韓国デジタル教科書事情(1)~15年かけて築いてきた教育情報化が花開く

日本でここ最近脚光を浴びているデジタル教科書。2015年までに子ども一人に一台タブレットPCを支給し、紙ではなくマルチメディアの教科書を使って授業し、学校でも家庭でも高速モバイルネットワークを使っていろいろな教育コンテンツを見られるようにするというもの。子ども達が重いランドセルを背負うこともなく、教科書をクリックするだけで百科事典や動画、写真、ニュースなどの参考資料も一緒に見られるので学習効果も高まると期待されている。もちろん、紙を使わないのでエコという点でもデジタル教科書は来るべき未来であり、子ども達のためにも早期に実現させるべき国家政策と言える。

 日本ではデジタル教科書というとタブレットPCや情報端末を先に思い浮かべるが、韓国ではその逆で「どんな端末からも使える教科書」を想定して中身の開発に力を入れてきた。個別学習、個別指導・評価を可能にするインタラクティブな教科書にするために必要な教材、端末、ネットワークが必要で、そのためにはどんな技術を開発すべきなのかに関して議論が続けられてきた。






仁川 トンマク小学校で使うデジタル教科書実験用端末と教科書画面。教科書は家庭のパソコンからも利用できるので端末は学校においたまま使うが、予習復習は家庭にいながらもできる。学校からの告知や宿題の提出などもすべてネットを経由して行う



 韓国の文部省である教育科学技術部の定義を見ると、デジタル教科書とは「学校と家庭で時間と空間の制約なく利用でき、既存の教科書に、参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーション、仮想現実などのマルチメディアで統合提供し、多様な相互作用機能と学習者の特性と能力、水準に合わせて学習できるように具現化された学生向けの主な教材」としている。つまり教科書の内容をデジタル化して、有無線ネットワークを利用してその内容を見て聞いて書きこんで読めるようにしたものであり、どんな端末やどんなネットワークからも利用できないと「デジタル教科書」とならないので、端末はタブレットPCだけに縛られない。


 また、デジタル教科書はデジタルネイティブ世代に合わせた効果的学習ツールとして脚光を浴びているが、小学生だけでなく、生涯教育の第一歩として導入したいとも考えている。

韓国のデジタル教科書は既に1996年から構想が始まった。それから約15年、デジタル教科書を導入するために国は導入のバックグラウンドとして学校情報化、校務情報化、教育行政情報化、家庭学習情報化を進め、学生の学習情報を記録、分析して保護者に公開するシステムをオープンした。2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入するのを目標に、2007年から600億ウォン(約48億円)を投資して小学校を中心に実証実験を始めている。


 これまでの過程を振り返ると、学校情報化、デジタル教科書構想、教員情報化研修が1996年に始まり、1997年には学校総合情報管理システムが始まっている。これをアップグレードした校務情報化システムとして2002年にNEIS(National Education Information System)が始まった。NEISには子どもの成績や個人情報が記録され、保護者も実名確認をすればいつでも自分の子どもの情報を閲覧できる。このデータが大学に渡されるので大学入試の願書は100%電子化された。


 NEISによってバックグラウンドがある程度固まったところで、デジタル教科書の開発も始まった。小学校5、6年向け英語と数学から実証実験が始まり、2007年には正式に国家戦略として「デジタル教科書商用化推進計画」が発表された。


 2008年から全国の小学校20校を対象にデジタル教科書商用化のための実証実験が始まり、Windows基盤に続いてオープンソース・リナックス基盤教科書開発も始まった。また、「IPTV放課後教室」といって、共働きの家庭のためのサービスも始まった。授業が終わってから家に帰っても誰もいない、経済的事情で塾に行けない子ども達のために、放課後学校でIPTVを使ったEラーニングを利用できるようにした。これも教室のネット環境が超高速ブロードバンドだから実現できたことである。







仁川 トンマク小学校ではデジタル教科書と電子黒板を連動した授業が行われている。紙の教科書と同じ画面が映し出され、タッチすると次々に動画やアニメなどで作られた参考資料を表示。子ども達の学習効果を高める



 2009年からは実験学校を132校に増やし、デジタル教科書が本当に学習効果を高められるのかを研究する「教育情報化成果測定指数開発」にも着手した。


 2010年には教員能力評価制度が実施され、同僚教師・専門家・学生・保護者が教師を評価する。子どもの目線からは、デジタル教科書や電子黒板といったIT機器類をうまく活用して面白く授業を行う教師の評価が高くなっていくだろう。韓国の教員採用試験は700倍とも900倍とも言われる超難関であるため教師のレベルも高く、電子黒板やマルチメディア教材を制作できるようにする研修は義務化されているため、教師が教育情報化についていけない、IT機器を使いこなせないといった問題が起こったのは90年代後半、最初のころだけだった。


 2011年に小中学校の英語・国語・数学の教科書がCD-ROMになり、2013年には、全国の小学校でデジタル教科書を全面的に導入することを目標とする。まだデジタル教科書の端末規格は決まっていないが、スマートフォンやiPadのようなタブレットPCが安くなっているので、デジタル教科書用に一から開発するよりも販売されている中から自由に選択するようにする可能性もある。(次回に続く)



