韓国の弾劾、総選挙と表現の自由――ネット上の政治パロディー (過去記事)

「国会方面に家出した193匹の狂犬を探しています」(弾劾に賛成した議員数が193人)、「国会を爆破するロボット」、「ロード・オブ・ザ・弾劾」、「一口飲んだだけで気絶寸前の弾劾焼酎」、「今度こそは人間に投票しましょう」――。映画や広告のポスターに政治家の顔写真を合成、文言を改変した政治パロディー画像が今、韓国のネットでは大人気になっている。

パロディーは誹謗中傷か表現の自由か


「あなたの一票が国を変えます。投票で審判しましょう」という健全なものもあるが、その多くは過激なものだ。弾劾可決による総選挙を目前に控え、韓国のネティズンたちは政治不信の怒りと改革への期待を政治パロディーで表現している。こうした動きに対し、今韓国では、その内容が中傷誹謗として選挙法違反にあたるのか、あるいは表現の自由なのかで問題になっている。


 3月23日、大学生が「選挙不正防止法第250条2項虚為事実公表罪」の疑いで警察に緊急逮捕された。スポーツ新聞の人気連載漫画のセリフだけを変え、ハンナラ党と民主党の代表が総選挙に負けてホームレスになるというパロディー画像を自分のホームページに掲載したためだ。警察は虚為の内容をパロディー化し、複数のウェブサイトに掲載、他のユーザーが自由にダウンロードできるようにしたことは選挙法違反にあたると説明している。


ネットに対する取り締まり強化


 弾劾可決以降、警察庁のサイバー捜査隊が中心になり、全国のネット担当警察官がネット上の政治に関連するコンテンツに対する取り締まりを強化している。違法の疑いが認められると住民登録番号やIPアドレスなどを手掛かりに発信者を逮捕する。これは政治に限らず個人の誹謗中傷捜査にも使われる手法だ。


 ネットの特徴は匿名性にあるというが、韓国はそうでもない。一部の悪質なパロディーは、IPアドレスから、特定政党が発信していることが判明した。アルバイトを雇って相手を誹謗する内容を定期的に書き込んでいるのではないかと論争にもなった。


あいまいな判断基準


 しかし、ネット上の掲示物に対する選挙管理委員会の取り締まり基準はとてもあいまいだ。候補者とその配偶者、兄弟姉妹など家族に対する誹謗や事実と確認されていないことを書き込んだり、それをコピーして他の掲示板などに掲載したりすることは禁止されている。しかしそれでは、候補者に対する個人の意見さえ、ネットに掲載すれば違法になる可能性が高い。


 また大統領の弾劾については、賛成か反対かの意見は問題ないが、弾劾に賛成した議員の善し悪しについて書き込むと個人の意見と判断される。投票するなと書くと落選を目的にした掲示物となり選挙法違反になるという。こういう基準では、人によって判断が左右しかねない。


ネットによる政治参加と電子民主主義に水を差す


 ネティズンたちは「ネット上の掲示物やパロディー画像、動画などは選挙法の問題ではなく言論と表現の自由の問題だ。警察は有名な作家のパロディーには手をつけず一般ネティズンの作品だけを取り締まっている」、「そういう基準ならネティズン全員を捕まえろ」と猛反発している。政治パロディー画像が最も多く登録されている「DCインサイド」(http://www.dcinside.com)では政治パロディーで逮捕されたネティズンの救出運動が盛んに行われ、「私も捕まえろ」と実名と住所を書き込む人が相次いでいる。


 市民団体は「政治パロディー画像や掲示物に対する警察の過剰な捜査と連行はインターネットによる政治参加と電子民主主義に水を差す行為」であるとし、「何人かを逮捕することでネティズンを脅そうとしても無駄だ。新聞やTVのお笑い番組でもその程度のパロディーは許されているのにネットではだめというのは不当だ。選挙法を利用してネットでの表現の自由をふさごうとする警察は卑怯だ」とネティズンたちもだまってはいないと明らかにした。


総選挙でネットによる政治活動が本格的に試される


 この逮捕騒動の中、国営放送のKBSは代表的な政治パロディーネット放送「メディアモッブ」(http://www.mediamob.co.kr)の動画を毎週木曜日放映の深夜ニュース番組で紹介することにした。KBSは「政治パロディーは時代の流れ」であり、報道番組はその時代の流れを受容するべきと話している。選挙管理委員会さえも2002年から「投票」を主題にしたパロディーポスターを公募(http://vote2004.nec.go.kr)している。それなのにネティズンだけが取り締まりの対象になるのはどう考えても理解し難い。


 ネットでの政治パロディーや自由な発言は既存メディアの権威主義の解体に大いに役立っている。有名人、識者たちの「国民に一つ教えてあげよう」的なメディアから脱皮し、ごく普通の国民の意見にもみんなが耳を傾け、それに反応する時代になって来た。4月15日の総選挙ではその次のステップとして、複雑なネットワークから生まれるインタラクティブなメディアの信頼性、既得権層との対抗、パロディーはあっても誹謗中傷はないインターネットによる政治活動がより本格的に試されているような気がする。


ネットは平凡な人たちの自由な発言の場


 政府は公式選挙期間である4月2日からは弾劾に関する集会も全て禁止することにした。弾劾反対ろうそく集会に参加している市民たちは「選挙期間だからこそ表現の自由を積極的に保障するべきであり、それが選挙法違反だったら取り締まればいい。選挙に影響を与えるかもしれないという漠然とした理由で政府の政策が決まるとは情けない」と口をそろえる。


 表現の仕方は色々あると思うが、ネットで盛んなパロディーもみんな「民心」であるに違いない。奇抜で爆笑もののパロディーは逆に政治に無関心な若い世代の視線を集め、投票率も上がるのではないかと思う。しかし、警察の取り締まりとネティズンの反発はますます強くぶつかっている。どんなに取り締まってもネティズンは負けない。悪質な書き込みには対処すべきだが、インターネットだけは平凡な人たちの自由な遊び場であってほしい。



by- 趙 章恩


 


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