ノ・ムヒョン前大統領死去、ネティズン捜査隊が真実を暴く?

ノ・ムヒョン前大統領が亡くなった。自殺だそうだ。

 このニュースを目にした時には正直、どこかの新しくオープンしたインターネット新聞が「またページビュー稼ごうとしているのでは?」と疑ってしまった。


 だって、この前もポータルサイトのメイン画面に「女優シン・ミナが失踪!」という記事があって、「え!うそ~」とびっくりしてクリックしたら「某焼酎CMモデルとして活躍している女優シン・ミナの全身サイズ立て看板が全国で失踪を繰り返している。あまりにもきれいなので盗まれっぱなし、某焼酎の売上も伸びている」という内容の記事だった。韓国ジャーナリズムはこの程度のものなのかと、恥ずかしくなった。(今もこれをばらしていいものなのか、顔から火が出そうだが…)だから、今回も記事のタイトルは刺激的だけど記事の中身はどうってことないだろうな~と思っていた。しかし、ノ・ムヒョン前大統領死去は本当だった。


 それにしても前大統領が自殺だなんて。衝撃が大きすぎる。悲しすぎる。退任後、普通の人に戻った大統領が一人もいないではないか。「清廉」、これはノ前大統領のプライドだった。コネも金もない庶民の味方として、既得層と戦う野党議員から大統領になった。兄や夫人が不正資金を受け取ったという疑惑の捜査は、捜査が始まったというだけで人々にショックを与えた。大統領としては期待に沿わなかったところもあったけど、どんなことがあっても人間的には素晴らしい人だと信じていたから。


 ネットでは政治的他殺として李明博大統領を非難する書き込みが後を絶たない。「李大統領へ。ノ前大統領が亡くなりました。これですっきりしましたか?」、「大泥棒がノ前大統領を小泥棒にでっちあげては殺した」、なんて、おいおい、そこまで書いていいのか? というほど、過激な書き込みが続いている。自殺という発表はあったものの、その現場に一緒にいた警護員の陳述が毎回違うことから、自殺に見せかけた暗殺という陰謀説も広まっている。


 韓国には「ネティズン捜査隊」がある。これは別に警察でもなんでもなく、するどい目を持つネットユーザーたちのこと。「タレントAが今日バラエティー番組でつけていた時計はタレントBが雑誌のインタビュー写真で見た時計と同じだ。もしかしてカップル?」、「サッカー選手のCと歌手のDをどこどこで目撃した。証拠写真はこれ」などなど、探偵のように芸能界熱愛説の動かぬ証拠を集めるのが得意なネットユーザーたちのことをネティズン捜査隊と呼んでいる。


 この前は上半身裸の有名歌手と胸が半分ほど見えるキャミソール姿の女優が並んで顔にパックを塗り、「6年間恋愛中」と書かれた写真が出回った。この写真と同じ服を着て一人でパックをしている写真を個人Blogに載せた女優は、実は何度もこの有名歌手との熱愛を否定していた。ネティズン捜査隊によってついに動かぬ証拠が見つかってしまったということだ。


 芸能人の整形前写真を見つけるのもお手の物! デビュー前にストリートスナップで取り上げられた写真を見つけては、どこどこを整形したのか詳しく解説までしてくれる。ネティズン捜査隊によって嘘がばれた芸能人は数しれない。

今回もネティズン捜査隊が活躍しそうな気配をみせている。過去の政治的対立者を自殺や事故死に見せかけ暗殺した事件の記録を集め、ノ・ムヒョン前大統領が崖から身を投げたとした警察発表の内容、マスコミに報道された内容をかき集めては、何かがしっくり来ない、証言が食い違っているところを徹底的に暴いている。

 メディアへの不信もネティズン捜査隊を動かす要因の一つである。真実であっても、政権に悪い影響を与えることには目をつぶる、それが何十年も繰り返されてきた。生き残るために。


 メディアには報道されない真実とは何か、それが知りたくてインターネット新聞や市民記者が人気を集めた。テレビや新聞には載らない生のままの現場を写真や動画で伝えるブロガーニュースがポータルサイトのメイン画面に表示され、既存メディアと同じようにヒット数を記録するのも韓国ならではの現象であろう。


 ノ・ムヒョン前大統領を追い込んだ収賄事件についても、検察は捜査中断を決めた。それは何故だ。この際、最後まで捜査しようじゃないか。清廉のふりをしていただけなのか? でっちあげの事件なのか?何故死んだのか? 悲しむだけで忘れてしまっては、同じようなことが繰り返されるだけだ。今の大統領だって、退任後が怖いでしょう? 検察がだめならネティズン捜査隊に頼ってみるのはいかがでしょう。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年5月27日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090527/1015529/