[日本と韓国の交差点] 韓国映画「天安艦プロジェクト」が上映中止に

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韓国で9月5日に封切された映画「天安艦プロジェクト」が表現の自由と安全保障を巡る問題になっている。大手映画館のMegaboxが、全国22の映画館で上映を開始した「天安艦プロジェクト」の上映を中止すると発表したのだ。上映2日目である6日、Megaboxは自社ホームページに「『天安艦プロジェクト』の上映に反対する団体が強く抗議し、集会を開催すると予告した。映画館において、その抗議団体と観客が衝突することが予想される。観客の安全を守るためやむを得ず、7日午前0時から上映を中止する」と告知した。

 2日間で5000人以上が足を運んだ。上映時間75分の短いドキュメンタリー映画であるにもかかわらず、観客の入りが好調だと話題になったばかりだった。大手映画館Megaboxが上映を取り消したため、インディー映画や芸術映画専用の映画館10カ所は9月9日から上映することにした。

 「天安艦プロジェクト」は韓国の哨戒艇「天安」が沈没した事件を、政府の発表とは違う角度から振り返るドキュメンタリー映画である。政府は「北朝鮮の魚雷により爆発した」と発表していた。この映画を制作したアウラピクチャーズはその意図を「政府の発表を否定して天安艦の沈没原因を明かすことが目的ではない。政府機関の発表に疑問を持ってはいけない――と強要することについて考えるための映画だ」と説明している。

 韓国では、ほとんどの国民が「天安艦が沈没したのは北朝鮮の仕業である。これは間違いない」と信じている。このため、国防部の発表におかしな点があると指摘しただけで「パルゲンイ(赤い人=共産主義者に対する蔑称)」「従北(北朝鮮)勢力」と罵られる雰囲気がある。「韓国は自由民主主義国家なのだから政府の発表に疑問を持ってもいいじゃないか」「多様な意見があってもいいじゃないか」という点を「天安艦プロジェクト」で指摘したかったという。

上映開始前から名誉毀損の指摘

 アウラピクチャーズは「天安艦プロジェクト」を2013年4月の韓国全州国際映画祭で初めて公開した。その後、ソーシャルファンディングを利用して一般映画館で上映するための費用を調達した。7月には映像物等級委員会から「12歳以上観覧可」の認証を得て、上映の準備を整えた。

 ところが8月7日、天安艦犠牲者遺家族協会と沈没事件当時海軍にいた元将校らが、議政府地方法院(法院は日本の裁判所に該当)に上映禁止の仮処分を申請した。「天安艦プロジェクト」には「事実を歪曲し、犠牲になった兵士46人と遺族の名誉を棄損する恐れがある」というのが理由だ。

 法院は9月4日、この申請を棄却した。理由は次の3つだった。
 「映画の制作と上映は原則的に、憲法上の表現の自由によって保障される」
 「国防部合同調査団の事件報告書と違う意見や主張をしたことが、虚偽の事実で申請者の名誉を棄損したとは言い難い」
 「この映画は、事故の原因について疑惑を持っている国民がいるので(政府機関がこれについて)議論する必要がある――ということを表現する意図で制作された。虚偽の事実を並べたとは言い難い」
 これを受けて9月5日、やっと上映にこぎ着けた。

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スマホが売れない? 次の市場「スマートウオッチ」狙うサムスンとLG [2013年8月2日]

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スマートフォン市場に異変が起きている。

 このところ、韓国サムスン電子(スマートフォン世界シェア1位)の「GALAXY S4」や、米アップル(シェア2位)の「iPhone 5」のようなハイエンドスマートフォンの需要が減り、出荷台数も営業利益も減るだろうと予測する証券市場関係者のリポートが相次いでいる。これらの市場関係者は、ハイエンドではなく、300ドル以下のリーズナブルな端末の方が売れる時代になると見ている。

 実際に2013年7月末に各社が発表した4~6月の業績を見ると、韓国のサムスンとLG電子(世界シェア3位)、アップルの3社ともに、スマートフォン出荷台数の多さに比べて利益水準はそれほど高くない。サムスンの場合、ITモバイル部門の売上は前期に比べ8%増加しているが、営業利益は前期に比べ3%減っている。

 サムスンは「スマートフォンの売上高は伸びている。パソコンとネットワーク事業の実績が落ち込んでいること、新製品研究開発・流通投資の拡大により、前期比営業利益は小幅減少した」と説明した。

 LGも4~6月に出荷台数は伸びたが、平均販売単価が落ちたことで前期比売上も営業利益も落ち込んでいる。アップルも4~6月に3120万台ものiPhoneを販売したものの、純利益は前期比22%減少した。既にスマートフォンの普及率が高くなったことで、欧米市場での販売が落ち込み、途上国向けの安い端末しか売れないのでスマートフォンの利益は減少すると証券会社らは予測している。

