SNS時代のクレーマー、「悪プラー」への対応を強化する韓国

 「悪プラー」(悪+Reply+er)と呼ばれる悪質な書き込みを繰り返すネットユーザーが後を絶たず、芸能人のソーシャルネットワークサイトの脱退や自殺が問題になっている韓国。悪プラー対策として強制脱退、利用停止なども積極的に導入されている。


 韓国の元祖ソーシャルネットワークサイトのCyworldは、相次ぐ芸能人の脱退をきっかけに、常習悪プラーとしてほかのユーザーから苦情があった場合、最大10年間Cyworldの利用を停止することにした。既存の約款では最大1年だったので、10倍強化されたことになる。



悪プラー対策を決めたCyworldのサイト

一方、ネットの書き込みがきっかけとなり、長年住民を困らせていた問題が解決したり、行方不明だった人が見つかったり、巧妙に人をだまし続けていた偽宗教団体の正体が明るみになったり、いいこともたくさんある。ネットは通信やコミュニケーションという以上に、韓国社会を支えるインフラである。そのため小学校からインターネットを有効活用するためのネチケット教育が重視され、「悪プラー」ではなく「善プラー」になろうといったキャンペーンも年中実施されている。


 とはいえ、最近では企業をターゲットにした悪プラーが多い。ちょっとしたことで数百件もの悪口を延々と書き込むクレーマーになることもある。通信会社の相談センターに電話してパソコンの調子が悪いと訴え、解決してもらえなかったからと憤慨してクレーマーになるといった具合だ。また店員が注意したにもかかわらず、子どもが店内を走り回り転んで怪我をしたことが店の責任であるとしてネットに悪口を書き込む親もいる。当然自分に有利になるよう書き込むので、事情を知らずその書き込みだけを見たほかのユーザーが親に同調し、一緒に悪口を書き込み、ポータルサイトの掲示板を中心に大騒動になったこともある。


 韓国ではネットの口コミが世論と見なされるほど影響がとても強い。最近では、ソーシャルネットワークサイトは新たな“ショッピングモール”としても脚光を浴びている。ただ、口コミのふりをした誹謗中傷も多く、大手企業のほとんどはネット掲示板担当の社員やアルバイトを採用し、自社に不利な書き込みを見つけた場合、反論のコメントを書き込んだり、そのユーザーをなだめるコメントを書き込んだりする。どのような理由で悪質な書き込みをしたのかすぐに真相を把握し対処するようにしている。ネット掲示板に書き込まれて怖いのは、それがうそだとしてもすぐTwitterやブログにコピペされ、転送されているうちにうわさがうわさを呼び、いつしかうそが“真実”に化けるからだ。


 そんな中、ネットクレーマーに悩む企業の対策に関する研究が発表され話題になっている。ポータルサイトや企業サイトのQ&A掲示板にわざと悪質な書き込みをするクレーマーにどう対処すればいいのか、という研究だ。タイトルは「オンライン口コミを刺激する要因と対応戦略に対する実証研究」、韓国最大手の通信会社KTの役員の論文で、国際学術誌に掲載された(学会誌:Computers in Human Behavior、論文タイトル: An empirical investigation of electronic word-of-mouth: Informational motive and corporate response strategy)。

この論文によると、企業がネット上の悪プラー、つまりクレーマーと全面的に戦うのは企業の評判に否定的な影響を与えるという。特に重要なのはそのクレーマーに同調する一般ネットユーザーを増やさないことだそうだ。企業がクレーマーに対して論理的に反論すると、クレーマーは自分のプライドを守るためさらにとんでもない言いがかりで攻撃をし始め、ほかのネットユーザーが感情的になりその議論に参加、企業を攻撃するようになるというのだ。相手が常連のクレーマーであっても、「あなたクレーマーでしょう?」という態度を見せてはいけないという。


 もっと気をつけるべきことは「無視」や「脅し」だそうだ。ことを大きくしないためクレーマーを無視する企業が多いが、これも企業の評判を落としかねないという。無視されたことに怒りを感じたクレーマーはさらに複数の掲示板やブログ、Twitterに書き込むからだ。また「こんなことしても無駄ですよ」、「また書き込んだら今度は告訴しますよ」といった反論も、ほかのネットユーザーからすれば企業が個人を脅していると見ることもできるので避けるべきだという。顧客が望んでいるのは誠意を込めた謝罪なのに、それをせず無視したため訴訟沙汰に発展することも少なくない。企業に少しでも非があるときは無視せず公開的にネットでも謝罪すれば、それを見たほかのネットユーザーはその企業を高く評価すると分析している。


 ネット上の悪質な書き込み、クレーマー対策の重要なポイントは、何よりもネットは誰でもアクセスできる公共の場所だということである。一部始終がみんなに見られているということを忘れてはならない。この論文では「企業に隠れ場はない」と表現している。クレーマー本人に対する対策も重要であるが、ほかのネットユーザーが感情的になりクレーマーの味方になって企業を攻撃しないよう、注意深く状況を把握することが大事である。企業自ら釈明するより第3の機関や専門家の口を借りるのも方法としている。


 日本でもTwitterやブログを使った宣伝・マーケティングが増えている。韓国の研究は日本でも参考になるのではないだろうか。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年8月19日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100817/1026941/