「韓国スマートヘルスケア最前線」 医療観光に注力する韓国、2020年に50万人の誘致目指す

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韓国の仁川空港到着ロビーには、医療観光案内カウンターがある。韓国は国策事業の一つとして、海外の患者を韓国で治療する医療観光に力を入れている。米国や中国、ロシア、中央アジアの富裕層がターゲットで、心臓手術や整形手術、不妊治療などのために韓国を訪問する患者は年々増えている。

2011年は12万2297人

 韓国観光公社と文化体育観光部(部は省に当たる)は、2011年12月に韓国の医療観光推進戦略と実績をまとめた「韓国医療観光総覧」を発行した。この総覧によると、2011年に韓国で受診した外国人患者は12万2297人で、2010年の8万1789人に比べて49%増加した。内訳は、外来患者が9万5810人、健康検診患者が1万4542人、入院患者が1万1945人だった。

 国籍別には米国27.0%、日本22.1%、中国18.9%、ロシア9.5%、モンゴル3.2%の順だった。外国人が主に受診した診療科目は、内科15.3%、皮膚科・整形外科12.7%、家庭医学科8.7%、健康検診センター8.3%、産婦人科7.7%の順だった。

 海外から韓国に観光目的で入国する外国人は年間1000万人近いので、医療観光の12万2297人というのはまだ観光客のごく一部に過ぎない。2020年には外国人の医療観光として50万人の誘致を目標とする。

 韓国が国をあげて医療観光事業を拡大しようとするのは、医療は高付加価値産業で経済効果が大きいからである。医療観光客は一般的な観光客より滞在時間が長く、一人よりも家族が一緒に訪問するケースが多いため、治療費や滞在費として使う金額も大きいのが特徴だという。2011年の医療観光客による収入は3558億ウォン、2015年には1兆2740億ウォン、2020年には5兆5101億ウォンに達する見込みだという。

通訳やコーディネーターの雇用効果も

 医療観光活性化により、2011年は韓国を訪問する外国人患者の入国から出国まですべてをサポートする医療コーディネーターや通訳など6545人の雇用増加効果があった。医療観光後の継続的な患者ケアのため、韓国総合病院の海外進出も活発になり、生産誘発効果は1兆ウォンに及ぶと見込んでいる。大韓病院協会は、医療観光活性化のためには、全患者の5%までに制限されている総合病院の外国人患者数を10%に拡大する規制緩和が必要だと主張する。

 保健福祉部だけでなく韓国観光公社と文化体育観光部も、医療観光産業を育成するための支援を行っている。医療通訳や、医療観光コーディネーター養成のための教育プログラムを運営していて、教育費の6割を国家補助金で負担している。

観光資源に乏しい自治体の活性化にも

 医療観光は観光資源に乏しい自治体でも医療技術で観光客を誘致できることから、地域経済の活性化にもつながる。

 国土海洋部は、韓国の内陸地域の地域経済発展のため、休養型医療観光事業を企画している。内陸には高麗人参や薬草などを栽培する農家が多いので、韓国の伝統漢方である「韓方」を取り入れたヘルスケアで健康を維持し、ゆっくり休むヒーリングの旅を提案するというもの。外国人専用の医療観光バスを運航することで自治体間の移動を便利にし、内陸地域をすべて回れるようにした。韓国のドラマやK-POPが人気の東南アジアの国々を対象に宣伝活動をしている。韓国保健福祉部は、外国人患者誘致のために大邱、仁川、済州などの六つの自治体に10億ウォンの国費を支援している。

 仁川医療観光財団と仁川市の総合病院は、2013年5月1日に中国の労働節連休に合わせて仁川港と中国の天津港を往復する定期クルーズ便が就航することを記念し、「クルーズ医療観光」を企画した。クルーズは観光客2000人と乗務員700人が乗船できる5万トン・クラスの旅客船で、年間22回往復する。クルーズに乗って仁川港に到着する中国人観光客を対象に採血をする健康診断、X線CT装置やPET、MRIを利用した早期がん診断サービスなどを提供する。このクルーズ医療観光のために仁川市と中国のハイナングループは2012年12月にMOUを結んだ。