アップルだけではなく韓国2強もスマートウオッチの商標出願

 そのせいか、アップルに続いてサムスンとLGもスマートフォンの次のハイエンド市場として、腕時計型デバイスの「スマートウオッチ」に力を入れている。

 サムスンのスマートウオッチは「Samsung Gear」という名前になりそうだ。サムスンは韓国と米の当局に「Samsung Gear」を商標登録した。登録した内容を見ると、Samsung Gearは、「PCやスマートフォン・家電とデータのやりとりができる、健康状態記録のための多機能ソフトウエア、デジタルカメラ、GPS位置確認システム装置、音響と映像の記録・再生・転送装置、TV受信機、コードレスヘッドセット」などの機能が搭載されるようだ。

サムスンは既に開発完了か?

 韓国マスコミは、「サムスンは既にSamsung Gearの開発を完了し、インドで製品テストをしているのではないか」「2013年9月にドイツで開催される世界家電展示会(IFA)で初めてGearを公開するのではないか」と見ている。そうなれば、アップルよりも先にサムスンがスマートウオッチを発売する可能性も高くなる。サムスンはIFAで「怪物」と噂される超ハイエンドスマートフォン「Galaxy Note 3」を披露する予定でもある。

 LGは韓国の特許庁に「G Watch」「G Glass」というブランドを商標登録出願した。名前からしてウエアラブルデバイスなのは間違いないだろう。LGは、「商標登録出願しただけでどのようなものになるかはまだ決まっていない」と説明した。

韓国ネットユーザーもアップルに熱視線

 日本でもソニーがスマートウオッチを発売して話題になっているが、韓国ネットユーザーの間でもスマートウオッチは話題の中心になっている。韓国でも本命はやはりアップルの「iWatch」(関連記事)。その理由はデザインにある。

 アップルなら普通の時計と変わらないかっこいいデザインのスマートウオッチを作りそうだという期待が高まっている。サムスンかアップルか、どっちのスマートウオッチにするかは、性能だけでなくデザインにかかっている。防水機能があってディスプレイがきれいな方を選ぶという意見も多い。

 アップルのスマートウオッチも10月には公開されるのではないかと見られる。年末商戦期には、スマートウオッチ競争が本格的に始まりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130802/1100286/

韓国電機大手のサムスンとLG、ハードの次はソフト人材確保で激しい競争 [2013年7月26日]

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韓国では、ディスプレイの大きさ、3Dテレビの技術、冷蔵庫の容量の大きさ、スマートフォンのデザインなどあらゆる分野で、サムスン電子とLG電子が競争し続けている。今度はソフトウエア開発人材確保を巡り、新たな競争が激化している。

サムスン電子は「分離融合」型のソフト技術者育てる

 一歩先にソフトウエア開発人材確保に乗り出したのはサムスンである。これからもハードウエアを売り続けるためにはソフトも一緒に開発しなければならないとして、ソフト人材教育に力を入れ始めた。

 2013年からは文系人材を採用してソフトウエア開発を任せると発表した。まさに「文理融合」、文系と工学系の両方の考え方ができる人に育てるということだ。従来のサムスンの新入社員は8割が理系・工学系だった。

 文系出身でソフトウエア開発職になるためには、採用試験に合格して内定をもらい、その後「サムスン・コンバージェンス・ソフトウエア・アカデミー」で6カ月間960時間のソフトウエア開発教育を履修しなければならない。修了しなければ採用はなかったことになる。まずは今年200人を採用し、徐々に拡大していくとしている。2013年度の新入社員は全9000人を採用する予定である。

技術そのものに加えて「感性」を重視

 実験的ともいえる「文系人材をソフト開発者に育てる」という採用方式は、未来を考えてのことである。サムスンは、これからは技術そのものの競争よりも、人間の感性や感情に訴えられるように技術・サービスを組み合わせられる力、「融合」力の競争になると見ている。故スティーブ・ジョブズ氏のような、哲学を専攻した開発者、人間と文化を理解できる文理融合人材こそが、未来をリードすると強調する。

 サムスンは今年から5年間、小中高校生4万人、大学生1万人を募集してソフト開発教育を実施する計画も持っている。大学生の場合は、コンピュータサイエンスなど工学専攻者と、文系学生などコンピュータ非専攻者に分けて教育を行う。学生の頃からサムスン向けの人材になるよう教育して、その後に採用しようという考えだ。

LG電子は「コーディング専門家認証」制度

 LG電子もソフトウエア人材を大事にしている。2012年からは社員を対象にした「ソフトウエアコーディング専門家認証」を設けて、プログラミング言語でソースコードを作成する能力の優れた社員を専門家として認証している。

 この専門家に選ばれると、社内講師となってセミナーをするなど他の社員のお手本として活躍することになる。インセンティブ(報奨金)がもらえるのはもちろん、海外カンファレンスへの参加や、研究委員として昇格できるチャンスも与えられる。

長時間労働・低賃金から脱却できるか?

