デジタルサイネージ都市をめざすソウルの実験

薄型ディスプレーと通信ネットワークを使った新しい屋外広告メディアとして注目される「デジタルサイネージ」。韓国でも2006年ごろから「DID(Digital Infomation Device)」と呼ばれ、成長を続けている。今回は首都ソウルでの動向を紹介しよう。(趙章恩)

 ソウル南部にある江南(カンナム)駅前。東京でいえば渋谷のように若者でにぎわう繁華街の約760メートルの大通りに2009年3月、「メディアポール(Media Pole)」と名付けられた多機能型のデジタルサイネージが22本設置された。



■情報検索やメール、無線LAN機能も


 高さ約12.4メートル、幅1.4メートルのメディアポールは、車道に向いている面はLED、歩道に向いている面は液晶パネルになっている。パネルの上部はメディアアートの展示や広告用ディスプレー、下部はタッチパネル式で歩行者向けコンテンツを提供する。メディアポールの最上部には照明と防犯カメラもついていて、安全な街づくりの役割も果たす。ソウル市はここを「U-street」と名付けている。


 メディアポールはコンテンツを一方的に配信するだけでなく、情報検索や画像の送受信、公衆無線LAN通信などの様々な機能を持つ。グルメ情報や交通情報を検索したり、自分の写真を転送して大画面で表示したり、内蔵カメラで写真を撮って友人にメール送信したりと、いろいろな使い方、遊び方ができる。映画の予告編を見てその場でチケットを予約できるサービスもある。




■サムスン電子が世界シェアトップ


 調査会社ディスプレイサーチによると、2009年1~3月のデジタルサイネージ向けの薄型パネル世界シェアは、韓国サムスン電子が26型以上で11.2%と首位。パナソニックをわずかな差で押さえ、3位がNEC、4位が韓国LG電子という順だ。サムスン電子は「モニター、テレビに続いてデジタルサイネージでも世界1位になった。映像ディスプレー分野で最高のブランドになる」と意気込んでいる。


 サムスン電子やLG電子のように韓国を代表する電子企業がデジタルサイネージに積極的になっていることもあるが、韓国では都市計画の1つとしてデジタルサイネージの導入が注目されている。



■ソウルの都市景観づくりの一環


 メディアポールは、ソウル市が08年に「デザイン・ソウル」をキャッチフレーズに始めた都市景観計画の一環だ。「自然と環境」「歴史と文化」「ITと産業」「人間と健康」をテーマに、歩きやすい歩道、自然環境を生かした生態公園づくり、ITインフラを生かした街ナビの整備などを進め、より美しい街づくりに精を出している。


 ソウルの中心である景福宮前の光化門(クァンファムン)には、16車線あった道路を10車線に減らして広場がつくられた。光化門広場は清渓川復元、ソウルの森造成に続く都市再生プロジェクトとして市民を喜ばせている。韓国は60~80年代、「漢江の奇跡」と呼ばれるほどの高度成長を成し遂げたが、一方で首都ソウルは高層マンションだらけの味気ない再開発都市になってしまった。それをITと文化とデザインが中心の知識基盤世界都市にするというのが、デザイン・ソウルの目標である。



■広告から楽しめるコンテンツへ


 メディアポールが登場する数年前から、ディスプレーを利用した広告、デジタルサイネージは存在した。タッチパネル式ディスプレーを使って、ユーザーが自分で触って音を出すという広告、床に企業のロゴ入りサッカーボールの映像を映し、それを蹴って遊べるようにした広告など、ソウル市内では映像技術を駆使したデジタルサイネージが身近になっている。


 メディアポールのプロジェクトはそれらを一歩前進させたものといえる。広告方式を競うハードウエアの競争から、「広告だけど広告に見えない」楽しいコンテンツを流す競争になってきた。


 地下鉄運営会社ソウルメトロは、地下鉄1~4号線の全駅にデジタルサイネージとIP電話を組み合わせた公衆電話を導入する計画を発表している。デザイン・ソウル計画の一環で、タッチパネルの画面から広告・情報検索・メール送信・チケット購入(電子マネーやクレジットカード決済可能)などの機能を利用できる。


 双方向メディアとしてのデジタルサイネージは韓国でも注目度が高く、10~20代をターゲットにしたピザ、製菓、ファミリーレストランなどは、ブランドと顧客をより親密につなげる方法としてデジタルサイネージを利用している。ブランドの歴史やブランドロゴを使ったゲーム・メニュー提案といったイベントも開催している。ビルの外側一面をLEDにしてメディアアートとコラボした広告を流す「パサードギャラリー」も流行っている。





■情報提供料など課題


 一方、こうした取り組みを通じて、デジタルサイネージのビジネスモデルを確立するうえでの課題も浮かび上がってきた。コンテンツ配信をより発展・向上させるソリューションが整っていなければ長続きしないということだ。


 メディアポールのテスト期間であった3~6月は、ニュースや交通情報、グルメガイドなど多彩なコンテンツが提供されていたが、運営が民間会社に委託されてからはいくつかのコンテンツが利用できなくなった。サービスを中断した新聞社やコンテンツ事業者らは、「ソウル市や江南区役所は世界でも珍しい施設をつくったことだけに満足し、コンテンツ使用料のことまでは考えていなかったようだ」と残念そうに語る。


