グーグルも郷に従う 韓国ポータル競争、第2ラウンドの舞台

検索サイト世界最大手の米グーグルは12月4日、韓国サイトのデザインを変えた。グーグルといえば検索だけに特化したシンプルなメーン画面が特徴だが、検索キーワードを入力する窓の下に、「人気トピック」「話題の人物」「人気ブログ」といった、韓国の他のポータルサイトのメーン画面にもあるメニューを追加した。これまでグーグルは世界各国で同じデザインの画面を通じてサービスを提供してきたが、韓国に限り、その世界共通のスタイルを捨てたのだ。






 



リニューアルされたグーグル韓国のサイト


 グーグルによると、韓国で市場調査をした際に、「検索結果の品質」には満足するが、「社会的イシューの把握」で満足できないという意見が多かったため、メーン画面を修正したという。グーグル側は「メーン画面変更は全世界で韓国語サイトだけ。広告のないさっぱりしたデザインと優秀な検索品質で、韓国ユーザーを満足させられることを期待している」と述べた。韓国サイトの訪問者数は11月27日の54万人から、12月4日には61万人に増加した。





■低迷するグーグルのシェア







 しかし韓国のネット業界は、グーグルの冒険に注目してはいるものの、「メーン画面のメニューを増やすぐらいではユーザーに受け入れられないだろう」と厳しく評価している。


 グーグル韓国の新しいメーン画面に表示される内容は、過去の検索結果からコンピューターが解析して決める。グーグルはこの方式について、「閲覧数に応じてトピックを表示しているので、より客観的な情報を提供できる」と主張する。


 これに対し韓国の他のポータルサイトでは、複数の編集者がブログやニュースのコメントなどに目を通して、なにをメーン画面に表示するのかを選別している。ニュースの見出し編集は禁止されているが、ブログの書き込みは見出しを編集したり構成を変えたりして、利用者の注目度を高めようと競い合っている。雑誌やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)サイトと提携し、話題のコンテンツを提供してもらってもいる。韓国の検索ポータルは検索機能の高度化だけでなく、コンテンツの制作と流通にも深く関わっているのだ。




 グーグルの努力にも関わらず、韓国の検索市場における同社のシェアは2%と低迷している。しかも、グーグルと過去3年間検索広告契約を結んでいた市場シェア2位のポータルサイト「DAUM」が、広告単価の高いオーバーチュアに乗り換えたことで、韓国国内での広告売り上げが大きく減った。グーグルの広告サービス「アドセンス」は個人ブログを中心に利用が広がっているものの、広告事業は順調とは言い難い状況である。



■韓国ポータルでNAVERが独走する理由


 韓国のパソコン向け検索ポータルでは、「NAVER」がシェア約7割と他を圧倒している。NAVERを運営するNHNの2009年7~9月期の売上高は、前年同期比13%増の3332億ウォン(約254億円)。内訳は52%が検索広告、32%がゲームだった。ライバルであるDAUMを運営するダウムコミュニケーションの同じ期の売上高は641億ウォン(約49億円)と、NHNの5分の1でしかない。DAUMも会員数ではNAVERに負けていないが、売上高でここまで引き離される背景には、検索データベース(DB)の差に加え、検索利用件数の違いがあるといわれている。


 「NAVERのサイトを見れば、ほしい情報が簡単に、見やすく手に入る」というユーザーの利便性を維持するため、NAVERは検索、口コミ、画像、動画、ブログ、SNS、Twitter(ツイッタ―)、ニュース、論文、専門資料など、ネット上に存在するあらゆる情報を1つの検索DBにまとめている。ホームページでは見つからない情報が、口コミサイトで見つかる可能性もあるからだ。その結果、NAVERは「レポートを書くときも、市場調査をするときも、まずNAVERに行けば大丈夫」というブランドを築いた。


■スマートフォン普及で変わる競争条件


 ここ数年、NAVERの独走を止められる対抗馬は存在しなかった。しかし携帯電話サービスが第4世代に進化して有線のインターネットと遜色ない通信速度になれば、ネット利用の中心はパソコン向けのポータルサイトから、外出先からでも利用できるモバイルポータルサイトに変わっていくだろう。