 韓国政府も2013年末までにソフトウエアセキュリティ専門家200人を養成する計画を発表した。相次ぐサイバー攻撃・ハッキング事件に歯止めをかけるため、政府Webサイトのセキュリティ脆弱性を把握し、防御できる人材を育てるのが目的だ。

 ソフトウエアセキュリティ専門家は、6年以上の開発経験と、3年以上のセキュリティ診断経験があり、韓国インターネット振興院の専門家養成課程を履修する。要件を満たすと、安全行政部(省)から資格証をもらえる。

 韓国では長時間労働、低賃金で、定年退職も早いのがソフト開発者のよくある姿だった。ところが最近は大手企業がこぞって「これからはソフトウエアが競争力を左右する」として、開発者を大事にする意向をアピールしている。ソフトウエア開発人材確保競争が開発者の待遇改善につながるとことを期待したい。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130725/1098984/

韓国の夏休み商戦、LTE-Aと屋外で動画を楽しめる超小型プロジェクターが人気 [2013年7月19日]

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 ここ数年、韓国では夏の休暇の過ごし方として、海外旅行とキャンプが流行っている。海外旅行は格安航空が増えたことで、国内旅行にちょっとお金を足しただけで東南アジアに行けるようになったからだ。格安航空の影響で、以前は8月に集中していた夏の休暇が、5~9月に分散したほどだ。去年までも7月からキャリアの定額制データローミングのCMが増えていたが、最近は年中海外でもデータ通信を安く使える料金制があると宣伝している。

 国内旅行は森や川でテントを張って寝るキャンプが大人気だ。ソウル市内にまでキャンプ場ができたほどである。ホテルの庭に高級テントを張って「キャンプっぽい」雰囲気を楽しみ、夜はホテルの部屋で寝るというパッケージ商品も人気が高い。

キャリア・電機メーカーが旅行者のニーズに対応

 キャンプ好きな人が増えたことを背景に、韓国の通信事業者(キャリア)はこの夏、「野外で映画を楽しめる」LTE高速通信サービスと、超小型プロジェクターのプロモーションを始めた。

 サムスン電子は、モニターを取り外してタブレットとしても使えるLTE対応Windows 8パソコン「ATIV Tab LTE」「ATIV Pro」の体験イベントを本社ショールームや代理店などで開催している。LTEを使えるATIVノートパソコンがあれば、アウトドアでも高速モバイル通信で仕事をさくさくこなし、映画やドラマ再放送など映像コンテンツもスムーズに楽しめると、宣伝している。

 
サムスン電子のLTE対応Windows 8パソコン「ATIV」。

 ATIVを買って、韓国大手キャリアSKテレコムのLTEデータシェア料金に加入すれば、1台分の料金で、スマートフォンとノートパソコンの2台からLTEを使える。LTE端末別にデータ料金を払う必要がないため、LTEノートパソコンも売れるようになった。

2013年6月末から始まったLTE-Aサービス

 SKテレコムは、2013年6月末からLTE-Aを商用化した。LTE-Aは800Mhzと1.8GHzの2つの周波数帯域を同時に使う「キャリアアグリゲーション技術」を使うことで、既存LTEの2倍に当たる最大150Mbpsの高速通信を可能にした。SNSを使ったビデオ通話、映像ストリーミングもすいすい利用できる。

 SKテレコムによると、LTE-Aを商用化してから2週間でLTEからLTE-Aに乗り換えたユーザーが15万人を超えた。新規加入者、機種変更加入者の約30%がLTE-Aを選択しているという。SKテレコムは音声通話もCDMAではなくLTE回線を使えるようにしている。音声通話をLTE回線に変えると音質がきれいになり、電話がつながるまでにかかる時間も断然短くなるという。

 LTE-A加入者だけが使えるFull HDストリーミングサービスや、同時に4人でテレビ電話ができるグループビデオ通話サービスも始めた。高速無線通信回線が登場したおかげで、モバイルデバイス向け映像コンテンツサービスも人気を集め、スマートフォン向け小型プロジェクターの需要が増え始めた。

超小型プロジェクターも人気

 スマートフォンに取り付けて使う2万円ぐらいの4.5cm×4.5cmサイズの超小型プロジェクター「スマートビーム」も人気商品である。キャンプ場で、家族みんなが集まって大画面で映画を楽しむための必需品だ。
 

 
SKテレコムの「スマートビーム」はスマートフォンに取り付けて使う超小型プロジェクター。キャンプに行く人が増えていることから、野外劇場風に映画を楽しむ用途を訴求している。LTEの普及で映画をストリーミングでもすいすい利用できるようになった。

