郵便局が主導するMVNO料金競争、ついに「基本料金0ウォンで音声通話50分無料」 [2016年1月8日]

.

 韓国でも日本と同様、全国どこでも郵便局がある。韓国の郵便局は、日本の総務省にあたる未来創造科学部(部は省)が運営する政府機関である。韓国の郵便局は郵便の他に預金、保険、地域特産品の販売など、日本の郵便局と変わらない事業をしている。インターネットの普及で郵便を送る人が減少している中、韓国の郵便局は一つ新規事業を手掛けることにした。全国の郵便局が、MVNOの販売窓口になったのだ。これで、全国どこでも手軽に購入できるようになった。


写真●韓国郵便局のMVNO販売サイト
韓国ではMVNOの加入を手軽にできるよう、全国の郵便局が販売窓口になっている。MVNO加入は、郵便局窓口でも郵便局のサイトからも申し込める。キャリア3社より断然料金が安く、月々の料金が0ウォンで音声通話は50分無料で使えるプランもあるため、加入者が増えている(出所:韓国インターネット郵便局)。

 1月4日、MVNOのエネクステレコムは、月々の基本料金0ウォンで音声通話を50分無料で使える新しい料金プランに、郵便局で加入できると発表した。端末代は別途支払わないといけないが、自分の端末を持っていれば実質無料で携帯電話が使える。携帯電話からは音声通話しか利用しない、ネットはタブレットやPCで利用する、という人には嬉しいプランである。


次ページ: 音声通話50分を使い終わった場合は、音声通話は10秒18ウォン(約2円)、SMS1件20ウォン(約2.2円)…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

[韓国ソーシャルイノベーション事情] テレビはネットで観るもの? DVDも予約録画もいらない韓国人のテレビ視聴

.


「応答せよ1988」は韓国ケーブル局tvNの人気ドラマシリーズ第3弾。主題歌「少女」は1985年に発売されたイ・ムンセの国民的ヒット曲で、若手人気バンドhyukohのボーカル、オ・ヒョクがカバーし各音楽配信サイトで1位を獲得した。



 この頃韓国で社会現象にまでなっている大人気ドラマがある。タイトルは「応答せよ1988」。

 このドラマはタイトル通り、1988年前後を舞台に、当時高校2年生だった男女5人とその家族の物語である。1988年に高校時代を過ごし、今では親になり中年となった40代が、懐かしい自分の青春と親兄弟と一緒に過ごした思い出を振り返り、泣き笑う、そういうホームドラマである。

 韓国人にとって1988年は忘れられない年である。ソウルオリンピックが開催された年であり、民主化運動で政治的に混乱していた時代であり、高度成長期でもあった。1988年を知らない10〜20代にとって「応答せよ1988」は、「あの頃は〜」とお母さんの解説を聞きながら家族みんなで観られる面白いドラマでもある。

「応答せよ1988」はKBSなどの地上波テレビ局ではなくケーブルテレビ局tvNが制作したドラマである。毎週金曜と土曜の夕方、ケーブルテレビに加入している世帯しか視聴できないにもかかわらず、視聴率は16%を超え、ケーブルテレビ史上最高記録を更新した。また同時間帯視聴率1位もキープしている。地上波テレビ局の番組を含め、金土夕方放映している番組の中でもっとも人気があるという意味だ。最近は新聞記事もSNSも「応答せよ1988」のことばかり話題にしている。

「応答せよ1988」が、ケーブルテレビで放映しているドラマにもかかわらず社会現象にまでなれたのは、もちろん何よりもドラマが面白いからである。そしてあと二つ、韓国ならではの事情がある。

 一つは、9割を超える世帯がケーブルテレビを受信できる有料放送に加入していること。もう一つはVOD(ビデオオンデマンド)である。

 韓国では難視聴改善のため、1995年ケーブルテレビが登場した。マンションの場合、テレビを買って壁にアンテナケーブルを差し込んでも何も映らないことが多い。ケーブルテレビかIPTVに加入して地上波テレビ再送信を利用するしかない。

