[日本と韓国の交差点] 東日本大震災が韓国に与えた意外な影響

.
.

韓国赤十字は5日間で105億ウォン義援金を集める


東北地方や東京から韓国へやってくる外国人が急増している。それぞれの国の政府が出した日本から避難する勧告を受け入れてのことだ。日本から近い韓国に滞在して、東京に戻るかどうか様子を見ているようだ。

 フランス、英国、米国、チリ、トルコ、オーストリアなど、各国の駐日大使館関係者や航空会社、外資系企業の東京支店社員が、ソウルと仁川空港近くのホテルに団体で宿泊している。このため、一般旅行客の宿泊を受け入れることができないところも出てきた。日本に帰国せず24時間営業のサウナで寝泊りしている日本人観光客の姿も報道されている。


 羽田空港、成田空港から韓国へは深夜時間帯に毎日4便ほどの臨時便が到着している。臨時便を含めて東京-ソウル便は、韓国人と外国人が半々。チェジュや釜山にも日本から入国する外国人がいつもより増えている。


 空港には放射線検査機が置かれていて、放射能をチェックできる。強制ではなく、やりたい人だけが利用する。福島県から入国した日本人2人、韓国人2人(このうち1人は取材記者)から基準値を超える放射線が検出されたが、「健康に影響を与えるほどではない」ということで入国が許可された。



日本人滞在者が“先導”する買い占め



 東日本大震災はこのほかにも、韓国に色んなかたちで影響を与えている。


 ソウル市内の大型ディスカウントストアでは、ソウルに駐在している日本人がインスタント食品やミネラルウォーター、電池などを大量に購入しているそうだ。日本にいる家族に送るためだとか。


 ヨードには放射能物質を体外に排出する効果があるされていることから、これらを多く含む海苔もたくさん売れている。「海が汚染されたので日本のものは食べられない」と塩とわかめを大量に購入していく日本人も多いと聞いて驚いていた。日本人が買い占めると、韓国人も中国人観光客もつられて買い占めをしてしまう。このため、観光客の多い市内中心部では海苔、わかめ、塩の在庫がどんどんなくなっているという。



5日間で105億ウォンの義援金――過去最短記録



 このような混乱の中、東日本大震災の復興を助けたいと韓国赤十字が震災直後から始めた市民義援金が、5日間で105億ウォン(約8億円)を超えた。街角募金としては最短期間で100億ウォンを突破し、新記録を達成した。


 募金箱の前はどこも長蛇の列。「がんばれ日本」と書かれた募金箱が見えるたびに、素通りできず募金してしまうという知人がたくさんいる。ハイチ大地震の時の募金は3カ月で98億ウォンほどだった。日本の震災に対する韓国人の関心の高さが窺える。


 テレビは全チャンネルが24時間、「日本地震被害を助けよう」というメッセージとともに義援金募金のための電話番号を、画面の右上に表示している。これはARS募金といって、最も手軽に募金できる手段だ。この電話番号に電話をかけると2000ウォンを募金できる。支払いは電話料金と合算だ。2回かけると4000ウォン、5回かけると1万ウォンになる。


 クレジットカード会社のサイトにアクセスして、カード決済で募金に参加することもできる。マイレージやポイントを寄付できる募金もある。


 クリスマスを前後に登場する救世軍(Salvation Army)慈善募金も、88年の歴史の中で初めて「3月」に街角で緊急募金を行っている。救世軍によって集められた救護物資は、救急セット4000箱、ミネラルウォーター3万4000本、毛布4600万枚、防寒衣類など。



若者とお年寄りが募金に積極的



 募金団体によると、「日本のために何かしたい」と積極的なのは10~20代の若い世代と、日帝植民地支配を経験しているお年寄りだという。




強制徴集で日本に渡り広島で被曝した人が集う原爆被害者協会も募金に参加した。日本の植民地支配に反対し日本軍に逮捕され亡くなった方々の家族を助ける協会も、歴史問題は歴史問題、震災は震災であるとして、募金に取り組んでいる。苦しい経験をした人ほど、他人の苦しみを放っておけないのかもしれない。

