韓国IT業界は東ヨーロッパに注目 [2007年6月6日]

韓国の情報通信部が毎年やっている独特な事業の一つに海外インターネット青年奉仕団(Korea Internet Volunteers、通称IT奉仕団)という制度がある。大学生、教師、大学教員などが対象で今年は5月20日までに320人を募集した。

 このIT奉仕団は世界の情報化途上国に韓国の先進IT文化と技術を分け合うボランティア活動で、現地での情報化教育、UKorea(ユビキタスコリア、韓国がユビキタス国家へとが発展している様子を指す)広報などが主な活動だ。期間は1カ月から4カ月まで、UN、アジア、東ヨーロッパ、中南米、中近東、アフリカなど35カ国に派遣する。2001年の開始以来、2001年20カ国175人、2002年27カ国206人、2003年42カ国345人、2004年32カ国300人、2005年33カ国320人など毎年大規模なボランティアを派遣している。そもそもは、2001年11月シンガポールで開かれたASEAN+3の首脳会談で韓国が開発途上国のデジタルデバイド解消のためにボランティア活動をしましょうと提案したのがきっかけになった。


 4人チームでないといけないのが厄介なので社会人よりは大学生が中心だが、外国人でも志願できる。学生の間ではただで海外旅行ができるぞ~ぐらいののりで応募する人も少なくないようだが、面倒な応募用書類の作成から始まり、面接を経て、教育までみっちり受けると、みんな使命感に燃えて熱心にボランティア活動をしてくるそうだ。航空券と1カ月の滞在費として約10万円ほどの費用しか支払われないため、団体生活を通して生活を切り盛りすることも貴重な体験だ。IT奉仕団は着実にアジアや中近東、アフリカといった遥か遠い途上国にも韓国はIT先進国というイメージを広げ、2003年からはトルコ、チェコ、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアといった東ヨーロッパにも派遣している。


 IT奉仕団の活動には、通信業界を中心としたビジネスへの貢献も期待されている。飽和状態の通信インフラや無線LAN、韓国のKTとサムスン電子が開発した移動しながら高速無線LANが使えるWibroなどを海外に販売するためKT、SKテレコム、KTFといった韓国の通信業者はCEOが直接各国を飛び回り営業している。中国、ロシア、中央アジア、東南アジア、中近東など多くの国が電子政府や都市のインフラ構築を韓国企業に任せているが、東ヨーロッパはまだ未知の世界に近い。だからこそ、ここを商圏に加えることで更なる成長の足がかりをつかみたいというわけだ。ボランティアの派遣を通じて民間での印象をよくし、「ITといえば韓国」というイメージを作る。その結果、韓国企業がビジネスしやすくなるというわけだ。


 東ヨーロッパといえば、この頃の財テクブームにのり「ファンド」も注目されている。去年10月からちらほら販売されるようになったロシア、チェコ、ポーランド、トルコ、ハンガリー5カ国に投資する「東ヨーロッパファンド」にじわじわ資金が集まっていて、中国ファンドの次は東ヨーロッパだ、と騒がれている。5月に入ってからロシアの影響でファンドの収益率はマイナスになってしまったが、年間10%ほどの安定的な収益が見込め、分散投資にいい商品として銀行でよく勧められる。勧められたからとそう簡単に手を出せるものではないが、耳が薄い(韓国では他人の話にすぐ飛びつく、主観のない人を耳が薄いという)筆者は「じゃ、月々10万ウォンで」と加入し、加入した時点からマイナス収益が続いている。やっぱり。韓国の株好景気が続いている今年だって筆者が購入したファンドだけはマイナス収益が続いている。周囲からは「マイナスの手」と呼ばれているのにまたやってしまった。でもファンドを買ったおかげで東ヨーロッパの経済情報とかが目に付くようになったから、授業料と考えようと思う。


 もう一つ、日本ではあまり聞いたことのないフィンランドにあるヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ芸術デザイン大学も韓国では馴染み深い有名大学だ。サムスン電子のライバル、ノキアを育てた国として韓国ではフィンランドを分析した関連本も多数出版されている。ヘルシンキ経済大学のMBAはEビジネスやデザインマネージメント、海外マーケティング分野に特化していて、LG電子の海外MBA指定校にもなっている。ソウル科学情報大学院と提携し、デザイン経営専門MBA課程も運営している。MBA課程の一環で夏休みを利用してフィンランドに行って授業に参加するというのが独特であると人気の秘訣にもなっている。既に12年も前から運営されていて1700人がこのMBAを取得した。


 ヘルシンキ芸術デザイン大学はマスコミやIT業界の専門家を目指す大学院生らに人気の留学先でもある。なぜ芸術デザインなんだ?と疑問が沸くが、実際留学を体験した人に聞いてみると、「フィンランドは世界でも実用的なデザインと経営が有名だよ。それに夫婦であっても1セントまできっちりワリカンする文化や、税金大国らしく福祉は国がするもので個人がするものではないとい一切恵まない実用主義はいい体験になったね」とのこと。何を学んだのかはよく分らなかったけど、韓国とは正反対の国ということだけははっきり分かった。


 ハンガリーやチェコには韓国の自動車や製造業も工場を移転し始めている。EUに加入しているためここで生産した製品は関税なしでヨーロッパに輸出できるだけでなく、EUなのに賃金は安い。ポーランドにはグーグルやIBM、モトローラのR&Dセンターが建てられた。韓国のソフトウエア業界やハードウェア業界もインドよりは東ヨーロッパへの関心を寄せている。今年は当分、東ヨーロッパがキーワードになりそうだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

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-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070530/273045/