韓国の大学生の15.7%が「悪プル」を残した経験あり、その対処方法は [2008年10月22日]

この頃、韓国ではまたネットでの悪質なコメントの書き込みに耐え切れず、芸能人が自殺する事件が続いた。悪プル(悪質なコメント)は主にインターネットポータルサイトのニュースコーナーに掲載される記事の下に付けられる。1カ月300億ページビューを超えるインターネットポータルサイトには全国の新聞と放送局のニュースが提供され、全ての記事の下にはコメントを付けられるようになっている。コメントを書き込むにはもちろん実名で会員登録をしないといけないが、画面には実名ではなくIDで表示されるため、ユーザー同士においては匿名と変わらない。

 実名で会員登録までして、他人を攻撃する悪質な書き込みを書きたくなるだろうか。ある就職サイトが大学生1476人を対象にアンケート調査した結果によると、15.7%が悪プルを書いたことがあると答えた。その理由は40.7%が「深刻な問題になるとは思わなかったから」、35.9%が「実名で会員登録してもIDでコメントを残せるので匿名性が守られるから」。3%が「面白いから」と答えた。


 性別では男性の23.2%、女性の8.8%が経験ありということで、男性の方が他人を攻撃する書き込みを残しているという調査結果となった。悪プルへの対処方法としては、47.1%が処罰は規制よりインターネット内での自浄が大事と答え、18.8%は実名制度を強化するべき、13.5%は強力な処罰をするべきと答えた。その他には悪プルを残さないようにする個人の努力が大事、インターネット利用教育実施、正しいインターネット文化定着のためのキャンペーン実施などの答えがあった。


 一方で「芸能人の相次ぐ自殺の原因は悪プルにある」という質問には90%がそうだと答えていることから、他人の悪プルは問題でも自分の悪プルは問題にならないと考える面もあるようだ。

韓国のオンラインコミュニティサイトやポータルサイトでは、悪プルの逆「善プル」を書き込もうというキャンペーンが行われている。他人を攻撃する書き込みではなく、励まし、褒めあうコメントを残しましょうというキャンペーンだが、幼稚園で教えるようなことを大々的にキャンペーンしなければならないほど、ネット文化が廃退してしまったのかと思うと悲しくなる。


 韓国ではネット人口の裾(すそ)が広がったことから、小学生による悪プル問題も深刻な状態である。悪プルを数万件も書き込んだ人を警察のサイバー捜査隊が追跡して捕まえてみたら小学校3年生だったとか、小学校の夏休み、冬休みの間は悪プルの数が10倍以上増えるとか、子供たちが大人の真似をして、何の罪悪感もなく悪プルを書き込んでいるのが社会問題でもある。


 小学生向けのネチケット教育や善プルキャンペーンはもう何年も前から大々的に行われているが、効果はそれほど高くないようだ。日本でもプロフや学校裏サイトなど、小中学生が被害者でもあり加害者でもあるネット問題が起きていて、芸能人の自殺はなくても高校生がネットでの悪質な書き込みに耐え切れず自殺する事件は起きている。どうすればネットを平和に維持できるのだろうか。


 韓国では悪プルや名誉毀損と思われる書き込みを見つけるとポータル側に簡単に届け出ができる。ポータル側は届け出があったコメントや書き込みはまずブラインドにして見えなくし、内部審議によって削除している。情報通信網法により、「情報の削除要請があったにも関わらず権利の侵害を判断するのが難しく利害当事者の争いが予想される場合は、該当情報に対するアクセスを臨時的に遮断する処置ができる」とされているからだ。


 コメントの場合は、削除されて当然としか思えない誹謗中傷の内容がほとんどなので特に問題になることはないが、ブログやコミュニティの書き込みとなると判断は難しく、届け出があったとはいえポータル側が勝手に判断して掲示物を削除していいのかと反論する人も後を絶たない。ポータル側も判断が難しい内容については政府省庁の放送通信委員会に問い合わせをするが、上半期だけで5万件近い届け出があっただけに、手に負えずどんどん削除するしかないのが現実だ。


 しかし、同じような内容でもポータルサイト1位のNAVERは積極的に削除するが、2位のDAUMはあまり削除しないといった差もある。書き込みが明白に誰かを攻撃する内容であっても、法律機関でもないポータル側が削除すべき内容と判断していいのだろうかという疑問もある。ここで必ず登場するのが「表現の自由」だ。


 これは今制定されようとしている「サイバー侮辱罪」にもつながることだ。今までは親告罪だった悪プルや名誉毀損に当たる書き込みを、警察や検察が非親告罪で捜査できるようにするという法律だが、何を根拠にして侮辱かどうかを決めるのか、本当に客観的に判断できるのか、政府の痛いところを突いただけで侮辱罪で逮捕されるのではないか、色んな疑問が解決されないまま法律だけが制定されようとしている。


 ネットは韓国人にとってとても重要な情報源であり、コミュニケーション手段でもある。韓国政府機関の調査でも、10~30代は既存のマスコミよりネットに掲載される情報を信用すると答えた人の方が多い。悪プルが問題ではあるが、ニュースコーナーのコメントを利用してニュースの裏側を伝える人もいるし、記者に反論したり答えたり、討論が繰り広げられることもある。コメントの書き込みそのものを禁止するようなことにならず、悪プルだけ防止するには、時間がかかっても自浄されるまで待つしかないのだろうか。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年10月22日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20081022/1009013/