韓国の放送広告、国の独占にようやく終止符

韓国では今年、地上波テレビ・ラジオ放送向け広告を30年近く独占してきた国営広告代理店制度が改定され、競争制度が導入される。地上波テレビ放送をIPネットワーク経由でリアルタイム配信するIPTVを皮切りに始まった韓国の「通信と放送の融合」は、放送産業にも大きな変革をもたらそうとしている。

 韓国では、地上波放送39社(テレビ14社、ラジオ25社)、地上波DMB(韓国版ワンセグ)16チャンネルの広告営業のすべてを、1981年に設立された国営の韓国放送広告公社が独占してきた。民間の広告代理店は主に広告制作代理店であり、韓国放送広告公社を経由してしか広告営業をすることができない。


 そのせいで、韓国の大手広告代理店はサムスン、SK、ロッテなど大手企業のいわゆるインハウスが多く、グループ会社の広告を制作してそれを元に韓国放送広告公社と交渉する。韓国放送広告公社は放送局の広告営業代理、民間の広告代理店は広告主の代理、という関係になる。



■「言論統廃合」の産物









韓国放送広告公社のホームページ


 韓国放送広告公社の2008年の売上高は前年比8.7%減の2兆1855億ウォン(テレビ86.9%、ラジオ12.7%、地上波DMB0.4%)。放送局別のシェアはMBC(文化放送)が40.8%、KBS(韓国放送公社、KBS1とKBS2の計)が5.6%、SBS(ソウル放送)が22.0%で、地域民放は7.8%、宗教放送は3.8%となっている。


 韓国放送広告公社はもともと「国家財産である電波を使う放送が広告主の影響を受けてはならない」という建前から設立された。しかし、実際には80年に発足した全斗煥政権による「言論統廃合」の産物であり、国が放送を掌握するために作られた制度と批判されてきた。そのため、08年11月に憲法裁判所が放送広告営業の独占は違憲であるとの判断を下し、2009年末までに関連法が改正されることになった。




 その背景には、放送業界を取り巻く環境の変化もあっただろう。80年の言論統廃合により新聞と放送局の兼営が禁止されたが、08年には一連のメディア関連法改正により新聞・放送の兼営が解禁された。IPTVやモバイル放送などの新技術媒体の広告に対応するためにも、国が広告を握り分配するような制度を見直し、メディアの競争力を高める必要があるという判断が働いたのである。



■公営放送も広告収入モデル


 現時点ではまだ参入方法を検討中の段階だが、「公営1社、民間1社」もしくは「公営1社、民間複数」にして、公営放送は公営の広告代理店が、民放は民間の広告代理店が担当することになりそうだ。広告市場の全面開放は、メディアを変えるに等しい影響を放送産業に及ぼすのは間違いなく、業界内に賛否両論がうず巻いているためだ。


 放送局は一般に、受信料を徴収する国営・公営放送と、広告収入で運営する民放に大別できるが、韓国では公営放送でも広告を流す。首都圏の場合、SBSは民放、EBS(韓国教育放送公社)は公営放送と区分が明確だが、MBCとKBSは公営ながら広告収入を得ている。


 MBCの株式は、政府機関である放送文化振興会が70%、朴正煕(パク・ジョンヒ)元大統領が設立した正修奨学会が30%を保有するため公営放送に分類されるが、広告が収益源の民放である。KBSもKBS1は94年に受信料を電気料金と併せて徴収する方式を導入する代わりに広告をなくしたが、KBS2は民放と同じである。







 地上波放送の広告営業が競争体制になれば、広告料もその分値上がりするだろう。韓国放送広告公社の報告書によると、放送広告市場の競争体制により放送局の広告収入は4年間で70%増加すると予測している。しかし、広告が増えるチャンネルもあれば、減ってしまうチャンネルも出てくる。


 業界内では、MBCやSBSの寡占が強まるとの懸念が出ている。一方、これまで韓国放送広告公社が広告を回すよう誘導していた宗教放送や地域放送は収入減に陥る可能性がある。KBSは月2500ウォンの受信料を月6060ウォンに引き上げる一方で、KBS2の広告を廃止するとしているが、視聴者の理解を得られるかどうかは疑問だ。放送・通信産業を所管する政府の放送通信委員会は10年に新規放送事業者を認可する予定で、放送局はますます視聴率競争に駆り立てられることになる。





■ソフトパワー強化に期待


 広告制度の見直しに対しては、「広告主に気を使って公正な報道ができなくなる」と反対する国会議員もいたが、韓国が他の国と同じように普通になっていく一つの段階に過ぎない。放送局がこれを前向きに生かすには、視聴率至上主義に走ることなく、コンテンツの制作力を地道に強化していく努力が欠かせない。


 韓国のドラマは「韓流」としてアジアと中東にブームを巻き起こした。ドラマが放映された地域では韓国に対するイメージがよくなり、韓国製品の売れ行きが大幅に伸びているという。ハードウエアの組み立て製造には強くてもソフトパワーがないと指摘され続けた韓国がこれを契機にさらにコンテンツの制作力を高め、韓国産コンテンツの輸出が増えることに期待したい。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2010年1月4日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000004012010

パケット課金に不正疑惑、政府が携帯事業者を調査

iPhone発売をきっかけに、モバイルインターネットの利用が急激に伸びている韓国。スマートフォン向けパケット定額料金制も続々登場しているが、スマートフォンでない端末のユーザーはまだほとんどが従量制、使ったパケット分だけ料金を払っている。

 韓国では元々モバイルインターネットはネット利用時間に応じて課金するCircuit方式であったが、2001年モバイルインターネット料金値下げを目的にパケット料金制度に変更された。しかし、パケット料金制度はユーザーから見て料金をはっきり計算しにくく、逆に料金が高くなったことが問題として指摘され続けてきた。


 韓国ではパケット使い放題の定額料金制がまだ始まったばかりである。今までの使い放題料金制は期間限定のサービスだった。新規の端末やコンテンツの開始に合わせて3~6カ月だけ使い放題にし、その後からはパケット量に応じて段差をつけた従量制課金になる。使い放題と宣伝する料金制度でもよく見ると最初の6カ月だけで、その後は1GBまで使い放題になるか、料金が値上げされてきた。