 デジタルサイネージ広告管理ソフトウエア会社であるScalaのアジア総括支社長ギヨム・プル氏は「デジタルサイネージは多様なコンテンツを自由に表現できるのが長所で、動画、写真、テキストなど表現の制限がない。韓国には世界有数のディスプレーメーカーがあり、有無線ブロードバンドインフラが優れている。デジタルサイネージの大きな市場を形成すると確信している」と述べる。


■都市計画とのシナジーが重要


 広告と情報端末兼用の大型デジタルサイネージはソウル各地で見つけられるようになった。日本人観光客が集まる明洞には韓国語・日本語・英語で検索できる観光ガイドと周辺レストランやエステの広告が登場している。


 デパートや大手企業もデザイン・ソウル計画に合わせてITを利用した都市づくりに参加している。屋外広告の標準化と規格化で都市の環境を整備する政策といかにシナジー(相乗効果)を出していくか。美しく、そしてより安全で快適なユビキタス都市を目指して、ソウルは今日も工事中である。



観光ガイドなどを日本語でも表示するデジタルサイネージ



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年9月2日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000001092009


光明見えてきた韓国版WiMAX,大学生中心に2008年末に40万会員へ

光明見えてきた韓国版WiMAX,大学生中心に2008年末に40万会員へ

from 韓国

趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト

 最近,韓国ソウル市では「デジタル遊牧民」をよく見掛ける。カフェや公園,電車やバスの中でもノート・パソコンの画面を夢中で見て,インターネットにアクセスしている人たちだ。街中でインターネットというと,日本では携帯電話機が主流だが,韓国ではノート・パソコンやPMP(portable multimedia player)と呼ばれる小型端末が定番になっている。自宅や図書館,オフィスよりも自分の好きな場所で仕事をしたい,宿題をしたいというデジタル遊牧民が街中にあふれている。



続きは日経エレクトロニクス(2008年6月2日号)で

新政権のエレクトロニクス政策発展政策担う「知識経済部」に期待

新政権のエレクトロニクス政策発展政策担う「知識経済部」に期待


from 韓国




趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト

 2008年6月17~18日,韓国ソウル市で「OECD(経済協力開発機構) IT大臣会議」が開催された。韓国の政府機関は,アジアでは初開催となる同会議を招致したこと,そして韓国がITやエレクトロニクスの強国としてイニシアチブを取り続ける意思があることを内外に示す絶好の機会であるため,会議の準備を優先的に進めてきた。これにより,IT技術や製品の世界での販売力の強化につなげる狙いがあった。


 例えば,韓国で年に数回開催されるIT関連展示会を同会議の付帯イベントとして前倒し,「World IT Show 2008」として同時開催したほどである。


 OECD IT大臣会議には世界42カ国の大臣や政府代表,民間企業の代表者など3000人以上が参加した。韓国Samsung Electronics Co., Ltd.や韓国LG Electronics, Inc.の最新の携帯電話機,韓国KT社のIPTV用セットトップ・ボックスなどが展示され,合計で20万人以上の来場者が訪れた。


続きは日経エレクトロニクス(2008年7月14日号)で

OECD報告書の波紋、韓国の携帯電話利用料値下げ圧迫

経済協力開発機構(OECD)が会員国の情報通信政策と料金をまとめて2年に一度発表している「OECDコミュニケーションアウトルック」が韓国移動通信業界に波紋を巻き起こしている。OECDの料金比較は約款上の標準料金の比較で、通話量別料金を比較している。

 韓国のGDPは会員30カ国の中で22位にすぎないが、移動通信利用料は2007年に比べ14%ほど安くなったものの、通話量が少量(月44分)だと25位、中量(月114分)で19位、多量(月246分)になると15位とかなり高いことが分った。さらに、韓国の家計支出に占める通信費の割合は5.6%で、OECD平均2.45%の2倍以上だった。


 OECDの報告書が発表される直前、韓国消費者保護院も韓国の移動通信通話料は1分当たり0.1443米ドルで、移動通信利用時間や通信環境が似ている15カ国の平均は0.1024米ドルであるとし、韓国の通話料は高すぎるといった報告書を発表していた。


 消費者団体や加入者の間では、標準基本料金(月1万2000ウォン)または標準通話料(10秒18ウォン)のどちらかを値下げするよう要求する動きが強まっている。消費者団体は、移動通信キャリアが料金を値下げしているといいながらも営業利益は毎年伸びていることを指摘している。OECD会員国の中で通話料が最も安い国は、フィンランド、オランダ、スウェーデンで、MVNOが盛んなヨーロッパに集中していたため、第4のキャリアを認可するか、MVNOを始めるか、政府が積極的に競争できる市場環境を作らないといけないのに、事業者の言いなりになっていると不満を持っている。


 所得に比べ料金が高すぎるという論争は、移動通信サービスが始まった頃から変わっていない。何度も繰り返されてきた。ところが料金の認可を担当している政府は、料金値下げは市場に任せるとしながらも、OECD報告書の算定方式には疑問があるとして解明のためのセミナーまで開催した。