国際遠隔診療を導入

 韓国の自治体の中で最もヘルスケア産業に力を入れている大邱市では、大学病院が積極的に医療観光を誘致している。

 大邱市の医療機関で受診した外国人患者数は2009年の2816人、2010年の4493人から2011年には5494人と22.3%増加した。大邱市の場合は、2011年の世界陸上大会の影響で外国人観光客が増えたことで、自然に病院を訪問した外国人も増えたともみられるが、大邱市が世界陸上大会に参加する選手団や観光客を対象に積極的に医療観光をアピールしたことで、大邱市の医療機関を信頼して訪問したともいえる。大邱市は市内中心部に「医療観光総合案内所」を運営していて、日本語・中国語・ロシア語などで相談できるようになっている。

 大邱市にあるケミョン大学病院は2012年10月、カザフスタンにユビキタスヘルスケアセンターを設立した。医療観光で大邱市を訪問し、手術を受けた患者の事後ケアを遠隔診療で行うためである。「カザフスタンより医療レベルの高い韓国の病院で手術したいが、術後もちゃんと診療してもらえるかが心配」というカザフスタンの患者のために、国際遠隔診療を導入したのだ。

 カザフスタンには1996年にケミョン大学病院が支援して設立した総合病院があり、その中にユビキタスヘルスセンターを置いた。手術を担当した医者は同センターから送られてくるレントゲンやデータを見ながら、手術を受けた患者とテレビ電話で会話し、術後の健康状態を観察する。

 韓国保険産業振興院の調査によると、海外に進出した韓国の医療機関は、2011年に17カ国74センター、2012年に16カ国90センターある。保健福祉部は2013年に医療機関海外進出200センターを目標としている。

海外進出をサポート

 保健福祉部は2013年1月、医療機関の海外進出をサポートするグローバルヘルスケアファンドを造成し、海外進出プロジェクト受注と投資家募集を担当する専門会社を設立すると発表した。

 外国政府が発注するヘルスケア関連プロジェクトを保健福祉部の専門会社が受注し、韓国の医療機関を参加させる。医療機関が海外に進出するためには、現地の医療制度や医療法に沿って許可をもらわないといけないが、この手続きはとても複雑で時間もかかる。保健福祉部は、プロジェクトを通じて医療技術を認めてもらい、現地政府や企業が病院設立に投資し、韓国は技術と医療専門家を輸出する形で海外進出することを目指す。

 この取り組みのモデルとしているのは、オーストリアの医療機関である「VAMED」。同機関は、医療観光誘致を進める一方、世界各国でヘルスケア・プロジェクトを推進している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 2014年11月6

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[日本と韓国の交差点] 日本のテレビに感謝!~セウォル号事故の真相究明を忘れない

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9月21日、フジテレビの「Mr.サンデー」が「韓国セウォル号沈没の真相」というタイトルでスペシャル番組を放映した。セウォル号沈没事故は、4月16日に韓国で起きた旅客船沈没事故。乗客476人のうち修学旅行中の高校生ら294人が死亡し、10人が未だに行方不明の大惨事である。

 「Mr.サンデー」は、沈没するセウォル号から自力で脱出した高校生らの証言を元に、セウォル号の中で何があったのか、再現ドラマを交えて詳しく紹介した。生存者の証言を詳しく紹介した番組は日本でも韓国でも「Mr.サンデー」が初めてである。韓国のメディアにも登場しなかった事故当日の船内の様子が、生存者が撮った写真と証言で浮かび上がった。

 番組の最後で、生き残った高校生らは、次のように話していた。「韓国政府は、私たちが法廷で証言しても真相究明のために何もしてくれない。どうして事故が起きたのか、この取材で少しでも真実を明かしてほしい。他の国の力を借りてでもなんとかしたい。日本のテレビが取材してくれたことに感謝する」。

 このスペシャル番組を観た韓国人は皆同じ気持ちだったようだ。日本に住んでいる韓国人らが番組内容を韓国ポータルサイトの掲示板などで紹介。これに対して「韓国では報道されない内容を日本のテレビが取材してくれた。ありがたい」というコメントがたくさん寄せられた。番組終了後、セウォル号沈没事故で亡くなった高校生らの冥福を祈り、事故の真相究明を求める日本語のつぶやきが、Twitterにたくさん投稿された。これも大変ありがたいことだった。