 パケット料金は基本料に応じて差があり、0.5KB当り0.45~5.2ウォン(約0.035~0.4円)。テキストなのか画像・動画なのか、公式サイトなのか、インターネットに直接アクセスするのかによって適用されるパケット代が全部違う。最近は割引料金制度がとても複雑になっているので、自分が使ったパケットと請求額を比べてみても訳がわからないという状態。もしかして、パケット料金をごまかしているのではないか、間違って割引を適用していないのではないか、パケット代をめぐる苦情は増えるばかりである。そこで、政府の調査が始まった。


 韓国政府省庁である放送通信委員会は、移動通信キャリア3社の不当課金疑惑を調査すると発表した。市場シェア50.5%のSKテレコムの場合、料金制度は政府の認可を受ける必要がある。他のキャリアもこれに応じて少し安く料金を設定するので、いまさら移動通信の料金そのものを調査するということではない。きちんと告知した通りの料金を課金しているのか、パケットの水増しはないのか、といったことを調査するという。政府の課金調査は移動通信サービスが始まって以来であるため、通信業界では調査結果に敏感になっている。政府系シンクタンクと一緒に移動通信キャリアのログファイル分析による実際のデータ量の測定も始める。

さらに移動通信キャリアは、この調査をきっかけにまたもや政府から料金値下げの圧力をかけられるのではないか緊張している様子だ。


 2008年末から09年にかけて、政府の要請により移動通信サービスの料金の値下げが続いたからだ。大統領の「家計の通信料金負担20%減」の公約を守るため、移動通信キャリアは基本料金・加入費(事務手数料)・SMS・通話料金を20%ほど値下げし、さらに加入者間無料通話、長期加入者割引、青少年割引、低所得者割引、バンドル割引(固定通信・移動通信・VoIP・IPTV・固定電話など同じ系列会社の複数のサービスを同時に利用すると基本料と利用料が最大50%まで割引される)など、数え切れないほどの割引制度を始めた。


 しかし今回の調査は、移動通信キャリアの悪さを裁くというより、ユーザーに安心してモバイルインターネットを使ってもらいたいという目的の方が大きいように見える。1999年携帯電話からモバイルコンテンツサービスを利用できるようになったその日から、10年以上も高い高いといわれ続けてきたモバイルインターネット料金の構造を、実際のデータ量と費用を用いて分析することで合理的な料金を算定し、ユーザーに納得して使ってもらいたいということであろう。


 携帯電話の加入者数は人口の96%、実に4700万人を超えたのに、パケット定額料金に加入しているのはキャリア3社合わせて410万人ほどにすぎない。ほとんどの人が携帯電話からインターネットなんて料金が怖くて使えないとおびえているが、そうではないということを証明したいのだろう。スマートフォンの本格的な普及前に、OECD加盟国の中で最も高いと不満の種になっているモバイルインターネット料金体制をはっきりさせる必要はある。


 全世界で固定通信から移動通信へトラフィックが流れ、ネットの利用形態は早いスピードで変化している。色んな産業分野で携帯端末と移動通信の融合により新しい市場が生まれ、経済活性化に貢献している。これをさらに活気付けるためには、何よりもモバイルインターネットを普及させないといけない。韓国の場合は、焦りから政府が背中を押しすぎているような気がする。市場全体の競争によるものではない政府の圧力による料金値下げやビジネスモデルの変化がどこかで不具合を起こすのではないか心配だ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091223/1021752/

新型インフルに花より男子――検索キーワードで2009年を読み解く

 韓国の2大検索ポータルサイト「NAVER」と「DAUM」は、2009年にもっとも多く検索されたキーワードを発表した。


 NAVERによると、韓国では毎日ポータルサイトを経由して約20億4000万件の検索が行われているそうだ。これはNAVERのサービスが始まった1999年に比べると約200倍も増加した数字だという。テレビのCMでも「ネットで検索!」というナレーションや字幕が必ずといっていいほど入っているだけに、ネットでの検索は重要な情報伝達窓口になっている。


 2009年の検索キーワード1位は「新型インフルエンザ」。韓国でも12月15日時点で新型インフルエンザと確診された死者が117人。中には有名芸能人の子供もいた。最初は政府のワクチン確保が遅れ大騒ぎになり休校が相次いだものの、今は全国の小中高校で予防接種が実施され落ち着きを見せ始めている。


 2位は世界を驚かせた「ノ・ムヒョン前大統領の死去」。後を追うかのように亡くなった「金大中元大統領の死去」も6位に入った。


 3位は大ヒットドラマ韓国版「花より男子」。10から20代の女性の間でシンドロームを巻き起こした。「花より男子」に登場した衣装やアクセサリーが飛ぶように売れ、主人公の別荘があるという設定で紹介された南太平洋のニューカレドニアが憧れのハネムーン名所になった。このドラマの主人公のイ・ミンホをはじめF4は今や大物スター扱いされるようになった。


 2008年キーワード1位だったフィギュアスケートの「キム・ヨナ」選手は、2009年4位となった。競技だけに限らず「国民妖精」として、高麗大学入学、メイクやファッション、出演する番組、CM情報、収入に至るまで、彼女に関するありとあらゆることが話題だった。キム・ヨナ選手は3年連続でキーワードベスト10に入っている。


 5位は振り付けまで大ヒットしたアイドルグループ「少女時代」の「Gee」。着メロ、着うた、デジタルダウンロードで売り上げ1位となった。どネットでは警察や軍人、男子校学生が「Gee」の振り付けを真似る動画が投稿され、大いににぎわった。

2009年の音楽界は少女グループとワイルドな男性グループが人気を二分した。女性アイドルグループは「2NE1」、「KARA」、「Afterschool」などが音楽チャートを席巻した。健康的でセクシーな魅力持つアイドルが増え、「クルボクジ」(はちみつを塗ったようになめらかで弾力のある太もも)という言葉まで流行ったほど。


 日本の草食系男子のように、男性グループも2009年の春までは10代の美少年グループが人気を集めたが、後半は「ジムスンナム」といって、野性的な男性グループに人気が集中した。


