韓国デジタル教科書事情(5)~利用端末は未定でも「果敢な選択と集中」を急ぐ

「韓国デジタル教科書事情(4)」から続く) から続く


 韓国政府の教育ビジョンは「先進教育学術情報化による健康で創造的人材育成」である。


 5大戦略目標として「健康な市民養成」、「創意的グローバル人材養成」、「疎通と信頼の教育文化造成」、「持続可能な教育体制具現」、「Green IT 基盤の新教育システム構築」を挙げている。そのために初等教育から生涯学習まで、個人の成長に合わせて対応できる教育環境をつくることを目指し、その流れの中でデジタル教科書が生まれた。


 少子高齢化が日本よりも早いスピードで進んでいる韓国では、持続的成長のため教育、医療、環境とICTの融合は重要な課題である。2011年韓国政府の経済活性化テーマも「融合」がキャッチフレーズだ。デジタル教科書やデジタルヘルスケアといった既存サービス+ICTの融合サービスを活性化するために政府がするべきことは、技術開発支援よりも制度改善であるとして、関連法や制度改善に拍車をかける。


 デジタル教科書にかける期待は大きい。全国経済人連合(日本経団連に当たる団体)はデジタル教科書のコンテンツ開発、教室インフラ改善などのために向こう3年間に2兆ウォン(約1800億円)が必要であるとし、塾や印刷会社、書店の雇用が減る代わりに、コンテンツ分野の新規雇用が増えることで、9000人以上の雇用効果があると予測している。


 日本の文部科学省にあたる教育科学技術部だけでなく、経済産業省にあたる知識経済部もIT融合支援策でデジタル教科書を支援している。タブレットPCやスマートTVが脚光を浴びることが予想されることから、デバイス普及の鍵となるアプリケーション開発、教育現場で使われるシステムのクラウド化、eラーニング産業としての教育情報化、リナックス基盤デジタル教科書開発などを進めてきた。





デジタル教科書端末としてはGALAXY Tabのようなタブレットパソコンが有力といわれているが、まだ公式に決まっていない。韓国では「どんなデバイスからも利用できる教科書がデジタル教科書である」としている

「eラーニング産業発展及びeラーニング活用促進に関する法律」も検討する。デジタル教科書や教育情報化に合わせてeラーニング市場全般を活性化させるために支援するというもので、デジタル教科書プラットフォーム標準化、幼稚園向け教育情報化システム支援、学校向けeラーニングシステム構築コンサルティングとシステム構築などを支援する。

 「スマートラーニングコリアプロジェクト」として、マルチプラットフォーム環境での「オーダーメイド型学習サービス」を提供するため政府はどのような支援をするべきかに関する研究も始まっている。



子ども達は自由に著作物を使えるのか?

 政府はデジタル教科書向けコンテンツ開発と著作権改訂も検討する。3D、拡張現実(AR)、ロボットなどを適用したマルチメディア教科書が期待される中、教科書のためには著作権法も改訂しなくてはならない。現状のままでは「教科書に掲載」は許可されても、それを子ども達がコピーして再編集したり、教科書専用端末ではなく家庭から見たりした場合は著作権法違反になるのか、疑問が生じる。デジタル教科書に掲載していろいろと活用できるようにしてもいいが、その分著作権料を高く払ってほしいという著作権者側の主張も納得できる。


 デジタル教科書商用化のための準備は着実に進む。2011年からは「教科書先進化」として、教科書のサイズやデザインを自由に作れるようになった。アメリカの教科書のようにサイズも大きくフルカラーの紙の教科書に解説書とCD-ROMを付録にしている。デジタル教科書に市場を奪われまいと教材出版社もCD-ROMを付録にし、アプリケーション参考書を開発して電子ブックリーダーやiPad、スマートフォンからも使えるように準備している。


 2010年の秋には科学教科書を中心に「デジタル教科書2.0」の実証実験が始まった。既存のデジタル教科書は端末にインストールして使うのが前提となっているが、2.0ではいつでもどこでもWebベースでOSも端末も関係なく使える教科書にする。この「いつでもどこでもどんな端末からも」というのが果たして便利で学習効果があるのか、といったことを学校で使わせて実験することになる。


 タブレットPCよりもちょっと画面が大きめのスマートフォンの方がいいという子どももいるだろうし、やっぱりノートパソコンから使いたいという子どももいるはず。子ども達が自分に合った端末を選んで使えるようにするというのも面白い。デジタル教科書は学校の中だけで使うものではないので、病院に長期入院している子どもや海外転勤で外国に住んでいる子どもでもデジタル教科書で勉強できるようになれば休学する必要もなくなる。


デジタル教科書はレンタル制にするのか未定

 残すは教育科学技術部の端末予算確保である。小中学校は義務教育であるため、教科書は無料で配られる。デジタル教科書であっても義務教育なので教科書は無料でないといけない。子どもに与えるのか、それともレンタル制にするのか(卒業すると返納するとか)、タブレットPCにするのか、といった具体的なことはまだ何も決まっていない。


 国定教科書発行費用を全部端末購入に使うとしても端末の仕様が決まらないので「どんな端末からも使える教科書」という定義のまま、予算策定が難しくなっている。現在実証実験に使われているヒューレット・パッカード製のタッチパネルノートパソコンは多機能で値段も高く重くて持ち歩けない。今のところはiPadやGALAXY TabのようなタブレットPCが有力とされているが、シンプルにして値段を1万円ほどに落としたデジタル教科書専用端末が必要なのではないかという意見も根強く残っている。教育科学技術部は「急いで決めずに2012年まではあれこれじっくり試したい」としている。端末選定の悩みはまだまだ続きそうだ。


