業務時間外のメッセンジャーでの連絡が大問題に、禁止に立法化も検討中の韓国

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韓国で、SNSなどに付属する無料のメッセンジャーを仕事で使うかどうかが、大きな論争を巻き起こしている。

 韓国では、2016年6月時点で国民の9割がスマートフォンを使い、加入者のほぼ全員がカカオトークやLINEなど無料メッセンジャーを使っている。チャットもテレビ電話も無料で利用できるからだ。メールより手軽ですぐ確認できるので、韓国では家族や友達同士だけでなく、取引先とも気軽にメッセンジャーで連絡を取り合うことが多い。

LINEでどしどし仕事の連絡をする上司が激増

 しかし、便利であるがゆえに問題が発生した。四六時中メッセンジャーで連絡してくる上司に、ストレスを感じる人が増えている問題である。自宅に帰った後でも休日でも、上司から「この前の添付ファイルもう一度送ってくれ」とか「今すぐ報告書を修正してくれ」「会議の日程を教えてくれ」といったメッセージが送られてくる。返事をしないと、後で何を言われるか分からない。こうなると、事実上無休で自宅勤務、時間外勤務をしているようなものである。

「業務時間外の業務指示カカオトーク禁止法」を提案した「共に民主党」のホームページ。
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 やっかいなのは、グループチャットである。韓国の会社ではよくチーム別にグループチャット部屋を作り、告知を流したり連絡を取り合ったりする。しかしオンライン匿名掲示板では、メッセンジャーによる悩みを書き込む会社員が後を絶たない。例えば、「部長がグループチャットに残した冗談やどうでもいい書き込みにすぐ返事をしなかったからといって、課長から仕事の意欲がないとののしられた。スマートフォンやめてガラケーに戻りたい」といった具合だ。

 韓国労働社会研究院が、6月中旬に公開したデータによると、アンケートに答えた人の86%は自宅に帰った後も業務目的でスマートフォンを使用し、週当たり平均11時間をメッセンジャーで指示された仕事に費やしていた(製造業とサービス業勤労者2402人を対象に調査)。

指示された仕事の内容は、メール受信・発信、ファイ…
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.7.5

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/062900095/

Googleと韓国政府が地図データめぐり綱引き10年 国外持ち出し禁止は解けるか

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Googleと韓国政府が、韓国の地図データをめぐり対立を続けている。

出所:123RF

 Googleは6月4日、韓国の地図データを米国に持ち出せるようにしてほしいと、国土交通部傘下国土地理情報院に要望書を提出した。Googleは、詳細な地図データを使ってリアルタイム交通情報提供、ナビゲーションサービスを改善するとしている。

 国土地理情報院は、国土交通部長官と関係機関長を集めて審議会を開き、Googleの申請日から60日以内に返事をしないといけない。Googleは2007年にも同じ申請をしたが、最終的に韓国側が断った。

 海外旅行をする際の必需品となっているGoogle Mapsが、韓国でだけ使い物にならないことに対する不満も多い。何年も前から話題になっていたが、例えば外国人観光客が集まる明洞でGoogle Mapsの徒歩ナビを利用すると、目と鼻の先にある場所なのにバスに乗れと案内されたり、壁を貫通して前に進めと案内されたりする。


韓国版Google Maps
Googleと韓国政府が対立して詳細な地図データを確保できなかったことから、徒歩ナビを提供できていない。明洞駅からロッテデパートまでの道のりを検索すると、このような結果になる。
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安全保障上の理由で地図データは国外持ち出し禁止
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  章恩(ITジャナリスト)

 

日経パソコン

2016.6.15

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/061500094/

[日本と韓国の交差点] 北朝鮮の労働党大会、韓国はどう見たか?

