新発売の「GALAXY S5」、韓国メディアは日本で売れるかに注目 [2014年4月18日]

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 2014年4月11日、韓国サムスン電子のスマートフォン新機種「GALAXY S5」が世界125カ国で同時発売された(写真、日本は未発売)。韓国では一足早い3月27日、キャリア3社の長期加入者向け機種変更モデルとして登場。韓国での端末価格は、32GBモデルが86万6800ウォン(約83000円)となっている。








写真●GALAXY S5を販売している韓国のキャリアLGU+の代理店
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 GALAXY S5は、逆光でもきれいに撮れてシャッター速度が速くなった1600万画素カメラ、指紋認識、防水・防埃機能、心拍数測定センサー、LTEとWi-Fiを同時に使ってネットワーク速度を早くする「ダウンロードブースター」、バッテリーの持ちを長くする「ウルトラ省電力モード」搭載など、最新技術を搭載したプレミアムスマートフォンである。カラーもホワイト、ブラックのほか、エレクトリックブルー、カッパーゴールドという独特なブルーとゴールドもそろえた。

 心拍数測定センサーを搭載したことで、韓国では「GALAXY S5はスマートフォンなのか医療機器なのか」という議論も巻き起こったが、医療機器審査を担当する韓国の行政機関である食品医薬品安全処が「GALAXY S5は医療目的ではなく運動・レジャー目的で心拍数を測定するので医療機器でない」と判断したことで無事販売できた。食品医薬品安全処が医療機器と判断した場合、GALAXY S5はキャリアの代理店ではなく、医療機器ショップで販売することになったかもしれない。

 韓国のGALAXYファンの間では、「GALAXY S5は5.1インチなのでGALAXY Note3より画面が小さいのが気になったが、カメラ機能が素晴らしく画面もとてもきれい。ネットワーク速度が速くなる機能が気に入った」と好評を得ている。韓国人はスマートフォンで自分撮りしてSNSに書き込み、動画サイトを頻繁に利用するので、カメラ機能とネットワーク速度を重視するからだ。


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章恩(ITジャナリスト)

 

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[日本と韓国の交差点] IKEAの韓国進出~消費者は喜び、家具メーカーは怯える

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家具の小売で世界最大手のIKEA(イケア)が韓国に進出する。2014年12月、ソウルから車で1時間ほどのクァンミョン市にIKEAコリア1号店をオープンさせる。クァンミョン市は韓国の新幹線KTXの駅があり、車がなくても交通の便は良い。1号店の建築延面積は25万6168平方メートルで、地下2階地上2階の4階建てになる予定だ。

 IKEAコリア2号店と3号店の建築予定地も既に決まっている。2号店は中小家具メーカーが密集するコヤン市に、3号店はソウル市の東にある住宅街に構える。IKEAコリアは2020年までに5店舗をオープンする計画だと明かした。

 IKEAコリアは6月から、ソウル市内の大型ショッピングモールに、モデルルームを展開している。低価格でありながらデザインが美しい「北欧スタイル」を提案。連日大勢の人で賑わっている。

 韓国でIKEAの好感度は高い。IKEAの韓国進出に、消費者は大いに喜んでいる。韓国は留学経験者が多いため、留学先でIKEAを使った経験のある人が多いからだ。また、韓国の消費者はIKEAが韓国に進出する前から、個人輸入や輸入代行を通じてIKEAの家具に慣れ親しんでいる。そういう人が口コミで「IKEAは低価格でデザインがよく品質も悪くない」という情報を広めている。韓国に正式な店舗ができることで、IKEAの家具やインテリア雑貨をより安く手軽に購入できるようになる。

非婚と不動産価格の暴落が家具需要を減らす

 韓国の家具市場はかつての日本市場とそっくりである。家具はとても高い買い物なので、一度購入すると長く使う。頻繁に買い替えるモノではない。デパートか専門店にあるサンプルを見て買うので、選択の幅は広くない。購入後は、配送業者が完成品を自宅まで運んでくれるか、専門家が部品を運び込み、組み立ててくれる。スーパーのような大きな売り場に展示されている豊富な家具を、自分で見て選び、自宅まで運び、組み立てる仕組みを提供するのは、IKEAが韓国で初めてである。