 国内外から料金が高すぎると攻撃された移動通信キャリアは、早速反撃に乗り出した。

韓国は音声通話の利用時間が長いため、基本料は高く通話料は安くなるよう割引を適用しているが、OECDは標準料金だけを比較対象にしているため料金が高いように見えるだけというのだ。料金が高いのではなく、通話時間が長いので料金が高くなるのは当たり前ではないかという説明である。キャリア側は、モバイルインターネットが発達しているため音声通話をあまり使わなくなる世界的傾向とは違って、まだ音声通話が中心の韓国と海外の料金を一概に比べてはならないと主張している。韓国の月平均音声通話時間は約313分で、OECD平均をはるかに上回っている。韓国のキャリアの売上の約8割が基本料金と音声通話から生まれているほどだ。

 移動通信市場シェア1位のSKテレコムは標準料金に加入しているユーザーは19%にすぎないので、各国の通信環境を考慮していないこのような料金比較は信頼できないと反発している。割引制度を多様化しているので、標準料金は高くても、そこからあれこれ割引されるので合計額から利用料を割り出すと決して高くないと説明している。しかし消費者側は納得できない様子だ。


 放送通信委員会は消費者団体の意見を受け入れ、ナンバーポータビリティを利用して新規加入したり、2Gから3Gへ機種変更する際にもらえる端末購入補助金制度を見直したり、端末を買い替える代わりに料金を割り引きしてもらえる制度を導入する方案を提案した。一部のユーザーが新機種を安く手に入れる方法としてナンバーポータビリティを繰り返していることから、同じ端末を長く使うユーザーにもメリットがあるようにするためである。キャリア側は端末補助金か料金割引か、どちらかしか提供できないという立場である。


 高いと評価された移動通信料金とは違い、ブロードバンド料金は1秒当たりMbyteに換算するとOCED会員国の中で3番目に安かった。最も安いのは日本で0.07ドル、アメリカ0.25ドル、韓国0.34ドルの順だった。


 通信設備輸出に関しては2007年基準297億8800万ドルでOECD1位、通信設備輸出入による貿易指数も247億4800万ドルで1位を占めた。GDP対比通信設備輸出割合は2.07%で、OECD平均の0.43%を大きく上回った。


 韓国ではOECDや海外シンクタンクの各国比較レポートがマスコミで大きく取り上げられ、韓国が何位に選ばれたのかとても過敏に反応する。内需が小さすぎて輸出に頼って生きていくしかない構造のせいか、海外で韓国がどのように評価されているのか神経を尖らせている。仕方ない部分もあるのだが、OECD報告書に押し倒されるような通信料金値下げはいらない。移動通信サービスは内需向けのサービス産業なのだから、外側よりも内実を充実させてほしい。問題は所得に比べて高い料金なのだから、個人的には数百円の料金の値下げより、料金が高くても文句なく払えるよう雇用安定や最低賃金についてもっと悩んでもらいたいものだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年8月26日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090826/1018101/

独創的な人材の確保がグローバルな競争力の源泉に―韓国Samsung編(最終回)―

独創的な人材の確保がグローバルな競争力の源泉に―韓国Samsung編(最終回)―

趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト

韓国ソウル市の江南駅の近くに建てられた,韓国Samsungグループの超高層ビル群─。このビル群の一角に「未来戦略グループ(Global Strategy Group)」という極めて優秀な人たちで構成される組織がある。メンバーのほとんどが「S(Super)」クラスと呼ばれる外国人である。

 世界のMBAトップ10に入る大学の出身者や博士号を持つ人ばかりで,誰もが知る世界屈指の大企業で5年以上の実績を持つ人たちだ。海外から引き抜いたこうした人材は,未来戦略グループで2年間経験を積んでから,各グループ会社に配属される。

続きは日経エレクトロニクス(2008年3月24日号)で

IT韓国の基礎を作った金大中元大統領逝去

民主化運動やノーベル平和賞受賞で知られる金大中元大統領が逝去した。1998年IMF経済危機と同時に大統領に就任し、2002年までIT韓国の基礎となるブロードバンドやモバイルインターネットといったインフラ普及のため果敢な投資を惜しまず、経済危機を早期に乗り越えられるようサポートした大統領として広く尊敬され続けた大統領であった。




金大中元大統領の逝去をトップで伝えるポータルサイト

1999年世界初のADSL商用サービスを皮切りに、韓国のブロードバンド契約数は1998年の約1万4000件から2002年は1000万件、そして2009年には1550万件を突破した。この数字はほぼ全世帯がインターネットを利用していることになる。金元大統領は就任の際、「世界でもっともコンピューターをうまく活用できる国にしたい」と発言した通り、約束を守った。

 どこよりも早く韓国でブロードバンドが普及したおかげで、PCバン(ネットカフェ)を始めオンラインゲーム、VOD(ビデオオンデマンド)、インターネット新聞、インターネットショッピング、インターネットバンキングといった新しい産業が生まれた。大手企業が次々倒産する中、アイデアや技術さえあればベンチャーを立ち上げてビジネスができるよう支援してくれた。1998年から始まった韓国のオンラインゲーム産業は日本、中国、東南アジア、ロシア、ヨーロッパ、北米など世界各国に輸出され、今でも韓国IT産業を支える柱となっている。金大中元大統領の在任期間中、韓国のGDPに占めるITの割合は1997の年8.6%から2002年には14.9%へ、IT産業の生産は1998年の76兆ウォンから2002年には189兆ウォンへと大幅に成長した。