 韓国では今、大手企業やネット関連企業が社員に米アップルの「iPhone」や韓国サムスン電子製の「OMNIA」といった高機能携帯(スマートフォン)を支給し、インスタントメッセンジャーの活用などによって通信費の節約と業務効率化を同時に図っている。そうなれば当然、スマートフォンで使いやすいポータルサイトがより高い市場シェアを得ることになるだろう。


 グーグルは韓国のパソコン向け市場ではNAVERの壁を越えられなかった。しかし、グーグル製の基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」を搭載した携帯端末が2010年に発売されれば、その構図も変わるかもしれない。


 グーグルは12月初め、モバイル向けを中心とする新しい検索技術を相次ぎ発表した。携帯のカメラで撮影した画像で情報を検索する「Google Goggles」、ユーザーの位置情報によって検索結果の順位を変える技術、中国語や日本語などに多言語化されつつある音声検索などは、韓国でもネットユーザーの関心を集めた。韓国のポータルサイトも相当な検索技術を持っているが、ここまでくるとグーグルには敵わないかもしれない。



■移り気なユーザー、チャンスはどこにも


 NAVERやDAUMといった韓国の大手ポータルは、数年前から携帯端末向けのサービスも提供しているが、スマートフォンの普及とともに、携帯電話会社も子会社を通じてモバイルポータルの運営をてこ入れし始めた。


 iPhoneを販売する韓国の携帯電話最大手KTは、子会社KTHが運営する携帯ポータル「Paran」のスマートフォン専用サイトをリニューアルした。中小店舗向けに顧客管理ソフトなどをネット経由でモバイル端末に提供するSaaS(サース)にも力を入れている。


 SKテレコムの子会社で2300万人が加入する韓国最大のSNS「サイワールド」を運営するSKコミュニケーションズは、SNSを前面に出したモバイルポータルで勝負している。SKコミュニケーションズのポータルサイト「NATE」は検索シェアが5%台から7%台と、わずかながらも伸びている。







 NAVERも座して待つつもりはない。モバイル向けの地図情報サービスでは、「交通」「自転車」「不動産」「山登り」など目的に応じて異なる地図を提供。個人に焦点を当てて、「何でも揃って使いやすい検索ポータル」というブランドを守ろうとしている。地図からお店情報を検索して無料で電話できるサービスも始めた。自分の電話番号を残すとお店に連絡が届き、その番号宛てに電話がかかってくるのでユーザー側は電話代を払う必要がないという仕組みだ。




 韓国のネットユーザーは新しいもの好きだ。DAUMのSNSから「サイワールド」へ、そしてNAVERのブログへ移動していったように、少しでも便利なサイトがあれば、長年使っていたサイトでも未練なく捨てて他に移っていく。


 検索も同じだ。NAVERが今は圧倒的に強くても、モバイルが前提になればグーグルをはじめDAUM、NATE、PARAN、Yahooなど、どこにユーザーが移っていくかわからない。iPhoneを引き金に始まった新たな競争は、韓国のインターネット産業全体に広がっていきそうだ。

– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年12月14日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000010122009

「ミネルバ」は無罪、グーグルは本人確認を拒否 揺れる韓国ネット規制

あの「ミネルバ」が、1審で無罪判決を受け釈放された。ソウル中央地裁は、ネットに虚偽の事実を流したとする通信基本法違反の罪で起訴され、100日近く身柄を拘束されていたパク・デソン被告に対し、「虚偽の事実だという認識がなく、公益を害する目的があったという証拠もなかった」との判断を下し、4月20日無罪を言い渡した。(趙章恩)

 検察が本腰を入れ政府機関も注目していただけに、この無罪判決は弁護団側も予期しない結果だったようだ。ミネルバ無罪は日本のメディアでも報じられた。しかし、1年6カ月を求刑していた検察はさっそく控訴している。それに、いまさら「無罪」に何の意味があるだろう。