 その他には、韓国の伝統酒「マッコリ」の検索頻度が例年の2.7倍に増え、順位も大幅上昇した。マッコリはにごり酒のことであるが、韓国の庶民的な伝統酒であるにもかかわらず、日本で先にブームになり、日本向けに色んな種類のマッコリが登場するようになってから、韓国でもマッコリの価値を見直す動きが出始めた。ソウルの繁華街、明洞のデパートでは、のり、キムチに続いてマッコリが売れているほど、人気が急上昇しているという。


 「プロ野球」も例年の2倍に上昇した。これはWBCで韓国チームが予想を上回る成績を見せたことで、野球応援の熱気がそのままプロ野球へ流れたからではないかと見られている。


 性別による検索キーワードの違いも分析されたが、面白いのは女性よりも男性の方が「ショッピング」というキーワードで検索していること。「ストレス」「憂鬱」を検索したのは女性の方が多かった。


 年齢別、地域別にも検索キーワードには差が出ているが、10代が他の世代よりもニュースに登場するキーワードを検索する頻度が高いというから驚いた。「北朝鮮」「大統領」「新型インフルエンザ」など。大学入試の小論文テーマになるので、受験勉強のためだとは思うが、これも意外な発見だった。


 季節によっても集中する検索キーワードがあり、年末年始になると「ダイエット」、「初夢」の検索が25%ほど増えるという。「来年こそはダイエット!」、「来年こそはキャリアアップ!」を夢見ながら、検索ばかりで終わってしまわないようにしないと!


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月17日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091216/1021558/

グーグルも郷に従う 韓国ポータル競争、第2ラウンドの舞台

検索サイト世界最大手の米グーグルは12月4日、韓国サイトのデザインを変えた。グーグルといえば検索だけに特化したシンプルなメーン画面が特徴だが、検索キーワードを入力する窓の下に、「人気トピック」「話題の人物」「人気ブログ」といった、韓国の他のポータルサイトのメーン画面にもあるメニューを追加した。これまでグーグルは世界各国で同じデザインの画面を通じてサービスを提供してきたが、韓国に限り、その世界共通のスタイルを捨てたのだ。






 



リニューアルされたグーグル韓国のサイト


 グーグルによると、韓国で市場調査をした際に、「検索結果の品質」には満足するが、「社会的イシューの把握」で満足できないという意見が多かったため、メーン画面を修正したという。グーグル側は「メーン画面変更は全世界で韓国語サイトだけ。広告のないさっぱりしたデザインと優秀な検索品質で、韓国ユーザーを満足させられることを期待している」と述べた。韓国サイトの訪問者数は11月27日の54万人から、12月4日には61万人に増加した。





■低迷するグーグルのシェア







 しかし韓国のネット業界は、グーグルの冒険に注目してはいるものの、「メーン画面のメニューを増やすぐらいではユーザーに受け入れられないだろう」と厳しく評価している。


 グーグル韓国の新しいメーン画面に表示される内容は、過去の検索結果からコンピューターが解析して決める。グーグルはこの方式について、「閲覧数に応じてトピックを表示しているので、より客観的な情報を提供できる」と主張する。


 これに対し韓国の他のポータルサイトでは、複数の編集者がブログやニュースのコメントなどに目を通して、なにをメーン画面に表示するのかを選別している。ニュースの見出し編集は禁止されているが、ブログの書き込みは見出しを編集したり構成を変えたりして、利用者の注目度を高めようと競い合っている。雑誌やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)サイトと提携し、話題のコンテンツを提供してもらってもいる。韓国の検索ポータルは検索機能の高度化だけでなく、コンテンツの制作と流通にも深く関わっているのだ。




 グーグルの努力にも関わらず、韓国の検索市場における同社のシェアは2%と低迷している。しかも、グーグルと過去3年間検索広告契約を結んでいた市場シェア2位のポータルサイト「DAUM」が、広告単価の高いオーバーチュアに乗り換えたことで、韓国国内での広告売り上げが大きく減った。グーグルの広告サービス「アドセンス」は個人ブログを中心に利用が広がっているものの、広告事業は順調とは言い難い状況である。



■韓国ポータルでNAVERが独走する理由


 韓国のパソコン向け検索ポータルでは、「NAVER」がシェア約7割と他を圧倒している。NAVERを運営するNHNの2009年7~9月期の売上高は、前年同期比13%増の3332億ウォン(約254億円)。内訳は52%が検索広告、32%がゲームだった。ライバルであるDAUMを運営するダウムコミュニケーションの同じ期の売上高は641億ウォン(約49億円)と、NHNの5分の1でしかない。DAUMも会員数ではNAVERに負けていないが、売上高でここまで引き離される背景には、検索データベース(DB)の差に加え、検索利用件数の違いがあるといわれている。


 「NAVERのサイトを見れば、ほしい情報が簡単に、見やすく手に入る」というユーザーの利便性を維持するため、NAVERは検索、口コミ、画像、動画、ブログ、SNS、Twitter(ツイッタ―)、ニュース、論文、専門資料など、ネット上に存在するあらゆる情報を1つの検索DBにまとめている。ホームページでは見つからない情報が、口コミサイトで見つかる可能性もあるからだ。その結果、NAVERは「レポートを書くときも、市場調査をするときも、まずNAVERに行けば大丈夫」というブランドを築いた。


■スマートフォン普及で変わる競争条件


 ここ数年、NAVERの独走を止められる対抗馬は存在しなかった。しかし携帯電話サービスが第4世代に進化して有線のインターネットと遜色ない通信速度になれば、ネット利用の中心はパソコン向けのポータルサイトから、外出先からでも利用できるモバイルポータルサイトに変わっていくだろう。


 韓国では今、大手企業やネット関連企業が社員に米アップルの「iPhone」や韓国サムスン電子製の「OMNIA」といった高機能携帯(スマートフォン)を支給し、インスタントメッセンジャーの活用などによって通信費の節約と業務効率化を同時に図っている。そうなれば当然、スマートフォンで使いやすいポータルサイトがより高い市場シェアを得ることになるだろう。


 グーグルは韓国のパソコン向け市場ではNAVERの壁を越えられなかった。しかし、グーグル製の基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」を搭載した携帯端末が2010年に発売されれば、その構図も変わるかもしれない。


 グーグルは12月初め、モバイル向けを中心とする新しい検索技術を相次ぎ発表した。携帯のカメラで撮影した画像で情報を検索する「Google Goggles」、ユーザーの位置情報によって検索結果の順位を変える技術、中国語や日本語などに多言語化されつつある音声検索などは、韓国でもネットユーザーの関心を集めた。韓国のポータルサイトも相当な検索技術を持っているが、ここまでくるとグーグルには敵わないかもしれない。