 2009年5月に亡くなったが、金大中元大統領の次の大統領になった盧武鉉前大統領がインターネットユーザーに絶大な支持を集め当選したのも、この時に築かれたインフラがなければ不可能なことであった。インターネットの波及力は想像以上となり、マスコミの報道よりもネットの口コミの方が威力を持つことを見せつけてくれた。

軍事政権に対立して民主化運動を続けた政治家らしく、透明・公正・効率的な政府を作るため「電子政府」の立ち上げにも積極的だった。


 2000年から具体的に始まった電子政府構築は、2001年大統領直属の電子政府特別委員会を中心に縦割りをなくした政府の情報化が一気に進められ、電子政府法も制定された。今では役所に行かなくても住民票発行(自宅でプリント可能)、税金納付、所得税申告、不動産・自動車・医療・教育関連など、もっとも利用率が高い基本的な申請は全て電子政府サイトを通して行われる。大学の成績証明書や卒業照明も電子政府サイトから申請してプリントできる。添付書類もなくなり、身分証明書だけあれば済むようになった。行政の透明化、簡素化に焦点を当てて情報化を進め、公務員の業務効率を高めることで予算を節減しようとした。さらに電子政府と同時に中小企業の情報化も進められ、国民と企業が満足する電子政府システムを目指した。


 電子政府構築に参加したSI企業らは、韓国をモデルケースにしてアジア各国の電子政府構築事業を受注し売上を伸ばした。


 ポータルサイトやコミュニティサイトでも哀悼の書き込みが絶えず、金大中元大統領の不屈の意志を継いで、もう一度ベンチャー精神を燃やして、頑張ってみようではないかという覚悟が書き込まれている。


 KTやNHN、DAUM、Google Korea、SKテレコムなど約150社が加入している「インターネット企業協会」は「金大中元大統領は、韓国が知識情報強国に跳躍する土台を作り、ベンチャー産業育成を通じてインターネット産業が経済の一つの軸になる枠組みをされた。故人のIMF経済危機を克服されたその力とベンチャーの挑戦精神、情報社会のビジョンをこれからも継いでいくことを誓う」との声明を発表した。


 金大中元大統領は日本との交流にも積極的だった。韓国で上映・放送・販売が禁止されていた日本の歌謡曲、映画、ドラマといった大衆文化を開放した。韓国の地上波では、まだ日本語歌詞のまま日本の歌謡曲を流したり、日本のドラマを放送したりはできないが、ケーブルテレビでは日本の人気ドラマが韓国語字幕で放送され、日本の映画も数多く上映されている。日本のアーティストの公演も解禁となり、来韓公演もたくさん行われた。日本の小説や漫画もベストセラーとなり、韓国の若い世代に大きな影響を与えている。韓流ブーム以上に大きな日流ブームが巻き起こったことで、韓国はコンテンツの重要さを実感した。技術があっても中身がなければ成長しない、何よりもコンテンツが大事であることに目が覚めるきっかけにもなった。


 金大中元大統領の在任期間中、世界が注目したIT強国だった韓国は、サムスン電子やLG電子といった大手企業の除いては、ぱっとしない口先だけのIT強国になってしまった。もう一度韓国のIT産業が力を発揮できるよう、天国で見守ってほしい。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年8月20日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090819/1017903/

2009年上半期、韓国でもっとも売れた携帯電話は?

2008年3月より販売奨励金、端末購入補助金などマーケティング費支給が解禁となった韓国では、毎月壮絶な加入者の奪いが繰り返されている。ナンバーポータビリティを利用すれば番号は変えずに済み、毎月補助金をもらって無料で新機種に変えられるため、全体の加入者数はほとんど増えずに、マーケティング費用ばかりが急増する悪循環が続いている。

 韓国では夏と冬のボーナス時期に限らずに随時新機種が発売されるため、流行に敏感でCMに影響されやすい高校生や大学生を中心に新機種が出る度に機種変更を繰り返している。通常、韓国の携帯電話機種変更は平均6カ月といわれているが、金銭的な負担がなくなったことから毎月機種変更するユーザーが増えている。この秋からは補助金支給後3カ月以上経たないと他のキャリアから補助金がもらえないように規制することになった。


 機種変更が頻繁な韓国ではどんな端末が売れているのだろうか。


 2009年7月の販売台数は257万台で、タッチフォンが79万台を占めた。よく売れた端末は補助金で安くなった最近機能を取り揃えた新機種。サムスン電子は「ヨナのHaptic」と「Haptic AMOLED」が、LG電子は「クッキーフォン」がトップを占めた。