 韓国のマンション団地はその地域のケーブルテレビと団体加入契約を結んでいる。テレビを保有する家庭は、電気代に公営放送KBSの受信料が上乗せされ、マンションの管理費にケーブルテレビ利用料が上乗せされる。「うちはケーブルテレビ観ません」といっても通用しない。全世帯が選択の余地なくケーブルテレビに加入しないといけない。そうしないと地上波放送も観られないからだ。

 ケーブルテレビの料金は団体契約なので非常に安く、50チャンネルほど受信できる基本プランだと月4〜500円しかしない。100チャンネル以上観られて画質もいいデジタルケーブルテレビや4Kケーブルテレビは月1000円ほどする。



 韓国の地上波テレビ局は、インターネットが家庭に普及し始めた1997年から、自社のホームページにテレビ番組の「ダシボギ(다시보기)」を提供し始めた。ダシボギとはもう一度見る、という意味で、テレビで放映した番組をインターネットからもう一度見る、つまりVODのことである。韓国の全テレビ局は、ドラマやバラエティー、ニュースなど、海外ドラマと映画を除くほぼすべての番組をVODで公開している。

 インターネットさえ使えれば、いつでもどこでも好きな時に好きな端末からテレビ番組を視聴できるので、韓国では予約録画がいらなくなった。ハードディスク録画とか、ブルーレイとか、韓国ではあまり馴染みのない言葉である。

 デジタルケーブルテレビ、IPTV、衛星放送に加入している場合、テレビのリモコン操作で見たい番組のVODを視聴できる。料金は月々見放題で1000円以下、都度課金だと1本100〜150円ほどする。リモコン操作で好きな番組や映画のVODが観られるのでとても楽である。


映画館で上映した映画はその後DVDではなくVODで公開する。映画館で封切してから1ヶ月もたたないうちにVODで公開するようになった。最近は映画館とVODの同時封切、試写会も映画館ではなくVODで行うケースが増えている。最初から映画館ではなくVODで公開することを目的に制作する映画も増えている。

 最近はデジタルケーブルテレビ、IPTV、衛星放送に加え、サムスン電子やLG電子などテレビメーカーまでもがVODサービスに熱心で、「どの会社よりも早くドラマの再放送VODを公開する」「どの会社よりも昔のドラマVOD本数が多い」など競い合っている。VODは一度決済すれば、テレビからも、スマートフォンからも、タブレットPCからも、どのデバイスからも利用できる。

 VODが広く普及してからは、その番組がどのチャンネルで放映しているのか、地上波の番組なのかケーブルテレビの番組なのか、そういうことは全く関係なくなった。好きな時に面白い番組を観られるので、視聴者は番組そのものの面白さを評価する。だからケーブルテレビのドラマでも大ヒットする時代になった。

 韓国では視聴率算定方式も変わりつつある。2015年の夏からVOD利用件数も視聴率に含める「統合視聴率」の実証実験を行っている。

 韓国人にとってテレビとはネットで観るもの、VODダシボギで好きな時に好きな端末から好きな場所で観るものになりつつある。



By 趙 章恩
Newsweek コラム&ブログ
韓国ソーシャルイノベーション事情

 2016年1月
-Original column

テレビが売れない時代でも大丈夫?IPTVやケーブルTVでは4K放送が人気 [2016年1月4日]

.

 韓国では、米の調査会社IHS iSuppliが発表した2015年の世界のテレビ出荷台数が話題になっている。HISは、2015年の出荷台数を、2014年の2億3492万台より700万台以上減の2億2700万台と推測した。なんでもスマートフォンで済ませることができる時代なので、もうテレビは売れないのだろうか。薄々と感じてはいたが、数字で見るとインパクトが違う。

