就職難で英語に命がけの韓国人、もうかるのは教育産業だけ?

韓国の就職難は昨日今日の話ではない。大学新卒で正社員にすぐ採用されるなんて「針の穴を通るようなもの」と言われるほどである。インターン採用ばかりで、3~6カ月の試用期間を経てから採用が決まる。

 最近の大学は“小学校”に戻ったとも言われる。学部は4年のはずだが、4年で卒業する学生はあまり見かけない。卒業して無職になるのが怖いからわざと単位を落としたり休学したりして5年生、6年生になる。男性は徴兵もあるから、ただでさえ大学卒業まで6~7年はかかるというのに! 就職が決まるまで卒業せずねばると、30代になって新卒ということにもなりかねない。就職難から新卒の年齢制限を廃止したこともあり、さらに大学生の「いいところに就職するまで卒業しない」主義が強まったのかも知れない。大学は授業料を長い期間取れるからもうかるだろうが、家計の負担は相当なものになる。


 毎年秋になれば日本のテレビでも話題になる韓国の大学入試風景。熾烈(しれつ)な競争を突破して名門大学に入った後は、サークル活動より、就職準備のためスタディーグループに入る。大手企業、マスコミ、公務員など志願する分野ごとにグループを作り情報を共有するのだ。このグループに入るためにはメンバーの面接があって、そのメンバーよりレベルの低い人は入れない。ここから既に就職難は始まっているようなものだ。

韓国人の英語に対する悲壮なまでの取り組みに話を移す。最近は英語でしゃべる能力まで測定するという「TOEIC Speaking」が登場し、人々を悲しませている。TOEIC Speakingは2009年12月時点で約200企業が社員評価のために導入している。


 新卒に求められるのは大手企業の場合、大学での平均B以上の成績、TOEIC800点前後、TOEIC Speakingレベルは理工系学部5、文系6以上である(TOEICのレベル別の目安はこちら)。さらに海外語学研修経験やボランティア活動証明書(何時間ボランティアしたという証明様式がある)、日本語テストや中国語テストの公認成績表を要求する会社もある。これが書類審査を通る最低条件というわけだ。


 韓国では中小企業でもTOEICの成績表は必ず要求される。そのため、90年代後半まで年間30~40万人だったTOEIC受験者数が、2009年には年間200万人に増えた。高い点数を取るために毎月テストを受ける人もいるので(私もかつてそうだった)、人数は減らない。


 ネットでは「TOEICを4、11月に受けると難易度が低くて点数が上がる」、「2月は難易度が高くて点数を取りづらい」といった口コミまで広がっている(韓国TOEIC委員会はそんなことありえないと否定している)。少しでも高い点数を取ってなんとか就職したい! と願う人達にとってこれは貴重な情報だ。一時は日本や海外でTOEICを受けるとより高い点数が取れるという噂が流れたが、ほとんどの企業が海外で発行されたTOEIC点数は認めないそうだ。政府機関に就職するためにはTOEICとは別に、韓国で開発されたTEPSという英語テストを受けなければならず、テスト受験費だけでもばかにならない。


 就職のためだけでなく、就職後も定期的にTOEICテストを実施して人事に反映する会社もあるので、油断できない。日本でも韓国のTOEIC関連本が翻訳出版されており、これが結構人気だそうだ。英語ができなくてもTOEICの点数だけは高く取るという珍現象を追体験できるかも。

日本でよく、「韓国人は英語が話せる人が多いですよね」と言われるが、それはやっぱり人それぞれ。大手商社や研究所に勤める人は流暢だけど、海外と縁のない事務職の人は英語で話しかけられるとガチガチに緊張して知っている言葉も出てこない、なんてこともよくある。


 日本語と同様、韓国語は英語と語順が逆なので、韓国人にとって英語は本当に難しい。Pagodaという大手英語教育機関の調査によると、これだけ勉強しているのに、韓国人のTOEIC平均点数は意外にも低くて600点台前半。受験者の目標とする850点とは200点以上も差がある。TOEIC900点なのに書類審査で落ちた、なんていう話を頻繁に聞いたのでもっと平均点が高いかと思っていた。この理想と現実の差を埋めるため、どんな不況でも英語関連産業はもうかる一方だろう。Pagodaの調査では外国語勉強時間は1日平均で1時間30分、外国語取得のために使う費用は月平均14万ウォン(約1万2000円)だった。


 TOEIC対策の英語スクールやEラーニングサイトはいつも大繁盛で、iPhoneのApp Storeの人気アプリも英語辞書や英会話、TOEIC関連のものが多かった。日本ではあまり見かけない動画再生機PMP(portable multimedia player)が普及しているのも、英語のため、Eラーニング動画を見たり電子辞書を楽に使ったりするためである。


 英語ができるとその分いろんなコンテンツを楽しめるし、情報の量も広がる。ネット検索でもこれは使える、と思う情報は英語が多い。しかし今の韓国は英語に重みを置きすぎているように感じる。人々にものすごいストレスを与えているからだ。