 スマートビームはアシアナ航空の機内免税品としても販売されているほど人気だという。プロジェクターというと会社用、学校用というイメージがあるが、韓国では「ベッドに寝転がって天井に映画を映せるところがいい」と、個人用プロジェクターに興味を持つ人が増えている。他方で、自宅ではテレビもパソコンも使わずスマートフォンですべてを済ます人も増えているため、ホームシアターの代わりにスマートビームを買うの人も増えてくるかもしれない。

 SKテレコムはソウルの真ん中を流れる川、漢江(ハンガン)沿いの公園でスマートビームをレンタルできるイベントを開催する予定である。真夏になると少しでも涼しい場所を求めて漢江公園にテントを持ってきて寝泊りする人もいる。特に今年は電力不足で厳しい節電を強いられているので、エアコンをつけられず、漢江にやってくる家族が増える見込み。スマートビームをレンタルして、ちょっとしたキャンプ気分で家族だけの野外映画を楽しめるイベントになりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130719/1098229/

[日本と韓国の交差点] 韓国鉄道公社、民営化するべきか? しないべきか?

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2013年8月31日、韓国の大邱駅で信号を見間違えて列車が出発し、駅に進入しようとした別の列車と衝突する事故が発生した。そのうちの1本が線路から外れて横にいた別の列車に衝突。3重衝突事故という大事故につながった。線路から外れた列車は車両の横が破れたようにぐちゃぐちゃになった。乗客は窓を割って車両の外へ避難した。2本ともゆっくり走っていたので人命に被害はなかった。

 韓国の民放SBSはこの事故の原因について、「民営化を進めようとした弊害だ。経験不足の乗務員を配置したことが事故につながったのではないか」と分析した。全国鉄道労働組合は、「会社側は、列車の乗務員や駅員は単純業務という理由で循環勤務をさせている。そのせいで事故が発生した」と主張した。循環勤務とは、同じ人が列車乗務員になったり、駅員になったりすることをいう。

 今回事故の起きた列車を運行しているKorail(韓国鉄道公社)は、赤字を理由に人員を削減するため、社員に循環勤務を強要した。これに反対した鉄道組合は7月24日から休日勤務を拒否している。組合員の代わりに熟練者ではない者を乗務させたために事故が発生したと主張する。「循環勤務は民営化するための下準備。事故の責任は民営化にある」というわけだ。

 乗務員は安全運転のため、通過する駅の構造や信号機の位置をすべて覚えておく必要がある。乗務員の経験があっても、一度離れた人が再度乗務員となる場合は40時間以上の教育を受ける必要がある。既に乗務員の仕事をしている者が新しい路線で勤務する場合も同様だ。事故を起こした乗務員は直近の6年間ほど、乗務員ではなく別の業務を担当していた。休日勤務を拒否した組合員を代替するため、8時間の教育を受けただけで乗務員の仕事に戻った。

 循環勤務制にすれば、現在よりも少ない人数で、また新規採用を減らしても列車を運行できる。駅員が足りない時は乗務員を駅員に異動する、乗務員が足りない時は駅員を乗務員に回す。鉄道労働組合の不満は、駅員と乗務員がそれぞれを掛け持ちするようになれば担当者の専門性が落ち、事故につながる可能性が高まるという点にある。乗務員は乗務員の業務に集中、駅員は駅員の業務に集中できるようにしないとまた事故が発生する、循環勤務をなくすべきだとしている。

Korail改革計画

 Korailが行っている鉄道輸送業務は元々、国土交通部(部は省)傘下の鉄道庁が担当していた。韓国政府は2005年に鉄道庁を廃止し、Korailと韓国鉄道施設公団に事業を譲渡した。

 Korailは、国土交通部(部は省)を株主とする公企業で、韓国全土の鉄道輸送業務を独占している。ただし、赤字営業が続いている。国土交通部の発表によると、累積赤字は2013年6月時点で17.6兆ウォン(約1.6兆円)、負債資本比率は435%に達している。

 韓国鉄道施設公団は鉄道庁から線路の設備を引き継いだ。Korailは同公団に線路利用料を支払って、鉄道輸送業務をしている。

 国土交通部は6月26日、Korailを改革するための「鉄道産業発展方案」を発表した。これは大きく3つの計画で構成されている。

  1. Korailではない別の会社(A)を設立して、高速鉄道(KTX)の第3の路線を運営させる。
    KTXは日本の新幹線に相当する。既に2路線をKorailが運営している。計画中の第3の路線の運営を新会社に任せる。
  2. Korailを、4つの会社に――B)旅客運送、C)物流、D)車両整備、E)維持補修――に分割する。旅客運送の会社は持ち株会社を兼ねる。
  3. 2015年以降開通する4つの新規路線と既存赤字路線の運航を民間事業者に開放する。

