違法コピー対策に一石投じる韓国版「花より男子」の実験

韓国で、営利を目的としない音楽ファイル共有サイトの運営者が著作権法違反の罪で懲役8月、執行猶予2年の判決を受けた。違法コピーの取り締まりはこのところ厳しくなる一方で、大手サイトなども軒並み摘発の対象になっている。

 有罪判決を受けたのは、「音楽ファイル共有カフェ」と呼ばれる同好会サイトの運営者。韓国では共通の趣味などを持つ人が集まるカフェをポータルサイトの中に誰でも立ち上げることができる。これまでソフトウェアや映画DVDの違法コピー販売で実刑判決が出た例はあるが、同好会運営者に懲役刑が下ったのは初めて。著作権法違反に厳しく臨む当局の姿勢の表れと受け止められている。



■ポータル上の音楽ファイル、65%は違法


 3月には文化観光体育部の著作権警察(特別司法警察)が、著作権保護センターのモニタリング結果を元に、音楽や映画の違法コピーを常習的にアップロードして利益をあげていたヘビーアップローダー61人を家宅捜索した。違法コピーはP2Pやストレージサービスにアップロードされていた。


 彼らが利用していたストレージサービスは、アップロードは無料でダウンロードに課金する仕組みになっている。一部ストレージサービス業者はダウンロード目的でやってくる有料会員の数を増やすため、ヘビーアップローダーにお金を渡して違法ファイルの掲載を促していたとされる。著作権警察は61人のうちストレージサービスから違法コピーを掲載する対価として現金を受け取った39人を起訴している。


 取り締まりのターゲットは大手ポータルサイトにも及んだ。検察はポータルサイトNAVERの運営会社NHNとDAUMを運営するDAUMコミュニケーションを著作権法違反罪で起訴した。同じく、両社の子会社NHNサービスとDAUMサービスも著作権法違反ほう助の罪で起訴している。


 検察によると、ポータルサイト側は違反コピー対策を積極的にとらず、インターネットカフェやブログに音楽・動画などの違法コピーが掲載されたり共有されたりするのをほう助したという。NAVERやDAUMは違法コピーがカフェやブログに掲載されるのを防止するため、2008年末からフィルタリングによる違法コピーの一括削除や再生停止に乗り出している。今回はそれ以前の期間が起訴対象になった。


 検察の調べによると、NAVERには1000万件、DAUMには340万件、2社合わせて35テラバイト分の音楽ファイルが掲載されており、このうち65%近くが違法コピーという。


 動画投稿サイト最大手のPandoraTVの代表も起訴されている。PandoraTVは各種テレビ番組やドラマが無断掲載されているにも関わらず、削除せずほう助することで74億ウォンの収入を得たとされる。また、ポータルサイトのフリーチェルも、P2Pを利用したアダルト動画の無断流通で126億ウォンの売上高を上げたとされる。検察は、「違法コピー動画を載せるとサイバーマネーを支給するなどしてアップロードを煽った。(放送局など)コンテンツホルダーから削除要請があったコンテンツだけ削除し、ほとんどのコンテンツは野放し状態になっている」と、これらのサイトを厳しく追及している。



■CDを出す歌手がいなくなる?


 韓国の著作権法は11章第136条で「法によって保護される財産的権利を複製・公然公衆送信・展示・配布・貸与・2次的著作物作成などの方法で侵害したものは5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金に処するか併科できる」と規定している。


 これに対し、動画投稿サイトなどのインターネットサービス事業者は、6章102条にある「技術的に不可能な場合の免責」条項を盾に、「現在の技術では完璧に違法ファイルを取り除くことはできず、いつでもまた同じ罪で処罰される。著作権法を守らせようとする政府の強い意思はわかるが、インターネットサービスそのものをできなくしようとしている」と反論する。


 しかし、音楽ファイルが違法コピーされネットに出回るようになってから、当然のことながら韓国の音楽市場規模は急減した。ここ数年、よほどの人気歌手でもない限り、音楽CDなどというものは滅多に出すことはない。多くのアーティストは「デジタルシングル」と呼ばれる有料ダウンロード販売や携帯電話のカラリング(待ちうた)、ライブベル(着うた)で生き延びている。


 文化観光体育部は韓国の音楽市場規模を2008年の8440億ウォンから2013年には1兆7000億ウォンへと2倍に成長させる音楽産業振興中期計画を発表した。韓国版グラミー賞を作るといった話もあるが、まずは、著作権法違反を断ち切ることで音楽市場を生き返らせることが、最重要な課題だろう。



■システム化で違法コピーを削除


 対策技術も進歩してきた。政府が稼働している「不法著作物追跡システム」は、違法コピーを自動検索してアップロードした人に警告メールを送信し、証拠収集を自動で行う。このシステムは年間1億件の違法コピー検索と削除要請をする能力を持ち、音楽ファイルだけでなく映像ファイルに拡大するための開発も行われている。


 アップロードされたファイルの音源DNAを抽出して著作権登録されている120万曲と比較し、違法コピーの場合は再生できなくするという技術を採用するサイトも増えてきた。映像でもDNA方式が適用され、数秒でも重なる場面があればアップロードする瞬間に違法コピーとしてはじくシステムがポータルサイトなどで導入されつつある。


 ネット上の著作権法違反を技術的に解決するこうしたデジタル著作権保護ソリューションの活用が広がっているのは、人間の手で違法コピーかどうかを判断したり削除要請したりしていくのは、もはや無理な状態だからだ。当局による摘発や処罰は一時的には効果を上げるだろうが、違法コピーそのものが存在できないような環境や仕組みを作ることがより重要だ。



■発想を転換した新サービスの可能性


 その意味で、画期的なサービスが最近登場した。違法コピー取り締まりという発想から180度転換し、違法なコピーを技術的に突き止めたうえで動画投稿サイトに広告を配信するというサービスである。




韓国版ドラマ「花より男子」は、コミュニティーサイトのCyworldとポータルサイトDAUMと提携し、ドラマの違法コピー映像が出回っているのを削除せずに、「花より男子」の映像を抽出して全てに3~15秒の広告を付けるという試みを始めた。広告収入は、コンテンツホルダー、サイト運営会社、システム開発会社がシェアするビジネスモデルである。




 DAUMでは「花より男子」の動画再生件数があっという間に1200万回を超え、パロディー動画も1500件以上が投稿された。ユーザーがドラマの場面を引用してパロディーを制作するのも自由で、この手の動画にも広告を付ける。これぐらいの再生件数であれば、広告収入も悪くはないだろう。


 ユーザーが動画ファイルを掲載しても、自動的に広告が付くのでコンテンツホルダーが損をすることはない。ユーザー側も罪に問われる不安なく自由に好きなドラマの動画を編集して掲載したり、無料で観たりできる。この映像流通の新しいモデルに参入するコンテンツホルダーが増えれば、ユーザーの参加で広告付き動画が再生産され、動画投稿サイトやポータルも潤うことになる。


 デジタルコンテンツサービスは、「無料の広告モデル→有料化→著作権の取り締まり強化」という流れを進み、再び無料の広告モデルへ戻ることができるかもしれない。まだ実験的な段階ではあるが、ネットユーザーを敵に回さず、広告収入を増やすコンテンツ生産者として利用するのはいいアイデアかもしれない。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年4月15日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000015042009