■移り気なユーザー、チャンスはどこにも


 NAVERやDAUMといった韓国の大手ポータルは、数年前から携帯端末向けのサービスも提供しているが、スマートフォンの普及とともに、携帯電話会社も子会社を通じてモバイルポータルの運営をてこ入れし始めた。


 iPhoneを販売する韓国の携帯電話最大手KTは、子会社KTHが運営する携帯ポータル「Paran」のスマートフォン専用サイトをリニューアルした。中小店舗向けに顧客管理ソフトなどをネット経由でモバイル端末に提供するSaaS(サース)にも力を入れている。


 SKテレコムの子会社で2300万人が加入する韓国最大のSNS「サイワールド」を運営するSKコミュニケーションズは、SNSを前面に出したモバイルポータルで勝負している。SKコミュニケーションズのポータルサイト「NATE」は検索シェアが5%台から7%台と、わずかながらも伸びている。







 NAVERも座して待つつもりはない。モバイル向けの地図情報サービスでは、「交通」「自転車」「不動産」「山登り」など目的に応じて異なる地図を提供。個人に焦点を当てて、「何でも揃って使いやすい検索ポータル」というブランドを守ろうとしている。地図からお店情報を検索して無料で電話できるサービスも始めた。自分の電話番号を残すとお店に連絡が届き、その番号宛てに電話がかかってくるのでユーザー側は電話代を払う必要がないという仕組みだ。




 韓国のネットユーザーは新しいもの好きだ。DAUMのSNSから「サイワールド」へ、そしてNAVERのブログへ移動していったように、少しでも便利なサイトがあれば、長年使っていたサイトでも未練なく捨てて他に移っていく。


 検索も同じだ。NAVERが今は圧倒的に強くても、モバイルが前提になればグーグルをはじめDAUM、NATE、PARAN、Yahooなど、どこにユーザーが移っていくかわからない。iPhoneを引き金に始まった新たな競争は、韓国のインターネット産業全体に広がっていきそうだ。

– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年12月14日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000010122009

iPhone登場がキャリア間の競争を一層激化させる

SKテレコム5、KTF3、LGテレコム2。韓国移動通信キャリアのシェアは、ここ数年0.1~0.2%以内での変化しかなく、固着状態が続いている。シェアの固定化は移動通信市場成長の停滞を招き、サービスの質を落とすとして懸念されていた。有線ブロードバンドのKTと移動通信キャリアKTFとの合併による有無線通信サービスの同時加入によるバンドル割引や、料金値下げによるシェアの動きも微動たるものだった。

 それがiPhoneの発売から10日が過ぎ、大きな転機を迎えることになった。韓国通信事業者連合会によると、12月1日~3日の3日間ナンバーポータビリティでキャリアを変更したユーザーが5万6768人。そのうちの57.4%がiPhoneを発売しているKTへ流れ込んだのだ。


 11月に比べ2倍のユーザーがKTに切り替えている。いつもは40%以上がSKテレコムへと流れていたのに。今までは最新端末はSKテレコムが真っ先に出して、それから時差をおいてKT、LGテレコムで発売されていたので、ほしい端末のために長期加入割引を諦めてでもSKテレコムに変える人が多かった。韓国の平均機種変更は1年ほどであるが、実際には20~30歳代のユーザーだと6カ月もしないうちにころころ変えるたり、2台持っている人も少なくない。


 端末補助金競争でナンバーポータビリティを利用する人が急増し、マーケティング費用による赤字が話題になったことは何度もあったが、ナンバーポータビリティのシェアが動いたのはこれが初めてで、韓国では大きなニュースとなっている。


 4700万件もある携帯電話加入件数全体でみると、1位のSKテレコムにとっては痛くもかゆくもない数字ではあるが、クリスマスから始まり2月の卒業式、3月の入学式まで続く春の商戦でiPhoneだけで少なくとも50万台は売れると見込まれているだけに、このまま見過ごすことはできないだろう。


 それに全社員にiPhoneやOMNIAといったスマートフォンを支給する企業も増えている。大手企業やネット企業、出版社では、業務の効率を高め、同時に最新の端末でモバイルライフをいち早く体験させることで、マーケティングや新規ビジネス企画につなげるためスマートフォンを使わせている。ライバル会社が全社員にスマートフォンを買い与えたというニュースが流れると、うちもスマートフォン体制に変えるべきではないかとそわそわしてしまうのだろうか。「全社員にスマートフォン支給」の見出しがついたプレスリリースが毎日のように届いている。KTもビジネスユースを促進するため、iPhoneから利用できる無線LANスポットを、現在の1万3000カ所から2010年には5万カ所に増やすとしている。

SKテレコムはiPhoneの代わりとなるAndroid搭載端末の発売を急ぐ一方で、データ通信もコンテンツ利用料も無料の「フリーゾーン」サービスに力を入れている。月1000円ほどの定額で、「フリーゾーン」にある4000件ほどのコンテンツを通信費や情報利用料を気にせず使えるサービスである。


 続いてクレジットカード会社への出資も決めた。SKテレコムはHANAカードの株49%を取得し、モバイルクレジットカードサービス、モバイルコマース、位置情報を利用したクーポン・広告を強化するとしている。2400万人のSKテレコム加入者と、SKグループのマイレージサービス会員3000万人をターゲットにしたモバイルクレジットカードサービスとの相乗効果を狙う。


 HANAカードの複数のカードをUSIMに保存しておいて、決済する瞬間、ポイントが貯まるとか割引特典があるとか、もっともメリットのあるカードを自動的に選んで決済する。ここが、ただUSIMにカード情報を保存するだけだった既存のモバイルクレジットカードサービスと違うところである。


 プラスチックカードを発行しないのでカード制作や配送の費用を節約できるという点と、クレジットカード代金はSKテレコムの料金と一緒に請求されるので、携帯電話を使うためにもクレジットカード代金を払わねばならず、カード代金の延滞を減らせる効果も期待できる。KTもクレジットカード会社を買収するのではと噂されている。スマートフォンに続いて移動通信キャリアの金融ビジネス競争が韓国をにぎわすだろう。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月10日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091210/1021230/