真相究明運動は政治活動か

 5月19日、朴槿恵大統領は「セウォル号惨事関連国民談話」をテレビで放映し、セウォル号沈没事故の真相を究明すると涙を流しながら約束した。朴大統領は「国民の命と安全を守るべき大統領として、国民のみなさんが苦痛を味わったことに対し謝罪します」「今回の事故に対処できなかった最終的な責任は大統領である私にあります。その高貴な犠牲を無駄にしないよう、韓国が生まれ変わるきっかけに必ずします」と話した。

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By 趙 章恩

日経ビジネス
2014年9月30

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「韓国スマートヘルスケア最前線」「ヘルスケアIT融合展示会」が開催、韓国の病院情報化やヘルスケアサービスを海外にアピール [2014年11月10日]

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2014年10月27~29日に、韓国・釜山で「ヘルスケアIT融合展示会」が開催された。韓国産業通商資源部(経済産業省に相当する省庁)と釜山市が主管したイベントで、医療とITの融合で新しいヘルスケアサービスを提供している韓国の大学病院や通信キャリアなど50社が展示に参加した。

 韓国産業通商資源部は2013年11月に「ヘルスケア新市場創出戦略」を発表、韓国企業の新規ヘルスケアサービス研究開発や海外進出を支援している。2014年からはウエアラブルデバイスを「産業エンジンプロジェクト」に指定し、今後10年間集中投資することにした。そのため韓国産業通商資源部は毎年3月にソウルで行われている医療機器展示会とは別に、医療とITを組み合わせた展示会を開催することにした。

 今回の展示会はITU全権委員会議(International Telecommunication Union Plenipotentiary Conference 2014)の一環として開催、韓国の病院情報化やヘルスケアサービスを海外の政府関係者やバイヤーに紹介する目的が強かった。

 ITUは無線通信と電気通信分野の国際協力、標準化と規制確立を目的とする国際機構で198カ国が参加している。4年に一度行われるITU全権委員会議は情報通信分野でもっとも権威のある国際会議であり、2014年は10月20日から11月7日まで釜山で開催された。釜山にはITU参加国198カ国の中のうち193カ国の政府代表者約3000人が集まった。

 韓国産業通商資源部は、「ヘルスケア産業は病院、医療機器、情報通信、サービス産業など多様な産業が融合する分野だけに経済への波及力が大きい。韓国のヘルスケア企業は高い技術力を持っていながらも知名度が低く海外進出が難しかったため、展示会を開催することになった」と説明した。


展示会場のファッションショーに登場したウエアラブルデバイス「Heolthon Shine」。専用のアプリケーションを使うと1日の行動を記録できて、腕時計としても使える。キャリアのSK Telecom社とソウル大学病院のジョイントベンチャーであるヘルスコネクト社が販売している。(写真:SK Telecom社)
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3つのコーナーに分けて展示

 ヘルスケアIT融合展示会は、「病院情報館」、「ユビキタスヘルスケア館」、「ウェルネス館」の3つのコーナーに分けて病院向け情報システムやヘルスケアサービス、ウエアラブルデバイスを展示した

 キャリアのSK Telecom社とヘルスケアビジネスのためにジョイントベンチャーを設立したソウル大学病院や開催地釜山を代表する釜山大学病院は、病院内で使っている遠隔診療や情報システム、検査結果・処方などを紙ではなく電子データでやりとりする様子などを展示した。

 家庭で各種センサーを使ったヘルスケアサービスを利用すると何がいいのかを演劇にして見せるコーナーもあった。これは釜山地域の大学生が参加した演劇で、海外のバイヤー向けに韓国ベンチャー企業のウエアラブルデバイスとセンサー、アプリケーションなどの使い方と効果などをエピソード交じりで面白くわかりやすく演じた。

 釜山地域のミスコンテスト出身美女を集めたウエアラブルデバイスファションショーなる催しもあった。韓国の大手からベンチャーに至るまで各社が発売しているウエアラブルデバイスとスポーツウェアを組み合わせたファッションショーだった。一般の参観者向けの健康相談コーナーやウエアラブルデバイス体験コーナーもあった。