1審で無罪判決となり、家族らの出迎えを受ける「ミネルバ」=4月20日、ソウル〔ロイター〕



■無罪釈放でも以前には戻れない


 ミネルバは釈放後、「これからは実名で堂々と書き込みをしたい」と話していたが、ミネルバが誰であるかを知ってしまった今、人々はもう彼の書き込みに熱狂しないだろう。ネットユーザーが熱狂したのはミネルバというIDだけで知られた神秘的で特別な存在であって、パク・デソン氏ではない。


 ネットの預言者、インターネットの経済大統領なんて、実態はこんなものだよと、暴いてみせるのが政府の狙いだったのかもしれない。サイバー侮辱罪の導入議論がまだ続いているが、法改正をしてもしなくても、政府の気に障ることを書き込めば逮捕されるかもしれない、という脅し効果は十分あった。


 ミネルバは釈放された次の日からマスコミにひっぱりだこである。インタビューに対談に「王が戻ってきた」と大騒ぎしているが、ネットユーザーはその記事の下に「これだけ有名になれば、どこかの企業にスカウトされるんじゃない?」なんて冷めたコメントを書き残している。それに「ミネルバはパクさんではない。本物は別にいる」という説も根強く残っている。





■くすぶる大統領批判と政府の圧力


 政府の経済対策に失望した人々は、政府とは逆の見通しを語るミネルバの書き込みに熱狂した。景気はよくなる、大丈夫、大丈夫と呪文のように唱える政府とは逆に、ミネルバは最悪の事態が待ち構えていると悲観的な展望をポータルサイト「DAUM」の掲示板に書き込み、的中させた。


 そのミネルバへの賞賛は、李明博大統領への批判の裏返しにほかならない。貧乏な苦学生から財閥グループの建設会社CEOになりソウル市長を経て大統領にまで上り詰めた成功神話を持ち、自ら経済大統領を名乗って期待を集めた李大統領だけに、市民は「裏切られた」という気持ちを募らせた。気の毒なほど支持率が落ち、ネット上には相変わらず大統領を非難する書き込みがあふれている。


 ただし、ミネルバ事件以来、よほどの覚悟がないかぎり、政府に逆らう経済展望や政策批判は書き込めなくなった。令状がなくても捜査協力という名目でポータルサイトから会員登録用の個人情報が警察や検察の手に渡ることをみんなが知ってしまったからだ。ネット企業は広告やマーケティングのため、どんどん個人情報を集めているが、それが適正な手続きなく捜査機関の手に渡っている。


 ミネルバ緊急逮捕のニュースを見ながら、政府の無言の圧力を感じた人は少なくない。「インターネット論客」と呼ばれる人のなかにも、自分の掲示物の下に「これは小説です。誰かの名誉を毀損するつもりは全くありません。間違ったことがあれば教えてください。修正します」という卑屈な注意書きを残す行為がみられるようになった。




■4月から本人確認規制を強化


 韓国では2009年4月1日から、1日訪問者数が10万人以上のポータルサイトや動画サイト、ニュースサイトの掲示板にユーザーが書き込みをする際の「本人確認」が義務付けられた。ユーザーの住民登録番号と氏名を照会して実名確認をしたうえでないと、会員登録できない。従来は、ポータルは1日訪問者30万人以上、ニュースサイトは20万人以上が本人確認制度の対象だったが、この規制が強化されたのだ。


 政府は「クリーンで安全なインターネット利用環境を整えるために必要な措置であり、国家によるネット統制が目的ではない」と説明する。ただ、「NAVER」や「DAUM」などの巨大ポータルは以前から本人確認を実施しているにもかかわらず、悪質な書き込みが後を絶たない。本人確認が誹謗中傷や流言飛語の抑止に必ずしも効果を上げないことは、数々の研究でも示されているが、政府の決定には従わざるを得ない。


