国中がiPhoneに夢中! スマートフォンの料金値下げ競争が勃発

ついに2009年11月28日、韓国でもiPhoneが発売された。韓国最大の通信会社KTから発売されただけにインパクトは大きい。

 予約販売初日だけで2万人が殺到し、1週間もしないうちに6万5000人がiPhoneを予約した。11月28日には予約者1000人を招待したイベントが開催された。


 韓国で最初にiPhoneを手に入れたのは26歳の男性で、27日から27時間待って第1号になった。KT社長とおそろいのiPhone Tシャツを着て、仲良く手をつないでイベント会場に入場。時の人となった。1年間の無料通話と約1万5000円のiPhone専用スピーカーが贈られた。




KTのキム・ウシク社長(左)と韓国iPhone第1号を手に入れたホ・ジンソクさん


 会場では待ちに待ったiPhoneを受け取り感激するユーザーで奇声歓声の大騒ぎとなった。地上波DMB(韓国のワンセグ)が利用できない、ユーザーがバッテリーを交換できないといったことが指摘されたが、そんなのは全然問題にならない様子だ。日本とは違い、タッチ式でメールを打ち込むのが不便というユーザーはいなかった。


 ブログなどに書き込まれたiPhone自慢をみると、「とにかく大満足!」といったユーザーばかりだった。会社で机の上にiPhoneを置いたら通りがかる人みんなに「どこで買って、いくらだったのか」と質問攻めにされた、女性社員らに囲まれ「見せて! 見せて!」とねだられたなどなど、iPhoneを手に入れてからの急モテぶりを伝えている。


 iPhoneが韓国でここまで注目される理由はやはり豊富なアプリと、2年約定のスマートフォン定額制に加入すると、料金の高いデータ通信ではなく無料でKTの無線LANを利用できるからだ。スマートフォン定額制は月3万5000ウォン(約2600円)から9万5000ウォン(約7200円)で、料金に応じて3GS 16GBまたは3G 8GBの端末を無料でもらえる。


 公式サイトしか利用できずデータ通信料金も高かったため、モバイルインターネットがなかなか普及しなかった韓国。使い放題のパケット定額制はLGテレコムにしかなく、他のキャリアは従量制だったためデータ通信料金のトラブルが絶えず、携帯電話からネットにアクセスするのが怖かったのもある。


これでやっと本当の意味でのスマートフォン生活が始まる。KTの無線LANは全国に1万3000のアクセスポイントがあり、その他にフリースポットもあるので、主な都市ではどこにいてもネットにつながる。iPhone向けのスマートフォン定額制も安くはないが、その代わり無線LANでメッセンジャーやSkypeを使えば携帯電話の通話料を低く抑えられる。


 既にiPodを使って無線LAN経由でメッセンジャーやモバイルVoIPを利用しているユーザーも多い。iPodの便利さに慣れてしまった人達はさらに進化したiPhoneが待ち遠しかったようだ。iPhoneの登場で24時間オンライン状態にしてつぶやきまくる、TwitterのようなモバイルSNSの利用も急増するだろう。


 この夏からキャリアとベンダーが力を入れているアプリ配信サイトのアクセスも急激に伸びた。実際にアプリを購入するユーザーはまだ少ないが、関心は高い。個人もアプリを制作して販売できるマーケットができたことで、キャリアごとに、さらにカテゴリー別にあったマスターCPを通さないと携帯電話向けにモバイルコンテンツをサービスできなかった閉鎖的構造を脱皮し、パソコン向けデジタルコンテンツ市場の10分の1に過ぎなかったモバイルコンテンツ市場も大きな成長が予想される。


 KTはiPhoneを無料で提供するため一人当たり約7万円の端末購入補助金を支給している。その他キャリアは市場シェアを守るため通常新規加入に限って一人当たり2万~3万円ほど支払われていた補助金を同じく7万円以上に増やし、データ通信や基本料も値下げしている。既存加入者の離脱を防ぐため、懸賞イベントや長期加入割引、加入者同士の無料通話時間も増やしている。


 安く買えるのは嬉しいが、iPhoneが販売される直前にサムスン電子や他のメーカーのスマートフォンを購入したユーザーはがっかり。補助金をもらっても3万円はした端末が、数日の差で無料になったからだ。


 一部では、iPhoneの端末そのものの性能は韓国産のスマートフォンより劣る、カメラの画素数も低い、画像も荒い、それなのに何故ここまでiPhoneを持ち上げて騒ぐのかと批判する意見もある。しかしiPhoneは韓国移動通信業界を変えるシンボルのような存在であると評価してもいいだろう。iPhone販売をきっかけに、韓国の移動通信産はネットワーク、コンテンツ、プラットフォーム、デバイス、料金競争、全てにおいて「開放」がテーマとなっている。MVNOで金融、医療、物流など、色んな産業の事業者らが移動通信を利用したサービスを準備している。


 今のところは、ネットブックを持ち歩かなくても自由にインターネットが使えるという解放感だけでもiPhone売れる理由は十分といえそうだ。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091203/1020927/