コンパニオンもアピール! 韓国最大のIT展示会、3Dとスマートフォンが目白押し

2010年5月25日から28日にかけて、韓国最大規模のIT展示会であるWorld IT Show2010がソウルで開催された。18万人が訪れた今年のテーマは「Feel IT SEE the Next」。サムスン、LG、KT、SKテレコムなど、韓国の主な情報通信企業が一堂に集まり、新製品やサービスを紹介した。

 今年はなんといっても3Dとスマートフォンが主役で、どのブースに行っても3Dテレビとスマートフォン、それに合わせたコンテンツとサービスが展示されていたほどである。


 普通の絵本に見えるのに、スマートフォンのカメラをかざすと3Dのキャラクターが登場して絵本の一場面を演じるものや、3Dで臨場感あふれるオンラインゲームとノートパソコンを展示したコーナーは人だかりで近寄れないほどだった。



3Dテレビのタワーがぐるぐる回っていたサムスンのブース


 サムスンは3Dキューブといって、55インチの3Dテレビを9台ずつ四角いタワーのように積み上げ、360度ぐるぐる回転させていた。4つの面からはそれぞれ違う3D映像を流していた。専用のメガネをかけて口をぽかんと開けて3Dテレビに夢中になっている観覧客を見るのも面白かった。会場にはメガネなしでも楽しめる3Dテレビもあった。これからはテレビに限らず、パソコンやスマートフォン、携帯電話も3Dコンテンツで勝負することになりそうだ。Googleテレビに負けない機能てんこ盛りのスマートテレビも展示していた。IPTV、3DTV、スマートフォン、すべてのデバイスから利用できるようにするというアプリケーションストア「サムスンAPPS」にも力を入れている様子。


 韓国の3Dテレビ技術は世界最強と言われているそうで、グーグルがテレビのエンジニア探しにWIS2010にやってきたことも話題になった。


 サムスンが独自に開発したOS「BADA」を搭載したスマートフォン「WAVE」や、日本でもNTTドコモから発売される予定の「ギャラクシーS」も展示され、大変なにぎわいを見せていた。サムスンもLGも「打倒iPhone!」とばかりに強烈なパワーで次々にスマートフォンを発売しているが、訪れた客の多くは「やっぱりiPhoneの方が使いやすいかも」という微妙な反応を見せていた。


韓国の3大IT輸出品目は半導体、ディスプレイ、携帯電話端末である。ところが、韓国の経済産業省にあたる知識経済部の「2010年5月輸出入動向」によると、iPhoneが発売されてから韓国産端末の輸出は前年同期比で29.2%減り、iPhoneをはじめ海外メーカーの端末輸入が128%増と大きく伸びている。韓国産の携帯電話はまだフィーチャーフォンが中心なので、世界の動向からしてこれからスマートフォンの割合を伸ばさないと収益は落ちるしかない。そのためどのメーカーもスマートフォン一色、必死になっているのだ。


 最大キャリアのSKテレコムはAndroidを搭載したスマートフォンを前面に出し、KTのiPhoneと競争。緑色をした巨大なアンドロイドのキャラクター人形に真っ赤なワールドカップのTシャツを着せてアピールしていたものの、インパクトがありすぎてちょっと不気味だった。SKテレコムは「アルファライジング」といって、キャリアでありながらも通信以外の分野で収益を上げるとしており、アプリケーションやスマートフォンを利用したモバイルオフィスなどB2Bにも力を入れている。


 KTはあえてiPhoneよりも、モバイルインターネットを使った多様なサービスを宣伝する展示にしていた。ICカードを利用する子供向け小型教育ロボットも注目を浴びた。ICチップが内蔵された絵本を目の前にかざすと読みあげてくれる。お母さんと書かれたICカードをロボットにかざすと、登録されたお母さんの携帯電話につながりロボットを利用してテレビ電話を利用できる。ロボットは防犯カメラ機能もあり、携帯電話から遠隔操作もできるので、共働きの親が一人で家にいる子供の様子を見守ることもできる。最近力を入れている電子ブックやIPTV、地域連動生活情報サービス、Wibroを無線LANの信号に変えてくれるEggも展示された。でもやっぱり一番人が集まったのはiPhoneを使って演奏するバンドが登場した時だったのを見ると、まだまだ「iPhoneショック」は続いているようだ。


 2010年はワールドカップが開催される年だけに、公式サポーターである「赤い悪魔」のTシャツを着た企業のキャラクターやイベントコンパニオンのお姉さん達が目立っていた。日本では展示会のイベントコンパニオンといえば女性というイメージが強く、展示会に出品された製品ではなく彼女たちの写真を撮りまくっている男性をよく見かける。一方、ここWIS2010ではモデルのようなイケメンが新機種のスマートフォンやノートパソコンを説明してくれるブースも登場した。


 IT展示会といっても市内の繁華街で開催されるのでアクセスがいい。そのせいか、高校生や大学生の団体、家族連れ、ランチタイムを利用して遊びに来た感じのOLや買い物途中の主婦など、入場者の年齢も職業も幅広い。女性客が多いだけにイケメンがやさしく使い方を教えてくれる新製品の宣伝は効果的だったかも。


 展示会は来年も5月に開催される予定なので、世界が注目する最先端のIT製品はもちろん、市場のように活気あふれる韓国ならではのWIS2011を見学してみるのはいかがでしょうか。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年6月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100603/1025288/

