Windows 7への期待からパソコン関連株が急騰! 一方でユーザーの反応は?

Windows Vistaの互換性問題で一騒ぎあった韓国では、ユーザーの多くが未だに2001年発売のWindows XPを使っている。Vistaが搭載された最新パソコンを買って、わざわざダウングレードしているほどだ。

 しかし今度は違う。Windows 7は最初から「XPとの互換性ばっちり!」を謳い文句にしているせいか、正式販売前なのに体験版を試したユーザーの意見を投稿できるサポーターサイトが登場した。5万8800人以上が加入している「Windows 7サポーターズカフェ」には、Windows 7をインストールしたパソコンの画面キャプチャーや、XP/Vistaとの違いを比べる動画、Windows 7を最適に利用できるパソコンの組み立て情報などが投稿されている。このようにユーザーの満足度はかなり高い。


 株価も動いている。パソコンのアップグレード需要を見込み、パソコン部品製造会社やLCD関連会社の株価が急騰しているのだ。Windows 7はメモリが1GB程度でも快適に動くというので、パソコンの買い替え需要よりアップグレードが多いと見込まれている。


 また省エネ機能でVistaに比べ電気を節約できるため、バッテリーが15%ほど長持ちするという話しもある。Windows 7効果で、ノートパソコンやネットブックの売り上げが今まで以上に増加するのではないかとも見られている。


 Windows 7の機能の中で、もっとも期待されているのはiPhoneに実装されているようなマルチタッチである。NAVERの知識検索(ユーザー同士の質問と答え)では、「タッチ機能を使うにはどうしたらしいのか」「どんなモニターがいいのか」「どんなノートパソコンがいいのか」といった質問が登場している。タッチ機能を使うためには、タッチパネル対応のモニターに買い換えなくてはならない。パソコン販売会社のサムスン電子やサムボコンピューターも、タッチ機能を生かしたノートパソコンやモニターに力を入れている。韓国ヒューレット・パッカード(HP)は、タッチパネルを備えたノートPCを大幅値下げした。パソコンの使い方にも変化があらわれるとなれば、ゲームやソフトもタッチ方式中心のものに変わるだろう。


 10月7日には、ついにWindows 7の価格が発表された。韓国マイクロソフトのネット販売サイト「マイクロソフトストア」での正規価格は、Home Premiumが27万9000ウォン(約2万円、日本価格は通常版2万4800円)、Ultimateは38万9000ウォン(約2万9000円、日本価格は通常版3万8800円)。通常版を購入するとタッチマウスや8GBのメモリを先着777人に進呈するイベントも開始している。


 VistaやXPからのアップグレードはHome Premiumが15万8000ウォン、Ultimateが29万5000ウォンと日本に比べて若干安くなっているが、やはり韓国の所得水準を考慮すると個人が買うには高すぎる。


 韓国では政府の徹底した知的財産権の取り締まりにより、違法コピーは減っている。これは取り締まりの影響だけでなく、ソフトウエア業界が個人向けに値下げをした結果でもある。無料で使えるソフトも増えている中、個人としては手が出ない高すぎる料金設定では違法を量産するばかりという判断から、払える範囲内の料金設定でユーザーを犯罪者にさせないよう動いている。韓国MSも大学生に限定してアップグレード料金を値下げすることを検討しているという。


 Windows 7のおかげで久々に活気が出てきたパソコン市場であるが、一方では「OSなんて、もう関係ない」という意見がある。「これからはOSより、もっとスピーディーにインターネットにアクセスできるWeb環境の方が重要」と見ているユーザーも少なくない。GoogleやNAVERのようなポータルサイトにさえアクセスできれば、資料の検索・作成・共有やコンテンツ利用など、必要なことは一通りできるからだ。


 日本も韓国も久々のユーザーの興味を引くため、何かと「Windows 7」をひっぱりだしている。OSなんてXPで十分、と思いながらもパソコン売り場の前を素通りできない今日この頃。秋の食欲と物欲、どっちも抑えられない!