 先日、韓国の教育政策を発表する場で李明博大統領は「科学技術を活用した教育」、「果敢な選択と集中」を要求した。「すべてにまんべんなく予算を配分しては、どの分野も競争力を持てなくなる」という大統領の言葉はまさに韓国の今を象徴していると言える。


 「できない人」に焦点を当てるのではなく、「優れている人」、「できる人」がさらに才能を発揮できる環境をつくらないと韓国はだめになってしまうという危機意識を国民が共有している。だから韓国は前に進むことができた。2011年も韓国はデジタル教科書やヘルスケア、スマート端末、スマートグリッドなどにおいて世界に先立ち新サービスを商用化、世界のテストベッドとして注目されること間違いないだろう。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月27日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101227/1029378/

[日本と韓国の交差点] 二兎を追う韓国企業:新規事業の拡大と経営効率の向上

2011年は市場最大規模の投資を計画


韓国では政府も企業も、「今後10年間の持続的成長を考えるとき、2011年は重要な年になる」と強調し、史上最大規模の投資を実施している。加えて、雇用拡大、人材養成や教育拡充など10年後を見据えた成長戦略を次々に発表している。

 大統領官邸である青瓦台は、韓国の2011年を展望するとき「2匹のウサギ」がキーワードであると発表した。5%の経済成長を目指す一方、物価上昇は3%に抑える。雇用を増やしながらも、休暇を楽しめるようにする。先進国と途上国の架け橋になる。青年失業と高齢化社会の両方の対策を取る。FTAを拡大するが投機資本が流れてくるのは防ぐ。こうした国政目標を発表した。


 韓国の主要企業も2011年度事業戦略を発表し、新規事業のための果敢な投資と経営効率の向上という2匹のウサギを狙っている。サムスン、LG、SK、現代自動車の4大グループはそろって、2011年に史上最大規模の投資をすると発表した。「10年後を考える」、「世界市場競争力」、「攻撃的経営」、「人材養成と雇用拡大」が共通テーマになっている。


 韓国ではどの企業も「技術発展の速度がものすごく速くなっているため、今売れている製品が10年後には市場からなくなっているかもしれない」という危機を常に強調し、長期投資の重要性を訴える。韓国が今まで取ってきた「先進国の技術に素早く追いついて、低価格で勝負する」戦略は、中国や新興国が取り始めている。中途半端なままでは生き残れない。今から「未来」競争は始まっている。



3代目への継承が、投資の拡大と人材の教育につながった

 もう一つ、韓国の財閥系大手企業が市場最大の投資に走っているのは、2011年から経営者一家の3世が第一線に立つことも影響しているようだ。最も注目されているサムスングループの場合、3世経営者をサポートしやすいよう、役員も若手に入れ替えている。3世の時代にも企業を存続させ成長を持続させるためにはどうすればいいのか? 答えは、新規事業を発掘するための投資と、ブレインになってくれる人材の確保しかない。


 サムスングループは2011年、前年比18%増の43兆1000億ウォンを設備と研究開発に投資すると発表した。主力事業である半導体や液晶ディスプレイ(LCD)の世界市場支配力を強化するとともに、新規事業への投資を拡大することで未来成長動力を拡充する。年間採用も前年比11%増の2万5000人を予定している。これは同社史上、最大の規模だ。


 LGグループも創業以来最大規模の投資を実施する、前年比11.7%増の21兆ウォンを設備と研究開発に投資すると発表した。サムスンと同じく1)主力事業の市場拡大、2)スピーディーな新規事業発掘、3)積極的な人材確保で世界市場のリーダーになるという目標を掲げている。


 現代自動車は15兆ウォンを投資する。SKグループは具体的な金額は発表していないが「前年より投資も雇用も増やす」としている。サムスンとLGの攻撃的な経営戦略は、ほかの企業にも影響を与えており、この他にも多くの企業が、投資も採用も当初の予定より増やすとしている。新規事業への投資と並んで、新興市場の攻略も重要な戦略の一つである。中近東、南米、アフリカへの進出が、より活発になると見込まれている。



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By 趙 章恩

2011年1月14日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110112/217894/

[東京留学生活] 新世界~


韓国のお正月はまだなので全然新年という感じがしません。
新型インフルっぽい風邪も経験したことですし、やっと新しい年を迎える心の準備ができたような~
新型インフルっぽい風邪は今までにない新世界を味わせてくれました。
いや~贅肉があってよかった~



– BY  趙章恩

Link
http://www.kddi-ri.jp/blog/cho/?p=251

[日本と韓国の交差点] 地震がないはずの韓国で大きな地震が増えている

韓日中で協力すれば災害被害を減らすことができる



日本での地震初体験話で盛り上がる



 韓国でも自然災害は例外ではなく、猛暑の後の大雨で家が崩れたりする災害が発生した。ただし、地震の発生回数が増えているというが、体感できるほどの揺れは2005年と2007年の地震しかない。それも、一部の地域だけだった。そのせいか、韓国人が日本に来て期待してしまう体験といえば、地震である。