黒船を防げ! 大手集結で電子書籍が本格幕開け、政府支援も

2010年4月20日、韓国通信最大手のKTが電子書籍のオープンマーケット「Qook Book Cafe」オープンを発表した。アップルのAPP Storeと同じように、個人が書いたものでもKTの承認を得れば有料の電子書籍として販売できるようになる。電子書籍の料金回収手数料は30%で、本によって違う割合が適用される。読者は、一度購入した電子書籍をスマートフォン、電子書籍リーダー、IPTVから利用できる(今後韓国でiPadが発売されれば対応する方針)。電子書籍の値段はほかの販売サイト同様、紙本定価の6割程度となっている。

 韓国ではPC通信時代、ユーザー投稿型連載小説が大ブームになった。日本のケータイ小説のような感覚で、会話のように書き込むのが特徴。ここから小説、ドラマ、映画になった作品もたくさんある(日本でも公開された映画「猟奇的な彼女」が代表と言える)。個人の書いたものが電子書籍として流通できれば、第二の小説投稿ブームが起きるかもと期待されている。


 KTよりも一足早く電子書籍流通をリードしているのは、韓国最大の書店である「教保文庫」。サムスンと提携して電子書籍リーダー開発や端末の流通にも参加している。サムスンがこの4月に発売する初のAndroid端末「Galaxy A」には、教保文庫の電子書籍アプリケーションが搭載される。3.7型アクティブマトリクス有機EL(AMOLED)で野外でも鮮明な視認性で読めるだけでなく、8GBの外付けメモリーが使える。教保文庫で購入した電子書籍はサムスンの電子書籍リーダーとスマートフォンの両方から利用できる。


 教保文庫は10年も前から電子書籍販売のために著作権を確保してきた。2010年4月時点で6万8000冊を流通させていて、毎月1000冊の電子書籍がアップデートされている。KTも4万冊ほど公開しているが、教保文庫がベストセラーや有名作家の書き下ろしをかなり確保しているのに対し、KTは古典に近い古い書籍や雑誌がまだ多いので、これといって読みたい電子書籍がないことがネックになっている。個人が書いたものを電子書籍として流通させることで、コンテンツを増やすのがKTの狙いというわけだ。KTは電子書籍で収益を上げるというより、新しい価値を続々提供することで既存顧客の離脱を防止するとしている。


 電子書籍リーダーの価格競争も進み、1万円台で買える端末が発売された(既存の端末は3万円台)。目が疲れないよう配慮した専用端末が安くなったことで、電子書籍が買いやすくなったのも、大手企業参入のきっかけとなっている。教保文庫は8000円台の電子ペーパー端末を発売し、毎月4冊ほどの電子書籍を購入するユーザー向けに販売するとしている。さらに電子書籍販売拡大に向け、オーディオブック端末や動画ブック端末も提供する計画だという。

出版最大手のウンジン、MP3プレーヤーで有名なiRiverも電子書籍リーダー発売に合わせ電子書籍サイトをオープンした。電子書籍の流通や収益採算はまだ曖昧なため、この慣行を変えるためにも出版社自ら電子書籍流通に乗り出すべき(ウンジン)としていた。出版社58社の連合体が運営する電子書籍サイトもオープンし、通信事業者、ベンダー、出版社、それぞれが流通の覇権をめぐり本格的に競争に入ったと言える。iPadが韓国で発売される前に市場を先制し、アップルに対抗するという意味もある。


 韓国の電子書籍市場規模は2009年の1323億ウォン(約106億円。1ウォン=0.08円で換算)から2011年には2891億ウォン(約231億円)に成長、政府の支援により2014年には7000億ウォン(約560億円)に成長すると見込まれている。


 政府は2010年4月、電子出版産業育成のため、2014年まで600億ウォン(約48億円)を支援し、毎年1万冊以上の電子書籍制作を支援する。著作権の保護期間が終わった古典を電子書籍にして無料で提供することも計画に含まれている。電子出版流通の標準化、先進化、技術イノベーション、自費出版もできる電子書籍共同制作センター設立も支援する方針である。デジタル新人作家賞を新設し、電子書籍向け人気著者の育成、1000人に上る電子出版専門人材の養成、電子書籍関連SOHO支援といった項目も含まれている。


 韓国では衛生のため、大手総合病院では入院患者向けの図書館運営を電子書籍に切り替えるところも出始めている。鉄道・空港の待合室でも電子書籍レンタルを予定する。現在小学校を対象に実証実験が行われているデジタル教科書が全面的に開始されれば、電子書籍市場はもっと拡大されることは間違いないだろう。


 国内コンテンツ流通を揺るがしたスマートフォンに続いて、今度は電子書籍がコンテンツ流通を変えようとしている。世界のコンテンツを手中に収めようとするグーグルやアマゾン、アップルに飲み込まれまいと、韓国勢は手を結びがんばっている。


 韓国では国内企業のオンライン書店がシェアをがっちり握っているせいか、アマゾンは進出していない。KindleやiPadの発売計画も今のところない。それでも米企業に市場を取られまいと先行投資が活発だ。


