[日本と韓国の交差点] 韓国でも衝撃! イスラム国による日本人殺害

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韓国メディアは2月1日、「偏見なくイスラムの真相を伝えようとした日本人ジャーナリストが殺害された」「亡くなった後藤健二氏はイスラムの友達だったのになぜ。彼は紛争地域に住む子供たちの現状を世界に知らせ、助けた」などの見出しでイスラム国と見られる組織が日本人人質を殺害したことを大々的に報道した。

 また、イスラム国に関わる人道的支援をするだけでも狙われることが分かった以上、日本と同じく米国を支持する韓国も安全ではない――という認識が広がっている。もし韓国人が人質となった場合、韓国政府はどう対応するのか、韓国政府の危機管理体制を見直すべきと指摘する韓国メディアが増えている。

 一方で、日本政府の今後の対応を気にする報道も続いている。朝鮮日報やソウル新聞、YTNなどは2月2日、「日本、自衛隊の軍事活動を拡大する動き」「再武装の名分を得た日本」「積極的平和主義に拍車、葛藤(韓国との摩擦)予告」などと報道している。日本政府がテロ対策や自国民救助という名目で自衛隊の役割を拡大しようとしている、つまり日本が海外で戦争する国になるのではないかという内容だ。

 韓国の検索サイトではこの1週間ずっと、「日本人人質」「日本人ジャーナリスト」が検索キーワードの上位5位内にあった。SNSを中心に後藤健二氏の今までの活動が広く知れ渡り、「助かってほしい」と無事を祈る書き込みが後を絶たなかった。Twitterでは「これ以上イスラム国でジャーナリストが犠牲にならないことを祈る」「後藤健二氏のご冥福を祈ります」というつぶやきが続いている。

 韓国人ですら悲しみと怒りを拭えない中、後藤健二氏と湯川遥菜氏の遺族の対応は韓国中を驚かせた。自分の家族が犠牲になったにもかかわらず、「世間をお騒がせして申し訳ございません」「皆様にご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪する言葉を先に述べたからだ。これは韓国では考えられない対応である。「危険と知りながら紛争地域に行ったから自己責任だ」という見方もあるが、韓国では渡航が禁止された地域に行って人質となり殺害された人の遺族が、なぜ助けてくれなかったのかと韓国政府を相手に訴訟を起こしたこともあった。

センムル教会人質事件では身代金の支払いに批判

 イスラム関連で韓国人が人質となって殺害される事件が過去に何度かあった。代表的なのは故キム・ソンイル氏事件とセンムル教会事件だ。イラクの武装勢力が2004年、米国との貿易を行なう会社で働いていたキム・ソンイル氏を拉致、韓国軍がイラクから撤収するよう求めたが韓国政府はこれを拒否した。これを受けて武装勢力は、キム・ソンイル氏を殺害した。

 キム・ソンイル氏は大学でアラビア語を専攻し、大学院に進学する費用を稼ごうとイラクで働いていた。武装勢力はキム氏を殺害する場面を録画した動画をネットで公開した。韓国メディアの報道によると、キム氏を殺害した武装勢力が現在のイスラム国だという。

 2007年には、ソウル市郊外にあるセンムル教会の信者23人が、キリスト教を宣教するとして、渡航が禁じられているアフガニスタンに入国。タリバンの人質となり2人が死亡した。タリバンは当時、アフガニスタンにいる韓国軍の撤収を求めていた。韓国政府は身代金(金額は非公開)を払い、韓国軍の撤収を約束して残る21人を救出した。

 韓国メディアはセンムル教会人質事件を、「韓国政府が右往左往した末、テロに屈し、タリバンに直接身代金を支払った。韓国軍をアフガニスタンから撤収させたことで韓米軍事同盟の信頼を低下させた。韓国に大きなダメージを与えた事件」と評価した。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年2月3
-Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」「漢方医に医療機器は使わせない」と医師会が猛反発、韓国で大論争勃発 [2015年02月13日]

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2015年の新年早々、韓国では医療機器の規制緩和をめぐる大論争が起こった。背景には、韓国ならではの医療事情がある。医師会と漢方医師会の対立である。

 韓国政府は2014年12月末、漢方医もX線撮影(レントゲン)装置や超音波診断装置などを使用できるよう規制を緩和すべきだとして、「漢方医の医療機器使用方案」を検討し始めた。ところが医師会がこれに猛反発。2015年1月21日には結局、議論そのものが振り出しに戻った。

背景に漢方医学の浸透

 韓国の大学には医学部とは別に漢医学部がある。漢医学部では、6年間の課程を修了し、国家試験に合格すると漢方医の免許を取得できる。韓国には漢方総合病院が多数あり、針灸の他、整形外科や内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、婦人科、小児科など、一般の病院と変わらない診療科をそろえている。こうした状況から、漢方医師会はかなり前から「国民の健康と漢方の現代化のために医療機器の使用を認めるべき」と主張していた。

