韓国は陰暦を使っているので、2011年のお正月は2月3日である。まだだいぶ先にあるせいか、西暦では年は明けたものの、なんだかまだ新年気分がしない。1月1日だけが休みで連休でもないからなおさらそうなのかもしれない。それでも12月が年度末なので、各企業や省庁では始務式がすでに執り行われ、新年の業務が始まってはいる。ただ、お正月前だと「2011年初仕事!」の気合がなかなか入らない。
新年なんだけどまだ新年ではないような、そんな気分を一気に覚ませてくれるのが、米ラスベガスで1月6日から始まる世界最大級の家電展示会「2011 International CES」と言える。サムスン電子、LG電子を中心に韓国が誇る「世界初」、「世界最高」という宣伝文句を掲げた新製品を一挙公開する。世界の家電とIT製品のトレンドを把握できる展示会だけに、IT輸出が経済を支える韓国ではIT業界人だけでなく、一般市民も注目するニュースでもある。開催前からネットでは今年のCESにはどんな新製品が出展されるのか現地からの報道が絶えず、出展するメーカーは現地からネット中継で自社の展示内容を宣伝するほど力を入れている。
2011年のCESは、欧米の景気回復を反映して、より画面が大きくて薄いパソコン・携帯電話・テレビ、インターネット経由でつながるスマート家電が注目されているという。今年の目玉としてサムスンとLGが宣伝しているのはなんといっても「スマートTV」。テレビを観たり、ネット検索をしたり、動画を観たり、ゲームをしたり、テレビからTwitterにつぶやいたり、スマートフォンやタブレットPCと連動してアプリケーションを利用したりできる。サムスンとLGは世界TV市場シェア1位を守るためにも3DTVに続いてスマートTVでも1位を狙う。
サムスンは史上最大規模、参加企業の中でも最大規模の展示ブース(2584平方メートル)で参加する。既存のものより10インチも大きくなった世界最大という75型スマートTVも初めて公開される。フルHD、2Dから3Dに変換する機能付き、大型には適用するのが難しいといわれたエッジ型LEDバックライトを搭載しているのが特徴である。スマートTVだけで2011年の世界市場において1000万台の販売数を予想する。
3DTV用のメガネも進化を遂げた。初めて公開されるという3Dメガネは28gという超軽量シャッターグラス、鼻の高さを調整できるので子どもも使える。かけているのかいないのか分からないほどの着用感だといい、既存のメガネより約10g軽くなったという。ネジを使用しない人体工学的なデザインで有名なオーストリア「シルエット」とデザイン提携によって生まれた。メガネの上にもかけられるといいけど、その手のデザインではなかった。視力補正レンズを付けられるという説明だが、3Dメガネ用のレンズを作らないといけないのだろうか。
3DTVやスマートTVの複雑な機能をより簡単に利用できるよう3型タッチリモコンも展示されるという。これは面白そうだが、スマートフォンにタブレットPCに画面付き電話機(韓国ではVoIPはSoIPといって、タッチパネルが付いてちょっとしたコンテンツ利用、メモ、テレビ電話ができるVoIPが普及している)に画面付きリモコンまで登場するとなれば、機能がちょっとずつかぶる「画面付き○○」が増えることになるので、これもまた整理されて一つのタッチパネルに集約していくのではないだろうか。2012年のCESではこの画面一つ持っていれば何でもできます、なんていうのが登場するかも。
サムスンはデザインが美しい「3D LEDモニター」にも注目してほしいということだった。オンラインゲーム好きの韓国人だけに、家庭でもノートパソコン+大型モニターの組み合わせをよく見かける。普段メールをチェックしたりネットサーフィンしたりする際にはノートパソコン、ゲームや動画、ネットショッピングはモニターをつなげて使う場合が多いので、デスクトップパソコンの販売は減っているものの、画面がきれいでデザイン性の高いモニターは需要がある。
LGも2045平方メートルのブース規模で、独自のプラットフォーム「NetCast2.0」を搭載した72型のフルLED3DスマートTVや3DTV、スマートフォン、家電などを展示する。同社もメインはスマートTVと3DTVとしている。また、冷蔵庫や洗濯機、ロボット掃除機などの家電とスマートフォンやタブレットPCがつながるホームネットワークで、どこにいても家電を遠隔操作し電源をつけたり消したりできるスマートソリューションも展示する。スマートフォンで観ていた映画を面倒な作業なく続けてスマートTVから観ることができる機能などが紹介される。
パソコンとスマートフォンもどんどん軽く薄くなっていて、サムスンは11型軽量ノートパソコンと、世界最薄という厚さ23mmの3Dブルーレイプレーヤー、4GのLTE基盤端末、iPadに対抗する7型タブレットPC「GALAXY Tab」に続いてWindows 7を搭載した10型タブレット「Gloria」も展示する。世界で最も薄いとLGが宣伝する9.2?のスマートフォン「Optimus Black」を公開する。「Optimus Black」はスマートフォンの中では最も明るい700nitのLCD、109gの軽さも自慢。
CESではハードウエアだけが注目されるが、韓国内では既に家電メーカーと通信事業者、ネット動画サービス事業者の間で「Nスクリーン戦略」として熾烈なコンテンツ確保競争が巻き起こっている。サムスンとLGももちろん、スマートTVやスマートフォン、タブレットPCといったハードウエアだけでなく、アプリケーションやコンテンツ確保に力を入れている。自らプラットフォーム事業者になるアップル式囲い込みで差別化を狙う。LGの場合、グループ会社で通信事業者のLG U+がIPTVからスマートTVへ戦略を変えたことで、共同でコンテンツ流通に乗り出すことも考えられる。各種デバイスがスマートTVとつながるため、スマートTVのプラットフォームを制したものが、今後ハードウエアでもコンテンツでもリーダーになると見られている。
サムスンは若手役員起用と果敢な投資を打ち出し、LGは役員の入れ替えや通信事業再編でどんどん効率性を高めている。2010年まであまり目立たなかった中小企業もスマートフォンやスマートTVをきっかけに動き出している。CESでの初仕事を終えた韓国IT業界が本格的にどのような戦略で動き始めるか、楽しみだ。ただ、人もビジネスもだめなものはすぐ切り捨てるという容赦ない選択と集中、終わりのない競争の中で成長してきた韓国が、疲れることなくこのまま今年も突っ走れるか、ちょっと心配だな~。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2011年1月6日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110106/1029465/