LG電子でもっとも売れたタッチフォン「クッキーフォン」

フィギュアスケート選手のキム・ヨナをモデルにした「ヨナのHaptic」はフルタッチスクリーンの画面に300万画素カメラ、自分撮り機能、Blogのように編集できるダイアリー、SOS機能、地上波DMB(ワンセグ)を搭載する。「ヨナのHaptic」は7月だけで25万台、発売から2カ月間で45万台が売れ、最短期間で100万台を突破する機種になるのではと期待されている。


 「Haptic AMOLED」は海外で「Jet」という名称で発売されたフルタッチスクリーンフォン。3.5型WVGAの有機ELディスプレイ、地上波DMB、3D効果、DVDクラスの動画録画/再生、5.1チャンネル立体音響、500万画素カメラを搭載した。「クッキーフォン」は300万画素カメラ、11.9mmの薄型、89gの超軽量モデルで、タッチスクリーンの中ではお手頃価格となっている。おかしの「クッキー」のように誰にでも楽しめる端末という意味が込められている。人気女優が携帯電話でゲームをするかわいいCMで認知度を高めた。


 しかし、2009年上半期もっとも売れた端末はほとんどが「0ウォン端末」で、折りたたみ式、カメラ付き、音楽再生といったシンプルなデザインによく使う機能は揃っている端末だった。


 サムスン電子とLG電子が毎月発表している端末出荷台数と機種別販売台数を見ると、2009年上半期韓国で販売された携帯電話台数は1279万3000台。携帯電話加入者の約3割が携帯電話を新規加入または買い換えたことになる。キャリアとベンダーから支給される端末購入補助金は1台当たり20万~70万ウォン。端末価格は20万~90万ウォンなので、ものすごいマーケティング費が支払われたことがわかる。


 SKテレコムからもっとも売れたのはサムスン電子の「SCH-W270」。2007年発売されSKテレコムだけで140万台売れた。KTからはサムスン電子の「SPH-W5000」、LGテレコムはサムスン電子のSPH-S5150が売れた。どれも130万画素のカメラ、MP3プレーヤーを搭載したシンプルな折りたたみ端末である。




その他はLG電子の「ワインフォン」も定番として人気が高い。その名の通り、シニア(ワインのように熟成した世代)向けの端末で、2.4型の画面に通常の2倍ほど大きい文字が表示され、音声も2倍ほど大きいのが特徴。メッセージを読み上げる機能もついている。2007年に発売されてから2年2カ月で200万台販売を突破した。ユーザーの78%は40歳代以上の中年層が占めるが、通話とSMSだけ使えればいいという20代にも売れている。LG電子側は、「流行の移り変わりが早い韓国で2年間売れ続けたこと自体がすごい」とコメントしている。他の端末の場合、6カ月から1年ほどで製品のライフサイクルが終わってしまう。






ユーザーの8割を40歳代が占める一方で、若者にも売れているLG電子の「ワインフォン」

補助金合戦の影響から韓国のサムスン電子、LG電子の携帯電話が市場の7割以上を占める中、意欲的に韓国にやってきたソニーエリクソンやNOKIA、HTC、RIM(BlackBerry)のスマートフォンは予想を下回るどころか、ほとんど売れなかった。ソニーエリクソはCMを大々的に流したが、機器不良やキーパッドの問題(キーパッドに「;」が2つもあった)、高い値段の割にはこれといった特徴がないことから、思うようにいかなかった。それでも外資系の中ではソニーエリクソンが唯一、韓国のように機種変更の周期が早い補助金激戦地の中で生き残ったというイメージはある。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年8月5日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090805/1017643/

電子ブック市場の救世主となるか、サムスン電子と最大手書店がタイアップ

韓国に電子ブックが登場して早くも10年が経った。その間、元祖電子ブックサイトは利用者がなく倒産し、電子ブックリーダー機も中小企業から発売された1機種だけ。自治体の電子図書館の一環としてパソコンから利用する電子ブックサイトや携帯電話向けの小説・漫画コンテンツサービスとして、いくつかは生き残ったところはあるが、利用者は当初の期待に及ばない。

 何よりも利用方法が不便であった。パソコンから電子ブックを見るにもサイトごとに色んな専用ビューアーをインストールさせられた。コンテンツも少なくベストセラーの電子ブック化も遅かった。


 そこへ登場したのがサムスン電子と韓国最大手書店「教保文庫」である。電子ブックに最適化された端末「SNE-50K」の発売と同時に、本より60%安い値段で2500冊の電子ブックをダウンロードできる「デジタル教保文庫」をオープンした。年末まで1万冊、毎年1000冊ずつアップデートしていく計画だ。教保文庫オンライン事業本部側は、「新製品の発売により電子ブックユーザーが増え、韓国の電子ブック市場は2006年の2100億ウォンから2010年に1兆600億ウォン、2012年には2兆3800億ウォンへ成長する見込み」だと語る。サムスン電子と教保文庫の組み合わせに刺激されたオンライン書店とリーダー機を製造する中小企業のタイアップも急速に進んでいる。




