韓国デジタル教科書事情(4)~「サイバー家庭学習」で、自主的な学習習慣を付ける

韓国がデジタル教科書実証実験を始めたのは2007年。それまでに15年近く、デジタル教科書のための教育情報化システムを整え、教師と学生のICT利活用能力を高め、教師の研修を義務化して定期的に行ってきたことを前編で紹介した。今回は、「デジタル教科書」と両輪で子ども達の学習を支える「サイバー家庭学習」のシステムを紹介する。

 韓国政府は所得や地域の格差なく公平に、誰でも質の高い教育を受けられるようにと「サイバー家庭学習」を全国16の自治体と一緒に開発し、小中高校生向けに提供してきた。「デジタル教科書」が学校でタッチパネル端末と電子黒板を利用するマルチメディア教材だとすると、「サイバー家庭学習」は家のパソコンから子どもが一人で使う教材と言える。






サイバー家庭学習は自治体ごとにサイトが分かれる。画面はソウル市のサイバー家庭学習サイト



 サイバー家庭学習は小学4年生から高校1年生までを対象に、インターネット経由で教科書の内容を復習したり、問題を解いたり、動画を見たりして、子ども達が基礎学力を高められるよう設計されている。国語、社会、数学、科学、英語の5科目を中心に「基本(基礎)」、「理解(普通)」、「深化(優秀)」という3段階のレベルに分けてコンテンツを提供。子ども一人ひとりの利用状況を分析して、どんな問題をよく間違えて、どういうところを補うべきなのかといった学習診断をするのはもちろん、学校の教師がサイバー担任として登場し、質問に答えたり、ビデオチャットで解説したりしてくれる。学校の教師はサイバー上でケアする学生の数や優秀クラス選定などの評価項目に沿って、毎月1~2万円ほどの手当てをもらう。


サイバー家庭学習の目標は、子ども達が自ら勉強する習慣を身に付けること。無料なのでお金がなくて塾に行けない、または農漁村で塾がないので行けないといった格差を感じることなく、インターネットさえつながっていれば利用できるというのが特徴である。2種類あり、各自治体が運営する「サイバー家庭学習」(2004年開始)と、小学生・中学生・高校生・保護者・教師に分けて教育資料と教育情報を提供する「EDUNET」(1996年開始)がある。これらのサービスはスマートフォンからも使える。








サイバー家庭学習はスマートフォン向けアプリケーションとしても提供されている。利用料はPC向けと同じく無料。スマートフォン向け表示の例







スマートフォン向け表示の例2。利用料はPC向けと同じく無料




子ども達の自主的な学習習慣を支援



 デジタル教科書は、教科書にいろんな参考資料をリンクさせることで、子どもが興味を持って集中できるようにした。さらに、画一的な授業ではなく一人ひとりのレベルに合った学習を可能にするのが特徴の一つであるため、このサイバー家庭学習とは両輪で、同じ目標を共有するシステムであると言える。


 どんなに素晴らしいシステムだとしても、一人で自主的に勉強できる習慣が身に付かない限り、デジタル教科書だけがある日湧いて出たように普及しても学習効果は見込めない。例えば、韓国の大手学習塾がアンケート調査をしたところ、小学生の46%が「勉強の仕方が分からないので塾に行きたい」と答えたそうだ。サイバー家庭学習は、子どもが自らこんな勉強をしてみよう、教科書のこの項目がよく理解できないからこの動画を見てみよう、といった具合に、自主的な学習習慣を支援することで、デジタル教科書との相乗効果を狙う。


 サイバー家庭学習は、韓国教育科学技術部(文部科学省に相当)の資料によると、2010年8月時点で会員数約312万人、サイバー担任約12万人、チューターとして参加する大学生が340人ほどいる。また、このサービスを利用している児童・生徒の81%が、成績が良くなった、勉強が面白くなった、など学習のためになったと答えている。

2009年末時点で家計の教育費を見てみると、サイバー家庭学習を使うことで子ども一人毎月7000円ほど学習塾代を節約できたとしている。大学受験に命がけの教育熱の高い韓国だけに、収入の70~80%を子どもの教育に使う家庭も少なくない。科目ごとに違う塾に通い、英会話やピアノといった習い事まで合わせると教育費だけで毎月子ども一人少なくても8万円はかかるので、10%近い7000円の節約はうれしい。


 韓国はこれら家庭用教育サービスを提供するために2005年から2010年2月まで100億円近い予算を使っている。ここからさらに発展し、ソウルの江南区をはじめ一部区役所は年間3000円ほどで利用できる有料外国語学習サイトや大学受験向けカリスマ講師動画サイトをオープンし、住民に喜ばれている。


 サイバー家庭学習におけるこのような取り組みが評価され、2007年にはUNESCO教育情報化賞、2010年には教育分野の国際機関IMSの Learning Impactで大賞を韓国は受賞している。


 韓国は共働きで両親が家にいない。そのため勉強の面倒を見てやれないので子どもを塾に行かせることも多い。学校では教室にあるIPTVを経由して子ども達が教育アニメを見たり、教科書の内容と関連のある動画を見たりする「放課後教室」も運営する。これには通信事業者も社会貢献活動としてスポンサーとなっている。通信事業者が派遣したボランティアの大学生が放課後教室の先生になったりもする。


 デジタル教科書や教育情報化のために教育科学技術部や通信事業者、IT企業だけががんばっているわけではない。知識経済部(経済産業省に相当)も関連政策を発表している。韓国ではこのような新しい教育サービスに必要なのは「技術よりも制度改善」が合言葉になっている。(次回へ続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101224/1029343/