国中がiPhoneに夢中! スマートフォンの料金値下げ競争が勃発

ついに2009年11月28日、韓国でもiPhoneが発売された。韓国最大の通信会社KTから発売されただけにインパクトは大きい。

 予約販売初日だけで2万人が殺到し、1週間もしないうちに6万5000人がiPhoneを予約した。11月28日には予約者1000人を招待したイベントが開催された。


 韓国で最初にiPhoneを手に入れたのは26歳の男性で、27日から27時間待って第1号になった。KT社長とおそろいのiPhone Tシャツを着て、仲良く手をつないでイベント会場に入場。時の人となった。1年間の無料通話と約1万5000円のiPhone専用スピーカーが贈られた。




KTのキム・ウシク社長(左)と韓国iPhone第1号を手に入れたホ・ジンソクさん


 会場では待ちに待ったiPhoneを受け取り感激するユーザーで奇声歓声の大騒ぎとなった。地上波DMB(韓国のワンセグ)が利用できない、ユーザーがバッテリーを交換できないといったことが指摘されたが、そんなのは全然問題にならない様子だ。日本とは違い、タッチ式でメールを打ち込むのが不便というユーザーはいなかった。


 ブログなどに書き込まれたiPhone自慢をみると、「とにかく大満足!」といったユーザーばかりだった。会社で机の上にiPhoneを置いたら通りがかる人みんなに「どこで買って、いくらだったのか」と質問攻めにされた、女性社員らに囲まれ「見せて! 見せて!」とねだられたなどなど、iPhoneを手に入れてからの急モテぶりを伝えている。


 iPhoneが韓国でここまで注目される理由はやはり豊富なアプリと、2年約定のスマートフォン定額制に加入すると、料金の高いデータ通信ではなく無料でKTの無線LANを利用できるからだ。スマートフォン定額制は月3万5000ウォン(約2600円)から9万5000ウォン(約7200円)で、料金に応じて3GS 16GBまたは3G 8GBの端末を無料でもらえる。


 公式サイトしか利用できずデータ通信料金も高かったため、モバイルインターネットがなかなか普及しなかった韓国。使い放題のパケット定額制はLGテレコムにしかなく、他のキャリアは従量制だったためデータ通信料金のトラブルが絶えず、携帯電話からネットにアクセスするのが怖かったのもある。


これでやっと本当の意味でのスマートフォン生活が始まる。KTの無線LANは全国に1万3000のアクセスポイントがあり、その他にフリースポットもあるので、主な都市ではどこにいてもネットにつながる。iPhone向けのスマートフォン定額制も安くはないが、その代わり無線LANでメッセンジャーやSkypeを使えば携帯電話の通話料を低く抑えられる。


 既にiPodを使って無線LAN経由でメッセンジャーやモバイルVoIPを利用しているユーザーも多い。iPodの便利さに慣れてしまった人達はさらに進化したiPhoneが待ち遠しかったようだ。iPhoneの登場で24時間オンライン状態にしてつぶやきまくる、TwitterのようなモバイルSNSの利用も急増するだろう。


 この夏からキャリアとベンダーが力を入れているアプリ配信サイトのアクセスも急激に伸びた。実際にアプリを購入するユーザーはまだ少ないが、関心は高い。個人もアプリを制作して販売できるマーケットができたことで、キャリアごとに、さらにカテゴリー別にあったマスターCPを通さないと携帯電話向けにモバイルコンテンツをサービスできなかった閉鎖的構造を脱皮し、パソコン向けデジタルコンテンツ市場の10分の1に過ぎなかったモバイルコンテンツ市場も大きな成長が予想される。


 KTはiPhoneを無料で提供するため一人当たり約7万円の端末購入補助金を支給している。その他キャリアは市場シェアを守るため通常新規加入に限って一人当たり2万~3万円ほど支払われていた補助金を同じく7万円以上に増やし、データ通信や基本料も値下げしている。既存加入者の離脱を防ぐため、懸賞イベントや長期加入割引、加入者同士の無料通話時間も増やしている。


 安く買えるのは嬉しいが、iPhoneが販売される直前にサムスン電子や他のメーカーのスマートフォンを購入したユーザーはがっかり。補助金をもらっても3万円はした端末が、数日の差で無料になったからだ。


 一部では、iPhoneの端末そのものの性能は韓国産のスマートフォンより劣る、カメラの画素数も低い、画像も荒い、それなのに何故ここまでiPhoneを持ち上げて騒ぐのかと批判する意見もある。しかしiPhoneは韓国移動通信業界を変えるシンボルのような存在であると評価してもいいだろう。iPhone販売をきっかけに、韓国の移動通信産はネットワーク、コンテンツ、プラットフォーム、デバイス、料金競争、全てにおいて「開放」がテーマとなっている。MVNOで金融、医療、物流など、色んな産業の事業者らが移動通信を利用したサービスを準備している。


 今のところは、ネットブックを持ち歩かなくても自由にインターネットが使えるという解放感だけでもiPhone売れる理由は十分といえそうだ。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091203/1020927/

アダルト番組に転落したネットの個人放送局、原因は仮想貨幣

韓国では2007年にUCC(User Created Contents)といって動画投稿サイトの大ブームが巻き起こった。著作権侵害問題や動画を保存するためのサーバー投資額は膨大なのに広告以外に収益モデルがないといったことから、動画投稿サイトは減り、ポータルサイトのBlogに動画を載せる方法が増えた。その方が検索結果にも反映されやすいし、観てくれる人も多いからだ。

 韓国ではVOD方式の動画投稿だけでなく、超高速ネットワークインフラを活かしたサービスとして、リアルタイム放送であるインターネット個人放送局もかなり人気を集めている。


 インターネット個人放送局ではBJ(Broadcasting Jockey)と呼ばれる人が自分のホームページを持ち、その中に放送、チャット、掲示板などのメニューがある。配信は生放送で、自分のパソコンにWEBカメラをつけて放送する。


 個人放送はいわゆる“見えるラジオ”。BJがパーソナリティになり、音楽を流し、おしゃべりをする。BJの放送を観ながらチャットでリクエストをしたり、自分のエピソードを語ったりして盛り上がる。ドラマの時間になるとカメラで自分のテレビに映るドラマの画面を流しながら放送する人もいる。友達と一緒に家でドラマを観ながら盛り上がる感覚で個人放送を視聴しながら、チャットをする。BJはまとめ役といった役割だ。