サムスン電子は、韓国最大手書店と組んで電子ブック市場を開拓していく

「パピルス」というプロジェクト名で今年3月より期待を集めたサムスン電子の電子ブックリーダー機SNE-50Kを見ると、Amazonの端末「Kindle」より、小さく安くすることを目標にしたようだ。画面の大きさはポケットサイズの5型で、厚さは9mm、重さは片手で長時間持っても苦にならない200g、メモリは専用ファイルに変換すると400冊を保存できる512MB、電子ペーパーを採用しているので外光が反射して画面が見辛いといったこともない。電力消耗も少なく、5秒ごとにページをめくったとすると4230ページまで連続利用できるという。

 電子手帳機能を備えるので、スケジューラーとして使える。ファイルをBMP形式に変えて表示する機能もある。リーダー機としては初めて専用ペンで紙に文字を書くように手書きしたメモを保存する機能がつく。だが、本を読みながら線を引いたり、付箋を貼ったりはできない。無線LAN機能がないため、パソコンに接続してコンテンツをダウンロードする必要がある点は不便。端末価格は33万9000ウォン(約2万6000円)である。端末は教保文庫のオフライン店舗またはWEBサイトから購入できる。


 サムスン電子は「電子ブック市場は、まだ初期段階なので目の前の利益よりも、先行者利益を狙っている」、「2010年には無線LAN機能を備えた、もっと便利な端末を発売する」としている。

携帯電話にもファイルビューアーや、電子ブックを読む機能はついているし、ネットブックを持ち歩きながら利用することもできるので、純粋に読書のため新しい専用端末を買う人はどれぐらいいるのだろうか。SNE-50Kは電子ブックの可読性を高めるかもしれない。しかし、専用の端末まで買って読みたいと思うほどの魅力を電子ブックに感じるわけではないので、端末の良さよりも電子ブックって何がいいの? というところから攻めないといけないかもしれない。


 アメリカでの傾向を見ると、Amazonがほとんどのベストセラーを電子ブックで販売したり、端末のKindleが80万台以上売れたり、スマートフォンから電子ブックを利用する人が増えたり、Googleが全世界の図書館の本を集めてデジタル図書館を作ったりと、紙の本より電子ブックが読まれる時代になってきたともいえる。その一方、韓国では出版社や作家らが電子ブックの流通構造がはっきりせず、精算も曖昧だった点を挙げてあまり乗り気でないところがある。


 しかし、サムスン電子が電子ブック市場に参入したというニュースは、出版業界の認識までも変えられそうだ。大手企業が参入するというのは市場性が認められたという証拠でもあるので、今までは違った流通やサービスを期待している。


 サムスン電子は、Amazonと競争するため北米市場がターゲットで、韓国をテストベッドにするため先に発売したのかもしれない。それでも、消えかけていた韓国電子ブック市場に新しい風を入れてくれたのは確かだ。機能が豊富すぎるサムスン電子の携帯電話が、リーダー機普及の足をすくう可能性もあるが、サンプルを手にした記者らの反応もよかった。電子ブック市場の未来は、意外に明るいかもしれない。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年7月30日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090729/1017397/

国会大乱闘の韓国「メディア法」可決 これで何が起きるのか

全国言論労働組合のストライキ、地上波放送局MBCの番組制作中断、そして7月22日の国会大乱闘の原因となった韓国「メディア法」公布案が7月28日に議決された。これと前後して、ストライキを主導して改正反対集会を開いた言論組合の委員長が逮捕され、番組制作中断に参加したプロデューサーなど組合員に対する捜査も始まった。




国会内でもみ合う韓国の与野党議員=7月22日〔AP Photo〕



 メディア法改正案は22日、与党ハンナラ党が国会本会議で強行採決に踏み切り、賛成多数で可決された。法案に反対していた野党議員は採決を阻止しようと与党の議員と衝突し、その乱闘劇はメディアを通じ日本はもちろん世界に知れ渡った。なぜ、このような事態になってしまったのか。



■軍事政権の名残を改めるはずが・・・


 メディア法は「放送法」「新聞法」「IPTV法」のメディア関連3法の総称で、今回の改正は、(1)新聞とニュース通信社の相互兼営禁止条項を廃止する、(2)新聞社と大手企業(財閥グループ・通信会社など)による放送局への資本参加を10%まで認める、(3)新聞社と大手企業による「報道チャンネル」「総合編成チャンネル」への出資を30%まで認める――が主な内容である。これにより、メディア業界の縦割りをなくし、新規事業者と既存事業者との競争を促進することで市場や雇用を拡大するのが法改正の趣旨とされている。


 韓国では軍事政権下の1980年、「放送の公営化」を名目に放送局の統合が行われた。新聞・大手企業の放送参加は禁止され、当時の民放は全てKBSとMBCの2局に統合された。KBSは公営放送でありながらMBCの株式の7割を握る不思議な支配構造で、韓国では1991年に開局したSBSが唯一の民放である。


 李明博(イミョンバク)政権の政府・与党は、この軍事政権の名残であるメディア法の改正により、「地上波放送局を中心とするメディア市場独占をなくし、新聞社・放送局のグローバル競争力を高める」と説明する。政府は、2012年末のアナログ放送停波を特別法で明記しており、地上デジタル放送時代の競争力あるメディア企業をつくり出し、コンテンツを多様化させるために必要な改正と主張する。


