地方都市の生活が変わる、韓国が生まれ変わる――情報化村、電子政府、デジタルホーム (過去記事)

山間の農村が世界最高のeビジネスを確立

 韓国でも指折りの山間地域住民が運営するオンラインショッピングサイトが、去年、スウェーデンストックホルムチャレンジ大会で世界最高のeビジネスモデルとして選ばれ話題になった。主人公は慶尚南道にあるニ班城(イバンソン)面(注1)のPC同好会から生まれた営農法人「チョロッ」(韓国語で緑)。(注1:面は地方で使われる行政区域で区にあたる)


 「チョロッ」の特徴は斬新なデザインもそうだが、配達先を複数選択できるので友達や家族にもお裾分けできるところと、故郷を離れた人々のためにニ班城面の空き家情報、墓地管理や山の画像を定期的に更新し、いつでも「故郷の情」を感じて農村に戻って来られるよう「故郷を守る運動」も一緒に進めているところだ。里帰りできない人のためのお墓参りや慶弔事代行、掃除代行なども収益につながっている。


 ニ班城面は99年、地域住民たちの情報化教育をきっかけに、山間奥地から情報化村へと生まれ変わった。政府の教育に頼らず自発的にPC同好会を作り、インターネットに慣れるため、農業の合間に年齢に関係なくマウスを握り、廃校になった中学校の校舎をオフィスにし、農産物のオンライン販売を開始した。


 早い時期からインターネットで村を活気付けようとがんばった結果、「チョロッ」に続いて村の情報源として大きな役割をしている「イバンソン・サイバータウン」も今年6月韓国情報文化大賞を授賞した。農民の情報化と地域文化の開発、オンラインを活用した所得増進、サイバーコミュニティー形成に成功し、他の山間・農村地域の模範事例になったことが今回の授賞につながった。マスコミに注目され、ショッピングモールの売り上げも月間で2倍近く増えた。都会へ流れていった青年達も戻ってきた。


お年寄りがパソコン、インターネットに挑む


 ブロードバンド強国・韓国でもインターネットに手の届かない地域はたくさん残っている。山間・農漁村でもADSLを利用して個人的にインターネットを楽しむ人は多いが、これを利用して農業に役立つことをしてみたいとか、ショッピングモールを運営してみたいとか、いざ何か新しいことに挑戦しようと決心しても、近くに相談できるところがないのが地方の問題だった。そこで生まれたのが情報化村だ。


 山間奥地を中心に行政自治部が選定、育成している全国103地域の「情報化村」では、政府の援助でブロードバンド通信網とPC、村のホームページなど情報化基盤が完備され、住民たちは情報化がもたらす恵みを満喫している。オンラインバンキングで家計簿から財政管理まで一括管理してもらい、子供たちは塾の代わりにeラーニングサイトで勉強し、必要な物はすべてネットで購入するのが日常生活として定着している。


 また、村ごとにオンラインショッピングモールを作り、特産物を販売したり、コミュニティーサイトで「故郷の便り」コーナーを運営したり、インターネットをフル活用している。ソウルや首都圏ではこういう生活が当たり前だが、高齢化が深刻な農漁村ではインターネットやPCとは一生縁がないと思い込んでいたお年寄りが中心なので、ここまでできるのかと都市に住む韓国人も驚くばかりだ。情報化村だからこそチャレンジできる生活だ。


 もちろん、最初は苦難の連続だった。政府は無償で村ごとにPCを100台以上支給し、ネットやPCの使い方からホームページの作り方、オンラインショッピングモールの運営方法などまで細かく教育した。韓国の農漁村も高齢化が進み、パソコンという単語すら聞いたことがないという70、80代のお年寄りもいれば、興味津々の主婦まで、様々な人を一堂にに集め教育するのは至難の業だった。


 しかし、情報化に対する意識は高かった。インターネットで村が変わり生活がよくなるのであれば、何でもチャレンジしてみたいと若手(と言っても40代)が中心となり、村の会館をPCバンに改造し、誰でもネットが使えるようにした。少しでもPCが使える人はみんなボランティアになり教え合っているうちに、「チョロッ」のようなサイトが生まれた。