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2009年10月7日]

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091007/1019230/

iPhoneの販売認可でモバイルコンテンツ市場が激化

前回書いたように、韓国でもiPhoneの販売がようやく認可された。サムスン電子やLG電子の新機種もスマートフォンを中心にラインアップが揃えられている。携帯電話端末の出荷数は減ってもスマートフォンだけは2桁パーセント増の成長を続けている。

 iPhoneが発売される2009年11月の直前10月に、サムスン電子は「OMNIA2」を発売する。2008年末に発売されてから人気絶好調のOMNIAの次のモデルで、3.7型の有機ELと800MHz動作のCPUが特徴だ。サムスン電子は有機EL搭載端末の好調により2009年8月、韓国携帯電話端末の市場シェア55%を達成した。スマートフォン市場でもシェア1位としてiPhoneと真っ向から勝負することになる。



iPhoneに先駆け2009年10月にサムスン電子が発売するスマートフォン「OMNIA2」


モバイルインターネットが使い放題のパケット定額制が始まって間もない韓国では、携帯電話から無線LANを利用できるようにするスマートフォンの登場により、有線ブロードバンドや2Gから一気に、料金が安くて速度が速い4GのWibro(モバイルWiMAX)または無線LANに乗り換えるユーザーが増えると予測されている。


 韓国放送通信委員会の調査によると、2008年末時点でもデータ通信定額制加入者の割合は10.9%、キャリアの売上対比データ通信売上の割合は17.4%に過ぎない。データ通信の割合は日本が41%、オーストラリア32.4%、イギリス27.8%、中国27.2%、米25.5%で、韓国は携帯電話から音声通話ばかりの基本的な使い方しかしていないことが分かる。理由は所得に比べ高すぎる料金のせいである。キャリアのデータ通信ではなく無線LANを利用できるiPhoneやスマートフォンの登場で、やっと移動しながら自由にネットが使えるようになった。

さらに、使いやすくなったモバイルインターネットを背景に、キャリアごとのアプリ販売サイトの競争も激しくなっている。


 韓国の最大シェアを誇るキャリアSKテレコムは、アップルと同じ仕組みのアプリ販売サイト「T STORE」をオープンした。コンテンツ会社や個人が開発したアプリをアプリ販売サイトを通じて販売できる。既に6500件ほどのコンテンツを確保している。サムスン電子もイギリスで始めたアプリ販売サイトをヨーロッパ、欧米、韓国でも始めようとしている。


 KTは11月より個人も参加できるオープンな「SHOW APP STORE」をオープンする。コンテンツ購入額よりダウンロードのために発生するデータ通信費用の方が高いという既存の不満を改善するため、無線LANやデータ通信料金の割引も始める。今までは携帯電話から1MBのゲームを2本ダウンロードするとデータ通信料金が7100ウォンもかかっていたが、これからは1000ウォン未満にするという。KTのアプリ販売サイトは携帯電話に限らず、IPTVやVoIPからも購入して使えるようにするなどデバイスを拡大していく。


 SKテレコムがアプリケーション2本当たり10万ウォン、超過分は1件当たり6万ウォンを要求しているのに対し、KTは登録費用1000ウォンで無制限アプリを登録できるようにした。1本当たり3万ウォンを超えた時点で売上の70%を開発者が30%をKTが取る。


 ポータルサイトのNAVERとDAUMもマップサービスやブログサービスの競争から、スマートフォン向けモバイルサービス対決への移行している。Web画面そのままモバイルでも表示するのではなく、スマートフォンの画面サイズやボタンを使って操作しやすく、ネットワークが遅い無線インターネットでも無理なく使えるようカスタマイズする競争が始まったのだ。どんなデバイスからも自社のサービスを利用させるための競争が本格的に始まった。


DAUMはWebメール市場シェアが38%と1999年オープン以来、不動の1位をキープしている。これをモバイルでも持続させようとしている。NAVERは増え続けているブログとマップユーザーをモバイルでも囲い込むためのカスタマイズに熱心である。ポータルサイト側はWEBメールやSNS、ブログ、マップ、ナビゲーションをスマートフォンから利用しやすいようにすることから発展し、SNS専用携帯電話端末の発売までも企画している。スマートフォンや携帯端末からどれほど便利に利用できるかによって、1位NAVER、2位DAUM、3位NATEというポータルサイトの順位が入れ替わることも予想される。