 特に、テレビとスマートフォンはサムスン電子とLG電子を支える製品であるだけに、これから韓国企業は大丈夫なのか、と懸念する声もある。サムスングループによると、2014年まで10年連続サムスン電子が世界のテレビシェア(売り上げベース29.2%)で1位を占めている。2位はLG電子(同16.7%)である。2015年もサムスン電子とLG電子が1、2位をキープはしているが、シェアは減少している。ソニーと中国ハイセンスやTCLのテレビが、急速に売り上げを伸ばしているからだ。サムスン電子とLG電子は、UHD(Ultra High Definition、4K・8K)など画質勝負で、価格競争ではなくプレミアム競争で生き残る戦略だという。

 LG電子は、LCDではなくOLEDでUHD画質を提供して差をつけようとしている。サムスン電子は、SUHDといってサムスン電子独自の技術を搭載したUHDテレビに集中している。SUHDは既存のサムスン電子テレビよりも2.5倍明るく、明暗がくっきりしているので、3Dテレビに近い立体感がある。


写真●サムスン電子のSUHDテレビ(サムスン電子提供)
韓国では4K・8KのことをUHD(Ultra High Definition)という。サムスン電子は独自技術のUHDテレビであるSUHDテレビを販売している。同社の既存のテレビよりも2.5倍明るく、明暗がくっきりしていて立体感が出るのが特徴だ。

 しかし、韓国の地上波放送局側は、UHDにあまり乗り気ではないように見える。UHDを受信できるテレビがそれほど普及していないのに、莫大な製作費をかけてUHDでドラマやバラエティを制作する気にならない、というのだ。サムスン電子やLG電子は、UHDコンテンツが増えればUHDテレビを購入する人も増え、UHDを中心に映像産業が活性化すると関連省庁に訴えている。コンテンツが先か、テレビの普及が先か、まさに卵が先か鶏が先かの論争である。

 それでは視聴者の反応はどうかというと、IPTVやケーブルテレビ、衛星放送など、有料放送加入者を中心にUHDチャンネルを受信できる付加サービスに加入する人が増えている。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

サムスンどうする?韓国に中国産激安スマートフォンがやって来た [2015年12月18日]

.

 2015年12月16日、韓国のキャリアでシェア3位のLGU+が、中国ファーウェイのスマートフォン「Y6」の販売を開始した。Y6の定価は15万4000ウォン(約1万7000円)、今まで韓国で販売されたスマートフォンでは最も安い。

 サムスン電子やLG電子のスマートフォンは、約定割引してもらっても端末価格が7万円以上はするので、破格的な安さといえる。ソニーのXperiaが在庫処分のため古い機種を2万円以下で販売したことはあるが、定価が2万円しないスマートフォンは初めてである。韓国産では、LG電子のシニア向けスマートフォン「ワイン」シリーズが最も安く定価が約2万6000円する。しかし安いからといって話題になることはなかった。安いスマートフォンは使い物にならない、という先入観があるからだ。

 毎月約3300円以上の料金プランを選択すれば、約定割引が適用され実質無料になる。韓国でスマートフォン端末が実質タダになるのは今までなかったことなので、韓国では「Y6」は一体どんな端末なのかと騒ぎになっているほどだ。


 Y6は5インチのHDディスプレイに、800万画素カメラ、重さ155グラム、1GBのRAM、8GBの保存容量、2200mAhのバッテリーを備えている。自分撮りが大好きな韓国人にとって、最も重要なのはカメラである。Y6のカメラは360度パノラマ撮影、顔認識機能、写真を撮りながら音声を録画できる機能、写真加工機能などの付加機能もある。

 Y6の特徴は、インターネット接続なしで利用できるFMラジオを内蔵していることと、通常の音声電話だけでなくインターネット電話(VoIP)が使えるデュアル通話機能があることだ。

 LGU+のインターネット電話料金プランに加入すると、携帯電話番号に加えて070で始まるインターネット電話専用の番号がもらえる。インターネット電話のいいところは、自宅にある電話の子機のようにスマートフォンを使えることや、インターネットさえつながれば通話ができるので、ユーザーが海外にいても韓国の電話番号にかける通話に国内電話料金が適用されることである。LGU+は、海外に行くことが多い人や、業務用にスマートフォンから通話をたくさんするビジネスマンにお勧めの端末、と宣伝している。


次ページ: 韓国では、低価格スマートフォンのラインアップが増えている。シェア1位のキャリアであるSKテレコムは2015年…




趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

[日本と韓国の交差点] 日韓請求権協定、違憲かどうかは「判断しない」

.