 日本人は地震が発生しても、「あ~なんか揺れてるね~」ぐらいで平気でいる。なのに、韓国のマスコミは「東京南部海底で震度○.○度の地震発生! 東京都内の建物が揺れた! 韓国への津波影響は!」と大きく報道する。以前、九州で大きな地震が発生した際に、釜山地域で少し揺れを感じたことがあったからだ。


 韓国人が日本を訪れて、初めて体験する地震は恐怖そのもの! なにせ、建物が揺れるのだ。特に高層ビルがキーキーという音とともに揺れ続けるあの恐怖は、かなりスリリングである。日本に住んだことのある韓国人が集まると「私の地震初体験」話でかなり盛り上がる。


 ほとんどの韓国人が初めての地震を体験したとき、しかも震度3以上の揺れを感じたときには「死ぬかと思った」と笑顔で喜ぶ。「揺れを感じたとき、あまりにも驚いて会議中だったのに悲鳴を上げてしまった」、「3~4秒の揺れなのに30~40分にも感じられた」、「テーブルの下に潜り込むべきか悩んでいるうちに地震が終わった」などなど。


 こう語るとき、なぜかみんな笑顔になっている。韓国人が日本の「地震初体験」を笑顔で語れるのも、日本は地震対策がしっかりしていて安全と信じているからだ。



韓国でも地震が増え始めた



 「韓国ではこんな体験できない」なんて思っていたにもかかわらず、韓国もついに地震の安全地帯ではなくなったという。


 ここ20年の間に、震度3.0以上の地震が174件発生している。2010年2月にはソウルの西側で震度3.0の地震が発生した。ソウル市内では、敏感な人が2~3秒ほど揺れるのを感じたという。リゾート地で知られるチェジュの海でも地震発生が増えている。


 1978年には5回しかなかった地震が2009年には80回以上に増えた。東海岸を中心に震度3.0以上の地震が5回以上起きている。韓国気象庁が観測を始めて以来、最大の震度記録は震度5.3である。1980年1月、北朝鮮の平安北道で発生した地震だ。これに次ぐものとして、2007年1月には北朝鮮に近い江原道で震度4.8、2004年5月には慶尚北道で震度5.2を記録している。



「近くの軍隊で爆弾でも爆発したのかと思った」



 2005年3月には福岡の北西45キロの地点で発生した地震の影響で釜山地域のマンションが大きく揺れ、一大騒動になった。釜山では、50階近い超高層マンションが海沿いに並ぶ。室内の灯りが大きく揺れたり、エレベーターが止まったり、額縁が落ちるなどの影響があったようだ。はっきりとした揺れを生まれて初めて感じた住民らは、建物の外へと逃げ、「死ぬかと思った」という恐怖を味わった。


 「韓国には地震がない」という安心感があったので、地震が発生したときにどうすればいいのか、訓練したことがなかった。だから、とにかく建物の外に逃げる、ということしか頭に浮かばないのだ。この地震では火災も発生している。工場が密集した工業団地では余震に備えて、非常勤務の人員を配備したほどだった。この揺れはソウルにまで届いた。


 2007年の江原道の地震でも戸惑いは大きかった。このときの音と揺れは激しく、住民らは「近くの軍隊で爆弾でも爆発したのかと思った」という感想を漏らした。固定電話も携帯電話もつながらなくなった。消防や気象庁への問い合わせの電話が殺到したからだ。



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By 趙 章恩

2010年12月24日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101222/217680/


2010年、韓国の年末商戦キラーアイテムはやっぱりこれ

国民の半分以上がキリスト教の韓国ではクリスマスは祝日である。韓国にもサンタさんは存在して、クリスマスイブの夜にプレゼントを枕元に置いてくれる。クリスマス当日の午前は教会や聖堂に行き、それから家族または恋人同士で遊ぶ、というのが典型的なパターンではあるが、「今年もクリスマスはホーム・アローンの再放送と一緒に部屋でゴロゴロ…」という人も少なくない。それでもクリスマスは街のイルミネーションを見たりキャロルを聞いたりするだけで心が躍るもの。

 今年は11月から雪が降り始め、足首まで積もるほど。旧正月にするお歳暮とは別に、クリスマスにも家族や知人にプレゼントをする。寒さが早くやってきたせいか例年より早く10月末ぐらいからもうクリスマス商戦が始まった。


 この年末は去年に比べかなりゴージャスになったような気がする。景気回復なのか、まずイルミネーションが派手になり、ホテルのクリスマスパッケージも去年に比べ豪華になった。ヨーロッパ王族のようなクリスマスパーティー、ニューヨーク本場のクリスマスパーティーのプランなどを売り出した。アイドルが歌うクリスマスキャロルのデジタルシングルやコンサートの話がネットをにぎわせているのをみると、やっぱりこのクリスマスは景気がよくなったのかな? と思わずにいられない。


 韓国でも広告代理店やマスコミ、研究所などが「2010年のヒット商品」というタイトルでランキングを発表する。ここでヒット商品として挙げられた商品のほとんどがクリスマスや年末年始のプレゼントとしてまた売れる。


 2010年のヒット商品はなんといってもスマートフォン! 誰も文句がつけられないほど売れまくった。

韓国の年間携帯電話端末出荷台数は2500万台前後である。一方、スマートフォンはこの1年間に700万台近く売れた。これは2009年に予想していた200万台の3.5倍の数字である。2011年は1500万台以上と見込まれているので、新しく携帯電話端末を購入する人の6割がスマートフォンを選択するということになる。