 家具は購入頻度が低いため、家具小売店の主な顧客は新婚夫婦かマイホームを買った中年夫婦だ。しかし、韓国人のライフスタイルは変わりつつある。結婚もしないし、不動産価格の暴落でマイホームが売れなくなったので、転売して引っ越す世帯が減り、家具も買わなくなった。

 世帯構成も変化している。2010年の人口調査では2人以下世帯が最も多かった。韓国全世帯の24.3%が2人世帯、23.9%が1人世帯だった。従来は、両親と子供2人の4人家族が中心だった。韓国統計庁は2035年になると全世帯の34.3%が1人世帯になると見込んでいる。

 こうした動向を背景に、家具を買い替える需要が縮小している。

 一方で、若い世代はより安い賃貸の住居を求めて引っ越しを繰り返すようになった。景気低迷が続き、収入が伸びないためだ。一生ものの家具よりも、引っ越しの時に邪魔にならない、折りたたむことができるシンプルな家具が人気を集めるようになった。

 また、分譲マンションが売れなくなったため、付加価値を高めるべく、クローゼットや食卓などの基本的な家具をビルトインにするケースが増えている。このため、家具を買う機会がますます減った。

 ライフスタイルが変わり、インテリアや家具ではなく、カーテンや布団カバーといった小物で楽しむようになった。

小企業が多く競争力のない韓国家具メーカー

 韓国家具産業協会によると、韓国の家具市場の規模は年々減少しており、2012年末時点で8兆5000億ウォン(約8500億円)となった。同協会は、「韓国の家具メーカーの85%を従業員5人未満の小企業が占めている。ただでさえ厳しい市場に低価格家具を販売するIKEAが登場すれば、韓国家具メーカーが大きな打撃を受けること間違いない」と見ている。

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20146月30

  章恩(ITジャナリスト)

 

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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140630/267816/


[日本と韓国の交差点] 消費が落ち込む韓国を救うのはオンラインショッピング!?

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韓国ではこの頃、「消費活性化」が大きな話題になっている。韓国開発研究院が5月末に発表した年齢別消費傾向の変化に関する調査結果によると、2003~13年まで10年間、実質GDPは年平均4.1%増加したのに対し、実質民間消費は年平均3.2%しか増加していないことがわかった。全世代において消費の増加率が鈍化している。韓国開発研究院は、経済政策の立案を助けるために、韓国政府が1971年に設立した研究所である。

 韓国開発研究院は、消費の増加率が鈍化しているのは、少子高齢化のため「老後生活に不安を感じる」からと分析した。老後に備えるべく、若いうちから消費を抑える傾向が強くなっているというわけだ。

 寿命は延びるばかりなのに、働くことができる期間はだんだん短くなっている。専門職か公務員でない限り、60歳までサラリーマン生活を続けられる人はほんのわずかに過ぎない。早期退職や希望退職という名目のリストラにより、ほとんどの人が40代後半から50代半ばで定年を迎える。

 その一方で、国民年金の資金が枯渇することが懸念されている。老後の生活を支える年金がもらえるかどうか不安が募る。

教育費がかさみ、老後に備えられない

 所得が最も多いはずの40~50代は、子供の教育費にお金を使いすぎて余裕がなく、他の消費を抑えて老後の生活に備えている。韓国開発研究院によると、韓国の40代は可処分所得の約14%を教育費として使っている。米国の場合この割合は約2.1%。韓国の割合は非常に大きいと言える。このため、韓国開発研究院は今の40代は教育費のせいで老後のための蓄えをする余裕がなく、40代が老後を迎える20年後はさらに民間消費が落ち込む可能性が高いと分析した。

 韓国開発研究院は、消費を増やすには教育費の過度な支出を抑えて可処分所得を増やすしかないとし、そのための対策として以下を挙げた。過剰な教育費を抑えるための教育改革と企業の採用制度の変更(大手企業に就職しないと十分な給料がもらえない、名門大学に進学しないと大手企業に就職できない、名門大学に進学するために塾や家庭教師に通う必要がある)、高齢者の経済活動支援、定年延長などである。

