[日本と韓国の交差点] キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(2)

 


食べ物までも中国産なしには生きられなくなる?


キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(2)




前回から続く



 9月末から10月にかけて、韓国では白菜が例年の20倍以上暴騰し、韓国人のソウルフードである「キムチ」が「金チ」になってしまうという大惨事が発生した。11月に入ってからも白菜の値段はまだ去年に比べて高い。でもキムチのない食生活は想像もできないので、他の出費を削ってでもキムチは必ず冷蔵庫に常備しておく。キムチのないラーメン、キムチのない焼き肉は想像しただけで胸やけがする。


 だめだ、想像してしまった。。。う。。。


 スーパーに行けば、同じように見える白菜キムチがたくさん並んでいる。しかし、味付けはバラエティーで、出身地や好みの辛さに応じて買えるようになっている。テレホンショッピングやインターネットショッピングでも常に人気商品の上位にキムチがある。芸能人のサイドビジネスとして人気が高いのもキムチで、料理上手と評判の女優や歌手らがこぞってキムチブランドを立ち上げた。


 白菜の塩加減から薬味までオーダーメイドできるキムチも増えている。海外輸出も好調で、日本や中国で製造された「キムチ」に対抗して、「本物のキムチ」を世界で売るためのマーケティングに力を入れている。韓国におけるキムチビジネスは一大産業であり、キムチ一筋で大手食品メーカーに成長したキムチ財閥も珍しくない。


 前回述べたようにキムジャンをしなくなったために、キムチビジネスはもっと大きくなっている。白菜価格の急騰によって自分で漬けるより買って食べる方が安くなったことから、キムチビジネスはさらに拡大しそうだ。どうして自分で漬けるより買って食べる方が安いのか、それは白菜の流通構造に理由があるという。



野菜取引の一形態「バッテギ」が価格高騰につながる



 韓国の野菜取引の一つに、「バッテギ」といって農家と産地仲介商人が畑単位で契約を結ぶ流通方式がある。収穫された野菜を取引するのではなく、この畑から収穫されたもの全部でいくら、と春ごろに契約をするものだ。農水産物流通公社によると、栽培面積の7割以上が「バッテギ」で契約されている。非常に一般的な取引形態なわけだ。


 この取引方式にすると、収穫された野菜を取引するのに比べて、農家の収入は断然少なくなる。いっぽうで、気象問題で収穫が見込み通りにいかない場合でも収入が確保できる、安心できるというメリットがある。野菜は産地仲介商人から問売競売、仲介商人、小売を経て消費者に売られる。仲介が多いほど野菜の値段は高くなるしかない。


 大手キムチメーカーや大手スーパーは産地仲介商人と取引することで安く白菜を手に入れるから、彼らがつくるキムチは私たちが自分で漬けるよりキムチも安くなる。畑ごとの取引をするようになってから、農家はより貧しくなり、都会の野菜物価はどんどん値上がりしている。当然のことであるが、営利がすべての中間仲介商人にとって、畑ごとの取引は野菜の価格を調整できる最高のチャンスである。



李大統領の4大川事業が野菜の作付面積を減らしている!?



 もう一つ、白菜価格急騰をきっかけに韓国で問題になっていることがある。それは李明博(イ・ミョンバク)政府が熱心に取り組んでいる「4大川事業」である。政府は、これからの気候変動に備え、水不足問題を解決し、生態環境を生かして地域経済も活性化させるための事業と説明している。韓国にある4つの大きな川を整備するために22兆ウォン(約2兆円)以上の予算を投入する。


 ネット上で「4大川を整備するためにその周辺を掘り起こしたりするので、農地が減り、野菜や米を育てる土地の面積が少なくなっている。これが白菜価格急騰につながった」という主張が広がった。


>>次ページ 野菜だけでなくすべての物価が上がっている 
   



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By 趙 章恩

2010年11月10日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101109/217012/

[日本と韓国の交差点] 白菜の価格が20倍に高騰:キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(1)