 展示会場ではKOTRA(大韓貿易投資振興公社)の主催で輸出商談会が行われた。病院情報化やヘルスケアサービス導入を検討しているオマーン王立病院と保険省、タイの国立健康管理公団、スリランカでもっとも大きい民営病院であるナワロカ病院、チェコのe-Healthセンターなど中東・ヨーロッパ・アジアから44機関が参加し、韓国のベンチャーや中小企業68社が自社の技術とサービスを売り込んだ。この日現場で契約成立となったのが61万米ドル、契約見込みは210万米ドルに及んだ。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
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「韓国スマートヘルスケア最前線」 Samsungの医療機器事業、救急医療分野への特化を打ち出す [2014年11月05日]

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韓国Samsung Electronic社は今、注力事業として掲げる医療機器事業の中でも、救急医療分野に特化する姿勢を打ち出し始めた。同社 医療機器事業部のチョ・スイン社長は2014年9月に韓国で行われた講演で、「インターネットにつながり持ち運びできる救急医療分野に特化したい」と語った。

 先進国で使われている高度な医療機器の分野では、既に米GE Healthcare社、ドイツSiemens社、オランダRoyal Philips社が市場シェアを確保している。一方で、新興国では中国の医療機器メーカーの存在感が高い。

 こうした状況に対してチョ・スイン社長は、「(韓国の医療機器メーカーは)世界の先進企業に追い付く前に中国企業に追いかけられ、世界市場で居場所がなくなるかもしれない。韓国の医療機器産業の発展は遅れているが、我々が持っている技術を応用すれば、他の国にはない医療機器を作れる」と発言。伝統的な医療機器よりも、ディプレイやネットワーク技術を生かした救急医療機器で勝負するとした。

Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」
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スコットランドの救急車に採用

 救急医療分野に関してSamsung Electronics社は、救急車の中で超音波検査をし、その映像を医師に送信できる移動型超音波検査器や移動型X線CT(コンピューター断層撮影)装置、救急車の中で血液検査をして医師にデータを送信できる移動型血液検査器を持っている。このうち移動型血液検査器は、スコットランドの救急車に採用され、急患を助ける時間と費用を節約できることが立証された。

 さらに、Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」は、患者がレントゲン室に行って撮影するのではなく、レントゲンを病室や手術室に持って行って撮影できるようにした。レントゲンの映像品質はそのまま、持ち運びできる移動性を追加したことで急患を助けるのに役立つと見られる。

 最近では韓国でも、試験的に救急隊員に「Google Glass」を装着させている。病院にいる医師に患者の映像を送信して、より早く適切な処置を採るためだ。韓国では病院側も積極的に新しい技術を取り入れようとしている。

 ITなど新たなテクノロジーと医療を融合したヘルスケアや医療機器市場は急成長すると話題にはなっているものの、Samsung Electronics社をはじめとする韓国勢はまだこれといった実績を残していない。救急医療分野への注力は、その突破口を探ろうとする動きの一つと言えそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス
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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20141104/386539/?ST=ndh

[日本と韓国の交差点] 韓国、低金利時代で家計負債が急増

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韓国銀行(中央銀行)によると、韓国の銀行の平均定期預金金利は7月末時点で年2.47%、6月より0.08ポイント下落し史上最低となった。大手銀行の場合、1998年には年20%だった1年定期預金の金利がどんどん下がり、2013年には年4%台、2014年には2~2.47%程度まで落ちた。韓国銀行の基準金利は現在2.25%で、2008~2009年のグローバル金融危機以来、低金利が続いている。基準金利は日本でいう政策金利で、他の銀行は韓国銀行の基準金利に沿って預金や貸出の金利を上げ下げする。

 金利2%は日本の定期預金に比べるとかなり高い数字ではある。しかし韓国の物価上昇率を考えると、実質マイナス金利になっている。例えば1年定期預金が年金利2%だとしても、受け取った利子に利子所得税(15.4%)がかかるので、手取りは年1.69%程度になる。7月時点の物価上昇率は年1.9%なので、銀行に預金するより、物価が上がる前に何かものを買った方がよさそうな気がする。