情報化村で地域活性化を


 2001年2月、行政自治部を中心に地方自治体、関連機関及び民間専門家たちの意見を取りまとめて情報化村造成事業の基本計画が作られ、情報化村企画団が発足した。国民の情報化、地域間・階層間のデジタルデバイド解消、住民所得創出及び地域経済活性化、この3つの目標を挙げ、情報コンテンツ開発の第一段階として2001年8月から2002年1月にかけて25ヵ所でLAN、村情報センター、オンラインショッピングモールなどを構築、、第二段階として2002年7月から12月まで、78ヵを選定し、収益を出せるショッピングモールを構築した。


 情報化村政策は住民のインターネット教育だけが目的ではない。情報化村ポータルを通じて都会と山間奥地の間の交流を促進させ、都会の住民はいいものを安く、農漁村では直取引で所得を増進させる「地域経済活性化」も、情報化村の目指すところだ。ソウル郊外にある軍浦市情報化村の住民イ・ジヒョン氏は、「以前は隣の家とも交流がなかったが、情報化村になり全国の田舎に知り合いができてうれしい。特産物などをネットでアパートの団地ごとに共同購入できるので、何でも本当に安い。引っ越すことになればまた情報化村を選択したい」と言っていた。







キャラクターの「チョロンイ」
「情報化村」は韓国の代表的な輸出商品に


 都会の購買力を直に地方へ引っ張るための努力はネットに限らずオフラインでも進められている。去る6月には釜山で2回目の情報化村住民祭りが開催された。情報化村の住民代表が集まり特産物市場を開設、お互いの特産物を購入し、情報化村の運営について討論し合った。情報化村の個人所得は年間で平均1.5倍増加している。


 海外からの視察依頼も絶えず、特にマレーシア、タイ、シンガポールなど東南アジア各国からの訪問が相次いでいる。電子政府関連システムに続いて情報化村政策も韓国ITの代表的な輸出商品になっている。


一貫性のある情報化村管理もスタート


 順調に見える情報化村政策だが、もちろん改善すべき点もいくつかある。情報化村の住民たちは問題点として、


・情報化村運営のための組職や業務プロセスが不備


・教育など住民の自発的な参加を誘導するより強制的に動員させられることが多かった


・地域の特徴に関係なく標準モデルに合わせようとした


ことを指摘した。


 一方、専門家たちは


・政府主導である程度進められた村の情報センター、ホームページなどを地域住民たち自ら管理できるよう誘導し


・これを支援するための基本的な費用を確保する方策を用意し


・全国拡散のための地域に合った類型別標準モデル構築する


ことを今後の課題と指摘。


 行政自治部はこれを受け入れ


・情報化村企画団拡大


・事後管理サポート案用意


・情報化村類型別標準モデル立案


などを今年積極的に推進すると発表した。6月には「情報化村中央協議会」が構成され、本格的に一貫性のある情報化村管理に向けて歩き始めた。


 「イバンソン・サイバータウン」会長ファン・インチョル氏は、「ADSL利用料月3万ウォン(約3000円)は農村の人には高すぎる。PCを買える経済力もない。口だけの政策ではなく、ネットやPCを買うとき農機具と同じように支援してもらいたい。情報化教育も5年も前のテキストを使う時代遅れの講座はやめて、もっと実情にあったものに変えてほしい。村の情報化センターが子供たちのゲームセンターに転落してしまった村も多い。政府は質より数で満足しているようだが、現実を見ながら情報化村を広げてほしい」とコメントした。



軌道に乗り始めた電子政府


 電子政府の一環として、情報化村には住民登録証と指紋認識で謄本や住民票、土地台帳などを発給してもらえる証明書自動販売機が設置された。ソウルでは百貨店や駅周辺でよく見かけるものだが、地方にはまだ少なかった。役所が遠かった山間地域ではネットや自動販売機でほとんどの手続きが完了するので、時間の節約になっている。