 一方の若者たちの間で日本の人気は高い。年間223万人の韓国人が日本を訪れる(日本から韓国、韓国から日本を訪問する人は年間500万人規模)。日本に行ったことがある人ほど、「他人事とは思えない」という感情を持つようだ。教科書に登場する日帝植民地支配により苦しんだ過去よりも、自分が歩いた日本各地の街、優しくしてもらった思い出…これらが、日本の震災を「対岸の火事」とは思わせないようだ。


 さらに、韓国では日本のアニメやマンガがとても人気がある。アニメ好きが高じて日本語を勉強し、日本に住みたいと思う10代がとても多い。日本との交換留学も増え、日本の学校と姉妹校になる小中高校も多い。このため、同じ世代の日本人と交流した経験のある子供が増えている。こうした変化も、日本に対する韓国人の意識を変えているのかもしれない。


 「必要に応じて」ではなく、「日本が好きだから日本に留学したい」、「日本が好きだから日本企業に就職したい」という人が増えているのだ。私の周りにも日本が好きで一度でいいから日本に住んでみたいと、ワーキングホリデーVISAを取得して東京にやってくる知人がたくさんいる。今回の震災や原発危機の中でもソウルに帰らず、東京での生活を選んだ人がたくさんいる。



“募金競争”に疑問の声も



 東日本大震災から10日以上がたつが、韓国ではまだまだ日本の状況をトップニュースとして報道している。赤と黄色を使った「放射能」「非常事態」という字幕、ヘッドライドを点けたままの自動車、必死に走る犬が津波に流される場面――これらを、「ここに犬がいる」とか「人がいる」とか、矢印をつけて放送している。


 避難所で泣いている人。遺体の前で泣いている人。被害を受けた街の様子をスローモーションの映像にして、悲しいBGMを付けて流している。感情に訴えるニュースばかりなので、もう居ても立ってもいられなくなる。こういう場面をたくさん見るから、韓国人は「日本を助けたい」「何か力になりたい」と思うのかもしれない。


 韓国のあるテレビ局は東日本大震災を助ける募金番組を生放送で放映した。韓国に住む日本人を客席に集めて涙を流す場面を放映し、韓流スターが司会となり募金を呼びかけた。この番組に対して、「そこまでする必要があるのか」と反対する声もあった。日本の方が経済大国だ。韓国で募金しても円高なのでたいした金額にはならない。何の効果もないのではないか――と心配したからだ。


 また、韓国では口蹄疫で莫大な被害が生じている。絶望の中で自殺した農民がいるほどの問題になっていて、彼らにも援助が必要である。韓国の建設会社が数多く進出しているリビアでも問題が起きている。そこで、国を挙げて日本のための募金ばかりしていること、「募金しなくてはならない」という募金を強制するような雰囲気になっていることに疑問を感じる人がいるのは確かだ。


 学校は教師に募金させ、会社は社員に募金させている。どこの団体がいくら義援金を出したのか、金額を競争しているかのような雰囲気である。


 こうした行為は、心から助けたいと願う市民の募金を傷つける行為ではないだろうか。今こそ、熱しやすく冷めやすい国民性を押さえて、被災地の皆さんを長期的に励まし助けられる方法を考えたい。


 韓国で集められた募金がちゃんと日本の被災者に届くかどうかを心配する人もいる。こんなにたくさんの人が募金に参加しているのに、被災地には救護物資が届いておらず、寒さに耐えるしかない、と伝えられるからだ。避難所で死亡した人がいるというニュースも耳に届く。募金がちゃんと被災地まで届いていること、何にいくら使われたのかを、正確に公表することも必要なのではないだろうか。


 東日本大震災は韓国内の原発の状況や災害対策を再点検する機会にもなった。また歴史問題とは関係なく、「災害に直面している日本を、人道的立場から助けなくてはならない」という韓国人がほとんどであることも再確認できた。韓国人の日本に対する意識は、確実に変化している。韓国の気持ちが日本に素直に受け入れられるとうれしい。


 
By 趙 章恩

2011年3月23日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110322/219084/