中国から輸入する白菜に対する関税をゼロに



 「キムチなしでは生きられない。本当に生きられない」。こんな歌詞の歌謡曲があるのをご存じだろうか。韓国人なら誰もが口ずさめるほど有名な歌である。韓国人の食事に欠かせないおかずであり、健康食品として元気の源になってくれるキムチ。今年の秋はこのキムチが食べられなくなるかもしれない!という一大騒動が巻き起こった。


 韓国では毎年秋になると大量に白菜を買い込んでキムチを漬ける「キムジャン」をする。春まで食べるキムチを漬ける家もあれば、1年分のキムチを漬ける家もあるので、とにかく量が半端ではない。4人家族でも20株、30株を漬けるなんてざらである。


 カットされていない丸ごとの白菜を買ってきて、家で4等分して塩を振って一晩寝かせる。それから水気を絞って、唐辛子とにんにく、にら、大根、たまねぎ、なし、もち米粥、牡蠣などを混ぜた薬味を葉っぱ一枚一枚に丁寧に塗る。最後は、丸めて、専用の箱に詰めてキムチ冷蔵庫に入れる。作り方はみんな似ているが、家によって全部味が違うのがキムチの特徴である。



キムチ冷蔵庫が大人気



 昔は同じマンションに住む主婦同士で順番を決めて、今日は101号室のキムジャン、明日は102号のキムジャン、と手伝うのが当たり前だった。キムジャンはけっこうな重労働。なので、この日は、ご馳走をつくったり、出前をとったりする。典型的なご馳走は、豚肉の三枚肉を蒸して、漬けたばかりのキムチに脂ののった肉を包んで食べるものだ。子どもにとってはお祭りのような日でもある。しかし、最近は共働きが増えたせいか、キムジャンなんて面倒だと思う家庭が増えているようだ。キムチをスーパーで買ったり、実家の母に漬けてもらう家がかなり増えてきた。


 キムジャンのキムチは、壷に入れて庭に埋めるのが本来のやり方。だけど、マンション暮らしの人は、みんなキムチ冷蔵庫を使う。キムチが発酵しすぎないように味を長く保ってくれるキムチ冷蔵庫は必需品! ワインセラー兼用、冷凍庫兼用、キュービックをちりばめたど派手なデザインなど、キムチ冷蔵庫の種類は数え切れないほどある。実際にキムチ冷蔵庫に野菜や肉を保存すると、とても長持ちするので手放せない。さらに、化粧品も新鮮に保管できるとして人気を集めている。



失恋も挫折も、キムチで癒す



 韓国人にとってキムチのない生活は考えられない。「どんな料理にもキムチが必要。キムチがないと、胸焼けがして食べられない」という人をよくみかける。イタリアンでも、中華でも、ステーキハウスでも、和食屋さんでも、頼めばキムチを出してくれる。キムチの味でその食堂の良し悪しが決まる。キムチのおいしい食堂はどんなメニューもおいしい、というのが韓国人の信念だ。海外にいても韓国食でないと食べた気がしないという人も多い。(筆者もその一人)


 韓流ドラマが好きな人なら一度は見たことがある場面が、これ。失恋したヒロインが、真夜中ぼそぼそ起きては大きなボールに、ご飯と、冷蔵庫にあるキムチとナムルを適当に入れ、ごま油とコチュジャンをこれまた適当に入れて力いっぱい混ぜる。そして泣きながらやけ食いする。貧乏ながらも夢を追い続ける主人公が、キムチとインスタントラーメンだけで生活しているといった場面もよく登場する。


 男性版やけくそとしては、緑のビンに入った韓国のソジュ(焼酎)を、キムチだけをおつまみに飲み続ける、というシチュエーションがよく描かれる。キムチは、貧乏人でもお金持ちでも、みんなが「これなしでは生きられない」というほど食べる韓国人のソウルフードだからだ。


>>次ページ 白菜の価格が20倍に跳ね上がった 
   



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By 趙 章恩

2010年10月27日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101025/216812/