 昨年11月1日にオープンした電子政府サイトを通じて、電子申請(G4C)、4大保険情報システム、総合国勢サービス(HTS)、政府電子調逹(G2B)、国家財政情報システム、市郡区行政情報化、教育行政情報システム、標準人事管理システム、電子決栽及び電子文書流通定着、行政電子署名普及及び電子署名利用活性化、汎政府統合電算環境構築など11項目が実現され、政府の生産性、透明性、民主性など国家情報化の3大要素を最大化する環境が整った。


 2003年度の中央政府と地方自治体の情報化予算はそれぞれ2兆827億ウォンと1兆129億ウォンに達する。中央政府情報化予算は教育、国防、行政など三つの分野に集中投入される。


 教育では5244億ウォンを投入し、学校のPCの買い換え、通信設備の高度化、大学のeラーニング基盤構築、国家人的資源統合管理システム構築などを行う。行政では3356億ウォンの情報化予算で電子申請サービスの対象を段階的に拡大し、モバイルでも利用できるようにする。電子文書管理システム、電子認証システムについても法制を整備し、本格的に普及させていく。情報化村関連予算は672億ウォン。地方行政情報網改善、情報化村運営内実化、地域コンテンツ開発が推進される。


 韓国の電子政府は2007年に完成期に入ると展望されている。電子政府の動きは国家基本DB作成に取りかかった87年を胎動期とし、期待最高潮(2002年)-渋滞期(2003)-再跳躍期(2004年)-完成期(2007年)-安定的サービス期(2010年)の方向へ向かうと言われている。


 2007年には音声、データ通信、有無線、通信・放送統合網など、違うインフラ間でもシームレスにサービスが提供され、電子政府という意識もなくごく当たり前のものになっているとの予想だが、今までの流れを見る限り一般国民として無理な計画ではないように見える。







主婦情報化教育
情報化村からデジタルホームへ


 情報化村の次には情報通信省の「デジタルホーム」構築計画が待っている。情報通信省は2007年まで韓国全世帯の60%にあたる1000万世帯をデジタルホームにするという「デジタルライフ実現のためのデジタルホーム構築計画」を今年5月発表した。家庭をデジタル生活空間に切り替え、これを新産業育成の原動力にするためのデモサイトを構築し技術開発支援することが主な内容だ。


 この計画はデジタルホーム政策推進委員会とデジタルホーム標準化フォーラムを推進主体とし、2007年まで政府予算6451億ウォン、民間投資1兆4394億ウォン合計2兆845億ウォンが投入される予定だ。


 まずはサイバーアパート・一般アパート・一戸建てなど多様な住居環境に合わせ最適のモデルを提示、ホームネットワークモデルの収容可能性を検証することから始める。サイバーアパートは宅内配線でイーサーネットと電力線通信(PLC)を、一戸建てやアパートはPLCと電話線(ホームPNA)を活用しながら無線LANを構築することに重点を置く。


 このような試験は通信・家電・ソリューション事業者のコンソーシアムを誘導し推進する方針だ。値段を抑え普及を促進するため、ホームデジタルサービス提供者がサービスと装備を一括で提供するシステムにし、低価格情報家電の生産・普及を拡大させる。またホームデジタルサービスと関連装備の認証制度、法制度を改善する一方、デジタルホーム体験館、展示会も計画されている。


 建設会社のモデルハウスにはすでに「完璧なモデルハウス」が登場し、主婦たちに人気となっている。早い回線でネットが使えることに満足したのが今までの情報化だとしたら、これからは携帯電話で家電を操作し、海外にいながらも家の中を管理でき、人工知能アバターが音声認識でいつでもどこでもほしい情報を探し出してくれる「デジタルホーム」が情報化の最先端として普及するだろう。高くてもこういうところに住んでみたいと願うのは韓国の主婦だけではないはずだ。


参考サイト


情報化村公式サイト Information Network Village
営農法人「チョロッ」
電子政府



by- 趙 章恩


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