 6月に、消費を活性化するための討論会が開かれた。参加者は学者が中心だ。「消費低迷による内需不振は、生産人口が減少する2017年以降もっと深刻な状態になる」という認識のもと、解決策として移民の受け入れ拡大、外国人観光客の誘致、外国人による韓国オンラインショッピングサイトの利用拡大などを挙げた。



2014年6月23日

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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[日本と韓国の交差点] 盛り上がれない韓国のワールドカップ

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2014ワールドカップが開幕した。日本では全国各地に設置されたパブリックビューイングの前に大勢の人が集まって、試合を観戦していると聞く。日本代表戦が行われた6月15日、サムライブルーに染まった渋谷の光景を韓国メディアも紹介していた。

 ワールドカップの応援といえば韓国も日本に負けていない。韓国代表チームの公式サポーターは赤い悪魔(Red Devil)。赤いTシャツを着た人達が街にあふれ、大いに盛り上がる。十数万人がソウル市庁前広場に集まり、ステージの上ではアイドルグループがワールドカップ応援ソングを歌い、お祭り騒ぎの中で韓国代表を応援する光景が海外メディアにもよく登場する。

 住宅街の居酒屋、家電量販店などテレビがある場所に、いつの間にか人が集まり、ゴールが決まれば見ず知らずの人とも抱き合って喜ぶ。それが、これまでのワールドカップだった。ワールドカップ期間中はどの飲食店でもテレビのチャンネルはスポーツニュースか試合中継に固定、映画館やサッカー場、野球場などでもワールドカップの試合を中継し、ワールドカップの話題で盛り上がるのが当たり前だった――。

 しかし、今年のブラジル大会はとても静かだ。赤い悪魔が例年主催していたソウル市庁前広場の街角応援も、今年は場所を変え、あまり騒がず小規模で応援することになった。全国各地の市庁前広場でも、自治体の協力の下、街角応援が行われていたが、今年は街角応援を一切しないと決めた自治体もある。FIFAの公式スポンサーであるコカコーラや現代自動車が主催する街角応援はあるが、どれも前回の南アフリカ大会に比べて規模を大幅に縮小している。

依然として続くセウォル号事故後の自粛ムード

 韓国でワールドカップが盛り上がらない理由はいろいろある。何よりもセウォル号沈没事故後の自粛ムードが続いている。6月14日時点でまだ12人が行方不明のままだ。政府合同焼香所が、ソウル市庁前をはじめとする大都市の市庁前に今も残っている。事故の責任を巡る裁判も始まったばかりだ。セウォル号の事故を忘れて笑って騒ぐのは申し訳ない、焼香所の前で街角応援をするわけにはいかない、ということで、ソウル市庁前広場の街角応援は光化門(グァンファムン)広場に移動することになった。新聞社と官庁が集まっている狭い場所なので、これまでのように十数万人が集まることは難しい。

 セウォル号沈没事故以降、韓国政府が抱える問題点が次々に明るみになっていることから、ワールドカップどころではないという雰囲気もある。いつもなら5月あたりから企業のワールドカップ便乗マーケティング合戦が盛り上がる。今回は企業も静かなマーケティングに徹している。

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2014年6月16日

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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[日本と韓国の交差点] 韓国メディアが注目する「怒る母親」世代

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6月4日の全国地方選挙が終わると、韓国メディアは一斉に2014年の地方選挙は「怒る母親(Angry Mom)」が選挙の流れを変えたと報道した。修学旅行中の高校生が犠牲になったセウォル号沈没事故の後、政府や関連機関の対処に怒った40代の母親達が、「韓国を変えないといけない。子供によりよい未来を残したい」と政治に関心を持ち、野党候補に票を投じたという分析だった。

 地上波放送局3社共同出口調査の結果を見ると、40代女性による投票はすべての地域において、野党へのものが与党へのものを上回った。ソウル市、釜山市、京畿市といった大都市では、野党候補に投票したと答えた40代女性が62%を超えた。