 日本でも携帯電話から利用できる電子書籍が増え、KindleもありさらにiPadの発売もある。世界でも指折りの出版市場を持つだけに、米企業のターゲットになっているように見える。興味を持って見続けたい。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年5月27日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100430/1024639/

第1回 :4億人が利用する中国のインターネット事情

主要先進国の景気回復が遅れるなか、アジア各国の成長は止まりません。中国や韓国、インドなど、まだまだ元気な国が多いのが実情です。知っているようで知らないアジアのコンテンツビジネス事情はどうなっているのでしょうか。第1回は中国のインターネット市場について紹介します。


さらに爆発的な成長が見込まれる中国のインターネット市場


政府の検閲を理由にGoogleが撤退したことで世界の注目を集めた中国のインターネットサービスですが、インターネット利用やネットでの書き込み、ソーシャルネットワークサービス(SNS)などの利用は萎縮することなく増え続けています。検閲なんてずっと前からあったことなので、何を今さら、という感じすらします。


Googleは世界の検索サイトとしてシェアを高めていますが、中国では国民性を反映した自国企業のポータルサイトが人気を集めています。Yahoo!やGoogleといった海外サイトの中国語版のシェアは実は低いのです。


規制の多い中国だけにインターネットの利用も遅れているだろうと思ったら大間違い。インターネットが普及したのは意外と早く、1990年には「com.cn」という中国のドメインが登録され、93年から国家情報化事業が始まりました。96年にはネット接続サービスが始まりネットカフェも登場しています。


China Internet Network Information Centerのデータによると、2009年末中国のネット人口は3億8400万人、なんと前年比50%も増加しています。2010年3月にはついに4億人を突破しました。それでもまだ人口普及率では28%ほどに過ぎないというから恐ろしい勢いです。ネットユーザーの平均年齢は25歳と、世界平均42歳に比べ大変若いのが特徴です。これから爆発的な成長が見込まれているとても魅力的な市場なのです。



10倍に膨らむネット広告市場


2008年より携帯電話の3Gサービスが始まったことから、データ通信の利用者も2億3300万人に至っています。特に青少年の75%は携帯電話からネットにアクセスしていて、パソコン(69.7%)より多くなっています。検索サービスやソーシャルネットワークサイトのほとんどは、携帯電話やスマートフォン向けにも提供されています。


60の大都市市民を対象にした調査では、ネットユーザーの約7割が、暇な時にやることとして「インターネット」と答えています。インターネットにさえつながれば、音楽を聴いたり動画を見たり、ゲームをしたり、いろんな人とチャットをしたり、ショッピングをしたり、何でもできてしまいます。高速ブロードバンドも都市部では日本と変わらないほど普及しているのです。


北京、上海といった大都会だけでなく、小さな農村にもネットカフェが必ずあるほどインターネットは広く利用されています。(中国はネットカフェも人海戦術。パソコンが1000台ほどワンフロアに並べられたネットカフェもありました)。もちろん、所得の差によるデジタルデバイドは深刻ですが、情報源としてネットの役割はとても大きいのです。


インターネット広告市場もここ5年間で10倍に膨れ上がり、2009年には日本円にして約3000億円に達しました。2010年は上海万博の影響でネット広告が増加するものと見られ、2013年には約1兆7000億円規模になるのではないかと予測されています。Googleが撤退したおかげでネット広告がほかの中国勢ポータルサイトに回り、アクセス数1位のポータル「百度(baidu.com)」の2010年1~3月の純利益は昨年同期比2倍以上増加しました。広告単価も値上げされ、市場独占が懸念されるほどです。


第2回は、中国のインターネットではどんなコンテンツが人気なのか、SNSやオンラインゲームなどを紹介します。

By- 趙 章恩(チョウ チャンウン)

@nifty
ビジネス

Original Link
http://business.nifty.com/articles/asia/100601/index.htm

2010韓国訪問の年 ソウルから慶州まで無料バス! 太っ腹~

2010年は韓国訪問の年です。

http://www.visitkoreayear.com/korea/incentive/incentive_06_01_01.asp?src=image&kw=000092

まだ韓国語の案内だけですが、6月からなんと!
ソウル明洞から地方にある有名観光地まで、外国人専用の無料バスを運行するそうです!


交通費にしては5000円以上セーブできるんです。さらに、記念品に観光資料に色々ともらえるというから、なんて太っ腹な~


申請者が多い場合は抽選だそうけど、こりゃ、韓国に行くしかないですな~


日本もこういうのやってくれないんでしょうか。交通費の高い日本だけに、外国人専用といっても、大抽選会で宝くじより当たらず大混乱になるかもしれないけど。


韓国訪問の年の広報大使はヨン様とヨナちゃんです。
ポスターとか映像もいいですね~
http://www.visitkoreayear.com/korea/public/public_06_01_01.asp


慶州 ギョンジュ といえば新羅の首都、今でも修学旅行のメッカ、70年代の新婚旅行メッカ、最近は自転車旅行や立派な韓屋(お屋敷)に泊まって温泉でのんびりが人気の旅行地、日本でいえば京都のようなところです。


 


全州 ジョンジュ は芸と食の都!とっても粋なところです。本当のビビンバを食べてみたいなら全州です。あと、本当の韓定食が知りたいなら全州です。

近況報告




先日のセミナーにはたくさんの方に来ていただきましてありがとうございます。


スマートフォンの話題は私もとっても興味のある分野なので、楽しくお話させていただくことができました~~~


 