韓国憲法裁判所は12月23日、1965年に締結した韓日請求権協定が違憲だとして強制徴用被害者の家族・遺族らが起こした訴えに対し、判決を下した。

 この家族・遺族らが問題にしたのは、韓日請求権協定第2条1項が違憲なのかどうか。2009年に訴えを起こした。憲法裁判所はこれを、審判の要件を満たしていないとして却下した。第2条1項は、「両国は両国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題が1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名した日本国との平和条約第4条(a)で規定したことを含み完全に最終的に解決されたことを確認する」と定めている。日本政府はこの第2条1項を根拠に、日本の植民地支配時代に強制徴用で被害を受けた人たちへの賠償請求を受け入れていない。

 同家族と遺族が2010年に起こした、韓国政府が2007年制定した「太平洋戦争前後国外強制動員犠牲者支援法」の第5条1項は違憲とした訴訟に対しては、合憲であると判断した。第5条1項は被害者が日本から受け取るべき未収金を当時の日本通貨1円に対し韓国通貨2000ウォンに換算すると決めたもの。同家族・遺族は、これは安すぎるとして反発してきた。

請求権の有無はますます混迷

 複数の韓国メディアによると、韓国憲法裁判所は23日、「この訴訟は違憲かどうか審判する対象にならない」と説明しながら、「だからといって韓日請求権協定第2条が合憲だと判断したものではない」と強調した。

 韓国の大法院(最高裁判所)は2012年5月、日本の不法行為(植民地支配)によって受けた損害に対する個人の賠償請求権は韓日請求権協定では解決していないと判決している。今回の憲法裁判所の判決を受けて、被害者は日本と日本企業に対して損害賠償を求めることができるのかできないのか、ますます混乱した状態に陥った。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。


>>次ページ却下は仕方ない



By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年12月28
-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓中FTAが発効、韓国経済に吉となるか

.

2015年12月20日0時、韓中FTA(自由貿易協定)、韓越FTA、韓ニュージーランドFTAが同時に発効した。これで韓国は米国、EU(欧州連合)、中国、東南アジアという主な経済圏すべてとFTAを発効させたことになる。

 20日早朝、韓中FTAの恩恵を受ける輸出第1号が仁川港から中国に向けて出発した。中小企業のジアシンコリア社が硫黄2650トンを中国に輸出した。韓中FTA発効により1トン当たり1.2ドル、合計3180ドルの関税がなくなり、その分安く中国に輸出できた。

 韓国の産業通商資源部(韓国の「部」は日本の「省」)によると、対中輸出では医療機器や石油製品など958種目の関税が撤廃される。この958種目の対中年間輸出額は2014年時点で87億ドル(約1兆440億円)に上る。

 産業通商資源部は12月20日、「韓中FTAによって韓国の製品が中国内で関税分安くなる。価格競争力が高まるので、2014年に1453億3000万ドル(約17兆4000億円)だった対中輸出が、FTAにより年間約13億5000万ドル(約1620億円)増加する見込みである。中国に支払っていた関税も年間54億4000万ドル(約6500億円)ほど節約できるようになる」と発表した。韓中FTA発効によって節約できる関税支払額は韓米FTAの5.8倍、韓EU FTAの3.9倍に上るという。

 韓国のサービス産業も中国に進出しやすくなる。韓国の法律事務所が中国の法律事務所と合弁会社を設立すれば、中国でも法律サービスを提供できる。その他、芸能プロダクション、建設会社、ゴミ処理会社、流通会社も合弁会社を設立できる。FTA対象品目は48時間以内に通関させるし、700ドル(約8万4000円)以下の製品は原産地証明の提出を免除する。

