グーグルコリアの人材確保策、厚遇の裏にある狙い [2007年5月2日]

市場情報研究機関のミルワードブラウンが英ファイナンシャルタイムズの協力を得て行った2007年のブランド価値評価によると米グーグルが、ブランド価値664億ドルで1位、前年1位だったマイクロソフト(MS)は3位に落ちている。物凄い勢いで世界市場でパワーを発揮しているグーグル。韓国でも3月あたりからやたらとグーグルコリアのニュースが増えている。いろんな記事の中でも面白かったのはグーグルコリア社員エンジニア採用担当のキム・ヒヨンさんのインタービューだ。

 「この会社は社員を太らせて食べちゃうつもりなのかな?ってよくみんなで冗談を言い合います。グーグルに入社すると平均4kgは太りますね。おいしい有機栽培の果物が食べ放題なので、一日中仕事をしているか、食べているかのどっちかなので仕方ないです。また本社と同じく業務時間の20%は個人的な関心事に使える20%プロジェクトも実施されてます。もちろん何をしているのかは上司に報告しないといけませんが、何をやっても自由です」


 韓国の検索サイトでは電話番号や住民登録番号といった個人情報は検索できないようにブロックされているが、Googleではひっかかり放題。ついこの間もセブン-イレブンのインターン社員履歴書が他のサイトでは登場しないのにGoogleでだけ検索にひっかかり大騒ぎになった。ところが、当のグーグルはそのようなマイナスイメージの記事をもみ消すかのように、連日記者らをオフィスに招待しては社員を登場させ、「グーグル最高!」のメッセージを発信している。韓国オフィスだけにとどまらず、本社に勤める韓国人スタッフも登場し、アメリカンドリーム実現、などとも騒いでいる。


 グーグルは中国市場には2006年1月に進出し、3月末現在、検索市場シェア18.7%で2位とまずまずの業績を上げている。だが韓国でのシェアはたったの1.8%にすぎない。その理由は以前、掲載したGoogle Earthのコラムでもふれたが、韓国人の検索は量より質重視だからだ。NaverやDaumは知識検索、ニュース検索、Web検索など最初の画面からカテゴリー別に整理されており、一目で分りやすい。一方、Googleはとにかくいっぱいヒットするけどテキストばかりで何が何だかさっぱり分らないという不便さがある。検索市場で人気がないというのは当然広告もあまり取れないということになる。

グーグルは2007年から本気で韓国の検索と広告市場に飛び込むという覚悟だという。そのために真っ先にしているのが優秀な人材の確保である。グーグルの韓国支社長採用を巡っては、これまでの3年間で数十人のIT業界の有名人を面接し、誰々が最終面接で落ちたらしいとか、誰々はグーグルの物凄い条件をけり今の職場に残ったらしいという噂が広まったりもした。が、結局いまだに支社長は決まっていない。2007年の4月にやっと技術開発総括エンジニアリングディレクターと営業総括マネージングディレクターを新しく任命し、支社長制ではなくツートップ制でいくことになった。1人はオンラインでの名声評価会社「Opinity」の代表、もう1人は韓国アドビシステムズの代表だった人物で、マスコミでは大々的に報道されている。


 この1年でグーグルコリアの社員は2倍に増えた。社員数という意味では急成長している韓国支社は、また1月からヘッドハントで100人ほどの社員採用を続けている。グーグルに優秀な人材をさらわれないよう、急きょ社員募集を始めた企業もある。代表的なのが韓国最大の検索ポータルのNAVERを運営するNHN。突然200人の大規模採用を始めた。NHNは今まで随時中途採用をしていたが、新入社員を含めた大規模な採用は初めてのことだ。やはりグーグルを意識しての採用としか思えない、というのが他の検索ポータル会社の意見。どこもグーグルに人材を引き抜かれるのではないかとはらはらしているらしい。


 Googleは韓国ではあまりにも利用されないため、逆にどうしてそこまで人気がないのか、韓国人のネット利用行動は世界のトレンドを逆行しているのではないか、とまで思われているほどだ。一方で、世界最大の検索サイトを持つGoogleは、IT業界に身を置く人間にとっては憧れの職場だ。


 アメリカと同じく韓国でも10回の面接を通らなくてはならないがもっとも重要なのは、同僚になる社員達との面接。これも、リクルートスーツは禁止、一緒に仕事ができそうな人なのか長所を発見するための面接だという。とはいっても採用条件に英語堪能、それなりの企業で勤めた経験を要求しているのでハードルは高い。それでも、有機栽培果物も食べ放題という口説き文句もあってか送られてくる履歴書は溜まっていくばかりだそうだ。


 今はまだソウルのCEOX展示場の近く、三成駅にある賃貸オフィスなので本社の福利厚生を全て実施できていないけど、正式にオフィスをオープンすれば、あの有名な無料有機栽培ランチ、ビリヤード、マッサージ、ゲーム機などを設置して本社と同じ勤務環境を提供する計画だ。本人が望む限りグーグルでエンジニアとして働けるようにするというので、韓国にはない終身雇用の新しいモデルになるかも知れない。


 グーグルはサイト利用を促進させるためにどんなマーケティングよりも重要なあることに気付いたようだ。韓国人が最も大事にしている血縁、地縁、学縁を利用することだ。社員が増えれば家族が勤める会社だから、友達が勤める会社だからとグーグルを利用するユーザーが増えるだろう。これこそ究極の韓国市場攻略方法なのかも知れない。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070501/269960/