ところで、


私、驚いたことにGlobal voices from japan コラムコンテストで優秀賞を頂いてしまいました。


 


留学生が見た日本・日本人をテーマにしたものですが、私も留学生ですので、日頃から思っていたことを書いたところ、優秀賞に選ばれしまいました~~~


 


とっても重くて持って帰るのに苦労した大理石??のオベリスクと賞金を頂きました!きゃ~


日本に留学してよかった~と思いました。


研究以外の分野では順調??研究はT_Tな感じです。。。


コラムは、ネットでも公開されてます。
恥ずかしいのでリンクは・・・^^


韓国人のケンチャナヨ~(大丈夫~)に関して誤解している日本人が多いので、そうじゃないんだ!ということを伝えたかったのと、日本がんばれ!というのを伝えたかったです。



– BY  趙章恩

Link
http://www.kddi-ri.jp/blog/cho/?p=226

隣人同士で手を携え発展させたい「ヘルスケア産業」

日本でも総務省が積極的に取り組んでいる遠隔診療やICT技術を使ったヘルスケア分野。韓国ではついに国をあげての大規模なプロジェクトが幕を開けた。

 IT、BT(バイオテクノロジー)、NT(ナノテクノロジー)など最先端技術の集大成とも言われる「スマートヘルスケアサービス」を国民に提供し、その関連産業を、韓国経済をリードする新産業として支援するという政府戦略も発表された。


 スマートヘルスケアは慢性疾患の患者を対象に遠隔診療から健康管理まで行う医療サービスのことで、患者の負担となっている医療関連出費をできるだけ安くおさえ、病院に直接行くより早く的確なサービスを受けられることを狙う。


 このプロジェクトの音頭を取るのは日本の経済産業省にあたる知識経済部。最大キャリアであるSKテレコムとサムスン、LG電子とLGテレコムが代表となった2つのコンソーシアムと4つの自治体、100以上の総合・個人病院が参加する。実証実験に参加するのは、慢性疾患患者1万2000人で、実験費用だけでも政府が125億ウォン(10億円、1ウォン=0.08円で換算)、民間から264億ウォン(約21億円)、自治体が132億ウォン(約10.5億円)、合計521億ウォン(約42億円)が投入される。


 実証実験の内容は、生活空間のあちこちに付けられたセンサーと携帯電話を使って患者の健康状態を医療機関に転送する。患者も気づかないわずかな状態の変化、慢性疾患の悪化などを把握し、合併症を防ぐための治療を受けさせるもの。


 知識経済部の話だと、1万2000人を対象に臨床実験をするスマートヘルスケアはこれが世界初、ほかの国では数百人単位で行われる規模だとか。


 韓国政府は慢性疾患の治療と合併症を起こさないための管理(u-Medical)・高齢者の介護(u-Silver)・一般人の健康管理(u-Wellness)の3つの方向から支援を行うとしている。この3つを合わせてu-Health産業と呼ぶ(uはユビキタス)。u-Health産業は毎年12%以上の成長が見込まれており、これを活性化させることによって、個人病院や医院の収益改善、雇用創出効果もあるという。知識経済部の予測だと、実証実験が成功してこのままu-Health産業がうまくいけば、市場規模は2010年の約1400億円から2014年には約3000億円に成長するという。


 実証実験は2012年までの予定で、それまでにスマートヘルスケアの効果と安全性を検証し、サービスモデルを開発する。このサービスモデルは韓国内だけにとどまらず、政府がセールスマンになって電子政府システムを途上国に販売しているように、世界各国に輸出することも念頭に置かれている。


 またスマートヘルスケアのための法律や制度改定も行う。

韓国では今までに何度も遠隔診療やICT技術を使ったヘルスケアサービスに失敗してきた。その理由は技術ではなく法律に問題があった。糖尿病患者のために、携帯電話を使って血糖値を簡単に測定できる端末も2004年ぐらいに開発されたが、「これは医療機器であって携帯電話ではないのでキャリアの代理店で販売してはならない」という法律解釈のせいで、泣く泣く販売をあきらめたこともあった。

 また遠隔診療のためのシステムや通信設備はそろっているのに、医療法や薬事法などにより医師と患者が直接対面しない遠隔診療はできず、医薬品のオンライン販売や配送も禁止されていることから、ヘルスケアは「開店休業状態」と言われ続けてきた。


 韓国の離島や医師のいない農魚村では、保健所に看護士が常駐し、看護士が都市部の医師にテレビ電話をして患者の状態を説明して法律を違反しない程度で処置をして、都市の病院に送ることしかできないでいる。慢性疾患の患者は定期的に都市の病院に通わないといけないので、交通費もかかるし、行ったり来たりする時間を取られ余計疲れて症状が悪化することもありうる。


 知識経済部は今後「産業融合促進法」を制定する計画だ。いろんな技術が融合することによって既存産業のイノベーションが進み、国民の生活がより便利になると分かっていても、縦割りの法律のせいで頓挫してしまうことを防ぐとしている。


