IT韓国の基礎を作った金大中元大統領逝去

民主化運動やノーベル平和賞受賞で知られる金大中元大統領が逝去した。1998年IMF経済危機と同時に大統領に就任し、2002年までIT韓国の基礎となるブロードバンドやモバイルインターネットといったインフラ普及のため果敢な投資を惜しまず、経済危機を早期に乗り越えられるようサポートした大統領として広く尊敬され続けた大統領であった。




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1999年世界初のADSL商用サービスを皮切りに、韓国のブロードバンド契約数は1998年の約1万4000件から2002年は1000万件、そして2009年には1550万件を突破した。この数字はほぼ全世帯がインターネットを利用していることになる。金元大統領は就任の際、「世界でもっともコンピューターをうまく活用できる国にしたい」と発言した通り、約束を守った。

 どこよりも早く韓国でブロードバンドが普及したおかげで、PCバン(ネットカフェ)を始めオンラインゲーム、VOD(ビデオオンデマンド)、インターネット新聞、インターネットショッピング、インターネットバンキングといった新しい産業が生まれた。大手企業が次々倒産する中、アイデアや技術さえあればベンチャーを立ち上げてビジネスができるよう支援してくれた。1998年から始まった韓国のオンラインゲーム産業は日本、中国、東南アジア、ロシア、ヨーロッパ、北米など世界各国に輸出され、今でも韓国IT産業を支える柱となっている。金大中元大統領の在任期間中、韓国のGDPに占めるITの割合は1997の年8.6%から2002年には14.9%へ、IT産業の生産は1998年の76兆ウォンから2002年には189兆ウォンへと大幅に成長した。


 2009年5月に亡くなったが、金大中元大統領の次の大統領になった盧武鉉前大統領がインターネットユーザーに絶大な支持を集め当選したのも、この時に築かれたインフラがなければ不可能なことであった。インターネットの波及力は想像以上となり、マスコミの報道よりもネットの口コミの方が威力を持つことを見せつけてくれた。

軍事政権に対立して民主化運動を続けた政治家らしく、透明・公正・効率的な政府を作るため「電子政府」の立ち上げにも積極的だった。


 2000年から具体的に始まった電子政府構築は、2001年大統領直属の電子政府特別委員会を中心に縦割りをなくした政府の情報化が一気に進められ、電子政府法も制定された。今では役所に行かなくても住民票発行(自宅でプリント可能)、税金納付、所得税申告、不動産・自動車・医療・教育関連など、もっとも利用率が高い基本的な申請は全て電子政府サイトを通して行われる。大学の成績証明書や卒業照明も電子政府サイトから申請してプリントできる。添付書類もなくなり、身分証明書だけあれば済むようになった。行政の透明化、簡素化に焦点を当てて情報化を進め、公務員の業務効率を高めることで予算を節減しようとした。さらに電子政府と同時に中小企業の情報化も進められ、国民と企業が満足する電子政府システムを目指した。


 電子政府構築に参加したSI企業らは、韓国をモデルケースにしてアジア各国の電子政府構築事業を受注し売上を伸ばした。


 ポータルサイトやコミュニティサイトでも哀悼の書き込みが絶えず、金大中元大統領の不屈の意志を継いで、もう一度ベンチャー精神を燃やして、頑張ってみようではないかという覚悟が書き込まれている。


 KTやNHN、DAUM、Google Korea、SKテレコムなど約150社が加入している「インターネット企業協会」は「金大中元大統領は、韓国が知識情報強国に跳躍する土台を作り、ベンチャー産業育成を通じてインターネット産業が経済の一つの軸になる枠組みをされた。故人のIMF経済危機を克服されたその力とベンチャーの挑戦精神、情報社会のビジョンをこれからも継いでいくことを誓う」との声明を発表した。


 金大中元大統領は日本との交流にも積極的だった。韓国で上映・放送・販売が禁止されていた日本の歌謡曲、映画、ドラマといった大衆文化を開放した。韓国の地上波では、まだ日本語歌詞のまま日本の歌謡曲を流したり、日本のドラマを放送したりはできないが、ケーブルテレビでは日本の人気ドラマが韓国語字幕で放送され、日本の映画も数多く上映されている。日本のアーティストの公演も解禁となり、来韓公演もたくさん行われた。日本の小説や漫画もベストセラーとなり、韓国の若い世代に大きな影響を与えている。韓流ブーム以上に大きな日流ブームが巻き起こったことで、韓国はコンテンツの重要さを実感した。技術があっても中身がなければ成長しない、何よりもコンテンツが大事であることに目が覚めるきっかけにもなった。


 金大中元大統領の在任期間中、世界が注目したIT強国だった韓国は、サムスン電子やLG電子といった大手企業の除いては、ぱっとしない口先だけのIT強国になってしまった。もう一度韓国のIT産業が力を発揮できるよう、天国で見守ってほしい。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年8月20日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090819/1017903/