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北朝鮮の朝鮮労働党が第7回党大会を平壌(ピョンヤン)で開かれている。1980年以来、36年ぶりの大会である。

 韓国メディアが報道した金正恩第1書記の発言内容をまとめると、以下の通りである。

・北朝鮮が核保有国であることを宣言し、より精密・軽量・知能化した武器開発に力を入れる
・韓国との関係について、お互いを尊重して軍事会談を開催する必要がある
・連邦制に則った統一を実現すべきだ(連邦制統一は北朝鮮が主張する統一方式で、韓国と北朝鮮の二つの政府を残したまま両者が交流することで南北の距離を縮め、長期的に単一政府にすることを目指す構想。連邦制統一は北朝鮮政府を正当な政府として認めることになるので、韓国内では「それはできない」という意見の方が多い)
・国家経済発展5カ年戦略でエネルギー問題を解決し、農業と軽工業の生産を増やす
・実用衛星をもっと打ち上げ、宇宙科学技術を発展させる
・高い文化水準を持つ教育の国にする
・平均寿命と伝染病予防率を世界先進国水準にする

国防部は北の態度に変化を認めず

 韓国国防部(韓国の「部」は日本の「省」にあたる)のムン・サンギュン報道官は5月9日に行った定例ブリーフィングで、金正恩第1書記が党大会で「北と南は軍事的緊張を緩和し、全ての問題を対話と交渉で解決すべきである」として南北会談を提案したことについて、以下のように評価した。

 「北韓(北朝鮮)が核を保有し、核ミサイル挑発を行っている状況で、緊張緩和のために会談が必要だと主張しても真正性がない(本音が疑わしい)。対話のドアは開いているが、(北朝鮮が)核を放棄する意思が真にあることを先に見せるべきであるという点は変わらない。(北朝鮮の)態度に変化がない限り対話は無意味である」

 「北韓は(党大会で)駐韓米軍の撤収、韓米連合軍事訓練の中断、心理戦の中断などを要求した。これは、これまでに数えきれないほど繰り返されてきた主張で論評する価値もない」

 「自らを『責任ある核保有国として世界の非核化を実現するために努力する』という北韓の主張は、結局、核をあきらめる意志がないことを再確認しただけといえる。我々(韓国)と国際社会は一貫して、北韓を核保有国として認めない立場を取る。(韓国)政府は制裁と圧力によって(北朝鮮が)核をあきらめるよう継続して努力する」

 「北韓は核とミサイルの完成度を高めるために追加核実験とミサイルテスト発射を持続的に行うものとみられる。戦略的挑発と奇襲的挑発の可能性も排除できない」

 記者からの「北が核開発を放棄することが南北の軍事当局者が対話(南北軍事会談)するための条件なのか」という質問に対してムン報道官は「北の核放棄が軍事会談の前提条件いう話ではないが、北が態度を変化させることと真正性を証明する必要があることを強調したい」と回答した。

 5月8日には韓国統一部のチョン・ジュンヒ報道官が、「北韓の第7回党大会関連統一部報道官論評」を行い、「北韓は核開発の迷夢から目覚め、核開発を放棄する意思が真にあることを行動で示すべきである」述べた。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年5月9

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/050900040/

[日本と韓国の交差点] 韓国総選挙で躍進した進歩派は反日か?

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総選挙が終わって以降、韓国メディアでは日本に関する報道が増えている。総選挙結果を日本がどう見ているのかに加えて、熊本の地震や日韓交流について連日報道している。

 4月22日、韓国ソウル郊外にある城南市空軍基地から熊本に向け軍の輸送機2機が飛び立った。韓国政府は熊本で地震の被害にあった人たちへの支援物資として毛布、テント、ミネラルウォーター、すぐに食べられるインスタント食品など10万ドル分を輸送した。別所浩郎駐韓大使が城南市空軍基地を訪れ、関係者に感謝の言葉を述べた。届けられた物資は、自衛隊の車両によって避難所に運ばれることになっている。