NZへの人材輸出活発化も見込まれる

 韓ニュージーランドFTAでは2013品目の関税が20日に撤廃された。対ニュージーランド輸出は小型家電、オフィス用品など韓国製の消費財が伸びる見込みだ。人材輸出も活発になる。ニュージーランドで働けるワーキングホリデイビザの発行を年間1800人から3000人に拡大する。韓国のエンジニア、漢方医など10職種の専門職は、ニュージーランドで働ける就労ビザを取得しやすくなる。

 ベトナムとの間に結んだ韓越FTAでは272品目の関税を引き下げる。韓越FTAは、2007年6月に発効した韓ASEAN FTAよりも対象品目を拡大した。

 ベトナムは今注目されている新興市場である。韓国政府はベトナムとのFTAで、ベトナムに進出した韓国企業の投資が守られる利益が大きいことを強調した。ベトナムに進出した韓国企業も4000社を超えた。韓国企業による対ベトナム投資は、2014年末までの累積で89億ドル(約1兆680億円)に上る。韓越FTAにより韓国企業は、ベトナム政府の政策によって損害を受けた場合、訴訟を起こせるようになる。さらに、ベトナムに投資して得た利益を韓国に送金しやすくなる。

中国の「海淘族」に期待

 中国、ベトナム、ニュージーランドの3カ国は韓国にとって重要な貿易相手国で、韓国の輸出全体の30%を占める。産業通商資源部は3カ国とのFTAで、2025年まで輸出が年平均50億ドル(約6000億円)ずつ増加すると推算している。同年までに、国内総生産(GDP)は1%上昇し、雇用は5万5000人増える見込みだ。

 韓国メディアによると、輸出が大きく伸びるのは化粧品だという。中国とベトナムでは韓国ドラマの人気が高い。韓国旅行のお土産人気1位は韓国の女優が宣伝している韓国産化粧品だそうだ。化粧品の対中輸出は6300億ウォン(約700億円、2014年)。この額は2012 年以来、毎年80%ずつ増えている。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。





By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年12月23
-Original column

[日本と韓国の交差点] パリ協定で明言した目標値に韓国でも賛否が対立

.

 フランス・パリで行われた国連気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)が日本時間の12月13日、2020年以降の新たな地球温暖化対策「パリ協定(Paris Agreement)」を採択した。地球温暖化を抑制し、気候変動の影響に対処すべく、先進国も途上国も協力して対策を講じる。

 COP21では、温室効果ガス排出量をどれぐらい削減するか各国が自主目標を国連に提出した。韓国は2030年における温室効果ガスの排出量を現在の予測値(BAU)よりも37%削減する目標を設定。これから石炭や石油、ガスといった化石燃料の使用を抑制する一方、太陽エネルギーや風力などのクリーンなエネルギー源への移行を進めないといけない。

 韓国メディアは12月13日、パリ協定が持つ意義を高く評価しながらも、実現が難しい課題であると分析した。果たして韓国は温室効果ガス削減目標を達成できるだろうかとの懸念が浮上している。

  • 聯合ニュース「パリ協定は韓国にとって危機であると同時にチャンス」
  • 中央日報「韓国の未来はパリ協定への対応次第」
  • KBS「歴史上もっとも重要な2週間、韓国産業界は非常事態」
  • 世界日報「国内産業は化石燃料中心、パリ協定は危機になる可能性も」
  • 国民日報「パリ協定、韓国政府は『危機でありチャンスでもある』と産業界の説得に総力」
  • 韓国日報「パリ協定は低炭素社会への出発点、製造業中心の産業構造を急いで再編しなければならない」
  • ハンギョレ新聞「韓国の温室効果ガス削減ロードマップ作成が急務」

 複数の韓国メディアは、「鉄鋼、石油化学、造船など温室効果ガスの排出が多い業界は韓国内での生産を縮小させ、温室効果ガスの排出削減負担が少ない途上国に工場を移転する可能性がある」と懸念する記事を書いている。

 製造業界は「これ以上温室効果ガスの排出量を減らすのは難しい。温室効果ガスの排出削減に必要な新しい投資をする余裕がない」と政府に訴えていた。全国経済人連合は、鉄鋼・石油化学業界の場合、温室効果ガスの排出権を買うために、2020年以降企業当たり年間4800億ウォン(約550億円)の費用がかかると展望した。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。





By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年12月15

-Original column

[日本と韓国の交差点] 司法試験がないと鳶が鷹を生めなくなる?