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月26日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101126/1028811/

趙章恩氏セミナー「2011年、韓国スマートITの展望」


★ 韓国ITビジネステーマ部会 趙章恩氏セミナー
「2011年、韓国スマートITの展望」 


12月17日(金) 夜 
東京・大崎
主催:NPO法人アジアITビジネス研究会
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2010年はスマートフォンで激変した韓国でしたが、2011年はさらにタブレットPCや端末のラインアップ競争が激化し、「アップル対韓国勢」の動きが、さらに強くなると予想されます。 世界に先駆けて電子政府化をすすめ、教育、医療、国防などあらゆる分野の情報化を進めてきた韓国ですが、スマートフォン利用者の増加、社会情勢を含め、2011年のIT業界はどうなっていくか、事例と共に、お話ししていただきます。


■ 内容-


危機管理を含めスマート社会を構築- スマートフォン、タブレットPC- スマートTV、スマートグリッド- スマートオフィス- クラウドコンピューティング- 電気自動車- デジタル教科書- デジタルヘルスケア- サムスンやLGなど韓国を代表する企業の新規事業


■講師趙章恩(チョウ・チャンウン)氏
(韓国ITジャーナリスト、アジアITビジネス研究会顧問)


(プロフィール)韓国ソウル生まれ。日本で高校を卒業、韓国に帰国し梨花女子大学卒業。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネート(NTTドコモNTTデータ、各地商工会議所、経済産業省など)を 行っている「J&J NETWORK」の共同代表。2000年4月創立された、韓日インターネット ビジネス実務者団体「KJIBC(Korea Japan Internet Business Community)」会長。 KDDI総研特別研究員。韓国IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「NIKKEI NET(日経新聞)」や「日経パソコン(日経BP)」、「BCN」、「夕刊フジ」、「西日本新聞」、「デジタルコンテンツ白書」、韓国の「中央日報」や月刊誌「Media Future」等に寄稿。韓国と日本のネット事情を比較しながら、韓国IT分野の話題を分かりやすく提供している。


【連載中のコラム】日経PCオンライン Korea On The Webhttp://pc.nikkeibp.co.jp/pc/column/cho/index.html


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■実施要綱———————————————————-
日 時:12月17日(金) 19:00~20:30(18:30受付開始)
会 場:東京都南部労政会館 第6会議室品川区大崎1-11-1ゲートシティ大崎ウェストタワー2F)最寄駅:大崎(JR山手線/埼京線/りんかい線/湘南新宿ライン)より徒歩5分


地 図:http://www.asia-itbiz.com/map.htm


主催:NPO法人アジアITビジネス研究会 http://www.asia-itbiz.com/


定 員:60名(申込先着順)参加費:1,000円(当日、会場受付にてお支払いください)


※お申し込み/お問い合わせ先氏名と所属先、部署・役職、ご連絡先を明記の上、事務局・田所までメール info@asia-itbiz.com でお申込ください。事前申込必須です。 
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◇12/17(金) 19:00~ (韓国ITテーマ部会 参加申し込み)———————————————————-氏名:会社名:部署/役職:TEL:e-mail:———————————————————-

[日本と韓国の交差点] 北朝鮮による延坪島砲撃:私が見た仁川の光景(後編)

韓国に生まれたことを後悔させないで

前回から続く


 北朝鮮の延坪島攻撃で、海兵隊の若い兵士17人が負傷した。そして、徴兵で軍に入ったばかりの2等兵が1人、徴兵を満了し除隊するまであと1カ月だった兵長が1人、戦死した。亡くなるのはいつも、徴兵で入隊した20歳そこそこの青年である。


 海兵隊の工事現場で5カ月も家族の元を離れて働いていた民間人も2人亡くなった。12月2日には工事を終えて、郷里に帰るはずだった。「砲弾の音が聞こえるけど大丈夫」という電話が最後だったという。「犠牲者は砲弾の破片によって出血多量で亡くなった」という発表に、砲撃のすごさを知った。民間人の犠牲者は遺体の損傷が激しくDNA鑑定する予定だという。


 住民が撮影した写真や動画が次々にネット上に公開されている。砲撃を受けている真っ最中の軍部隊の様子も公開された。自分の国でこんなことが起きるなんて、怖い。悲しすぎる。



避難した住民を出迎えたのは報道陣だった



 延坪島は漁業の島で、今はちょうどカニのシーズンである。しかし、ブログには「砲撃が止んだとしても怖くてもう延坪島には戻れない」という住民の声が並んでいる。知人からも「村の修復にも時間がかかるだろうが、いつまた北朝鮮が砲撃してくるか分からないあの島ではもう怖くて住めない」といった話が伝わってくる。住民らは当然のことであるが移住を求めている。島から逃げてきた避難民の保護、生業を失った漁民の生活対策も大問題になっている。