「1杯のかけそば」ならぬ「2杯のおかゆ」

 20日には大韓航空機が、仁川発福岡行きの定期便にミネラルウォーター2万4000本を積んで輸送。トラックで熊本まで届けた。19日にはアシアナ航空機が、仁川発福岡行きの定期便に毛布1000枚などを載せて熊本に届けた。熊本県に義援金1000万円を贈ってもいる。同社は仁川=熊本便を週に3便運航していることもあり、熊本とは関係が深い。

 韓国外交部(韓国の「部」は日本の「省」)の発表によると、18日には朴槿恵大統領が安倍晋三総理へお見舞いの電報を送った。地震で多くの人命が失われたことに深い哀悼の意を示すとともに、韓国政府として支援する意向を伝えた。15日には尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官が岸田文雄外務相に電報を送り、犠牲者の冥福を祈るとともに、遺族や負傷者へのお見舞いの気持ちを伝えた。

 4月17日付聯合ニュースは「家族8人でおかゆ2杯、もっと欲しいという人は避難所にいなかった」という見出しで熊本の様子を報じた。熊本の人たちは取り乱すことなく秩序を守り、4人当たりおかゆ1杯しか食べられなくても助け合っていた、という内容だった。韓国では、熊本の人々の落ち着きぶりを称賛する声が相次いでいる。

 熊本の地震の余波で、韓国の南部でも震度1~2の揺れがあった。韓国には地震がないと安心していたが、今回の件でそうでもないことがわかった。韓国と九州はとても近いため、九州で地震や噴火が起きると、釜山を中心とした韓国南部でも揺れが生じる。東京よりも大きな影響を受けるとみられる。

高句麗王族の日本亡命に脚光

 4月23日には、埼玉県日高市にある高麗神社が韓国の新聞とテレビを賑わせた。高麗郡創設1300年を記念する石碑が立てられたというニュースだった。同日付朝鮮日報によると、石碑は日韓交流の歴史を勉強する「高麗若光の会」が募金を集めて建てられたもの。除幕式には高円宮久子妃、ユ・フンス駐日韓国大使、馳浩文部科学相らが参加した。

 高麗郡という地名は1955年になくなってしまったが、高麗神社のホームページは、同神社と高句麗には深い縁があることを説明している。「高麗神社の主祭神は、かつて朝鮮半島北部に栄えた高句麗から渡来した高麗王若光です」。

 高麗若光(韓国名は高若光)は高句麗最後の王の息子である。高句麗は668年、新羅と唐の連合軍に負けて滅亡した。高麗若光は滅亡した高句麗から逃げ(神奈川県)大磯に上陸。日本の朝廷が716年、現在の日高市に高麗郡を作り、高句麗の流民1799人を集め、高麗若光を首長にしたという。

 韓国では高句麗の流民が日本に定着したことや、高句麗王の子孫が日本にいることを知らない人の方が多い。このため、報道に接した人々の間で高麗神社が話題になった。1300年前から日韓交流が続いいていることに驚いたという声が多かった。


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年4月27

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/042500039/

[日本と韓国の交差点] 韓国総選挙、投票所の周りで「ピース」は禁止

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 4月13日、国会議員を選ぶ第20回総選挙が韓国全土で行われた。地域選挙で253人、政党選挙(比例)で47人、合わせて300人の国会議員を選ぶ。投票率は58%で、2012年に行われた第19回総選挙(54.2%)より3.8%ポイント増加した。選挙管理委員会は、事前投票日を設けたことが投票率増加に貢献したと分析した。

 選挙の結果は、与党の「セヌリ党」が122人、野党の「共に民主党」が123人、「国民の党」が38人、「正義党」が6人。国民の党は、この2月に誕生した新しい野党である。このほかに、セヌリ党や共に民主党から脱党した無所属候補が11人当選した。今回選ばれた国会議員の任期は2016年5月30日から2020年5月29日までの4年である。

 セヌリ党の議席は146から122に減少、共に民主党は102から123に増加した。野党の当選者が与党を上回ったのは2000年の総選挙以来16年ぶりのこと。また国民の党が加わったことで、韓国の国会は20年ぶりに3党体制になった。

