インターネット大統領の国民葬、オンラインゲーム上でも追悼

2009年5月29日、ノ・ムヒョン前大統領の国民葬が営まれた。世界中を驚かせた前大統領の死去。

 インターネットポータルサイトやインターネット新聞に集まった追悼のメッセージは、オンラインゲームにも広がった。


 主なオンラインゲームサイトではゲーマーたちがプレイを一時中断し、キャラクターに黒い服を着せてろうそくや炎といったアイテムを手にして一個所に集まりノ前大統領への追悼メッセージを書き込んでいた。


 「リネージュ」や新作ゲーム「AION」で有名なNCSoftは、29日午前10時から午後5時まで7時間、ゲームポータルサイト「PlayNC」のサービスを中断し、ノ前大統領へのメッセージを残す掲示板を設けた。








playNCによるノ・ムヒョン前大統領追悼の告知



 Hangameもメイン画面のバナーを灰色にして、国民葬の様子をネット生中継した。NexonのDungeon & Fighterではクリックすると白い菊を捧げられるオンライン焼香所を設け、1日で30万人が参加したほど反響があった。書き込みをする際には黒いリボンを意味する記号や、お葬式を意味するマークをを頭につけている。


 ゲームを中断してまで追悼に参加したことで、ゲーマーの反発はなかったのだろうか。NCSoftは有料ゲームサービスを中断する代わりに1日無料チケットを提供し、専用クライアントをダウンロードしたユーザーはゲームを続けられるようにしたため、反発はほとんどなかったという。それどころか、NCSoftやHangame、Nexonの評判はうなぎのぼり。一方、外資系ゲームサイトは、追悼バナーさえ作らなかったと憎まれ口を叩かれる始末となった。



韓国のオンラインゲームはただの「ゲーム」ではなくて、リアル社会とつながっているもう一つの世界。ゲーマーも国民の一人であり、ゲームの世界に閉じこもってばかりいるわけではない、というのを見せてくれた。オンラインゲームばかりして社会に適応できなくなった引きこもりが新しい社会問題になっている、なんて言われていたのに、そんな心配はごくわずかなユーザーに限った話のようだ。


 ソーシャルネットワークサイトでは、個人のページのBGMに追悼に合う曲をセレクトするユーザーが多く、国民葬でも使われたノ前大統領の愛唱曲やバラード、「千の風になって」などが1週間の間5万件以上販売されている。


 追悼ムードにのったマーケティングはジャンルを問わず増えている。新規オープンするe-bookサイトでは、ノ前大統領の著書のe-bookをプレゼントするイベントでアクセスを伸ばしている。


 ノ前大統領はインターネットコミュニティを通じた若手の熱血的な支持を得て大統領に当選し、「インターネット大統領」と呼ばれてきた。当選後も大統領官邸のホームページに寄せられる意見にコメントを残し、ネット文化にも深い関心を見せていた。政治家の中では誰よりも早くインターネットが持つ波及力や世論を集める機能を感知し、それを有効に活用し支援もした。


 しかし一方ではインターネット実名制度の導入を始めたのもノ前大統領の時代だった。インターネットを使った分お金を払うという従量制度を発表してインターネットユーザーやゲーマーをびびらせたこともあった。結局、定額で使い放題だからこそインターネットやデジタルコンテンツが発展するのであって、従量制でなんてとんでもないという圧倒的な反対意見に押しつぶされてことなきを得たものの、インターネットをめぐる騒動はノ前大統領の時代にもいろいろあった。


 それでもインターネットでここまで追悼ムードが続いているのは、ノ前大統領はインターネットが大好なユーザーの一人だったからではないかと思う。大統領だからとお高く留まっているのではなく、自らインターネットを使いこなし、個人的な意見もどんどんネットに書き込み討論しようじゃないかという姿勢を見せていた。韓国のネットは匿名の誹謗中傷や著作権違反ばかりする場所ではなく、実名で堂々と問題を提示して討論する場所であり、世論として実社会にも大きな影響を与える存在になれた。その土俵は2002年末、ノ前大統領を当選させるまでの過程で生まれたとも言える。


 熱しやすくて冷めやすい韓国では、国民葬が終わったとたん、マスコミはノ前大統領のことをあまり報道しなくなった。それでもネットでの語り合いは細く長く続くもようだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年6月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090603/1015768/