 状況も把握できないまま防空壕で一夜を明かした島民に対して、これといった対策はなかった。あれだけ北朝鮮の陣地から近く、海上での軍事衝突を経験していながら、延坪島には防空壕があるだけで防空壕の中には非常食糧も水も電気も何もなかった。一睡もできなかった住民らは、砲撃の翌朝、漁船に乗って陸である仁川へ逃げてきた。


 島から避難するためには船が必要だ。海洋警察の船が迎えに来るのを待てない住民を、民間の連絡船が運んだ。この騒ぎの中でもしっかり有料だった。命がらがら逃げてきた住民を迎えたのは取材陣であった。



「これからどうすればいいのか?」 島の住民に対するケアは準備されていなかった



 6時間かけて陸に到着した延坪島住民に、健康診断はもちろん、食事すら提供されることはなかった。自治体の役人(延坪島がある仁川オンジン郡庁)はとにかく「親戚の家に行くか、近くのチムジルバン(韓国の健康ランド)に行け」と言うばかりだった。チムジルバンの大広間に何百人かの住民を収容しただけで、何があったのか、これからどうすればいいのか、を説明することもなかった。


 しかも、このチムジルバンの場所と毎日の食事ですら、政府が用意したのではない。チムジルバンの社長が好意で提供したものだった。政府は11月30日時点で、個人の好意に甘え、島の住民をここに置き去りにしているのだ。こんな状態でありながら、国会では11月26日、歳費の5%値上げを議決している。政府よりもチムジルバン社長の方が頼りになる今のこの事態を、どう受け止めたらいいのか。


 砲声や煙で耳鳴りがしてのども痛いという人が多いのに、政府も郡庁もこれといった処置を取らなかった。子供の学校はどうすればいいのか? これからどこに住めばいいのか? 生業はどうなるのか? 郡庁の役人は何の答も持っていなかった。


 北から攻撃があった場合に住民をどう避難させ、生活をどう支援するのか――というシナリオが全くなかったということなのか? 疑問だ。砲撃から1週間以上が経過してやっと、政府は被害救済特別法の制定を検討、医療費や生計費支援のための特別予算を組んだ。郡庁は11月30日に、ようやく慰労金――中学生以上1人100万ウォン(約8万円)、小学生以下50万ウォン(約4万円)――を支給し始めた。移住計画や住民の今後の生活については、まだこれといった結論がなく話し合いが続いている。


 住民の心配はもう一つある。住民たちは、ペットや家畜を残したまま避難した。水もなく餌もないまま、飼い主の帰りを待っている。住民はこうした動物たちの命も助けてほしいと願っているが、放置されたままだという。ある市民団体が郡庁に問い合わせたところ、「担当部署がない」との回答だった。


 延坪島は韓国民の盾となって犠牲になった島である。物質的な被害も大きいが、それよりも心理的被害は計り知れない。この騒ぎの中で人間の命が優先されるのは当たり前だが、住民の心理的被害を最小限にするために、島に残されたペットや家畜の命も守ってほしい。
 少しでも早く普通の生活に戻れるよう、移住対策や生活支援をしてほしい。



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By 趙 章恩

2010年12月3日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101201/217355/

[日本と韓国の交差点] 2010年、韓国で最もはやった言葉は「世界がみつめています」

流行語の多くはネットが生んだ「宇宙語」



 2010年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補に、「iPad」や「~なう」などと一緒に、「K-POP」が選ばれたことが韓国で話題になっている。K-POPとはKARA、少女時代、Bigbangなど韓国のアイドルグループが歌う歌謡曲のことをいう。


 1980~90年代、韓国ではJ-POPが大ヒットした。英語を混ぜた歌詞、歌手の衣装、振り付けなど、韓国の歌謡市場に大きな影響を与えた。植民地支配のわだかまりがまだ強く残っていた時代なので、「日本の歌が好き」なんて言おうものなら「親日家」とレッテルを貼られ、ものすごいバッシングを受ける時代だった。韓国では、「親日家」と呼ばれることほど恐ろしいことはなかった。


 ただし、表向きには「反日」、「日本が植民地支配を心から謝罪するまで許さない」なんて雰囲気だったが、裏ではMade in Japanが最高級品とされ、日本のドラマや映画、ファッション雑誌をリアルタイムで手に入れるのがセレブの証であった。


 2002年「日本大衆文化開放」によって日本の歌手の来韓公演がぞくぞく始まった。日本映画の上映も増えた。ケーブルテレビでは日本のドラマが放映され、J-POPのプロモーションビデオがよく流れた。日本のアイドルが来韓する際の空港出待ちは、日本におけるヨン様に負けないほどの数が集まる。ただし、こっそり楽しむという刺激がなくなったせいか、今はJ-POPや洋楽よりもK-POPが圧倒的に人気がある。


 このため、日本の流行語大賞候補にまでなったK-POPの動向は韓国でも大きなニュースとなっている。日本のポータル検索サイトのキーワード上位に韓国のアイドルの名前がランクインした。日本の音楽アルバム販売の歴史を塗り替えた…といった具合に話題は絶えない。