.

 この頃、韓国を騒がせているのはロースクールである。韓国の法務部(韓国の「部」は日本の「省」)は12月3日、「2017年に廃止が予定されている司法試験を2021年まで継続。廃止するかどうかは2021年以降に決める」と発表した。

 司法試験は、普通の人にはあまり関係なさそうな存在だ。だが、法務部のこの発表を受け、韓国社会が揺れに揺れている。ロースクールに通う学生らは退学届を出して法務部に抗議。ロースクールの教授らは司法試験の出題委員になることを拒否。大韓弁護士協会は法務部長官に辞職を求めると騒ぎ始めた。

 専業主婦向けの料理コミュニティにおいてすら、「司法試験を残すべきか、司法試験を廃止してロースクールを修了した人だけ弁護士試験を受けるようにすべきか」を巡り、熱い議論が繰り広げられている。韓国は教育熱の高い国だけに、いずれ自分の子を弁護士に、と思っている母親が多いせいかもしれない。

司法試験と弁護士試験の二本立て

 韓国では2009年から法学専門大学院(ロースクール)の設立が始まった。これを受けて、2012年以降、法曹人になるために2種類の試験が行われている。1つは「司法試験」。大学で法学関連科目を35単位履修した人なら誰でも受けることができる。もう1つは「弁護士試験」。ロースクールを修了した人だけが受けられるものだ。弁護士試験はロースクール修了生ならだれでも合格できるレベルだという。

 法務部が司法試験を維持したいと言い出したのには、ある世論調査が影響している。法務部が成人1000人を対象に電話調査したところ、司法試験を続けるべきという意見が85.4%に上った。国会議員の7割も司法試験を継続すべきと答えた。法務部はロースクールがまだ完全には定着していない、すなわち公正だと認められていないので、司法試験を廃止するかどうかを改めて検討するという。

 法務部が「まだ完全には定着していない」と言う理由の1つに、ロースクールを取り巻く「縁故」問題がある。法務部が新方針を発表する数日前、野党・新政治民主連合の議員が、ロースクールで落第した自分の子供をなんとかしようと大学に押しかけ影響力を行使したとして問題になった。

 某国立大学の総長の娘がロースクールを修了する前に大規模法律事務所から内定を得たという報道も注目された。本来ならロースクールを卒業し弁護士試験に合格してからでないと内定は得られない。この女性は、その後、弁護士試験に落ちたため、内定も取り消しになった。そのほかにも、こんな報道が相次いでいる。大規模法律事務所にいる新人弁護士の7割は父親が法曹人か大手企業の役員、医者、教授だ。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

韓国のWeb広告はPCよりモバイル中心、コンテンツと広告の区分があいまいな時代に [2015年12月11日]

.

 韓国では、ビジネスでもKAKA TALK、LINEといった無料メッセージアプリを積極的に使う。IDを教えていないのに、取引先の人が突然KAKAO TALKで話しかけてきたことが何度もあった。相手からは「電話代もかからないし、メールより早く用事が伝わるし、KAKAO TALKを使った方が効率的でしょう?」と言われた。仕事相手とはメールか電話、家族や友達とはメッセージアプリ、という具合に使い分けていた筆者は、もう時代から遅れつつあるのかもしれない。

 韓国では、毎日起きている間ずっとスマートフォンを握り、メッセージアプリで検索し買い物し、仕事も片付ける人が増えているせいか、モバイル広告市場もぐんぐん伸びている。KAKAO TALKの親会社KAKAOとLINEの親会社NAVERは、モバイル広告の収入が順調に増え、売り上げも好調に伸びている。