 これに対し、反対する世論は、「政権と仲のいい財閥に放送を渡し、メディア業界を掌握して国民の目と耳と口を封じ込めようとしている」と批判する。野党民主党も「イミョンバク大統領寄りの新聞社に放送局を支配させようと狙っている」と依然反対しており、与野党対立の溝は深まるばかりだ。



■大きすぎる地上波放送局の影響力


 メディア法改正が韓国内でこれほど波紋をもたらした背景には、地上波放送局3社の影響力の大きさがある。


 韓国言論財団の「2008言論受容者意識調査」によると、影響を受ける媒体として地上波放送を選んだ人は57%で、新聞の8.2%、インターネットポータルサイトの21.4%を圧倒する。日本のビデオリサーチにあたるTNSメディアコリアの調査では、地上波放送の総合ニュースといえる夜9時のニュース平均視聴率はいまだに30%を超えている。


 新聞は、地下鉄駅で配布される無料新聞やインターネットの影響で自宅での購読率が激減している。インターネット新聞やブログニュースが発達した韓国だが、「地上波放送をコントロールできるものは世論をコントロールできる」とまでいわれるほどなのだ。


 そう考えると、放送市場を開放して新しい放送局をつくるべきという政府の主張も一理あるようにみえるが、韓国の歴史を振り返れば、結局は放送市場までが大手企業の利害で動かされたり、今まで以上に政府寄りの意見を放送したり事実を歪曲したりするといった懸念は抱かざるを得ない。



■MBC民営化は簡単に進まず


 では、放送局は今後どのように変わっていく可能性があるのか。


 KBSは現在、公営放送でありながら収入の6割を広告に依存している。これを「受信料8割、広告2割」にして、視聴率を意識せず質の高い番組を制作するという方針を打ち出しているが、そのために受信料を値上げするという案は視聴者に納得されないだろう。


 一方、MBCは公営放送のような株主構造でありながら広告収入に依存する民放として運営されてきた。これを変えるため、新聞社や大手企業の出資を受けて完全な民営化に踏み切ることになるといわれているが、それがストライキの原因でもあり、メディア法が改正されたからといってそう簡単にはいかないはずだ。


 今回のメディア法改正で、新聞と大手企業の参入が許可されることになった報道チャンネルとは、全放送時間の8割以上がニュースで編成されるケーブルテレビ・衛星放送向けチャンネルを指す。韓国では1993年に許可を得たYTNが唯一の報道チャンネルである。


 また総合編成チャンネルとは、ケーブルテレビ・衛星放送向けに報道、娯楽、スポーツなどどんなジャンルの番組でも放送できるチャンネルである。地上波放送の場合は放送時間が1日19時間と決まっているが、総合編成チャンネルは24時間放送が可能で、中間広告(番組の途中に入る広告)も許可されている。


 韓国では全世帯の約89%がケーブルテレビ・衛星放送を通じて地上波放送を受信している。そのため、報道チャンネルや総合編成チャンネルも地上波放送に負けない視聴世帯を抱えていることになる。新規参入が進んでチャンネルが増えれば、コンテンツ流通が拡大し、地上波放送局に牛耳られていたドラマをはじめとする番組制作や契約関係にも変化が現れるものと期待されている。



■メディア淘汰や独占加速の可能性も


 しかし、新規参入どころか、逆にメディアの淘汰や特定企業による支配の強化につながる可能性もある。韓国の放送広告は、これまですべて韓国放送広告公社という組織が審議し、各放送局に分配する仕組みがとられてきた。この公社が解散し、10年からは放送局が自ら広告を受注することになるからだ。


 テレビ広告はすでに数年前から市場環境が厳しく、新規参入でチャンネルが増えれば奪い合いはさらに激しくなる。クロスメディア広告も重視されるようになるだろう。地上波放送やIPTV、ケーブルテレビなど複数のメディアを持たない企業は広告競争で生き残れず、中小規模のケーブルチャンネルや地方民放がつぶれるのは時間の問題となる可能性が高い。


 そうなれば新規事業者の参入による市場活性化どころか、大手企業にメディア市場を差し出すことになってしまう。韓国の財閥グループはそれぞれ傘下に広告制作だけを担当する広告代理店を抱える。これが広告制作から広告営業までをカバーすることになれば、大手企業のメディアへの影響力はおのずと強くなるだろう。


 縦割りをなくせば、競争が促進して市場も雇用も拡大するとバラ色の未来を描いているが、放送、メディアというのはそうすぐに結果が出る市場ではないはずだ。地上デジタル放送への移行後も含め、この先10年、20年後のことまで見通した法改正でない限り、グローバル競争力を育てるどころか、海外メディア企業に市場を飲み込まれるだけの結果になるかもしれない。


 世界中の笑いものになった国会大乱闘までして成立させたメディア法改正であるが、一般視聴者にとっては何のメリットがあるのか。メディア市場の縦割りがなくなれば本当に雇用が増えるのか、まともな番組が増えるのか。イミョンバク大統領は、「企業への規制をなくしてビジネスフレンドリーな市場を作る」というが、国民不在のビジネスはありえない。



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年7月30日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000029072009