G20がもたらした流行語「世界がみつめています」

 それじゃ2010年韓国の流行語にはどんなものがあったのだろうか。


 今年はなんといってもG20に関連する流行語が大人気を集めた。11月11~12日にソウルで開催されたG20のために韓国中が1年近く大騒ぎした。世界の首脳というお客様を迎える国として「国格」を上げなくてはならないと、「エチケットを守ろう」とか、「外国人には自分から先に声をかけ親切にしましょう」とか、テレビのキャンペーンがすごかった。


 同じ時期にAPECを開催した日本の警備なんかやさしいもの。ソウル中が警察と軍人で囲まれ大変だった。そんな中、G20会場からも遠く静かな住宅街である西大門に、区役所の名前でこんなポスターが登場した。


 「世界がみつめています。ソウルG20 首脳会談期間中、生ごみの排出を自制してください。11月10日~12日は、世界的国際行事G20の成功と快適な周辺環境のために、生ごみの排出を自制くださるよう協力をお願いします」


 これを見た市民たちはネット上にパロディーを掲載し始めた。「世界がみつめています。お母さん夕食のおかずがチゲだけというのは自制してください」というのは、ある高校生の書き込みだ。このほか、「世界がみつめています。カップルはいちゃつくのを自制してください」、「世界がみつめています。CO2を減らすために息を自制してください」、「世界がみつめています。サービス残業は自制してください」。学園祭が行われたある大学では「世界がみつめています。先生、学園祭の期間中に課題を出すのを自制してください」などなどが広がっていった。


 G20公式Twitterを名乗るなりすましTwitterも登場し、「世界がみつめています。ジャージ姿で外を歩くのは止めましょう」との書き込みがあった。これを本当だと信じてしまった人がたくさん居て騒動が起きたりもした。北京オリンピックでは、外国人を意識した政府が市民の日常生活を規制したことが話題になった。「パジャマで街を歩くな」。「道端に洗濯物を干すな」。韓国でもそれに近いほど滑稽な自主規制があったために、あんな嘘でも政府の仕業だと信じてしまったのだ。



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By 趙 章恩

2010年11月25日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101124/217237/

[日本と韓国の交差点] 北朝鮮による延坪島砲撃:私が見た仁川の光景

インスタントラーメンや水の価格が急騰


頭が真っ白になるとはこういうことだったのか。

 ニュースを聞いた瞬間は何が何だか分からなかった。


 戦争が始まるのか?


 その恐怖だけでニュースに集中することもできないほどだった。


 まさか、北朝鮮が軍事的に攻撃してくるとは想像もしなかった。
 休戦状態ではあるが、韓国人の多くは「同じ民族同士で殺し合う戦争はもうしないだろう」と信じ、ずっと平和ボケしていた。しかし、北朝鮮にとって韓国は同じ民族ではなく、敵でしかなかった。世襲を守るため、体制を守るため、いつでも攻撃できる相手だったのか。「韓国は北朝鮮を攻撃することない。何があっても戦争を避ける」との確信から攻撃を決めたのか。


 北朝鮮の爆弾が韓国の領土内に落ちたのは朝鮮戦争以降これが初めてだという。だが、砲弾は、民家が集まっている住宅街の中に落ちた。畑や海で生業に励んでいた住民は、空から降ってくる砲弾に驚き、逃げ回った。海に落ちたものまで含めると100発以上の砲弾が打ち込まれた。1700人ほどが住んでいた延坪島は足の踏み場もないほど破壊され、山が燃えた。



午後2時34分 ソウル:いつもと変わらないソウルだった

 11月23日午後2時34分、北朝鮮が仁川の延坪島に向けて、海岸砲と曲射砲を1時間17分ほど発射し続けていた間、ソウル市内はいたって平和だった。漢江はいつになく緑色に輝き、遊覧船がゆっくり通り過ぎていった。空は晴れて真っ青、ソウルの北にある山が手に取れるほど近く見えた。


 日本人観光客や中国人観光客を乗せたバスが何台も光化門の免税店前に止まり、ガイドさんたちが一休みしていた。いつもの平穏な一日であった。延坪島はソウルから遠いとはいえ、韓国領土内である。韓国の領土が北朝鮮によって攻撃されているのに、緊迫した様子は全然なかった。


 私がそのニュースを聞いたのはタクシーの中だった。観光客でごった返す明洞の近くで取材を終えてタクシーに乗ると、運転手さんに「戦争が起きるかもしれないよ。早く家に帰ったほうがいい」と言われた。


 タクシーの中で地上波DMB(韓国のワンセグ)のニュースを聞きながら、何をどうしたらいいのか、頭がくらくらして手が震えた。黒い煙しか見えない映像。アナウンサーは「北朝鮮が砲撃してきた。しかし、何がどうなっているのか状況は把握できていない」と繰り返していた。その声を聞きながら窓をのぞくと、ソウル市内は何事もなく、人々の表情にも変化がない。みんなニュースを聞いてないのか?



