ネットを通じて警察が市民の力を借りるコミュニティー「犯罪狩人」 [2007年3月13日]

前回、ネットでの書き込みから風俗店が摘発されたケースや、ネット利用の痕跡から犯人を追跡するという韓国での犯罪捜査を紹介した。このほかにも一般市民が参加して犯罪捜査のための情報を集めているサイトもある。

 市民警察が活躍する犯罪捜査コミュニティーの代表格は「犯罪狩人」だ。「犯罪狩人」コミュニティーがオープンしたのは2000年5月、警察と市民がより近い存在になることを願った現職の刑事であるイ・デウ警衛(日本では警部補)が大手ポータルサイトDaumの中のCaf醇P(誰でも自由に作れるコミュニティー)にコミュニティーを立ち上げた。担当している事件の内容や捜査過程も公開し、市民の参加を呼びかけた。会員になると最初は「市民」、コミュニティーでの活動によって「おまわりさん」、「警長(日本では巡査長)」、「警衛」、「捜査チーム長」などとレベルが上がり、クリックできるコンテンツの数も増える。コミュニティー運営者のイ・デウ警衛は「捜査本部長」と呼ばれている。


集積するクチコミ情報が捜査の糸口に


 「犯罪狩人」がきっかけとなり、解決できた事件は2000年から今まで数え切れないほどある。大活躍しているといっても過言ではない。偽ウィスキー、芸能人の大麻事件、運転免許偽造団など社会を驚かせた犯罪も多数含まれている。コミュニティーの会員らは目撃談、犯罪記事や地域新聞の記事、犯罪の可能性がある巷の噂などを書き込む。これを運営者であるイ・デウ刑事はもちろん他の刑事たちも捜査の参考にし、時には何気ない書き込みが決定的な捜査の糸口になることもある。


 この「犯罪狩人」が有名になったのは「現場体験」を始めてから。現場体験とは年に数回イ・デウ警衛の指導の元、会員も一緒に犯罪発生した地域に出向き捜査をしてみたり、どうやって犯人を捕まえることができたのかの経緯を聞き、刑事になった気分を味わったりできるというイベントだ。


 最初は民間人を事件現場に連れてくるとは何事だと警察内部での反対が大きかったそうだ。でも、コミュニティーのおかげで事件が解決した実績が出てくると、積極的に他の刑事たちもコミュニティーを支援するようになってきた。現場体験に同行したり、オフラインの親睦会に参加し犯罪捜査のこぼれ話を披露してくれたりしている。現場体験を始めてから会員数が急激に増え、2007年3月2日現在、4万人を超えている。会員の年齢も小学生から60代まで幅広い。


 犯罪現場に行けるというスリルからコミュニティーの存在が口コミで広がったのもあるが、イ・デウ警衛がTVの警察ドキュメンタリー番組に出演し、絶対にあきらめない捜査で犯人を次から次へと捕まえる姿に魅了されファンになった人がコミュニティーを探し当てたというケースもある。「犯罪狩人」の影響で警察官になった会員も20人ほどいるとか。


 「犯罪狩人」が有名になってくると、事件の容疑者も会員登録し、自分のことが話題になっていないか確認することもしばしばあったそう。捕まえてみたら「実は僕も会員です」と告白する犯人が何人もいたとか。


 日本では、Winnyを通じて捜査情報が流れた事件が大問題になっていた。犯罪狩人のケースをみると、犯罪捜査というきわめて機密性が高い案件であっても、ネットの上での情報の流し方をきちんとコントロールできていれば、有益な結果を得られることがよく分かる。でも、何より、このコミュニティーに集まる人たちの良心を基本的に「信じる」というスタンスに立ったことが、犯罪狩人が成功した大きな理由と言えるだろう。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070312/264533/