 ヒット商品ランキングでもほぼすべてのランキングで1位がスマートフォンだった。売れた商品も欲しい商品もスマートフォンというほどの盛り上がりだ。サムスンのGALAXY SとアップルのiPhone 4が人気を二分していて、媒体のヒット商品としてはGALAXY Sがよく紹介されており、「2010年クリスマスに欲しいのは?」といったユーザーアンケートではiPhone 4が1位、iPadが2位だった。


 販売台数では11月末時点でGALAXY Sが約180万台、iPhone 4が約72万台、iPhone 3GSが約90万台なのでGALAXY Sがもっとも売れていると言える。前者2つは未だに予約しないと手に入らないほどの人気だ。いつもアイデアで勝負する携帯電話端末ベンダーのパンテックは、ここ数年これといった人気端末がなかったが、スマートフォンでは次々に新機種を発売し、出す機種すべてヒットを飛ばしている。海外ベンダーのスマートフォンもどんどん発売されるようになった。ベンダーが増えることで競争も激しくなるので、ユーザーにとってはありがたい。






2010年ヒット商品第1位はスマートフォン、そして年末商戦でじわじわ台数を伸ばしているのがタブレットPCである。写真はキム・ヨナ選手が1日中GALAXY Tabを手放さず生活するという内容の話題のCM

ブログを運営する人は相変わらず多く、1000万画素以上の小型デジカメ、一眼デジカメもよく売れている。毎年行われるインターネット利用実態調査によると、韓国のネットユーザーの約半分は自分のブログまたはSNSサイトを運営しているという。韓国のブログを見ていると写真や動画をネットに載せるのが好きで、自分撮りするのはもっと好きな人をよく見かける。クリスマスのイルミネーションがきれいだからと、あの重たい一眼を片手にぶるぶる震える手で自分撮りしている女性を結構見かけた。手ぶれ防止機能が付いているから大丈夫なのかな?人に撮ってもらうときれいに写らないから嫌なのだとか。


 3DTV、スマートTVもヒット商品に選ばれていた。一度アプリケーションを購入すれば、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVからコンテンツを利用できるようにつながるのはとても便利である。韓国ではデバイス普及のためにはまずコンテンツから、という政府の支援戦略により、自治体や公共機関が開催するアプリケーションコンテストをよく目にする。スマートTV向けアプリケーション公募もあったので、スマートTVはこれから盛り上がるだろう。楽しみである。


 韓国では芸能人の影響力が絶大で、ドラマに登場したブランドや人気芸能人が身に着けたという商品は飛ぶように売れる。2010年は米国の音楽プロデューサー、Dr. Dreのヘッドホンがそうだった。地下鉄や街中でDr. Dreのヘッドホンを首にかけたり耳にかけていたりする人をやたらと見かける。元々有名ブランドではあるが、3万5000円くらいする高価なものだけにそう簡単に買えるものではないはずだが、スマートフォンユーザーが増えて移動しながら音楽を聴いたり動画を見たりすることが増えたせいかもしれない。韓国では10~20代だとイヤホンよりヘッドホンを使う人が多い。季節的に耳をカバーして温めるという効果もあるし、ファッションの一部だからだ。Dr. Dreは芸能人のプライベート写真によく登場するせいもあり、音質を追求するというよりファッションとして真似て買う人の方が多いかもしれない。ネットショッピングでも売れ筋商品としてよく紹介される。



世界的に「エコ」がブームなだけに、韓国でも省エネエアコンや省エネ冷蔵庫といったエコ家電が売れた。韓国人の生活に欠かせないマストアイテム!「キムチ冷蔵庫」も省エネ+多機能になっているので、毎年のように買い換えたくなる。キムチが発酵しすぎないようにちょうどいい温度で新鮮に保ってくれる上水分を逃がさないので、野菜も長持ちするという機能が人気で売れ始めたキムチ冷蔵庫は、年間100種類以上の新製品が発売されているほど熱い市場だ。


 冷蔵庫とは思えないほど派手なデザインにワインセラー付き、飲み物を取り出しやすくしたホームバー付き、化粧品冷蔵庫付きなど、キムチだけを保存する冷蔵庫ではなくなりつつある。キムチ冷蔵庫はキムチを大量に漬ける秋によく売れるが、お母さんへの年末年始用プレゼントとしても喜ばれている。







母へのプレゼント、主婦の自分へのご褒美としても人気の高いキムチ冷蔵庫。一家に1台はある韓国人のマストアイテム


IT製品以外の売れ筋を見てみると、寒いだけに発熱素材の下着もヒットしている。日本では「食べるラー油」が流行ったと聞くが、韓国では「生マッコリ」が大ヒットした。冷蔵流通で新鮮に、収穫されて1年経っていないお米だけで作るという高級化を図ったのが生マッコリ。既存のマッコリとは違って、牛乳が置いてある冷蔵コーナーで販売される。このほかにも健康食品やオーガニック系のものが売れている。高くても健康にいいものを選ぶようになった人が多いのをみるとやっぱり景気回復なのかも…


 韓国では2011年にはスマートフォンとタブレットPCの競争がさらに激化すると予測されている。この調子だと2011年の年末商戦でもスマートフォンが1位になる可能性が高い。「スマート」をキーワードにしたアプリケーション競争も熱い。今年のヒット商品ランキングにアプリケーションはなかったが、2011年はもっとも売れた商品の一つとして特定のアプリケーションが紹介されるかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月29日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101227/1029360/