 議席数の半分を占める都市部で、共に民主党がセヌリ党を上回った。セヌリ党の「票畑」と言われるソウル市江南、朴大統領の地元である大邱市、セヌリ党支持者が多い釜山市――いずれでも、共に民主党候補が多く当選した。済州道では、3つある選挙区のすべてで共に民主党候補が当選した。無所属当選者の中からセヌリ党に入党する議員が出ても、セヌリ党の惨敗は変わらない。

セヌリ党が惨敗

 韓国では、今回の総選挙はセヌリ党の惨敗と言われている。選挙翌日、4月14日の韓国メディアの見出しは以下の通りである。

朝鮮日報 「セヌリ党惨敗、共に民主党歓呼、国民の党に突風」
東亜日報 「怒りの民心、選挙の女王を審判した」(「選挙の女王」は朴槿恵大統領のニックネーム)
中央日報 「セヌリ党を審判した」
韓国日報 「与党惨敗、国民は怖かった」
キョンヒャン新聞 「朴槿恵政権が審判される」
世界日報 「審判された与党、与小野大政局再編」
聯合ニュース 「民心離れたセヌリ、第1党の座も譲る。16年ぶりの与小野大」
ニュース1 「就職難、住宅難に絶望した20~30世代、与党を審判した」



By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年4月19

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/041800038/

若者の約8割が海外での就職を希望、IT人材の海外移民増える韓国

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 この頃朝鮮日報、キョンヒャン新聞など主な新聞に、毎日のようにサムスン電子をはじめ大手IT企業のリストラ話が掲載される。

 韓国を代表するサムスングループの場合、金融監督院(政府機関)に届け出た企業現況をみると、2014年末から2015年末の間の1年間で主な系列会社の社員が7961人減った。サムスン電子だけで2484人の減少だ。韓国メディアが金融監督院のデータを元に分析してみると、男性よりは女性、正規職よりは非正規職の方がリストラの対象になっていた。


ポータルサイトNAVERで「IT開発者 海外就職」と検索した画面
海外就職あっせん会社や海外就職に成功した人達のブログ書き込みなどが数え切れないほど登場する。韓国ではIT分野人材が米国、日本、中国、オーストラリア、ドイツなど海外に移民・転職するケースが増えている。
[画像のクリックで拡大表示]

 GALAXYS7の好調で、サムスン電子の営業利益は増えている。その一方で、次々に研究所を廃止し、今すぐ利益につながらない研究開発の予算は減らす、という経営方針は気になる。サムスン電子を追い越す勢いの中国勢は、研究開発に莫大な資金を注ぎ込んでいるからだ。

 サムスングループは、海外の現地法人も、韓国本社から派遣する駐在員は置かず、現地採用で費用を節約している。韓国から駐在員を派遣すると給料の他に住宅費、生活費、子供の教育費なども会社が負担しないといけないが、現地採用なら現地の物価に合わせた給料だけ支払えばいいからだ。

 韓国では、サムスングループに勤める人を「サムスンマン」と呼び、とても優秀で仕事一筋のタフな人というイメージが強い。入社するのも大変で、大学生を対象にしたサムスン入社準備専門予備校もあるほどだ。厳しい入社競争を終えても数年後はリストラ、となれば仕事に身が入らないのはないだろうか。

 実際に、韓国の若者も考えが変わったようだ。いつリストラされるか分からない不安な韓国企業に就職するより、長く勤められ安定した海外企業で就職しようとする若者が増えている。韓国の就職情報サイト「サラムイン」が会員1655人を対象にアンケート調査を行ったところ、78.6%もが海外で就職したいと答えた。

特にIT業界では、「○○社にいた課長が海外で就職…
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.6.7