 第2金融と呼ばれる全国各地の信用金庫や貯蓄銀行の1年定期預金の金利はまだ年2.9%前後で、普通の銀行より少し高い。しかし、第2金融は経営破綻するところが多く、預金したお金が全額戻らないかもしれないリスクを常に抱えている。

韓国政府は金融緩和の方向

 預金の金利が下がるにつれて、銀行の貸出金利も下がった。7月の住宅担保貸出金利は6月より0.05ポイント下落して年3.53%、少額貸出は6月より0.07ポイント下落して年5.22%になった。

 韓国メディアは、韓国銀行が10月以降また基準金利を下げるのではないかと見ている。景気回復が遅れ消費が伸び悩んでいるからだ。金利が下がれば、不動産やビジネスの投資が増える。投資が増えると雇用も所得も増える。預金する代わりに、株などに投資する人が増える。その結果、景気が良くなると見ている。

 韓国銀行のデータを見ると、金利が下がった2014年7月の1カ月間、韓国主要7銀行の家計向け貸出(住宅担保貸出や少額貸出など個人に対する貸出)は約5兆7000億ウォン(約5700億円)にのぼった。1~7月の総貸出金額は前年同期と比べると3倍に近く増えている。2013年1~7月には7兆7000億ウォン(約7700億円)だったものが、2014年同期は23兆8000億ウォン(約2.4兆円)に拡大した。

 韓国政府は、家計負債が増えることは好ましいという姿勢を取っている。その分消費が増え、不動産売買も増えるので、産業全般の拡大につながる。社会全般にお金が回る--という理屈だ。韓国政府は8月から住宅価格の70%まで、年間所得の60%まで銀行から個人に貸出できるよう規制を緩和した。今までは地域によって貸出できる上限が異なった。ソウル市の場合は不動産価格と年間所得の50~60%程度まで貸出できた。規制を緩和したことで、8月以降さらに家計負債が増える可能性が高い。

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By 趙 章恩

日経ビジネス
2014年9月10

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[日本と韓国の交差点] 2014仁川アジア競技大会が開催、北朝鮮選手団も参加

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2014年9月19日から10月4日まで、仁川市で第17回アジア競技大会が開催される。アジア競技大会はアジアオリンピック評議会の加盟国45カ国から選手団約1万3000人が参加し、36種目の競技を行うスポーツの祭典である。スローガンは、「Diversity Shines Here」「平和の息吹、アジアの未来」だ。

 日本選手団は、選手716人、役員357人、合わせて1073人が9月15日に現地入りする。日本選手団は2010年広州大会以上の成績(メダルの総獲得数216個)を目標としている。韓国は5大会連続総合2位を目標にしている。韓国はソチ冬季オリンピックで、女子選手の活躍が目立った(メダルの総獲得数8個のうち、女子選手が7つを獲得)。仁川アジア競技大会でも韓国メディアは女子選手に期待を寄せていて、「女人天下」という見出しでメダル候補の選手をさっそく紹介している。

 北朝鮮も5月に同大会への参加を表明し、組織委員会に対して選手団の名簿を9月5日に送った。14種目に参加する選手150人とコーチ・役員合わせて273人の選手団が韓国にやってくる。北朝鮮選手団は2002年釜山アジア競技大会から4大会連続の参加となる。

 仁川アジア競技大会組織委員会は、北朝鮮の参加でアジアの45カ国すべてが参加する「パーフェクトアジア競技大会」になると喜びを隠さない。北朝鮮選手団が参加することで海外メディアの取材も増える。南北選手団が金メダルを巡って対決することになれば仁川アジア競技大会のチケットが売れるかもしれない。

 北朝鮮対策を担当する統一部(部は省)も北朝鮮選手団を歓迎する方針を示した。北朝鮮の最高幹部の一人で、北朝鮮オリンピック委員長と体育相を務めるキム・ヨンフン氏も北朝鮮選手団役員として韓国を訪問する。韓国メディアはこれをもって、北朝鮮は韓国政府との交流を再開しようとしていると分析した。