 個人放送局の中でも人気なのは野球の中継。野球チームごとにチャンネルがある。テレビやラジオの中継をそのままネットに流すのではなく、BJたちはそれぞれの個人ページから趣向を凝らした放送をする。手書きの図で試合の解説をしたり、方言で中継したり、野球場から無線LANをつかって中継したり、個性を競い合う。同じチームを応援する友達と一緒に野球中継を観ながら盛り上がりたい人にはぴったりのコンテンツである。

個人放送局のBJは、初期の頃は男性が多く、ニュース番組を流したり、受験勉強のための数学を教えたり、自分の才能を活かした放送をすることで、有名になるための足がかりをつかもうとした人が集まった。

 サイトの会員になれば誰でもBJになれるが、放送を見てくれるファンの人数によってベストBJに昇格し、ファンからサイバーマネーをプレゼントされそれを現金に換金できるようになる。


 この換金制度が個人放送局を大きく変えた。今はBJのほとんどが20歳代の女性で、セクシーな服を着てカメラの前に座っている。カメラの前で歌に合わせて踊ったり、食事を取ったり、自分の日常を公開するような感じの放送をしている。視聴者は30~40歳代の男性が多いという。



若い女性の顔が並ぶ、インターネット個人放送局「Afreeca」のToday`s BJ人気ランキング

インターネット新聞が導入した投げ銭方式の原稿料と同じように、ユーザーがユーザーへサイバーマネーをプレゼントできるようになってから、個人放送を利用して男性からサイバーマネーをもらい、お小遣いを稼ぎたい女性がどんどん集まるようになったからだ。今では本業よりも個人放送のサイバーマネーの収入の方が多いBJが登場している。

 個人放送は最大で500人しか同時接続できないが、累積視聴者数450万人を超えた人気BJも登場した。このBJは年収が数千万円にも上るほどの人気ぶりで、個人放送局サイト側がマネージャーになって特別管理をしているほど(BJが儲かれば20%の手数料を取るサイト側も潤うから)。

「Afreeca」というインターネット個人放送局では、ユーザーがBJへ「ビョルプンソン(星風船)」という名前のサイバーマネーをプレゼントできる。買うときは1個100ウォンで、BJが換金するときは1個80ウォンになる。サイト側は1個20ウォンを手数料として徴収するのだ。1回の換金額が25万ウォン(約1万8000円)を超えると、所得税と住民税で4.4%が徴収される。

 ビョルプンソンを送るファンにも特典はある。TOP5になると入場人数が制限されている場合でもいつもで該当放送が観られて、BJとより親密な会話ができる専用掲示板を利用できる。


 ところが、ビョルプンソンは最低500個以上から換金できて、ベストBJとしてある程度ファンを抱えた人でないと換金してもらえない仕組みになっている。さらにビョルプンソンの有効期間は受け取った日から3年。3年以内に500個集められないと、全額サイト側のものになる。つねに新しい個人放送局が生まれては消えていくので、換金されないままのビョルプンソンも膨大な額になるはずだ。


 中にはビョルプンソン500個くれたら服を脱ぐ、というように露骨にサイバーマネーを要求するケースもあり、素人のアダルト放送になりかけている。2008年7月にはBJの女性が素っ裸になるという騒動もあった。運営者側は厳しく取り締まっているというが、サイバーマネーの20%は会社の手数料になるだけに、厳しく取り締まらない方が儲かる。


 日本では女の子のキャラクターと恋愛ごっこができるシミュレーションゲームが人気を集めているようだが、韓国の個人放送はそれを生身の人間とできるのに近い感覚かもしれない。


 サイバーマネーを稼ぐためにどんどん過激化している個人放送。やっぱりお金になるのはアダルトしかないという定説を証明する事例になってしまうのかと思うと残念である。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年11月25日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091124/1020682/

Googleでさえも苦戦、米国発ネットサービスが普及しない理由

またもや海外の有名サイトが韓国市場に定着できず撤退することになった。

 3Dバーチャルリアリティのコミュニティサービスとしてアメリカや日本で話題を集めた「Second Life」。日本では関連本もたくさん出版され、企業のSecond Lifeの中に店舗を作ったりしているようだが、韓国では話題にはなったものの、反応はよくなかった。どうしても利用したい気持ちになれない顔が怖すぎるアバター、スムーズに動かない3Dなど、一体Second Lifeのどこがいいのかよく分からないという反応がほとんどだった。


 Second Lifeの韓国撤退記事のコメント欄には、「Second Lifeって何ですか?」、「この記事を見て初めて韓国語サービスをしていることに気付きました」、「まだ潰れてなかったんですね」といった書き込みがあり、韓国内でどんな状況だったのかを物語っている。


 それでも運営会社リンデンラボは、2007年10月韓国のゲーム会社と会社を設立して韓国語サービスを始めた。結局ユーザーは増えず、韓国のパートナーだったゲーム会社も再契約しない方針を決めた。現在Second Lifeの韓国語サービスを担当した「セラコリア」社は宙に浮いた状態で、独自で3Dバーチャルリアリティサービスを展開するとしている。


 米国を中心にヒットしたインターネットサービスのうち韓国で失敗したのは、「My Space」の方が先立った。My Spaceなんて世界で2億人のユーザーがいるのに、韓国では2400万人の会員を保有した韓国産SNS「Cyworld」には勝てず、たった3カ月でサービスを中断し撤退してしまった。世界検索市場の6割を占めているというGoogleも韓国ではNAVER、DAUM、NATEの3大検索ポータルサイトを相手に苦戦している。韓国のネットユーザーは独特だから、ブランドパワーだけを信じて韓国のネットユーザーの好みを反映しなかったから、などなどの理由が挙げられている。

しかし、それは韓国だけが特別だから、というより、やっぱり他の国でサービスをすること自体とても難しいことなのだ。インターネットは国境がない、市場はグローバル化している、といわれても、やっぱりそれぞれ国民性があり、趣向があり、その国の人同士でしか分かち合えない何かがあるのだ。