 既存音声通話より30%以上料金が安いモバイルVoIPも期待されている。NAVERとNATEはWibroや無線LANにアクセスできる端末からはメッセンジャー機能を利用して加入者間テレビ電話を無料で使えたり、インターネット電話として携帯電話や固定電話にかけられたりするサービスを拡大している。


 日本よりだいぶ遅れて火がついた韓国モバイルコンテンツサービス市場は、iPhoneをきっかけにスマートフォンの競争が激化し、Wibro・無線LANとアプリ販売サイトの組み合わせで利用が加速している。3Gまでは世界市場より遅れたが、4Gからはブロードバンド普及当時のように世界を驚かせたいという韓国政府の狙い通りになってほしいものだ。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月30日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090928/1018999/

韓国の改正著作権法「3アウト」制の波紋 

韓国の改正著作権法「3アウト」制の波紋 






 韓国で7月23日に施行された改正著作権法には、「3アウト」制度と呼ばれる罰則規定がある。デジタルコンテンツの違法配布などで3回著作権法違反に問われたユーザーは利用していたサイトから6カ月間強制脱退させられ、3回以上の罰金刑となったウェブサイトは6カ月の営業停止になるという内容だ。(趙章恩)


 3アウト制度はそもそも、「ヘビーアップローダー」と呼ばれる著作権法違反の常習犯をネットから追い出すのが目的とされた。



■発売前の新曲まで違法アップロード


 ファイル共有(P2P)やストレージサービスを提供する一部のウェブサイトは、ヘビーアップローダーに映画や音楽、ゲームなどのファイルをアップロードさせ、一般ユーザーに10MB当たり数円ほどの料金で販売している。ヘビーアップローダーの中には業界の関係者もいるようで、劇場公開されて間もない新作映画やアルバム発売前の新曲がストレージサービスに登場することもある。


 P2Pやストレージサービスはヘビーアップローダーを確保するため、契約金や数百万円のリベートを渡すところもあるという。これらを利用すれば公式サイトでダウンロード購入する料金の10分の1以下でファイルが手に入るため、著作権侵害とは知りながらも、若年層を中心にユーザーが増えていった。


 3アウト制度はこうした違法ビジネスを抑止するうえで一定の効果を上げつつあるが、思わぬ余波も広げている。



■相次ぐ訴訟で自殺事件も


 1つは告訴ラッシュだ。著作権者らから委託を受けた法律事務所が、アルバイトを雇ってネット中を検索し、違法ファイルを見つけて手あたり次第訴訟を起こしだした。


 韓国のブログでは、ドラマのハイライト場面を編集した動画投稿やモノマネ、芸能人の写真を使ったパロディーなどが盛んに行われていた。放送局側もドラマの宣伝になるとして、ドラマの映像を動画サイトに丸ごとアップロードするようなことをしない限り、黙認していた。


 しかし法律事務所のアルバイトの目にひっかかると、そうもいかなくなる。彼らは実績に応じて収入を得ているからだ。訴訟が相次ぐなか、裁判を起こされたくなければ和解金を払えという法律事務所からの要求に怯えて高校生が自殺する事件も起きた。


 ポータルサイトやコミュニティーサイトも、営業停止を避けるために投稿内容の事前チェックと削除を強化している。ユーザーが映画やテレビ番組の批評を書くための“引用”としてキャプチャー画面を掲載したり、私的鑑賞のために動画にリンクを付けたりするケースはよくある。しかし、サイト側は少しでも違反のリスクがあるものは削除しようとするため、ユーザーとトラブルになるケースも少なくない。


 取り締まりを避けるために自らブログの掲示物を削除するユーザーも増えてきた。韓国の「2ちゃんねる」にあたる掲示板「DCinside」では、掲示物が大量に削除されている。今では著作権法とは関係なく、ネットに何かを書き込んだり投稿したりすること自体を恐れるようなムードも出てきた。