 韓国地方選挙の投票率は56.8%。中央選挙管理委員会が期待した投票率60%には届かなかった(関連記事「韓国地方選挙、「事前投票制度」で投票率向上目指す)。市長・道(日本の県に当たる自治体)知事選挙の結果は17の自治体で野党候補が9地域、与党候補が8地域で当選した。政府批判的なムードが高まっていたが、50代以上のシニア層は大統領選挙の時と変わらず与党を支持したため、ほぼ半々の結果になった。


 ソウル市長選の場合、韓国ギャロップの調査によると、20代は69.9%、30代は74.5%、40代は66.0%が新政治連合(野党)候補であるパク・ウォンスン現ソウル市長を支持した。一方、50代は57.5%、60代以上は76.5%がセヌリ党(与党)のチョン・モンジュン候補を支持した。


教育監選挙では進歩派が圧勝


 ところが、教育監の選挙結果は様相が異なった。17の自治体のうち、13の地域で野党に近い進歩派の候補が当選(教育監は政党に所属しない)。進歩派の圧勝と言っても過言ではない結果になった。2010年の地方選挙では進歩派教育監は6人しか当選しなかった。今回は保守派支持層が多い釜山市でも、市長は与党候補が当選したものの、教育監は進歩派候補が勝利した。


 韓国の全国地方選挙では、各自治体の教育行政を担当する教育庁の代表者「教育監」を選ぶ選挙も行われる。韓国の教育行政は日本と似ている。市・道ごとに教育庁があり、教育と学芸に関する政策と行政業務を担当する。市・道議会内に教育委員会があり、教育関連法制度の審議・議決を行う。教育委員会の委員は市・道議会の議員で構成する。自治体ごとにいくつかの教育支援庁があり教育庁の業務をサポートする。


 教育監は日本の教育長に当たる地位。予算編成、学校の設立と廃校、教育課程編成など教育政策に関する絶大な権限を持つ。教育部(部は省)や大統領も指図することはできない。そのため、2006年から市民が直接選ぶ制度になった。



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2014年6月9日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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[日本と韓国の交差点] 韓国地方選挙、「事前投票制度」で投票率向上目指す

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6月4日は、韓国の地方選挙の投票日である。市長または都知事、教育監、区長、地方議会議員(市議会、区議会など)などを選ぶ選挙で、投票用紙が7枚もある。

 韓国では今回の地方選挙から、全国単位で初めて「事前投票制度」を導入した。これに伴い、従来の不在者投票制度は廃止する。事前投票は、不在者投票と同じく、本来の投票日に自分の住所地にある投票所で投票ができない人のための制度である。しかし不在者投票と違い、事前投票はとても楽に投票できるようにした。


 不在者投票は、投票日の28日前までに、中央選挙管理委員会に郵便で申し込む。郵便で届く投票用紙を持参して、滞在先の不在者投票所で選挙日6日前に投票する。不在者投票所は、役所と一部の大学が当てられていた(2013年は413カ所)。主に、徴兵で軍にいる軍人や大学進学のため都市にいる大学生、警察官、障害のある人や長期入院している人、選挙管理委員会の職員が利用していた。不在者投票は28日前には申し込まないといけないため、投票日の直前になって急用ができた場合は投票を諦めるしかなかった。


 一方、新たに導入された事前投票は、事前の申し込みは必要ない。選挙日直前の金曜と土曜日の2日間(今回は5月30~31日)、朝6時から夕方6時まで全国どこの事前投票所でも、身分証を持っていくだけで投票できる。事前投票所の数は全国3506カ所に及ぶ。役所に限らず、仁川空港など人が集まる場所にも事前投票所を設けたので、旅行に行く前に空港で投票できるととても好評だ。


 日本の期日前投票制度は、選挙期日の公示日または翌日から投票日前日まで、選挙人名簿に登録されている市区町村と同じ市区町村の役所・役場にある期日前投票所で投票する。韓国は選挙人名簿を地域別ではなく全国統合選挙人名簿で管理しているので、全国どの事前投票所でも投票できる。


投票率を高める効果


 韓国は投票日が臨時公休日となるので、6月4日は休日だ。6月6日も公休日(顯忠日)なので、6月5日に休暇を取れば4~8日まで5連休になる。


 6月6日は顯忠日(ヒョンチュンイル)といって、日本による植民地支配から独立するために戦い亡くなった人や、朝鮮戦争で亡くなった軍人を追悼する日である。この日は半旗を掲げ、騒いだり派手なことをしたりするのを慎む。クラブでも静かな曲しか流さない。最近は、顯忠日が本来持つ意味を忘れ、ただの休みの日としか思わない若い世代も多い。