 北朝鮮選手団は仁川アジア競技大会で、今まで参加した大会の中で最も良い成績を残すかもしれない。2012年ロンドンオリンピックでは女子柔道と重量挙げで4個の金メダルを獲得している。これまでのアジア競技大会でも柔道、重量挙げ、レスリングなどで好成績を残している。北朝鮮の女子サッカー、卓球、体操などは世界大会で上位に入った。

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By 趙 章恩

日経ビジネス
2014年9月8

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[日本と韓国の交差点] 韓国2015年からコメ市場全面開放を決定

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韓国政府は2015年1月1日からコメ市場を全面開放する。現在は年間40万9000トンのコメを義務的に輸入するだけでよいが、2015年からは輸入する量の限度がなくなる。韓国政府は輸入コメに対する関税の修正案を決めて2014年9月末までにWTOに通知し、2014年末までにコメ輸入関連の法律を改正する。WTO加盟国の中でまだコメ市場を全面開放していないのは韓国とフィリピンだけだった。

 韓国は1986~94年の関税と貿易に関する一般協定(GATT)のウルグアイ・ラウンドの交渉で農産物市場を開放した。しかしコメだけは例外で、一定量を無関税で義務的に輸入することを条件に開放しなかった。WTOが決めたコメの義務輸入量は1994年には5万1000トンだったが、2014年には40万9000トンに増えた。

ミニマムアクセス拡大よりも関税引き上げが得策

 韓国政府は、「韓国のコメ市場開放の猶予期間が2014年末で終わる。コメ市場を開放せずにおくためには義務輸入量を今の2倍に増やす必要がある。それよりはコメ市場を開放して、韓国のコメ産業を発展させるきっかけにすべきである」と説明する。人口1人当たりの年間コメ消費量は、1980年には132キログラムだったが2013年には67キロに減少した。コメの消費は少ないのにコメの義務輸入量が増えると、消費しきれずコメの価格が下がるなど韓国のコメ農家にとって大きな負担になる。

 韓国政府は、コメ市場を全面開放しても輸入コメに高い関税を賦課すれば問題ないという立場だ。農林畜産食品部(部は省)は2015年から、今まで無関税だった義務輸入量分には5%の関税を、それを超えた分に対しては300~500%の関税を賦課して韓国産コメより価格を高くすることを検討しているという。農林畜産食品部は関税の根拠について、「韓国産コメの価格は中国産の2.1倍、米国産の2.8倍高いので、関税が300%以上であれば、輸入コメの価格の方が高くなるので大丈夫」と説明した。

 韓国政府の報道資料を見ると、「韓国より先に1999年コメ市場を開放した日本は、コメ1キロ当たり341円の関税を賦課したことで輸入コメの価格が高くなり、輸入量は少ない。市場を開放したことでコメの義務輸入量も年間75万8000トンだったものが68万2200トンに減った」と書いてある。コメ市場を全面開放しても関税を高くすれば韓国産コメの販売量が減ることはないという説明だ。

 韓国政府は、いざとなれば特別緊急関税(special safeguard)を賦課すればいいとしている。コメの輸入が急激に増えた場合、直近3年間の平均輸入量を超えた分にはさらに高い関税を賦課できる。

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By 趙 章恩

日経ビジネス
2014年9月8

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[日本と韓国の交差点] 税収不足埋めるため交通取り締まり強化

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 地上波放送のKBSは8月29日、不足している税収を増やすために韓国政府が交通違反――スピード違反、後部座席のシートベルト着用違反など――の取り締まりを強化していると報道した。警察は、市民の安全のために取り締まりを強化したというが、実際は反則金徴収を増やすための取り締まりだという内容だった。

 韓国ではこの時期、自家用車での移動が多くなる。韓国のお盆は毎年陰暦8月15日なので、2014年は9月8日がお盆に当たる。お盆の前後にはお墓の草刈りをしたり、法事の準備をしたりする。また、お世話になった人にお盆前にプレゼントを贈る習慣があるので、宅配のトラックも急増する。KBSは、クルマの移動が多いお盆を狙って警察が交通違反の取り締まりを強化し、反則金徴収を増やそうとしていると報道した。