 ところが、これに敢然と立ち向かうサイトが現れた。



■グーグル「表現の自由のために」




韓国放送通信委員会のネットワーク倫理チームが発表した本人確認制度実施の対象となる153サイト。YouTube(赤く囲ったところ)もリストに含まれている

グーグル韓国法人が動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」において、本人確認制度の導入を拒否したのである。YouTube韓国語サイトも1日訪問者数が10万人を超えており、本人確認制度の対象である。守らなければ3000万ウォン以下の過怠金が科せられるが、法律の適用対象にならないようにする迂回術を講じて、匿名を維持することにしたのだ。


 グーグルは4月8日、YouTubeの告知欄にこう掲載した。「YouTubeは本人確認を要求しません。よりたくさんの情報を手に入れられるということは、よりたくさんの選択とよりたくさんの自由、究極的にはよりたくさんの力を個人に与えられると信じています。ユーザーが望むならば、匿名の権利は表現の自由において重要であると信じています」(http://www.YouTube.com/blog?gl=KR&hl=ko&entry=MTDoL1s-6Bg


 本人確認制度の対象である153サイトの中で、YouTubeだけが表現の自由を尊重する企業理念を理由に、本人確認を拒否した。外資系でもマイクロソフトやYahoo!Koreaなどは韓国語版サービスで住民登録番号による本人確認を実施している。



■政府はグーグルを徹底批判するが・・・


 今回YouTubeが採った手法は、ユーザーが国設定で「韓国」を選んだ場合は、データのアップロードを受け付けないというものだ。ところが、韓国からの投稿でも、国設定を日本やアメリカなど韓国以外にすればアップロードもできるしコメントも残せる。表現の自由のためとはいえ、かなりグレーなやり方といえるだろう。





YouTube韓国語サイトの告知画面



 韓国政府はもちろん怒った。「グーグルは現地法を守るとしながら、中国では守って韓国では守らない」「自分たちの利益のために匿名を維持するだけなのに、まるで正義の味方であるかのような振る舞いをしている」と放送通信委員会の委員長が遺憾の意を表明するほどの騒ぎになった。


 これに対し、グーグル韓国法人は「ユーザーの立場を優先する。実名制度はネットユーザーのためにならない法律で、ネットの活性化のためにもならない。グーグルは現地法に合わせて営業している。YouTubeは法律を拒否したのではなく、アップロードと掲示板を利用できないようにすることで、本人確認制度の適用対象からはずれたのであり、韓国法を守っていることになる」と説明する。さらに、「インターネットはいろいろな声がぶつかりあう空間である。100人より100万人の声があった方がいい。100万人が声を出せるのがインターネットであるのに、1万人しか声を出せないようにする法律では、インターネットのメリットは活かせない」と、一歩も引かない構えをみせている。





■新たな個人識別方式を導入する狙い


 グーグルによる本人確認制度の騒ぎのなか、韓国政府は、2015年からネットでの住民登録番号による会員登録を禁止するという方針を発表した。税金と金融サービスを除く全てのオンラインサービスには住民登録番号ではなく、I-PIN(Internet Personal Identification Number)呼ばれる個人識別番号を利用するという内容だ。I-PINは一度認証を受ければ、何度でも番号を変えられるので安心して使えると、政府は説明している。


 グーグルは本人確認制度そのものに反対しているが、本人確認はあくまでも実名や個人情報を運営者側で管理する仕組みであり、インターネット実名制度とは異なる。ネット上ではIDだけが表示され、ユーザー同士では匿名のままだ。ただし、本人確認の時に使われる住民登録番号は、かねがね問題になっていた。


 1つは、行政、医療、金融などに使われる重要な住民登録番号がネット上で利用されることにより、ハッキングよる盗難事件やなりすましによる詐欺事件を招いていること。また、住民登録番号を持たない外国人が韓国のウェブサイトで会員登録するには、本人確認のため外国人登録証の番号を入力するかパスポートのコピーを送る必要があった。I-PINへの移行は、こうした問題に対応する狙いがある。