■抗議のために国会議員の違反を告発


 こうしたなか、動画投稿サイトのヘビーユーザーやマスコミ並みに影響力を持つパワーブロガー(アルファブロガー)が中心となり、抗議の動きも起こり始めた。


 ブロガーらは国会議員のブログをターゲットにし、著作権侵害を見つけて攻撃している。出典を明記せず他のブログからコピーしてきた文章や、著作権者の許諾なく利用している風景写真などを次々に告発し、「法律を作る人間すら守っていないのに、一般ユーザーだけを厳しく取り締まっている」と批判している。


 ポータルサイト「NAVER」では、5歳の子供が歌謡曲を約53秒歌った動画を巡り訴訟が起きた。NAVERは韓国音楽著作権者協会からの削除要請を受けて、この動画を外部ユーザーが視聴できないようにしたが、投稿したブロガーは「娘が歌う姿があまりにもかわいいのでブログに載せただけだ」として、市民団体とともにフェアユースの範囲を明確にするよう訴えた。


 こうした背景には、3アウト制度の取り締まり基準があいまいな実態がある。政府は「非営利目的のパロディーや引用は許容される」としているが、グーグルの「アドセンス」やアフィリエイト広告を使っているブログは営利目的なのか非営利目的なのかなどは必ずしも明確ではない。サイト運営会社も「ケースバイケースで著作権者に確認するしかない」とするだけだ。



■ネットの健全化へ課題山積


 ネット上の著作権侵害が減れば、コンテンツの生産・流通やネットサービスの健全な発展につながるのは間違いないが、そうなるためにはまだ課題が残っている。フェアユースの範囲、引用やパロディーと著作権侵害の線引き、3アウト制度により営業停止された掲示板を合法的に利用していた他のユーザーの権利保護など、さまざまな問題をこれから一つずつ解決していかなくてはならない。


 著作権を守るのは当たり前のことだが、ユーザーを萎縮させてネットから遠ざけては元も子もない。韓国のネットが「ガラパゴス」にならないよう、だれにでも理解できる基準を提示しながら取り締まりを透明化していくことが求められている。

– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年9月30日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000029092009

ついにiPhoneの販売を認可、その狙いは?

ソウル市内ではWibro携帯またはスマートフォンと無線LANを利用してSkypeにアクセスし、料金の安いモバイルVoIPを利用したり、ノートパソコンを持ち歩かずスマートフォンでメールやファイルを確認したりする人をよく見かけるようになった。有線ブロードバンドに集中していたネットサービスも、この秋からは一斉に「スマートフォン」をテーマに動き出している。

 韓国政府が力を入れているモバイルインターネット活性化戦略は、まずもっともユーザーの不満の大きい、モバイルインターネット利用料金から手を入れようとしている。そのために選んだ競争戦略の一つがiPhoneの韓国内発売である。iPhoneがヒットすれば、スマートフォン向けサービスも活性化され、自然とモバイルインターネット料金値下げ競争につながるため、さらにモバイルインターネット利用者が増加すると見ているのだ。


 韓国でiPhoneが発売されなかった理由の一つはWIPIという韓国だけのミドルウェアを全ての携帯電話に搭載しなくてはならないという規定問題。これは2009年の4月に解決された。


 その次は位置情報法の適用問題。放送通信委員会はiPhoneを韓国で発売するには、アップルが位置情報事業者として許可を受けなくてはならないとした。紛失端末探しやマップなど位置情報を収集してサービスを提供する場合は、プライバシー保護と個人情報に関する法的責任所在を明確にするため、放送通信委員会より許可を受けなければならない。これも2009年9月に解決した。


 iPhoneを発売するKTが位置情報事業者及び位置基盤サービス事業者として認可を受けているので、iPhoneの位置情報サービスをKTのサービスとして約款に含める場合、アップルは許可を受けなくても位置情報サービスを提供できると判断した。KTが責任を取ることで、個人を識別できない方向案内や地図サービスはiPhoneから利用できるようになった。その代わり、個人情報を必要とする紛失端末探し(Find my iPhone)サービスは韓国で提供されない。