 何でもやると決めたら後は速いこの国のことだ。新しいもの好きな人が多いので、遠隔診療や携帯電話などを使ったスマートヘルスケアも、世界のテストベットとしてさまざまな最先端技術を試せるだろう。面白いことに、ヘルスケアに関しては、日本とほぼ同じ時期に同じような内容の戦略が発表されている。改善すべき法律制度も非常に似ている。日韓が良き競争相手となって、世界の医療サービスを変えていくことを願っている。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年5月20日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100520/1025013/

「無料Wi-Fi設置」が選挙公約にまで! スマートフォン競争第2幕

日本でもNTTドコモやKDDIからスマートフォンが発売(KDDIは6月上旬以降)され、アプリ長者という言葉もちらほら登場するようになり、スマートフォン競争の幕開けといった雰囲気を感じる。しかし、なんでも「パリパリ」(早く早くという意味の韓国語)の韓国では、スマートフォン競争も既に第2幕に突入している。

 発売から100日で40万台が売れたiPhoneは2010年4月末で60万台を超え、サムスンやLGなどの端末を含めると、韓国のスマートフォン加入者は180万人を超えている。携帯電話全加入者の3%程度ではあるが、今年だけでもキャリア3社から20種類以上のスマートフォン発売計画が発表されているだけに、普及は加速すると予想される。


 2009年秋の「iPhoneショック」に端を発し、以降、端末ラインアップ競争、アプリケーション競争と続き、5月からはWi-Fi(無線LAN)スポット確保競争へと突入した。


 これからスマートフォンやiPadのようなタブレットPCがさらに普及すると、何よりも高速で利用料の安いモバイルブロードバンドの需要が出てくる。4Gが普及すれば固定では1Gbps、移動しながらも100Mbpsが使えるという。3.9GとしてLTE(Long Term Evolution、2010年の商用化を目指し進められている移動体通信仕様。携帯電話でも大容量データ送受信が可能になると期待される)、Wibro(韓国が世界標準を持つモバイルWiMAXサービス)に力を入れているキャリアだが、今のところはそれよりも無料で誰でも利用できるWi-Fiスポットを確保することが競争キーワードになっている。キャリアの3Gネットワークでインターネットを利用することもできるものの、料金制に応じて利用できるデータ容量の上限がある。上限を超えた分のデータ通信利用料はとても高く負担が大きいため、ユーザーは無料で制約のないWi-Fiを利用したがる。


 Wi-Fiスポットが最も多いのは1万3000カ所を構築したKT。iPhoneをはじめKTのスマートフォンユーザーだけが無料で利用できる。韓国最大キャリアのSKテレコムは、年末までにどのキャリアの加入者も無料で使えるWi-Fiスポットを1万カ所に構築することを発表した。Wi-Fiスポットが少ないことがネックとなっていたSKテレコムは、オープンなネットワーク環境を構築するという太っ腹戦略で「スマートフォン=KT」の雰囲気から「スマートフォン=SKテレコム」へと反転を狙っているようだ。


 一定の場所でしか使えず、移動しながら利用できないというWi-Fiの問題を解決するため、Wibroネットワークをバックホールに使い、移動しながらも最大7つのデバイスを途切れることなくインターネットに接続できるようにするという。移動中に固定ブロードバンド並みの高速でインターネットが利用できるWibroは、既に首都圏と大都市にネットワークが構築されていて、KTからはWibroをWi-Fiの信号に変えるコンバーターも発売されている。このコンバーターがあれば、Wibroモデムが搭載されていないiPodやスマートフォンからも利用できるようになる。


 SKテレコムの無料Wi-Fiは、映画館、ショッピングモール、駅、空港、主な繁華街(街角)、レジャー施設、ファミリーレストラン、カフェ、ファストフード、美容院など、10~30代がよく集まる場所を中心に構築される予定だ。

一方、KTも負けじと年末まで1万4000カ所を追加して全国2万7000のWi-Fiスポットを構築するとしている。Wi-Fiの海外ローミングも始めた。しかし同社はWi-Fiスポット構築には当然お金がかかるので、他キャリア加入者にまで開放することはできないとする。Wi-Fiを無料で利用できるスマートフォン料金制もかなり高額で、もっとも安いプランであっても月4000円程度は払わないといけない。SKテレコムの「誰でも無料」発表に触発されてKTもWi-Fiを全面開放するかどうか、期待が高まっている。

 SKテレコムには、KTの高い料金制度に縛られている加入者に自社のWi-Fiを使わせることでKTの収益を落とすという戦略もあるようだ。ただ、これでは共食いになり、勝者のいない競争になってしまうのではないか心配だ。無料ということでセキュリティーが疎かになったり、メンテナンスも適当にやってしまったり、そんなことがないといいのだが。


 激化するこのWi-Fi競争はキャリアだけでなく、選挙にも影響を与えている。6月の地方選挙を前に、「地元に無料Wi-Fiを!」という公約まで飛び交っているほどだ。スマートフォンやノートパソコンさえあれば、どこでもシームレスにモバイルインターネットが使えるよう、自治体が無料で利用できるWi-Fiスポットを構築するという公約も打ち出しているのだ。


 既にソウル市の江南区は、江南駅周辺に建てられたデジタルサイネージをWi-Fiスポットにしている。自治体の住民サービスの一つとして建てられたデジタルサイネージなので、江南駅周辺ではスマートフォンやノートパソコンがあれば誰でもネットに不自由することはない。