■ネットの安全・安心は産学官で知恵絞るべき


 だが、I-PIN導入は数年前から何度も繰り返されている議論であり、結局のところ本人確認を巡る論争の根本的な解決にはならない。


 より安全で安心して利用できるインターネットの環境作りは、世界各国の課題だ。日本でも韓国でも、子供を不法情報から守るためのフィルタリングや著作権侵害の取り締まり、次世代インターネットの構築などに産官学が一緒になって取り組んでいる。個人を特定する本人確認制度ほど単純で簡単なネット規制はないが、ネット上の表現内容の良し悪しは政府が決めるべきことではない。


 意見の差異、多様性が認められる社会になればミネルバや本人確認制度なんて、議論にもならないだろう。第2のミネルバは当分登場しないかもしれないが、このままではグーグルのような対抗策や、ユーザー自身が直接海外サイトを利用する「ネット亡命」が増えるばかりだろう。そうなれば韓国の大手ポータルサイトやコミュニティーサイトの利用者が減り、広告収入も減る。打撃を受けるのは韓国経済なのだ。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年4月30日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000030042009

グーグルコリアの人材確保策、厚遇の裏にある狙い [2007年5月2日]

市場情報研究機関のミルワードブラウンが英ファイナンシャルタイムズの協力を得て行った2007年のブランド価値評価によると米グーグルが、ブランド価値664億ドルで1位、前年1位だったマイクロソフト(MS)は3位に落ちている。物凄い勢いで世界市場でパワーを発揮しているグーグル。韓国でも3月あたりからやたらとグーグルコリアのニュースが増えている。いろんな記事の中でも面白かったのはグーグルコリア社員エンジニア採用担当のキム・ヒヨンさんのインタービューだ。

 「この会社は社員を太らせて食べちゃうつもりなのかな?ってよくみんなで冗談を言い合います。グーグルに入社すると平均4kgは太りますね。おいしい有機栽培の果物が食べ放題なので、一日中仕事をしているか、食べているかのどっちかなので仕方ないです。また本社と同じく業務時間の20%は個人的な関心事に使える20%プロジェクトも実施されてます。もちろん何をしているのかは上司に報告しないといけませんが、何をやっても自由です」


 韓国の検索サイトでは電話番号や住民登録番号といった個人情報は検索できないようにブロックされているが、Googleではひっかかり放題。ついこの間もセブン-イレブンのインターン社員履歴書が他のサイトでは登場しないのにGoogleでだけ検索にひっかかり大騒ぎになった。ところが、当のグーグルはそのようなマイナスイメージの記事をもみ消すかのように、連日記者らをオフィスに招待しては社員を登場させ、「グーグル最高!」のメッセージを発信している。韓国オフィスだけにとどまらず、本社に勤める韓国人スタッフも登場し、アメリカンドリーム実現、などとも騒いでいる。


 グーグルは中国市場には2006年1月に進出し、3月末現在、検索市場シェア18.7%で2位とまずまずの業績を上げている。だが韓国でのシェアはたったの1.8%にすぎない。その理由は以前、掲載したGoogle Earthのコラムでもふれたが、韓国人の検索は量より質重視だからだ。NaverやDaumは知識検索、ニュース検索、Web検索など最初の画面からカテゴリー別に整理されており、一目で分りやすい。一方、Googleはとにかくいっぱいヒットするけどテキストばかりで何が何だかさっぱり分らないという不便さがある。検索市場で人気がないというのは当然広告もあまり取れないということになる。

グーグルは2007年から本気で韓国の検索と広告市場に飛び込むという覚悟だという。そのために真っ先にしているのが優秀な人材の確保である。グーグルの韓国支社長採用を巡っては、これまでの3年間で数十人のIT業界の有名人を面接し、誰々が最終面接で落ちたらしいとか、誰々はグーグルの物凄い条件をけり今の職場に残ったらしいという噂が広まったりもした。が、結局いまだに支社長は決まっていない。2007年の4月にやっと技術開発総括エンジニアリングディレクターと営業総括マネージングディレクターを新しく任命し、支社長制ではなくツートップ制でいくことになった。1人はオンラインでの名声評価会社「Opinity」の代表、もう1人は韓国アドビシステムズの代表だった人物で、マスコミでは大々的に報道されている。