韓国デジタル教科書事情(4)~「サイバー家庭学習」で、自主的な学習習慣を付ける

韓国がデジタル教科書実証実験を始めたのは2007年。それまでに15年近く、デジタル教科書のための教育情報化システムを整え、教師と学生のICT利活用能力を高め、教師の研修を義務化して定期的に行ってきたことを前編で紹介した。今回は、「デジタル教科書」と両輪で子ども達の学習を支える「サイバー家庭学習」のシステムを紹介する。

 韓国政府は所得や地域の格差なく公平に、誰でも質の高い教育を受けられるようにと「サイバー家庭学習」を全国16の自治体と一緒に開発し、小中高校生向けに提供してきた。「デジタル教科書」が学校でタッチパネル端末と電子黒板を利用するマルチメディア教材だとすると、「サイバー家庭学習」は家のパソコンから子どもが一人で使う教材と言える。






サイバー家庭学習は自治体ごとにサイトが分かれる。画面はソウル市のサイバー家庭学習サイト



 サイバー家庭学習は小学4年生から高校1年生までを対象に、インターネット経由で教科書の内容を復習したり、問題を解いたり、動画を見たりして、子ども達が基礎学力を高められるよう設計されている。国語、社会、数学、科学、英語の5科目を中心に「基本(基礎)」、「理解(普通)」、「深化(優秀)」という3段階のレベルに分けてコンテンツを提供。子ども一人ひとりの利用状況を分析して、どんな問題をよく間違えて、どういうところを補うべきなのかといった学習診断をするのはもちろん、学校の教師がサイバー担任として登場し、質問に答えたり、ビデオチャットで解説したりしてくれる。学校の教師はサイバー上でケアする学生の数や優秀クラス選定などの評価項目に沿って、毎月1~2万円ほどの手当てをもらう。


サイバー家庭学習の目標は、子ども達が自ら勉強する習慣を身に付けること。無料なのでお金がなくて塾に行けない、または農漁村で塾がないので行けないといった格差を感じることなく、インターネットさえつながっていれば利用できるというのが特徴である。2種類あり、各自治体が運営する「サイバー家庭学習」(2004年開始)と、小学生・中学生・高校生・保護者・教師に分けて教育資料と教育情報を提供する「EDUNET」(1996年開始)がある。これらのサービスはスマートフォンからも使える。








サイバー家庭学習はスマートフォン向けアプリケーションとしても提供されている。利用料はPC向けと同じく無料。スマートフォン向け表示の例







スマートフォン向け表示の例2。利用料はPC向けと同じく無料




子ども達の自主的な学習習慣を支援



 デジタル教科書は、教科書にいろんな参考資料をリンクさせることで、子どもが興味を持って集中できるようにした。さらに、画一的な授業ではなく一人ひとりのレベルに合った学習を可能にするのが特徴の一つであるため、このサイバー家庭学習とは両輪で、同じ目標を共有するシステムであると言える。


 どんなに素晴らしいシステムだとしても、一人で自主的に勉強できる習慣が身に付かない限り、デジタル教科書だけがある日湧いて出たように普及しても学習効果は見込めない。例えば、韓国の大手学習塾がアンケート調査をしたところ、小学生の46%が「勉強の仕方が分からないので塾に行きたい」と答えたそうだ。サイバー家庭学習は、子どもが自らこんな勉強をしてみよう、教科書のこの項目がよく理解できないからこの動画を見てみよう、といった具合に、自主的な学習習慣を支援することで、デジタル教科書との相乗効果を狙う。


 サイバー家庭学習は、韓国教育科学技術部(文部科学省に相当)の資料によると、2010年8月時点で会員数約312万人、サイバー担任約12万人、チューターとして参加する大学生が340人ほどいる。また、このサービスを利用している児童・生徒の81%が、成績が良くなった、勉強が面白くなった、など学習のためになったと答えている。

2009年末時点で家計の教育費を見てみると、サイバー家庭学習を使うことで子ども一人毎月7000円ほど学習塾代を節約できたとしている。大学受験に命がけの教育熱の高い韓国だけに、収入の70~80%を子どもの教育に使う家庭も少なくない。科目ごとに違う塾に通い、英会話やピアノといった習い事まで合わせると教育費だけで毎月子ども一人少なくても8万円はかかるので、10%近い7000円の節約はうれしい。


 韓国はこれら家庭用教育サービスを提供するために2005年から2010年2月まで100億円近い予算を使っている。ここからさらに発展し、ソウルの江南区をはじめ一部区役所は年間3000円ほどで利用できる有料外国語学習サイトや大学受験向けカリスマ講師動画サイトをオープンし、住民に喜ばれている。


 サイバー家庭学習におけるこのような取り組みが評価され、2007年にはUNESCO教育情報化賞、2010年には教育分野の国際機関IMSの Learning Impactで大賞を韓国は受賞している。


 韓国は共働きで両親が家にいない。そのため勉強の面倒を見てやれないので子どもを塾に行かせることも多い。学校では教室にあるIPTVを経由して子ども達が教育アニメを見たり、教科書の内容と関連のある動画を見たりする「放課後教室」も運営する。これには通信事業者も社会貢献活動としてスポンサーとなっている。通信事業者が派遣したボランティアの大学生が放課後教室の先生になったりもする。