仁川:インスタントラーメンやミネラルウォーターの価格が急騰

 仕事場のある仁川に着いたら、雰囲気は全然違っていた。ここは延坪島から近い。北朝鮮の海岸砲や曲射砲の射撃距離内に入る地域が多いだけに、不安も身近なものとなる。


 「仁川空港も狙われているのではないか」。
 「日が暮れるとまた攻撃が再開されるらしい」。
 「仁川市民に避難令が出るかもしれない。どこに行ったらいいのか?」。
 とあちこちで電話をする声が聞こえた。


 スーパーでは早速、インスタントラーメンとミネラルウォーターの値段が急騰し始めた。
 品切れになる店も続出した。


 大手流通スーパーマーケットの調査によると、インスタントラーメンとミネラルウォーターの23日の売り上げは、前週同曜日比でそれぞれ44%、31%増えたという。延坪島から近い仁川松島店(筆者の仕事場がある地域)はラーメンの売り上げが2倍、ミネラルウォーターも77%増えた。


>>次ページ 予備役を招集」とのデマがSMSに流れる 
   



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By 趙 章恩

2010年12月1日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101130/217331/

韓国 ITジャーナリスト趙章恩氏が語るスマートフォン/タブレットPC市場の最前線(日本語講演)


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第9回 TSR セミナー開催のご案内==============================================================
韓国 ITジャーナリスト第1人者の趙章恩 氏が語るスマートフォン/タブレットPC市場の最前線(日本語講演)━━━━━━━━━━━━
タブレットPCという新しい領域を引っ張ってきた米Apple製の「iPad」の販売伸張がここに来て、第1次の踊り場に入ってきたのではないかとも言われている。
「2ndバージョン iPad」では新機能を付加し、再び上昇カーブを維持できるのか、混沌としてきた。
一方、Samsung Electronicsの「Galaxy Tab」の販売が好調であり、7”クラスの製品も確実にひとつの世界を造りつつある。
2011年はさらに、各国政府の方針やサポートのもとでタブレットPCやスマートフォンの新機能付き新製品開発が激しくなり、多くのメーカーから販売されることで、シェア競争が激化する。
これらの背景を踏まえ、2011年の展望として ”Samsung をはじめとした韓国メーカーvs Apple” など、事例を紹介しながら日本にとって参考になる点を分析したいと思っております。


Ⅱ.【基調講演】 11時~   
韓国 IT・FPD業界における国策支援と将来展望(仮)     
~ Samsung、LG、Appleの戦略 ~             


ITジャーナリスト兼KDDI総研究特別研究員           
 東京大学大学院学際情報学府博士課程                   
趙章恩(チョウ・チャンウン)氏


◆◆開催概要◆◆─────────────────────────
■タイトル   第9回 TSRセミナー 『FPDマーケットトレンド 2011』
■日 時   2010年12月16日(木) 10:00~17:30 (質疑応答~17:55)
■会場   東京コンファレンスセンター品川
■参加費    アーリーバード45,000円+税(11/30まで)、通常価格50,000円+税


■プログラム                


Ⅱ.【基調講演】    


韓国 IT・FPD業界における国策支援と将来展望(仮)     


~ Samsung、LG、Appleの戦略 ~             


ITジャーナリスト兼KDDI総研究特別研究員            
東京大学大学院学際情報学府博士課程                   


趙章恩(チョウ・チャンウン)氏


Ⅲ. 【FPD/次世代デバイスセッション】  
Ⅲー1. モバイル用FPD、2010年の分析と将来予測~ OLED、LTPSの需要拡大に向けた各社の新規投資とFFS(広視野角化)、3D化への取り組み ~テクノ・システム・リサーチ  岸川 弘
Ⅲ-2. FPD用光学フィルムの現状分析と、今後の展開予測~大手3強偏光板メーカー vs. 新興偏光板メーカーの戦略 ~テクノ・システム・リサーチ  染谷 友規        
Ⅲ-3. LED-BLUの急拡大に伴うLED市場動向考察~スマートフォン、タブレット、TV市場の拡大に対するLEDメーカーの戦略 ~テクノ・システム・リサーチ  藤田 光貴        Ⅲ-4. LED・OLED照明市場の最新動向と将来展望~次世代に向けて広がるLED・OLED照明の新提案~テクノ・システム・リサーチ  太田 健吾       


 Ⅳ.【特別講演】    2011年FPDエリア別市場動向と展望(仮)~中国の勃興、北米の下降、日本メーカーの戦略~    ドイツ証券株式会社 マネージングディレクター 中根康夫氏 Ⅴ. ご希望者と講師との質疑応答・名刺交換(講師別コーナー) ━━━<<第9回TSRセミナー開催>>━━━━━━━━━━━━━━━


○テーマ:『FPDマーケットトレンド 2011』○日時:2010年12月16日(木)10:00~17:30(個別Q/A17:30~17:55)  


 ○セミナー詳細&申し込み: http://www.t-s-r.co.jp/seminar/index.html━━━━━━━━━━━━━━━━━アーリーバード4.5万円+税━━━━

