グーグルのアンドロイドが韓国の「モバイル鎖国」を開放する? [2007年11月14日]

かなり前から噂されていたグーグルの携帯電話への進出。ついに、その詳しい実態が明かになった。モバイル向けOS「アンドロイド」を発表したのだ。

 韓国では「グーグルが通信事業者になって携帯電話を発売するのか?」と予測されていたのだが、ふたを開けてみるとマイクロソフトのWindows MobileのようなOSだったということで、これが携帯電話業界にどのような影響を与え、世界をどう変えていくのか、深層分析記事が登場したり、ブログでかなり話題になったりしている。


 今の韓国のモバイルインターネットでは、メニューの表示が複雑で使い方に慣れるまでは、「このボタンかな?」「あのボタンかな?」と、何度も同じページを行ったり来たりして苛立つことがある。韓国では二次元バーコード(QRコード)が普及していないのでなおさらだ。そこに、ユーザーが必要としているコンテンツを簡単に表示してくれて、コンテンツの検索もしやすくなるとなれば、「アンドロイド携帯を買いたい!」となるのは当然だろう。


 韓国ソフトウエア業界も、グーグルのアンドロイドが使える端末を韓国で発売してくれることを切に望んでいる。外資系依存比率が年々高まり、生き残りが難しくなった韓国ソフトウエア業界やモバイル関連ベンチャー企業に希望の光が差し込むのではないかと期待しているのだ。


 グーグルのアンドロイドをきっかけにオープンなプラットホームを登載した携帯電話が世界の主流になれば、韓国も携帯電話の通信網が開放され、ポータルサイトのNAVERやDAUMを使えるようになり、幅広いモバイルコンテンツサービスを楽しめるようになる。パソコン向けのサイトを携帯電話からスイスイ利用できるようになれば、ノートパソコンを持ち歩かなくて済むようになるし、韓国のモバイルインターネットの利用者も爆発的に増えるだろう。そうすれば、まだ4割にも満たないモバイルインターネットの利用比率を日本ほどに高められるかもしれない。


 しかし、こうした期待を裏切るかのように、通信事業者のSKテレコムやKTFは「グーグルのアンドロイドは結局のところスマートフォン。デザインと機能を重視する韓国ではスマートフォンのような端末は売れない。収益性、サービスの多様化という面でメリットがないため、アンドロイドには対応しないことにしている」と発表した。


 韓国では、通信事業者3社がプラットホームからモバイルコンテンツ市場までがっちりと握っている「モバイル鎖国」。この「クローズド」な環境と、グーグルのアンドロイドのように「オープン」な環境が相容れるわけがなく、絵に描いた餅に終わってしまう恐れが高い。

韓国のモバイルサイトには「公式サイト」しか存在しない。そこに各コンテンツプロバイダーがコンテンツを掲載するには、通信事業者が投資あるいは子会社化している「マスターコンテンツプロバイダー」と呼ばれる大型コンテンツプロバイダーを経由してコンテンツを納品するしか方法はない。通信事業者と各コンテンツプロバイダーの収益の分配(手数料)も契約によってまちまち。今はだいぶよくなったが通信事業者の取り分が60%、コンテンツプロバイダーは40%しかもらえないというようなこともあった。

 コンテンツプロバイダーが「もっと収益を分配してほしい!」と主張しようものなら、「他にいくらでもコンテンツプロバイダーはあるんだよ」という具合に簡単に切り捨てられてしまう。コンテンツプロバイダーには、キャリアと仲良くなるか、メガヒットを飛ばして通信事業者から一目置かれるようになるかの、二者択一の道しかない。


 こうした状況に風穴を開けようと、韓国ではグーグルより圧倒的な人気と影響力を持つポータルのNAVERが自社のコンテンツを携帯電話から自由に利用できるようにするため、通信事業者に携帯電話網を開放するよう要求している。しかし、通信事業者側は、この要求に応じない。「おいしい既得権」はそう簡単に捨てられないというわけだ。


 韓国の通信事業者が、アンドロイドに対応しない理由はもう一つある。それは、韓国政府が推進してきた「WIPI」という韓国式標準プラットホーム戦略との関係だ。政府主導で高い費用を払ってWIPIを開発し、すべての携帯端末はこれを義務的に登載している。これにより携帯電話の端末価格が高くなり、海外メーカーが携帯電話を韓国で販売することも難しくしている。グーグルのアンドロイドを韓国で提供することは、国家施策であるWIPIを否定することになる。ただし、海外向け端末ならば話は別。端末ベンダーのサムスン電子やLG電子は、海外輸出向け端末のためにグーグル同盟に参加し、高いOS利用料を支払わずに販売できる端末の開発を目指している。


 グーグルにしても何にしても、海の向こうの話で終わらないのがITの世界。韓国でもグーグルに刺激を受けて、モバイル鎖国がなくなることを期待している。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

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