アダルト番組に転落したネットの個人放送局、原因は仮想貨幣

韓国では2007年にUCC(User Created Contents)といって動画投稿サイトの大ブームが巻き起こった。著作権侵害問題や動画を保存するためのサーバー投資額は膨大なのに広告以外に収益モデルがないといったことから、動画投稿サイトは減り、ポータルサイトのBlogに動画を載せる方法が増えた。その方が検索結果にも反映されやすいし、観てくれる人も多いからだ。

 韓国ではVOD方式の動画投稿だけでなく、超高速ネットワークインフラを活かしたサービスとして、リアルタイム放送であるインターネット個人放送局もかなり人気を集めている。


 インターネット個人放送局ではBJ(Broadcasting Jockey)と呼ばれる人が自分のホームページを持ち、その中に放送、チャット、掲示板などのメニューがある。配信は生放送で、自分のパソコンにWEBカメラをつけて放送する。


 個人放送はいわゆる“見えるラジオ”。BJがパーソナリティになり、音楽を流し、おしゃべりをする。BJの放送を観ながらチャットでリクエストをしたり、自分のエピソードを語ったりして盛り上がる。ドラマの時間になるとカメラで自分のテレビに映るドラマの画面を流しながら放送する人もいる。友達と一緒に家でドラマを観ながら盛り上がる感覚で個人放送を視聴しながら、チャットをする。BJはまとめ役といった役割だ。


 個人放送局の中でも人気なのは野球の中継。野球チームごとにチャンネルがある。テレビやラジオの中継をそのままネットに流すのではなく、BJたちはそれぞれの個人ページから趣向を凝らした放送をする。手書きの図で試合の解説をしたり、方言で中継したり、野球場から無線LANをつかって中継したり、個性を競い合う。同じチームを応援する友達と一緒に野球中継を観ながら盛り上がりたい人にはぴったりのコンテンツである。

個人放送局のBJは、初期の頃は男性が多く、ニュース番組を流したり、受験勉強のための数学を教えたり、自分の才能を活かした放送をすることで、有名になるための足がかりをつかもうとした人が集まった。

 サイトの会員になれば誰でもBJになれるが、放送を見てくれるファンの人数によってベストBJに昇格し、ファンからサイバーマネーをプレゼントされそれを現金に換金できるようになる。


 この換金制度が個人放送局を大きく変えた。今はBJのほとんどが20歳代の女性で、セクシーな服を着てカメラの前に座っている。カメラの前で歌に合わせて踊ったり、食事を取ったり、自分の日常を公開するような感じの放送をしている。視聴者は30~40歳代の男性が多いという。



若い女性の顔が並ぶ、インターネット個人放送局「Afreeca」のToday`s BJ人気ランキング

インターネット新聞が導入した投げ銭方式の原稿料と同じように、ユーザーがユーザーへサイバーマネーをプレゼントできるようになってから、個人放送を利用して男性からサイバーマネーをもらい、お小遣いを稼ぎたい女性がどんどん集まるようになったからだ。今では本業よりも個人放送のサイバーマネーの収入の方が多いBJが登場している。

 個人放送は最大で500人しか同時接続できないが、累積視聴者数450万人を超えた人気BJも登場した。このBJは年収が数千万円にも上るほどの人気ぶりで、個人放送局サイト側がマネージャーになって特別管理をしているほど(BJが儲かれば20%の手数料を取るサイト側も潤うから)。

「Afreeca」というインターネット個人放送局では、ユーザーがBJへ「ビョルプンソン(星風船)」という名前のサイバーマネーをプレゼントできる。買うときは1個100ウォンで、BJが換金するときは1個80ウォンになる。サイト側は1個20ウォンを手数料として徴収するのだ。1回の換金額が25万ウォン(約1万8000円)を超えると、所得税と住民税で4.4%が徴収される。

 ビョルプンソンを送るファンにも特典はある。TOP5になると入場人数が制限されている場合でもいつもで該当放送が観られて、BJとより親密な会話ができる専用掲示板を利用できる。


 ところが、ビョルプンソンは最低500個以上から換金できて、ベストBJとしてある程度ファンを抱えた人でないと換金してもらえない仕組みになっている。さらにビョルプンソンの有効期間は受け取った日から3年。3年以内に500個集められないと、全額サイト側のものになる。つねに新しい個人放送局が生まれては消えていくので、換金されないままのビョルプンソンも膨大な額になるはずだ。


 中にはビョルプンソン500個くれたら服を脱ぐ、というように露骨にサイバーマネーを要求するケースもあり、素人のアダルト放送になりかけている。2008年7月にはBJの女性が素っ裸になるという騒動もあった。運営者側は厳しく取り締まっているというが、サイバーマネーの20%は会社の手数料になるだけに、厳しく取り締まらない方が儲かる。


 日本では女の子のキャラクターと恋愛ごっこができるシミュレーションゲームが人気を集めているようだが、韓国の個人放送はそれを生身の人間とできるのに近い感覚かもしれない。


 サイバーマネーを稼ぐためにどんどん過激化している個人放送。やっぱりお金になるのはアダルトしかないという定説を証明する事例になってしまうのかと思うと残念である。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年11月25日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091124/1020682/