「スマートフォンでもゲーム漬け」韓国の深刻~ゲーム中毒による母殺しに思う

ついこの間、釜山で中学3年生の男の子がパソコンゲームをやめるよう注意する母親を殺して自殺し、小学生の妹が遺体と遺書を発見するという痛ましい事件が起きた。家族の証言によると自殺した中学生は学校に行く、食事をする、トイレに行く以外はゲーム漬けの生活で、深夜2~3時までオンラインゲームを続けるほどの中毒状態であり、母親とトラブルが絶えなかったという。しかもこの中学生は専門機関よりオンラインゲーム中毒治療カウンセリングを受けていたにもかかわらず、ゲームをやめることができなかったという。

 ちょっと前にはオンラインゲームに夢中になって新生児を放置し死に至らせた親もいた。子どもがゲーム中毒になり、パソコンを使わないようにする親ともめて暴力をふるったり、殺人事件にまでなったり、自殺をしたりする。このような事件は毎年どころか毎月のように起きている。


 韓国の中央省庁である女性家族部は、夜12時以降、青少年がオンラインゲームをプレーできなくする強制的シャットアウトの内容が含まれた青少年保護法改定案を提案した。これが、事業者が選択的にシャットアウトするのはいいが強制して過剰な取り締まりはしない、というゲーム産業振興を担当する文化体育観光部の方針と衝突。国会で係留中である。


 ゲームを長時間すると面白くなくするシステムも導入されたが(関連記事)、多人数がアクセスして一緒にロールプレイングしてミッションをクリアしていくゲームだけに適用され、シューティングや一人でもできる戦争ゲームには適用されない。ほとんどのユーザーはオンラインゲームを種類別に利用しているので、このシステムが作動するとほかのゲームに移り、また次のゲームへ移るといった具合に1日中オンラインゲームを渡り歩くので、大きな効果が得られなかったという。


 韓国内では本当にゲームだけが悪いのか?という意見も少なくない。もうすぐ年に一度の大規模なゲーム展示会が開催されるだけに、年間1兆5000億ウォン(約1050億円)規模の輸出産業としてゲームをもっと評価してほしいという業界の主張もある。オンラインゲームといえばアジアでも欧米でも中近東でも、韓国産ゲームが人気上位にランクされているほどである。


 すべて悪いのは子どもを中毒状態にさせる「オンラインゲーム」と片付けるわけにはいかない教育問題、家族問題も潜んでいる。子どもがなぜゲームに溺れてしまうのか。それは家庭がしっかりしていないから、という分析にもつながるのだ。






キャリアのKTが実施している大学生ボランティア「ITサポーターズ」。オンラインゲーム中毒を克服した大学生が子どもたちにゲーム中毒の危険性を教える活動をしている


韓国の今年の大学受験試験日は11月18日。受験生のために会社員の出勤時間が1時間遅くなるこの日の試験成績で、その後の運命が決まる。いいところに就職するためいい大学に行くのではない。いい大学を卒業しても「就職」そのものが難しい。無職になれば、無所得の状態になってしまう。食べていくためにはいい大学、名門大学に入らなくてはならない。だから必死なのだ。

 こんな受験戦争の中、学校と塾だけを往復する子ども達の唯一の息抜きがオンラインゲームなのだ。こっそり塾をサボって行けるような場所なんてPCバン(ネットカフェ)ぐらいしかない。インターネットにつながったパソコンはどの家にもあるので、勉強以外のことがしたくても一人でできることといえばオンラインゲームぐらいだ。最近はインターネット経由で受験用の動画を見ないといけないからとスマートフォンを買ってもらい、ゲームばかりしている子どもが増え親を悩ませている。


 親がしっかり子どもの生活に関心を持って会話をし、パソコンを部屋におかないといった工夫をした家庭ではオンラインゲーム中毒がほとんど発生しなかったという研究もある。オンラインゲーム中毒になるのはゲームの問題ではなく生活の問題の方だとしたら、その方が深刻なのではないだろうか。


 失業率も高く働きづめで子どもと一緒にいる時間がない親も増えている。家族のために働いているはずが、子どもは毎日一人でゲームしかすることがない家庭を生み出している。大学に行かなくても就職できる社会、最低限の生活ができる給料、自分の才能を見つけられるクラブ活動が楽しめる学校生活、そういう環境が整えば少しはよくなるのでは?

韓国でネットのリテラシーを高めるということは、使い方を教えるというより中毒にならないための健全な使い方を身につけさせるということである。小中高校では年中、ネット上のエチケットを守ろう、著作権を守ろう、違法ダウンロードはやめよう、ネット中毒にならないため1時間以上連続してパソコンを使うのはやめようなど、外部講師を招いて特別授業を行っている。ゲーム中毒予防教室やゲーム中毒を改善するためのカウンセリングもいろんな市民団体や自治体が開催しているが、それでもゲーム中毒による殺人事件や自殺は後を絶たない。

 韓国情報化振興院が2009年実施した、9~39歳を対象にした調査結果では、ネットユーザーの8.5%がネットにつながっていなかったりオンラインゲームをしていないと心理的に不安になって落ち着かない状態になる中毒症状を見せていることが分かった。オンラインゲーム中毒カウンセリングを受けた青少年も2007年の3440人から2009年の4万5476人へ13倍以上増えている。