 デジタル教科書や教育情報化のために教育科学技術部や通信事業者、IT企業だけががんばっているわけではない。知識経済部(経済産業省に相当)も関連政策を発表している。韓国ではこのような新しい教育サービスに必要なのは「技術よりも制度改善」が合言葉になっている。(次回へ続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101224/1029343/

スマートグリッドの標準を握れ 世界最大規模の実証実験進む

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日経エレクトロニクス 2010/12/27号

ワールド・レポート from 韓国
スマートグリッドの標準を握れ 世界最大規模の実証実験進む



趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


昔から「風,石,女性」が多い三多島とも呼ばれてきた,朝鮮半島の南に位置する済州(Jeju,チェジュ)道(図1)。韓国でも有数の観光地であるこの島が,2010年11月8~14日の間,スーツに身を包んだ,世界からの訪問客でにぎわった。彼らは米国,日本,中国,インド,ロシア,英国など世界12カ国から訪れた,スマートグリッド関連の政府担当者や企業の代表者たち



続きは日経エレクトロニクス(2010年12月27日号)で

[日本と韓国の交差点] FTA政策に見る日韓の温度差

「同盟」強化のために毒素条項を飲むのか?

北朝鮮による延坪島砲撃の後、韓国は軍事訓練を強化し、北との緊張関係が続いている。そんな中、週末のテレビで「韓米FTA電撃妥結」の速報が流れた。韓米FTAは、2007年6月に合意したものの、米議会が批准しないまま3年以上膠着状態にあった。しかし両国は追加交渉で合意。ついに山を越えた。両国の国会が批准した後、2012年1月1日に発効する予定だ。

 よく知られている通り韓国は、輸出入がGDPの69.8%(2006年)を占めている。対外交易への依存度が高いのだ。韓国にとってFTAは、以下の目標を実現するため重要な国家戦略である。関税を安くして、輸出入で競争力を持つ。安定した市場を確保しつつ、新しい市場を切り開く。



韓国経済界は合意を歓迎

 韓米FTA追加交渉は、「韓国が損をするだけの再交渉」として問題となっていた。米国は韓国に対して、韓国産自動車に対する輸入関税を撤廃する時期の延長や、環境・安全基準の緩和を求めていた。関連業界の反発が予想されたが、「韓国自動車工業協会」、「全国経済人連合」、「大韓商工会議所」などの団体は次々に「韓米FTA追加交渉合意歓迎、早期批准を望む」という声明を発表している。


 韓国の経済界は韓米FTAを歓迎している。完成品の自動車に対する関税撤廃は延期されたものの、自動車部品については、FTA発効と同時に4%の関税が撤廃となる。韓国の中小企業の輸出が伸びるだろう(対米輸出品目4位、2010年1月~10月33.6億ドル)。自動車は現地生産も多いので、関税撤廃が延期になっても、韓国が受ける打撃はそれほど大きくはない(対米輸出品目2位、2010年1月~10月 韓国の対米輸出43万台 現地生産32万台、2009年通年 韓国の対米輸出45万台、米国の対韓輸出6500台)。


 加えて、電気自動車の関税撤廃が前倒しとなり、新しい市場を開拓するチャンスが広がった。米国の輸入関税は現行の2.5%から徐々に減らし、5年目から無関税となる。米における韓国産自動車のブランドイメージアップにつながる。



韓国のもう一つの狙いは投資家の懸念を払しょくすること

 北朝鮮との緊張が高まる中、対韓投資リスクに対する外国人の懸念を取り払うためにも、韓米FTAで強い同盟関係をアピールする必要がある。譲れるところは譲って米との関係をうまく持っていきたいという思惑がある。


 オバマ大統領も李明博大統領も追加交渉での合意を「両国がWIN-WINできる基盤が整った」、「両国の同盟とパートナーシップが強力なものであることを見せた」と評価している。韓米FTAのキーワードは経済効果よりも「同盟」に焦点が当てられているように感じた。


 オバマ大統領は「韓国とのFTAが米国の輸出拡大と、雇用増大に効果がある」と強調していた。関税撤廃を延期することで自動車の現地生産を増やし、米内の雇用を高めたいという狙いもあったのだろう。



韓国にとって得か損か? 予測はさまざま

 韓米FTAがもたらす経済効果はとても高いと言われている。対外経済政策研究院が2007年4月に発表した分析は、韓米FTAは、米国以外の国とのFTAよりも経済効果が高く、GDPが10年間で6%増加すると見込んでいる。デパートなどでは「韓米FTAによって米のブランド品が安くなる。米製品を韓国に集めて観光客に売れば儲かる」と期待する声もある。輸入品が安くなるので1世帯当たり月間3000円ほどの生活費を節約できるという推定もあった。



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By 趙 章恩

2010年12月15日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101213/217516/

韓国デジタル教科書事情(3)~教科書だけではない、すでに仮想現実の授業も実施

「韓国デジタル教科書事情(2)」から続く)


 韓国の学校では、学校の告知事項も、先生からの宿題も、宿題を提出するのも、テストの成績を確認するのも、全部ネットで行われている。一部学校は保護者向けに教室の様子をネットで配信しているほどだ。透明で公平で「見える教育」にしないといけないという考えと、IT大国らしく、親も子どもも「ネットの方が何かと便利」という考えから生まれたものである。