 韓国の憲法裁判所は2013年に、「眼圧測定装置や自動眼屈折検査装置、細隙灯顕微鏡など、安全に問題がなく漢方医にとっても結果の判定が難しくない医療機器については、漢方医が使用しても問題ない」との判断を示した。保健福祉部(省)も「国民の安全と健康に害がなく、漢医学部のカリキュラムに含まれる医療機器に限って、使用を認める方向で検討する」との立場を取っていた。韓国政府は今回、こうした方向に沿って漢方医の医療機器使用を許可する方向に動いたわけである。

「無免許運転と同じ」と医師会

 ところが、韓国の医師会である大韓医師協会は、「漢方医が医療機器を使用することは無免許運転と同じ。結果判定能力のない漢方医が医療機器を使えば、医療の質が低下する」と反発。同会会長は「11万人の医師が手段を選ばず闘争する」と宣言した。医学部の学生協会までもが「漢医学部で履修する医療機器科目は一般教養程度にすぎない。漢方医は医療機器の使い方やデータの解釈を専門に学んでいないのだから、使用を許可してはならない」と反対声明を出すほどの騒ぎとなった。

 これに対し、漢方医師会も負けじと反論。「国民の健康のために医師会は欲を捨てるべきだ。医療機器を使用して患者の状態を正確に把握することが最優先されるべき」と主張した。漢方医師会が全国20~70歳代の男女1000人を対象にアンケート調査を実施したところ、回答者の88%が漢方医による医療機器使用を認めるべきだと回答したという。

 漢方医師会は、中国を引き合いに出してこのようにも主張する。「中国では漢方医が先端医療機器を自由に使えるために代替医療(complementary and alternative medicine)が発達し、世界で10兆ウォン(約1.1兆円)規模の代替医療市場を同国が席巻した。これに対し韓国では、合理的でない規制によって漢方医の役割が制限されている」。

規制緩和検討は「Samsungのため」との見方も

 医師会と漢方医師会が対立を深める中、漢方医による医療機器の使用許可を誰よりも強く望んでいるのは医療機器業界かもしれない。韓国メディアの試算によれば、全国で1万3000近くある漢方病院がMRIやX線CT装置、レントゲン装置、血液検査装置といった医療機器を新たに購入した場合、1兆ウォン(約1100億円)の売り上げが発生するという。

 韓国メディアは漢方医が医療機器を使用できるようになれば、その恩恵を最も受けるのは、韓国Samsung Electronics社だと見る。同社の医療機器事業の実績が思わしくない中、漢方医による医療機器の使用許可検討は同社のためとの見方もあるほどだ。医療機器を設置済みの病院の買い替え需要はなかなか生まれないため、規制緩和によって新たな需要を作ろうとしたというのである。

 結果的には韓国政府が医師会の反発に屈する形となり、漢方医の医療機器使用許可をめぐる議論はなかったものとされた。それでもなお、漢方関連の研究団体などは「漢方病院の骨折治療件数は全国で年間420万件を超えており、生命に支障がない範囲でのレントゲン装置の使用は許可すべき」と主張。最低限の規制緩和として、漢方医にもレントゲン装置と超音波診断装置の使用を許可するよう、韓国政府に粘り強く求めている。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 -Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」ビッグデータ分析に基づく個人健康管理やIoTによる「ヘルスケア実証団地」、韓国政府が支援 [2015年02月10日]

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韓国の経済産業省に当たる産業通商資源部(省)は2015年1月29日、「スマートヘルスケア産業活性化方案」を発表した。主な内容は、国民の健康管理サービスを強化し、スマートヘルスケア産業の輸出を拡大するために、政府予算150億ウォンと官民ファンド150億ウォン、計300億ウォン(約33億円)を支援するというもの。

 韓国政府が描くスマートヘルスケアとは、製造と通信、医療、サービスを相互に連携させ、いつでも手軽に個人の健康管理ができる環境を指す。そこに向けて、「需要連携型スマートヘルスケアシステム開発」「スマートヘルスケア企業の国際競争力確保」「スマートヘルスケア産業基盤作り」の3つを推進する。

オーダーメード型の健康管理を実現へ

 このうち、「需要連携型スマートヘルスケアシステム開発」とは、企業が病院や患者個人のニーズに合わせてシステムを開発できるようにすることである。新設した「Uヘルス総合支援センター」を中心に、研究開発段階から病院と企業、認許可機関、研究機関が連携し、実生活に役立つシステムを開発できる研究環境の構築に2015年に60億ウォン(約6.6億円)を投じる。