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[日本と韓国の交差点] 戦争で南北に生き別れとなった「離散家族」探し再開

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韓国と北朝鮮の間で対話が再開した。8月26日、ケソン公団に入居している企業の関係者537人が、公団内の設備点検のため同公団に入った。午前8時から午後6時30分の間、業種別にそれぞれ9時間30分ずつ作業を行った。ついにケソン公団が再稼働する。

 韓国内には「再発防止策はあるのか」との不安の声もある。北朝鮮側がある日突然、入居企業を再び追い出すようなことがないとは限らないからだ。それでも入居企業は、これで会社が潰れずに済むと安堵の表情を見せていた。

 中断している金剛山観光事業の再開に向けても、9月25日、南北の間で話し合いを始めることを決めた。さらに、離散家族問題も進展した。8月23日には南北の赤十字社が、離散家族探しと再会を再開することに板門店で合意した。朝鮮戦争の休戦に伴い南北で生き別れになった離散家族が9月25日から30日まで、金剛山観光地区内で再会する。これは2010年10月以降、3年ぶりの南北離散家族再会である。

 韓国赤十字社はこの再会を、ソウルと平壌の両方で開催することを提案したが、北朝鮮赤十字社が金剛山に固執した。離散家族探しを再開する代わりに、場所は何が何でも金剛山でないといけないと主張したという。

 離ればなれになった家族に再会できるのは、韓国赤十字に申し込んだ人の中から選ばれた100人と、北朝鮮にいるその家族である。韓国赤十字は200人を希望したが、北朝鮮側がこれを受け入れなかった。ただし、別の100人が11月、北朝鮮にいる家族と再会できることになっている。

 韓国統一部(対北朝鮮政策や脱北者問題などを担当する省庁)は8月23日に会見を開き、「今日の合意は、離散家族の問題を解決するための出発点である」と強調した。今回の南北合意について、「北朝鮮側の要求通り合意した。韓国側の主張は何一つ通らなかった」「北朝鮮に拉致された人、朝鮮戦争当時の国軍(韓国軍)捕虜を返せとなぜ言えない」という批判が起こっていた。これに対して同部は、北朝鮮との対話を再開したことに意義を置いた。韓国と北朝鮮の赤十字社がいつでも対話できるよう関係を改善するために、まずは北朝鮮が反発しない分野――離散家族の問題――から解決するという。

 統一部は、韓国と北朝鮮の赤十字社が以下の合意文を交わしただけでもすごい成果だと評価しているようだ。「南と北は離散家族の再会を定例化する。生死確認、書信交換の実施など、離散家族問題の根本的解決のために継続して努力する」。

「離散家族を探しています」の放送が130日間の生放送に

 「離散家族探し」は1983年6月30日、公営放送のKBSが「離散家族を探しています」という特別番組を放映したのが始まりだった。戦争で離ればなれになり、同じ韓国にいながらも30年間消息の分からなかった家族を探すため、全国からソウル市汝矣島にあるKBS本社前に人が集まった。

 人々は画用紙に探している家族の名前、特徴、出身地、生い立ち、分かれた場所などを書いてカメラの前に立った。自分の家族らしき人を画面の中に見つけた視聴者はKBSに電話した。スタジオにいる人と電話をかけた人を会話させ、家族だと判明したらスタジオに呼んだ。この再会の場面を生中継した。

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[日本と韓国の交差点] 日本ドラマの韓国版リメイクが流行る理由

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韓国の地上波放送MBCが2013年6月から8月初めにかけて、「女王の教室」を放映した。日本のドラマ「女王の教室」をリメイクした韓国版だ。このドラマが、韓国で大きな注目を集めた。本放映時の視聴率は8.2%と高くなかったものの、再放送の視聴率も本放送と同じレベルを維持した(本放送は、人気タレントが出演する裏番組のドラマに押された事情がある)。テレビ局の掲示板やブログ、Twitterにも書き込みが絶えなかった。

 日本の「女王の教室」は、日本テレビ系列が2005年に放映したもの。とても厳しい担任教師とぶつかる中で、小学校6年生の子供たちが成長していく物語である。韓国版はタイトルも日本版のまま。登場人物の性格、家庭環境、衣装、ストーリーも日本版とほぼ同じだった。いつもふざけてばかりだけどやさしい男の子と、「てぃひっ!」「でへー」といった奇声を放つおっちょこちょいの女の子が中心になって、担任教師とクラスの子供たちの心を動かすという設定も同じだった。「この中で将来幸せになれるのは、1人か2人だけなんです」というセリフも何度も登場した。