 この1年でグーグルコリアの社員は2倍に増えた。社員数という意味では急成長している韓国支社は、また1月からヘッドハントで100人ほどの社員採用を続けている。グーグルに優秀な人材をさらわれないよう、急きょ社員募集を始めた企業もある。代表的なのが韓国最大の検索ポータルのNAVERを運営するNHN。突然200人の大規模採用を始めた。NHNは今まで随時中途採用をしていたが、新入社員を含めた大規模な採用は初めてのことだ。やはりグーグルを意識しての採用としか思えない、というのが他の検索ポータル会社の意見。どこもグーグルに人材を引き抜かれるのではないかとはらはらしているらしい。


 Googleは韓国ではあまりにも利用されないため、逆にどうしてそこまで人気がないのか、韓国人のネット利用行動は世界のトレンドを逆行しているのではないか、とまで思われているほどだ。一方で、世界最大の検索サイトを持つGoogleは、IT業界に身を置く人間にとっては憧れの職場だ。


 アメリカと同じく韓国でも10回の面接を通らなくてはならないがもっとも重要なのは、同僚になる社員達との面接。これも、リクルートスーツは禁止、一緒に仕事ができそうな人なのか長所を発見するための面接だという。とはいっても採用条件に英語堪能、それなりの企業で勤めた経験を要求しているのでハードルは高い。それでも、有機栽培果物も食べ放題という口説き文句もあってか送られてくる履歴書は溜まっていくばかりだそうだ。


 今はまだソウルのCEOX展示場の近く、三成駅にある賃貸オフィスなので本社の福利厚生を全て実施できていないけど、正式にオフィスをオープンすれば、あの有名な無料有機栽培ランチ、ビリヤード、マッサージ、ゲーム機などを設置して本社と同じ勤務環境を提供する計画だ。本人が望む限りグーグルでエンジニアとして働けるようにするというので、韓国にはない終身雇用の新しいモデルになるかも知れない。


 グーグルはサイト利用を促進させるためにどんなマーケティングよりも重要なあることに気付いたようだ。韓国人が最も大事にしている血縁、地縁、学縁を利用することだ。社員が増えれば家族が勤める会社だから、友達が勤める会社だからとグーグルを利用するユーザーが増えるだろう。これこそ究極の韓国市場攻略方法なのかも知れない。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070501/269960/

グーグルのアンドロイドが韓国の「モバイル鎖国」を開放する? [2007年11月14日]

かなり前から噂されていたグーグルの携帯電話への進出。ついに、その詳しい実態が明かになった。モバイル向けOS「アンドロイド」を発表したのだ。

 韓国では「グーグルが通信事業者になって携帯電話を発売するのか?」と予測されていたのだが、ふたを開けてみるとマイクロソフトのWindows MobileのようなOSだったということで、これが携帯電話業界にどのような影響を与え、世界をどう変えていくのか、深層分析記事が登場したり、ブログでかなり話題になったりしている。


 今の韓国のモバイルインターネットでは、メニューの表示が複雑で使い方に慣れるまでは、「このボタンかな?」「あのボタンかな?」と、何度も同じページを行ったり来たりして苛立つことがある。韓国では二次元バーコード(QRコード)が普及していないのでなおさらだ。そこに、ユーザーが必要としているコンテンツを簡単に表示してくれて、コンテンツの検索もしやすくなるとなれば、「アンドロイド携帯を買いたい!」となるのは当然だろう。


 韓国ソフトウエア業界も、グーグルのアンドロイドが使える端末を韓国で発売してくれることを切に望んでいる。外資系依存比率が年々高まり、生き残りが難しくなった韓国ソフトウエア業界やモバイル関連ベンチャー企業に希望の光が差し込むのではないかと期待しているのだ。