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/060700093/

データを人質にする事件多発、韓国警察がサイバーテロ型犯罪取り締まり強化

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 韓国の警察庁サイバー安全局は、5月から10月までの6カ月間、ハッキングとDDos攻撃、ランサムウエア、スパイアプリをサイバー空間の安全を脅かす「テロ型犯罪」と定義し、集中取り締まりを行うと発表した。

 ランサムウエアは、悪性コードに感染することでユーザーのデータに暗号をかけ、暗号を解除する代わりにビットコインを払えという、データを人質に取って身代金を要求する犯罪である。身代金を払わないと、データをネットで公開すると脅迫する場合もある。犯人らがビットコインを要求するのは、匿名で取引できる電子貨幣だからだ。


 韓国でのランサムウエアの摘発件数は、2015年4~6月の378件から10~12月は2081件に急増した。ランサムウエアにやられたことが会社にばれたら「セキュリティ規定を守らなかったのではないか」、「会社のデータ管理を疎かにしたのではないか」と責任を取らされ解雇されるからという理由で、社員が個人的に身代金を払うケースもあるという。従って、実際の被害はもっと大きいだろう。

 韓国警察庁サイバー安全局は、ランサムウエアに感染した場合どうしたらいいのかを教える「ランサムウエア対処法」漫画まで制作し、SNSやインターネット掲示板などに掲載している。

 漫画の内容は、「楽しい花見の後、パソコンに保存した大事な写真がランサムウエアで人質になってしまった。ハッカーにお金を渡してでも写真を取り戻したい。どうしたらいいの?」という問いかけに、警察のキャラクター「ポドリ」がハッカーの要求に応じてはならない、と解説するもの。

ランサムウエアの被害にあったら、ウィルス対策ソフ…
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.6.3

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/060300092/

スマホ所有率2割以下のインドで、サムスン電子とアップルが熱い戦い

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スマートフォンの世界ではインドが注目を浴びている。人口12億人、経済的に成長し続けている国であり、これからスマートフォンの普及が見込まれる国だからだ。サムスン電子とアップルも次のターゲットはインドで、新機種をインドで先に発売したり、新規ショップオープンの計画を発表したりしている。

 韓国メディアは、インドのスマートフォン市場をめぐりサムスン電子とアップルの戦争が始まったと報道している。2015年インドの国内総生産の平均成長率は7.5%で、インド人の購買力は年々高くなっている。

インドの家電量販店(サムスン電子提供)
インドの家電量販店でサムスン電子の新機種GALAXY S7を購入する人。サムスン電子は長年インドのスマートフォン市場シェア1位をキープしている。インド人社員が開発しインドで生産した格安スマートフォンを発売して人気を得た。
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 米調査会社Strategy Analyticsのデータによると、2016年1~3月、インドのスマートフォンシェア1位は25.1%を占めたサムスン電子で、6400万台を販売した。2位はインドのメーカーであるMicromaxで16.5%、3位は同じくインドのメーカーであるIntexで9.4%だった。

 同社によると、2015年度の世界スマートフォン市場規模1位は中国、2位は米国だが、2017年末には1位中国、2位インド、3位米国と、インドが急上昇すると予測している。インドのスマートフォンユーザー数は、2015年末時点で2億2000万人を突破した。それでも全人口の18%程度に過ぎない。まだまだ伸びる余地が残っている。

 インドでは、150ドル以下の格安スマートフォンを購入する人が圧倒的に多く、8割を占める。ただし、格安端末から徐々にハイエンド端末へ機種変更する動きが出ているそうだ。香港に本拠を置くCounterpoint社の調査によると、2016年インドで売れそうなスマートフォンは、画面5インチ以上、LTE対応、2GBのRAM、16GB以上のメモリ、1300万画素以上のカメラ、指紋認証機能が揃った機種だそうだ。

 サムスン電子は、2015年からインドで、1万円前後で買える格安スマートフォン「Jシリーズ」と「Zシリーズ」を発売し、大ヒットを記録した。サムスン電子によると、インドでもっとも売れたスマートフォン上位5位内に、Jシリーズが3機種含まれているという。