サムスン電子、今度はアプリストアで世界のモバイルコンテンツ市場に挑戦

「ハードウエアばかりではなく、サムスンらしいソフトウエアとアプリケーションも提供していきたい」。2009年7月、サムスン電子は世界市場向けに携帯電話向けのアプリケーション販売サイト(アプリストア)を充実させていく方針を発表した。

 2009年3月には携帯電話、MP3プレーヤー、ノートパソコンなど自社のモバイル端末サイトを「Samsung Mobile.com」として一つにまとめ、ショッピングモールやコンテンツダウンロードメニューを充実させた。いずれはコンテンツを1件ダウンロードすれば携帯電話、ノートパソコン、MP3プレーヤーで使えるようにして、他のコンテンツサイトと差別化を図りたいとしている(現在は携帯電話向け、ノートパソコン向けなどに分かれているコンテンツを一つのサイトに集めてダウンロード販売しているだけ)。




サムソン電子が展開するコンテンツ販売サイト「Samsung Mobile.com」

いつの時代にも言われ続けているが、携帯電話もハードウエア以上にソフトウエアが求められている。NOKIAやMotorolaのように携帯電話端末の製造技術だけでは収益を伸ばせないと言われている。Black BerryのRIMや、iPhoneのAppleの場合、端末販売の台数シェアが低くても、利益率ではサムスン電子やLG電子を勝っている。不況の中でも、AppleやGoogleのようにパソコンと変わらない使い方ができる携帯電話端末とソフトを熟知している会社は、このメリットを前面に打ち出してスマートフォン市場で成長し続けている。


 コンテンツの流通も大きく変化した。iPhoneが登場してから、ユーザーはキャリアよりも端末のメーカーと仲良くなり、コンテンツ流通もキャリア主導からメーカー主導のプラットフォームが勢力を拡大させている。これからのモバイル端末は、どんなコンテンツをどれだけ便利に利用させられるかで勝負がつくだろう。NOKIAやMotorola、サムスン電子がGoogleをパートナーにアンドロイド端末に積極的なのがその現れの一つ。端末そのものより端末からどんなコンテンツを利用できるのかを重視するユーザーを満足させるには、Googleを味方にするのがもっとも手っ取り早いからだ。


 韓国でモバイルコンテンツといえば、キャリアのプラットフォームを通じた公式サービスだけで、勝手サイトというものがない。iPhoneのような無線LAN機能を搭載したスマートフォンは、キャリアがデータ通信売上やコンテンツ販売に悪影響を与えるとして、嫌がられる。韓国メーカーが海外で発売している、どんなファイル形式の動画も自動変換して再生してくれる大画面携帯や大容量メモリーが使える携帯といった最新端末は、韓国国内ではスペックダウンして発売される。キャリアは長期割引、家族割引などの料金割引競争だけでも大変なのに、コンテンツ市場まで奪われてはたまらないのだろう。

サムスン電子のアプリストアも、まずはヨーロッパ向けのテストサービスとして始まった。2009年2月、まずはイギリス向けに「Samsung Applications Store」をオープンした。2009年8月末には正式サービスとする予定だが、対象地域はヨーロッパに限定される。アプリ開発者向けサイト「Samsung Mobile Innovator」と連携して、開発者個人が直にアプリを販売できるようにしている。


 サムスンのブランド認知度を利用して世界進出を狙う日本や韓国のコンテンツ会社の参加も続いている。サムスン電子の携帯電話端末の販売台数を考えると、iPhoneに負けない効果をあげられるかもしれない。それに携帯電話に限らず、サムスン電子の各種モバイル端末のユーザーにも販売できるので、マーケットは相当な規模になる。サムスンのアプリストアは韓国ではキャリアとの正面衝突を避け、今まで通り3月にオープンした「Samsung Mobile.com」にコンテンツを集める。韓国最大キャリアであるSKテレコムは2009年末APPLEのようなアプリストアをオープンする。キャリアの売上の8割が音声通話の現状からコンテンツや手数料売上を伸ばしていかないと、経営が成り立たないのだ。


 サムスン電子は「APPLEとは比べものにならないほど端末ラインアップが充実しているだけに、コンテンツを確保すればAPPLE以上に成功できるだろう」と胸を膨らませている。しかし、「コンテンツの確保」は携帯電話にインターネットがつながった10年前から言われ続けてきたこと。利用料が安くて、使い方が便利で、どんどん使ってみたくなるコンテンツを確保するのが端末製造より難しいからこそ、iPhoneの成功がニュースになるのではないだろうか。


 アプリストアを充実させたとしても、キャリアが無線LAN機能の搭載を断ったり、安いデータ通信定額制を始めてくれないと、モバイルコンテンツ市場の成長は難しい。もちろん、韓国の場合、Wibro(モバイルWiMAX)を使ったモバイルVoIP開始が予定されているため、キャリア抜きの携帯電話サービスが可能となる。しかし、ここでメーカー主導プラットフォームなのかキャリア主導なのかを争ってしまうと、コンテンツ流通の手数料の奪い合いになるだけで市場は育たない。「メーカーもキャリアも個人も共生できる『エコシステム』を作るためにアプリストアを始める」と語った初心を忘れないでほしいものだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年7月22日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090722/1017148/