 さらに、これまでは病院ごとに保管していた個人の健康・医療情報を統合し、ビッグデータ分析を通じて個人に最適化した健康管理サービスを提供する「個人オーダーメード健康管理システム」を開発する。ここに向けて、2015~2017年に毎年30億ウォン(約3.3億円)ずつ、計90億ウォン(約9.9億円)を投資する。慢性疾患患者や手術後に退院した患者のケアだけでなく、健康を維持するための健康管理にまで段階的にサービスの範囲を広げる計画だ。

「ヘルスケア産業協会」を発足

 「スマートヘルスケア企業の国際競争力確保」と「スマートヘルスケア産業基盤作り」に関しては、ベンチャーや中小企業への投資促進、実績確保のためのテストベッド事業拡大、海外進出のためのサービスと機器認証の獲得、新事業部門の国際標準への先制対応、産学連携などを支援する。官民共同で新産業に投資する1350億ウォン(約148億円)規模の「新成長動力ファンド」から、150億ウォン(約16億円)をヘルスケア関連プロジェクトに投資する。

 さらに、ヘルスケア業界のネットワーク作りに向けて、ICTとサービス、医療をつなげる「ヘルスケア産業協会」を2015年中に発足させる。同協会は、スマートヘルスケア関連機器とプラットフォームの標準化、国際競争力強化のための活動を行う。

 産業通商資源部は同日、スマートヘルスケア産業活性化方案と並ぶ新たな投資案件として、「バイオ産業エンジンプロジェクト」も発表した。スマートヘルスケアとバイオを連携し、個人向けの携帯型生体情報測定装置と健康管理システムを開発するというものである。

健康情報を収集・保存・分析するプラットフォームを構築

 通信政策を担う未来創造科学部(省)もこの日、「ソフトウエア中心のヘルスケア産業育成方案」を公開し、75億ウォン(約8.2億円)を投資すると発表した。これは総額7052億ウォン(約780億円)規模のスマートシティ/スマートホーム/スマートグリッド計画につながるものである。

 未来創造科学部は2015年上期中に「需要連携型デイリーヘルスケア実証団地」を造成し、IoT(internet of things)を活用したさまざまなアイデアを試せるようにする計画。2015~2017年の3年間運営し、3つのテーマに取り組む。「健康情報を収集・保存・分析するヘルスケアプラットフォーム構築」「中小企業の製品開発環境造成」「病院連携実証サービス提供」である。この実証団地を誘致しようと全国の自治体が動いているが、韓国メディアによれば最も有力なのは、過去に大規模な慢性疾患ヘルスケア実証実験を行った実績がある大邱市だという。

 韓国政府はこの他にも、ヘルスケア関連のベンチャースタートアップ支援やアイデア公募など、医療とICTの融合を後押しする政策を毎週のように発表している。この分野では2015年もまた大きな変化がありそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス
 -Original column

[日本と韓国の交差点] 子育ての負担を軽くするはずが…

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日本は女性の社会進出をサポートするため、保育園の待機児童ゼロに向けた政策に取り組んでいる。韓国も日本と同じ悩みを抱えている。子供を預ける場所がなくて女性が会社を辞める。育児のためにキャリアを諦めたくないと子供を産まない。

 その韓国で保育政策を担当する保健福祉部(部は省)が1月23日、現行の保育政策を見直すと発表した。以下の方向に、保育政策を変える方向で検討するという。

  • 無償保育をやめ、選別保育にする
  • 共働き家庭が優先的に保育園を利用できるようにする
  • 専業主婦家庭には養育手当を支給し、家庭内で保育することを勧める(必要に応じて時間制で保育園を利用する)

 韓国は現在、子育ての負担を軽くし出産を奨励するために、親の所得に関係なく子供を無料で保育園に預けることができる。

 また、「嬰幼児(乳幼児)保育法」を改訂して、「全国の保育園・幼稚園に監視カメラを取り付けることを義務化する」「一度でも児童虐待が判明したら保育教師の資格を停止する。保育園・幼稚園は運営停止。園長は二度と保育園を運営できないようにする」方案も検討するとした。

高評価の保育園で虐待

 これらの新しい保育政策は、1月8日に発生した保育園での児童虐待問題がきっかけとなって始まった。

 1月8日の昼、仁川市のマンション団地内にあるオリニジプ(韓国語で子供の家、保育園の意味)で、33歳の保育教師が4歳の女子の頭を強く殴る事件が発生した。「給食を食べ残した」というのが理由だった。当時の様子を防犯カメラが録画した映像がテレビのニュース番組に流れた。問題になった保育園では過去にも保育教師による児童虐待があったことが、保護者らの証言で発覚した。

 ところが、この保育園は、保育園評価認証で100点満点のうち95.36点を獲得し、優秀な保育園だと高く評価されていた。この認証は、質の高い保育サービスを実現すべく、保健福祉部が施設やプログラムを評価するもの。保護者らはこの認証点数を信じて保育園を選ぶ。全国平均は93.7点だ。

