通話やショートメッセージを盗聴、韓国のクローン携帯騒動

日本でも映画「猟奇的な彼女」やシャンプーのCMで有名な女優チョン・ジヒョンさんの携帯電話がコピーされ、1年以上もSMS(ショートメッセージ、韓国は携帯電話でメールの代わりにSMSを利用する)や通話を盗聴されていたというニュースが報道されてから、韓国中が大騒ぎになっている。韓国を代表する携帯電話ブランド、サムスン電子「Anycall」の看板モデルをはじめ、CMクイーンとしてアジアで活躍、ハリウッド映画にも進出したばかりのチョン・ジヒョンさん。本人がコピーに気付いて捜査を依頼したのではなく、警察の内部調査によって「40人ほどの携帯電話をコピーしてプライベートを監視している業者がいる」いうことが発覚し、その40人の一人がチョン・ジヒョンさんだったというわけ。キャリアの顧客センターには「もしかして、私の携帯電話はコピーされてない?」と問い合わせる人でごった返しているとか。

 クローン携帯とはユーザー管理と料金を請求するシリアル番号をコピーして同じ携帯電話をもう1台作ることで、盗聴やSMSを盗み見ることができる。相手がSMSを送ったというのに届かない、通話中よく途切れる、使ったことのない付加サービスの料金が請求されるなど、こういうことがあったらクローン携帯を疑ってみるべきだという。


 警察は2005年以降に発売された携帯は音声盗聴が難しいので、チョン・ジヒョンさんの場合、マネージメント会社が携帯電話のSMSを盗み見るためにコピーを依頼したようだとしている。韓国のキャリアはユーザーの利便性を高めるため、携帯電話に送信されたSMSをパソコンからも確認できるサービスを行っている。携帯電話に送信されたメッセージを削除しても、パソコンからは確認できるため、クローン携帯を作ってパソコンのサービスに加入し、全てのSMSを監視することができるのだ。


 パソコンのサービスを利用するためには、携帯電話に送られてくる暗証番号を利用して個人認証をしないといけないので、その人の携帯電話を盗むか、クローン携帯を作る必要がある。アイドルファンクラブのBlog書き込みを見て驚いたのだが、好きな芸能人の携帯電話をファンがコピーしてSMSや通話内容を盗聴することもあるという。クローン携帯=犯罪用というイメージがあったのだが、金さえあれば簡単に手に入るものだったということだ。

クローン携帯はもちろん犯罪。コピーした人は電波法違反で3年以下の懲役または2000万ウォン以下の罰金、使った人は100万ウォンかの罰金、コピーを依頼した人は刑法によって処罰される。携帯電話のシリアル番号を提供するのは通信秘密保護法の違反となり、3年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金となる。チョン・ジヒョンさんの携帯電話をコピーするよう依頼したマネージメント会社の関係者からコピーを実行した業者、シリアル番号を提供したキャリアの関係者、全てが処罰の対象となる。事件に関わった人が全員容疑を認めているが、何の目的でやったのかについては何も言わないという。


 2008年10月国政監査のために提出された放送通信委員会中央電波管理所のデータによると、2007年不法コピーされたクローン携帯の数は7916台、2008年上半期には4021台もあった。コピーの目的は位置追跡やプライベート監視など。またクローン携帯であることを騙してネットで販売していたケースもある。


 韓国では携帯電話がコピーされたこともさることながら、芸能人がマネージメント会社によって携帯までコピーされるほど監視されている事態にもっとショックを受けている。ちょっと前まで「奴隷契約書」といって、芸能人とマネージメント会社の間で交わされる契約書の内容が問題になったことがあったからだ。契約書には芸能生活だけでなく日常のことまですべて会社に指示に従うことを強要する内容が込まれていたため、「奴隷」とまで言われたのだ。


 チョン・ジヒョンさんはデビュー以来10年間同じ事務所に所属していた。トラブルもなく、今の大手事務所に抜擢されたことで大物スターになれたことは誰もが知っている。この2月で契約が終わるが、別に再契約がこじれて監視をしたわけでもないとしている。チョン・ジヒョンさんは警察の調査に対して驚く様子もなく、淡々としていたというから、芸能人の携帯電話監視はそう特別なことでもないということ?


 韓国には「携帯電話不法コピー申告センター」があり、クローン携帯を見つけるとネットで届け出ることができるようにしている。キャリアもクローン携帯の監視には積極的に対処しているというが、見つけるのは容易でないようだ。もっともプライベートな通信機器であるはずの携帯電話を安心して使えなくなるのではないかと心配する人も多い。携帯電話の技術だけでなく、コピーや盗聴の技術も発展する。IT技術の光と影は処罰を強化してもなくならないのだろうか。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年1月21日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090121/1011522/