エコ政策が引き金、加熱する「自転車」と「ナビ市場」

韓国政府は「緑色成長」をキャッチフレーズに、2009年より、二酸化炭素排出節減、省エネ製品販売、生態系回復のための街並み整備といったエコな国策事業を打ち出している。中でも注目を浴びているのが「自転車」政策である。

 日本に来る韓国人が驚く光景の一つが、駅前にびっしり停められた自転車。歩行者は自動車よりも自転車に気をつけないといけないほど、どこに行っても自転車に乗っている人が多いことに驚く。自転車の前と後ろに子供を乗せる親子の3人乗りを見かけると、記念写真を撮ってブログに載せるほどめずらしがる。


 韓国でも自転車に乗る人は多いが、休日の運動やレジャーとして川沿いを走るか、または配達や仕事のために乗るのがほとんど。バスが1時間に1台しか来ない、なんていう田舎でもない限り、日常的に自転車を利用する人はあまり見かけない。見かけたとしても、プロのサイクリング選手のような服装に立派な自転車に乗った同好会の人ぐらいだろう。ソウルの都心で通学や通勤のために自転車を利用する人は珍しく、テレビや新聞に「自転車で通勤する○○さん」のような見出しでインタビューが掲載されるほどである。


 韓国の道路は車優先で、地下道や陸橋も多く、自転車で移動するのは難しい。歩道もでこぼこしているので危ない。私も駅まで自転車を利用しようとチャレンジしたが、2分で歩道のブロックとブロックの間に挟まり自転車ごと転倒してからギブアップ、その後すぐ盗難にあったので、ソウルで自転車に乗れたのはたった2分しかない。


 それが、政府の「緑色成長」政策により、歩行者優先で横断歩道が造られ、「自転車用」と呼べる道路がやっと整備されるようになった。


 韓国政府は2018年まで1兆2456億ウォン(約1000億円)をかけて3114キロの自転車道路ネットワークを構築するとしている。そうなればソウルの北側から釜山まで自転車で全国を一周できるようになる。有名観光地に自転車レンタルショップを置いて、車での移動を減らす計画も併せて実施されている。新羅時代の首都であり街中に遺跡が点在する慶州では、自転車で観光地を一周できるよう、自転車道路と自転車レンタルが充実してきている。レンタカーのように、駅前で自転車を借りて、好きな場所で返せるのでとても楽だ。チェジュでもレンタカーより自転車・徒歩観光が脚光を浴びている。


増える自転車人口、スマートフォンがナビをサポート



 「緑色成長」事業は川の復元や道路整備など建設分野に偏りすぎていることが、今まで、何度も指摘されてはいる。自転車道路にしても、自動車の代わりに自転車を利用してエコな生活をしましょうという目標のはずが、新しい自転車道路は川沿いや海沿いに造られ“観光用道路”造りになってしまった。都心の自転車道路は長期的な都市計画より、とにかく1日でも早く「自転車道路」と書かれた“結果物”を残すことに執着したため安全への配慮が欠けている。自動車道路の幅を通常より狭くして、両端に石でブロックを立て自転車道路にしているので、自動車も自転車もはらはら。地下鉄駅前には駐輪場もたくさんできたが、韓国は自転車の登録管理が行われていないため盗難が多く(名義登録がないので、盗んだ自転車はいくらでも転売できる)、ちゃんと預かってくれる保管所を求める声が大きい。


 それでも自転車人口は増えるばかり。クレジットカード会社2社の最近の調べでは、2009年自転車購入件数は前年比で30%以上増加した。ディスカウントショップやネットショッピングでも自転車販売が2倍近く増加し、政府政策に合わせて自転車で買い物に来ると50ウォン(約4円)ずつグリーンマイレージをためてくれる大型スーパーも登場した。2009年夏には韓国で初めて、個人向け自転車保険も登場した。自転車によって発生した事故や怪我の被害に対応している。


 今の日本がランニングブームだとすると、韓国は自転車ブームという感じで、関連用品やサービスが続々登場している。中でも人気を集めているのが自転車ナビゲーション。自転車に取り付けられる専用のナビゲーション端末も発売されているが、手軽にスマートフォンとGPSを利用したナビゲーションアプリの利用する人をよく見かける。


 スマートフォンを使って音楽を聴きながら交通状況を確認、自転車道路を利用して走る。経路案内、位置確認、周辺情報案内、カロリー消費量はもちろん、自転車で移動した経路を記録し、写真と走った感想を書き込んで、ほかのユーザーと共有できる。自転車を媒介にしたSNSといった感じで、「一緒に自転車で走りませんか」という地域ごとの友達募集書き込みも増えてきた。自転車ナビゲーションアプリの利用は無料で、App Storeのダウンロードランキング上位をキープしている。自転車だけでなく徒歩ナビ、自動車ナビにも切り替えられるので、ナビゲーションを購入せずスマートフォンで済ませられる。スマートフォンの画面サイズはどんどん大きくなっているので、画面が見苦しいということもなく、使い勝手がよくなりつつある。


 ポータルサイトもモバイルマップサービスや、出先で利用したくなる位置情報基盤サービス、地域情報検索サービスを強化しているため、政府政策と並んで自転車ナビ市場は今後どんどん大きくなると見込まれる。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年2月12日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100212/1022836/