 暴力をふるった保育教師は、インターネットの講座を受講して2級保育教師の資格を獲得。民間の保育教師を3年間務めただけで1級保育教師になった。書類上は文句なしの優秀な保育教師だった。この保育教師は資格停止。保育園は現在、運営停止処分となっている。

 韓国メディアは、「全国各地の保育園で保育教師が児童を虐待している。問題はどこにあるのか」として特集を組み始めた。

「無償保育が保育園の質を低下させた」

 保健福祉部は、保育園で児童虐待が起きたのは無償保育のせいだとして、政策の見直しを発表した。保健福祉部は、「保育施設を無料で利用できるため、保育園への需要が過剰に増えた。これを満たすために保育園が急増し、質が落ちた」と説明する。だから無償保育をやめ、働く母親だけが全日保育園に子供を預けられるようにし、保育園の数を調整する。専業主婦は自宅で保育するのを基本にする。こうした方針を明らかした。要するに、保育教師1人当たりの児童数を減らすため、共働き家庭を優先し、専業主婦は基本的に自宅で保育せよ、という内容だ。

 加えて、保育教師の資格要件を強化する、保育教師の適性を評価する、保育教師の勤務環境を改善する、保育園の評価認証に保護者を参加させる、といったことにも早期に着手するとしている。

 現在は、子供1人当たり月額最高77万7000ウォン(約8.5万円)の保育料を政府が保育園に支払っている。一方、自宅で保育する家庭に支払われる養育手当は月額最高20万ウォン(約2.2万円)だ。保健福祉部は、「この差額が大きいため、『保育園に子供を預けないと損をする』と専業主婦は考えているようだ。養育手当を増額すれば専業主婦は自分で子供をケアするはず」と見ている。

 無償保育に反対する韓国メディアは、このように主張する。「2014年末時点で、0~2歳乳児の66.1%が全日保育園に預けられている。この割合は2009年は41.6%だった。2012年に無償保育が始まってから増えるようになった。OECD加盟国の平均は2014年時点で32.6%に過ぎない。女性の就職率はそれほど伸びていないのに、子供を全日保育園に預ける家庭は増えている。高所得者や専業主婦まで保育園に子供を預ければ、国の保育予算は増え続けるしかない。このままでは財政が立ちゆかなくなる」。

「保育園の質が低下したのは、政府が甘いから」

 一方で、保健福祉部の無償保育見直しに反対する意見も多い。ネット上の討論掲示板では、専業主婦の保育園利用を制限する方針に反対する意見の書き込みやコメントが増え、保育政策見直しに関する記事のコメント数と合わせて千件を超えた。

「専業主婦は自分で子供の面倒を見るべきというのは、育児は女性がすべきことで夫婦共同の責任ではないと決めつけるもの」
「育児休暇が取れず仕方なく会社を辞めたのに専業主婦だからと差別するなんて。子供を産まなければよかった」
「専業主婦に見えても、パートで働く女性は多い。保育園は園児を増やして国から手当をたくさんもらうため、時間制で子供を預かるのを嫌がる。預けるなら全日預けてほしいと言われる。政府機関は現状を把握しないまま専業主婦ばかり悪者にする」

市民団体も保健福祉部に異議を唱える。「保育園は認可制なので、政府機関がしっかり管理監督すべきだ。2012年に無償保育が始まって以降、5年間で保育園が1万カ所以上増えた。これは政府の認可基準が甘かったからだ。誰でも保育園を運営できるように政府が認可基準を下げ、保育教師の資格もインターネット講座で簡単に取得できるようにした。その結果保育園のレベルが落ち、問題のある保育園が増えた。保育を金儲けとしか考えていない園長が急増したことで保育教師の待遇も悪くなるばかり」と政府の責任を強調する。

 韓国の保育園は、95%は民間が、5%は国や公的機関が運営している。韓国メディアの報道によると、国・公立保育園は施設やプログラムの質が高いが、民間の保育園はそうではなく差が大きいという。運動場がある広い保育園もあれば、マンションの1室を借りただけの保育園もある。

 保育園は認可制であるにもかかわらず、民間の保育園は権利金付きで売買されるケースがある。権利金とは韓国独自の制度で、店舗を運営する権利を譲り受ける代わりに前の運営者に払う礼金である。園児を集めやすいマンション団地内の保育園は高い権利金が付くと言われている。現行法には権利金を上乗せした保育園の売買を禁じる根拠がないという。

 保育料は政府が決めるもので、保育園が独自に値上げすることはできない。利益を上げるため、保育教師の給料を削る民間の保育園もある。報道によると、民間の保育園に勤める保育教師の場合、1人の教師が最大20人の子供の面倒をみる。彼らは1日10~12時間も働くが、平均給料は月約110万ウォン(約12万円)。政府が決めた最低賃金より1000円多い程度だった。韓国の物価は日本と変わらないほど値上がりしたので、月12万円で生活するのはとても難しい。

