。


 2008年キーワード1位だったフィギュアスケートの「キム・ヨナ」選手は、2009年4位となった。競技だけに限らず「国民妖精」として、高麗大学入学、メイクやファッション、出演する番組、CM情報、収入に至るまで、彼女に関するありとあらゆることが話題だった。キム・ヨナ選手は3年連続でキーワードベスト10に入っている。


 5位は振り付けまで大ヒットしたアイドルグループ「少女時代」の「Gee」。着メロ、着うた、デジタルダウンロードで売り上げ1位となった。どネットでは警察や軍人、男子校学生が「Gee」の振り付けを真似る動画が投稿され、大いににぎわった。

2009年の音楽界は少女グループとワイルドな男性グループが人気を二分した。女性アイドルグループは「2NE1」、「KARA」、「Afterschool」などが音楽チャートを席巻した。健康的でセクシーな魅力持つアイドルが増え、「クルボクジ」(はちみつを塗ったようになめらかで弾力のある太もも)という言葉まで流行ったほど。


 日本の草食系男子のように、男性グループも2009年の春までは10代の美少年グループが人気を集めたが、後半は「ジムスンナム」といって、野性的な男性グループに人気が集中した。


 その他には、韓国の伝統酒「マッコリ」の検索頻度が例年の2.7倍に増え、順位も大幅上昇した。マッコリはにごり酒のことであるが、韓国の庶民的な伝統酒であるにもかかわらず、日本で先にブームになり、日本向けに色んな種類のマッコリが登場するようになってから、韓国でもマッコリの価値を見直す動きが出始めた。ソウルの繁華街、明洞のデパートでは、のり、キムチに続いてマッコリが売れているほど、人気が急上昇しているという。


 「プロ野球」も例年の2倍に上昇した。これはWBCで韓国チームが予想を上回る成績を見せたことで、野球応援の熱気がそのままプロ野球へ流れたからではないかと見られている。


 性別による検索キーワードの違いも分析されたが、面白いのは女性よりも男性の方が「ショッピング」というキーワードで検索していること。「ストレス」「憂鬱」を検索したのは女性の方が多かった。


 年齢別、地域別にも検索キーワードには差が出ているが、10代が他の世代よりもニュースに登場するキーワードを検索する頻度が高いというから驚いた。「北朝鮮」「大統領」「新型インフルエンザ」など。大学入試の小論文テーマになるので、受験勉強のためだとは思うが、これも意外な発見だった。


 季節によっても集中する検索キーワードがあり、年末年始になると「ダイエット」、「初夢」の検索が25%ほど増えるという。「来年こそはダイエット!」、「来年こそはキャリアアップ!」を夢見ながら、検索ばかりで終わってしまわないようにしないと!


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月17日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091216/1021558/