 舞台となる公立小学校では様々なことが起こる。貧富の差や成績の差から生まれるいじめ。リーダー格と子分ばかりでクラスの誰も本当の友達がいないこと。成績さえよければ、我が子がほかの子供をいじめようが放っておく親。自分より成績の悪い子とは友達になるなと教える親。校長先生や親の機嫌ばかり気にする教師たち。――こうした子供たちや同僚教師に、主人公である担任先生マ・ヨジンは容赦なく皮肉や毒舌を浴びせる。これを聞くと逆に癒やされる、というファンが続出した。


 せりふを韓国語に置き換えただけに見えるドラマであるにも関わらず、マスコミは「女王の教室は韓国の教育現場をリアルに描いたドラマ」と絶賛した。韓国の視聴者も「韓国の教育問題を暴いたドラマ」「今までこれほど感動的なドラマはなかった」と称賛した。


 韓国の教育熱の高さは日本でもよく知られている通りだ。韓国の子供たちの、一人で勉強する学習能力は高い。しかし、その一方で、学習意欲や、他の子供たちと協同して学習する能力がとても低いことが問題になっている。大学入試のためにしか勉強しない子供が増えている。競争社会で生き残る術を身につけないといけないとして、小学校から何事にも順位をつけ差別をしているのが現実だ。


 しかし一般のドラマは理想的な小学生の姿しか描かない。「女王の教室」はいじめや差別を生々しく描いているので、とても新鮮だった。


ネットで広がる名台詞


 ドラマの名台詞集がネット上で出回った。人間味のない冷酷な教師の毒舌が、実はとても人間的で、見ているこちらが反省させられるからだ。話題になっている韓国版の名セリフのいくつかを紹介しよう。


 「童話のような世界はない。君たちの生きる世の中では、善良な人は貧しく、悔しい思いをするでしょう。あなたたちが悪いことをしても、力のある人が味方になってくれたら罰の代わりに賞をもらえるでしょう。大人になったら、あなたたちは私があなたたちにしたことよりもっとひどいことに立ち向かわないといけない。その時にどう行動するかは、あなたたちが考えないといけない。その結果もあなたたちに回ってくる。今まで私と戦いながら何を学んだの? 生きていく中で直面する苦しい問題を解決する超能力や魔法の杖なんて現実にはないわ。ただ一つ、希望があるだけです」


 「すべての人間が持つ、世の中に対する純粋な好奇心、その好奇心を満たしていくのが勉強なの。だから良い大学や良い会社に就職することは勉強の目的にはならない。試験の成績の良し悪しが勉強の結果ではない。勉強することは人間だけが持つ最高の特権です」


 「学校で起きた事件を隠ぺいする場合、ほとんどの場合、子供のためと言います。実は、大人が責任を回避するために隠ぺいするのです」


 「子供は奇跡を作ります。教師は案内者にすぎません。自ら道を探した子供は自分の人生だけでなく、世の中までもっと良い方向に変えていくのです」


 「自分が幸せでありたいと願うように、友達も幸せになるべきだということを忘れないで。自分を大事にし、その気持ちで友達も大事にして。最善を尽くして、友達と一緒に、今日を幸せに生きなさい」



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By 趙 章恩

2013年8月21




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130821/252476/

「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungの腕時計型端末「GALAXY Gear」、韓国ではヘルスケア機能に注目

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GALAXY Gearは、腕時計型の端末。スマートフォンやタブレット端末と連動して日常生活をより便利にするというもの。カラー・バリエーションも豊富だ。2013年9月中旬以降、世界140カ国で販売する予定である。

 今回公開した“バージョン1”は、米Apple社よりも先に腕時計型端末を公開する目的が強かったようだ。機能とデザインを補い、2014年1月に米国ラスベガスで開催される展示会「CES」において“バージョン2”を公開するという噂が絶えない。

 GALAXY Gearは、音声認識による電話やメール、スケジュール・天気確認、アラーム設定といった基本機能はもちろん、同端末でメールのタイトルを読んでスマートフォンを取り出すと、何の操作をしなくてもすぐ該当するメールの本文がスマートフォンの画面に登場するといった「スマートリレー」機能も搭載している。スマートフォンをどこに置いたのか忘れてしまった場合、GALAXY Gearを使ってスマートフォンに音を鳴らすなどして探せる機能もある。

 GALAXY Gearの画面は1.63型と小さいが、「Super AMOLED」のためか画質がきれいで文字も見やすい。190万画素のカメラ付きなので、風景や時刻表などを撮影してメモ代わりにもできるのは便利だ。動画も10秒間撮影できる。

 カメラで写真を撮って電源ボタンを3回押すと、あらかじめ設定しておいた緊急連絡先に位置情報と一緒に写真を送信し、緊急事態であることを知らせることもできる。高齢者や子供に買ってあげたい端末と言える。