 市民団体は、児童虐待を防止するために無償保育をやめることに反対している。「育児負担を軽くする無償保育は朴槿恵大統領の公約なので維持すべきだ。安心して子供を預けられる場所を作るのが政府の仕事である。少子化を改善するためには育児を親だけの責任にしないことが大事だ。保育園を書類だけで認証するのではなく、現場をしっかり把握し、一定レベルを保つようにすべき。保育教師の資格を厳しく管理し、待遇を良くすれば保育の質も変わる」。


By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年1月27
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[日本と韓国の交差点] ソウル中心部の米軍基地跡地に、韓国版・六本木ヒルズ

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 韓国政府は1月18日、ソウル市のど真ん中にある龍山米軍基地跡地に日本の六本木ヒルズをモデルにした50階建て高層ビルを8棟建てる計画を発表した。この跡地から近い梨泰院の国連司令部跡地にも20階建てビルを複数棟建てる。韓国政府とソウル市は、同跡地を公園、住居、オフィス、商業施設がうまく共存するソウル市のランドマークにすることを目指している。一連の開発は「投資活性化計画」と呼ばれる。

 龍山米軍基地跡地は約265万平方メートルで、そのうち243万平方メートルに公園と高層ビルを建てる。残りは米軍基地のままだ。公園は動植物の生態観察、スポーツ、文化、芸術、歴史など色々なことを体験できるもので、ソウル市民の憩いの場とすることを目指す。公園の工事費だけで1兆2000億ウォン(約1300億円)、維持管理費は年間300億ウォン(約33億円)がかかる見込み。これは基本的に中央政府とソウル市が負担する。

 「投資活性化計画」は元々あった「龍山駐韓米軍移転跡地開発計画」を4年前倒しで実行するもの。投資を促し景気回復につなげるのが狙いだ。本来は、駐韓米軍の再配置や移転が終わる2019年から龍山米軍基地跡地を一斉に開発する計画だった。だが、景気回復のため前倒しし、既に空き地になっているところの開発を先に進めることにした。

 龍山米軍基地から駐韓米軍がすべて移転するわけではない。駐韓米軍は龍山に一部の機能だけを残して、最新設備の整った郊外の基地に移転し、韓国軍との連合防衛能力を増強する。

 投資活性化計画によると、龍山米軍基地跡地再開発工事では、民間企業が2020年までに5兆ウォン規模(約5500億円)を投資することになっている。企業の投資を促すべく、費用対効果を上げるため、土地規制の適用を除外する。他の地域では厳しく管理している土地面積と建物の面積の比率、土地面積と建物の延べ面積比率に関する規制を緩め、高層ビルをたくさん建てられるようにした。

 国連司令部跡地には、20階以下のビルしか建てないようにする。ソウル市の真ん中にある南山が遠くからでも見えるようにするためだ。同跡地はオフィス街にする計画で、企業ビルが立ち並ぶ予定だ。

既に空きオフィスが目立っているのに…

 龍山米軍基地は1910~45年までは日本軍の本部があった場所だ。それ以前には清の軍隊が駐屯していた。ソウル市のど真ん中にあるのに、100年以上にわたって韓国人は足を踏み入れることができなかった。

 韓国政府の業務内容を記録して公開している「国家記録院」のウェブサイトで検索すると、龍山米軍基地の移転は1990年から韓国と米国の間で話し合いが始まった。費用問題のために議論が一時中断したこともあったが、2007年には龍山米軍基地跡地を公園にする龍山公園造成特別法を制定。2015年1月18日にようやく具体的な開発計画を発表するに至った。ソウル市は、龍山米軍基地周辺の長年にわたる騒音苦情解決、地域差のない都市開発のためにも龍山米軍基地跡地の開発事業はとても重要なプロジェクトと位置付けている。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年1月20
-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓国でたばこが大幅値上げ

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 2015年1月1日より韓国政府はたばこを1箱2500ウォン(約270円)から4500ウォン(約490円)に値上げした。値上げ分はすべて税金とそれに準じる負担だ。昨年の大晦日は、値上げ前にたばこを買いたい人が続出したせいか、どのコンビニにも「○○(たばこの銘柄)売り切れ」の張り紙が貼ってあった。

 韓国のたばこ代は、4500ウォンのうち73.7%の3318ウォンが税金である。たばこ消費税が1007ウォン、地方教育税が443ウォン、健康増進負担金が841ウォン、付加価値税が409ウォン、個別消費税と消防安全交付税が合わせて594ウォン、廃棄物負担金が24ウォンである。政府予算を審議する国会予算政策処は、たばこ値上げにより2015年は5兆ウォン(約5500億円)ほど税収が増えると見込んでいる。