 韓国のインターネットサービス韓国では大人気の「Cyworld」だって米国や台湾では失敗し、帰ってきた。ポータルサイトのNAVERも日本に進出してみたけどぱっとしないまま撤退し、2009年夏に改めて日本に再進出している。


 海外サービスはみんな韓国で失敗しているのかというとそうでもなく、YouTubeだけは健在だ。Twitterのユーザーも増えている。韓国の実名制度に反対し、匿名で利用できるからだ。またTwitterの場合は、つぶやきというサービスがまだなかった時に入ってきたので、市場独占効果があった。


 韓国ユーザーがほしがっているサービスとは何かを把握した結果成功した、とまでいうのは大げさであるが、進出したい国の実情を細かく把握したサービス設計をしているサイトは失敗しない。最初から無理に海外進出なんてしないのが、安全なのかもしれない。


 一方では、こんな心配もある。中国や日本のように人口の数が多いところでは無理をしてでもサービスを続けながら、人口が少ない韓国はだめならすぐパスしてしまう、あまり重要でない市場として見られているのではないかということだ。全てのインターネットサービスに義務付けられている実名制度もやっかいだし。


 韓国から次々に消えていく海外インターネットサービス。韓国のユーザーはレベルが高くて特別だから~なんて思わず、もっと世界と関わり合うことを考えた方がいいのではないだろうか。その方が韓国企業の海外進出にも役立つはずだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年11月18日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091118/1020514/

韓国でもようやく発売 iPhoneが火を付けた端末値引き競争

11月28日、ついに韓国通信最大手のKTが「iPhone」を発売する。すでに予約受付初日だけで2万5000件を超える申し込みが殺到し、KTは発売当日、予約購入者1000人を招待した大々的なショーを開催する。(趙章恩)

 世界中で話題になっていたiPhoneをようやく手に入れることができるという興奮からか、韓国では学校でも会社でもiPhoneのことしか話題にならないほどだ。ベンチャー企業の社長や著名人らも自分のブログにiPhoneを予約したと書き込み、「絶対手に入れるべきだ」と盛り上げている。


 KTのiPhone予約サイトには、日本のiPhoneを使ったことがあるというユーザーらが期待のコメントを寄せている。熱しやすく冷めやすい国民性はまだ健在で、「iPhoneバブル」が懸念されているほどである。


 もっともこれには韓国特有の事情もある。韓国のモバイルインターネットは閉鎖的で料金も高かった。世界の流れに逆行してデータ通信の利用はあまり伸びず、ARPU(一人当たり利用料)の8割が音声通話とIT強国とはとても呼べない環境にある。そこにいつでもどこでもネットにアクセスできてアプリケーションも豊富なiPhoneが登場すれば、モバイルインターネットの普及に火を付ける可能性があるからだ。



「iPhone」発売を告知するKTのサイト画面


■2年契約で16GBモデルが無料に


 KTのiPhoneは3GS32GB、3GS16GB、3G8GBの3種類で、端末の出荷価格は32GBが94万6000ウォン(約7万5600円)、16GBが81万4000ウォン、8GBが68万2000ウォン。ただし、iPhone用に新設した2年契約のスマートフォン料金プランに加入すると、端末購入補助金で安く買える。


 KTがユーザーへ支給する端末購入補助金は「i-スリム」というプランが41万8000ウォン、「i-ライト」が55万ウォン、「i-ミディアム」が68万2000ウォン、「i-プレミアム」が81万4000ウォンとなっている。最も高い料金プランであるi-プレミアムは端末補助金と3GS16GBの端末価格が同額となっており、これに2年契約で加入すれば端末が無料で手に入る計算だ。


 ちなみに、端末購入補助金はキャリアが加入者へ端末を安く購入できるように支給する補助金のことで、これとは別に販売店向けの販売奨励金がある。2Gの端末であれば、代理店が販売奨励金を原資に端末価格を割り引くため、100ウォン端末(約8円)、1000ウォン端末といった安い端末が出回っている。
 
KTのスマートフォン料金プランでは、毎月の無料通話分や無料データ通信のほかに、KTが全国1万3000カ所に展開する公衆無線LANスポット「NESPOTZONE」からiPhoneを使ってインターネットにアクセスできるようになっている(無線LANゾーンから離れると3 Gのデータ通信に自動で切り替わるとKTは注意を呼びかけている)。



KTのiPhone向けスマートフォン料金プラン(付加価値税10%を除く)





■サムスン「OMNIA2」を対抗値下げ


 当然のことながら、このiPhone人気は他の携帯キャリアの大きな脅威となっている。携帯キャリア最大手のSKテレコムはさっそく、サムスン電子の最新スマートフォン「OMNIA2」をiPhoneと同じ料金設定で販売することにした。


 サムスン電子のOMNIA2は10月から販売されており、端末価格は8GBが 96万8000ウォン。SKテレコムの2年契約のスマートフォン料金プランに加入すると計70万ウォンほどの端末補助金が適用になり22万4000ウォンで買うことができた。これを一気に値下げしてiPhoneと同じく端末を実質ゼロウォンにする料金プランに改めるという。



高い料金プランほど端末購入補助金が多く支給される(KTのサイト画面)


■政府の意向に反する補助金競争が過熱


 しかし、端末購入補助金によるこうした値引き競争は、韓国政府がもともと望んでいた方向ではない。政府は補助金を減らす代わりにデータ通信や基本料を値下げして、より多くの加入者がメリットを感じられる料金制度をめざしてきた。例えば、LGテレコムは端末補助金の代わりに、18カ月以上の長期契約ユーザーの月額利用料金を11~25%割引する制度を導入している。


 キャリアは1年以上の長期契約を対象に約定期間に応じて補助金を支給することができるが、代わりにすべての端末とすべての加入者に同一金額を適用しなければならない。特定の端末だけとか、新規加入に限定するといった方法では、同じキャリアに長期間加入しているユーザーにメリットがないからだ。長期加入者もメリットを感じられる平等な補助金であれば制限しないというのが政府のこのところの方針である。


 その結果、キャリア同士の補助金競争も下火となっていたのだが、iPhone発売ですっかり台なしになった。モバイルインターネットの利用増加でコンテンツ産業を活性化するといったビジョンはどこへやら、目先の販売競争のための補助金がiPhoneによって以前より過激になった。スマートフォン競争をしているKTとSKテレコムはもちろん、LGテレコムも参戦して端末補助金を吊り上げている。





■アプリストアやSNSは置き去り?