 放送通信委員会はこれから、個人のプライバシーを侵害する恐れがないサービスに対しては規制を緩和する方針である。位置情報法も改定し、個人を識別できない位置情報を収集する場合は事業者許可対象から除外する。


 海外企業の韓国進出を妨げ、モバイルインターネットサービスを井の中の蛙にさせていた各種規制がiPhoneをきっかけに一つ一つ解決され始めている。2008年から「今度こそは大丈夫」「春には発売される」「夏には発売される」と期待を集めてきたiPhone。紆余曲折の末に、やっと韓国でもiPhoneが利用できるようになったのだ。


 韓国のiPhoneは、電話・ブロードバンドサービスの最大手でもあるKTより発売される。KTは移動通信キャリアで子会社のKTFと2009年6月に合併している。移動通信キャリア最大手のSKテレコムもiPhoneを逃すまいと交渉を進めている。


 これからはキャリアとアップルの交渉次第であるが、あまりにも韓国のキャリアが熱心なため、アップルが無理な要求を次々に投げかけていて、その負担は結局ユーザーに回るという報道もあった。


 KTの場合、11月に発売を予定していて、端末価格はKTがユーザーに端末購入補助金を支払う形で「iPhone 3G」が12万~13万ウォン(約1万円前後)、「iPhone 3GS」が24万ウォン(約1万8000円)と、サムスン電子やLG電子のスマートフォンに比べ3分の1ほどの値段を予定している。米国や日本と同じくモバイルインターネット使い放題料金制が適用され、2年縛りを条件に安く買えるようになるが、iPhoneの端末価格は韓国の携帯電話市場に大きな影響を与えること間違いない。


 月々の支払額は、KTの場合2年縛りで月4万~5万ウォン(約3000~4000円)の料金を予定している。KTの携帯電話ARPUが平均3万2000ウォンなので、これよりは1万ウォン以上高くなる。KTはiPhoneに限らず、スマートフォン向けの料金制度を新しく導入し、モバイルインターネットの活性化を促進していくとしている。


 ユーザーの間では激安料金(月約750円)で勝負しているシェア最下位のキャリアであるLGテレコムのモバイルインターネット使い放題料金制度が好評である。高くても話題性のあるiPhoneを使うか、実利を選ぶか。新しい物好きで自慢したがりの国民性からすると、iPhoneがヒットすること間違いないように見える。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月25日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090925/1018898/

人気アイドルの芸能界追放騒動、書き込みは災いの元?!

アメリカのオバマ大統領が9月8日、バージニア州の高校生達に「フェイスブックに書き込みをする時は注意しなくてはならない。何を書き込もうと自分の未来に影響を与えるだろう」と警告し話題になったことがある。

 同じ日、まさにオバマ大統領の予告通りの問題が韓国で発生した。韓国で絶頂の人気を誇る男性アイドルグループ「2PM」のメンバーの一人が、デビュー前SNSサイトに書き込んだ文章が発端となり、グループを脱退、芸能界から追放されてしまったのだ。


 アメリカで生まれ育った彼はまだ18歳だった2005年、誰一人知り合いのいない韓国で歌手としてデビューするためトレーニングを受けていた。その当時の苦しい心情を、アメリカのSNSサイト「マイスペース」に「韓国なんて嫌いだ」という表現で一言残した。それが4年後、ネットユーザーに見つかりマスコミに報道されてから大問題となった。マスコミは大々的に「韓国卑下発言」という見出しで騒ぎ立てた。それを見た人々は動揺し、「韓国が嫌いならアメリカに帰れ」とバッシングが始まったのだ。そして9月8日、彼は家族のいるシアトルに帰国した。絶頂から奈落へ落ちるのに3日もかからなかった。