 IT政策を担当する省庁の放送通信委員会には、無料でWi-Fiが使える地域を表示したマップを配布するという計画まである。国民が望むのであれば、より安く便利にインターネットを利用できるように支援するのが政府の役割ということである。


 スマートフォン競争はさらに第3幕へと進んでいる。KTはついに2G(CDMA)サービス中断を発表した。周波数再編という理由のほか、加入者の約16%が利用している2Gサービス向けCDMAネットワーク維持費用が年間100億円近くかかるため、2011年下半期から2Gサービスを中断。W-CDMAと3.9G、4Gへと移行し、端末もスマートフォン中心にするというのだ。もちろん、ユーザーは大反発しているが、お構いなし! ばっさり切り捨ててしまうところが韓国らしいというか、選択と集中、果敢な決断力を持っているというか。これも「パリパリ」精神か。


 スマートフォンに触発された韓国通信界の激変はまだ当分続きそうだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年5月13日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100513/1024865/

第一回GVJコラムコンテスト受賞: 「謙遜しすぎる憂鬱な日本、もっと明るく前向きになるのが国際競争力」

第一回GVJコラムコンテスト受賞者発表

優秀賞 :Cho Chang Eun(arare)

「謙遜しすぎる憂鬱な日本、もっと明るく前向きになるのが国際競争力」


日本では最近韓国の国際競争力を学ぼう、という内容の報道が増えている。日本に住む韓国人として、日本が韓国を高く評価してくれるのはうれしいが、
本当に韓国を学びたいというより、謙遜しすぎて自虐するのが好きなだけなのではないかと思うこともある。日本で誤解されているが、韓国の「ケンチャナヨ」精神は大丈夫大丈夫と責任を逃れる言葉ではない。どんなことにもめげず、元気を出すためのおまじないである。日本も「ケンチャナヨ」でもっと元気に前向きになってほしい。

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冬のソナタをきっかけに日本で巻き起こった「韓流」ブームは、韓国人の日本に対する敵対心を和らげるきっかけとなった。それまでは「日本が好き」だなんて、怖くて言えなかった。韓国を植民地支配して苦しめた日本は、競争相手であり克服すべき相手であって、好きになってはいけないという潜在意識があった。ところが「韓流」ブームのおかげで韓国のドラマや文化に興味を持つ日本人が増えたことで、韓国でも自然と日本文化に対する好感をオープンに表現できるようになった。


それどころか、韓国では「日流」、「NIPPON FEEL」と呼ばれる日本大衆文化が若い世代に広く浸透している。ベストセラーのほとんどが日本の小説で、どんぶりやラーメンといった日本の大衆食がおしゃれな外食として流行っている。日本語の「感じ」を韓国式に発音した「ガンジ」はかっこいいという意味を持つ新造語になった。


昨年末あたりから、日本の新聞や雑誌には韓国は世界市場で競争力を持っている、日本企業が世界家電市場で1位だったのに今では韓国企業にその座を奪われている、という内容の記事が頻繁に掲載されている。日経新聞が「韓国企業が強い理由」という特集を組んだり韓国を学ぼうという社説を書いたり、日経ビジネスに韓国四天王としてサムスンやLGが紹介され、「日本を真似ていた韓国の製造業が今では価格も品質も日本を越えている」という内容の特集が組まれたことも大々的に報道されている。韓国人としては韓国を高く評価してくれてうれしいというより、「何で?」というのが正直な感想だ。


日本は世界経済を動かす先進国であり、経済規模も人口も韓国とは比べにならないほど大きい。韓国企業はいつも日本企業のように優秀な技術を持ちたい、世界で認められたいと追いかけてきた。その過程で「反日」では「克日」という言葉も登場した。


韓国家電製品のほとんどは日本の部品なしでは作れないといわれている。日本が物づくり、職人気質から品質にこだわっている間、韓国はデザインと価格競争力に力を入れただけで、いつ世界市場シェアが逆転するかわからない。日本は組み立てられた製品としては韓国の勢いに押されているかもしれないが、世界電子機器の中核に日本企業がいることは間違いない。


日本では謙遜が美徳で、どんな時でも相手を立ててくれる。しかし、いつもはっきり自己主張し、人に負けるな、リーダーになれと教えられた韓国人の私からみると、日本人の中には「自虐」としか思えないほど謙遜しすぎる人が多い。特にマスコミの報道を見ているとそうだ。日本企業はすごい、日本は世界のためにこんなことをしているという報道より、日本はだめだ、韓国にも負けて中国にも負けて日本はもう危ない、と否定的なニュースばかり目立つ。


日本はアジア唯一の先進国である。アジアのリーダーとして、色んな国が幅広く公正に取引することで「共生」できる市場を作り、地球の課題となっている環境保護問題にもアジア全体で取り組めるよう盛り上げる役になるべきではないだろうか。ところが今の日本は、「もうだめだ」と自分を責めることで責任を回避しているように見えてしょうがない。


韓国の国際競争力はいつだって前向きで、謙遜より向上心が強かったからかもしれない。日本のマスコミには「物が売れない時代」、「このご時世に」という言葉が登場するが、韓国では世界は広く市場の数だけニーズがある、物は売れると前向きに考える。