 KTはiPhoneの補助金に相当する金額を他の端末購入者にも同じように支給し、既存加入者の端末買い替え時にも割引をしなければならない。KTとSKテレコムだけで4000万人近い加入者に1人40万~80万ウォンを支援するという計算になる。


 KTは携帯キャリア2位のKTFと今年合併し、有無線ともにシェア1位をめざしている。一方、携帯シェア1位のSKテレコムは有線ブロードバンドでシェア2位のSKブロードバンドを抱えており、ここでiPhoneに押されてしまっては4Gとスマートフォン時代のリーダーになれないと踏ん張っている。


 しかし、このまま補助金競争が続けば、売り上げは伸びても販売費用がかさんで利益に響くのは明らかだ。補助金競争に終止符を打たないと、アプリケーション開発や新規サービスへの投資を削るしかなく、長期計画による持続可能な成長は難しくなるだろう。


 KTもSKテレコムも、グーグルの携帯OS「Android(アンドロイド)」を搭載した端末を年内に発売すべく開発を急いでいる。Android端末も同じように補助金で無料となる見込みだ。質の高い端末を安く買えるのはいいことだが、モバイルインターネットの利用を支えるアプリストアやモバイルSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の強化を忘れると、また世界に置き去りにされることになる。




– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年11月27日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000026112009 

iPhone発売にサムスン独自OS 韓国モバイル市場が変わる

いよいよ韓国でもアップルの「iPhone」が発売されることになった。2010年春にはグーグルの携帯プラットフォーム「Android(アンドロイド)」を搭載する端末も発売される。

 韓国でiPhoneは「来月フォン」というニックネームをつけられてしまった。「来月には出る」という報道が何度も繰り返されたせいだ。携帯キャリアのSKテレコムとKTの競争が激しく両方から出るのではないかとみられていたが、ひとまずKTから発売されることに決まった。




サムスン電子「OMNIA」シリーズの新機種


■今秋商戦はiPhoneシフト


 韓国の携帯電話メーカーはすでに昨年から、iPhone対策としてタッチパネル端末を次々と投入している。いよいよiPhoneが発売されることになった今秋の新機種は、すべてがスマートフォンというほどのiPhoneシフトである。


 サムスン電子は年末商戦に向けた新モデルとしてスマートフォン「OMNIA」シリーズ5機種を一気に発売した。さらに2010年を「スマートフォン元年」と位置付け、新製品を09年の20機種から倍増させるという。09年10月のサムスン電子の韓国内でのシェアはタッチパネル端末の好調で55.8%にまで達した。


 一方のLGエレクトロニクスも、副社長をリーダーとするスマートフォン担当事業部を新設するなど追い上げに必死だ。「最大のライバルはノキアではなくアップル」と述べ、世界市場に向けてスマートフォンで勝負をかける姿勢を見せる。09年には5機種、10年には10機種のスマートフォンを発売するという。



■キャリア系も端末製造に再参入


 こうしたなか、韓国最大キャリアであるSKテレコムの親会社SKグループもスマートフォン製造に乗り出した。SKグループは4年前に系列の携帯電話端末製造会社をパンテックに売却したのだが、スマートフォン市場の拡大をみて09年に再参入した。


 「W」というシリーズ名が付けられたSKのスマートフォンは、携帯電話からSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログを利用したい人向けに特化している。SKグループのSNS「Cyworld」や主なブログサイトに写真、動画、メモなどを簡単に転送できるようにした。


 韓国の携帯電話からアクセスするモバイルインターネットは閉鎖的なネットワークで、キャリアのネットワークを出て勝手サイトにアクセスすることができないようになっている。WはSKテレコムのネットワークを経由せず直接ブログにアクセスできるという点が画期的で、グループ会社ならではの連携策といえる。



SKテレコムの「W」


■サムスンが独自プラットフォーム


 調査会社IDCによると、09年7~9月の世界のスマートフォン出荷台数は前年同期比4.2%増の4330万台で過去最高を記録したという。


 メーカー別シェアは、フィンランドのノキアが首位で37.9%、カナダのRIMが19.0%で2位、アップルが17.1%で3位。携帯電話世界シェアで2位のサムスン電子、3位のLGエレクトロニクスはともに圏外だ。成長が見込まれるスマートフォン市場での地盤固めは急務である。



サムスン電子のAndroid端末「MOMENT」

海外勢では米モトローラ、英ソニー・エリクソンがAndroid を搭載したスマートフォンに力を入れている。サムスン電子も欧州に続き北米でAndroid端末「MOMENT」を発売したが、11月10日に新たに独自のオープンプラットフォームをリリースすることを明らかにした。

 今年12月に公開される予定の「bada」は韓国語で「海」の意味で、サムスン電子のモバイル端末の共通プラットフォームとして使うという。外部の開発者がアプリケーションを開発するためのソフトウエア開発キット(SKD)の提供も予定しており、10年にはアプリ販売ストア「Samsung Application Store」でbada向けアプリの配信を開始するとみられている。


 世界シェア2位の端末ベンダーであるだけに、サムスン電子のあらゆるモバイル端末で使えるようになれば、規模は大きい。サムスン電子が自社のプラットフォームとアプリストアを持つことで、世界のモバイル市場にまた新しい変化をもたらすであろう。





■韓国モバイル市場は大変革期に


 韓国のスマートフォン利用者はまだ73万人、移動通信端末の1.5%を占めるに過ぎないが、10年には3.7%に増加するという予測もある。スマートフォンとモバイルWiMAXや無線LANを組み合わせれば、通話料を安く抑えられるという期待も高い。


 前回のコラムでも述べたように、韓国政府は通信キャリアに対しモバイルインターネットの料金値下げを促している。すでにW-CDMAとモバイルWiMAXのデュアル端末がKTから発売されるなど、スマートフォンが使いやすい環境へと変わり始めた。モバイルを中心に放送と通信の融合も進みつつある。iPhoneの発売とタイミングを同じくするように、韓国モバイル市場は今までにない大きな変化の時期を迎えようとしている。



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年11月16日]
Original Source (NIKKEI NET)