SNSサイトでのデビュー前の発言が問題となりグループを脱退した「2PM」のメンバー「ジェボム」のグループ脱退撤回を求めるファン達が新聞に掲載した広告


数日前も、「ここが変だよ日本人」と同じコンセプトのテレビ番組、「美女のおしゃべり」に出演しているドイツ人の女性が、自国で韓国を卑下する内容の本を出版したとして一騒動巻き起こったことがある。しかし、彼女の本は韓国で生活しながら体験した、文化の差による苦しさを表現しただけだった。間違がった翻訳で韓国卑下本を出したと騒いだブロガーの書き込みを、ネット新聞が確認もせず書き写し記事にしたのが問題だった。過去、韓国のテレビによく出演し、「韓国好き」発言で人気を得て大学の教授にまでなったのに、自分の国では韓国の歴史を歪曲して面白おかしく書き立てた本を出版した日本人がいたことから、「もしかして!」と騒がれたが、ドイツ人女性は無罪(!)が判明されテレビ出演も続けている。

このような前例があったからとはいっても、韓国のことを少しでも悪く書くと「韓国卑下」と騒ぎ立てるマスコミに対して、韓国に住んでいる外国人らは「あり得ない」、「怖い」と反応している。「韓国に住んでいるからといって、韓国を好きにならなくてはならないのか?これは人権にもかかわる重要な問題である」といった反発を起きている。


 芸能人の間では、「ネットの魔女狩りがまた始まった」と反発の声も上がっている。一部ネットユーザーの書き込みが世論であるかのように書き写すマスコミ、それを見て興奮しさらに書きたてるネットユーザーによって、何でもないことが大事件として膨れ上がる傾向があるのは確かだ。さらに、一部ネットユーザーの極端な愛国主義こそ問題であるという専門家の指摘もある。


 SNSサイトは知人達とコミュニケーションするための個人的な場ともいえるが、いつでも誰でも見られるという点では公共の場ともいえる。韓国が好きとか嫌いとか、それぐらいは十分、表現の自由として容認できる範囲と思うのだが、トップの座にいたアイドルだっただけに世間の目は厳しかった。


 韓国のネットユーザーの6割以上が自分のブログやSNSサイトを持っていて書き込みをしている。アンケート調査によると、企業の人事担当者32%は、社員採用の際、求職者のブログやSNSサイトをチェックしているという。個人的な感想一言が、数年後どんな問題になるか分からない。損害賠償訴訟を起こされた人もいる。表現の自由もあれば責任もあるということだが、もう少し包容力のある見方をしてもいいではないか。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月17日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090916/1018636/

衛星か,地上波か競争激化する携帯端末向けテレビ放送 ─韓国編─

衛星か,地上波か競争激化する携帯端末向けテレビ放送 ─韓国編─


趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


 このごろ,地下鉄に乗ると携帯電話機の画面をのぞき込んでほぼ同じタイミングでニヤニヤしたり,深刻になったりしている人たちを頻繁に見かけるようになった。事情を知らない人にとっては異様な光景に映るかもしれないが,地下鉄で「DMB(digital multimedia broadcasting)」を楽しむのは,韓国ではもはや当たり前になっている。DMBには人工衛星を使う「衛星DMB」,地上波を使う「地上波DMB」の2種類がある。いずれも携帯端末向けのテレビ放送で,前者は日本のモバHO!,後者はワンセグに相当するサービスだ。


 韓国では,携帯電話はいつでもどこでも通話ができなければ意味がないと考えられている。このため,地下鉄で携帯電話機をマナーモードに切り替えるどころか,車内でも大声で話している人をよく見かける。同様に,日本と違って衛星DMBや地上波DMBも地下鉄で視聴できる。地下鉄の駅構内の片隅には,韓国の携帯電話事業者であるSK Telecom Co., Ltd.やKT Freetel Co., Ltd.(KTF社),LG TeleCom Ltd.のギャップフィラー(電波中継器)が設置されている。


続きは日経エレクトロニクス(2007年4月16日号)で

子供の安全を守れる社会システムとなるか? ITフル活用のソウル市施策

韓国ソウル市は小学校周辺の監視カメラとセンサーを利用し、子供たちの学校出欠、危険地域への立ち入りなどをチェックして保護者の携帯電話に知らせ、いつでも子供の居場所をソウル市のウェブサイトで確認できる「ユビキタスソウル安全ゾーン」を始める。2009年9月よりソウル市内の2箇所の小学校で600人を対象に実験サービスを開始し、利用方法や活用方案などの標準モデルを制定し、ソウル市25区全域に拡大させる。