 警察庁が公開した資料によると、2013年に徴収した交通反則金と過怠料は6379億ウォン(約638億円)で、2012年の5543億ウォン(約554億円)より15%も増えた。韓国人の運転マナーは決して良いとは言えない。バスですら急発進、急ブレーキの連続で、乗客の安全をあまり考えていないように見える。それでもここ数年マナーが少しずつ良くなっており、救急車が来ると道を空けるようになった。駐車する時も他のクルマに配慮する――他のクルマが通れなくなるような事態を避ける。マナーが良くなっているのに交通反則金が増え続けるのは少しおかしい。

 国会が最近、交通反則金に関して議論した。国会は「交通反則金は道路の改修や歩道の増設など交通安全を増進するために使われるべきだ。ところが中央政府は、交通安全環境を改善するための予算を年々削減している。その一方で、交通反則金の徴収を増やすための無人カメラ購入費は2013年の943億ウォン(約94億円)から2014年の978億ウォン(約98億円)に増やした」と指摘した。市民の安全のためではなく、交通反則金を徴収するために取り締まるのはおかしい、交通反則金を交通安全のために使わないのもおかしい、という趣旨だ。

交通反則金を増やしても税収は減る一方

 しかし韓国政府は、不足している税収を補うための交通取り締まりをやめる気がないようだ。企画財政部(部は省)が公開した資料によると、2013年は8兆5000億ウォン(約8500億円)の税収が足りず財政赤字となった。2014年は10兆ウォン(約1兆円)近く税収が足りなくなると見込まれている。セウォル号大参事の影響で消費が縮小した。企業の業績も悪化している。

 企画財政部が発表した「2014年8月財政動向」によると、1~6月までの韓国の国税収入は98兆4000億ウォン(約9.8兆円)だった。これは目標としている年間国税収入216兆5000億ウォン(約21.7兆億円)の45.5%に当たる。2013年は6月までに48.2%を確保できていたので、2014年は2.7ポイント遅れている。交通反則金は増えても、法人税と関税の税収が減少し続けているからだ。

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By 趙 章恩

日経ビジネス
2014年9月2

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「韓国スマートヘルスケア最前線」 SamsungとFacebookが「ヘルスケア」で急接近 [2014年10月24日]

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韓国のヘルスケア業界では最近、Samsung Electronics社と米Facebook社の急接近が話題になっている。

 2014年10月14~15日、Facebook社 CEOのMark Zuckerberg氏と同社役員約40人が、Samsung Electronics社本社を訪問した。韓国メディアは、Samsung Electronics社とFacebook社の経営陣の会合はこれが3度目で、経営トップ同士で事業提携について話し合いをしたと報道した。

仮想現実とヘルスケアの組み合わせも

 Samsung Electronics社とFacebook社が提携を検討している分野は、スマートフォン、モバイル広告、仮想現実、そしてヘルスケアだとみられる。Samsung Electronics社もFacebook社もヘルスケアに関心を寄せていることから、韓国ではSamsung Electronics社の端末とFacebook社のプラットフォームを組み合わせた新しいヘルスケアサービスを始めるのではないかとの見方が出ている。

 Samsung Electronics社は、Facebook社が買収した米Oculus VR社と提携し、2014年9月にヘッドマウントディスプレイ「GEAR VR」を公開している。このため、仮想現実とヘルスケアの組み合わせも考えているのではないかと予測する声もある。


個別投資か連携か

 Facebook社もSamsung Electronics社も、ここにきてヘルスケア関連の取り組みが目立ち始めてきた。

 例えば、Facebook社は2014年4月、歩いたり走ったりといった1日の行動を自動で記録するアプリ「Moves」を開発したフィンランドProtoGeo社を買収した。海外メディアは、Facebook社がProtoGeo社を買収したのはヘルスケア市場に進出するためであり、FacebookというSNSプラットフォームとMovesを使って、患者をサポートするサービスを構想していると報道した。同じ疾患を持つ患者同士をFacebook上でつなげ、生活習慣を改善するアドバイスを提供し、ユーザー同士が運動や食事などの情報を共有することで闘病をサポートするサービスである。