 韓国政府は、たばこ値上げは国民の健康のためだと主張している。たばこを値上げすれば喫煙率が減る、という考えからだ。韓国政府はたばこの価格を値上げすると同時に、全国の自治体が運営する保健所で禁煙クリニックを無料で運営することにした。禁煙するためのカウンセリングが無料で受けられ、禁煙補助治療剤(ニコチンガムやパッチ)も無料で入手できる。

 保健福祉部(部は省)によると、1月1日から6日の間に、全国保健所の禁煙クリニックに登録した人は3万6725人、前年の3倍以上に達したという。2月からは病院が運営する禁煙クリニックに通う人にも国民健康保険公団が禁煙補助剤購入費を補助することにした。

飲食店と公共施設は全面禁煙

 さらに、韓国政府は1月1日から全国の飲食店、ネットカフェ、バス停などの公共施設を全面禁煙にした。2015年からは分煙も禁止し、飲食店内に喫煙コーナーを置くこともならないとした。飲食店の前に室外喫煙コーナーを置くのは違法ではないが、通行人が多く健康被害の恐れがある場合は設置を禁止する。

 飲食店で喫煙した場合、店主は170万ウォン(約19万円)、喫煙した客は10万ウォン(約1.1万円)の過怠料を科す。電子たばこもたばことみなし、禁煙区域で吸ってはいけない。新年早々、喫煙しようとする客と、それを止めようとする店主の間でトラブルになる場面を何度もみかけた。

たばこ値上げは庶民への増税

 野党の新政治民主連合はたばこの値上げに反対し続けている。これまでは「たばこの値上げ=健康増進負担金の値上げ」で、増税分は保健分野の予算として使った。ところが今回の値上げは、たばこ消費税と地方教育税を大幅に値上げし、今までたばこには賦課されなかった個別消費税を追加した。このため、新政治民主連合をはじめとする野党側は「国民の健康のためではなく、手っ取り早く税収を増やすためたばこを値上げしたにすぎない。増税なき福祉を実現するという朴槿恵大統領の公約はどうなったのか」と批判している。

 野党側は、「たばこ値上げは庶民増税。法人税の値下げを元に戻せ」という立場だ。野党側は、「統計庁のデータを見ると、韓国政府は2008~12年まで財閥大手企業の法人税40兆ウォン(約4.4兆円)を減免した。2013年以降も法人税減免は続いている。税収が足りないと言う前に法人税減免をなくせ」と主張している。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年1月14
-Original column

[日本と韓国の交差点] ピョンチャン冬季五輪を北朝鮮のスキー場で分散開催?

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 2015年が明けてから、韓国と北朝鮮の間で和解ムードが高まっている。

 1月1日、韓国の朴槿恵大統領が国民に対する新年の挨拶を発表した。朴大統領は、2015年は光復(1945年に日本の植民地支配から独立したこと)70周年、南北分断(北朝鮮と韓国に分断されたこと)70年を同時に迎える歴史的な年であり、新しい70年の出発点になる年であると位置づけた。そして、「景気回復」「安全で信頼できる社会作り」「実質的・具体的な統一基盤構築」の3つを新年の目標に挙げた。

 韓国メディアの報道によると、北朝鮮の金正恩第1書記も1月1日、朝鮮中央テレビで「新年の辞」を発表した。「北(北朝鮮)と南(韓国)は祖国統一問題を、思想と制度を超越して民族共同の利益に合わせて解決していくべきである」「(北朝鮮と韓国の関係改善に向けた)雰囲気と環境が整えば、最高位級会談(首脳会談)ができない理由はない。我々はこれからも(韓国との)対話、交渉を進捗させるため努力する」といった内容が含まれていた。

 韓国の統一部(部は省)は、金正恩第1書記の新年の辞に応える形で「近いうちに形式にとらわれない南北(韓国と北朝鮮)当局間の対話が開催されることを期待している」とコメントした。このことから、韓国メディアは「韓国と北朝鮮の当局が首脳会談に前向きな姿勢を見せた」「緊張が続いていた韓国と北朝鮮の関係が改善に向かい始めた」と大々的に報じた。

 労働新聞をはじめとする北朝鮮メディアは1月1~5日の間、韓国政府を非難する記事を一本も書いていない。韓国メディアはこれを、北朝鮮側が韓国側との対話を強く希望していることの表れと評価した。

 このような雰囲気を受けてか、朝鮮日報をはじめとする韓国の保守派メディアは「韓国の未来は北朝鮮との統一にある」といった内容の新年特集を組んだ。北朝鮮と統一することで経済も成長する、観光名所も作れる、といった内容だ。