 韓国では、学校の成績とTOEIC点数を重視する採用方式はそろそろやめるべき、という声も出ている。少子化で生産人口は減っているはずなのに、就職難は増すばかりである。大学生らが大手企業ばかり目指し、中小企業には就職したがらないからと政府は言うが、それは当然だ。給料の格差が大きすぎる。就職や勉強のために使った費用を回収するためにも、急騰する物価のためにも、若者は大手企業を目指すしかない。


 企業は人材を養成する場ではなく雇う場、即戦力のある人しか採用しない、といった恐ろしいほどの競争社会はいつまで続くことやら。何事もほどほどにしないと、跳ね返りも大きいからね。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年4月22日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100421/1024435/

韓国でオープンソースの利用が進まない理由は本当に英語? [2007年9月12日]

韓国全土にある2800の郵便局には、誰でも無料でネットが使えるパソコンが置いてある。市内はもちろん、地方でもちょっとしたメールのやり取りや検索は携帯電話ではなく郵便局で済ませられるからとても便利だ。高いパケット代を払わなくても済むし。韓国の郵便局は情報通信部の傘下にあるためか、1999年からデジタルデバイドの解消のため「インターネットプラザ」という名前で無料インターネットカフェを運営していて、全国に3253台のパソコンが設置されてある。このPCのOSを2009年までにすべてLinuxにする計画が発表された。郵便局を皮切りに他の公共機関でもLinuxの導入が拡大されるのではないかとみられている。

 情報通信部郵政事業本部は2005年から、オープンソース・ソフトウエア(OSS)の活性化実証事業およびTCO(Total Cost of Ownership)削減のため、郵便局「インターネットプラザ」に1台以上はLinux PCを置くようにしている。すでに3353台のうち1265台はLinuxになっている。2007年から導入している新規PCにはすべてLinuxを搭載しているので、台数はもっと増えていくだろう。Linux PCを導入したことで導入費用はかなり節約できた。Windows XP Professionalの値段は15万7000ウォン(約2万円)だが、ハングルとコンピューター社の販売するLinuxは4万9000ウォン(約6000円)に過ぎない。


 しかし、いくらコストが割安でも、ユーザーが不便さを感じてはしかたがない。韓国はマイクロソフト依存度がものすごく高いため、2年ほど前までLinuxだと、インターネットバンキングも使えない、電子政府サービスも使えない、ショッピングモールで決済もできないなど、ネット利用を制限されることが多かった。そのせいか、Linuxは不便というのが一般論になってしまっていた。食わず嫌いとはこんなことだろうか。しかし、郵政事業本部の説明によると、郵便局を訪れた人々は「ずっと、これはWindowsのパソコンだと思って使ってました。Linuxって不便だと思っていたけど、ネット検索とかする上では問題ないんですね。」と感想を述べたそうで、OSSの認識を変えるのに役立っているという。


 まだ2007年7月時点で韓国のOSSのシェアは3%未満と言われている。このようにLinuxの利用率はまだまだ低いのだが、郵便局は特殊な例ではなく、韓国全体で少しずつ変化が生じている。政府機関である韓国ソフトウェア振興院も教育機関、医療機関、社会公共機関へのLinux普及に力を入れている。大学を中心に普及しているEラーニングをOSSで実現できないかといったことについてフォーラムも開催された。韓国のLinux関連企業もデスクトップ用OSを発表し、本格的にマーケティングを始めている。OSSの活性化のためには何よりもデスクトップPC市場への拡散が必要だからだ。ほかの取り組みとして、韓国の公共機関ではOSS普及のため、OSSを導入する際に、保守契約を定額で結ばなくてはならない決まりになっている。これまでは、使うのも無料、作るのも無料、みんなが共有するものだから保護されない、という考えから、OSSはお金にならないという理由でビジネス対象としてとらえられていなかった。でも保守ビジネスが成り立てば、OSSも立派なビジネスモデルになれるのではないだろうか。


 このようにOSS市場がにわかに賑やかになっている韓国だが、OSSを消費する人は多いが、開発に関わる人が少なすぎるという大きな問題が立ちはだかっている。OSSが活発な国ほど消費しながら生産もする開発コミュニティーがたくさん存在しており、活性化している。韓国にもいくつかのOSS開発者のコミュニティーが立ち上がっているが、参加率は低いという。アメリカではオープンソース関連コミュニティーが活発なのに韓国にはない、などの話になると必ず、英語ができる開発者が少ないからであり、言葉の問題さえなければもっと参加できるのに……というような話をする人がいる。


 しかし、これはおかしな話。韓国では就職のためにTOEICで900点は必須なのに、英語ができない? 英語ができなくてオープンソースのコミュニティーに入れないとは理由になっていないのではないか。日本だって英語が苦手な人が多いのに、韓国のマスコミの報道によると5000人以上のOSS開発者がいるという。韓国では100人にも満たない。英語がペラペラでないとOSSは開発できないものなのか? Windowsに振り回されたように、オープンソースでも輸入に依存するようなことになるのではないか心配だ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年9月12日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070912/281736/