 グーグルのアンドロイドをきっかけにオープンなプラットホームを登載した携帯電話が世界の主流になれば、韓国も携帯電話の通信網が開放され、ポータルサイトのNAVERやDAUMを使えるようになり、幅広いモバイルコンテンツサービスを楽しめるようになる。パソコン向けのサイトを携帯電話からスイスイ利用できるようになれば、ノートパソコンを持ち歩かなくて済むようになるし、韓国のモバイルインターネットの利用者も爆発的に増えるだろう。そうすれば、まだ4割にも満たないモバイルインターネットの利用比率を日本ほどに高められるかもしれない。


 しかし、こうした期待を裏切るかのように、通信事業者のSKテレコムやKTFは「グーグルのアンドロイドは結局のところスマートフォン。デザインと機能を重視する韓国ではスマートフォンのような端末は売れない。収益性、サービスの多様化という面でメリットがないため、アンドロイドには対応しないことにしている」と発表した。


 韓国では、通信事業者3社がプラットホームからモバイルコンテンツ市場までがっちりと握っている「モバイル鎖国」。この「クローズド」な環境と、グーグルのアンドロイドのように「オープン」な環境が相容れるわけがなく、絵に描いた餅に終わってしまう恐れが高い。

韓国のモバイルサイトには「公式サイト」しか存在しない。そこに各コンテンツプロバイダーがコンテンツを掲載するには、通信事業者が投資あるいは子会社化している「マスターコンテンツプロバイダー」と呼ばれる大型コンテンツプロバイダーを経由してコンテンツを納品するしか方法はない。通信事業者と各コンテンツプロバイダーの収益の分配(手数料)も契約によってまちまち。今はだいぶよくなったが通信事業者の取り分が60%、コンテンツプロバイダーは40%しかもらえないというようなこともあった。

 コンテンツプロバイダーが「もっと収益を分配してほしい!」と主張しようものなら、「他にいくらでもコンテンツプロバイダーはあるんだよ」という具合に簡単に切り捨てられてしまう。コンテンツプロバイダーには、キャリアと仲良くなるか、メガヒットを飛ばして通信事業者から一目置かれるようになるかの、二者択一の道しかない。


 こうした状況に風穴を開けようと、韓国ではグーグルより圧倒的な人気と影響力を持つポータルのNAVERが自社のコンテンツを携帯電話から自由に利用できるようにするため、通信事業者に携帯電話網を開放するよう要求している。しかし、通信事業者側は、この要求に応じない。「おいしい既得権」はそう簡単に捨てられないというわけだ。


 韓国の通信事業者が、アンドロイドに対応しない理由はもう一つある。それは、韓国政府が推進してきた「WIPI」という韓国式標準プラットホーム戦略との関係だ。政府主導で高い費用を払ってWIPIを開発し、すべての携帯端末はこれを義務的に登載している。これにより携帯電話の端末価格が高くなり、海外メーカーが携帯電話を韓国で販売することも難しくしている。グーグルのアンドロイドを韓国で提供することは、国家施策であるWIPIを否定することになる。ただし、海外向け端末ならば話は別。端末ベンダーのサムスン電子やLG電子は、海外輸出向け端末のためにグーグル同盟に参加し、高いOS利用料を支払わずに販売できる端末の開発を目指している。


 グーグルにしても何にしても、海の向こうの話で終わらないのがITの世界。韓国でもグーグルに刺激を受けて、モバイル鎖国がなくなることを期待している。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン  
Link

グーグルコリア、韓国ブログベンチャー買収の理由はブログではなかった

グーグルコリアが去る9月、韓国のブログ専門ベンチャーTatter&Companyのサービスを買収し、韓国内でのサービスを強化する方針を明らかにした。グーグルコリアが韓国企業を買収したのは初めてのこと。Tatter&Companyはオープンソースのサーバー設置型ブログ「Tattetools」を開発元で、韓国のブロガーの間ではとても有名な会社である。

 ポータルサイトDAUMのブログもここの会社の事業部門を買収して運営されている。今回も会社そのものの買収ではなく、サービス部門の買収ということである。しかしグーグルコリアはブログサービスを提供するための買収ではなく、R&Dと検索サービスを強化するための買収であるとしている。