日本が誤解している韓国語の一つに「ケンチャナヨ(大丈夫です)」がある。


日本では、韓国人はいいかげんで何事も「ケンチャナヨ~」といってけろっとしてしまう、とよく紹介されている。しかし、韓国人にとって「ケンチャナヨ」は、「失敗しても大丈夫。また次のチャンスがある!」という慰めであり、「こんなことでめげるものか。どんなことがあっても立ち直ってみせる」という自分への励ましでもある。これから起こることへの不安をなくしてあきらめないため、希望を持つためのおまじないのような言葉である。「リスクはあるけどきっと大丈夫。だからやってみましょう」という前向きな意味が込められている。


私は日本に来て、一度失敗するともう終わり、失敗は許されないのであえて何もチャレンジしない方がいいという話を何度も聞いた。謙遜が美徳の日本ではあるが、謙遜しすぎると周りはしらける。アジアのリーダーとして、「ケンチャナヨ!」と明るく前向きに、元気出してほしい。


日本は世界市場の中でも指折りの大きな市場である。日本が元気でないと、世界も元気になれない。日本はもうだめだなんてそんな記事ばかり書かないで、日本はこんなにすごい!と盛り上がってほしいものだ。

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Twitterや検索キーワードを悪用、あの手この手の選挙運動

韓国では6月2日、地方選挙が行われる。韓国の選挙法では選挙120日前から本人による対面名刺配布・電子メール・選挙管理委員会の承認を得た印刷物の郵送による選挙運動ができるが、他人による選挙運動は事前選挙運動として取り締まりの対象になる。

 Twitterやブログ、インターネットコミュニティー、動画投稿サイトなど、韓国人が日常的に使う情報源となるサイトを利用してはならないという、IT大国らしくない規定がある。しかし、選挙法にひっかからないよう、あの手この手を使ったインターネット選挙運動が問題になっている。


 先日は、自分の名前が検索キーワードランキング上位になるよう、有名ポータルサイトから繰り返し検索させる知識検索(Yahoo!知恵袋のようなユーザー同士の質問と答え)に自分に関する質問と人柄を褒める答えを繰り返し書き込む方法を取った選挙候補が「事前選挙運動」違反で逮捕された。「○○区選挙候補」と検索すると、自分の名前が検索結果上位になるようにしたわけだ。


 この候補はオンライン広告代理店にお金を渡して選挙運動を依頼し、代理店がアルバイトを雇ってこのようなことをしていた。さらに、代理店が100人以上もの個人情報を盗みIDを作って、ポータルサイトに特定候補を褒め称える質問と答えを書いていたことから、実名制度の穴ともいえる個人情報管理実態が問題になっている。こんなに簡単に盗まれて悪用されてしまうようでは実名制度(参考記事はこちら)の意味がないからだ。


 検察は地方選挙を前に、Twitterをはじめインターネットに特定候補に有利な印象を与えるよう宣伝の書き込みをすることを「選挙犯罪」として取り締まっている。してもいない世論調査をでっちあげて、「○○候補が支持率1位」と何十回も書き込んだ50代の男性も逮捕された。市長のメールをハッキングして選挙動向を探りライバル候補に渡した公務員もいたというから、選挙は怖い。

選挙まで約40日残した時点で、616人が立件、23人が拘束されている。数字だけ見れば2006年の選挙に比べると減っているとは言え、選挙候補だけで約1万5000人。これに関連する選挙運動組織まで含めると、監視対象はきりがない。


 選挙管理委員会は8000人規模の「選挙不正監視団」を運営している。インターネットについては250人体制で24時間モニタリングし、選挙法違反をチェックしている。このほかに警察からサイバー捜査員945人、一般市民から募集したサイバー名誉警察「ヌリカップス」1181人が動員され、インターネット選挙運動監視を担当する。


 政府の調査によると、インターネットを悪用した選挙法違反が選挙法全違反件数に占める割合は、2004年の9.2%から2010年現時点において14%にまで大きく増加している。人々のコミュニケーションが対面や郵便・電話から、インターネット、ソーシャルネットワーキングサービスへ移行しているからだろう。


 さかのぼれば2002年、「インターネットの力で大統領が誕生した」と言われたものだが、その後選挙法が厳しくなったことで、ネットの世論に押されて政権が変わるといったことはなさそうだ。それでも、韓国ではネットが世論の中心であることは間違いない。2002年当時でも紙の新聞より信頼されていたネット上の新聞であったが、2010年、Twitterが特ダネの発生地になりニュース源として、より信頼されるようになっている。選挙運動にTwitterを利用できないのは、今度の選挙が最後かもしれない。


 選挙では使えないTwitter、一方で企業では積極的に利用されている。CEOが自分の日常をTwitterでつぶやいて親近感を与えることで企業イメージアップを狙うのは当たり前。韓国の大手企業は部署別にTwitterを運営しているほどだ。最近は病院が患者とのコミュニケーションのためにつぶやいていることが話題になっている。


 韓国のへぇ~なTwitter事情もまた今度詳しくお伝えしましょう。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年4月28日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100428/1024636/

就職難で英語に命がけの韓国人、もうかるのは教育産業だけ?