「ユビキタスソウル安全ゾーン」のサイト

位置情報確認のために子供にUSIM内蔵携帯電話または位置追跡機能のあるネックレス、腕時計型電子タグを持たせ、学校周辺半径200M以内の位置情報が周期的にSMSで保護者の携帯電話に送信される。子供の位置情報は行政機関と警察も確認できるようにする。

 学校や塾などで個別に子供の出欠を位置情報でチェックし、保護者の携帯電話にメッセージを送信するサービスは提供されてきたが、自治体が乗り出して子供の安否を確認できる位置情報サービスを提供するのは初めてのことである。


 位置情報を利用するため、保護者が同意した場合だけ利用できるようにした。子供が危険な状態と思われる場合は、ソウル総合防災センターまたは警察に連絡し、監視カメラで確認してもらうこともできる。今後サービスをお年寄りや障害を持つ人の安否確認にも利用できるようにする計画である。


教育政策を担当する省庁である教育科学部も、共働きと低所得層の多い地域にある小学校40校を対象に「セイフウェイ・プロジェクト」を始める。指紋認識または電子タグを利用して学校の出欠情報を保護者の携帯電話に送信し、低学年の子供はボランティアが指定の場所まで子供を送り迎えする「登下校お助け制度」も利用できる。教育科学部は安心して子供を外に出せるよう、2010年6月からは全国の小学校で電子タグを利用した位置情報サービスを提供するとしている。


 子供が今どこにいるのか、ちゃんと塾に行っているのか、変な人に連れ去られはしないか、いつでも自分で確認できる位置情報サービスを自治体が提供してくれるとなれば、保護者にとって嬉しいことであろう。一方では、そのためにまた街に監視カメラが増えるとことを、プライベート侵害として嫌がる人もいるだろう。


 しかし、韓国のニュース番組では、連日街の監視カメラのおかげで強盗が捕まった、駐車違反が減ったと報道しているため、個人の肖像権やプライベートを侵害されても、犯罪のない安全な生活を求め監視カメラをもっと増やしてほしいと願う住民も増えている。


 この秋からは路線バスにカメラをつけて、バスを「移動交通違反取締り」に利用するという方案も発表された。マンションでは人件費を節約するという名目で警備員の数を減らし、監視カメラとオートロックに変えている。カメラは動かぬ証拠を残してくれるので、確かにないよりは犯人逮捕にも役立つし予防にもなっている。でもシステムの不具合はいつでも起こりうる。電子タグと監視カメラは万能ではない。決定的な瞬間カメラが動かなくなることだってあるではないか。韓国の有名女優で自殺した故チェ・ジンシルさんのお墓から遺骨がなくなった事件でも監視カメラが役に立たず捜査に苦労したことがあった。


 ユビキタスという魔法の言葉をつけると、すべてのものが生命を持ち、人間のために働いてくれそうな幻想を抱いてしまう。犯罪の被害者になるのも怖いが、「電子タグ依存症」「監視カメラ依存症」になってしまうのも怖い。自分を守るために常に位置情報を発信し、カメラを頭につけて歩く時代になったりして。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月9日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090909/1018483/

アナログ放送停止延期に揺れる国内,海外は韓米FTAで対米戦略を強化 ―韓国編―

アナログ放送停止延期に揺れる国内,海外は韓米FTAで対米戦略を強化 ―韓国編―



趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


 最近,韓国の家電量販店では,日本と同様,「フルHD」や「1080p」と呼ばれる1920×1080画素のプログレッシブ方式のテレビが,売り場で目立つようになってきた。しかし,こんな時代の先端を行く店頭の様子からは想像し得なかったある決定が,このほど韓国で下された。政府は2007年4月26日,これまで2010年12月31日を期限としていたアナログ放送の停止時期を2年延長すると発表した。


 韓国政府はデジタル放送への完全移行時期を,デジタル方式に対応したテレビ(以下,デジタル・テレビ)の普及率が95%に達する時期と計画していた。それが2004年ごろの予測では2010年末だった。