 このため今回の地方選挙は、連休の影響で投票率が史上最低になるかもしれないと懸念する声があった。しかし事前投票制度の導入により、連休でも投票率低下を食い止められそうだ。


 中央選挙管理委員会が公開した5月30~31日の事前投票率は11.49%、2010年地方選挙の不在者投票率は1.87%だったので、かなり高い数字を記録した。年齢別に見ると、20代が15.97%、30代が9.41%、40代が9.99%、50代が11.53%、60代以上が12.22%だった。20代が最も多いのは、軍人と警察官の事前投票率が高いためと見られる。


 2010年の地方選挙における最終的な投票率は54.4%だった。中央選挙管理委員会は今回、事前投票率が高かっただけに、2010年より5ポイントほど高い60%を目標としている。



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2014年6月4日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 韓国地方選挙、「事前投票制度」で投票率向上目指す

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6月4日は、韓国の地方選挙の投票日である。市長または都知事、教育監、区長、地方議会議員(市議会、区議会など)などを選ぶ選挙で、投票用紙が7枚もある。

 韓国では今回の地方選挙から、全国単位で初めて「事前投票制度」を導入した。これに伴い、従来の不在者投票制度は廃止する。事前投票は、不在者投票と同じく、本来の投票日に自分の住所地にある投票所で投票ができない人のための制度である。しかし不在者投票と違い、事前投票はとても楽に投票できるようにした。


 不在者投票は、投票日の28日前までに、中央選挙管理委員会に郵便で申し込む。郵便で届く投票用紙を持参して、滞在先の不在者投票所で選挙日6日前に投票する。不在者投票所は、役所と一部の大学が当てられていた(2013年は413カ所)。主に、徴兵で軍にいる軍人や大学進学のため都市にいる大学生、警察官、障害のある人や長期入院している人、選挙管理委員会の職員が利用していた。不在者投票は28日前には申し込まないといけないため、投票日の直前になって急用ができた場合は投票を諦めるしかなかった。


 一方、新たに導入された事前投票は、事前の申し込みは必要ない。選挙日直前の金曜と土曜日の2日間(今回は5月30~31日)、朝6時から夕方6時まで全国どこの事前投票所でも、身分証を持っていくだけで投票できる。事前投票所の数は全国3506カ所に及ぶ。役所に限らず、仁川空港など人が集まる場所にも事前投票所を設けたので、旅行に行く前に空港で投票できるととても好評だ。


 日本の期日前投票制度は、選挙期日の公示日または翌日から投票日前日まで、選挙人名簿に登録されている市区町村と同じ市区町村の役所・役場にある期日前投票所で投票する。韓国は選挙人名簿を地域別ではなく全国統合選挙人名簿で管理しているので、全国どの事前投票所でも投票できる。


投票率を高める効果


 韓国は投票日が臨時公休日となるので、6月4日は休日だ。6月6日も公休日(顯忠日)なので、6月5日に休暇を取れば4~8日まで5連休になる。


 6月6日は顯忠日(ヒョンチュンイル)といって、日本による植民地支配から独立するために戦い亡くなった人や、朝鮮戦争で亡くなった軍人を追悼する日である。この日は半旗を掲げ、騒いだり派手なことをしたりするのを慎む。クラブでも静かな曲しか流さない。最近は、顯忠日が本来持つ意味を忘れ、ただの休みの日としか思わない若い世代も多い。


 このため今回の地方選挙は、連休の影響で投票率が史上最低になるかもしれないと懸念する声があった。しかし事前投票制度の導入により、連休でも投票率低下を食い止められそうだ。


 中央選挙管理委員会が公開した5月30~31日の事前投票率は11.49%、2010年地方選挙の不在者投票率は1.87%だったので、かなり高い数字を記録した。年齢別に見ると、20代が15.97%、30代が9.41%、40代が9.99%、50代が11.53%、60代以上が12.22%だった。20代が最も多いのは、軍人と警察官の事前投票率が高いためと見られる。