 Samsung Electronics社は、同社のスマートフォンの新機種「GALAXY NOTE4」にヘルスケア機能を追加して話題になった。2014年9月に公開した同機種は、心拍測定センサー、血中酸素飽和度計、紫外線測定センサーなどが搭載されていて、本格的なヘルスケアスマートフォンとして注目を浴びている。これらの機能はウエアラブル端末の「GEAR S」にも搭載する予定だという。スマートフォンとウエアラブル端末を連動したヘルスケアサービス「S Health」についても拡大を図っている。

 高齢化の進行により、健康で長生きすることが、全世界共通の関心事になってきた。Samsung Electronics社もFacebook社も、ヘルスケアをきっかけに新たなユーザーの獲得を狙っているのは間違いない。既に世界のヘルスケア市場では、米Google社や米Apple社などが先行して取り組みを進めている。こうした中、今回のSamsung Electronics社とFacebook社の動きからは、それぞれ個別にヘルスケアに投資するよりも、連携して先行陣営に対抗しようとする意図が垣間見える。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
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[日本と韓国の交差点] 韓国歴代ヒット記録塗り替えた映画「鳴梁」、抗日映画だからヒットした?

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韓国で7月30日に封切された映画「鳴梁(ミョンリャン)」が韓国映画興行記録を塗り替えた。8月24日時点で、累積観客数が1600万人を超えた(韓国映画振興委員会のチケット発券枚数統計基準)。これは韓国映画史上初の大台だ。これまでの歴代1位は同1360万人を動員した「アバタ―」だった。

 このほかにも、封切初日最多観客数(68万人)、1日最多観客数(125万人)の記録を達成した。「鳴梁」は朴槿恵大統領が映画館でチケットを買って、一般観客に交じって鑑賞したことでも話題になった。

 日本の一部メディアは「韓国で抗日映画が大ヒットしている」と紹介するが、「鳴梁」が韓国でヒットした理由はほかにある。韓国メディアや韓国の映画評論家が分析した要因の一つは主人公・李舜臣(イ・スンシン)将軍のリーダーシップ、もう一つは財閥系映画配給会社による映画館独占である。

李舜臣将軍のリーダーシップに感銘

 韓国のほとんどの映画雑誌や映画番組は「鳴梁」がヒットした要因を「今の韓国人がほしがっているリーダーシップ、本物のリーダーシップとは何かを見せてくれる映画だから成功した」と分析している。書店には李舜臣将軍が残した日記を現代の韓国語に翻訳した本や、李舜臣将軍を主人公にした歴史小説、リーダーシップに関する本が平積みされている。

 この映画は、鳴梁海戦をモチーフにしている。鳴梁海戦は、朝鮮時代の1597年、李舜臣将軍が率いる朝鮮水軍がたった13隻の船で、133隻もの大軍で攻めてきた日本水軍に勝ったという出来事だ。韓国では朝鮮水軍が大勝したことから、鳴梁海戦を鳴梁大捷という。日本では慶長の役として知られている。「鳴梁」は歴史上の出来事を描いているが、映画の内容がすべて事実というわけではない。それは韓国の観客も知っている。

 李舜臣将軍は1592年から7年続いた壬辰倭亂(日本では文禄・慶長の役)当時、日本水軍と戦って23戦23勝の功績を残した将軍である。韓国では壬辰倭亂から朝鮮を守った聖雄(聖なる英雄)と呼ばれ、ソウル市の真ん中にある光化門広場に銅像がある。

 映画では朝鮮水軍がどうやって日本水軍に勝ったのかを見せる戦闘シーンが1時間近く続くが、「日本に勝った、よかった」で終わる映画ではない。当時の朝鮮の苦しい状況を描き、李舜臣将軍のリーダーシップと平民の活躍に焦点を当てている。

 1592年から日本と戦争が続き、朝鮮の平民たちは苦しむばかりであった。日本水軍は朝鮮水軍に勝利し続け、朝鮮水軍の将軍のほとんどが戦死した。一時は漢陽(現在のソウル)を捨てて避難していた朝鮮の王は、李舜臣将軍を呼び戻した。李舜臣将軍はそれまで、政治家たちから嫉妬され、功績が認められず、役職まで奪われていた。

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By 趙 章恩

日経ビジネス
2014年8月26

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