 同社は、2007年からインド北部にスマートフォンの生産工場と研究開発センターを設置している。インド人のエンジニアを1500人採用し、市場に合わせた格安スマートフォンを開発してきた。インターネットを利用する際に、データを圧縮してデータ通信料を最大40%節約できる機能や、バッテリーの使用時間を2倍近く伸ばせる節電機能、音楽が好きなインド人のために無料音楽ストリーミングサービス、こうした機能をプリインストールして提供するなど、サムスン電子の格安スマートフォンにはインド人社員のアイデアが詰まっている。

アップルも負けていない。5月18日にはアップルの…
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2016.6.27

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/051900091/

[韓国ソーシャルイノベーション事情] 地域活性化アイデアで生まれ変わる廃校、少子高齢化進む農漁村に新たなビジネスチャンス

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筆者の母親の故郷は、韓国戦争が起きたことを1年ぐらい経ってから知ったというほどの田舎である。母は片道4キロ以上歩いて小中高校に通ったそうだ。山を越えて川を渡り学校につくと、お弁当は自然にビビンバプになっていたとか。お弁当箱が上下左右に揺れ続けビビンバプになるほど大変な通学路だったというわけだ。

 そんな田舎にも今は大きな道路ができてスクールバスもある。人口が少ないので子供たちは未だ4Km離れた学校に通わないといけないが、もう歩いて学校に行くことはなくなった。給食があるのでお弁当もいらなくなった。昔とは比べにならないほどよくなった母の母校だが、廃校が検討されている。急速な少子高齢化により入学生がいないのだ。

 全国の教育庁の統計によると、1982年3月から2015年3月まで廃校した全国の小中高校は3725校(暫定値)、年間平均113校が廃校になった。廃校は特に農漁村に集中している。同期間中、ソウル市内の学校で廃校になったのは1校しかない。

 廃校の基準は地域の教育庁(教育委員会)ごとに違うが、平均的に在学生が15人以下だと統廃校の対象になる。しかしどの地域もできるだけ廃校にしない方針で、保護者の3分の2以上が廃校に同意しない限りは学校の運営を続けている。韓国最南端の島「マラド」は在学生が一人もいなくなった小学校が廃校の危機に陥ったが、もしかして、という希望を持って、済州教育庁は廃校ではなく休校にした。

 廃校にしないためには、農漁村の子供の人口を増やすしかない。韓国の自治体は地域活性化のため、「帰農」サポートを手厚く行っている。住宅や農地を安く貸し、営農指導もする。田舎は生活が不便というイメージを払拭するため、病院やコンビニを建て、自宅で高速インターネットが使える環境もばっちり整えている。子供の教育のためスクールバスはもちろん、村営塾、村営家庭教師を利用できる自治体もある。農漁業の後を継ぐ青年の婚活は、それはもう自治体総力で取り組んでいる。それでも農漁村の人口は減り続けている。

 廃校になってしまった学校はどうなるのか。人がいなくなると建物はあっという間に荒れてお化け屋敷みたいになってしまう。子供はいなくても、学校の建物は地域の財産として、地域住民のために使いたいものだ。放置するのはもったいない。

 2013年からソウル市は、ソウルから車で2時間以内の田舎の廃校を借りて、ソウル市民のためのキャンプ場を運営している。ソウル市が運営する市営キャンプなので利用料も安い。4人家族で1泊当たり約2000円あればキャンプ場に入場し、テントやマットレス、ピクニックテーブルまで借りられる。おかげでソウル市民にとても人気があり、常に予約がいっぱいである。ソウル市は毎年廃校を1校ずつ借りて、キャンプ場を増やしている。帰る田舎がない都会生まれの親が子供を連れて行く憩いの場になっているそうだ。ソウル市は2018年まで廃校キャンプ場を20ヵ所に増やす計画である。廃校キャンプ場がオープンすれば、その周辺地域のお店や食堂の客も増えるので地域経済も潤う。

