五感を刺激する電子ブック、デジタル教科書で開花するか

2013年から韓国全土の初中高等学校では、「デジタル教科書」が使われる。

 教育人的資源部(韓国の文部科学省)は、2008年から2013年にかけて、全国各地から「デジタル教科書研究学校」を選定し、デジタル教科書を使った授業をモデルとして始める。2011年までは総額660億ウォン(約79億円)の予算をかけてデジタル教科書で授業を行う学校を100校にまで増やし、その後2013年にはすべての学校にデジタル教科書を導入する計画だ。


 学生にはタブレットPCと、それを操作するための専用のペンを配り、教室には先端の電子黒板が設置される。タブレットPC一台で教科書や参考書、ドリル、辞書、動画、アニメーション、仮想現実などを利用して授業を行うし、当然テストもタブレットPCで行う。こうしたデジタル化した授業を行うことで、自分のレベルに合った個別授業の実施、低所得層の教育格差の解消、移動通信や電子本関連産業の活性化、ゲームと映画に偏りすぎているデジタルコンテンツ市場の多変化――などが期待されている。


 デジタル教科書を導入するに当たっては当然問題がある。例えば、マウスをクリックばかりしていると筆記能力が落ちるのは時間の問題であるとか、学生の健康を損ねる可能性が高いなど、デジタル教科書が持つマイナスの部分も見逃さないよう一部の人は要求している。これらももちろん問題だが、実はもっと大きな問題があるといわれている。それは、技術でもなければ教育でもない。教師に問題があるというのだ。子供たちはすでにパソコンに慣れているのだが、教師はデジタルに慣れておらず、“アナログ”な教師をデジタル化する研修だけで莫大な予算が必要とされているというわけだ。


 このようなデジタル教科書の研修を兼ねた、電子書籍の大衆化を目的とする電子出版展示会が11月23日に開かれた。そこで話題になったのは、光州(クァンジュ)科学技術院文化コンテンツ技術研究所が開発した次世代電子ブック「デジログブック」。


 韓国初というこの電子ブックは、仮想現実(Virtual Reality)と対となる概念である、拡大現実(AR:Augmented Reality)を基盤として設計された「実感相互作用型ユビキタスブック」という、とっても難しい名前を持っている。3Dを利用しつつも、本に書いてあることについて手で触れたり、においを嗅いだり、音を聞いたりしながら読めるというように、電子ブックの使いやすさと、紙の書籍のアナログ的感性を合体させた感じの新しい概念の電子ブックである。3Dのバーチャルリアリティをより現実的に再現したものとでも言ったところだろうか。例えば、韓国の美しい鐘を紹介しているなら、実際の模型を3次元モデルで見ながら音も聞けるし、花の説明が書いてある本なら、花の香りがしたり花びらが立体的に揺れる姿が見えたりする。


 デジログブックは、教育と娯楽を同時に提供するエデュテイメント分野はもちろん、広告や販売促進など多様な分野に応用できるものと見られている。デジログブックは今後3年間、文化コンテンツ振興院から7億5000万ウォン(9000万円)の支援を受けて、商用化を目指すことになる。

電子ブックやディスプレイに関しては別の展示会もあった。11月29日から12月1日まで情報通信部(韓国の総務省のような中央省庁)の主催で開催された「2007次世代コンピューティング産業展示会」では、着ているだけでその人の健康状態をチェックしてくれる「バイオシャツ」の技術をはじめとする6つの次世代コンピューティングの核心部分と言える技術をETRI(韓国電子通信研究院)が展示した。この中でも注目されたのがフレキシブル(Flexible)ディスプレイ。電子ブックの基礎となる技術でもある。

 大手企業のLGフィリップスは、液晶分野でフレキシブルディスプレイを次世代の成長分野として選定し、早期商用化に向け研究を急いでいる。フレキシブルディスプレイは丸めたり曲げたりできる液晶。基板が薄くて軽く、しかも壊れないという特性を持っている。同社はフレキシブルディスプレイが電子ブックや、リアルタイムで中身を確認できるスマートカードなどに限らず、テレビ、ノートパソコン、携帯電話などすべてのディスプレイが必要な製品に適用できると期待している。同社が最近開発したAMOLED(アクティブ・マトリクス型有機ELディスプレイ)を利用した15型フレキシブルディスプレイは商用化を目前に控えている。加工に320度以上の高温が必要だった製造工程を150度以下に下げる技術を開発し、生産単価を劇的に減らせることに成功した。14.1型で折り曲げられるカラー電子ペーパー型の電子ブックの試作品を年内に商用化するのに注力している。


 三星電子も負けてはいない。同社は2007年5月に米国で開催された「国際情報ディスプレイ学会および展示会」(The Society for Information Display;SID)で世界最大規模の40型白黒電子ペーパーとA4用紙サイズのカラー電子ペーパーを初めて公開した。その後、8月には解像度を大幅に高めた14.3型の白黒電子ペーパーも公開された。これはQXGA(2048×1536)クラスの解像度を持ち、既存の白黒電子ペーパーよりも解像度を3倍以上に高めたもの。また既存製品の最も大きな問題点と指摘されていた壊れやすいという点を大幅に改善した。厚さ0.3!)、重さ20g以下で半径15!)まで曲げられ、紙のようにどの角度からもでも見やすく、180度の広視野角を実現した。


 市場調査専門機関のディスプレイサーチは、300万~500万ドル程度だった今年のフレキシブルディスプレイの市場規模が、2010年には7億6600万ドルにまで拡大すると予想している。


 デジタル教科書という目に見える目標ができたことで、韓国でのディスプレイや電子ペーパーの開発が活気を帯びるようになった。教科書という形でさまざまな技術が一つにまとまっていくのを眺めるのも楽しいものだ。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月5日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071205/288747/