 2010年の地方選挙における最終的な投票率は54.4%だった。中央選挙管理委員会は今回、事前投票率が高かっただけに、2010年より5ポイントほど高い60%を目標としている。



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2014年6月3日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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[日本と韓国の交差点] 日本の原発判決が韓国に与えた影響

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セウォル号沈没事故以降、韓国社会はこれまでよりも「災害対策」と「安全」に敏感になっている。このような大惨事を予防するため、さまざまな産業が安全対策を再検討している。

 今一番の心配は原発だ。稼働から30年を超えた原発を稼働させ続けることについて、原発周辺の住民と市民団体らが事故の可能性が非常に高いと懸念している。韓国は経済発展を優先し、安全より利益と効率を重視し続けてきた。このままでいいのかという疑問の声が後を絶たない。


 こうした中、日本の福井地裁が5月21日、大飯原発3、4号機の再稼働を認めないとする判決を下したことが韓国で大きな話題になった。福井地裁の「個人の生命と生活に関する利益である人格権より大事な価値はない」という判決が、韓国の原発周辺に住む住民と市民団体を動かした。


 韓国の国会はセウォル号が沈没した原因の一つとして、李明博前大統領が2009年に、20年だった客船寿命を30年に延長したことが問題だと見ている。同大統領は、客船の寿命を10年延長すると年間250億ウォン(約27億円)の経済利益を得られるとして、規制を緩和した。学者の間では「20年以上運航した客船は事故の可能性が高い。客船の運航寿命を延長して得られる利益より海洋事故による損失の方が大きい」と反対する声が上がったが、当時の韓国政府はこれを受け入れなかった。


 セウォル号は、既に18年にわたって運航されていた中古船を、韓国の船会社チョンへジン社が日本から輸入し、韓国でさらに2年以上運航していた。海洋水産部(部は省)の資料によると、韓国内で運航中の客船は173隻(2013年末時点)。このうち海外から輸入した中古客船は36隻。輸入した客船の平均運航期間は20.7年だった。


当初予定していた寿命を超えて稼働


 設計寿命を延長して使い続けている原発でも、セウォル号と同じことが繰り返されるのではいかという懸念が高まっている――安全より利益を重視して運航寿命を延長したことが大参事につながる。


 韓国原子力安全委員会は、ゴリ原発1号機を2017年まで稼働できるようにした。同機は設計寿命30年で1978年に商業運転を開始した。本来なら2008年で寿命を迎えるものを2017年まで延長している。ゴリ原発は韓国第2の都市、釜山市から車で1時間ほどの距離にある。


 韓国の原発は、釜山周辺の東海岸に集中している。事故があった場合、釜山から近い九州にも影響が出る。もちろん九州地域にある原発で事故があった場合、同じように釜山地域に影響が出る。韓国も日本も原発は自分たちだけの問題ではない。



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2014年5月27日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 韓国で続く政府批判~公営放送のセウォル号報道に介入疑惑

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ソウル市中心部の各地で5月17日、セウォル号沈没事故の真相究明と責任者の処罰を求める集会がいくつも行われた。各種市民団体の呼びかけで市民が集まった。政府の最高責任者である朴槿恵大統領の退陣を求める集会を開催する市民団体もあった。この日の集会に参加した総人数について、市民団体は5万人、警察は1万1000人と発表している。

 ソウル市庁の周辺では、女子大生が中心となって沈黙集会を開いた。沈黙集会は、セウォル号の乗員が「客室で待機してください、その場で動かないようにしてください」と船内放送をして自分たちだけ逃げたことを受けて、「『その場で動かないように』という指示にはもう従わない、黙っていない」ことを逆説的にアピールすることを狙ったものだ。安心して子供を育てられる国にしてほしいと、子供を連れた母親たちが行進する小さな集会も住宅街で開かれた。


 朴大統領は5月16日、セウォル号沈没被害者家族の代表を大統領官邸に招いて政府の事故後の対処について謝罪するとともに、事故の真相を究明すると約束した。朴大統領は面談の場で、「セウォル号事故を契機に、韓国が完全に新しい国に生まれ変わるよう努力している」「このようなことが二度と起きないよう、社会の安全システムを根本から見直す。国家大改造というレベルで社会の基礎から立て直すことが、犠牲者への償いとなる」などと発言した。