 環境は整っている。子どもたちは、家に帰ったら自宅のパソコンからネットへアクセスして予習・復習をし、宿題はネット上にある先生のページに登録する。


 デジタル教科書実証実験学校の場合は、デジタル教科書でどんな勉強をして、学生ごとにどんな学習効果を得られたのか、学習過程をすべてネットで公開している。当初、デジタル教科書を使うと紙の教科書よりも目が悪くなるのではないか、電磁波の影響で背が伸びなくなるとか子どもの成長に悪影響を与えるのではないか、インターネットにつながっていないと不安になるネット中毒になってしまうのではないかなど、保護者はいろいろ心配した。しかし学校側が健康診断や心理検査も行い、学習効果を毎日測定して公開した結果、そのような悪影響はないことが判明し、保護者も安心して実証実験を楽しみにするようになった。


 韓国のデジタル教科書はどんな端末からも利用できるマルチメディア教材として開発されている。中身は日本の構想とあまり変わらない。基本的に紙の教科書をデジタル化して、重要なキーワードには動画や画像・アニメ、百科事典などがリンクされている。リンクをクリックするとそのキーワードを分かりやすく説明してくれる参考資料が登場するので、参考書を別途買わなくても教科書の中で全部解決できる。


 韓国では、デジタル教科書を2013年より全国で商用化することを目指している。その前の段階として、2011年から紙の教科書+CD-ROMが配られる。CD-ROMにはデジタル教科書が入っていて、学校の電子黒板や自宅のパソコンで利用できる。


 子ども一人にパソコン1台という状況ではまだないので、電子黒板にデジタル教科書を表示させ、マルチメディアを利用した授業を行う。今までは先生がデジタル教材サイトから動画を検索してオリジナル資料を作成して電子黒板に表示していた。デジタル教科書実証実験学校では、子ども達の理解を高めるためデジタル教科書に追加して、さらに先生と子どもたちが教材サイトで見つけた動画や写真を付け加えて発表したりして面白くインタラクティブに授業をしていた。先生と子どもたちが一緒になってマルチメディアを活用しさらにアレンジしている――。ここが韓国の教室で起こっている、面白いところではないだろうか。

日本では事業仕分けによって揺らいでいる「フューチャースクール」であるが、韓国では持続的に政府が投資している。デジタル教科書に限らず、教室を丸ごとアップグレードし、先端的な教育環境を実現するための投資である。その1つに、「U-class(ユビキタスクラス)」という名前で行われている実験がある。VR(仮想現実)を使う教室のことだ。


 RFIDによる出欠管理、マジックミラー、電子ペン(手書き内容をデータとして保存)、電子黒板、電子教卓、タブレットパソコン、個別学習管理システム、個別コンテンツ管理システム、酸素発生器(空気洗浄+集中力を高めてくれる酸素を供給)などの設備がそろう。


 例えばRFIDによる出欠管理では、子どもたちが机の上にあるカードリーダーに自分のICカードをかざす。それが出席チェックとなり、それぞれの場所が先生の電子教卓に表示される。出席チェックと同時に「今日の気分」も選択する。内気で先生にあまり話しかけることができない子どものために作られたもので、「今日は落ち込んでいる」、「今日は具合がよくない」といった項目もあった。これを見て先生が子どもの状態を把握して先に話しかけたりできるようにしている。授業中に発表する人を決めるときは、ICカードに登録された子どもたちのキャラクターを登場させ、抽選を行う。楽しくゲームのように授業に集中させる仕掛けの1つだ。




子どもたちが使うICカードとカードリーダー。出欠管理に使う。授業に参加できるようキャラクター情報も持つ

U-class実証実験を体験できるショールームで英語の授業を見せてもらった。


 クラスの壁一面がスクリーンになっていて、先生が教室の真ん中に立つとスクリーンの中に先生が入っているように立体的に映し出される。この日の授業は外国の友達を家に呼んでパーティーをするという内容で、先生の隣には外国人の子どものキャラクターが数人登場、一緒に英語でおしゃべりをしながら授業を進める。キャラクターの頭の上には「のどが渇いた」とか「おなかが減った」などのメッセージが表示され、教室の子どもたちはこれを見つけては素早く英語で話しかけて対応しないといけない。実際に外国人と会話をしているような仮想現実を体験することで、より英語を身近に感じさせるのが目的である。







先生がスクリーンの中に入り込んでいるようにみえる。仮想現実の登場人物と英語の授業を行っている最中だ


また電子黒板も2Dから3Dにアップグレードしていた。科学の授業では先生の心臓の位置に3D画像の心臓が映し出され、子どもたちの理解を高めていた。


 このVR教室は未来のものではない。政府のIT科学技術開発シンクタンクがある、ソウルから2時間ほど離れた大田(テジョン)市の小学校12校で既に導入済みだ。英語や科学などいくつかの科目の授業が行われているという。(次回に続く)





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月13日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101210/1029069/

韓国デジタル教科書事情(2)~電子黒板は当たり前、10Gbpsネットワークで教室情報化

「韓国デジタル教科書事情(1)」から続く)


 韓国ではデジタル教科書以前からも、NEISやサイバー家庭学習サイトを通じて子どもが学校で何をしてどんな勉強をして、どう学力が向上しているのか、よくできる部分と補うべき部分を分析してネットで保護者に公開している。これは高い教育熱に少子化の影響から、自分の子どもが一番という(モンスターペアレント化する)保護者が増えてきたことで、保護者が学校や教師に不満を持たないよう「見える教育」にするという意味もある。