 ソウルから電車で1時間ほど離れた安山市は、2006年から地元の廃校を「英語村」に改造している。学校の敷地に入ったらそこはアメリカ、という設定で、英語しか通用しない村で生活するという英語教育プログラムである。

学校の入り口が入国管理局、さっそく英語で入国審査を行い、英語村パスポートにスタンプを押してもらって入場。廃校の教室はスーパーやお料理教室、病院、旅行代理店などに模様替えしてあり、子供たちは英語を使って生活する仕組みになっている。主に小学校1〜6年生が、放課後や夏休み・冬休みに参加する。英語村は全国各地にあるが、ここは安山市営なので参加費が通常の3分の1程度。そのため安山市英語村のホームページに参加者募集の告知が出ると、定員の100倍以上が殺到して1分足らずで募集終了、大騒ぎになる。

 釜山市は廃校を、「青少年文化センター」や「山林教育センター」など、学校ではなかなかできない特別プログラムを運営する施設として運営している。釜山の近くにある蔚山市は、廃校を「追憶の学校」に改造、1960年代から70年代にかけて実際に学校で使われていた小物や制服を集めて展示し、家族みんなで楽しめる観光名所にした。

 大邱市は、学生の数が減少し廃校の危機にある学校を2011年から「幸福学校」に指定し、教育庁が定めたカリキュラムではなく、学校が学生と地域の特徴に合わせて自律的にカリキュラムを運営してもいいことにした。幸福学校第1号のソチョン小学校は、アトピーがある子供のための学校に生まれ変わった。有害物質を極力発生させないよう学校の施設は木、黄土などを使い、毎日散歩をして畑仕事を体験し、子供に体力をつけるカリキュラムに変えた。その結果、2011年65人だった学生が2015年122人に増えた。大邱市にはこのほかにも外国語教育に特化した幸福学校や、学生全員が参加するオーケストラを運営する幸福学校も登場した。

 幼稚園児から大学受験勉強が始まる教育熱心な韓国だが、最近はだんだん、小学生の時ぐらいは自由に好きなことをさせてあげようという雰囲気になりつつある。こうした親の教育方針の変化が、幸福学校の人気を後押ししているといえるだろう。



By 趙 章恩

 

Newsweek コラム&ブログ

韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年6月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/06/post-5.php

[韓国ソーシャルイノベーション事情] 高校生たちが考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」

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韓国では昔から食べ残しが出るぐらいでないと客をもてなしたとは言えない、という考え方が根付いている。客がきれいに平らげたのはもてなしが足りない、料理が足りないという意味だとして、客が手をつけようがつけまいがとにかくすごい数の料理を出すのが韓国式のもてなしである。当然食品ロスも大量に発生する。もったいないから無駄なもてなしはやめようというメディアのキャンペーンも数多く行われてきた。

 それに、韓国では一般家庭の食品ロスも減らすため、「食べ物ゴミ(生ごみ)」は専用の有料の袋に入れて捨てるようにしている。自治体ごとに費用や処理法は違うが、ソウル市の場合はどこも食べ残しは燃えるゴミではなく「食べ物ゴミ」として費用を出して処理しないといけない(韓国では燃えるゴミも自治体ごとにある専用の有料の袋に入れて捨てないといけない)。それにもかかわらず、「食べ物ゴミ」はなかなか減らない。

 日本では米粒一つ残さず食べる人が多く、テレビの料理番組では野菜の皮まで捨てずに調理するのを見てとても驚いたものだ。ところが、最近の日本の子供はそうでもないらしい。1月13日付毎日新聞には、大阪市立中学校の生徒が給食を3割も残していて、推計で年間5億円もの食材が捨てられるようなものだという記事が載っていた。大阪市だけが異常に多いから記事になったと思うが、「モッタイナイ」の言葉で代表される食べ物を大事にする日本の精神は失われたのだろうか。