 それでも市民の声は収まらない。ネット上では政府を批判する声が続いていた。


「どうやって韓国を生まれ変わらせるのかが問題。具体的な方案がない」
「朴大統領は『謝罪します』ですべてが収まると思わないでほしい。真相を暴くのはこれからだ」
「今までの救助活動や捜査状況を見て、大統領と政府機関の言うことは一切信用できない」


 セウォル号沈没事故の真相究明を求める集会の頻度が徐々に増え、ついに5月17日の大規模な集会につながった。


警察が集会参加者を逮捕


 5月17日、警察は集会に参加した人の一部が車道に出て交通を妨害したとして、100人以上を逮捕し、警察署に連行した。集会に参加した人たちは警察に抗議し、SNSで集会の自由を訴えた。


 ネット上では「反政府勢力がセウォル号沈没事故を利用して市民を扇動している。セウォル号事故と関連のない集会を開いている団体は逮捕していい」という意見と「警察は憲法で保障された集会の自由を弾圧している。警察が集会参加者を連行するのは、市民に恐怖を与え、今後集会に参加できないようにするのが目的だ。韓国政府は何が怖くて警察に連行を指示したのか」という意見がぶつかっている。


 集会を報じる記事も、見方が割れている。進歩派のキョンヒャン新聞やハンギョレ新聞は「集会を終えて解散しようとする市民を警察が囲んで無理やり連行した」という集会参加者の声を報じた。一方、保守派の朝鮮日報や中央日報などは「不法集会をしたので警察が逮捕した」と報じている。







2014年5月19日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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[日本と韓国の交差点] 韓国政府の安全対策、まずは「官僚マフィア」をなくすことから?

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セウォル号沈没から1カ月が過ぎようとしている。この事件では、修学旅行中の高校生が犠牲になった。船内に残された乗客を1人として救助することができなかった。このショックはいまだに韓国人を苦しめている。行方不明者を含む304人の犠牲を無駄にしてはいけないという気持ちが、韓国全体を覆っている。

 セウォル号が沈没した原因の捜査が進めば進むほど、韓国社会の醜い実態が浮き彫りになってくる。事故後の政府と船会社の対応には、韓国社会の悪い面が凝縮している。


1人も救えなかったトラウマ


 筆者の周りにはこの頃、「セウォル号沈没後、考え方が大きく変わった」と話す人が増えた。「いつ死ぬか分からないから、家族と過ごす時間を何よりも大事にするようになった」「次は自分が犠牲になるかもしれない。社会を変えないといけないと思って政治に興味を持つようになった」「どこに行っても、まず非常口を確認する。安全意識が高まった」。


 2014年4月16日、客船が沈むのを、多くの国民がテレビの生中継で見た。高校生らがまだ客船の中にいることを知りながら、どんどん沈んでいく船をテレビで見つめるしかなかったことは韓国人のトラウマになった。


 政府葬儀支援団によると、全国各地にある合同焼香所を弔問した人は5月11日時点で172万人を超えた。合同焼香所には、遺体で見つかった安山市ダンウォン高校2年生227人、教師7人、一般乗客27人の位牌が置いてある。


 5月10~11日の週末には、ソウル市内と安山市内でろうそく集会が行われた。セウォル号犠牲者を追悼するとともに、事故の真相究明を韓国政府に求めるものだ。市民約2万人が参加し、ろうそくを持って行進した。


 米国に住む韓国人主婦ら4000人はクラウドファンディングを利用して16万ドルを集め、5月11日付けの米ニューヨーク・タイムズ日曜版に韓国政府を批判する全面広告を掲載した。募金に参加した主婦らは、「セウォル号沈没の真相究明と責任者の処罰をうやむやにしてはいけない。韓国政府がどう対処するのか海外でも関心を持っている。子供を持つ母親として黙っていない、ということを広く伝えるため広告を企画した」と理由を説明する。(関連情報:The New York Times Ad on May, 11th



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2014年5月13日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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