 省庁の行政安全部は「インターネット及びゲーム過多使用に対する危険性を知らせ、健康なインターネット文化を醸成する」のを目的に「インターネット中毒克服手記公募」なんていうのまで開催している。最優秀賞には100万ウォン(約8万円)の賞金が出る。専門家のカウンセリングも効果がないのなら、感動的な手記でやる気を出してもらうのもいいアイデアかもしれない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月17日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101117/1028599/

いまだ根強いIE6利用の韓国で「もう止めよう!」キャンペーンの嵐

韓国のポータルサイト「DAUM」にアクセスすると、メイン画面の右に「少女時代の特命、私のPCを守って!」というバナーが登場する。これは何だ? とクリックしてみると、この夏より全世界で巻き起こっているWebブラウザーアップグレードキャンペーンだった。

 「少女時代と一緒に新しくて安全なインターネットの世界へ! IE6はもう止めよう!」という特設コーナーまで登場し、このページからIE(Internet Explorer)8にアップグレードすると、毎日抽選で50人に映画チケットをプレゼントするという大々的なキャンペーンである。








ポータルサイト「DAUM」トップページ。右上のバナーがキャンペーンサイト。クリックすると…







少女時代を起用した「IE6はもう止めよう!」の特設コーナー


この少女時代キャンペーンでは、IE8ではインターネットバンキングが使えないといった問題もWeb標準化問題も解決されたから安心して使いましょう、という二つをキャンペーン理由として挙げている。IE6のままのPCが多いため、DDoS攻撃のゾンビーPCにされたり、悪性コードに感染したりする危険度も高いという。

 IE6はWeb標準をサポートしていないため、Webサイトで文字化けやカラーの表示が違うようになってしまう「標準化問題」があり、Webアプリケーション開発に多大な時間がかかる、そのためインターネットの発展を阻害する障害であること。IE8が登場して間もないころは互換性に問題があるとされたが、今では韓国のほとんどのサイトがIE8に最適化されていること。なのでこれからは自分のPCを守り、より便利にDAUMを利用するためにもIE8にアップグレードしましょう、というのが趣旨である。


 セキュリティ脆弱点があるIE6の利用を止めてアップグレードするよう、韓国マイクロソフトも、ほかのポータルサイトも、IT業界も8月から呼びかけてきたが、全くといっていいほど効果がなかった。マイクロソフトの調査によると、韓国で使われているWebブラウザーの98%がIE、しかもその内39.1%がいまだにIE6だという。日本のIE6利用率は14.4%、OECD国家の IE6利用率平均は6%だというから、韓国がどれほど古いままなのかが分かる。そういえば韓国はまだWindows XPを使う人が圧倒的に多かったような…


 韓国人はパソコンの買い替えをしないのか? なぜ9年も前に登場したIE6をいまだに使っているのか? 少女時代の力まで借りないと解決できない問題なのか?…といろいろ疑問がわく。

実は韓国では、IE6でないと動かない社内システム、行政・校務情報化サイトが依然あって、PCを最新版に買い換えても、わざわざブラウザーをIE6にダウングレードしていたというのだ。新しい物好きの韓国人のはずが、ブラウザーだけは仕方なく古いのを使っていたという面もあるのだ。今はだいぶ改善されているものの、一度でもブラウザーをアップグレードして痛い目に合った人はもう二度とIE6から抜け出せなくなる。


 ガートナーの調査でも似たようなものを見た。全世界でIE6だけで動くアプリケーションはまだ多く、IE6向けアプリケーションの4割はIE8では動かない。企業がアプリケーションをIE8向けにアップグレードするためかなりの費用をかけることになるので躊躇するしかない。IE6利用を止めさせるためにマイクロソフトはもっと時間をかけなくてはならないだろう。どうやったらアップグレードしてもらえるか支援する方法を工夫しなくてはならない…といった内容の調査レポートもあった。


 一昔前のActiveX騒動のつながりで、Web標準化とは関係なく古い体制を崩さない開発環境にも問題があるのではないだろうか。でもプログラマーの間では、Web標準で作って、もう一度IE6に合わせてテストしないといけないので時間もかかるし大変だと愚痴っているのだ。韓国がいまだにIE6から逃れられないのは結局ユーザーのせいなのか? とも思ってしまう。


 2年ほど前までもIE6でないと利用できないサイトがかなりあったが、2010年の今となってはIE8が標準ブラウザーのようになっている。IE6に脆弱点があるとマスコミが騒いでも、まさか自分がハッキングされることはないだろうとか、使い慣れたブラウザーなのにアップグレードしてメニューの位置が変わると面倒だからこのままでいいとか、そういう理由でずるずると使ってしまっているのかも。


 少女時代が登場する前もいろんなキャンペーンがあった。韓国マイクロソフトは慈善団体と一緒に、キャンペーンサイト経由でIE8にアップグレードした1件ごとに500ウォン、台風で家を失った姉妹のために寄付をしたこともある。最大手ポータルのNAVERも6月より「Goodbye IE6」キャンペーンを実施した。ショッピング大手のGマーケットもIE8を使ってより安全なショッピングを楽しもうとキャンペーンを行った。


 それまでのWebブラウザーアップグレードを呼びかけるキャンペーンには面倒というだけでびくともしなかったネットユーザーらが、少女時代のパワーには負けたようだ。Twitterでは「とにかく少女時代が言ってるんだからIE8に変えなくては」、「みんな少女時代の言うことは聞きましょう」とやっと聞く耳を持つようになった様子。


 韓国ではIE6からIE8にするだけでなく、FirefoxやGoogle Chromeにも興味を持ってみようというユーザー同士の呼びかけも活発になっている。2010年7月時点での世界のブラウザーシェアはIEが60.7%、Firefoxが22.9%、Chrome 7.2%、Safari 5.1%だというのに、先述したように韓国はIEが98%。これはすごすぎると思いません?