 KAKAOの場合、ポータルサイトDAUMにPCからアクセスする割合は減少傾向にあるが、モバイル広告収入が2015年7~9月の間29%も増加したことで持ちこたえた。NAVERの場合、今年初めて広告の割合がPC向け6割、モバイル向け4割になった。これまでは、PC向けが8割を占めていた。NAVERの2015年7~9月広告全体の売り上げは5870億ウォン(約650億円)で、前年同期比17.9%増加した。

 キャリアのKTが運営する研究所の予測によると、韓国の広告市場はモバイルの割合が急増していて、2019年にはモバイル広告がPC向け広告を上回りそうだ。

 KTの研究所が発表したデータによると、韓国のモバイル広告は2015年末時点で約9000億ウォン(約990億円)、2019年末には3兆3000億ウォン(約3600億円)にのぼる見込みである。この調子でいけば、2019年にはオンライ広告の52%がモバイル広告、48%がPC向け広告(2019年推定3兆1000億ウォン、約3400億円)と、割合が逆転するとみられている。

 もう何年も前から「韓国は不景気」だと言われるが、モバイル広告を含めオンライン広告はそれほど影響を受けていない。スマートフォンからシニア層もゲーム、動画、漫画、音楽などを利用し始めているので、スマートフォンが全世代の生活に根付けば根付くほど、モバイル広告も拡大していく。


画像●スマートフォンの急増に伴いモバイル広告市場も拡大している
韓国ではスマートフォンの待ち受け画面に広告を受信するアプリも流行っている。広告を見た回数に応じてポイントをもらい、提携したお店で使える(出所:キャッシュスライド)。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

韓国初、店舗なし、ビッグデータで金利決めるモバイル銀行誕生 [2015年12月4日]

.

 11月30日、ソウル市内でモバイル銀行「韓国カカオ銀行」と「Kバンク銀行」の事業説明会が行われた。日本や米国では、既に店舗なしでインターネットとATMだけを利用するインターネット銀行が存在するが、韓国ではこれが初めての店舗なし銀行となる。いずれも出資企業のサービスをうまく活用し、サービス開始から3年内に黒字化することを目標にしている。

 韓国カカオ銀行は韓国投資金融持株会社、Kakao Talk、国民銀行が主な株主となり、資本金3000億ウォンで設立した。Kバンク銀行はウリ銀行、GSリテール(スーパーマーケット・コンビニ)、韓化生命保険、DANAL(モバイルペイメントソリューション)、KT(通信)が主な株主となり資本金2500億ウォンで設立した。両方とも金融委員会より予備認可をもらった段階で、2016年上半期中に正式認可をもらい、認可日から6カ月以内に営業を開始する。本格的なサービス開始は、2016年秋になりそうだ。

 無店舗モバイル銀行の特徴は、自分が登録したIDが口座番号になり、モバイルメッセンジャーアプリを経由してお金を振り込んだり、光熱費を支払ったり、貯金口座を作ったりできること。現金やクレジットカードを持っていなくても、スマートフォンさえ持っていればお店などで口座にあるお金から支払える決済サービスも提供する。振り込みやATM手数料などは、原則として無料で利用できる。

 モバイル銀行は24時間いつでも利用できる銀行なので、電話相談、ネット相談も24時間稼働する。面白いのは、人が答えるのではなく、人工知能が対応するという点である。人工知能が処理できなかった複雑な質問にだけ、人が対応する。

 さらに、ビッグデータ分析で貸出金利を決める。店舗を持たないので運営費があまりかからないことから、一般的な銀行よりは高い貯金金利を提供する計画である。貸出金利も、お金を借りたい人・預けたい人のバランスを常に分析して金利を決めるという。個人向け担保なし貸出の場合、信用金庫などは20%以上の金利を取る。だが、モバイル銀行は支店運営費用、営業費用などがかからないので、その半分の10%台。敷金など引っ越しのための少額貸出にも応じるという。


次ページ: 韓国カカオ銀行は、韓国人の8割が利用する国民的人気アプリ「カカオトーク」を基盤に、Kバンク銀行はコンビニ、公…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column