自治体がオンラインゲーム大会の開催に力を入れる理由

毎年、韓国の全国自治体では数え切れないほどのお祭りやフェスティバルが開催されている。韓国も日本と同じく春には花見、夏には海水浴や避暑、秋は紅葉狩り、冬は雪景色と四季折々の行楽を楽しむ。そのため、各自治体はより多くの観光客を誘致するために特産品を開発したり、歴史や有名人にちなんだ名所を発掘したりと力を入れてきた。

 ここ最近の興行成績がよかった自治体のフェスティバルには、ある共通点が見える。それはオンラインゲームである。観光資源の少ない地方都市では、オンラインゲーム大会を招致することで、ゲーム好きな子どもを中心に家族連れの訪問を伸ばしているのだ。


 ゲーム中毒で家に引きこもり、ゲームのやりすぎで過労死、など暗いイメージが強かったオンラインゲームであるが、韓国では着実に「e-sports」産業して成長している。1998年ブロードバンドの商用化と共に始まり、2009年で11年目を迎える産業でもある。e-sportsとして楽しまれているゲームのタイトルは21種類を超え、人口4800万の国でオンラインゲームユーザーは1900万人を超えた。


 プロのスポーツ選手と人気も待遇も変わらないプロゲーマーやプロゲーム団体があり、リーグ戦も定着している。2009年5月現在、12のプロゲーム団体が運営されており、登録しているプロゲーマーは約1100人に及ぶ。ゲーム団体の運営にはIT関連の大手企業がスポンサーとして名を連ねている。ソウル市の電気街である龍山(ヨンサン)にはe-sports専用の競技場があり、新しい競技場も建設中である。


 今までは対戦型のゲームばかりだったのが、最近はニンテンドーDSやWiiの影響から、家族で楽しめるオンラインゲームにも力を入れている。地方都市のオンラインゲーム大会はサッカーや野球と同じように、プロゲーマーの試合をアナウンサーと解説者が中継し、それを生で観戦できるのが魅力であり、新作ゲームの体験やキャラクターショー、健全なオンラインゲーム利用のためのキャンペーンなども同時に開催される。家族で一緒にオンラインゲームを楽しみながら、中毒にならないよう子どもと話し合える機会にもなるところが喜ばれているようだ。ゲーム業界は、潜在ユーザーとして主婦や高齢者をターゲットにしたカジュアルゲームにも力を入れており、子どもにねだられて訪問したはずが家族みんなでオンラインゲームを楽しむようになった、ということも狙っている。


 もっとも規模の大きいオンラインゲーム展示会「G★(ジースター)」の2009年開催地は、首都ソウルではなく釜山(プサン)に決まった。釜山は元々ゲーマーの聖地のような都市である。韓国でいまだに最も人気のある対戦型オンラインゲーム「スタークラフト」のリーグ戦決勝が釜山で開催され、決勝戦を見るため大雨の中、10万もの人が会場に集まったことがある。海水浴場に設置された野外会場が多くの人で埋め尽くされる様子は壮観であった。


 もう一つの大規模イベントである「大韓民国ゲーム文化フェスティバル」は7月末に、避暑地として有名な江原道(ソクチョ)海水浴場で開催される。小さな大会でも最低1万人の観客が集まるので、自治体としては逃したくない格好のイベントというわけだ。ソウルから地下鉄で2時間ほど離れたチョンアン市では、今年初めて「国際e-sports文化祝祭」を開催し、5月2日から5日までで7万5000人を集めた。特に宣伝しなくても、ゲームという冠があれば観客は集まる、ということを立証したイベントであった。ソウル市もゲーム産業育成と韓国ゲーム産業の世界進出を目標に7月24日より「eスターズソウル2009」を開催する。


 韓国にはオンラインゲームぐらいしか娯楽がないのか、楽しみが少なすぎるのではないか、と思われるしれないが、韓国にとってオンラインゲームは国策ビジネスといえるほど非常に大事な産業に育っている。2008年のオンラインゲーム輸出額は10億ドル、2004年から2010年まで年平均28.8%の成長率を維持すると予測されている市場である。


 2009年にはコンテンツ大国を目指して政府関連機関を統合、コンテンツ振興関連組織を一同にまとめて「韓国コンテンツ振興院」を立ち上げた。韓国のコンテンツ市場でもっとも大きなシェアを占めているのがオンラインゲームである。ネットワーク対戦型のゲームばかりだった市場を脳トレや集中力向上といった機能性ゲームにも市場を拡大させ、輸出拡大と雇用増加を狙う。そのためには、より多くの国民にゲーマーとなってもらい厳しい目で新作を評価させ、海外からも注目されるようイベントで盛り上げることが大事だ。さらに、人が集まるイベントを誘致することで地域も潤う。国策ビジネスの後押しをしているから補助金ももらえる。


 しかし、これでめでたしめでたし、という訳にはいかない。国際イベントのはずが韓国語の案内しかなかったり、海外バイヤーとの商談会といって人数を揃えるため国の予算を使いゲームと関係のない企業の人々まで招待しまくるのは改めてほしい。韓国のオンラインゲームや製品が素晴らしいのなら、飛行機やホテル、食事の手配をしなくてもバイヤーは訪れるはず。イベントの開催回数や観客の数に満足しないで、ゲームそのものの開発にもっと努力するべきと考える公務員はいないのか。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年5月20日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090520/1015263/