 また熾烈(しれつ)な大学入試競争の中で、所得の格差による教育の格差、地域差による教育の格差をなくすのもデジタル教科書の役目である。教科書に参考資料がリンクされているので、高い参考書を買わなくても済む。また塾がない山間、離島に住む子ども達もマルチメディア教材を使って個別学習ができるので、塾のある都市まで通う必要がなくなる。長期入院、海外滞在中もデジタル教科書を使えば遠隔授業ができるので休学することなく進級できる。もちろん、教科書改訂を迅速にできるのもメリットだ。



電子黒板とマルチメディア教材を「10Gbps高速学校LAN」で利用しやすく



 デジタル教科書をさくさく動かせるよう教室のネットワークは政府が投資して学校LANを構築し、2010年は実測で全国平均50Mbps、教室の中にはIPTV、電子黒板、パソコンがあり、教師が作ってきたマルチメディア教材で授業を行っている。学校LANの速度は固定で10Gbpsにアップグレードする予定で、一部大学では10Gbpsが導入された。デジタル教科書実験学校でなくても、電子黒板を使った授業は当たり前のように定着していて、教師も教科書の内容に合わせて動画や写真を準備する。


 もちろん、デジタル教科書や電子黒板をより教師が利用しやすいようマルチメディア教材を提供するサイトもたくさん登場した。中でも2009年デジタルコンテンツ大賞を受賞したI-screamは教師向けの教材サイトで、全国小学校教師の98%が有料会員(2010年11月時点)というほど利用されている。教科書の内容に合わせた動画、写真、音楽、テキストが用意されているので、国定科学教科書60ページと検索すればそれに合わせた教材が登場するほど便利になっている。教師はその素材を使ってパワーポイントなどでオリジナル教材を作り、電子黒板で授業を行う。


 教師のパソコン保有率は98年ごろから100%を超えている。教師一人に1台、教室に1台、授業用ノートパソコン、PCルームにもパソコンがあるので教師だけでなく子ども達も既に一人1台、学校でパソコンを使える環境近づいている。


 小学校だけでなく中学・高校でも電子黒板は広く利用されている。黒板を使わず教師はマルチメディア化された教科書を電子黒板に表示させ、タッチ式で重要なところに指で線を引きながら、時々音声ファイルや動画を再生させながら、授業を進める。






高校でも電子黒板を使った授業は当たり前。仁川 デゴン高校の英語の授業では、先生が一方的に教えるのではなく、マルチメディア化された教材を活用して一緒に問題を解きながら解説を加える。学生のレベルに応じて教材を選択、優等クラス、標準クラスに分けて授業を行う


「英語」学習熱もデジタル教科書を後押し



 韓国でデジタル教科書が話題になり始めたのは「英語」とも関連が強い。国際競争力を高めるために英語は必須ということで幼稚園から英語を教え、私立小学校では1年生から英語と中国語を教えている。公立小学校でも3年生から正規授業として英語を教えるようになり、これを1年生からに変えようとしている。


 全国の小中高校には英語のネイティブスピーカーの教師が数人ずつ派遣されている。学校の英語授業に教師は2人以上、つまり、文法は韓国人の教師が担当し、会話や発音はネイティブスピーカーに学ぶ構成になっている。デジタル教科書を使ってマルチメディアを活用すれば、ネイティブスピーカーがいない地方の学校でも都市の学校と変わらない英語教育環境を整えられるのではないかと期待された。デジタル教科書の英語科目には学生が英語を録音し、その波長を分析してネイティブの発音に近づくよう個別指導してくれる機能もある。



スマートフォンやモバイル端末は中高生に必需品



 韓国の教育熱の高さは日本でも有名だろう。高校生になると夜10時まで学校で自習し、それから塾へ行くほどだ。いつも電子辞書、音楽再生、動画再生などの機能があるPMP(Portable Multimedia Player)を持ち歩き、休み時間にはEラーニングで勉強を続ける。韓国ではスマートフォンやモバイルデバイスが教育のためにもマストアイテムになっている。







デゴン高校の学生たちが休み時間や自習時間に活用しているPMP(Portable Multimedia Player)。ほとんどの学生が持っていて、教育放送のインターネット講義を見ながら受験勉強しているという。韓国では2011年の新学期向けにPMPが5型タブレットPCへと進化、それに向けて商戦が始まっている


2009年11月に発売されたiPhoneを追うようにSamsungのGALAXY Sが登場し、海外勢のスマートフォンも出揃ったことから韓国は一気にスマートフォン普及が加速し、2010年9月時点で500万台突破、年末には当初の予測の3倍である600万台を突破しそうな勢いである。2011年には1500~1600万台、携帯電話加入者の約3分の1がスマートフォンを使うとまで予想されている。

 韓国政府は経済的に貧しい、地方に住んでいて周辺に塾がないといった理由から教育の機会を子どもが奪われないよう、公営放送である教育放送のWebサイト上で大学入試講座動画を無料提供している。ここからセンター試験の問題が出題されることから、全国の高校生はほぼ全員この動画を見ている。そこで必要なのがPMPだった。電子辞書も音楽・動画再生機能も搭載されたスマートフォンが登場してから、PMPは無線LAN機能を搭載した学習用5型タブレットPCへと進化した。無線LAN機能経由で教育放送の動画をダイレクトにダウンロードできる機能が目玉となっている(PMPはPC経由でダウンロードする)。(次回に続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月2日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101130/1028847/