 Samsung Electronics社は、GALAXY Gear向けに「Line」や「Kakao」といったSNSを始め、70種類ほどのアプリケーション(以下、アプリ)を用意していると発表した。基本的には10種類ほどプリインストールして、その他は「Samsung apps」という同社が運営するアプリ・マーケットから好きなアプリをダウンロードする格好になる。米国で人気のフィットネス・アプリ「RunKeeper」「MyFitnessPal」も使えるという。GPSを使って、自分のランニングやウォーキング、サイクリング、ハイキング、マウンテンバイキングなどを追跡・記録することができるアプリだ。

専用のヘルスケア・アプリの開発も進む

 韓国ではGALAXY Gearを使ったヘルスケアに注目が集まっている。GALAXY Gearは動きを感知するセンサを搭載しているので、Samsung Electronics社がスマートフォン「GALAXY 4」向けに提供しているヘルスケア・アプリ「Sヘルス」や胸に付けるバンドと連動した心拍計、体重計と連動したダイエット管理といった機能も一通り利用できるように準備しているという。前述したスマートリレー機能を使って、GALAXY GearとGALAXYスマートフォンのアプリが連動するので、より楽にヘルスケア機能を利用できるようになりそうだ。

 韓国では健康な人をより健康にする「ウエルネス市場」が注目を浴びている。実際、さまざまな病の原因になるとされる肥満を予防するため、男女老若がダイエットに励んでいる。ダイエット食品やフィットネスジム、合宿型断食、針や漢方薬で脂肪を減らす韓方エステなど、方法は数えきれないほどある。韓国メディアの報道によると、韓国のダイエット市場規模は年間2兆ウォン(約2000億円)前後だという。人口約5000万人の国でダイエットだけに年間2000億円も使っているとは相当な市場規模である。最近はスマートフォンの普及にともない、無料あるいは数百円程度で利用できるフィットネス・アプリや、血圧や血糖値、食事内容を記録すると生活アドバイスがもらえるヘルスケア・アプリが人気を集めている。

 腕に着けるGALAXY Gearは、スマートフォンよりも細かく正確に生体情報をチェックでき、個人の健康状態に合わせてどうすれば肥満を予防できるのかより的確にアドバイスできる可能性がある。内蔵する動作感知センサをうまく活用したヘルスケア・アプリも開発が進んでいるため、GALAXY Gearのヘルスケア機能に対する期待は高まるばかりである。

 GALAXY Gearの最大の弱点は、電池の持ちがよくないことである。仕様としては充電して25時間は連続使用できると書いてあるが、実際にあれこれ機能をフルに使うと電池はすぐ消耗してしまう。そのため、韓国では端末を着用したまま充電する技術や大きくて薄くて腕の曲線に合わせて曲がるフレキシブル・ディスプレイ技術が、今後ウエアラブル端末を利用したヘルスケア・サービス市場の重要な鍵になると見ている。



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By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 2013年9月3
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[日本と韓国の交差点] 日本企業による強制徴用に、韓国の裁判所が初判決

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韓国の裁判所が初めて、「日本企業は強制徴用被害者に対して損害賠償をすべき」という判決を下した。この判決は海外でも取り上げられ、
英ガーディアン英ファイナンシャルタイムズが、「Landmark ruling(画期的判決)を下した」と報道した。

 ソウル高等裁判所は7月10日、新日鉄住金に対して、強制徴用した被害者4人に1億ウォン(約900万円)ずつ支給せよとの判決を下した。7月30日には釜山高等裁判所が三菱重工業に対して、強制徴用被害者5人の遺族に8000万ウォン(約720万円)ずつ支給せよと判決を下した。


 釜山高等裁判所は、「三菱(現三菱重工業)は、原告らを広島に強制連行して劣悪な環境で重労働をさせながらも給料を支払わなかった。原爆が投下された後は、(原告らに)避難場所や食糧を提供する救護処置を行わなかった。これを賠償する責任がある」とした。請求額は1億ウォン(約900万円)だったが、同裁判所は、全額は認めなかった。新日鉄住金の被害者の強制徴用期間が2~4年だったのに対し、三菱重工業の被害者の強制徴用期間は1年ほどだったからだ。


 原告はこれに先立つ1995年12月に広島地裁において、三菱重工業を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。この訴訟では、1999年に敗訴している。その後2000年5月、三菱重工業の釜山事務所がある釜山地方裁判所で、再び損害賠償請求訴訟を起こした。この第1審も原告の請求を棄却。2審を担当した釜山高等裁判所も同様の判決を下した。両裁判所は韓国の裁判所だが、日韓の両政府が1965年に締結した請求権協定に則って、未払い給料や、強制労働に対する慰謝料を日本企業に請求する権利は消滅したと判決した。