 韓国はもともと食べ残しがあって当たり前の生活環境だからか、給食の食品ロスは学校給食が本格的に始まった1994年以来ずっと問題になっていた。食べ残しが多いとその分無駄な食費を使ったことになる。食品ロスが増えれば環境汚染も問題になる。食品ロスを減らせば無駄がなくなり、その分給食の質がよくなる。学校の教師たちは毎日のように「今日は食べ残しのない日を目指そう」と学生たちを指導しているが、なかなかうまくいかない。

 そこで給食の食品ロスをなくそうと立ち上がった高校生たちがいる。教育熱の高い地域として有名なソウル市木洞(モクドン)にある中高生7人と教師である。元々は海洋汚染の原因について勉強していたところ、原因の一つに食品ロスがあることを知り、これを減らすにはどうしたらいいのかと悩み始めたそうだ。この中高生たちはサムスン電子が毎年行っている「Samsung Tomorrow Solutions」公募で賞までとったすごい学生たちなのだ。

 サムスン電子の公募は人々の生活や社会をよくするイノベーションアイデアを競うもので、2015年度は1235チーム、5823人が応募、12チームが受賞した。受賞すると、アイデアを実現するための費用と賞金がもらえる。入賞チームへの賞金総額は2億ウォン(約2000万円)である。

 アイデア審査は専門家やサムスン電子の役員だけでなく、ネットに各チームのアイデアを公開し、ユーザーによる投票も行った。受賞したチームがアイデアを実現するため、技術的なところはサムスン電子の社員らが助けた。

 レインボートレイは2014年度に最年少チームでありながら最優秀アイデア賞を受賞、2015年度はそのアイデアを実践して社会に影響力を発揮、学校や軍部隊の食品ロスを7割も減らした功績が認められてインパクト賞を受賞した。

 木洞の中高生たちが出したアイデアは「レインボートレイ(ランチプレート)」と呼ばれる給食用食器である。レインボートレイは、韓国の学校や軍部隊、企業の社員食堂など、団体給食の際に必ず使われるステンレス製のランチプレートの底に目印を書き、ここまでごはんを取ったら茶碗1杯分、ここまでは2杯分などと量がわかるようアイコンを入れた。レインボートレイは既存の給食用ランチプレートに線を書くだけなので、製作費もかからないしすぐ導入できる。しかも見た目がかわいい。

 誰もが思いつく簡単なアイデアではないかと思うかもしれないが、ここまで色々な失敗があった。中高校の給食は大きな一枚のランチプレートに食べたい分料理を取るスタイルが定着していた。7人の中高生たちは、なぜ給食を残すのか友たちの様子を観察したという。家ではお茶碗で食べるので、1枚のランチプレートだと、自分がどれぐらいの量を取ったらいいのかわかり難く、どれもおいしそうなのでつい多めに取って食べきれず残してしまう問題があった。そこでしゃもじやお玉のサイズを小さくすることもやってみたがうまくいかなかった。日本ではおいしくないから給食を残し食品ロスが増える問題があるそうだが、韓国では給食の味はあまり問題にならなかった。

 試行錯誤の末、レインボートレイを思いついた。給食用のランチプレートも軽量化し、自分がランチプレートにどれぐらいの食べ物を取ったのが重さを感じられるようにした。自分が食べられる量だけを取る、これだけで食品ロスは画期的に減少した。実際にレインボートレイを導入した中高校では、一人130グラムもあった食品ロスが10グラムにまで減ったという。

 中高校生のアイデアで給食の食品ロス問題を解決できたことは韓国中で話題になった。レインボートレイを使って給食を食べる様子や、食べ物が残らない様子を韓国のテレビ局だけでなく、中国の国政テレビ局「中国中央電視台」まで撮影に来たほどである。

 中高生による中高生のための中高生目線で考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」は、今や全国の軍、企業の社員食堂にも広がっている。



By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年4月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/04/post-4.php