ピョンチャン冬季五輪が議論の俎上に

 また、年が改まってから2018年ピョンチャン冬季オリンピックを北朝鮮と共同開催し、競技場をピョンチャンと北朝鮮に分散して開催してはどうかという記事が増え始めた。地図で見ると、ピョンチャンの真上に北朝鮮のスキー場がある。この70年近く、人が足を踏み入れることがなかった韓国と北朝鮮の間にある非武装地域を観光地にして、南北を移動するツアー商品を開発してはどうかという案も出ている。これまでは、ピョンチャン冬季オリンピックを北朝鮮と共同で開催するなんてあり得ないという記事ばかりだった。

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By 章恩

 

ビジネス

 20151月6

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20150106/275853/

[日本と韓国の交差点] 韓国の2014年の流行語は「熱情ペイ」「IKEA世代」

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 年末になると韓国でも、1年間に話題になった流行語を紹介するテレビ番組や記事が増える。こちらでも、お笑い番組やネットから生まれた流行語がとても多い。

 お笑いや広告から生まれた流行語の一つに「ウリ(義理。韓国では友達との絆、人情の意味で使われる)」がある。どんなに気まずいシチュエーションでも、「ウリウリ(義理、義理)!」と叫べばその場を切り抜けられる魔法の言葉として使われる。

 社会の姿を反映する流行語もある。もっともよく話題になったのは「熱情ペイ」だ。最低賃金にも満たない報酬もしくは無給で契約職を募集する公共機関や企業の求人広告を見た若者の間で、「熱情」と、支払いを意味する英語の「Pay」を組み合わせた「熱情ペイ」いう造語が生まれた。

 「好きなことをしたい熱情(情熱)があるなら報酬に関係なくがんばれ」「経歴がほしいなら無給で働け」などと、うまい言葉で若者の労働力を搾取しようとする企業や公共機関がある。ファション業界やテレビ業界など人気の高い業種に、勤務時間が長く、報酬は最低賃金に満たなくても「熱情を見せれば、もしかして正社員になれるかもしれない」と考える若者が殺到している。こうした若者の希望を悪用する雇用形態が「熱情ペイ」だ。

 「熱情ペイ」をめぐり、最初は「この頃の若者はハングリー精神がない。お金にしか興味がない。自分達はもっと少ない給料でもがんばってきた」と批判する中年層もいた。給料が少なくても、勤務期間の長さや仕事の熟練度に応じて報酬もだんだん上がっていく契約であれば問題ない。しかし、「熱情ペイ」はほとんどの場合、短期間で契約が終わるため「我慢すればいずれ良くなる」という希望が全く持てないのが特徴だ。

 「熱情ペイ」を乗り越えて正社員になったという人はほんのわずかである。企画財政部(部は省)によると、青年の失業を解決するために公共機関は2014年上半期、インターンとして1万2556人を採用した。条件は週40時間勤務、給料120万ウォン(約14万円)。だが、インターン後に正規職として採用されたのは、このうち16.6%にすぎなかった。

 ネット上では、「そもそも正規職採用のためのインターンではなく、使い捨てインターンだった。これは会社も公共機関も同じだ。ボランティア募集と言えばいいのにインターンというから就職できるのではないか希望を持ってしまう」「熱情ペイの問題は、(所得が少なすぎて)将来の計画を立てることができないこと。未来に対する希望が持てないこと。前が見えない不確実性」だと嘆く書き込みが後を絶たない。

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By 章恩

 

ビジネス

 20141224

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141222/275460/

[日本と韓国の交差点] ナッツリターン~国際的恥さらしに韓国中が怒り

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 日本のメディアも大きく取り上げた大韓航空の「ナッツリターン」事件。韓国社会に衝撃を与えたこの事件は、検察が捜査に乗り出す事態に発展した。

 ナッツリターン事件のあらましはこうだ。大韓航空のチョ・ヒョンア副社長(当時)が12月5日、ファーストクラスに乗った。大韓航空はファーストクラスの乗客にマカデミアナッツをサービスする。同副社長は、乗務員がナッツを皿に盛りつけず袋のまま自分に出したとして激怒。動き始めた飛行機をゲートに戻し乗務員を降ろした。その結果、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港発、韓国仁川空港行きのKE086便は、何の案内放送もないまま離陸が46分遅れ、到着は16分遅れた。ナッツを袋に入れたままサーブしたというだけの理由で、動き始めた飛行機をゲートに戻し、乗務員を降ろしたのは前代未聞の事件である。

 チョ・ヒョンア氏は大韓航空オーナーの長女であるため、乗務員も機長も彼女の命令に逆らえなかったという。もし同氏がオーナー一族ではなく一般乗客だったら、機内で騒動を起こしたとしてすぐ警察に通報されていたに違いない。乗務員ではなく、彼女が飛行機から降ろされていただろう。