 スマートフォンとか、タブレットPCとか、3DTVとか、そういうのは新製品が飛ぶように売れるのに、ブラウザーはどうして新しいものに興味がないんだろう。ユーザーが興味を持たないから政府も企業もIE8向けにアップグレードしない、しかもIE以外ではまともに表示されないサイトを作る、IE6に戻る、の悪循環になってしまっているのかも。スマートフォンやタブレットPC向けのモバイルブラウザー競争がヒートアップしているだけに、韓国でのIE6問題は最優先課題なのかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101111/1028492/

[日本と韓国の交差点] キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(2)

 


食べ物までも中国産なしには生きられなくなる?


キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(2)




前回から続く



 9月末から10月にかけて、韓国では白菜が例年の20倍以上暴騰し、韓国人のソウルフードである「キムチ」が「金チ」になってしまうという大惨事が発生した。11月に入ってからも白菜の値段はまだ去年に比べて高い。でもキムチのない食生活は想像もできないので、他の出費を削ってでもキムチは必ず冷蔵庫に常備しておく。キムチのないラーメン、キムチのない焼き肉は想像しただけで胸やけがする。


 だめだ、想像してしまった。。。う。。。


 スーパーに行けば、同じように見える白菜キムチがたくさん並んでいる。しかし、味付けはバラエティーで、出身地や好みの辛さに応じて買えるようになっている。テレホンショッピングやインターネットショッピングでも常に人気商品の上位にキムチがある。芸能人のサイドビジネスとして人気が高いのもキムチで、料理上手と評判の女優や歌手らがこぞってキムチブランドを立ち上げた。


 白菜の塩加減から薬味までオーダーメイドできるキムチも増えている。海外輸出も好調で、日本や中国で製造された「キムチ」に対抗して、「本物のキムチ」を世界で売るためのマーケティングに力を入れている。韓国におけるキムチビジネスは一大産業であり、キムチ一筋で大手食品メーカーに成長したキムチ財閥も珍しくない。


 前回述べたようにキムジャンをしなくなったために、キムチビジネスはもっと大きくなっている。白菜価格の急騰によって自分で漬けるより買って食べる方が安くなったことから、キムチビジネスはさらに拡大しそうだ。どうして自分で漬けるより買って食べる方が安いのか、それは白菜の流通構造に理由があるという。



野菜取引の一形態「バッテギ」が価格高騰につながる



 韓国の野菜取引の一つに、「バッテギ」といって農家と産地仲介商人が畑単位で契約を結ぶ流通方式がある。収穫された野菜を取引するのではなく、この畑から収穫されたもの全部でいくら、と春ごろに契約をするものだ。農水産物流通公社によると、栽培面積の7割以上が「バッテギ」で契約されている。非常に一般的な取引形態なわけだ。


 この取引方式にすると、収穫された野菜を取引するのに比べて、農家の収入は断然少なくなる。いっぽうで、気象問題で収穫が見込み通りにいかない場合でも収入が確保できる、安心できるというメリットがある。野菜は産地仲介商人から問売競売、仲介商人、小売を経て消費者に売られる。仲介が多いほど野菜の値段は高くなるしかない。


 大手キムチメーカーや大手スーパーは産地仲介商人と取引することで安く白菜を手に入れるから、彼らがつくるキムチは私たちが自分で漬けるよりキムチも安くなる。畑ごとの取引をするようになってから、農家はより貧しくなり、都会の野菜物価はどんどん値上がりしている。当然のことであるが、営利がすべての中間仲介商人にとって、畑ごとの取引は野菜の価格を調整できる最高のチャンスである。



李大統領の4大川事業が野菜の作付面積を減らしている!?



 もう一つ、白菜価格急騰をきっかけに韓国で問題になっていることがある。それは李明博(イ・ミョンバク)政府が熱心に取り組んでいる「4大川事業」である。政府は、これからの気候変動に備え、水不足問題を解決し、生態環境を生かして地域経済も活性化させるための事業と説明している。韓国にある4つの大きな川を整備するために22兆ウォン(約2兆円)以上の予算を投入する。


 ネット上で「4大川を整備するためにその周辺を掘り起こしたりするので、農地が減り、野菜や米を育てる土地の面積が少なくなっている。これが白菜価格急騰につながった」という主張が広がった。


>>次ページ 野菜だけでなくすべての物価が上がっている 
   



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By 趙 章恩

2010年11月10日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101109/217012/