 ところが2012年5月、韓国の最高裁は「日韓の請求権協定は個人の請求権まで消滅させるものとは言えない」として原審を破棄。事件を釜山高等裁判所に差し戻した。それから1年以上過ぎた2013年7月30日、釜山高等裁判所は原告を一部勝訴とする判決を下した。


 今回の判決が出るまで、新日鉄住金との訴訟は16年、三菱重工業との訴訟は18年の年月がかかった。原告は80代後半から90歳で、裁判中に亡くなった方も多い。新日鉄住金と三菱重工業は上告するとしているので、最高裁判所が下す最終判決を見届けることができないまま亡くなる可能性が高い。


 大韓弁護士協会は7月30日、「釜山高等裁判所の歴史的判決を歓迎する。植民地時代の強制動員が不法であったことを認め、損害賠償を命じた。三菱重工業は上告して責任を回避するような非人道的蛮行を即刻中止すべきである。この判決を契機に韓国政府は日韓首脳会談を開き、被害者が生きている間に、植民地支配がもたらした問題を解決すべきである。三菱重工業は強制徴用被害者救済財団を設立し、問題の包括的な解決に乗り出すべきだ」という内容の声明を発表した。




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By 趙 章恩

2013年8月9




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130807/252076/

[日本と韓国の交差点] 脱北者を公務員に採用~その一部にスパイ容疑

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 韓国の公務員採用を担当する安全行政部(部は省)は、脱北者を対象に公務員採用試験を2013年7月末から実施すると発表した。これは国家公務員法が改訂されたことに伴う措置。脱北者の中から11人の経験者(経歴職と呼ぶ)を中途採用する。業務の内訳は一般行政5人、食品衛生1人、医療技術1人、機能職1人、機械関連1人だ。


 これまでも、統一部(脱北者が韓国に定着できるよう教育や生活支援を行う省庁)の推薦に従って、各省庁が脱北者を契約職公務員として採用することはあった。既に13人ほどの脱北者が契約職公務員として全国自治体で脱北者支援業務を担当している。だが、誰でも応募できる競争採用は今回が初めてである。2013年7月時点で韓国に住んでいる脱北者は2万5000人を超えている。


 応募資格は、1 )脱北して韓国に住民登録をしてから3年以上経過していること、2)該当分野の経歴や資格を持っていることである。経歴職なので、北朝鮮での経歴も認めることにした。脱北者の北朝鮮での経歴は統一部が確認する。統一部に経歴を認められれば筆記試験は免除、面接だけとなる。2008年から北朝鮮と韓国政府の交流が途絶えているため、北朝鮮での勤務経歴や資格取得を統一部が確認できるのか疑問は残る。


 地方自治体は一足先に脱北者を対象にした一般職公務員の競争採用を実施した。京畿道庁(キョンギ)では47倍の競争となった。京畿道庁が採用したのは、2002年に中国経由で脱北した33歳の男性。現在は道庁で、公務員や住民を対象にした「統一教育」(韓国と北朝鮮の統一に関する教育。北朝鮮の生活や実情を伝えて理解を深める)を担当している。


 脱北者を公務員として採用するのは、彼らを差別することなく韓国人と認め、経済的に自立した生活を送れるようにするためである。脱北者は命がけで韓国に逃げてきたものの、資本主義の金銭感覚がないので、韓国政府が支給した定着金をすぐ使い果たしたり、詐欺に遭ったりする。その結果、生活保護を受けることが多い。


 韓国に住む人と北朝鮮に住む人は同じ民族ではあるが、北朝鮮から来た人はなまりが強くてコミュニケーションがうまく取れないことがある。育った文化が全く違うため、脱北者を怖がる韓国人も多い。脱北者は韓国に定着できず米国に移住したり、中国から国境を渡って北朝鮮に戻ったりする人さえいる。脱北者が韓国で安定して暮らせるようにするためには、何よりも安定した収入が必要だ。脱北者が韓国で普通の韓国人として生きていけるようにするにはどうしたらいいのか、この問題は韓国政府の重要な課題である。


脱北者が韓国に定住するのは容易ではない


 脱北者で、東亜日報で記者をしているチュ・ソンハ氏は自身のブログで、北朝鮮の人々の生活や、韓国人が知らない脱北者の悩みなど、新聞には載らない情報を紹介している。チュ記者は脱北者でありながら、2004年に脱北者約200人をインタビューした。2009年には、同じ人たちに再びインタビューし、その結果をブログで紹介した。


 それよると、インタビューに応じた脱北者200人のうち30%は韓国に来て5年たった時点でもまだ無職だった。1年以上同じ会社に勤めている人も33人しかいなかった。仕事をしている人でも脱北者の世帯所得は月平均140万ウォン(約12.7万円)、韓国の勤労者世帯所得(平均月329万8900ウォン、約26.7万円)の半分にも満たなかった。海外に移住した人も20人いた。



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