韓国政府の手が及ばないGoogle、個人情報保護はできないのかしないだけなのか

韓国のある有名歌手がインタビューで、自分の住民登録番号が盗まれ信用情報を確認してみると、見たこともない100以上のアダルトサイトやゲームサイトに会員登録されていてショックだったという話をしていたが、韓国人なら誰もが一度は経験することでもある。無料Webメール一つ使うにも、住民登録番号と氏名を紹介する本人確認制度が定着している韓国。住民登録番号は名称から想像できる通り、出生届けを出すと同時に発行され死ぬまでその人の背番号になる。口座を作るにも保険に入るにも、病院で治療を受けるにも、携帯電話に加入するにも住民登録番号が必要だ。というより、住民登録番号さえわかればその人の行動をある程度追跡できるほど重要な番号である。

 私の住民登録番号と住所、電話番号などもまた!流出された。大手ガソリンスタンドのメンバーシップカード1000万人分の個人情報が漏れた事件で、私の個人情報もしっかり入っていたのだ。今度は車のナンバーや種類まで。オークション事件でも個人情報を流出されたのに。「趙さん融資は入りませんか?趙さんまだ生命保険加入してないから今のうち入ったらどうですか?、趙さん浄水器レンタルしませんか?、趙さん格安の土地買いませんか?」などなど、このスパム電話による被害はどうしてくれるのだ。


 しかし、こうした大規模な流出事件よりも問題になっているのがGoogleで簡単に住民登録番号や個人情報を検索できてしまうことである。アメリカでもGoogledorkといって個人情報を検索して悪用する事件があるようだが、Googleの検索に韓国語で住民登録番号と入力すると個人情報が収まったエクセルファイルやワードファイルが常に6000潤オ7000千件は出てくる。これでも政府の地道な取締りのお陰で少なくなった方で、2006年あたりには1万件以上のファイルが検索されていたという。


 Googleで検索した個人情報と自分の写真をつかって身分証を偽造し、銀行で口座を作ったり携帯電話に加入したりということもできる。こうして作られた口座と携帯電話は振り込め詐欺やネットオークション詐欺に使われている。


 これらのファイルは元のサイトから削除されてもGoogleにはキャッシュで残っていることが多い。Googleは自分達がファイルを保存しているわけではなく、検索結果にひっかかるだけなので責任はない、住民登録番号で検索するのを止めることはしないという。韓国の検索サイトは住民登録番号らしき番号の組み合わせは検索結果に表示されないようにしている。Googleだってこれぐらいのことはできるはずなのだが、「自由な情報流通が本社の方針なので・・・」と韓国の個人情報保護方針にはついていけないとしている。


 韓国の「情報通信網利用促進及び情報保護などに関する法律」では、民間企業の技術的・管理的ミスによる個人情報流出事故に対して最大1000万ウォン(約100万円)の過怠料を付加するようにしている。検索ポータルサイトのNaverやDaumはこの法律によって厳しく管理されているが、Googleは韓国企業が運営するサイトではないので処罰するわけにもいかず、どうか協力してくだいさいとしか言いようがないという。


 韓国情報保護振興院はGoogleの検索結果に住民登録番号が出てくると自動的に探知して知らせてくれるプログラムまで開発したそうだ。振興院の職員達は個人情報が掲載されているサイトの運営者にその事実を教えて削除するようにし、Googleにキャッシュを削除してくれるよう要請するという、なんとも地道な作業を毎日繰り返している。「Google住民登録番号点検統計」によると、2008年上半期だけで16万4536人の個人情報が検索されたという。見つかっただけでこれぐらいだから、実はもっとすごい数の個人情報がネットで出回っていることになる。個人情報が掲載されていたWebサイトの数は6万558もあった。Googleは確か中国では特定のキーワードは検索結果に反映しないとか、中国政府の要求を飲んだのではなかったっけ?


 Googleの検索結果に自分の個人情報が出てくる場合、削除を要請することはできるが、コールセンターも何もなく、Webサイトから問い合わせるしかないので、いつ削除してくれるかもわからない。


 でもGoogleが韓国の法律を守らないお陰でGoogleは「ネット亡命先」になりつつある。住民登録番号なしでもメールやグループ掲示板が使えるので、韓国政府の本人確認を逃れてGoogleで言いたい放題書き込むネット亡命者がどんどん増えている。韓国企業が運営するサイトは必ず本人確認をするのでネットユーザーが捕まることがよくある。新聞社の報道論調に抗議するため広告不買運動が行われた時も、広告主の電話番号リストと抗議要領を書き込んだユーザーに対して「これは表現の自由ではなく業務妨害である」と身柄を拘束する事件もあった。Googleだったらその心配はない。


 自由な情報流通がモットーのGoogleだ。政府の掲示物削除要請やユーザーを逮捕するためIPアドレスやデータを渡せと要求されても、今まで通り応じない可能性が高い。政府もGoogleを相手には厳しくできないだろうし。Googleのページビューは2007年6月1億9080万件だったのが、反政府集会の後、ネット規制が次々に発表された2008年6月には2億8000万件とかなり増えている。


 韓国政府の手が及ばないGoogleの存在は、いいのか悪いのか「微妙」としか言いようがない。これがいわゆるニッチマーケットを狙った作戦だとしたらすごいことである。Googleが韓国で勢力を拡大するためには、これからも韓国法を守らない方がいいってことなのだろうか。でも住民登録番号がそのまま検索結果に反映されるのだけはやめてほしいものだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年9月24日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080924/1008179/