 韓国ではポータルサイトが検索、無料メール、コミュニティ、ブログなど全てのサービスを連動させる戦略でシェアを独り占めしている。韓国最大のポータルサイト「NAVER」は検索もブログも圧倒的な差で利用者1位をキープしている。韓国語で作成されているWebページの数は英語に比べて絶対的に少ないため、ブログに書き込まれた内容も貴重な検索データベースになり、コミュニティーとも連動しているので、検索結果が豊富でユーザーが集まる。ユーザーが集まるところにまたユーザーが集まるので、ページビューの独占は加速するばかりだ。もちろんNAVERやDAUMは使い方も工夫していて、検索結果をカテゴリーに分けて細かく表示するなど使い方もとても便利だ。そのため2004年あたり繁盛していたソーシャルネットワークサイトやコミュニティ機能を専門とするサイトはNAVERにユーザーを奪われている。


 グーグルは2005年9月にグーグルコリアを設立し、韓国でサービスを開始したものの、Googleの検索シェアは未だに2%前後に過ぎず、力を発揮できていない状況である。そのためグーグルコリアが韓国のブログサービスを買収するというニュースは、韓国市場に本腰を入れるのかということで話題になっている。グーグルコリアは「Tatter&Company」のブログ機能よりも、韓国のネット市場に詳しい人材をセットで買収できたことに満足しているようだ。検索以外のサービスでユーザーを惹きつけ、検索へと誘引する戦略なのだろうか。


 グーグルコリアは韓国でのシェアを高めるため、親韓国作戦を繰り広げている。2007年には韓国にR&Dセンターをオープンして1億4000万ドルを投資すると発表し、2008年9月には1000万ドルを追加投資すると発表した(この件は以前、「グーグルコリアの人材確保策、厚遇の裏にある狙い」で取り上げた)。「グーグルが韓国に投資してくれるなんて」という好意的な反応を予想していたはずだが、残念ながら反応はいまいちだ。インテルの二の舞になるのではないかと疑っているからだ。


 インテルは2004年3月、韓国政府とホームネットワークの共同研究をするとしてソウルの郊外にR&Dセンターをオープンした。韓国をアジアの拠点にすると大々的に宣伝しておきながら、2007年1月には本社の経営状態を理由に撤退、上海にR&Dセンターをオープンしたのだ。グーグルも口先では韓国ベンチャーを買収してサービスを強化する、もっと韓国に投資する、韓国と共同研究する、といっているが、韓国の立場からするとインテルのようにいつ裏切って中国へ行ってしまうかわからないというのが正直な心情だ。


 グーグルコリアは「Tatter&Companyの買収は検索研究のためであってコンテンツを増やすのが目的ではない。韓国でブログサービスを新しく提供するかどうかもまだ分からないが、グーグルコリアは韓国のネットユーザーと広告主が望むものは何かを正確に把握し、そのために組織を成長させている。韓国に対する持続的な投資を惜しまない予定だ」としている。韓国人向けの検索を提供し、シェアを確保するためには韓国人の検索パターンをよく知るエンジニアが必要だ。今回の買収は人材確保が何よりも目的だったというわけか。


 グーグルがブログを始めればネット亡命できると喜んでいたユーザー達はがっくりである。この頃、悪質なコメントに傷ついて芸能人が自殺する事件がまた何件も続いているため、ネット上の本人確認や書き込みの内容に対する取調べが強化されているからだ。ろうそく集会(2008年4月に韓国政府が米国産牛肉の輸入制限解除に踏み切ったことに抗議し、市民がろうそくを手に徹夜でデモ行進を行った)の時だって、ネットの書き込みを追跡して何人もの人が指名手配されている。書き込みのどこが問題なのか、見る人によって判断が違っていたため、ブログの表現の自由を求め海外サイトへ逃げるネット亡命が続いていた。その動きを受けて、グーグルがついに韓国でブログサービス開始か!と思っていたらそうではない様子。R&D強化が目的というのも韓国の発展につながるので嬉しいことは嬉しいが、インテルのようにはなってほしくないものだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年10月9日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20081009/1008648/