 ロイター、CNN、BBCなど海外の主なメディアはこの事件を「Nut rage」、「Nut incident」という見出しを付けて大々的に報道した。「nut」には「ナッツ」という意味に加えて、「バカげた」という意味がある。

袋を開けないのはマニュアル通り

 この事件が表沙汰になったのは、大韓航空社員だけが利用できる掲示板アプリへの書き込みがきっかけだった。これがネットに流れ、韓国メディアが12月8日、一斉に報道した。

 大韓航空側は「前副社長が指摘したにもかかわらず、乗務員がマニュアル通りにせず嘘をついた」「乗務員が飛行機から降りたのは機長の判断だ」と釈明する謝罪文を発表した。だが、韓国メディアは大韓航空側の主張とは全く違う内容の目撃談を報道した。

 事件当日、オーナーの長女が乗るというので客室乗務員は全てベテランに代えられた。乗務員は、マカデミアナッツを食べるかどうか、袋に入ったまま乗客らに見せて回った。これはマニュアル通りの対応だ。乗客が「食べる」と答えたら皿に盛りつける。答えを聞いてから皿に盛りつけるのは、ナッツアレルギーがある人もいるからだ。それを知らずチョ・ヒョンア氏は袋に入ったままナッツを出したと怒り、機内で騒ぎを起こした。同氏は、「乗務員はマニュアル通りにした」と説明し乗務員をかばった事務長(パーサー)を飛行機から降ろした。

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By 章恩

 

ビジネス

 201412月16

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141216/275222/

[日本と韓国の交差点] 韓国政府がソウル一極集中の是正に取り組む

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韓国政府は12月2日、地方の経済活性化を目標とする「地域発展5カ年計画」を発表した。12月4~6日には大統領の諮問委員会である「地域発展委員会」が、同計画の内容を解説するセミナーと、地域経済を活性化した事例を紹介する展示会を開催した。

 日本でも「地方創生」という言葉をよく耳にする。少子高齢化により若い人口が減少する中、首都への一極集中を緩和し、活力を失った地域経済をどう生き返らせるかは、日韓に共通した課題である。韓国も急ピッチで高齢化が進んでいて、人口は今の5000万人をピークに減り続けると見込まれている。人口を維持するためには、首都圏に偏ることなく韓国全土を発展させ、地方にも人が集まるようにしないといけない。しかし今のところ、地方にはこれといった企業も仕事もない。若い人は仕事を求めてソウルに集まるしかない。

 韓国は日本以上に人口がソウルに一極集中している。統計庁の人口データによると、2012年時点で全人口の49.4%が首都圏に住んでいる。1970年までは農村の人口が多く、首都圏には人口の28.3%しか住んでいなかった。だが、経済が成長するのと共に首都圏の人口は伸び続け、ついには人口の半分がソウルとソウルを囲む仁川市、京畿道(道は日本でいう県)に住むようになった。

 これを解消するため韓国政府は2004年「国家均等発展特別法」を制定し、「第1次地域発展中長期計画」を立案した。この計画に基づいて、行政機関を地方に移すための「セジョン新都市」建設が始まった。主な省庁をソウルから車で1時間30分ほど離れたセジョン市に移転することで、公務員の引っ越しを促し、ソウルの人口を減らすのが目的だった。しかし公務員の多くは子供の教育を理由にソウルから離れようとせず、高速バスで通勤している。

地域発展計画進めるほど格差は拡大

 韓国は大統領が変われば政策も変わる。李明博大統領が就任した後、2009年からは「第2次地域発展中長期計画」が始まった。今度は韓国全土を7つの区域に分けて、その地域ごとに代表する産業を育てるというものだった。そして朴槿恵大統領が就任してから、2014年末に第3次地域発展中長期計画に当たる「地域発展5カ年計画」が登場、今度は全く逆で地域を小さい単位に区切ってサポートする政策に変えた。

 2004年から国家均等発展特別法で地方を発展させるという計画が実行に移されたにもかかわらず、首都圏と地方都市の間にある所得格差は広がるばかりである。現代経済研究院が2014年11月に発表した資料によると、韓国の16地方都市のジニ係数(社会における所得格差を測る指標)を比較したところ、地域差は2000年の0.17から2012年の0.20に拡大した。この値は0に近いほど格差がなく、1に近いほど格差が大きいことを意味する。行政機関が移転したセジョン市や、自動車工場や大手企業の下請け部品工場が密集している蔚山市(ウルサン)などは地域総生産が大きいが、その他の地域では景気が悪くなるばかりだった。国際比較すると、2010年時点のジニ係数は、OECD加盟国の平均が0.16、韓国が0.21。韓国における地域差が他に国に比べ大きいことがわかる。

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By 章恩

 

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 201412月8

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141208/274884/