続きは日経エレクトロニクス(2007年5月21日号)で

生き残りを「創造経営」に懸ける後継者人事に注目 ―韓国Samsung編―

生き残りを「創造経営」に懸ける後継者人事に注目 ―韓国Samsung編―




趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


 「2010年からは予測し難い急速な変化が起こるだろう。ここからさらに飛躍して世界の一流企業になるためには,すべてを原点から見直し,伸び伸びと人とは違う発想をする必要がある。ただし,その発想は収益につながるもので,かつ持続可能なものでなければならない」。


 2007年,Samsung Electronics Co., Ltd. 会長の李健煕(イ・ゴンヒ)氏は,「創造経営」と呼ばれる新たな経営スローガンを発表した。単に「良い製品を作る」というレベルを超え,マーケティング,研究開発,デザインのすべてにおいて独創的なアイデアがないと,いずれは競争に負けてしまうというのが同氏からのメッセージである。


続きは日経エレクトロニクス(2007年10月22日号)で

オンライン学習で子どもの教育環境は改善できるか?

IP放送(IPTV)で教育環境の改善を目指すプロジェクトが韓国で始まった。自治体とIPTV事業者が提携し、経済的に貧しく両親が共働きで放課後一人ぼっちで留守番をしている小・中学生を対象に、IPTVのVODや双方向放送を使って無料で課外授業をするというものだ。

 図書館や児童会館の中に「IPTV勉強部屋」を作り、英語・数学・アニメ・映画などのコンテンツを利用できるようにした。ボランティアの先生が機器の操作と子供達に見せる番組を選択する。


 韓国デジタルメディア産業協会がLCDテレビを、IPTV事業者のKTは1年間IPTVを無料で提供し、学習書出版社が教材を提供する。


 韓国の教育熱の高さは海外でもよく知られている。名門大学を卒業しても正社員になるのは一握りしかいないといわれるほどの不況の中、韓国ではますます学閥が重要となっている。


 子供の未来のため、幼児の頃から英才教育をさせ小学校から各種塾に通わせる。しかしそのためにはかなりのお金が必要となる。1980年代までも貧しい田舎の出身の学生が独学でソウル大に主席合格したという感動物語がよくテレビに放映されたものだが、今は教育もお金がないとできない。「私教育」といって学校の教育よりも塾や家庭教師を頼る傾向が強くなったからだ。大学受験のための「私教育」費用は家計負債を増やす深刻な問題となっている。

教育の差は所得の差につながるが、その教育をさせるためにはまたお金がかかる。自然と名門大学に進学する学生は中産層以上の所得がある家庭で育った子供達で、貧困家庭の子供は大人になっても貧困から抜け出せないという悪循環を、IPTVの教育放送を利用して改善してみようとする試しである。

 放送通信委員会の関係者は、「デジタルメディアを活用した教育福祉を実現させ、インターネットで経済的弱者を保護する社会安全ネットワークにしたい」と述べた。自治体は「IPTV勉強部屋によって、優秀な教育コンテンツを利用できる機会がなかった貧しい子供たちの学習能力を高められる」と期待していた。


 「IPTV勉強部屋」は全国300カ所の地域児童センター、情報化村(2001年から推進されている地方の情報化事業で、地域特産品のオンラインショッピングや観光予約などのサービスで地方の所得増進を目指している)にも設置される。


 一方では、義務教育のためではなくIPTV塾のために国の予算を使うことに対する反発もある。学校教育で学習能力を高めるべきなのに、塾に行かないと勉強についていけないということを政府が認め、「私教育」を煽っているという批判もある。さらに、IPTV勉強部屋事業のために国家予算450億ウォン(約37億円)が使われることから、特定事業者のサービスを利用した福祉事業に予算を使いすぎているという批判もある。


 それでも、いつも一人ぼっちで学習意欲がない貧困層の子供達にとって、誰かが自分たちに関心を持っていて、勉強を教えてくれて、他の子供達と同じように最新映画やアニメも見られるようにしてくれるIPTV勉強部屋の存在は、人生を変えられるきっかけになるかもしれない。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月2日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090902/1018324/