韓国の就職難は昨日今日の話ではない。大学新卒で正社員にすぐ採用されるなんて「針の穴を通るようなもの」と言われるほどである。インターン採用ばかりで、3~6カ月の試用期間を経てから採用が決まる。

 最近の大学は“小学校”に戻ったとも言われる。学部は4年のはずだが、4年で卒業する学生はあまり見かけない。卒業して無職になるのが怖いからわざと単位を落としたり休学したりして5年生、6年生になる。男性は徴兵もあるから、ただでさえ大学卒業まで6~7年はかかるというのに! 就職が決まるまで卒業せずねばると、30代になって新卒ということにもなりかねない。就職難から新卒の年齢制限を廃止したこともあり、さらに大学生の「いいところに就職するまで卒業しない」主義が強まったのかも知れない。大学は授業料を長い期間取れるからもうかるだろうが、家計の負担は相当なものになる。


 毎年秋になれば日本のテレビでも話題になる韓国の大学入試風景。熾烈(しれつ)な競争を突破して名門大学に入った後は、サークル活動より、就職準備のためスタディーグループに入る。大手企業、マスコミ、公務員など志願する分野ごとにグループを作り情報を共有するのだ。このグループに入るためにはメンバーの面接があって、そのメンバーよりレベルの低い人は入れない。ここから既に就職難は始まっているようなものだ。

韓国人の英語に対する悲壮なまでの取り組みに話を移す。最近は英語でしゃべる能力まで測定するという「TOEIC Speaking」が登場し、人々を悲しませている。TOEIC Speakingは2009年12月時点で約200企業が社員評価のために導入している。


 新卒に求められるのは大手企業の場合、大学での平均B以上の成績、TOEIC800点前後、TOEIC Speakingレベルは理工系学部5、文系6以上である(TOEICのレベル別の目安はこちら)。さらに海外語学研修経験やボランティア活動証明書(何時間ボランティアしたという証明様式がある)、日本語テストや中国語テストの公認成績表を要求する会社もある。これが書類審査を通る最低条件というわけだ。


 韓国では中小企業でもTOEICの成績表は必ず要求される。そのため、90年代後半まで年間30~40万人だったTOEIC受験者数が、2009年には年間200万人に増えた。高い点数を取るために毎月テストを受ける人もいるので(私もかつてそうだった)、人数は減らない。


 ネットでは「TOEICを4、11月に受けると難易度が低くて点数が上がる」、「2月は難易度が高くて点数を取りづらい」といった口コミまで広がっている(韓国TOEIC委員会はそんなことありえないと否定している)。少しでも高い点数を取ってなんとか就職したい! と願う人達にとってこれは貴重な情報だ。一時は日本や海外でTOEICを受けるとより高い点数が取れるという噂が流れたが、ほとんどの企業が海外で発行されたTOEIC点数は認めないそうだ。政府機関に就職するためにはTOEICとは別に、韓国で開発されたTEPSという英語テストを受けなければならず、テスト受験費だけでもばかにならない。


 就職のためだけでなく、就職後も定期的にTOEICテストを実施して人事に反映する会社もあるので、油断できない。日本でも韓国のTOEIC関連本が翻訳出版されており、これが結構人気だそうだ。英語ができなくてもTOEICの点数だけは高く取るという珍現象を追体験できるかも。

日本でよく、「韓国人は英語が話せる人が多いですよね」と言われるが、それはやっぱり人それぞれ。大手商社や研究所に勤める人は流暢だけど、海外と縁のない事務職の人は英語で話しかけられるとガチガチに緊張して知っている言葉も出てこない、なんてこともよくある。


 日本語と同様、韓国語は英語と語順が逆なので、韓国人にとって英語は本当に難しい。Pagodaという大手英語教育機関の調査によると、これだけ勉強しているのに、韓国人のTOEIC平均点数は意外にも低くて600点台前半。受験者の目標とする850点とは200点以上も差がある。TOEIC900点なのに書類審査で落ちた、なんていう話を頻繁に聞いたのでもっと平均点が高いかと思っていた。この理想と現実の差を埋めるため、どんな不況でも英語関連産業はもうかる一方だろう。Pagodaの調査では外国語勉強時間は1日平均で1時間30分、外国語取得のために使う費用は月平均14万ウォン(約1万2000円)だった。


 TOEIC対策の英語スクールやEラーニングサイトはいつも大繁盛で、iPhoneのApp Storeの人気アプリも英語辞書や英会話、TOEIC関連のものが多かった。日本ではあまり見かけない動画再生機PMP(portable multimedia player)が普及しているのも、英語のため、Eラーニング動画を見たり電子辞書を楽に使ったりするためである。


 英語ができるとその分いろんなコンテンツを楽しめるし、情報の量も広がる。ネット検索でもこれは使える、と思う情報は英語が多い。しかし今の韓国は英語に重みを置きすぎているように感じる。人々にものすごいストレスを与えているからだ。


 韓国では、学校の成績とTOEIC点数を重視する採用方式はそろそろやめるべき、という声も出ている。少子化で生産人口は減っているはずなのに、就職難は増すばかりである。大学生らが大手企業ばかり目指し、中小企業には就職したがらないからと政府は言うが、それは当然だ。給料の格差が大きすぎる。就職や勉強のために使った費用を回収するためにも、急騰する物価のためにも、若者は大手企業を目指すしかない。


 企業は人材を養成する場ではなく雇う場、即戦力のある人しか採用しない、といった恐ろしいほどの競争社会はいつまで続くことやら。何事もほどほどにしないと、跳ね返りも大きいからね。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年4月22日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100421/1024435/